「巡洋艦、三隈と申します。提督…この度は三隈を拾ってくださり、誠に感謝申し上げます」
ふわりとスカートの両裾をつまみ、ふわりとお辞儀する様がとても上品で羨ましいなと思う大淀。
「ようこそ三隈。横須賀へ。三隈をここへ連れてくることができてホッとしているよ。本当に申し訳ない。人間の都合で建造されたのに結局追放とは…」
そのことについて謝るとビクッと少し警戒された。やはり、三隈が建造された開口一番に「必要ない」と言われて大本営へ放り出され、不安な日々を送っていたことがトラウマになっている。
「いいえ。提督は三隈を必要としてくださるのですよね?」
「ああ。うちはなんだかんだで艦娘不足でな。巡洋艦は特に人数が足りなくてな。最上がひーひー言ってるんだよ」
「もがみんがいらっしゃるんですの!?」
「ああ。最上に熊野もついこの間着任したんだ。これで鈴谷以外はいるよ」
「まあ!嬉しいです!提督、本当に感謝いたしますわ!」
「お、そうだ。三隈の寝間着やら何やらを用意したいし、熊野もつれて買い物に行くとするか」
「ぜひご一緒させてください!」
巡洋艦「三隈」が横須賀に着任した。彼女も例の宿毛湾泊地にて、大和建造を夢見たが、建造されたのが三隈であったと言う。三隈などいらんと泊地から強制的に大本営へと移され、それでいて引き取り手がほぼなかったのだと言う。
司令長官の話では一宮提督と七原提督が手を挙げたと言うことだが、玲司が引き取ると聞くと、2人そろって「それなら三条提督に任せた方が安心」と言うことで横須賀鎮守府行きが決まった。お役所仕事ではあるが、転任手続き。これを宿毛湾の提督が書類を返送するのが非常に遅れ、大本営から動かすことができなかったのである。
しかし、どういうわけかその書類をすっ飛ばして今回着任手続き、在籍のリストの更新などを行い、晴れて三隈は横須賀に着任。これについては古井司令長官もまったく聞いておらず、異動の手続きをしたのは司令長官と反発しているはずである、清州副司令長官が動かしたのだとか。
どういう思惑かはわからないが、手続きが簡素化したおかげで早期に三隈の着任が叶ったのだとか。司令長官が首を捻っていると高雄が言っていたが、くれぐれも三隈さんをよろしくお願いいたしますと丁寧に電話でお願いされた身としては、三隈もみんなと同じように、新しい家族として温かく迎え入れよう。
「大淀、みんな。悪いけど頼むな」
「はい。お任せください。おばさまたちにもくれぐれもよろしくとお伝えください。ここ数ヶ月お会いできていないので…」
「だよなぁ…何だかんだで忙しくてな。でも松子おばさんから直接俺の携帯に電話が来てな。何だか切羽詰まった感じだったんだが…嫌な予感しかしねえんだよな」
「あはは…松子おばさまにはいろいろと…その…着せ替え人形のごとく…」
大淀が遠い目をする。松子はどうも大淀と霰、扶桑を気に入っているようで見るやいなやすぐに服を持ってきては鼻息を荒くして着させようとする。そして、梅か竹美にしばかれている。そこに美女、美少女がいるなら、とやめないのだ。
「ま、まあ大丈夫だろ…」
「そ、そうですよね…」
そう言うしかない。商店街の人たちについてはそれしか言いようがないのだ。車のキーを机から取り出し、三隈と共に外へと出る。
………
「わー!やったやったー!熊野とくまりんことお出かけだー!」
「くまりんこ♪もがみんとくまのんとお出かけができてうれしいです♪」
「商店街…いろんなものを売っているところ…ふふん、気になりますわね」
最上、三隈、熊野。そして、新たに加わった武蔵と付き添いの名取で商店街へと繰り出す。玲司自身も久しぶりに行くので何だか新鮮だ。体調を崩して長期にわたって寝込んでいたり、刈谷提督との作戦などがあり、思うように外へ出れなかったのだ。
摩耶や五十鈴たちも久しぶりで連れていってほしいとやいのやいのと詰め寄ったが、今回は我慢してもらった。最上は最上型の長女として、三隈たちと親睦を早く深めたいしと言う。あとは鈴谷が来てくれれば最上型勢ぞろいだね!!と大いに喜んでいた。
