提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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ショートランド泊地

現在は存在しない泊地。破棄直前にいた艦娘の数は100。最終の提督は三条玲司。二年前の深海棲艦の猛攻により、深海棲艦の攻略は許さなかったが提督と艦娘1人を残し壊滅。基地も崩壊。瓦礫のみしか残っていないため、再建の目途が立たずやむを得ず放棄することを大本営が決定。二年経つが依然として瓦礫の山のまま。
このショートランド泊地の壮絶な攻防戦はショートランド海戦と呼ばれているが、その当事者たちは当時のことについては黙したままである。

玲司の部屋の机の引き出しには。満面の笑顔で写る玲司と、ショートランド泊地の当時の艦娘100人の笑顔を浮かべる写真が額に収められている。


第十二話

「あかん…やりすぎた…ほんまやりすぎた…」

 

執務室で三角座りをし、ブツブツと反省する龍驤。もう少し手加減するつもりだったが、つい大げさにやりすぎてしまった。トボトボと寮へ帰る摩耶達に謝ろうとしたものの、何と声をかけて良いかわからずに黙って見送ってしまって現在に至る。

 

「玲司ー…お願いやー…。あの子らにうちがすまんかったって謝ってきてーな…」

「いつもそうやって自分で反省するくせにすぐケンカを買うんだからなぁもう…」

 

しょんぼり、いつものハイテンションはどこへやら。おそるおそる玲司へとお願いをする。こういう時フォローに回るのはいつも玲司か、妹の高雄であった。血気が盛んすぎてつい攻撃の勢いが余り、想定以上の被害を与える。

どの鎮守府なども「炎の女王」龍驤を絶対に怒らせてはならない。と言う暗黙のルールがあった。

 

「なーなー…玲司、お姉ちゃんのお願いやー…なーなー」

 

こうなるとただの子供のようだが、ここでそれを言ってしまうとまた激怒し爆破されかねない。裾をくいくい引っ張り何かをおねだりする子供のように玲司に迫る。そのほほえましさに思わず大淀はクスクスと笑ってしまった。

 

「わかったから!晩飯食ったら何とかするから!仕事の邪魔!」

「おおよどー!あんたんとこの司令官が冷たすぎるー!」

 

「あは、あははは…ですが、書類が溜まっていて早く進めないといけないのも事実ですから…」

「そうだよ。クソガエルのせいでほんとに書類がやばいんだよ。姉ちゃんも手伝ってくれっての」

 

「うちがそういうん苦手なん知ってるやろー!まあ、よう考えたら摩耶達もクソッタレの被害者やねんなぁ…」

「まあな…。結局、摩耶達もヒキガエルに散々嫌な目にあわされてああなったわけだけど…。あのままってわけにもいかなかった。そこは姉ちゃんにやらせてしまったのは申し訳なかった」

 

「実力でモノ言わせて黙らせるんやったらあいつらより力持った奴が押さえつけなあかんかった。玲司の代わりにうちが代弁しただけや」

「そこは感謝してるよ…まあ、フォローはちゃんとやるさ」

 

「さっすが玲司!男前やわぁ!」

 

そういうといらない書類箱に入っている書類を式神を使ってシュレッダーへと運ぶ。便利なものだ…。当の本人はソファーであおむけになって寝そべっているだけなのだから。

 

「姉ちゃん、パンツ見えてる。男の前でそういうことすんなよ…」

「なにー?ええやんか別に、玲司とは裸の付き合いを済ませてるわけやし♪」

 

「ふぁ!?」

「んなことしてるか!大淀!信じるなよ!」

 

「え、えと、てーとくとりゅーじょーさんはきょうだいですし…あ、あれ、そういうことをするのはこいびとどうしでは!?」

「落ち着け大淀!そんなことは誰ともやってない!冗談に振り回されるな!」

 

「は、はい…冗談なんですね…び、びっくりしました…(そ、そうなんだ…安心しました)」

「なんか言ったか?」

「い、いえ…何も…」

 

「あはははは!大淀は乙女やなー。かーわいいー♪」

「黙ってろ姉ちゃん!豚肉焼きそば姉ちゃんにはなしだかんな!陸奥姉ちゃんにも電話する!」

 

