提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百十三話

「ええー、また折れちゃったかぁ…」

 

そう工廠で難色を示す明石。大潮が玲司と一緒に持ってきた朝潮の水上ブーツ。そのスクリューなどの部品が著しく破損している箇所がある。川内も興味深そうに朝潮のブーツを眺めている。

 

「これはすごいねー。昨日徹夜で直してたのに、漣との演習でこうか。力もざっと60%の力量。回数は2回。最後の1回はチカラの行使にはなってないね」

 

川内がコンピューターで弾き出したかのように、朝潮のチカラの比率。回数を見ていたので話しただけだ。それでも明石は頭を抱えた。「契の女王」明石の高度なメンテナンスをもってしても、朝潮のチカラに海上を走り回ることができるブーツは、大きく破損していた。これでは走るどころか歩くこともできやしない。

 

「浮台にしかならへんなぁ」

「うーん、朝潮ちゃんのブーツは1から作るかぁ…」

 

「朝潮姉さんのブーツを作るんですか!?」

「まあ、水上ブーツなんて普通は走る、曲がる、止まる。その基礎を行うための手段でしかないからね。神通さんのも設計図、考えてるんだけどね」

 

「神通もか」

「兄さんは知ってるでしょ。神通さんの動きも、既存のブーツでは耐久性が足りないよ」

 

明石が名前を挙げる。神通、雪風、夕立…そして、朝潮。彼女たちのブーツは走る、曲がる、止まるだけの動きを彼女たちがしない故に破損や傷みが激しい。建造と同時に与えられる水上ブーツも磨耗や損傷はするが、難しいものではない。女王でない普通の明石でもスイスイ直せる代物だ。

 

朝潮のゼローマックスーゼロの走りは、荷重も凄まじいし無理なスクリューへの過負荷がかかる。結果として、大きく破損してしまうのだ。走行中にブーツが壊れてしまえば命にも関わるのだ。

 

「あー、うーん…ここのスクリューの負荷がひどいから…これを…えーっと、ここのクラック、こうチカラがかかってる?あ、こっちもか。中で金具が折れてるなぁ…ここ、こんな脆いんだぁ…」

 

「あー、あかん。明石のやつ、本気モードや。もう何言うても聞こえん」

「じゃあ解散かな。こうなると1週間これだから」

 

「あ、あのぉ、明石さん、姉さんの艤装は…」

「足のサイズこれで合ってる?合ってないから脚に負担かかってる?ここをもう少し絞って…うん、ここの材質はこうで…」

 

「無駄だよ、大潮。明石はもうなんの話も聞こえていない」

 

目の前の大潮が完全に見えていない。鉛筆で何か複雑な図面を引き始めた。大潮は邪魔をしては悪いと引いた。

 

「まあ、せやけど、そうなった明石が作った艤装なりブーツなりは、もうそれ以外ははかれへんなー。うちらの艤装もブーツも、全部明石が作ったんや。ブーツは島風、川内。他は艤装。まあそうでない方も特注品や。どっちかが飛び抜けた逸品なんや」

 

二ヒヒ、と笑う龍驤。大潮にはよくわからないが、自分の大好きな姉が何かとんでもなくすごいことになってきたことに、大潮はアゲアゲが止まらず、キラキラし始めていた。

 

「お、姉やんのことでアゲアゲか。ええのー。そんなに慕われとる姉やんが羨ましいわ。うちなんかなぁ…」

「酒癖は悪い、口うるさい。短気でけんかっ早いし、艦載機の動きがいやらしい」

 

「お前、ええ加減にせえよ」

「ほーら!短気!」

 

「それにおっそーい!」

「じゃあかあしい!!ええか大潮。大潮はこんな妹になったらあかんねんで。姉やんは大事にするんやで…」

 

「は、はい…」

 

「まあ、うちかて厄介な姉やんがおるからなぁ。チカラで何でも解決しようとするし、性格はクッソ悪いし。ガサツで女もんの服とか興味ない、家じゃパーカーや。女っ気くらいちったぁ出してみいっちゅーねん。うちのほうがまだマシやろ?」

 

