提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百二十六話

「それじゃあ、西方海域を無事鎮圧できたことを祝して乾杯クマー!」

 

球磨がジュースの入ったコップを上に掲げて乾杯する。鹿屋基地ではようやく終わった大きな案件が終わったことでお疲れ様会を開いていた。間宮と伊良湖が腕によりをかけた豪華な食事がテーブルに並ぶ。食堂に入って見た豪華な食事にうわぁ、と大きな歓声が上がった。

 

さらにあまーいジュース。シュワシュワの炭酸飲料から果汁100%ジュースまで。業者の人が突如たくさん持ってきたらしい。ミスターKと言う人がこちらに運んでくれ、と依頼をしてきたと言う。ミスターKって誰だ?球磨と多摩はブーッと吹き出し、葛城ははぁ…と頭を抱えてため息をつき、飛龍はそんな3人をキョロキョロと何度も見ていた。

 

さらにこの食材も同じく、ミスターKがたくさん用意してくれたと言う。間宮と伊良湖は使っても大丈夫なのかと訝しんだが、目に見えて質のよさそうなものであり、寄付と聞いて町の人の厚意を無駄にできないと使うことにした。唐揚げやミートボールなど、肉系が好みな艦娘たちには喜んでもらえそうなものがいっぱい作れた。と、言うか鹿屋基地の艦娘の好みを把握しきったような食材であった。

 

「このミスターKって人は球磨たちのことをきっと知り尽くしている人クマ。感謝してありがたく食うクマ」

「なあ、球磨よ。これを送ってきたのってていと…「それ以上いけないにゃ。お口にチャックにゃ」…むう」

 

長門も察したらしいが、それを言ってしまうとパニックになりそうだったので止めた。

 

そう、これはミスターKこと刈谷提督が全て手配したものである。その刈谷提督は、ちゃっかりと艦娘たちの飲み物と一緒に高いウイスキーを頼み、こっそり執務室に持ってきていたのだ。執務室で静かに飲むウイスキー。私室のキッチンからは龍田の楽しそうな鼻歌が聞こえ、それと同時にダシのいい匂いが漂う。

 

「は〜いできましたよ〜。きつねうどんよ〜」

「ああ」

 

「うどんにウイスキーだなんて合わないわよ〜?」

「慣れりゃこれも合うもんだ。これでいいんだよ。お前も食ってきたらどうだ。いい肉とカニ頼んだんだ」

 

「私もこれでいいわよ〜。あなたが食べないなら私もいりません♪」

「ケッ、変わってんなお前」

 

「人のこと言えるのかしら〜。うふふふ」

「ふん…」

 

2人でズルズルとうどんをすする。足りないがこれでいい。影は影らしく。質素な飯でいい。あいつらが楽しんで食ってくれりゃいい。それに、俺は龍田の作るこのうどんが好きだ。汁まで飲み干すくらい。体に悪いと言われるが、作ってくれたからには全部。飲み終えると嬉しそうにするのがまた…いや、何でもない。

 

うどんを食べ終え、ウイスキーを飲んでいるとノック。どうぞ〜と龍田が言うとおそるおそる入ってくる能代。手にはおいしそうな料理が乗った皿が乗ったお盆。

 

「なんだ能代。ここで食う気か?」

「あ、あの…その…提督も…召し上がってください。あ、えっと、龍田さんも」

 

「あら〜、能代ちゃん。おいしそうなのがいっぱいね〜?」

「どういう風の吹き回しだ?」

 

「あの…お言葉です、が…このたくさんの食材、それに飲み物…提督が…ご用意してくださったんですよね?」

「知らねえよ」

 

即答。能代を冷たい目で見る刈谷提督、怖い…が勇気を出して能代は帰らずに机に料理を置く。ふぅ…と一息置いて刈谷提督を見る、

 

「個人的に…提督とお話がしたくて…」

「なんだ、解体でもしてほしいのか?」

 

「……どうしてそんなことばかり言うんですか…?」

「ああ?お前らと話をする気なんてねえからだよ」

 