商店街が近づくにつれ、掲示板や窓に貼られた紙をマジマジと見る。
「ねえ、提督。夏祭りって書いてあるよ?」
「夏祭りかー。いいねぇ。風情があって」
「縁日みたいなものか。それは楽しそうだな」
「名取たちはそういうのは一切なかったですからね…」
「ふむ…」
夏祭り。玲司も深海棲艦が出る前はよく両親と妹と一緒に近所の縁日に出たり、花火大会を楽しんだものだ。妹が浴衣を着て早く早くとグイグイ手を引っ張られて歩き回った記憶がある。懐かしい。懐かしさにフッと笑った。
「提督、どうしたの?」
「いや、昔を思い出してな。めちゃくちゃ楽しい覚えがあるから、みんなにも参加させてあげたいなと思って」
「そうなんだ。あ、見て、花火大会だって!なにこれなにこれ!」
「花火って…知らないのか」
夏祭りとか、そんな余裕なかったよな…。そんな状況じゃない日々を送っていたのだ。わかるはずもない。玲司ももううろ覚えだ。いろいろあってすっかり忘れていて説明できない。ただ、とても楽しいものだよ、と言うと最上は目を輝かせていた。
……
「おや、玲ちゃんじゃないかい!久しぶりだね!」
「梅おばさん、ご無沙汰しております」
「おばさん、こんにちはー」
「最上ちゃんも久しぶりだねぇ。見慣れない子がいっぱいさね」
「そうなんだよ。なかなか紹介できなくて申し訳ない」
「いいんだよ。それだけ玲ちゃん、忙しいんだろ?海は平和だし、源ちゃんも少し漁の範囲を広げれたって喜んでてね。まだまだ心配だけど、玲ちゃんや最上ちゃんたちが守ってくれてるんだと思うと安心だよ」
「へへへ。ありがとうおばちゃん!嬉しいよ!」
「ふふ、かわいいねぇ。そちらの子達は?」
「へへっ、こっちが三隈!こっちが熊野!ボクの妹なんだ!」
「ごきげんよう、三隈と申します。もがみんがお世話になっております」
「ごきげんよう。熊野ですの。よろしくお願いいたしますわ」
「はえー、まるでどっかのお嬢様みたいだねぇ。まあ、最上ちゃんもどこかお嬢様っぽい上品なところがあるもんねぇ」
「ほんとー?ふふっ、ふふふ…へへへ、嬉しいな!」
「ぜひとも夏祭りに参加してほしいもんだよ」
「夏祭りかぁ。それってどんなの?」
梅が説明をしていると、段々と顔がにぱーっとなっていき、目もキラキラ輝いていった。そのままの顔で玲司を見つめる最上。
「はいはい。大規模な作戦などがなかったらな。できれば全員参加させたいところではあるな。大淀と相談してみるか」
「やったー!」
「よかったですわね、もがみん!」
「よくわかりませんが楽しそうですわ!」
「ふふ、ぜひとも参加してね」
「あれ?武蔵は?」
玲司がキョロキョロと近くにいない武蔵を探す。武蔵はちょうど肉屋にいた。肉屋にはちょうど店主、茂が目を見開いて…武蔵のサラシを巻いただけのふくよかな膨らみをガン見していた。
「ふむ。いい匂いがするな」
「ここのコロッケはおいしいですよ」
「に、肉まんが2つ…」
「ふざけたことをお客さんの前で言ってんじゃないよ!!」
ぽろりと武蔵の膨らみを見ながらそんなことを言ってしまったがために、蛇に睨まれた蛙のように小さくなり、脂汗を垂らす茂。欲望に忠実なのはいいが、誰が聞いているかわからないのである。口に出すのはやめよう。
「大きな子だねぇ。大和ちゃんみたいだね」
「ああ。大和は私の姉だ。姉が世話になった…ですか?」
「敬語とか気にしなくてもいいよ。あたしゃ竹美だ。ほら、これが気になってたんでしょ?はい、名取ちゃんも」
「む、いい…のか。ありがたい」
「あ、ありがとうございます」
「うむ、あふっ!あふっ!!!」
「武蔵さん!?熱いですよ!?」
「大丈夫かい?ほら、お水」
「んくっんくっ…ぷぁっ!くひがいひゃい(口が痛い)…」
「この間も火傷してたじゃないですか…ダメですよ、急いで食べたら…」
「す、すまん…」
赤城の次くらいに食い意地が張った武蔵。一口で揚げたてのコロッケを食べようとして火傷。昨日も熱いものを急いで食べようとして火傷をしていたと言うのに。
「で、あんたはいつまでこの子の乳を拝んでるんだい!!」
