提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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※追記 建造で登場した三隈ですが、ご指摘がありました通り、三隈では話がおかしくなってしまうので熊野に変更いたしました。あしからずご了承下さい。


第百三十五話

漣が倒れ、意識を失っていた数日中にあるひとつの大騒動が起きた。それが…

 

「どうすうんだよこれ…」

「私に言われても困ります…」

 

大和が建造で顕現した際のように、玲司と大淀が頭を抱えていた。玲司はまたやらかしたのか。で、どう古井司令長官に説明しようと脳をフル回転させ、大淀は大幅に減ってしまった潜水艦の子や水雷戦隊が一生懸命集めてくれていた資材の件で。

 

もう取り消したり後戻りはできない。横で安全ヘルメットをかぶった妖精さん数名がハイタッチをしたり、オイオイと泣いて歓喜していたり。悪気はない(だろうと思われるがニヤリと笑ってみたりと定かではない)ので責めることもできず、やってしまったことを素直に認め、受け入れていくしかない。

 

「提督、ごめんね…僕もこんなことになるなんて…」

 

時雨が頭を下げる。何でも建造開始のボタンを押したのが時雨だと言う。時雨も興味深く見ていたのだそうだ。もちろん、時雨には炉に混ぜる資材の量がどういう塩梅なのかはわからない。それも狙っての妖精さんがやらかしたことだ。時雨を責めるだなどもってのほかである。

 

「いや、時雨が悪いわけじゃないんだ。雪風と言い、さすがは幸運艦と言うか…確率がやばいな」

 

「そ、そうなんだ…」

「ああ。雪風が建造開始を押したら大和だった。時雨も幸運艦だからな」

 

「それって理由になっているのかな…」

「たぶん…」

 

「そう…」

 

戸惑いながら横目で明石もテンパりながらいろいろとメモを取っている相手。それが…。

 

「戦艦『武蔵』…か。何の引き合わせなんだろうなぁ」

「えーと、頭がボーっとするとか、体が重いとかはありませんか?」

 

「ないな。体はいたって健康だ。ところで腹が減ったんだが…」

「はいはーい!兄さん!もういいかな…?」

 

明石も結局彼女、今回建造で生まれた日本最強の戦艦の片棒、戦艦「武蔵」相手にどうしていいかわからず、それでもキラキラと3重キラ付けでもしたかのように目も体も輝かせて玲司に尋ねる。

 

「何かわかったか?」

「全然!!」

 

いや、ドヤ顔で言うことじゃねえだろ…と思いつつも、食堂に武蔵を案内する。漣が倒れ、意識を失っている間に起きた珍事である。

 

 

「またか」

 

漣の様子を見、いろいろと考え込みながら執務室へ戻ると、妖精さんが机の上、戸棚、書類を入れた本棚などにズラリと並び

 

「断固抗議」

「妖精たちの話を聞きやがれ」

「祝7周年」

 

などなどまたわけのわからない横断幕を広げて玲司を見つめていた。大体なんだ7周年って。俺はまだ着任して1年も経ってねえぞ。

 

「われわれはけんぞうをしないれいじさんにひとことものもうす!」

「「「もうすもうすー!」」」

 

「もすもす」

「けんぞうさせろー!!!」

 

「「「させろー!!!」」」

「させてくださいおねがいします」

 

最後のお願いの仕方をした子、誰だ。そんな丁寧な妖精さんがいるのか…漣が倒れ、意識を失っていた数日中にあるひとつの大騒動が起きた。それが…この妖精さんの建造させろデモである。くどいようであるが、この横須賀鎮守府には、自衛隊が名前を変えて以来の初めてのことを成し遂げたのである。それが、最強の戦艦であった戦艦「大和」の艦娘の建造であった。

 

これを玲司が着任した当初から横須賀で頑張っていた妖精さんと、玲司と共にやってきた妖精さんとが新たにやってきた妖精さんに熱弁。すると目をキラキラさせて話を聞き、わたしもわたしもと建造係に名乗りを上げた。が、現実は甘くなく、建造で艦娘として顕現したのはわずか。霧島、大和、祥鳳、古鷹、伊168、伊58と数も少なく、最強の戦艦を建造できる日はいつになるのか、と言うのを今かと待ちわびて早数か月。待てど暮らせど大型建造どころか通常の建造すらなく、黙々と作り出される艦娘の艤装を建造し、そして解体を繰り返す毎日にストレスの溜まる毎日。

