玲司が持ち帰った武蔵、名取の浴衣姿のイラストが描かれ、細かく色なども指定してあるスケッチブックのページを見るや否や、大勢の妖精さんが集まり、ほうほう、ふむふむ、とアゴに手をやったり、鉛筆を耳に挟んだ妖精さんが紙に何か図面を引いたりしたりとものすごい興味を持っていた。
「なんか、すげえ集まってきたな…」
「みんなそうさくいよくがわいてるようですね」
「よーしみんなー!だいかいぞうしたいかー!」
「「「「おおおおおお!!!!」」」」
「ゆかたをつくりたいかーーーー!!」
「「「「おおおおおおお!!!!!!!!!」」」」」
「うおっ!?」
妖精さんも何十人、何百人と執務室に集まれば、部屋とガラスを震わせるほどの声量にはなるようで。霧島がドアを開けると戦国時代の将軍と兵士のように「われにつづけー!」「うおおおお!!」と列を組んで飛んで行った。
「ほんとに何でもやるんだな…」
「いいじゃないですか。建造建造と私の机でわいわい抗議されることを考えれば」
「そ、そうだな…」
「楽しそうじゃないですか。夏祭り!」
「ああ。全員できれば参加して、楽しくしたいな」
「ふふ、では楽しみにしていますね、司令」
「いいなぁ…浴衣…かわいいなぁ」
「大淀、心配すんな。松子さん、全員のデザインするって言ってるから」
「ほんとですか!?あ、あ、あの…その…」
「大淀さん、私も楽しみにしているんです。大淀さんも楽しみですよね」
「妙高さん…うう、恥ずかしい…」
そこから浴衣の話と夏祭りの話は瞬く間に横須賀の艦娘全員に広がり、艦娘たちの宿舎でドォッと大きな歓声が上がった。夕立や雪風達は大はしゃぎであり、玲司の下へ飛んでいこうとするものの、慌てて間宮に止められていた。
「ぽいー…提督さんにありがとうって言いたいっぽいー…」
「しれえのお仕事を邪魔しちゃダメです…」
「別に司令官なら気にしないからいいんじゃないの…」
「満潮、さすがっぽい。満潮は提督さんのことをよく見てるからよく知ってるっぽい」
「は、はあああ!?私はそこまで司令官のことなんか見てないわよ!!!」
「ですが、満潮は今日は司令官のどこどこがこうだった。司令官は今日は何時間執務室から出てこなかったなど、詳細な情報を私や大潮、荒潮には言っています」
「ちょおおおおお!!!???何で言うの!いつも秘密にしててって!朝潮姉さんたちにだけ特別にって言ってたでしょ!?」
「はっ!?満潮、ごめんなさい!」
「満潮、それ、僕にも教えてほしいかな…ねえ、山城?山城も提督のこと、いつも気にしてるものね」
「ねえ、今満潮がされて大慌てしてることを私にもする?どうする、満潮?処す?処す?」
「山城?何だか人が変わったみたいよ?」
「あははは!みんな提督が大好きだねー」
「だ、だだだ大好き!?何言ってるのよ!違う!私はただ司令官が体を壊さないか心配なの!!お手伝いとか、何かできなかって見てるだけ!!最上!!いい加減にしなさい!!!」
「最上、次の演習の時、私の30㎞狙撃で仕留めるわ…」
満潮にポコポコとお腹を叩かれ、山城にすごまれても笑っている最上。最近はどうも扶桑、山城、最上、時雨、満潮で集まって雑談をしていることが増えてきた。どうして?と聞かれると彼女たちにはわからない。ただ、これが今後強い結束力となり、強いチカラを引き出すことになるとはまだ知らない。
/
「いいのかなぁ、ここまで鎮守府を好き放題やっちまって。後任が来たら大変そうだな」
「もーまんたい。そのときはもとにもどすからだいじょうぶですよ」
「それはそれで怖いな…」
機織り工場と化したかつての宿舎の2階。妖精さんが小さな機織り機を何個も何個も稼働させ、少しずつ浴衣らしきものができてくる。本当にどこからこの機械を持ってきて、どこから材料を調達しているのだろう。