ベシン!と頭をはたかれる茂。道行く男性も武蔵の容姿に目を奪われるようだ。無理もないだろう。超ミニのスカートに上半身はサラシを巻いただけに小さな上着を肩にかけているだけだ。その姿はあまりにもこう…えっちである。と思うとは茂談。
涙目になりながら水を慌てて飲んでいるとフラフラとやってきた女性。武蔵を見つけて急にシャキッとなり、ジロジロと見つめる。梅は「ああ…また何か企んでる…」と。名取も同じ考えのようで…と思ったらギンッとすごい目に隈をこさえた松子がやってきた。
「………」
「あ、あんたちゃんと寝てるのかい!?」
「今それどころじゃないんだ…くぅ…このあたしがスランプだと…バカな…そんなことがあるわけがない…」
おでこに冷え〇タを貼り、パンダのごとく目の周りを真っ黒にして虚ろな目をしている松子。そんな彼女が武蔵と名取をしきりに何度も見る。
「ああ…ああ…これだ…きたぞ…きたぞおおおおおお!!!!そうだ…なんでこの子達のことを忘れていたのか…ああ、そうだ…名取ちゃんに…来たぞ…ヒヒヒ、頭の中に鳥海ちゃんと摩耶ちゃんが来た…ヒヒヒヒ、良いではないか…」
危ない笑い声を出し、何か危ないお薬でもキマってるんじゃないかと思うくらいの表情である。どこから取り出したのかわからないがスケッチブックを取り出し、目の前にいる背の高いめがねの銀髪の女性を見ながら時々手が見えなくなるくらいの速さで図を完成させていく。出来上がったのは扶桑に似合いそうな衣装。
「こりゃまたきれいな浴衣だね。確かにこの子に合うかもしれないね」
「クソッ!クソッ!ついにデザインできたと言うのに…!今からじゃ間に合わねえ!!!」
ギリィ!!と歯を鳴らす松子。このような浴衣、確かに作るには時間がかかる。梅の店の窓に貼りだされた夏祭りのチラシには、もう2週間もない。商店街は提灯やら飾りがつけられ、道行く人たちも夏祭りを楽しみに待っているようにも見える。
「うわあああ!!!鳥海ちゃんの浴衣がぁ!摩耶ちゃんや霰ちゃんの浴衣がぁ!!!」
「そうだねぇ、雪風ちゃんの浴衣姿、見てみたかったねぇ」
「くぅ…オイラも皐月ちゃんと文月ちゃんの浴衣が見てえなぁ…娘が帰ってきたみてえに思えるのに…」
「テメエら、翔鶴ちゃんの浴衣を見ねえで何を見るってぇんでぇ!」
「ごめんよ、竹…茂に源ちゃん…あたしの才能のなさを恨んでくれ…」
「そんなの恨めるかよ!あんたは頑張ったんだ!これが見れるだけで充分さ…」
「そうだぜ!くぅ…松ちゃんがんばったなぁ…」
「そうだぞ!自分を責めるんじゃないよ!」
うおおおおおんとなぜか泣き始めた商店街のメンツたち。
「できるぞ」
そんな話を聞いていたのか、玲司がやってきた。最上は武蔵に着せられた浴衣のイラストを見ていいなぁとお気楽である。
「何言ってんでい!もう2週間くらいしかねえんだ!1着もできねえよ!」
「いや、イラストをくれれば1日で4着くらいはできるんじゃないかなって」
「「「「は?????」」」」
そんなバカな。大きな工場でできるものでもないし、何より1点物だ。織るにしても相当な時間がかかる。
「あんた、あたしを馬鹿にしてるのかい?確かに艦娘ちゃん全員の浴衣が見たいけどさ…できるわけないだろう?」
「できるって妖精さんが言ってるんだ。確かに艦娘に浴衣を着せたい。創作意欲がすごい湧いてきたってやる気になってる。あれなら、今夜、今その手に持ってるスケブの浴衣1着だけでも作って見せるって。だからそれちょうだいって」
「……そこまで言うならちょっと付き合ってもらうよ。あんた、艦娘ちゃんの写真はあるかい…」
「スマホにありますよ。たぶん全員の写真が入ってる」
「そこの見かけない子も…」
「はいよ」
そんなこんなで松子と共に浴衣のデザインをすることになった。武蔵と名取はおもしろそうと言うことで玲司についていった。
最上は三隈、熊野と共に喫茶「ルーチェ」へと許可をもらっていくことになった。
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「おや、いらっしゃいませ」
