提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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いらない。ガラクタ。中途半端。雑魚戦艦。
私は何のために生まれてきたの?
私はいらないの?
私はそんなに使えないの?

不幸だわ…。本当に…。


死にたい。


第百七話

「まあ!いい調子よ、山城!命中よ!」

 

ぱちぱちぱちと拍手をし、妹が的に命中させたことを喜ぶ扶桑。山城はやや下向き加減で相変わらず暗い顔をしている。何もない。何の反応もない。

 

「いいですね!もう一度やってみましょう。いいですよ、よーく、今はゆっくりでいいですから。てー!」

 

ズドォン!!と凄まじい轟音。35.6cm砲の音はやはり凄まじい。空を切り裂き、黒々とした煙を吐き出して吼える。遠く離れた的が破壊され、大きな水柱があがる。的をかすっただけなのだが。

 

「すごいわ、また当たったわよ!」

「………かすったのは当たったには入りませんよ…全然ダメですよ…」

 

「そんなことないよ。これだけ距離が離れていると当たらない。これをかするだけでもすごいんだよ。もっと練習して真ん中に当てられるようにしようよ」

「私のことを提督は知ってるんでしょう…?なら練習しても無駄よ…弾の無駄…」

 

「もう、どうしてそんなことを言うんだよ…」

「………」

 

「時雨…」

 

ポンと肩を扶桑に叩かれる。扶桑は首を無言で横に振る。それは山城に事情を聞いてはいけないと言うこと。一晩かけて扶桑が山城が元にいたところでのことを聞いたのだ。とにかく威圧され、暴言を吐かれ、何をしても馬鹿にされる。ついたあだ名は「不幸型戦艦」とまで。事あるごとに、自分のせいではないのにトラブルが起きる。

 

「山城が出撃すると誰かが避けれるはずの弾も回避できずに直撃」

「装備の不良が起こり、事故が起きる」

「海が大荒れになり、勝てるはずの勝負が流れ、資材装備を整え直されて大苦戦する」

 

それは単に提督の読み不足。整備不良、天気図すらまともに見れないのか。ただの人災であると思った。

夕飯も「私みたいなゴクツブシが食べるだなんて申し訳ないです。姉様の勧めとは言え…」と頑なに拒否。そこで「そう」と言わないのが扶桑。

 

「ほら、おいしいわよ。せっかく山城のために作ってくれたんだもの」

「…………」

 

「そう…食べられないのねぇ…しょうがないわ。間宮さんには申し訳ないけど、捨ててしまうしかないわねぇ」

「……っ、ね、姉様がそう仰るのでしたら…」

 

扶桑の言う事だけは聞いた。かつての「西村艦隊」の記憶がある時雨や最上もやってきたが、一切口を開こうとはしなかった。満潮は今は荒潮のようだ。話しかけないでおこう、と思い見守るだけにしている。

眠りなさいと言っても「出撃も何もしていないのに眠るなんて…」と言って寝ようとはしなかったが、扶桑が膝枕をしてあげるとすぐに寝てしまうほどであった。眠りが浅かったりほとんど寝ていないのだろう、山城の目の周りは隈で黒ずみ、くぼんでいた。

 

「山城のかわいいお顔が台無しよ?しっかり寝て、ご飯もこれからは少しずつでもいいから食べていきましょうね」

「私がかわいいだなんて…前の提督はブスとか…」

 

「山城はかわいいわよ。あまり悪いことは言いたくはないのだけれど、かわいい妹のことだから。そこの提督は山城を見る目がなかったのね」

「かわいい妹…姉様とは別の場所で生まれたのに…」

 

「私、扶桑と山城は扶桑型姉妹と言う魂で繋がっているのよ。どこで生まれて出会おうと、私は扶桑。あなたは山城。姉と妹なの。だから、どの山城だって、私のかわいい妹なのよ?だから、あなたは私のかわいい妹よ。山城に出会えてよかったわ」

 

「ねえさまぁ…うう、うううう!」

「ふふ、いっぱい甘えていいからね?」

 