 

そして、建造と大型建造ができない大きな原因としては1つ。姐さんこと「大淀」の存在である。大淀が常に資材のやりくりを1人で管理し、この管理だけは鳥海や霧島、妙高にさえ絶対に任せない。大淀の専属管理のもとで非常に厳しい管理がなされている。理由は日本の海を守る中枢。鎮守府で、いついかなる条件の下で出撃命令が出たとしても資材に余裕を持たせ、尽かすことのないように徹底的に管理をしているのである。

 

それと同時に妖精さんが勝手に建造で資材をバカスカ使おうとするのも原因である。妖精さんは言葉巧みに建造をそそのかしてくるのでこれが危険極まりない。ちなみに大淀が自分1人で管理する前は鳥海たちにも任せていたのだが、あれやこれやと言葉を使い、怒る、泣くなどを繰り返し、感情に任せて鳥海たちの心情を煽り、あわや建造へと至らせようとした過去がある。

 

「嘘です!!!妖精さん達が言っていることは全部嘘です!!!!!」

「「「うそじゃない!!!!!」」」

 

そうして1時間ほど大淀vs妖精さん30人とで揉めに揉めたこともあり、祥鳳たちを建造したときにした説明をまた1から10まで繰り返すハメになり、鬼と化した大淀の前に妖精さんも恐れおののき、そこから大淀の徹底的管理がより厳しくなったのであった。

 

「こんかいばかりはおおよどさんにものもうします!!!」

「聞きましょう」

 

 

「われわれは…われわれは…!」

「がんばれー」

「わたしたちのこえを…」

 

大淀に向かってしゃべろうとしている妖精さんは汗をダラダラ垂らし、その横で妖精さんが励まし、しっかりしゃべれるように応援をしている。まるで自分がとんでもない悪人で恐怖政治を強いているようだな…と思った。大淀はこれがかつて、自分があの男…安久野に陳情するときのことを思い出した。

 

「提督…!私はどうなっても構いません!で、ですが…ですが…どうか、お願いですかぎゃっ!?」

「やかましい!!モノがわしに意見するなんてなぁ!しつけが必要なようだな!」

 

………今必死になって妖精さんが自分に汗だくになって恐怖と戦い、陳情しようとしている様がまさに昔の自分に重なった。いや、そもそもそんな恐怖政治を妖精さんに強いた覚えはないんですけど!?

 

「われわれは…!!!!おおよどのあねさん…けんぞうが…したいです」

 

玲司が椅子からずっこけた。大淀はひとつためいきを吐いて妖精さんを見る。ビクリ…と妖精さんは恐怖した。

 

「提督…よろしいでしょうか」

「ああ。妖精さんに強いストレスばかりを与えてはいけない。資材についてはだいぶ余裕が出てきたし、おやっさんからも文句来てんだ。ただでさえ艦娘に余裕がないのに建造を惜しんでいる場合かってな。建造、開発の決裁書が少なすぎるんだと。事務員さんめ…」

 

「ああ、やはり…私も資材をため込むことに意固地になりすぎて必要以上に建造することを恐れていたのかもしれません。昔のことをまだ…トラウマに思っていたようです。資材が貯まればすぐに建造し、いつも資材はひっ迫していましたから」

 

「俺もみんながボコボコと艦娘が増えるとどうかな…と思ってたんだけど。もう大丈夫だよな。霞や漣たちのせいにして避けてたしな…大淀、資材は今回は…いや気にしないといけないんだろうけど」

 

「はい。承知しました。建造の許可を出します。ですが、資材に節度を持って建造を行ってください!」

 

やったー!と妖精さんが飛び跳ねる。

 

「やった!われわれのひがんがたっせいされるときだ!」

「しなの!しなの!」

 

「だから信濃は出ねえっつってんだろうが」

「提督、最近刈谷提督のような口調が…」

 

「うっ…」

 

こうして波乱が訪れる3秒前…。

 

……

 