「葛城さんや球磨さんと、私たちには内緒でお話ししていることは知っています。私たちだって気になります。みんな球磨さんと提督のお話をしているのを怖がっています!大破しても進撃させる艦娘を話し合っている。今日は誰か解体されるかもしれない。そんな話をしてるんじゃないかって。士気にも関わります!私は提督に艦隊の取りまとめを任されています。ですから、は、腹を割ってこの際、提督のお考えを教えてください!私たちは信用できませんか?龍田さんや球磨さん、多摩さんと私たちは違うんですか!?」

 

「信用してねえなんざ一言も言ってねえだろ。いつも言ってんだろ。テメエらは俺の忠実な駒だ。球磨たちに伝え、それをお前らが実行する。そして俺はお前らの働きで昇進し、ゆくゆくは俺は上に昇り詰める。そのための駒だ」

 

「私にはそうは思えませんが…」

「ほう?」

 

「私たちを避けることで自分を守っているように、この間の指揮で見えました!そして、私たちを守ってくださっているようにも!」

「んなわけあるか」

 

「ならどうして?私たちが大破した際、即座に撤収するんですか?この間の時も、球磨さん達に即座に撤退するよう命じました。空母が出てきた際に、どんな手段を使ってでもいいから帰ってこいと命じたんですか!?」

 

………

 

『提督、やべえクマ。今の装備じゃあの空母の深海棲艦は倒せないクマ。どうするクマ?やろうと思えば多摩と協力してぶっ潰せるかもしれんクマ。榛名もいるし大鳳も龍田もいる。精鋭クマよ。いっちょ特攻かましてやるクマ』

 

「バカかテメエは。んなことして何になる。撤退しろ。三条の艦隊も全員、どんな手を使っても構わねえ。引きずってでも連れて帰らせろ」

『まーた難しい注文クマー。でも優秀な球磨ちゃんはちゃーんと提督の命令を遂行して完遂するクマ』

 

「いいか。どんな手でもいい。絶対に戻れ。いいな」

『しゃあねえ。球磨ちゃん、本気でやってやるクマー』

 

ぷつっと無線は切れた。チッと舌打ちし、水を飲む。能代は見た。その手は少し震えていたように思う。コップを置くとギュッと手を一度強く握り、顎を乗せる。その目は鋭く、すぐに何かを行動できるくらいに隙がない。能代はいつも適当に龍田や球磨に指揮をさせているのかと思っていたが全然違った。能代自身が提督から指示を仰ぎ、それを無線で艦隊に指揮する。そう思っていた。もしくはめんどくせえからお前全部やれと丸投げされるかとも思っていた。

 

だが実際には能代はすぐ指示を送れるように身構えていたのに、球磨達のやりとりをすぐに提督が返し、能代には「能代、水くれ」くらいしか言われていない。どうしよう、指示を…と思ったらもう提督が指示を出して終わる。能代が出そうと思っていた指示。仲間を思うだけに生存率の高い指示を出そうとするが、それをさらに一歩踏み込み、生存率が高く、かつ勝率の高い指揮をする。驚いた。球磨達は生存率の低い指示を無理やり高い指示に改変して指示しているのかと思っていた。全て…全て提督の指示だったのか!と。

 

「球磨、ソイツの気を三条の艦隊から逸らせることはできるか?」

『アイツ、どうも瑞鶴にこだわりを持ってるクマ。中途半端な攻撃じゃ相手にされないクマ』

 

「テメエ優秀なんだろ?だったら是が非でも気を逸らせ。そうしたら多摩にあいつらを誘導をさせろ。龍田、球磨のバックアップだ」

『は〜い』

 

しばらくしてからゔぉおおおおおおおおおお!!!!!!と言う叫び声と共に各自散開。さらに多摩の誘導で三条艦隊も逃走を開始。見事戦闘海域から脱出した。

 

『能代ー、戦闘海域は脱出できたクマ?』

「は、はい!追手もありません。離脱、成功しています」

 