「マスター、こんにちはー!今日はかわいい子を2人連れてきたよ」
「それはそれは。美人な方がご来店されますと、あとでクチコミが広がります。ありがたいことです」
日当たりの良い場所を選び、メニューを広げる。ケーキがおいしいこと。紅茶がオススメ。見た目もかわいいんだよ、などなどとても楽しそうに最上が説明していく。3人そろって紅茶。ケーキは最上がイチゴショートケーキ。三隈はモンブラン。熊野はイチゴのタルト。それぞれを注文。「かしこまりました」と一礼してマスターは厨房へと向かっていく。
「ふふー。くまりんこ達とケーキを食べられるなんてボク感激だよー」
「すごいんですね。提督は自由な方なんですね。くまりんこの提督は一切自由がなくて…」
「そっかー。ボクたちの提督は本当にいろいろ自由にやらせてくれるよ。だから、提督のためにがんばろうって思うよね。戦いはきついけど、でもおいしいご飯にこうしてここに連れてきてもくれるし、夏祭りも楽しみだなぁ!」
「あまり騒々しいのは嫌ですわよ?でも、いいのかしら…戦わずにこんなに遊んでいて…」
「提督が言うには遊ぶときは遊ぶ。戦いばっかりだと心が参っちゃうよ、だって」
「お優しいのね…もがみん、提督は信用できますか?」
「もっちろん!ボクは提督が来てからずっといるからね。最初はひどいこと言っちゃったり、したけど…」
提督のことを語る最上はとても嬉しそうで楽しそうだった。ご飯のことを話すと熊野がとても食いついた。初日で熊野もすっかり胃を握られてしまったようだ。
「お待たせしました。ケーキと紅茶です」
ケーキを持ってきたのはマスターではなく、女の子だった。最上は知っている。淡いブルーの髪の女の子…。
「鈴谷?」
名を呼ぶとビクッとなった。ケーキと紅茶をササッと素早く置いて奥へと逃げてしまった。
「鈴谷?鈴谷!?どうして逃げるの!?鈴谷!ボクだよ、最上だよ!!」
「鈴谷ですって!?」
「まあ…」
最上が追いかけようとするとマスターが裏から出てきてストップと最上を止めた。マスターは困った顔をして首を振った。「鈴谷を追いかけないでほしい」と言う意思表示が見て取れた。
……
しばらくしてマスターが戻ってきた。マスターは先ほどと同じようにちょっと困った顔をして最上達に説明を始めた。
「彼女が重巡『鈴谷』であると言うのは私は知っていました」
「えっ、どうしてマスターが鈴谷を?」
「これは玲司君には内緒ですよ。私は元、提督でした」
「ええええええ!?」
おかわりの紅茶をこぼしそうになるくらい勢いよく机をたたいて立ち上がる。三隈がもがみん、落ち着いてと言ってハッとなり、静かに座りなおす。
「私は玲司君のお父さんとも深い関りを持っています。ここでは気を遣ってほしくないため、隠していますがね。まあいずれわかることです。ふむ、そうですね。鈴谷さんのことですね。彼女は寒い雪の日の夜に私の店の前で立ち尽くしていましてね」
鈴谷は上で休んでいるらしい。艦娘であると言うことがばれてしまったことが恐怖であると言っていたようだ。何とかあの子達は大丈夫、と言って納得し、ひとまず休んでもらうことにした。
「彼女は艦娘の体を売ってお金を稼ごうと考えた人間たちが経営している闇の風俗店から逃げてきたようです。おそらく、横浜かどこかにあるのでしょう。彼女にその場所を聞いても、連れ戻す気なのだとパニックを起こしてしまいますのでもう聞いてはおりません。ですが、私の知っている古い友人がその場所をいずれ突き止めるでしょう」
最上は大淀や翔鶴がされていたことを思い出した。あのクソ男も艦娘を外へ連れ出して売りに出す店を作ろうと聞いたことがある。おそらく、そいつもクソ男の入れ知恵でそういった店を作ったのだろう。
「長い時間車に乗せられていた、と言っていたのでどこから来たのか…それも教えてもらえません。本当にわからないのでしょう。そして、私が出先から帰ってきたときに私の店をボーっと眺めていたので声を掛けました。ひどく怯えていましたが、疲れていたのでしょう。もうヤケクソのようにこう言いました」
おじさん。私のこと買ってくれない?