大潮がキョロキョロしていると隣にいたはずの川内、島風がはるか彼方に走り去っているのが見えた。司令官も。そうして龍驤先生の後ろには…。

 

「ん?何かあったんか?」

「嬉しいわぁ、龍驤ちゃん!お姉ちゃんのことをそこまで思っていてくれたなんて!お姉ちゃん感激よぉ?」

 

にっこり顔は笑っているが、ゴゴゴゴゴゴと凄まじい地響きをあげて龍驤の背後に立っている艦娘だろう女性。ピッ!?と大潮は変な声をあげて硬直した。龍驤は絶望の色が顔を染めていた。

 

「ねえ、龍驤ちゃん、もう一回お姉ちゃんがどんな人か、大潮ちゃんに教えてあげて?」

「あ…あ…」

 

鎮守府全体が揺れた。

 

「な、なんだ地震か!?おい、ちびっ子は大丈夫かよ!?」

 

「……今のは…敵!?」

 

島風と川内、赤城が事を全て説明して何事もなかったが、龍驤はタダでは済まなかった。

 

………

 

「もう、陸奥姉さん、あまり龍驤姉さんばかり責めてはダメですよ」

「はーい。久しぶりね、玲司君。ちょっと成長した顔をしているわね」

 

「あ、ああ…陸奥姉ちゃん、それに高雄さん、ひ、久しぶり…」

「やーね、そんなに怯えないでよ。ちょっとお父さんに様子を見て来いって言われたから来ただけよ。連絡も何もよこさないから心配になったみたいだから」

 

「ふう…おやっさん…別にそんなとこまで…」

「お父様の気持ちもわかってあげて。いろいろと…心配ごとが多いのよ」

 

「む、むう…そうか…」

 

にこにこと事情を説明する高雄。高雄も長らく玲司と会えていなかったため、久しぶりに会話ができて嬉しいのだ。大淀が出してくれたお茶。かわいいティーカップは高雄に譲ってもらったティーセットを参考に、喫茶「ルーチェ」のマスターにも相談して購入したものだ。紅茶の淹れ方もマスターに教えてもらったのだ。いつか、高雄が横須賀に来てくれたなら、絶対に自分がこのティーカップで紅茶を淹れると。

 

「大淀ちゃん…ありがとう、おいしいですわ…。それに、かわいいカップ。ふふ、嬉しい♪」

「よかった…高雄ちゃんが喜んでくれて…」

 

2人でふふふっと笑うところはかわいらしかった。あの高雄が、大淀の話をするときだけはとても楽しそうだったと陸奥が言うと、恥ずかしそうに縮こまる高雄。それまたかわいかった。鳥海は生まれが違うとは言え、姉に出会えて嬉しかった。摩耶も呼んでくると珍しくテンションが高かった。

 

「ふふ、鳥海ちゃんは冷静だけどはしゃぐときははしゃぐのよ」

「あんな鳥海さん、初めてみました」

 

「ま、高雄は摩耶や鳥海と話してきなさいな。龍驤、あんたは残って」

 

大淀と離れるのがちょっと名残惜しかったのか、少し考えたが、かわいい妹がはしゃいでいるのならそれもまた無碍にはできない。高雄は鳥海に続いて出て行った。大淀もちょっと残念そうだったが、後でたっぷり時間を設けるわよ、と陸奥が言うと嬉しそうに胸を撫で下ろした。

 

「さて、かわいい弟にか・の・じょ・ができたって話も聞いていたわけだけど、それよりも重要な話があるから、あとでそれは聞くわ」

「姉ちゃん…」

 

「しゃ、しゃーないやん…姉やんに逆らうは死あるのみなんや…堪忍や」

「別にお付き合いを拒否しようとか思ってないわ。玲司君が好きになったのなら、それでいいもの。むしろ、誰かを好きになってくれたのは嬉しいわ」

 

「あんたを殺してうちも死ぬとか言い出しそうで怖かったんやけど…」

「あ?」

 

「ナンデモナイデス」

 

「で、話ってのは?」

「明石がいないところを見ると、あの子工廠に篭って何かやってんじゃないの?」

 