『よかったクマー。提督、三条艦隊は勝手に帰ったクマ。こっちも帰投するクマ』

「そうかよ。ドックの準備はしておいてやる。気をつけて帰ってこい」

 

『クマー。よろしくだクマー』

 

ようやく繋ぎっぱなしだった無線は切れた。大胆である。無線を繋ぎっぱなしは位置をすぐさま傍受されそうであったが…。のちにこれは球磨が三条艦隊への追手をこっちへ引っ張り込む作戦だったらしい。無線が切れた後、提督は席を外した。これは伊良湖からの話だが、デッキブラシでドックの床を掃除する提督の姿を見たそうだ。フラッと提督が歩いていたので、何をするのか気になってついていったのだそうだ。あ、危ない…バレたらタダでは済まないだろうに…。

 

もしかして、毎回ドックも提督が綺麗にしていた…?そしてこのミスターKと言う人からのタイミングが良すぎる高級食材の差し入れ。常に自分たちを案ずる無線。絶対にしっかり戦闘海域を脱出するまでは動かないこと。伊良湖さんが見たドックの整備。浴槽までしっかりと洗っていたとか…。そして食材。全部…?

 

………

 

「めんどくせえんだよ。せっかくまともに使えるようになるまで育てたのを沈めて、1からもう1回育てて装備を準備するなんざ労力の無駄だろうが。いいからさっさとうめえ肉やカニが入ってきたんだろ。食ってこいや」

 

「カ、カニ?提督、どうして食材の中にカニがあるとご存知なんですか!?私、お肉しか持ってきてませんけど」

 

後ろで「プーッ」と龍田が吹き出した。あらぁ、ごめんなさぁい、と言いながら提督の私室に入っていった。ドアは閉めていたが「あはははは!」と大笑いしている声が聞こえてきた。小さく「あいつ…」と恥ずかしそうにしている提督がいた。能代はツッコンでしまったことにしまった…と青ざめた。しかし、今能代が持ってきた料理は肉料理しかないたしかにミスターKの贈り物にはすごい大きなカニもあった。みんな目をキラキラさせ、間宮と伊良湖が思いつく限りカニ料理を振る舞った。鍋、焼きガニ、お刺身などなど絶品だった。

 

「あの、提督…」

「……球磨が教えてくれたんだよ」

 

「球磨さん、ずっと私といましたのでお部屋に来ていませんので…」

「じゃあ龍田」

 

「私は知らないわよ〜、その贈り物のお話…うふっ」

「テメエ…能代」

 

「は、はい」

「口止め料だ。これで黙ってろ」

 

「え、ええ!?」

「プーッ!提督、それはまたまずいわよ〜!うふっうふふふふ!」

 

能代に口止め料として渡したのは間宮と伊良湖のデザート引換券。それは、いつも球磨から渡されていたものだ。いつも大本営から頑張ったからってご褒美でもらったクマーと配ってくれるものだ。その束が提督の机の引き出しから…。これも提督が本当は配っていたもの?龍田は腹を抱えて笑っているし、提督はそっぽを向いている。

 

「………」

「………」

 

「あ〜、おかしい♪」

 

気まずい…龍田だけがご機嫌であった。私は…いえ、私たちは提督に対してとんでもない思い違いをしていたんじゃないだろうか。ちょっと、これは…。

 

「し、失礼…しました…」

「ぶふっ、はぁい、能代ちゃんお疲れ様〜。ありがとう♪」

 

提督はそれから一言も発さないまま、能代はなんだか居た堪れなくなって退室した。これ以上いると本当に口封じで解体されかねない、いや、しかし…そうだ…。

 

…………

 

「あはははははははははは!!!!!」

「球磨姉さん、そんなにぶふっ、笑ったらかわいそうにゃ…あははははははは!!!!」

 

物凄い勢いでカニや肉を食べる球磨と多摩に声をかけて成り行きを話したら食堂に響き渡る大きな声で爆笑する。

 