前の提督のところでは泣くことすらできなかったのか、堰を切ったように大泣きした。そうして言われた数々の暴言を吐かれた過去を聞いた。男の声、怒鳴り声。それが怖かった。反論する隙も与えられず、ただただ怒鳴られ、自分の何もかもを否定されたり笑われることで萎縮していった。最終的には眠っても夢を見て目を覚まし眠れず。眠らない方が部屋でなら怒鳴られないので起きている方が気が楽だった。

 

「ひどいわね…ここでは山城にそんなひどいことを言う人はいませんからね」

 

膝枕をしてもらい、横になった山城。頭を撫でてもらうことと、膝から山城の頬に伝わる姉の温もりがとても安心できて眠った。が、30分ほど経ったところで目を覚まし、やっぱり罵られる夢をみる。ただ、寝てしまったことで体にドッと疲労がのしかかり、眠かった。

 

「じゃあ、一緒に寝ましょうか。時雨や満潮とはよく眠るんだけど。うふふ、1人で寝るのって寂しいのよねぇ…これから毎日隣で山城がいてくれると安心するわ♪」

 

大和は霞と妙高と寝ている。霧島は気が合う秘書艦、鳥海とメガネ艦娘同士で寝ている。実は山城には言っていないが皐月や文月、時雨に満潮。名取。扶桑の部屋には多くの「かわいい妹たち」がよくやってくる。扶桑と寝るとぐっすり眠れる。朝もバッチリ起きれてスッキリするなどいい効果がたくさんあるのだと言う。

 

「むぎゅ…ね、姉様?」

「あら、嫌だったかしら…」

 

扶桑が山城の頭を胸元に寄せるように抱きしめて、頭をゆっくりと撫でる。山城に伝わる扶桑の心臓の鼓動。姉の温もりと椿の花の香り。未知のことだらけで戸惑う山城。心がざわつく。

 

「い、いえ…ただ、初めてのことだらけで…」

「そうだったの…これからは、たっくさんいいことを知っていきましょうね。山城…お姉ちゃんは嬉しいわ」

 

「ねえ…さま…」

 

抱かれ、頭撫でられると不安が収まっていく。まぶたがガンと重くなり、頭もぼんやりする。体は重く、布団に疲労感が滲み出ていくような感覚。

 

「おやすみなさい、山城。私のかわいい妹…お姉ちゃんがついていますからね」

 

皐月たちにも同じことをし、同じことを言っている。

 

「いい子ね。ほーら、体からチカラが抜けていくわ。ゆっくり目を閉じて…目を閉じても怖くない。お姉ちゃんがいるわ。いい子いい子」

「ねえ…ひゃま…わらひ…ねても…いいろれふか…?たらかっても…ないろに…」

 

「山城に必要なのは休むこと。誰も怒らないわ。体がふわふわと気持ちいいでしょう?ほーら、ぽんぽん」

 

今日は遅くまで起きて扶桑さんと遊ぶんだ!と言って夜更かしをしようとする皐月を30秒で眠らせる扶桑の必殺技。催眠術のようだ。腕枕をし、頭を優しく撫で、もう片方の手でお腹をぽんぽんとしたり優しくさする。同時に扶桑の甘い眠りを誘う声は、時雨や名取でさえ耐えられない。泣きじゃくる大和でさえ、扶桑のおやすみ攻撃の前ではなす術がない。山城はすでに呂律が回っていないし目もトロンとしている。明るくても扶桑は寝れるし、電気を消そうとすると怖がるそぶりを見せたので明るく、山城の状態を見るのは簡単だった。

 

「やら…ゆめで…おこられる…」

「お姉ちゃんがいるわ。守ってあげる」

 

「ねえさまぁ…」

 

もぞもぞと扶桑の胸に深く顔を埋め、ひっひっ、と泣いているのかしゃくりあげていたが、次第に落ち着きすぅすぅと寝息を立て始めた。今の山城に必要なのは愛情だ。おそらく提督がそうなのなら、艦娘も余裕がなく、フォローもないだろうし鹿屋基地でも提督は小言は言うが無関心だったと言っていたし…ネガティブな感情しか受けていない山城には、惜しみない優しさと愛情が必要だ。扶桑はそう思う。甘やかすだけが愛情ではないと言うことも承知している。難しいが、今の山城はカラカラに乾いたスポンジで、自分は水。与えすぎずほどほどに水を与えればいい。