「おそらく、そう言えと教わっていたのでしょう。これを言ってどうなるかも知っていたはずでしょうに。私はそれを制止しつつ、中へ促しました。疲れていたのか、なにかを諦めたのか、素直に中に入ってくれましたよ」
……
「事情はわかりませんが寒さで震えていますね。このままではあなたのお体が危ない」
「じゃあ、わた…鈴谷のこと買ってくれるの?」
「婦女子がそのような言葉を容易く言ってはいけませんよ。その言葉を知っていると言うことは、それを言った後、どのようになるかはご存じでしょう?」
「……わかってる…でも、もう疲れた…買ってくれて家に入れてくれるならもう体くらい好きに使っていいよ」
どこをどうさまよい歩いたのか、頭に雪を少し積もらせ、寒さに震えていた。艤装を持たない艦娘は少女となんら変わらない。長時間、この雪が降る寒さの中にいたのであれば凍えてしまう。
「どうぞ。そのままではいけません」
「……」
マスターは鈴谷を招き入れ、すぐに玲司に電話をしようと思ったが…過去を思い出したこと、そして、おそらくは提督により何かおかしなことに巻き込まれたのではないかと思い、ひとまず電話はやめた。慌ててエアコンの暖房を入れ、石油ストーブも火を入れた。
湯船にお湯を張り、入浴も促した。
「そのままではストーブの前にいても意味がありません。体を芯から温め、落ち着きましょう。私はあなたに合う服を…」
「おじさんも一緒に入ればいいじゃん。何かっこつけてんの…どうせ後ですることするんでしょ?」
「あなたはそれを本当にお望みで?」
「………」
「あなたが嫌がることはしませんよ。それよりも早くお風呂へどうぞ。温まりますよ」
マスターは松子のところへ頭を下げて事情を説明し、ある程度の衣服を確保してもらった。1時間近く経っても浴室から出てこないため、まさか浴室で自殺でも図っているのではないかと不安になっていると…「あいたぁ!」と言う声と、ゴン!と大きな打音。
どうも滑って転んで頭を打ったらしい。外から問題はないか確認すると大丈夫と帰ってきた。
………
次の日もシャワーを浴びさせていたら中から悲鳴が。今度はシャワーの温度が低すぎたための悲鳴らしいが、何かあったのでは、と慌ててドアを開けると…その、あれです。少し彼女にしてはやせた白い肌…。
私は洗面器を顔に投げつけられ、クリーンヒット。
「……何もしないって言ってたのに」
「本当に申し訳ございません。言い訳はしません。憲兵もしくは警察に突き出して頂いても…」
ドアを閉め、慌てて飛び出したものの着替えを渡し忘れたので手だけを出し、着替えを渡した。腕を組み、白い目で見られ小さくなるマスター。何度も謝っているとぷっ、と鈴谷が笑った。
「本当に鈴谷に何か変なことをする気、ないんだね」
「誓って。あなたにそのようなことをする気はありません」
「そっか。実を言うと…すっごい怖かったんだ。男の人ってそういう事ばっかり考えてるんだなぁって思ってるから」
「昨日も言いましたがそのような愚劣な考えの人間ばかりでもありません。優しい方もいらっしゃいますよ」
「ふーん…おじさんみたいな人が提督でいてくれたらな」
その言葉にチクリと胸が痛んだ。忘れようにも未だに忘れられも、消そうにも消せない、提督と言う職業への情熱。若き提督と笑顔で幸せそうな艦娘。私の理想の形、姿が彼らにはあった。彼女も笑って楽しい生活を送らせてあげたい。送ってほしい。
「何、私はただのしがない喫茶店の店主。提督はできません」
「知ってるしー。っつーかこの紅茶マジでおいしいんだけど!」
「とっておきのカモミールティーです。心を落ち着かせる働きがあります。それを飲んで、夜も遅いです。もうおやすみになってください」
「……襲う?」
「襲いません!!!」
「あははは!冗談だよ!」
「内から鍵もかけられます。鍵穴はありませんので」
「へー。おじさんってほんと紳士だね」
「ほっほ。それはありがとうございます。では、何かありましたら私はこちらにおります。声をおかけください」