「提督やっちまったクマなー。いつかボロを出すんじゃねえかって多摩と言ってたところクマ」

「今回は結構きつい作戦だったにゃ。ずっと気を張ってたからにゃあ。気が抜けてやっちゃったにゃあ」

 

「全部隠してたことやっちゃったんだぁ。それに、レ級だっけ?のこともあったし。ま、まあバレちゃったのが能代さんでよかったのかも」

 

「私だから?」

「これ提督には内緒ね?提督、能代さんのことすっごい褒めてるんだよ」

 

「えっ!?うそ!?そんな風には見えなかったけど…」

「嘘じゃないクマ。難しい指示を的確にみんなにもわかりやすく指示して言い聞かせるから物事がスイスイ進むクマ。悔しいけど球磨もその現場の指揮能力は能代には勝てんクマ」

 

「姉さんはいつもチカラと強引すぎる指揮でねじ伏せようとするから勝つ負ける以前の問題だにゃ」

「あ?」

 

「ケンカはダメだってば。能代さんの指示は丁寧で誰でもわかりやすいように噛み砕いて指示をするから、駆逐艦や海防艦もすぐに理解して動くからね。誰にでも人当たりがいいし、みんな能代さんを慕っているし、安心して旗艦を任せられるって」

 

「ちびっこは球磨姉さんや多摩を怖がるにゃ。提督と話をしているって言うのもあるんにゃろうけど、1秒先の状況が変わるかもしれない中で、瞬時に状況を把握してわかりやすく説明ができるって言う頭の回転の速さはたぶん鹿屋1だにゃ」

 

「ただ、その分能代に負担ばかりかけさていることを申し訳なく思ってるらしいクマ。確かに出撃に泊地でのチビ達の面倒やとりまとめなんかも全部能代がやってるクマ。その辺、フォローはしたいけど何せ球磨は戦闘以外はからっきしクマ。本当に申し訳ないクマ」

 

「い、いえ、私は…」

 

あの冷酷だと思っていた提督の今先ほど見たもの。あれが本当の提督の姿なんだろうか。誰よりも艦娘の身を案じお菓子やドックの掃除。にわかに信じられないが…。

 

「じゃ、じゃあこの間山城さんや漣さん、不知火さんをいらないと言って横須賀に行かせたのは…」

 

「ああ、そりゃ提督じゃ手に負えないって考えたからクマ。山城も漣も不知火も。ここにいても病んだままか、悪化すると思ったからクマ。だから、心の傷やトラウマを癒すのがうまい提督のところに送ってそっちで見てもらった方がいいクマ。多くのクソみたいな扱いを受けてた艦娘を立ち直らせ、球磨たちと一緒に戦い、空母の深海棲艦を倒した横須賀の提督に任せたんだクマ」

 

横須賀鎮守府の実態は知っている。確かに、横須賀の艦娘と共に戦ったが素晴らしい艦隊だった。過去にひどい仕打ちにあっていたのか?と疑問に思うくらい、みんないきいきとしていた。

 

「提督。作戦は終了いたしました。ご指示を。はい、はい。ありがとうございます。みんな喜びます。では、帰投いたします。みんな、今日は提督がカレーを作ってくれて待っているそうですよ」

 

大淀さんがそう言うと、横須賀の艦娘はやったー!と大喜びしていた。早く帰ろう!いそいそと帰っていくその姿は微笑ましかった。あの方たちがひどいめにあっていた?

 

「事実は事実らしいクマ。前の提督がひでえ奴だったとかで、いつもあいつ殺してえとか言ってたクマ。今の三条提督だっけ?はすごい艦娘を思う提督らしいクマ。提督が今一番お気に入りな提督だクマー。山城を見かけなかったクマ?あれはここから横須賀に行った山城だクマ」

 

確かに見た。遠くから正確に敵を狙い撃っていた戦艦、山城。嘘だろう?いつも目もとが隈で真っ黒で、顔を前髪で隠し、猫背でドヨーンとしていた山城は、目が髪で隠れておらず、隣で勝利で喜ぶ村雨に困ったような顔をしながらもちょっと勝てたことを嬉しそうにし、村雨と手を交わしていた。こ、こんな短期間で何が…?