「鋭いな…」

「あの子の姉なのよ。あの子が私が来てるのに飛んでこないってのはそう言うことよ。私が来たら脱兎の如く逃げる子ばっかりだけど。赤城、島風、川内。あとでかわいがってあーげよ」

 

陸奥の後ろで静かに拝む龍驤。陸奥のかわいがりはそれはそれは…過激だ。

 

「ふーん、なら、なおさら連れてきたい子がいるから来たのよ。入って。ごめんね、お待たせ」

 

陸奥姉ちゃんが艦娘を…?一体誰だ。ドアが開き、姿を見せる。

 

「水上機母艦、秋津洲よ!艦娘のメンテはお任せかも!」

「秋津洲!?」

 

「む、その驚き方は失礼かも!ま、まあ実戦は苦手だし、仕方ないかも…」

「残念だけどこの秋津洲は非戦闘艦よ。他の秋津洲とは違う」

 

「姉やんうっそやろ!?まさかあの秋津洲か!?」

 

椅子に座っていた龍驤がひっくり返って血相を変えて陸奥に確認する。またとんでもない艦娘が来た。霧島もメガネをかけ直して陸奥を食い入るように見る。今度はどんなすごい艦娘が来たんだ。期待が止まらない。

 

「あら、龍驤はわかったか」

「あったりまえや!非戦闘艦の秋津洲!夕張と一緒や!」

 

「ふふん、夕張とはいいライバルかも!でも、頼りになるお姉ちゃんかも!」

 

「『旋律の女王』の秋津洲か」

「あら、玲司君は知ってたの」

 

「ああ、存在自体、今の提督たちも知らないだろうな。『契の女王』明石でさえもう七原提督や九重提督も知らないかな。艦娘第二世代で数少ない原初の艦娘のようにニノ名を得た艦娘。お目にかかるのは初だ」

 

艦娘第二世代と言うのは原初の艦娘が現れてから長らく建造やドロップすらなかった艦娘が、原初の艦娘が現れてからから3年ほど経った頃、突如として深海棲艦を討ち倒した際に現れたり、妖精さんの技術で建造炉が完成。建造が可能となり現れた艦娘たち。そこからさらに技術が進歩して資材を混ぜることで生まれる艦娘たちが現れ、今に至る。

第二世代は初めての建造、ドロップ。そこから建造技術によって普遍的な艦娘の建造が可能となった創世の世代と言うことで「ジェネシス」と呼ばれている。「ジェネシス」にはこの秋津洲、「契の女王」明石の弟子である夕張、そして今、小料理屋を営んでいる安城提督の元艦娘、鳳翔もジェネシスの1人である。

 

「あなたのところもそろそろ秋津洲のような『調律』ができる艦娘が必要になってくると思って。川内が目にかける神通、島風は夕立、高雄は大淀。原初の艦娘が目にかけるということ。それはきっと、次の私たちに変わる『女王』が現れる前触れなのかもしれない」

 

「現に、朝潮の能力も、神通や夕立も。よその艦娘にないチカラを持っとる。北上もそう。せやけど、こういう子らはチカラを行使するだけで自分にどれだけの負担が体にのしかかるかわかってない。川内かて、島風かて、その自分の体を酷使するチカラに飲まれて足が動かんようになったこともある。陸奥姉やんも。明石が全部面倒みたけど、明石もそれのせいで潰れそうになった。秋津洲や夕張、それから速吸。『ジェネシス』っちゅうんは、攻撃一辺倒の『原初の艦娘』の弱点を埋める艦娘が多い」

 

「原初の艦娘」は明石を除けば敵に対して攻撃、もしくは敵の攻撃から身を守るための攻守に関わる艦娘ばかりである。調律は明石1人。数が多い上に彼女たちのチカラは艤装にも身体にも大きな負担をただでさえかけるのに、調律が1人しかいない。これではとてもではないが調律が追いつかず、明石にも大きな負担がのしかかった。

 

狙ってか否か、次に現れた艦娘たち「ジェネシス」は原初の艦娘の負担を埋めるべくして生まれたかのような身体、艤装の調律を得意とする艦娘が現れた。

 