「そんな殺生なああああああ!!!」

 

龍驤の絶叫が本館にこだました。

 

/食堂

 

「今日はこいつを使ってお好み焼きにしまーす」

 

「「「「おおー!!!」」」

 

全員が驚きの声をあげる。またしても新しい未知の料理。オムライス、カレー、和風のご飯。そのうまさに大喜びする艦娘たちの新たな料理との出会い。それは期待を隠せるはずもなかった。

 

「うっうっ…ほんまに陸奥姉やんに電話せんでもええやんか…鬼!」

「誰のせいだと思ってんだ!帰ったらたっぶり叱られろ!」

 

「陸奥姉やんマジギレやったやんかー!帰ったらうち轟沈させられるー!!」

 

執務室での事の顛末を怒った玲司が姉(超過保護)の陸奥に電話。何か受話器越しにミシリ…と言う嫌な音がし、絶対零度の声で「玲司、ちょっと龍驤に代わってもらっていいかしら?スピーカーでしょ、これ?逃げるなよ、出ろ」と恐ろしい地獄の底からの声に龍驤は恐怖した。

 

ボロクソに言われ「帰ったら覚悟しなさいね?」と言われ…(ちなみに玲司にはそのうち遊びに行くから楽しみにしててね♪と1オクターブ高い声で言われた)ショックを受けていた。

 

「ねー、これどうすんのー?あたし気になるー。お腹ぺこぺこー」

「ねえねえ、これ焼くの?うわあ、どうなるんだろう。ボク楽しみだよー!」

 

皐月の言葉に玲司はその鍋の中のもの。お好み焼きのタネをホットプレートに流し込む。じゅーと言う音と共に艦娘たちの歓声があがる。

 

「ほんと提督さんはなんでも作れるんだね。すごいよ!」

「おう、そりゃコックだからな」

「何よそれー」

 

へらを二つ使ってクルリとひっくり返す。きつね色に焼けた生地にさらに大きな声があがる。

 

「わ、おいしそう!」

「いい…いいかも♪」

 

「ぽい!次は夕立がひっくり返したいっぽい!」

「夕立、やめなよ…結構難しそうだよ」

「大丈夫っぽい。夕立にかかればぽぽいのぽいっぽい!」

 

当たり前だがぐちゃぐちゃになったお好み焼きと「ぽいー!!」と言う悲鳴が響き渡る。

 

「あれ…電じゃないか!どうしたの?そんなとこで覗き込んで」

 

時雨が入り口からおそるおそる覗き込んでいる姿をみかけた。時雨の声にビクッとなったが、見つかってしまったことに観念したのか全身を見せた。

 

「お。電か。お前も食ってくか?お腹すいたろ?」

「……なのです」

 

「あはは、お前のなのですは相変わらずだなぁ。ほら、おいで。一緒に食べようぜ」

「は、はいなのです…」

 

「摩耶達はどうしたの?あんたいっつも摩耶達にくっついてたじゃん」

 

やや北上がきつめに言うのを名取が窘める。電はビクビクしながらも語りだした。

 

「摩耶さんに…電も食堂でみんなとご飯を食べたいと言ったのです…。電も…みんなと一緒にご飯が食べたいのです!でも…摩耶さんも五十鈴さんも危ないからだめって。でも、夕立ちゃんや村雨ちゃんは本当に楽しそうで…うらやましかったのです…」

 

摩耶達にとっては泣きっ面に蜂だろう。龍驤に叩きのめされ、電にも離れられ。電も摩耶達に強制的に部屋にいるように言われたようだ。名取と違うのは、それが軟禁のように自由がなかったこと。姉を失い、悲しみに暮れる電ではあったが、ほとんど自由のない生活には息苦しさを感じていたようだ。

 

遠巻きに改善されているのを見た電。夕立も、時雨も、村雨も。話したことのない駆逐艦も。みんなご飯を食べて笑っていた。楽しそうだった。自分は司令官の悪口ばかりを言う摩耶達に囲まれ。味気ない食事。寂しかった。自分も加わりたかった。

 

「電。食べな。熱いから気を付けてな。ふー、ふー」

 