 

「横須賀は前の提督の時から掃きだめ。今の提督になってからはそういう心が病んだ艦娘が行きつく場所ってことで最終処分場とか艦娘の隔離病棟とか言われて馬鹿にされてるクマ。けど、北方海域のキス島の件。それから今回のことで見る目が変わるクマ。大和のこともあるし。ウチの提督は艦娘への愛情の注ぎ方が破滅的にヘタクソなだけであって、艦娘をいらないだとか、解体や捨て艦なんかには絶対しないクマ。ただ、今はそうしてる方が自分も気持ち的に楽な部分もあるらしいクマ」

 

「私も横須賀から来たの。よくは覚えてないんだけど、大破して沈められそうになったところを助けられて、今こうしているの。感謝しているわ。提督のもとで、轟沈した艦娘や解体させられた艦娘はいないでしょう?」

 

大破撤退。轟沈はゼロ。戦果は十分に高く、自由な時間も多い。提督に怯えていたから思いつかないが、待遇はかなりいい方だ。提督のことを恐れるあまり、いい面を見ようともしなかった。何てことだ…。

 

「ボロを出したから、そろそろ全部化けの皮がはがれるにゃ。だからいつも言ってるにゃ。提督は怖くなんてないんだにゃ」

 

そう言って多摩はカニのお刺身に醤油をつけて一口で食べた。目を輝かせて「ミスターKには感謝にゃ!」とまたカニを食べる。提督の秘密を知ったことにより、少しだけ提督への恐怖心が薄れた。

 

/後日…

 

それからと言うもの、能代は提督の執務を手伝ったり、お茶を入れたりお菓子を持ってきたりと提督の身の回りのお世話を始めた。龍田はと言うと龍田一人では手が回らないことも多かったため、能代が手伝ってくれるのはありがたかった。

 

「提督、お昼の時間です」

「だったら何だよ」

 

「お昼ご飯を用意しますので召し上がってください」

「今それどころじゃねえんだ」

 

「ダメです。正しく食事を摂らないと仕事の効率が落ちます」

「うるせえ。テメエいつから俺に口答えできる身分になったんだ」

 

「ミスターK…間宮券…」

「………」

 

「うふふふふ!これじゃあ能代ちゃんに勝てないわねぇ」

「龍田、テメエ…」

 

「だぁって、私一人じゃ大変なんだも~ん。能代ちゃんがいてくれてほんと、提督もちゃぁんと言うことを聞いてくれるから助かるわぁ~」

 

「冗談じゃねえ。提督を脅迫する艦娘があるか」

「はい。今日は木の葉丼を作りますから逃げないでください。龍田さんも食べますか?」

 

「食べる~♪」

「食いもんに釣られてるんじゃねえ」

 

そう言って反抗はするが逃げたり食事をごみに捨てたりはしない。なんだかんだ言って米粒一つ残さずに食べる。出されたものはきっちり食べる。それが刈谷提督のルールらしい。能代は今日も嬉しそうに全部食べてくれたことを喜んで洗い物をする。

 

……

 

またある日、能代は廊下を歩く提督を見つけた。たぶんアレだ。そう思って能代は感付かれないように気を付けつつ、提督の後ろをついていく。おそらくアレだ。

 

案の定、提督はドックに入っていく。よそのドックは知らないが、質素だがきれいに手入れされたドック。露天風呂やもっと大きなお風呂で疲れを癒したいな、と思うがわがままはいけないと思っている。そもそもそんなことをしているところなんてないだろうし。

 

しばらく待っているとシャコシャコと床をデッキブラシでこする音がする。ほらやっぱり。みんながいない合間を見計らってこっそりとドックをきれいにしているのだ。あれからすっかり恐怖心はなくなり、お世話がしたい、と強く思っている能代はスッとドックに入り、亀の子たわしでドックの中をこする。