「あかしさんとおおよどさんにきょかをもらい、わずかばかりのしざいをゆずってもらったのです」
「し、資材!?」
「あ、きれはちゃんとにんげんとおなじものですよ。さいこうきゅうのきぬこうばいをしようしているのです」
きぬこうばい…絹紅梅と検索したら出てきて、その浴衣を見るなり玲司は目玉が飛び出るかと思った。何せその浴衣のお値段はいい値段がする。いや、いいお値段どころか高い。
「ちょっと待て。どこからこんな素材を…?」
「わたしたちはかんむすのためとあらばひのなかみずのなか。みなさんによろこんでもらうためにようせいさんねっとわーくをくしし、かくちからとりよせました」
「ほう…で、請求書が星って…金平糖か…?」
「はい。ほし300こはなかなかにいたいしゅっぴですが…かんむすのためです…」
「……300と言わず1000個くらい言ってくれれば用意したんだけどな…京都のいいやつ」
「「「「「まじで!!!!!??????」」」」」
ようせいさんが玲司の発言に一斉に玲司を見る。全員が全員こっち見んなと言う顔文字みたいな顔をして思わず「こっち見んな」と言いそうになってしまった。
「あー、まずかった?」
「い、いえ。300こでさいこうきゅうなのです。1000こなんておくったらひっくりかえるです」
「じゃあ…みんなにそれを分けるってことで…」
「「「「「まじで!!!!!??????」」」」」
「みんなでこっち見んな!」
そもそも触り心地抜群の最高級の生地を金平糖でやりとりして大丈夫なのかとも思うが、人間と同じように妖精さんにも会社や商売と言うものが成り立っているらしい。金平糖は質の悪いものでは取引ができず、上質な砂糖を使った金平糖でないといけないらしい。
玲司が妖精さんのためにと取り寄せている京都の老舗の金平糖は全国で取引をする妖精さんにとっては日本で言う1万円札のような扱いであり、今回の大量の高級生地は、この金平糖300個を出すと言った際に向こうが椅子から転げ落ちるほどの衝撃であったと言う。
300個は受け取ったらしいが、さらにワンランク上のこの上なく最上の生地をどうぞどうぞと向こうから出してくるほどのものらしかった。結局その金平糖は妖精さんの胃(あるのか?)に消えてしまうものなのだが、まあそれで取引してくれるのならありがたいものか…とも玲司は思った。
ちなみにこの金平糖は横須賀の妖精さんの燃料にもなっているが、これのおかげで毎回予想の斜め上を行くほどの最高の仕事をこなすのである。妖精さん曰く、飽きの来ないまったりとした甘みとこの上ない舌ざわりがたまらない。これがあるなら24時間戦いますと言うくらいである。
七原提督にも勧めたところ、工廠の稼働率アップ。開発時に紫電改二を3連発で出したり、33号電探を2つ。32号電探を1つ開発したりと恐ろしいまでの効率のアップになったそうである。
「うおおおおおお!!!!」
「きらきらぼし、げっとだぜー!!!」
機織りのペースが目にもとまらぬ速さになった。雑にやっているように見えて、人間の職人が「いい仕事してますねぇ」と言うくらい素晴らしい出来栄えで完成させる。何をやらせても職人、それが妖精さんである。
「できました」
「早えな!?」
たくさんの妖精さんが浴衣を持ち、衣装台にかけていく。大淀は思わず「わあ」と声をあげるほど、妖精さんの浴衣の出来は素晴らしかった。
「これはあられさんのものです。こちらはゆきかぜさん。しょうてんがいのあいどるですから」
「さあ、これをあられさんとゆきかぜさんにきせてまつこさんにしゃしんをおくるのです」
「おう。ちょっと待ってろ。すぐ呼ぶ。えーと更衣室は…」
「こういしつはこちらです。わたしたちがきつけします。ていとくさんがきせかえしますか?そちもわるよのう」