身体の調律のスペシャリスト。身体のリズム、バランスを音楽のように旋律を奏で、癒す「旋律の女王」秋津洲を筆頭に…

 

夕張、神威、速吸、そして今とはまるで違う存在だが調律屋であるあきつ丸などがいる。攻撃に回る側としては鳳翔などがいるが、「原初の艦娘」に比べれば能力は平均的である。

 

唯一の女王の称号を持つ秋津洲。彼女がいなければ「原初の艦娘」は早々に姿を消していたかもしれないくらい貴重な存在である。彼女はもともと水上機母艦であるが、この秋津洲のそのチカラは弱い。代わりに得たのが、艦娘の身体の調律能力である。

 

「ですが、調律と言う意味がわからないんですが」

 

霧島は調律の意味がわからなかった。身体の調律と言われてもピンとこない。

 

「うーん、百聞は一見にしかず。実際にやってみたほうがわかるかも!」

 

そう言うと秋津洲は手を差し出す。

 

「手を貸してほしいかも!握手!」

 

にっこりと笑いながら握手を求める秋津洲。疑惑を持ちながらも手を握る霧島。温かく小さな手が優しく霧島の手を握る。トクン…と秋津洲の鼓動が伝わってきた。トクン…トクン…なんだろうこの音は。秋津洲のものではない。これは自分の腕から聞こえてくるような?いや、秋津洲のものも混ざっている。

 

「目を閉じて…自分の音を聞くかも…あなたの『旋律』を聞かせて…かも」

 

周囲の音が消えていく。目を閉じると黒か白かわからない世界。その中でトクンと言う音だけが聞こえる。ゴー…と言う川の流れのような音も聞こえる…。これは…?

 

ト…クン…ト………クン…トク…ン

 

心地良いリズミカルな音とは別に不協和音のように不規則なリズム音が聞こえる。これはひどく不愉快だ。せっかくいい音を聞いていたのに。この音は…何?

 

「はい、もういいかも」

「ふう…」

 

手を離し、大きく息を吐く。何か、ズシリと重く気怠い身体。一体、何をされたのか。

 

「霧島さんは今、たぶんすっごく体が重いかも。特に右腕。結構無理してるからかすっごい音が悪いかも」

「ええ。どうして…右腕が重いわ。一体何をしたんですか?」

 

「あなたの『旋律』を聞いたの。全体的に音が悪いんだけど、右腕は『旋律』の聞こえがすっごく悪かったかも。そのまま放っておくと大きな怪我をしちゃうかも」

「えっ…」

 

たしかにここ最近右腕がしくしくと痛む時があった。入渠してよく自分で解していたのだが、時に砲を撃った際にズキリと鋭い痛みが来ることもある。

 

「きっと、艤装と身体のリズムが合ってないかも。霧島さんに合った砲を装備するといいよ」

「………やっぱり火力重視で41cm砲を持つのはダメですね」

 

「倉庫に35.6cmダズル砲がなんでか知らんけどあったやろ。あれに変えてみ」

「はい、そうしてみます。秋津洲さん、ありがとうございます」

 

「まだかも!装備を変えても腕の旋律が消えかかったままだから意味がないかも!」

「では、どうすれば?」

 

再び手を取る秋津洲。秋津洲の口からは聞く者を虜にするかのような美しい歌声が聞こえる。その声は霧島の脳に、心に直接届くかのようだった。その歌声は目に見える歌声となって霧島の体を包んでいるかのように見えた。音符は特に不調をきたし、リズムが悪かった右腕を重点的に囲んでいた。何と歌っているのかはわからない。英語なのか、それとも別の言語なのか。秋津洲はとても楽しそうに歌っていた。やがて、自分の耳の奥からリズムが聞こえてくる。

 

秋津洲の歌のリズムと身体の中のリズムは狂っている。不快だ。でもなぜだか少しずつ、止まっていたリズムが彼女の歌に合わせようと動き出した。やがて、霧島の身体の中の全てのリズムと秋津洲の歌のリズムが合致した。

 

「はふー」

「………すっごい歌やな。で、おーい霧島。おーい!」

 

「はっ!?」

「どうや?身体の調子は」

 