妖精さんに任せきりだと何をされるかわからないので玲司と大淀立ち会いのもと、建造を行うことに。

 

「あ、提督」

「お、時雨。今日はお休みか」

 

「うん。大淀さんもお疲れ様です」

「はい。お疲れ様です」

 

「すごい妖精さんの数だね…何かまたお部屋でも作るの?」

「今から建造のために工廠へな。ちょっといろいろと…」

 

「そうなんだ…よかったら、僕もついていってもいいかな」

「ああ、何も特に見どころとかはないと思うけどな」

 

「実際にどうやって艦娘が生まれるのかが見てみたいだけさ。ダメ…かな」

「ダメなもんか。よし、行こっか」

 

「うん!」

 

時雨は嬉しそうに玲司達についていく。玲司はあることを忘れていた。建造で大騒ぎになったとき、あの時も一緒に行った子のことを。その名は雪風。「呉の雪風」と呼ばれる幸運艦であった。では…今回は?ご存じ、「佐世保の時雨」と呼ばれる「呉の雪風」と並ぶ幸運艦である。当然、問題が起きないわけなどないのである。波乱が訪れる2秒前…。

 

……

 

「「「えええええええ!!!???」」」

 

再び大ブーイングが工廠で起きた。その内容と言うのが「大型建造は1度まで」であると言う条件が下されたからである。

 

「大型禁止だった前回よりはマシだろ!?」

「あと1かい!あと1かい!!!」

 

「ダメだ!お前らは回数を制限しないと無制限でやるからな!!」

「おうぼうだー!おおがたさせろー!」

 

「ダメです!もう一度前のようにグラフをお見せしましょうか!?」

「う、うう…こうしてわたしたちようせいはこきつかわれ…やりたいこともじゆうにさせてもらえず…ただただぜつぼうをむねにしをまつのみ…」

 

「うっ…」

「提督、このままじゃ妖精さんがかわいそうだよ。その分は僕も遠征、頑張るから。妖精さんたちだって頑張ってるんだよ。提督も妖精さんにたくさんお願い事をしているんじゃないのかい?」

 

「ぐっ…」

 

この時、妖精さんには時雨に後光が差し、純白の翼が生えているかのように見えた。のちに妖精さんは時雨を「だいてんし しぐれえる」と呼び、信仰を集めたのだとか。

 

「……くっ!時雨さんに免じて…今日の建造は大型建造を2回まで…と、し、ます」

 

ギリギリと歯を鳴らし、こめかみに指を当てて本当に苦渋の決断をする大淀。玲司も頭を抱えて頷いた。だが、妖精さんとは約束事をし、これ以降はむやみやたらに建造を強要しないこととした。これに応じてばかりいては妖精さんがさらに過激なことを要求しそうだったので。

 

妖精さんは働き者だ。だからこそ、建造できず手持ち無沙汰になる妖精さんがいるのである。時にマグロのように止まったら死ぬくらいに庭の手入れ、ドックと浴場の清掃、整備、夜間警備、図書館の整理、書物の清掃など1日中動いていていつ寝ているんだろうか?と言う妖精さんがいるらしい。

結局、この広大な鎮守府を管理するにはまだまだ妖精さんが足りず、工廠の妖精さんもそちらに回れば仕事ができて充実するのではないか、と言うことでそちらに回ってもらうことにした。工廠を午前中に動かし、任務を達成させたら別の仕事につく。

 

そうして妖精さんは工廠でのデモ行為をやめると宣言し、じゃあ最後にパァッとと言う謎の理論から大型建造で夢を見させてくれ。一花咲かさせてくれと言う要望であった。言い出したからにはここでこれを違えると毎日建造の要求がまた来そうなのであきらめた。

 

「わーーーーった!!!!よし!大淀!!!もうこの際2回だ!」

「……仕方ありません」

 

この折れた2人を前にさっそく大型建造の準備を始めていく妖精さん。その顔はみんな笑顔で楽しそうであった。その雰囲気に時雨は嬉しそうだ。昔は妖精さんは本当にごくわずかで、みんなつまらなそうにしていた。多くの妖精さんは提督に嫌気がさし、消えた。足が動かず手当てをしてくれていた妖精さんも物資が足りず、泣きながらボロ布のような、何とか洗ってくれたような包帯を巻いて「ごめんなさい…きたないぬのをまいてごめんなさい」と。僕こそ迷惑かけてごめんね…そう言ったらブンブンと首を振ってちがうと言ってくれたっけ…。