穏やかに眠る山城。その顔は先ほどまでの暗い顔ではなく、駆逐艦たちのようなかわいらしい顔をしていた。何だかそれを見てより山城が愛しくなり、頭を撫でる。うにゃ…と変な声をあげてもぞもぞと扶桑に頭を押し付ける。

 

「きっと、かわいい笑顔を見せてくれるわよね。ね、山城」

 

もう一度頭を撫でて扶桑も眠る。山城の温もりは心地よかった。

 

 

何かの強迫観念に駆られたのか、出撃しなきゃ…と翌朝ブツブツと言い出したので、砲撃の演習をすることにしたのだ。出撃をしなきゃ、と言ったが山城の練度は航空戦艦に大規模改装を行っているものの、そう高くはない。扶桑の練度と大幅にかけ離れている。そこでまたネガティブな発言が出てくるのである。

 

「姉様の足元にも及ばない…私なんて…やっぱり沈むかいなくなるかしたほうがいいのよ…」

「山城。一緒に出撃して、戦果をあげるように頑張りましょうね!」

 

「姉様…」

「よーし、じゃあボク達も一緒に行くよ!朝雲や山雲がいないけど…西村艦隊、再結成してさ、ガッツンガッツン勝って提督にいっぱい褒めてもらおうよ!」

 

「いいね、それ。じゃあ僕も頑張らなきゃ」

「ふん…ま、まあいいんじゃない?」

 

「…………私は役に立たないわよ…。どうせ砲塔が爆発したりとか…弾が出ないとか…嵐が来るとか…」

「もう、そんなことはないわよ」

 

「そうだよ。話を聞いてたら整備不良じゃないか。うちの明石さんがそんなの絶対見逃さないしね。天気は…海の天気は変わりやすいからねー。嵐でも何とかなるはずなんだけどなぁ」

 

「私の不幸のせいよ…私なんか出撃させるだけ資材の無駄…いっそ解体でもしてくれたほうがいいわ…」

「心配いらないよ。僕がいるからね。山城は沈ませないし守る。僕は山城に守ってほしいな」

 

「無理よ…私には……l

 

とにかく口を開けば出るわ出るわネガティブな言葉が連発される。下を常に向き、前髪で目を隠し、笑わず、猫背気味にボソボソと喋る。完全に前と言うか、前の前のところで罵られ続けたことで完全に自信を失っている。言われたことをそのまま信じているせいで、時雨や最上が言うことも全てネガティブ発言として出てきてしまうのだ。

 

「扶桑が強いから山城もって言っても無理ね。で、どうやって自信をつけるのよあれ」

「扶桑の妹だしねぇ。実力は絶対あるはずだけど…」

 

「うーん…困ったわねぇ…」

 

今は時間をかけて少しずつ、山城はできるんだよと言うことを伝えていくしかない。そう決めた。途端に最上が。

 

「うわああああああ」

「………?」

 

「なにしてるのよ…何が眩しいのよ」

「え?いやだって、山城がすっごい美人だからさ。もう眩しいのなんのって」

 

「…………はい?」

「いやぁ、扶桑ってほら、商店街に行っても絶対みんな見とれてるでしょ?山城も絶対見とれると思うんだよねー。うわああああ、2人とも美人すぎてまぶしいー」

 

「バッカじゃないの…?」

「満潮はノリが悪いなぁ」

 

「う、うわー…」

「時雨も最上のバカなことを真似しないの!!」

 

「うふふふ、最上と時雨ったら」

 

くすくすと扶桑は笑い、山城は笑いはしないが最上や時雨をぼんやりと見ている。最上はあははは!と大きな声で笑っているし時雨も笑っているし、満潮は呆れている。ほのぼのとした光景であるが、山城には眩しかった。みんなが輝いていていきいきとしていて。自分だけが日陰でそれを眺めているような気分だった。自分は暗い、弱い、不幸だ。だからここに連れ出されるのは正直…自分だけが置いてけぼりのようだ。