玲司に冷ましてもらい、口に入れてもらう。味気ない食事しかしてこなかった電には衝撃的な味のハーモニーだっただろう。

 

「おいしいのです…」

「慌てて食べるとやけどするから。もー世話がやけるなーこのくちくー」

 

「北上、電を頼む。俺は摩耶達のとこに行ってくるから」

「…あーい。正直あいつらもいい加減一緒に食べたらいいと思ってたとこ。よろしくー」

 

ホットプレートと鍋を抱えて、玲司は巡洋艦寮へと向かった。

 

/巡洋艦寮

 

摩耶達が集まっている部屋は、日も暮れているのに真っ暗で。摩耶も五十鈴も、最上も。電気さえつけずに落ち込んでいた。完膚なきまでにやられたのもショックではあったが、電の離脱も堪えていた。そして、これからの自分たちの処遇。どうなってしまうのか…。未だに安久野の傷が癒えぬ摩耶達には、解体。あるいはもっとひどい目にあってしまうのではないか、と言う恐怖が渦巻いていた。

 

摩耶達は龍驤を、大本営から遣わされた提督に反抗する者を力でねじ伏せ、最終的にそれで解体などをさせる者なのだろうと考えていた。いつになったらその時がくるのか。気が気ではなかった。

 

コンコン

 

何者かが戸をたたく。いよいよやってきた処刑の時か…今まで好き勝手やってきたのだからしょうがないとは言え…。不遇な生き様だったと涙が出そうになった。覚悟を決めて摩耶がドアを開けた。

 

「よっ。腹、減ってないか?」

 

突然の来訪者は摩耶の想像とは全く違う言葉を発してやってきた。

 

……

 

じゅーと言うお好み焼きの音が聞こえ、いい匂いがする。が、摩耶、五十鈴、最上。鳥海、阿武隈もどうしたらいいのかわからない微妙な表情だった。

 

「いやー、多めに作っといてよかったよ。すぐ焼けるから遠慮せずに食べてくれよー」

「い、いや…あたし達を解体しにきたんじゃねえのかよ…」

 

「え?そんなのしないけど?」

「はあ!?じゃああの龍驤は何なんだよ!?」

 

「ああ、ありゃあ大本営から単に俺の様子を見に来た姉みたいなもんだ。たかが軽空母って言ったろー。あれ言うとああなっちまうんだよ」

「え、ええ…」

 

摩耶も五十鈴も啞然としていた。まったく緊張感のないセリフだった。緊張していた自分たちが馬鹿みたいだった。

 

「まずは、みんな、申し訳なかった。ヒキガエル…いや、安久野の馬鹿のせいで、摩耶達みんなに迷惑をかけた」

 

突然の謝罪。頭を下げて、軽い気持ちの謝罪でないことは鳥海も阿武隈も理解した。

 

「な、何よ突然…」

「いや、俺たち人間が権力におぼれて摩耶や五十鈴、最上。みんなの仲間や姉、妹を沈めてしまったのは確かだ。本当に申し訳ない」

 

「…提督が謝ってもしょうがないよ…。沈めるような指揮をしていたのは前の提督だよ。でも、僕は提督が悪いということにして、こんなことをしてしまったのは確かだよ。だから、僕もごめんなさい…」

 

最上が頭を下げて謝罪する。さらに最上は続ける。

 

「三隈を沈められたり、仲の良かった古鷹や加古も沈められて…怒ってもどこにもやり場がなくて…前の提督にも反抗はしたんだ。摩耶達と。ここから絶対出ないで、テコでも出撃しないって。

「でも、ここに籠ってるだけじゃどうやって三隈たちが沈んだことへの怒りをぶつければいいのか…。それで提督に…本当にごめんなさい…冷静になったら、僕は何てことを…」

 

行き場のない怒りをぶつけるには提督にそれをぶつけるのが一番よかった。艦娘を沈めるような命令ばかりを下した提督。その後任もまた、同じようなことを続けるのかと思っていたのだが…。

 

「ますます提督にも怒りをぶつけにくくなって…そして今日はみんなにまで当たり散らしてあのざまよ…情けないったらありゃしないわ。名取にも、申し訳ないことをしたわね…」

 