 

大型建造用の炉の数字パネルがパタパタ動く。

 

1500/1500/2000/1000

 

妖精さんはうきうきしながらスタートボタンを玲司に早く押すように促す。言った手前引き返せないのでスイッチを押した。

 

1:30:00

 

建造待ち時間は少ない。それでも新しい仲間が増えることは玲司は嬉しかった。

 

「時間的に巡洋艦でしょうか?」

「ぽいな。誰でもうちには貴重な子さ。この子が笑って楽しく過ごせるようにしていかないとな」

 

「はい!」

「れいじさん、も、もうがまんできません。きょかを…こうそくけんぞうざいのきょかを…」

 

「何でバーナーで禁断症状を起こしてるんだ」

「す、すうかげつぶりなんです、おねげえしますだ…」

 

「その言い方をやめなさい…ん、いいぞ」

「ひぃやっはぁあああ!!!!もえるんだよおおおおお!!!!」

 

本当にこの妖精さんたちは大丈夫なのだろうか…。何か危ない趣味をお持ちなんじゃないだろうか…。不安で仕方がない。玲司側近の妖精さん曰く、とても勤勉なお方で毎日一生懸命機械の整備をしておられるとのことだ。ますます大丈夫か…。いや、まあこの子達がそういうなら問題ないんだろうけども…。

 

ブシューと排熱が済んだ炉。煙が消え、ゴホッゴホッとせき込むのは…。

 

「も、もう一体何ですの…?お洋服が汚れてしまいますわ…」

 

上品な言葉遣い。どこかいいところのお嬢様のような…。

 

「熊野さん…!」

「お、最上が喜びそう」

 

「コホン…ごきげんよう、熊野です。コホッコホッ…この仕打ちはわたくしに対してどういうことなのでしょう…?」

 

「す、すまん…わざとじゃないんだ…」

 

ジトーっと玲司を見、怒っている。妖精さんがバーナーを過度に使いすぎるのだ。故に煙も増える。お上品に登場しようと思ったのが全て台無しになったと怒っている。玲司は悪気があったわけではなく、妖精さんがな…とどうにか宥めようとしていた。

 

時雨はその様子を微笑ましく見ている。新しい仲間が生まれ、共に生きる。昔のように建造されてすぐ、怯えたまま出撃するところを見なくても済むとわかっているし、最上が喜ぶだろうな。最上は熊野が沈んでしまったとき、大泣きしていたから。何度も守れなくてごめんね、と泣いて…怒って。本気でタガが外れて砲を提督に撃ちそうになっていたもの。長門に必死で止められて何とかなったのだが。でも、もうそんなことは二度とない。だって、優しい提督だもの。ちょっと頼りないけど。

 

「ふん、まあ大目に見て差し上げますわ。ところで、何だか汚いところですわね。わたくしには似合わない場所ですわ。もう少しマシな場所はございませんの?」

「あ、ああ…あとでちゃんと案内するから…」

 

「早くしてもらえませんこと?ほこりっぽくて…こほっこほっ…」

 

なかなかに毒を吐く。こほっと咳をすると黒い煙のようなものが。まだ高速建造材を使ったときに出た煙を吐き出している。お嬢様のようで、どこか庶民っぽい熊野。そのギャップが見ていておもしろい。

 

「何を笑っていらっしゃいますの?」

「いや、ちょっとな。はは、まあ宜しく頼むよ」

 

「ひゃっ…な、何をするんですの!?」

「お、おお…すまん…」

 

「レディの頭を気安くなでないでくださります!?こ、こんな…こんな…」

 

怒ったかと思ったら顔を真っ赤にしてプルプルしている。怒りなのか、恥ずかしいのか。でも、と大淀も時雨も思う。玲司の頭を撫でてくれると言うものは胸がぽかぽかし、幸せな気分になれる。雪風や皐月、文月、霰、島風はよくなでてもらっている。いつも幸せそうにしている。自分はちょっと遠征を頑張ったときや出撃で頑張ったときなどしかしてもらえず、ちょっとやきもちをやいている。