 

「何のマネだ」

「私たちが使わせていただいているドックです。私も掃除するのは当然かと」

 

「仕事はどうしたんだよ」

「龍田さんがやってくれています。それよりも提督を探してきてと言われたんです」

 

「アイツ…わざと行かせやがったな」

「お手伝いさせてください。お一人では大変でしょうから…」

 

「勝手にしろ」

 

そう言いながらまた手を動かす。シャカシャカとたわしでこすっているといつの間にか浴槽用洗剤のボトルが置かれていた。

 

「このスポンジ使って念入りに洗剤吹きかけてゴシゴシしろ。たわしだけじゃきれいにならねえ」

 

人相の悪い顔でゴシゴシしろって言う言い方に提督に背を向けて笑いをこらえた。こらえていると何かで頭を軽くコンと叩かれた。振り返っても提督はブラシを使っている。いや、一瞬音が止まったので自分をブラシの柄でたたいたんだ。何となくイラっとしたのでホースを提督に向けて蛇口をひねる。

 

「つめてええええ!!!!!テメエ!」

「ふふふ、あはは!お返しです!」

 

「テメエ、覚悟できてんだろうな!」

「望むところよ!阿賀野型を甘く見ないで!!」

 

提督もすかさず別のホースを掴み、蛇口をひねり、能代に集中砲火。冷たさにきゃー!とか大きな声を出していたら、駆逐艦たちが何事かと飛んできた。司令官と能代が水のかけ合いをしているじゃないか。

 

「わぷっ!このぉ!」

「いい度胸だこの野郎!!!」

 

あの提督が水遊び?駆逐艦の何人かは夢なのではないかと目をこするも、楽しそうに笑う提督の姿がそこにあった。

 

………

 

「もう、提督は子供なんだから…」

「うっせえ…」

 

「ふふ、ふふふ。提督、楽しかったです」

「うるせえ。テメエのせいでチビ共にも変な目で見られたろうが」

 

「清霜ちゃんも交ざりたがってましたよ」

「ぜってえもうやらねえ」

 

ふんとそっぽを向く提督であったが、いつものきつい冷たい印象の表情ではなかった。龍田に髪を乾かしてもらいながら、と言うのが何だか笑えたが。

 

「提督」

「あ?」

 

「これからも、能代をよろしくどうぞ」

「………言われなくてもよろしくしてやるよ。お前には任せられることが多いからな」

 

「ほ、本当ですか!?」

「ああ。ドックの掃除、一人でとかな」

 

「そ、そんなことだけですか!?」

「あと、阿賀野の世話とかな。あいつの部屋また散らかってんぞ。掃除するようにお前から言え」

 

「あ、阿賀野姉…また?え、ちょっと待ってください。何で阿賀野姉のお部屋のこと知ってるんですか!?」

「……って妖精さんが言ってたんだよ」

 

「違いますよね!?どうして!?」

「私が教えているのよ~。球磨ちゃんに叱ってもらうように頼んでるのよ~」

 

「そ、そうだったんですか…」

「何なら俺が言ってやろうか?震え上がるぜ」

 

「ぜひお願いします」

「即答かよ」

 

そして、本当に阿賀野の部屋に提督が行き、顔面蒼白になっている阿賀野を見たのはおもしろかった。何だかんだでゴミ捨てを手伝う提督。

 

「おい阿賀野。今度下着を脱ぎ散らかしてたら全部カボチャパンツにするからな。テメエ女ならちったぁ恥じらいくらい持てバカ」

「ハイ」

 

「あと菓子の食いすぎだ。能代、この菓子全部駆逐艦と海防艦のチビに分けろ。阿賀野はしばらく菓子なしだ」

「ハイ」

 

阿賀野は背筋をピンと伸ばし、なぜか正座し、ロボットのように抑揚のない声でハイハイ言っていた。手を動かさない場合は頭をはたかれ、またハイと返事だけする。

 