「おう、100円の金平糖でいいな、君は」
「じょうだんです。おねがいします。それだけは。それだけは…」
いそいそとお着替えの準備を進めていく妖精さん。呼び出された霰と雪風はこの状況を見てキラキラしている(霰はしているように見える)。
「なぁに…これ」
「なんでしょう、しれえ?」
「うん、今から霰と雪風にこれを来てほしいんだ」
「霰も…着て、いいの?」
「いいんですか、しれえ!?」
「ずるいのです!電も着たいのです!」
「いなづまさんももうすぐできます。しょうてんがいのあいどるとりおですので」
「つぎはちょうかいさんですね。あといがいにだいにんき、まやさま」
「どういうことだってばよ…それはそうと、そっちで着替えておいで」
待つことしばらくして、淡いブルーの浴衣の霰と純白が似合う雪風が出てきた。大淀は目をハートにさせてかわいい!と言っていた。
「いい…」
「しれえ!とってもかわいいです!!!」
「ハラショー。これはいいな」
「かわいいのです!電も早く着たいのです!」
さっそく写真をスマホで撮って松子に送る。すぐさま返信が来た。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
宇宙人のような言葉が返ってきた。
「もっと送ってくだたい。おねがいしあす」
興奮のあまり文字がいろいろとおかしい。しかし、確かに今浴衣を着てはしゃいでいる雪風と、見て見てと玲司をキラキラした目で見つめている霰。頭を撫でてあげるとそっと玲司の手を繋ぐ霰。感情は表に出ないが、甘えたいときなどの態度や目の動きなどは結構わかるようになった。
霰は表情は確かに乏しいが、目は口ほどにものを言う。無口で感情はあまり表に出ないが甘えたいとき、甘えている時は皐月や文月、雪風と同じくらいに甘えたがりである。甘える行動の中でも、玲司の手をそっとつなぐと言う行為は、霰にとってはとても落ち着くものらしく、嬉しいときなどはそっと手を繋いでくるのである。
「霰にぴったりのいい色だな。かわいいよ。よく似合ってる」
「………」
ちょっと口角が上がって頬が赤い。そしてつないだ手をブンブン振っている。嬉しくて恥ずかしくてたまらないようだ。
「しれえ!どうでしょうか!」
「ふふ、雪風は白が本当に似合うな。かわいいな」
「えへへ♪しれえ、雪風はまた幸せになりました!しれえや妖精さんのおかげです!」
雪風は頭を撫でてあげるとにへっと笑って両手を頬にあてて恥ずかしそうにする。雪風は案外恥ずかしがり屋であるが玲司のことが大好きであり、甘えん坊だ。以前の雪風は甘えることに抵抗があり、悲しそうな顔をしていたが、今はもう全然違う。毎日を楽しく過ごしている。
「ハリー。ハリーハリー。ハリーハリーハリー」
段々と松子がやばくなってきた。ふう…とため息をついて「落ち着いてください」と送ったら「はい」と返ってきて「はいじゃないが」と返せば「(´・ω・`)」と返ってきた。忙しい人だなほんとに…と思った。
……
「提督、艦娘全員を夏祭りへ出してしまうと緊急時の対策が取れませんが…」
「何かあればすぐ連絡するわ。気にしないで遊びに行ってらっしゃいな」
大淀の懸念に紫亜が答える。紫亜はどうやっても外へ出ることはできない。したがって鎮守府で留守番をすることになる。ちなみに霞も同様で外へ出るとどうなるかがわからない、と言うことで紫亜とお留守番することになった。霞は紫亜にとても懐いているので問題はない。
「それに、妖精さんが遠洋で警戒をしてくれると言うことだから…妖精さんから連絡が入って戻ってきて、迎撃の準備をする時間はあるわね。せっかくこんなかわいいものを用意してくれたんだもの。遊んでらっしゃいな」