 

大淀は性格故になでてもらいたいけど言えない。撫でてもらえるチャンスが回ってきたとしても恥ずかしいから避ける。そうして自室に戻った時に撫でてもらえばよかったとバタバタとベッドの上で泳ぐ。スッと自然に撫でてもらった熊野がうらやましい。

 

「せ、責任、取ってもらいますから!」

「お、おい、熊野!?どこ行くんだ熊野ー!?」

 

すごい勢いで走り去っていく。と言うか、部屋とか大丈夫なんだろうか…。大淀が工廠の内線からいろいろと指示を出している。さすが大淀、頭が回る。

 

「すまん、助かる…」

「いえ…あのままでは危ないですので…ところでてーとく…」

 

「ん?」

 

提督、とキリっというときと違うてーとくと言うちょっと砕けたような言い方の時。これは大淀が甘えたいときの呼び方だ。最近になってわかってきた大淀のこと。今回は何となくわかった。そう思って手を頭にのせてぽんぽんと優しく触り、なでる。

 

「あぅ…えへ、えへへ…」

 

それを見ていた時雨もうらやましく思う。あのいつも真面目でキリっとしている大淀がほにゃっと笑っている。提督に撫でられた艦娘は大体がこうなる。大淀もそうだし、あの扶桑が自分から頭を差し出して撫でてもらい、周りに花が咲いたかのように笑っている。いいな…。

 

「提督…ぼ、僕も…」

 

ん、と言ってもう片方の手で撫でてもらう。あったかいなぁ…優しい撫で方。雪風達はわしわしと結構強く、髪の毛がぼさぼさになるくらいだが、時雨達には優しく。雪風達とは少し違う撫で方だが嬉しい。ああ、やっぱり僕は幸せだ。そう時雨は目を閉じで思うのだった。

 

 

「で、もう1回同じで頼むぞ」

「はい。おまかせください」

 

……隣でホクホクしている時雨と大淀は置いておいて、もう1度大型建造を行う。さきほどと同じ数量だ。しかしなぜだ。嫌な予感がする。大和をやった時のような…。

 

「はい。ではすたーとしますよ」

 

またしても怪しい。こうもすんなりと。大和大和と言ってた以前、古鷹達を建造した時も大和、信濃とうるさかったのに…?

 

「提督、僕が開始ボタンを押してもいいかな?」

「ん?お、おお。雪風にもお願いしたことがあったな。いいぞ。ぽちっと頼むよ」

 

「う、うん!」

 

開始を押そうとして、ちょっとためらって…おずおずと開始ボタンを…押した。

 

8:00:00

 

「…………」

「………」

 

「おっといれぎゅらーですな」

「ちょっと待て」

 

そろりそろりと逃げようとする妖精さんに止まるよう命じる。ギクリと言う言葉がぴったりで、全員が止まる。と、言うことはやっぱりまた何か細工を施したようで。

 

「ん?どうしてどこかへ行こうとするんだ?イレギュラーなんだろ?だったら何かトラブルが起きないように見守るべきじゃないのか?ん?」

 

「は、はち…はち…はちじ…」

「いえ、その。ちょっとごはんきゅうけいをですね」

 

「まだ昼の時間でも夕飯でもないぞ?休憩時間でもない。さ、洗いざらい吐きなよ」

「……ちっ、ば、ばれちまったらしょうがねえ」

 

「女の子がそういう言葉遣いをするもんじゃないの」

「はい」

 

玲司がポケットから金平糖を取り出した。するとどうだ。多くの妖精さんがササササッと玲司の周りに集まる。するとどうだ。1500や2000の掲示板の数字がハラリと落ちて数字が変わる。

 

 

4000/6000/7000/2000

 

 

「な、なな…ななななななな…なな、せん」

「6千…」

 

「ううーん…」

「お、大淀、しっかりしろ、大淀!!」

 

その桁外れの数字に大淀が気を失った。最初から仕組まれていて、最初は本当に紙の通りの数字だった。しかし、そう思わせておいて実は陰で数字をいじくり、大和が顕現した数字を覚えていた妖精さんが細工を施していたのだ。

 

「あ、あねさん?」

「え、ええっと…」

 