「愛宕姉さんを沈められた時は頭が真っ白になった…。ここで泣いてたら胸がカァーッとなってさ…もう誰に怒りをぶつけていいかわかんなくなったんだ。そんでずっとイライラしてたせいで、鳥海にまで迷惑かけちまって…」

 

それなら私も。いやいや僕が。私が。謝罪の押し問答になってしまった。なんだ、みんなちゃんと謝ることのできるいい子たちじゃないか。玲司はそう思った。心のそこから人を憎み、追い出すか殺害を考えているのではないかと不安に思った玲司であったが、それは杞憂だった。

 

「なんだよ、笑いやがって…」

「何、昔を思い出しただけさ。そうやってケンカして、私が、いやこっちがって謝ってたな、って。二年前、提督やってたときにさ」

 

「え、司令官さんって提督…?コックさんだったのでは…」

「その前に提督をやってたのさ。ショートランドってとこで」

 

「へ、へえ…提督って実はすごい人…?」

「さあね。俺は自分を最低な提督だと思ってる。こうして横須賀の鎮守府をやるのも、この実態がなければやるつもりはなかった」

 

「最低って…何をしたの…。あ、ごめんなさい…嫌なら話さなくても…」

 

玲司はお好み焼きをひっくり返して、一つ息を吸って吐いた。そして…

 

 

「俺はショートランドに居た艦娘。100人いた艦娘を99人。死なせた」

 

 

「えっ…」

「ど、どういうこと…?」

 

衝撃的な発言だった。死なせた…つまり…轟沈させた?

 

「ここまで言ったんだ。これはみんなにはまだ内緒だぞ?誠意をもって謝罪してくれた、お前たちにだけ特別だ。俺がコックになる前の話さ」

 

お好み焼きをへらで皆に切り分けながら、ポツポツと語り始めた。

 

 

ショートランドって言うか、日本本土への大規模な侵攻で多くの深海棲艦の艦隊が日本めがけて進んできた。うちの泊地は強力な艦娘が多くてな。後ろから挟まれたらやばいってことで、最大戦力で戦艦水鬼がうちの泊地に1000近くの戦力を以って押し寄せてきた。

当然、俺たちは戦うしかないわけだ。こっちだって殺されるわけにはいかねえからな。あっちは1000。こっちは100人。数の暴力で来られたから、どうしても補給や修理が間に合わなくてな。

少しずつ、増えていく大破した艦娘。けれど向こうの侵攻は止まらねえんだ。だから、俺は撤退を命じても、あいつらがそれを聞かなかった。ここの子たちとは逆だな。

 

ここの子は死んで来いと言われた。俺の場合は死んでくると言われたよ。自分が足止めしている間にって。止めても聞きやしない。そうして沈んでいく仲間。泣きながら敵を沈める艦娘。こちらの数も減ったが、向こうはもっと甚大なダメージだった。

 

だから、キレたんだろうな。総攻撃を始めた。泊地もダメージが出始めて。

 

「お前ら!それ以上の進撃は許可できない!戻れ!すぐに応援を送る!」

「応援と言ってももうボロボロではありませんか。私たちが時間を稼ぎます。その間にみんなを回復させて、万全にしてから進撃してください」

 

「何言ってんだ!そんなことしてる間にお前らが沈んでしまう!戻ってこい!頼む…俺の言うことを聞いてくれ…戻ってこい霧島ぁ!!頼む…頼むから…」

 

「司令。貴方といた時間はとても楽しかったです。どうか、この戦いに勝利を。我ら霧島艦隊。そのために死ぬと言うのなら本望!お別れです、司令。さようなら」

 

「やめろ…行くな!行くなああああ!!」

 

……

 

ある時は囮。本隊がそこを叩く作戦に出やがった。自分たちは満足に動けないからと、そんな連中を集めて気を引いて…。作戦は成功したけどな…最悪だった。

 

「私が囮になるわ。提督。それで勝てれば戦艦水鬼の勢いを思いっきり削いでやれるのよ!金剛の艦隊が勝てばそれでいいのよ。あたしたちはどうせ、もうまともに動くこともできないからさ…金剛。さあ、やっちゃおう!」

 