 

そうしてまた下を向いていると、前髪を上げられた。日の光がもろに目に入り、痛い。

 

「ねえさま…?何を…」

「うーん、前髪を切ったほうがいいかしらねぇ」

 

「い、いやです…私…ブスですし…かわいくない…」

「う、うわああああ、なんてちゃんと目が見える山城は美人なんだー」

 

「それはもういいわよ!」

「嘘よ…」

 

「うわあー…」

「いい加減にしなさいったら!あーもう!美人よ!扶桑も美人だし山城だって扶桑の妹なんだからきれいに決まってるでしょ!山城がブスなら私たち全員ブスよ!!!」

 

「満潮ったら…」

 

サッと顔を背けて髪を下ろす。伸びた髪。自信のなさの現れ。

 

「それは後で考えよっか。題して『山城をもっと美人にしよう大作戦』ってことでどう?ほら、松子さんならほんとにバッチリやってくれそうじゃない?」

「そうだね。それあいいかもしれないね。髪を切って、お化粧して…」

 

「……めて…」

「山城?どうしたの?」

 

「もうやめて…私はそんなことしたくない…私は根暗で…弱くて…不幸を呼んで…役立たずのガラクタ戦艦なのよ…だから、もう放っておいて…放っておいてよ!!!」

 

走り去ってしまった。ああ…と残念そうな扶桑。呆れかえる満潮。おろおろする時雨。あっちゃあ…と言いながら頭をかく最上。

 

「あんた達がやりすぎなのよ。まったく…もっと自信なくしてたじゃない。どうすんのよ」

「う、うーん…まずかったかぁ」

 

「山城…謝りに行ったほうが…」

「今行っても逆効果よ。それよりどこ言ったか探さなきゃだめよ」

 

「そうね。私が行くわ。みんなはお風呂に行っていて」

「扶桑…ごめん。お願いするよ…」

 

解散。時雨がかなり落ち込んでいたが、満潮にシャキッとしなさい!と怒られている。うーん…と最上は何かを考え込んでいるし。でも扶桑は最上や時雨が悪いとは思っていない。山城を思って考えてくれているのはわかっているから。きっと最上や時雨の優しさが伝わればいいな…と思いつつ、山城を探すのであった。

 

 

鎮守府の工廠。そこに倉庫がある。艦娘が今使っていない艤装や整備待ちの艤装、兵装資材など様々な物が保管されている。山城は着任時に扶桑と共に鎮守府内を一緒に歩いて教えてもらっていたのだ。そこで「何かあったら隠れられそうな場所」として覚えていたのだ。たくさんの装備に隠れ、グスグスと泣きながらも隠れていた。

 

もう嫌だ。ほめてくれたのに嬉しくないことのように言う自分が。優しくしてくれるのにそれを突っぱねる自分。捻くれて…常にマイナスの思考で。最上も時雨も励ましてくれたのに…。満潮が厳しく言っているけど本当は心配してくれているのに無視して。下を見て、いつまでも前の提督や艦娘の悪口を思い出して。

 

「お前はまた大破しやがって!あー、この役立たずのクズ戦艦!ほんとお前もうどっか行けよ!その顔見てるとイライラすんだよ!」

「うわ、ジメジメさんが来たよ。くらーいのがうつっちゃーう」

 

「あんた、足引っ張んないでよ。ほんと迷惑!」

「ボソボソと聞こえねえんだよ!役立たずが提督に意見してんじゃねえぞ!!」

 

ううう…とまたボロボロ涙がこぼれた。もう嫌だ。本当に沈みたい…提督に頼んで解体してもらおう。こんな私がどこにいたって迷惑がかかるだけなんだ…。

 

「テメエにそんな権利あると思ってんのか。テメエ解体したって雀の涙ほどしか資材にならねえし、俺がこれまでテメエにかけた時間が無駄になるじゃねえか。ウダウダ言ってねえで出撃しろっつってんだよ。大破しようが関係ねえ。ああ、大破したら帰還させるからな。テメエ簡単に沈めてくださいなんざぬかしてるけど、そうはいかねえよ」