「……襲う?」
「襲いません!!!!!!」
「じょ、冗談、マジごめん…ん、ありがと」
そこから彼女は数ヶ月。この喫茶兼バー「ルーチェ」で住み込みで働いている。接客は少し慣れてきたが、やはり男性には抵抗がある。酔った勢いで怒鳴られたこともあるのでバーの時間は部屋で好きに過ごしてもらっている。
………
「そうだったんだ。悪いことしちゃったな…」
「ですが、いつまでもここに居るのも鈴谷さんにとってはよくないことです。そろそろ玲司君に話を通さなければなりませんね」
「それで大丈夫ですの?」
「大丈夫さ。提督のところでなら安心して生活できるよ。楽しいことがいっぱいさぁ!」
「もがみんがそう言うのでしたら三隈は信じますわ。鈴谷もきっと、来てくださることを信じています」
「ありがとうございます。その際に艦娘を匿ったことはどのような処罰も受ける覚悟です」
「その辺も大丈夫じゃないかなぁ?ボクからも話しておくよ。ながーい時間、かかりそうだけどね」
「最上さん。ありがとうございます。助かります。今回、ケーキと紅茶代はサービスさせていただきます」
「やったー!」
「では、玲司君によろしくどうぞ」
「ん。あ、提督も終わったみたい。浴衣か。楽しそうだね!」
席を立ち、マスターにお礼を言って帰っていく最上達。マスターも鈴谷はあの子達姉妹のもとにいるほうがいい…あの子は駄々をこねるだろう。けど、何とか説得しなければ。しっかり話をしよう。
おじさんに拾われて鈴谷は幸せだよ。
そう言われたために話すのは心苦しい。しかし、このままでは自分も鈴谷のためにもよくはない。あの子の幸せを願うからこそ、ここはしっかりと話をしよう。ああ、でも私だけではまたやらかしてしまいそうだ。
「もしもし、鳳翔さん?少し私の相談に乗ってほしいのですが」
事情を説明すると大きなため息が返ってきて焦った。けど、彼女は親身になって話を聞いてくれ、助言をくれた。さすがは頼りになる私たちの艦娘の母だった方ですね。
「提督?今変なことを考えていらっしゃいませんでしたか?またお母さんだなんて思っていたんでしょう?まったくもう…」
そう言われて電話の前でペコペコ頭を下げる男、安城 宗春。その姿を見た鈴谷は頼りないと思いつつも、本当に優しい人でお父さんのよう、と思ったと言う。
/
「妖精さんが躍起になってくれたから、全員の浴衣のデザインをもらったよ。とりあえず、1着織ってもらって松子さんに見せるか。さて、誰のにしようかな」
「そりゃあ商店街で大人気の雪風、電、霰でしょー」
「うーん、3着作れるのか?」
「われわれにかかればそれくらいぽぽいのぽいです」
「夕立か」
「れいじさん、わたしたちをしんじてください。かんむすのゆかたすがた…はぁはぁ」
「おい、本音。漏れてるぞ」
「妖精さんって男の子なの?」
「それはごそうぞうにおまかせします」
「えー?」
「ふふ。まさか、くまりんこたちのまでだなんて」
「よくはわからなかったが楽しみだ。提督よ。なしだなんて言うなよ?」
「わかってるって。俺も楽しみだ。頼んだぜ妖精さん」
「おまかせあれ!!」
浴衣姿を期待し、鎮守府へと帰る玲司達。荷台には食材がてんこもり。また武蔵がわくわくしながら夕飯を楽しみにし、三隈もまたオムライスの虜になったとか。
翌日、開かずの間であった宿舎の2階が機織り工場に変わっており、カチャコンカチャコンと楽しそうに浴衣を作る妖精さんの姿があり、玲司も大淀もあんぐりと口を開けて立ち尽くしていたそうな。
鎮守府総出の夏祭りの話は前夜に瞬く間に皆に広まり、朝には玲司をキラキラした目で見つめる艦娘達のおかげで朝食づくりに時間がかかったそうだ。
ここで夏祭りフラグともう一つ、鈴谷の登場です。最上型、いいですよね。
個性的でかわいいです。
鈴谷につきましては近々、経緯を書いていこうかと思います。夏祭り、みんなで楽しく夏祭り。浴衣姿できれいになった翔鶴と玲司…デートをしないわけがなく。次回をお待ちくださいませ。
それでは、また。