「伊勢…あなたの覚悟。しかと見せてもらったネ…。金剛隊行きマス!」

「伊勢隊、行くわよ!提督。貴方ともっといたかったけど、ここまでね。しっかり勝ってよね!」

 

「ちくしょう!ちくしょう!!!!ふざけんじゃねえ!帰ってくるって言葉はねえのかよ!!!おい、伊勢!何とか言えよこの野郎!!!!伊勢!おい!!ちくしょう…ちくしょおおおおおおおお!!!!」

 

……

 

最後は泊地と目と鼻の先。深海棲艦をやっつけたのに。もう敵はいねえのに。消えていく…金剛が最後だった。

 

「やったぞ!戦艦水鬼も沈んだ!勝ったんだ!俺たちは勝ったんだ!ちくしょう…何が勝利だ!!!!仲間失って何が勝ちだ!ふざけんじゃねえ!!!!」

「テイ…トク。デモ、私たちの勝利、デス。提督が生きて、いて。私、と青葉が残って、マス。私たちの勝ちデース…」

 

「喋らないでください!ああ…司令官、バケツももうありません!」

「金剛おおおお!死ぬんじゃねえぞ!おい、目閉じんな!!待ってくれ…待ってくれ…俺は…お前らに…何も…」

 

「テイトク…カハッ、提督を守れた、こと。勝利を刻んだ…こ、と。私の最高の名誉でしタ。これで、思い残すことは…アハッ、もう、提督の側にいられ、ない、のが…一番…つらい、デスネー…」

 

「だったら…だったら目開けろよ!死ぬな金剛!クソッタレ!何が英雄だ!俺は何一つ救ってなんかやれなかった。大切な奴らを守れないなら提督なんざ願い下げだ!」

 

「提督。生きてくだサイ。そしテ…また別の私たちを愛してあげてくださいネ…ワタシはいつでも、提督を見守ってるネ」

「無理だ。俺にはお前たちは守れない。救えない!」

 

「ダイジョーブネ。提督はすごい人ヨ。きっと守れるよ。だって、私たちの提督なんだから」

 

「ああ…金剛さん!金剛さん、消えたらダメですよぉ!!」

「あお、ば…テイ、トク。頼みました、ネ…」

 

「金剛ぉ!!行くな…行くな…!待ってくれ、行くなら俺も…」

「ダメね…。提督には、提督を待っている、子がきっといるネ。提督は連れて、いけ、ないね…」

 

(ああ…もっと、提督といたかったナァ…バイバイ…ワタシの最愛の人)

 

「こん…ごう…ああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 

「そうして俺は半年近く廃人同然に過ごして、何とかコックとしてやってきて、今に至るってわけさ。お、こっちも焼けたな」

 

玲司を除いた全員が、顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。そして、罪悪感が泉のように湧き出てくる。

 

「あ、あたし…あたし、提督になんてごどしちまっだんだよぉ!」

「えぐっ…ごめ、ごめんなさい…ごめんなさい!!」

「ううう…提督…ごめんね…」

 

「なんだなんだ、泣くなよー。今はここでお前らと一緒に戦って、お前らの笑顔を守るために作戦を練るのが俺の仕事。あとはお前らに頼むしかないから、申し訳ないと思ってるよ」

 

「うわああああん!!でいどぐー!でいどぐー!うええええん!!」

「ぐすっ…こんな、優しい司令官さんだったなんて…」

 

過去は変えられない。だが、未来は如何様にもできる。だからこそ、精いっぱい頑張ってきなさい。お前なら、艦娘を笑顔にできるとも。と語っていたのは父のような存在のおやっさん。その言葉と、金剛との約束を果たすために彼は横須賀へやってきた。

 

安久野の爪痕はまだまだ深い。彼女たちも被害者だ。だからこそ、玲司は怒りもしない。

 

「ほら阿武隈、泣いてないでちゃんと食べろ。いっぱい食べて、一からやり直そう。俺も頑張る。みんなも頑張れば、あんなヒキガエルにされたことは残るだろうけど、楽しい毎日を過ごそうぜ」

 

「う、ぐすっ…もごもごもご…おいじいでず…」

「泣きながら食うなよ…」

 