「私もここで待機しています。提督への連絡役として、ここで花火を見ることにします」
「じゃあ私も待機してようかな。整備したい艤装とかあるし、人ごみ嫌いだし。浴衣は着たいけどー…私は作業着のが似合うしね」
「何言ってんだ。明石ってスタイルいいしかわいいから似合うのに」
「ふぇええ!?ちょ、なななな何言ってんの!?」
「おーおー、玲司の天然女殺しのセリフきたでー。なあなあ、玲司。うちはどうや?」
「え、うーん…一緒に歩いてたら職質されそうな…」
「なんやて!?人を駆逐艦みたいな扱いしおってに!!お前そこ立てぇ!!!爆撃したるわ!!!!」
「わー!わー!龍驤さん、翔鶴姉の未来の旦那さんを爆撃したらダメだって!!!!」
「瑞鶴!?旦那様って!そ、そんな…そんな、私には…えへ、えへへへへ」
「おいコラァ!のろけてんのちゃうぞ!?お前の旦那がうちをいぢめるんやぞ!!!何とかせえや!!!」
「旦那様…うふふ…私が奥さん…えへへへ」
「あーあ、翔鶴姉どっかいっちゃった」
「ねーねー!島風は?私もかわいいでしょ?」
「おう。島風はいつもかわいいぞ」
「ほんとー!?おうっ!やったぁ!!」
「しれーかん!皐月は!?皐月は!?」
「しれ~かん。文月はかわいい?」
駆逐艦の質問攻めが始まり、あっと言う間に取り囲まれる玲司。いじけてふさぎ込む龍驤。かわいいと言われて恥ずかしくてバタバタしている明石。トリップしている翔鶴。
こうしてわいわいしている光景を見るのが間宮は大好きだ。平和で、暖かくて、見ていて自分も楽しい気持ちになれる。
私はこれだけで十分幸せをもらっていますから。お留守番でも全然気になりません。
間宮は提督と自分が作った料理を夢中で食べている光景を見るだけで毎日が幸せだった。提督からも。みんなからも。十分に幸せをもらっている。きっと夏祭りは楽しいだろう。けど、私は浴衣を着て夏祭りだなんてガラじゃない。確かに、今浴衣を着てはしゃいでいる島風や雪風、電に響。彼女らがめいっぱいはしゃいで楽しんでいるところを見るのもきっと素敵だろう。
でも、それだと幸せすぎてバチが当たりそう。そう思っていた。それに、紫亜と霞だけでは不安だろうし、とも思う。だからいいのだ。
「間宮、ありがとう。助かるよ」
「私からもお礼を言うわ。私と霞ちゃんだけでは心配だったから」
「いいえ。お留守番なら私たちにお任せください!ですから皆さんで楽しんできてください」
「ふぁああ…顔あつ…うん、私もいるし。龍驤お姉ちゃんに何かあったらすぐ連絡できるから、大丈夫だよ。妖精さんも頼りになるし!」
間宮に明石。そして、紫亜。頼もしい限りだ、と玲司は思った。
「明石は人気でそうなのになぁ…」
「だから私はいいんだってば!!」
「ははは、わかったわかった。よし、じゃあ参加するって言ってくる。雪風と霰と電。それから摩耶は明日ついてきてくれ」
浴衣を着ていくこと。これが摩耶はえらく恥ずかしかったが…しゃあねえと言いながらも顔がにやついている。浴衣が嬉しくてたまらない様子。玲司が思うには、摩耶に似合う色はパステルピンクに金魚が泳いでいる浴衣。摩耶は普段グリーンやブルーなどの服を着ているが、私服や寝間着はピンクなどの色が多い。さすが松子さん、よく見ているなと思った。
ちなみに摩耶の部屋には商店街で見つけたイルカやメンダコなどのかわいいぬいぐるみが置かれ、寝るときは一緒に寝ているという。鳥海と最上と玲司しか知らない。かわいいもの好きでかわいい小物がもっとほしいと言うことだが、なかなか商店街に連れて行ってあげられないことを玲司は申し訳なく思っていた。
さて、楽しみでそわそわしている子達はさておき、今日は何を作ろうかな。間宮が言うには今日は中華でも作りましょうと言っていた。じゃあ、さっぱり麻婆春雨でも作りましょうか。春雨を取り出すと間宮がすぐ気づいて麻婆春雨の具材をひょいひょい取り出した。