「………!?軽い…?何ですかこれ?身体がとっても軽いわ!」

「大成功かもー!霧島さんはこれからはちゃんと自分に合った砲を使ってほしいかも。あと、重い砲のせいで足腰もちょっとキテたかも。それも治しておいたよ」

 

「は、はい…」

 

高火力こそ正義と信じて疑わない霧島は、重いと思いつつも41cm砲を使っていたが、重さゆえか反応が鈍ったり取り回しに苦労することも多かった。疲れもよぶんに溜まるし、いいことではないとわかっていながら、やはり高火力で敵をなぎ倒したかった。結局、秋津洲の忠告の通り、体は悲鳴をあげていたようだ。身体の調律と同時に、秋津洲は正確な装備などのアドバイスもできる。身体の作りを音で把握する秋津洲ならではのことである。

 

「すごいチカラだな。目で見るのは初めてだよ。ありがとう秋津洲。でも、姉ちゃんいいのか?『旋律の女王』なんて貴重だろ。ただでさえうちは原初の艦娘異動させまくってんのに」

 

「司令長官の意向よ。まあ職権乱用とも言うかしら。清州副長官がつついているけど。でも、これからを担う提督はあなたや一宮提督よ。ま、清州副長官は『原初の艦娘』や『ジェネシス』の管理権はないから。放棄したからね」

 

「あの人嫌いかも。私のこと解体しようとした人だし。ベーっ!」

 

きっと違う思惑があったはずだ。と玲司は思う。あの人は艦娘を、おやっさんとは違う意味で大事にしているんだと思う。一度彼と話がしたい。おやっさんも、彼は悪い人ではない。いがみ合っているのも、何というか…そうせざるを得ないと言うか、とはっきりしない答えを得ている。あの人はみんなが思う悪い人ではない。なぜか直感がそう知らせていた。

 

「失礼するわ…って、何…知らない人が…」

 

うーんと考え込んでいると満潮がやってきた。陸奥や秋津洲は知らない艦娘。知らない艦娘には抵抗感がある満潮はおずおずと外へ逃げようとしたが…。

 

「心配ないよ。俺の大切な人と、新しい仲間だ。こっちにおいで。朝潮のことか?」

「え、ええ…」

 

ちょっと怯えながら玲司のもとへ近寄り、玲司の隣に歩み寄る。陸奥はにっこりわらう。可愛い子ね、と言う。ど、どうも…と満潮はお礼する。

 

「新しい仲間になる秋津洲だ。秋津洲、満潮だ。仲良くしてあげてくれ」

「はーい」

 

「司令官、朝潮姉さんのメンテ、終わったわ。えっと…やっぱり今日はチカラを2回使ったから、ちょっと脚を念入りにメンテしておいたわ。大潮姉さん、艤装の具合は?」

 

「んーん、ダメだって。でもね満潮ちゃん!すごいんだよ!明石さんが姉さんのためにブーツを作ってくれるんだって!これはもうアゲアゲだよね!」

「ほんと!?ならこれで姉さんのメンテも楽になるかしらね」

 

「おお?満潮ちゃんも『調律屋』かも?」

 

秋津洲が満潮の話を聞いて興味を持つ。朝潮のメンテ。それは明石のやっているようなことではなく、自分のように艦娘を調律するほうなんだろうと。

 

「調律屋?なにそれ」

「えっと、朝潮ちゃんにどんなことしてるの?」

 

そう聞かれた満潮は朝潮にしていることを話した。ふんふん、とまじめに話を聞く秋津洲。やがて秋津洲の目がキラキラし始めて、ガシッと満潮の肩を掴んだ。

 

「お友達かもー!やっと見つけた私たち以外で見つけた『調律屋』かもー!」

「え、ええ!?ちょ、ちょっと!何なのよ!」

 

「うーん、と。じゃあ大潮ちゃんで私がどんなことをしてるか教えてあげるかも!大潮ちゃんは天井のシミでも数えてるかも!」

「おい待ちぃ!そのセリフは言うたらあかんやつや!」

 

「大潮ちゃんは足が全体的にリズムが悪いかも!じゃあ、見ててね」

「聞けや!」

 

龍驤のお叱りを無視して大潮をソファに座らせ、脚に手を当てる。小さく歌を口ずさみ、大潮の意識が別の世界に切り離されていくような感じ。朝潮姉さんもこんな顔してるな。ボーッとなっていって…。これは…!