泣きながらもなんとかお好み焼きは完食。いつの間にか笑顔でお好み焼きを食べるくらいには落ち着いていた。

 

「んじゃ、明日の朝食堂に来いよ。待ってるからな」

 

「ん…気まずいけど…行くよ。絶対」

「ええ…私も…」

 

その言葉を聞いて玲司は笑った。もう安心だろう。

 

「よーし、ちゃんと聞いたぜ、その言葉。じゃあ、おやすみ」

「うん、おやすみ、提督」

 

そういうと満足げに頷いて戻っていった。泣いて、おいしいものを食べて。全部膿が出たような気分になった摩耶は、今までの険しいだけの表情ではなく、笑顔だった。

 

「よっし!あたしも気持ち入れ替えて、明日からがんばるかー!」

「そうね…摩耶。私も…がんばる」

 

「五十鈴お姉ちゃん。阿武隈も頑張ってみようと思うの!提督のために!」

「ええ、私も、もっと強くなってやるわ!そして、名誉挽回しなくちゃ!」

 

「よし!ちょっとあたし、外の空気吸ってくるから、最上、明日からまた改めてよろしくな!」

「うん、僕のほうこそ」

 

手を振って玄関へと向かった。

 

 

「……?」

 

庭へ出ると一人、駆逐艦がうろうろとしていた。ぱっと見雪風だろう。何をうろうろしているのだろう。近づいて声をかけようとしたとき、雪風が何かを呟いていることに気が付いた。

 

「雪風は死神。雪風は死神。雪風は死神……」

 

ただひたすら、壊れたレコードプレイヤーのように同じことを繰り返していた。聞いているだけで身も凍りそうな寒さに襲われた摩耶は雪風に絞り出すような声をだして呼びかけた

 

「ゆ、き…かぜ?」

 

ぴたりと雪風の独り言も歩きも止まった。…寒い。冬の気温とは別に、まるで北海にでもいるかのような凍てつく、すべてを凍らせてしまうかのようなシンと冷えた空気。

 

「あれ?摩耶さん?なんでしょお?雪風に何か御用でしょうか?」

「い、いや、夜中にこんなとこで何してんだって思ってよ…」

 

「すみません、ご心配をおかけしました!雪風は夜のお散歩中です!」

 

ぴしっと敬礼をしてくるが、どこか存在があやふやで怪しい。寒気が取れない。摩耶は雪風の得体のしれない雰囲気に恐怖していたが、震えを抑えて雪風に話しかける。

 

「駆逐艦はそろそろ寝る時間だぜ?早く戻って寝な」

「あっ、いけません!もうこんな時間でした!摩耶さん、ありがとうございます!雪風、お部屋に戻りますね!」

 

そういって駆逐艦寮へ向けて走っていった。はあああ…と大きく息を吐いて、ようやく寒気は消えた。

 

ピュウ…と12月に差し掛かろうかという季節の冷たい風が摩耶を襲う。余計に寒くなった摩耶は慌てて自分の腕をこすって温めながら部屋へと戻っていった。

 

/雪風の日記

 

11月29日

 

こわい。今日もあかとあおときいろの光がおいかけてきました

 

おまえもこい。なんできてくれないの。わたしにはわかりません

 

た       テ イ            いやだ   こ

す   ツ       く    たすけて    たすけて   わい

けて    レ     こわい

               う           へ

ゆきかぜはしずむ?ふかーい     み の      

                     そ  こ

 

「ふひっふひひひひ…ゆきかぜは…沈みませんよぉ?たすけてたすけてたすけてタスケテタスケテこわい連れていかれる…たすけてけてけて…」

 

 

だ  れ  か  た  す  け  て




秋刀魚が思うように集まらないゆずれもんです

とりあえず摩耶達、アンチ提督だった子+αのお話は終わりです。玲司の過去が一部と言うか結構な感じで明らかになりましたが、まだ彼女たちは玲司がどんな存在かと言うものはわかっておりません。いずれ明かされるんでしょうか

次回は幸運の女神…のはずなのですが様子がおかしいです。はたして幸運の女神雪風はどうなっているのでしょうか?

次回も読んでいただけたら嬉しいです

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