/
「エ、エクセレントオオオオオオオオ!!!!!!」
雪風、霰、電、そして摩耶。彼女らの浴衣姿を生で見た松子は鼻血を噴いて倒れながら意味不明な声をあげた。さらに梅や竹美もやってきて孫を見るかのような優しい目をして彼女らを見ていた。買い物にやってきた主婦の皆様もわいわい集まり、あっと言う間に人だかりができた。
「ちょっと…恥ずかしい」
「なのです…」
「うう…何でこんな人が集まってんだよ…」
この商店街に通う主婦の方々は艦娘に対しては好意的だ。駆逐艦の子であれば自分の娘のようにふるまうし、摩耶や扶桑たちであれば姉妹のように接する。夕方時であれば自分たちの子供と雪風達がおしゃべりし、和気あいあいと過ごしている。
「霰ちゃーん、こっち見てー」
「ふふふ、雪風ちゃんは白がほんとによく似合うわねぇ」
「ありがとうございます!」
「摩耶ちゃんの浴衣姿、妄想がはかどるわぁ~」
「おいそこ!よだれ垂らして変なこと考えんな!」
「電ちゃんたちが来るならうちの子も喜ぶわ」
「ありがとう!なのです!」
大和ちゃんは?鳥海ちゃんは来るのかしら。扶桑さんに来てほしいなぁ。いやいや皐月ちゃんが。
みんながみんなそれぞれ艦娘のファンがいる。艦娘達も気軽に話しかけてきたり、懐いてくれるので本当に仲がいい。ちゃんと来ますよと言うと息子が文月ちゃんが好きでとか、旦那は置いてくるとかいろいろとおもしろい反応が出る。
「ふ、フヒヒヒ、いいよいいよ~。勝ち気なツンデレ娘が実はピンクとかかわいい色が大好きって言うそのギャップそそられるねぇ…どうだい摩耶ちゃん。あたしと奥でイイことしないかい」
「は、はああ?!」
「このバカ!人様が大勢いるところで欲望垂れ流してんじゃないよ!!」
「いてえ!!くぅ、しかし…あんたにはわからないだろうね、梅!この無垢なツンデレ娘の浴衣を優しく剥いでいく快感…ぐええええええ」
「平常通りだな、松子おばさん…」
「ギ、ギブ…梅、ギブ…首…キマって…うぐっ…」
………
恥ずかしそうな霰。満面の笑みの雪風。めずらしくはしゃいでピースしている電。モデルっぽくキメてみた摩耶。それぞれの写真をもらった。これでまた、執務室がにぎやかになる。摩耶は絶対飾んな!と言ったが、かわいいな、と玲司が言うともじもじとして「そ、それなら…飾っとけ…」と言った。松子がまた鼻血を噴いた。
「しれえ!これを見てください!すごいです!」
「ん?おお、花火大会か。へぇ~、こんなに派手なんだなぁ」
「ここいら一体の商工会でお金を出し合ってやってたのさ。ここしばらくはできなかったけどね」
「どうしてなのです?」
「いろいろとあったのさ…深海棲艦の攻撃に怯えてたし。すぐそこにさえ深海棲艦がいるんじゃないかって言う怖さ。花火がうるさいと艦娘をけしかける連中もいた。祭りとあらばゴロツキがやってきてめちゃくちゃにされてね。花火どころじゃなかった。それからは艦娘が怖い存在だってみんな思ってた」
梅がそう語ると摩耶たちは俯いた。街の人々にも多大な迷惑をかけていたこと。それが摩耶たちに重くのしかかる。だが梅は笑って雪風の頭をなで、摩耶の肩に手を置いた。
「昔は昔。今は今。あんた達も楽しめるようになったんだ。玲ちゃんもいるし、商工会のみんなも久しぶりの花火で湧き上がってんだよ。楽しもうじゃないかい。あたし達と、あんた達でさ」
「……花火、きれい。楽しみ」
「きれいなのです~!梅おばさん、この紙、もらってもいいのです?」
「ああ、持って帰りな。みんなに見せてあげな。でも、本物の花火はもっとすごいよ。その時を楽しみにしてな」
「なのです!!」
………
「夏祭りなのですー!花火大会なのですー!」