 

「はい!足のリズムがよくなったかも!満潮ちゃんならわかるかも?」

 

そう言われたのでボーッとしている大潮の額に自分の額をくっつけて、大潮のリズムを測る。

 

「大潮姉さん。姉さんの音を教えて。カチ…カチ…カチ…」

 

時計の秒を刻むような音を呟く満潮。すると大潮も虚ろな表情でカチカチ…とリズムを刻み始めた。

 

「カチ…カチ…カチ…」

「カチ…カチ…カチ…」

 

「ん、いいわ。今整えてくれたからかしら?」

「んん…ふああ…あ、あれ、なんだか身体が軽いよぅ」

 

「すごいかもー!満潮ちゃんすごいかもー!私と同じかも!」

「わあっ!?ちょ、ちょっと!でも私はダメよ。大潮姉さんや朝潮姉さん、朝潮型の音しか聞こえない」

 

「それはまだ聞き方がわかってないからかも!私が教えてあげるかも!」

「満潮すごいじゃないか!それはとてもじゃないけど誰でもできるチカラじゃない。ちょうどいい。秋津洲はうちの艦娘になるから、しっかり教えてもらうといい。満潮にきっと大事なものになるぞ」

 

「わ、私だけの…?私…これで、みんなの役に立てるのかしら?」

「立つかも!超役に立つかも!がんばろうね!」

 

「は、はい!どうか、よろしくお願いします!」

「満潮ちゃんすごいな〜!大潮、もーっとアゲアゲですよ!」

 

………

 

私がみんなの役に…そうすれば、もっと司令官の役にも立つ…!朝潮姉さんも、大潮姉さんも、荒潮も…霰も!

私はどうすればみんなの役に。司令官の役に立てる?と聞いた時、司令官は焦らなくてもいいと言った。言ってくれた。霞をここにいさせてくれて、私たちも良くしてくれて。優しくしてくれる横須賀のみんな。何かチカラになることで、私はみんなにお返しがしたい。でも、私は駆逐艦。やれることが限られている。夕立や雪風について行ってみようと思ったけど、できなかった。戦闘の才能は2人や朝潮姉さんに勝てない。私は焦った。

 

「焦ることはないよ。満潮にできることはきっと見つかるよ。焦ったって見つからない。けど、ふっと見つかることもある。待とう。大丈夫。きっと見つかるさ」

 

そう頭を撫でてもらって言われた時、安心した。いらないって言われるかと思ったから。駆逐艦でさらに戦闘でもあまり役に立たないと思っているのに。それを言ったら時雨や雪風に怒られたな。

 

でも、やっと私にできることが見つかった!なら、そのチカラを教えてもらってもっとみんなに役立てるようにしたい!司令官の安心する顔が見たい!

 

「よーし、やるわよ、私!」

 

ムンっと私はやる気を出した。

 

「あ、あの、あんまりやる気になると私が不安になるかもぉ…」

「は!?今の聞いてたの!?ってかそこで不安にならないでよ!」

 

私はずっこけた。




『調律屋』のスペシャリスト、秋津洲の登場です。名目上「水上機母艦」ですが、戦いはからっきしです。彼女は霧島や大潮にやった「調律」で役に立っています。一応満潮のように若干ながら調律ができる艦娘が各地に点在しています。
一宮提督のところにも、虎瀬提督のところにもいますが、横須賀の満潮は特にその能力に優れています。満潮は戦闘にも参加して、調律もするプレイングマネージャーと言った貴重な存在です。「女王」の資格があるかはわわかりませんが、次回はそんな満潮の新しいチカラに目覚めるに至った話と、彼女の心境を書いていこうと思います。

第百十三話を持ちまして、2019年の投稿は最後です。今年も1年、私の小説を読み続けてくださった皆様、本当にありがとうございました。皆様の応援のおかげで続けられております。来年も頑張ってまいります。どうぞ良いお年を。

それでは、また。
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