 

解体も轟沈もさせてくれなかったあの人と違って、ここの提督はさせてくれるかもしれない。死にたいのに死なせてくれないなんて…。

 

「人間はこんな時楽だよな。首吊ったり薬飲んで死ねるもんな。お前らはそうはいかねえもんな。残念だったな。テメエの生殺与奪の権利は俺にある。死にてえって言った割にノコノコ帰ってくるテメエは何がしてえんだ。俺の命令?笑わせんじゃねえよ」

 

あの嫌味ったらしい提督が何を言っていたのかよくわからなかった。わからない顔をしていたら「わかんねえなら死にたいなんざ言うんじゃねえ」と笑いながら言われた。でも、でももうどうしたらいいかもわからない。姉様に甘えてみたがやっぱり自分なんかがみんなに慕われている姉様に甘えるのもおこがましい。どこにも自分の居場所なんてない。

 

「だ、だれかいるの?お、お化けとかじゃないよね…」

 

倉庫の明かりがついて、ピンクの髪の人が怯えながら入ってきた。そうして、山城の隠れて自己嫌悪タイムは数分で終わった。ちなみにピンクの髪の人、明石は「おわっ!?」と変な声を出して山城を発見したのであった。

 

……

 

「はい、麦茶ですよー」

 

そう言って麦茶を渡す明石。相変わらず容れ物はビーカーである。三角フラスコを改造したコーヒーメーカー。アルコールランプ。来客があろうがマグカップやティーカップなんてオシャレなものはない。誰にであろうと大本営で仕事をしていた時からビーカーである。

ビーカーを受け取り、なおも涙目で下を向いて何も話さない。伸びた前髪で顔は隠れ、明石には表情がわからない。

 

「いやー、びっくりしましたよ。妖精さんが倉庫からすすり泣く声がするーって言うもんですから、言ってみたらほんとにするんですもん。お化けだーって思っちゃって。あはは、まさか山城さんだったなんて」

 

「……すみませんでした…」

「ああいえいえ!お化けじゃなくてよかったですよ!」

 

コーヒーをビーカーに注ぎながらあははーとのんきに笑っている。ふんふーんと鼻歌まで歌って。その明るい性格が羨ましかった。チラチラと前髪の隙間から明石を見る。羨ましい…眩しい。

 

「ん?どうしましたか?」

「……いえ、ごめんなさい。私なんかが見て…」

 

「いやぁ、やっぱり美人な人に見つめられると嬉しいですよー。山城さんは美人ですからね」

「姉様の方がきれいですよ…」

 

「そうかなぁ?扶桑さんは確かに美人ですよね。扶桑さんはこう、うわー美人!って感じですけど、山城さんはかわいい美人さんですよね」

「かわいい…美人…?」

 

「そうそう。扶桑さんは男の人がうわーって見惚れちゃう美人だと思うんですよ。でも山城さんはあ、美人!でも扶桑さんのように近寄りがたい美人じゃなくて、親しみやすい美人さんっていうか。うーん!難しい言い方ですけど、扶桑さんは扶桑さんの。山城さんは山城さんの美人のあり方があると思うんですよね」

 

よくわからない。そりゃあ姉様の方が美人だろう。私が美人だなんてありえない。

 

「あ、まだ自分はかわいくなーいって思ってますねー?じゃあちょっとおしゃれしてみますか!」

「え、ちょ、ちょっと…」

 

「うーん、まずはこの前髪が邪魔ですね。これじゃ見えにくいでしょー。さっき妖精さんに教えてもらいましたけど、私が仕上げた35.6cm砲が真ん中撃ち抜かないはずがないんです。目つぶってても真ん中に命中させれるくらい!」

 

そんなことを言いながらなんで前髪を見てハサミを取り出してチョキチョキやってるんだ。やだ。嫌な予感がする。ガタッと勢い良く立ち上がってドアへ一目散。開け放って逃げようとしたが…無情にもノブはガチャガチャ言うが開かない。