「これできれいになったな。女の生活する部屋じゃなかったな。能代、球磨と多摩と協力してこいつの部屋定期的に見ろ。ぐちゃぐちゃにしてたら呼べ。次はわかってんな、阿賀野」

 

「ハイ」

 

ゴンと軽くげんこつを見舞うとハッとなって我に返った阿賀野。

 

「提督、今、阿賀野のこと女って言った!?あ、え、言いました!?阿賀野のこと女の子って思ってくれてるの!?」

「うるせえ干物女。女の子って呼ぶのは無理だろ。ちったぁ色気出してみろ」

 

「う、うっふーん」

「阿賀野姉…」

 

「能代、こいつ吊るそうぜ。ムカついた」

「え、ええ!?ひ、ひどいですー!」

 

西方海域作戦からしばらくして、刈谷提督の艦娘への扱いが大きく変わってきた。ドックで水のかけ合いをしていたのを駆逐艦が目撃してから、口は悪いが冷たい印象はなくなり、駆逐艦や海防艦の一部の子が声を気軽にかけるようになった。刈谷提督の笑顔も少し見れるようになったと言う。それを見ていた龍田は、本当に嬉しそうに笑っていたと能代が言っていた。

 

/

 

ていとく!西方海いき、おつかれさまでした!やっぱりていとくのしきはすごいです!一宮ていとくも見習いたいって言っていました!大みなとのみんなも負けないようにがんばりますね!

 

大みなとはお庭にうえたひまわりがいーっぱいきれいに咲きました!あと、町の夏祭りに出るための浴衣を一宮提督に買ってもらいました!写真で送りますね!かわいいでしょう♪

 

五月雨からの手紙だ。西方海域突破の労いにだそうだ。相変わらず暑くても寒くても元気な奴だ。太陽の下で満開に咲くたくさんのひまわりと満面の笑顔の五月雨。よく似合っているな。五月雨の髪の色に合わせた浴衣。一宮のやつ、よくわかってんな。

そしてこれも相変わらず、一宮提督からの五月雨の写真。夏祭りでかき氷をはしゃいでパクパク食べたら頭が痛くなって「なんで?」と痛そうに頭をおさえる五月雨の写真。

 

「食べ終わるまでに3回頭がキーンとなっていました」

 

相変わらず食い意地の張ったヤツ…。一宮提督のコメントが相変わらずおもしろい。思わず笑ってしまった。

 

「五月雨ちゃん?あら、かわいい浴衣ね~。それにこれ、ふふっ、かわいらしいわね」

「ああ」

 

やわらかく笑う刈谷提督。龍田とは能代の一件以来散々話し合った。結果は。

 

「少しずつだが接し方を変える。今のやり方はもうこうなったら無理だろ。それに…」

「前の飛龍さんのこと?」

 

「ああ。何やってんだって怒られそうな気がしてな」

「肩のチカラを抜いていきましょ?私も1から付き合うわ」

 

「そうかよ。まあ、頼むわ」

「ふふふ♪龍田におまかせ~♪」

 

球磨、多摩、葛城、長門、飛龍、そして能代にも説明をし、少しずつ変えていく。佐世保への異動の話もした。フォローを頼んだ。少しずつ変えていこう。艦娘と楽しくやっていくことについては横須賀にいい教官がいる。リアクションが楽しみだ。いい反応を期待してるぜ。

 

飛龍を失った怒りと悲しみに囚われて数年。結局この不器用な男、刈谷克巳はようやく因縁を捨て去り、再び艦娘との繋がりを大事にするように変わっていったのであった。




鹿屋基地でのお話でした。おやおや?刈谷提督の様子が??
刈谷提督と能代はちょっと距離を近めたかったんです。そしてそれのせいで能代に化けの皮が剥がれたところを見破られてしまったと。でもそれが今後の鹿屋や佐世保に移った際には必要なものだと思いますし、過去も飛龍との一応決別にもなるかと。

次回は秘密基地の彼女とのお話になります。レ級と対峙したことがあるだけに、彼女の登場は必要かなと。

それでは、また。
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