さすがの妖精さんもボスである大淀が気を失ったこと、そして玲司が呆然としているところを見、自分たちがやばいことをしてしまったのだと認識(今更)したようで、ドヨドヨとし始めた。悲しいかな、もうカウントダウンは始まってしまったのだ。取り消すことはできない。無情にも資材は炉に消え、何をしようにも誰か艦娘が生まれてしまうのだ。

 

「……あの、その…」

「泣けるぜ」

 

玲司はもうやってしまったことは仕方がないと割り切った。実際龍驤にも「女々しく資材がー資材がー言うてケチくさいことしてんとバーンといったらんかい!」と言われるくらい、建造には渋かったこともある。妖精さんの要求を無視し続けてきた申し訳なさもある。ポロっと漏らしてしまったこともまずいな…とは思った。

 

「妖精さん、派手に行こうぜ。8時間は待ってらんねえからな。バーナーを用意だ!」

「………」

 

「どうした?いつもみたいにいこうぜ」

「……おこってないですか?かってなこと…」

 

「資材はまだ余裕がある。妖精さんに普段抑圧させちまってたしな。大盤振る舞いだ、パーッと行こうぜ」

「れいじさん…かみのようなおひとだ…」

 

なぜか玲司に妖精さん全員が手を合わせてありがたやありがたや…と唱えていた。人を仏みたいに…そんなご利益も何もない。

 

「よーし!いけ、妖精さん!火炎放射だ!!」

「いえええええああああああああ!!!!」

 

何人ものバーナーを持った妖精さんが一斉に大型炉に火を放つ。大騒ぎするので非常に騒がしく、大淀が目を覚ました。ああ…資材が…でも龍驤さんに怒られたんだっけ…。大本営から建造回数の少なさが際立つと言われ…保護艦娘だけで艦隊を増やすのは無理があるよと司令長官にやんわり怒られたっけ…。

 

「建造をしない。それも悪くはないよ。ただ、立場上少ないと言っておかないといけないからね。やりすぎは逆に問い詰めたいんだけどね。大淀君やれい…三条提督の気持ちもわかる。たまには建造報告を送ってきてくれると嬉しいかな」

 

司令長官…申し訳ございません。また司令長官を驚かせるどころの話ではない艦娘が生まれそうなんです。また大和さんでしょうか…。なら、大本営で面倒を…あ、一宮提督のところでもいいな…。ボーっとそんなことを考えていた。

 

シュオオオオオ……。

 

もくもくと黒煙を吹く炉。やりすぎじゃないのか…とも思ったが、大型建造では高速建造材を10個消耗するらしい。ただ、8時間はちょっと待っていられない。玲司は意外にせっかちである。

 

煙が消え、炉から誰かが出てくる。8時間と言えば大和だ。申し訳ないが大和は1人いるので新しい彼女は大本営で面倒を見てもらおう。そう思っていたのだが…。

 

「フッ、随分待たせたようだな……。大和型戦艦2番艦、武蔵。参る!」

 

美しい銀髪と、反した褐色の肌。鋭い眼にメガネ。そして何よりサラシで隠した胸元とお腹。巨大な砲塔。そして、自ら口にした「大和型戦艦の2番艦」…そう、1番艦「大和」ではなく2番艦。あの最強戦艦の妹、武蔵がここに顕現した。

 

うおおおおお!!!と盛り上がる妖精さん。

開いた口がふさがらない玲司と大淀。

 

横須賀鎮守府の新たな伝説が刻まれた瞬間であった。




はい、前話で登場した謎の戦艦。それは…武蔵でした!な、なんだってー(棒)

横須賀鎮守府、玲司の伝説にまた新たなものが増えました。この世界ではどういう理屈で大和や武蔵が建造されるのかは謎です。資料がありません。玲司自身も大和建造の際に使った資材の量が(ショックで)わかりませんのでデータも存在しません。全てMAXではって大爆死した提督もいるそうです。

ちなみに大鳳も建造されていますが、こちらも現状1人のみです。そして、若手提督のもとにしかいません。微妙にですがこの辺を明かしていくことと、武蔵は横須賀になじめるのか?と言うお話を次回から書いていきたいと思います。

それでは、また。

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