「楽しみです!」
「なあ提督。これさあ、あたしたち2人くらいと駆逐艦って感じでグループ組んで歩いた方がいいんじゃないか?提督にみんなを任せると提督も楽しめねえだろ」
「んー、俺は別に気にしないけどな」
「気にしろよ。せっかくの外出だぜ?翔鶴ほっぽらかしてたらかわいそうだぜ。翔鶴とデートしたの、もうだいぶ前だろ?」
「む…」
確かにこの頃忙しくて翔鶴と2人きりの時間が取れていない。たまに一緒に寝るときもあるが、それだけだ。横浜をデートした時のようなことはしていない。翔鶴はあまり自分に意見を言わない。グッと我慢し、でも側にいられるとわかると花が咲いたように笑顔になり、喜ぶ。
「私は大丈夫ですから」とよく言ってくれるが、その言葉がぐさりと罪悪感となり、胸にわだかまりを残す。そして、ちょっと寂しそうな笑顔がまたさらにぐさりと刺さる。刈谷提督との西方海域、そして英霊となって横須賀に帰ってきた加賀との戦闘。それからそれから正式に少将に昇格になったことによって様々な雑務などが重なり、まともに時間が取れていない。
「あたしや最上でチビの面倒は見てやっから、提督は翔鶴と一緒にいてやれよ。じゃないとかわいそうだぜ」
「ぐっ…」
摩耶の性格はだいぶわかってきた。実は細やかな性格で気遣いがよくできる。普段は大雑把だが、作業や戦闘、人のこととなるとすごく細かい。だからこそ、巡洋艦のリーダーを最上と任せられるのであるが。最上も普段は適当だが、摩耶に似て戦闘や人のことに関しては細かいのだ。よく見ている証拠だと思う。
「ですが、雪風ちゃんや霰ちゃんは提督と一緒に歩いて回りたいと言っていましたが…」
「んー…そうだよなぁ。目に浮かぶなぁ。んじゃさ、花火の時は2人でいたらどうだ?その辺、うまくしてやるからさ」
雪風達駆逐艦のことも考える。だから、摩耶は皐月や文月たちに懐かれるし、朝潮には尊敬され、大潮たちも気軽に話かける。絶大な信頼を得たお姉ちゃんと言った感じだ。よく中庭で遊んでもいる。
「すまん、摩耶。頼めるか?」
「おう。任せとけって」
「ふふ、では私もお手伝いしましょう」
「大和さん、助かるよー!あいつらすーぐはしゃいで騒ぐから気を付けてくれよ!」
本当に頼りになるな。大和も面倒見がいい。霞と一緒にいると言っていたが、霞がまた空気を読んだのか大和も言ってきてと言ったそうだ。
「かすみはいいこにできるから、しあおねえちゃんとおるすばんするね。やまとおねえちゃんもおまちゅり、いってきて」
お利口さんですね。と言うとにぱっと笑い、玲司が頭を撫でるときゃっきゃっとはしゃいだ。夜泣きもなくなり、すぐ泣いたり怯えたりもしなくなった。元に戻らないのが悔やまれる…。そういえば近々霞たちを貶めた宿毛湾の提督に動きがあるらしい。高雄の暗号を解くのは苦労したが、とにかくそういう事らしい。
「て、提督、大変ですわ!電さんや雪風さんが夏祭りとやらが楽しみで眠れないとおっしゃってますの!」
「はあ…あいつら…しょうがねえなぁ」
「まだ1週間あるんだぜ…?」
「しょうがねえよ、お子様だからな。よし、あたしに任せな!」
そう言って摩耶は退室した。皆、また初めてのことにわくわくが止まらないらしい。なお、電たちのことを報告にきた熊野も実は興奮して眠れなかったとか。三隈も同様。阿武隈も同様。
/
「こらー!お前ら!消灯時間は過ぎてんだぞ!」
「ま、摩耶さん…ごめんなさいなのです…でも…おめめがぱっちりで眠れないのです…」
「摩耶さぁん…いつものやって~」
「摩耶さん、お願い!ボクたちも早く寝たいよぉ…」
「はいはい…よし、お前ら布団に入れー」
もぞもぞと布団に入り、タオルケットをお腹にかけて、目を閉じる電、皐月、文月、そして響。しかし、目を閉じようとしてもぱっちりと目が覚めてしまい、寝れない。電気を豆にし、薄暗くする。