 

「ざんねん!ちょっとやそっとじゃ開かないですよー。明石特製泥棒用ロック!名付けて『ドアーマンが倒せない君』!!鍵のコピーは無理。ピッキングも不可!ある言葉を言わないと絶対開かない仕組みです!」

 

「あ、開いて!開いてよ!!開けなさいよ!!!」

 

そうやって叩けど。押そうが引こうがドアは開かない。瞳をしいたけのようにした明石にがっしり肩を掴まれて顔が青ざめる。

 

「さあ、山城さーん、ちょっとだけ、ちょっとだけですから。痛くしませんから。ちょーっと床のシミを数えてるだけでいいですって」

 

うへへへへ……と言う怪しい笑い声と、いやあああああ!!!と言う悲鳴が工廠に響き渡るのであった。

 

………

 

「うっうっ…不幸だわ…」

「さ、切っていっちゃいますよー。夕雲型の浜波ちゃんじゃないんですから、山城さんメカクレは似合いませんよ」

 

メカクレって何よ…もう聞く気もない。椅子に座らされ、ゴミ袋を着せられ、諦めて抵抗しない。今の山城は何もかもを今諦めているから、抵抗はもうしない。何を言われても。何をされても。もう抵抗する気力もない。めんどくさい…。

 

伸び放題でボサボサになった髪を霧吹きで濡らし、櫛で梳いてまず整える。

 

「わー、きれいな髪ですね〜。きれいな絹糸を艶やかな黒で染めたみたいな。うっわ、サラッサラ。羨ましいなぁこれ。どうやったら…ってか妖精さん印のうちのお風呂にあるトリートメント使ってたらめっちゃやばそう」

 

「だったら姉様の方がいいんじゃないですか…私より…」

「扶桑さんのもやばいですよ。もうつやっつやのサラッサラ。うちの鎮守府で最強のツヤサラ姉妹目指しません?」

 

「訳がわからないわ…」

「うひひ、これはやりがいがあるなぁ。じゃ、切っていきますから動かないでくださいね」

 

「あの…工作艦ってこんなことまでやるんですか…?」

「間宮さんのほうがうまいと思いますけど、私もお姉ちゃんたちや玲司君…提督の髪も幼い頃切ってましたから。一応自信ありですよ!」

 

「え、ちょっと。そんなに切るの…?もうちょっと…長めに」

 

ジョキッ

 

「ああ…」

 

言っている間にばっさり切られた。パサパサと髪の毛が落ちる。続けてジョキジョキと切られていく。

 

「ほーらきれいな赤い目が見えましたー!いいですねいいですね!」

「………不幸だわ…」

 

鼻歌をふんふん歌いながら前髪を整えていく明石。鏡がないから今どう言うふうに切られているのかがさっぱりわからず、不安が止まらない。あの…とかその…って言っても明石の手は止まらず、ジョキジョキ切られていく自分の髪。上、後ろ。いろいろと手が加えられている。時々、はあああ…とか変な声を出して髪を撫でてくる。くすぐったい。この人危ない人なんじゃないのか?と思う。やがて…

 

「はい、終わりましたよ!うーん!うまくできたなぁ!」

「鏡…鏡を見せて…」

 

「ああ、いいですよ、はいこれ!」

 

恐る恐る手渡された鏡を見る。みた瞬間に大きく目を開き、手がわなわなと震えた。

 

「何よ…これ…なんでこんな…市松人形みたいに…なってるのよぉ…」

「今の流行は前髪を揃える前髪パッツンっていうのがいいらしいですよ!うーん、山城さんかわいい!」

 

「………不幸だわ」

 

ガックリとうなだれる山城であった。そして、2度と明石さんには髪を切ってもらうのを頼むまい…。そう心に決めたのだった。




山城編です。なんだか最後にひどい目(?)にあってしまいましたが、山城を改変していくようです。次回も山城は明石や他の艦娘に「不幸だわ」と言いながらも付き合い、振り回されていくパートになっていきます。がんばれ、山城。

それでは、また。
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