「だめか?」
「すまない、眠れない」
ふー…とため息を吐く。ほんとにこいつらはお子様だなぁ…と思った。
秘密ではあるが、摩耶も枕元に置いてあるイルカのルカ君と抱き、メンダコのメコちゃんが隣にいないと寝れないお子様である。最近シャチのぬいぐるみを買い、クーちゃんと名付けてメコちゃんと一緒に置いている。辛い物も好きだがケーキやフルーツに目がない。ケーキを食べるときは口元にクリームをつけてはしゃぐ文月と同じく、クリームだらけにして喜んで食べている。
「よし、じゃあ電からいくぞ」
「な、なのです!」
仰向けで寝ている電の横に寝転がり、まず軽く頭を撫でる。いつもの摩耶の大雑把なくしゃくしゃにする撫で方ではなく、そっと優しく。摩耶の手の温もりが電の頭へ伝わる。柔らかい摩耶の手。
「ふぁ…気持ちいいのです…」
すると今まで爛々としていた目が、トロンとまぶたが下りてきた。あくびをし…うとうとし始めた。
「ほーら。もう眠いな。ゆーっくり目を閉じて…明日もいいことがあるぞ」
「なのです…あした、も…たのしみ…」
頭を撫でるのを止め、今度は電のお腹をぽんぽんと優しくたたき、撫でる。ゆっくりと…波に漂って浮かんでいるかのような錯覚を電に覚えさせるためにゆっくり揺する。
「あ…ふ…おや…す…」
スースーと寝息が聞こえだした。この間、わずか3分。これが摩耶の寝ない駆逐艦への必殺技である。摩耶の手にかかった子は5分ともたずに寝息を立て、夢の中だ。
ぜーったいに寝ないもんね!!と以前皐月が抵抗を試みたが、なんとその時は30秒で寝てしまったほどである。今日は摩耶は本気を出していないらしい。
「さーて、あとは寝るのに抵抗する奴らだからなぁ。本気出していくぜ」
ヒッと皐月が声をあげた。薄暗い中でも摩耶が皐月と文月(抵抗する悪い子筆頭)を見てニヤァ…と笑っているのがわかった。
「すぴー」
「すやー」
2人が眠るのにかかった時間は2分。電よりも早い。摩耶の口から出る子守歌がまた耳へ心地よく入り、安眠を促す。
「摩耶さん…」
子守歌を聞いた響も少しリラックスしたのか眠気がやってきていた。少し声がトロンとしていた。
「おっし、あとはお前が最後だな」
「摩耶さん…」
「ん?」
「明日も…私は、響でいるよね」
「…おう。横須賀の響だ。明日も明後日もその次の日も。ずーっとお前は響だ」
「そう…か。目が覚めたら…前みたいに、暗くて寒い…海の底に居て…また…苦しいところにいるんじゃないかって…今、こうしている毎日が夢のほうで…」
深海棲艦から電の奇跡の蒼い涙で帰ってきた響。時々夢に見るらしい。深い海の底から、水面を眺めているところを。どっちがどっちかわからず、頭を痛める時があるらしい。
「なーんだ。そんなの気にしすぎだよ。お前はお前。今こうしてあたしにお腹をぽんぽんされてるのが響だよ。明日も朝潮とケンカすんなよー?」
朝潮。夢で深海に居るときになぜか目の前に立ち、手を差し出してくれる。
「何しているんですかあなたは。早く帰りますよ」
そう言って手を引っ張って水面へと連れ出してくれる。グイグイ引っ張るものだから時々痛いのだが、それでも彼女の手は温かい。目が覚めて、横須賀鎮守府にいて。朝潮が顔を洗ってタオルで顔を拭いているのを見つめていると「何ですか」と警戒した表情で見てくるわけだが。
「…しない…朝潮とは…ともだちで…いたい」
「朝潮もほっとけない友達だって言ってたぜ。ほら、友達同士なんだから大丈夫だって」
「そう、か」
そう言われて一気に眠気がやってきた。摩耶が言っていたことは本当で、眠れないときに相談に乗ってあげた時に友達と言っていた。だからありのまま伝えた。ぽんぽんとお腹をたたき、優しくさする。
「さ、もう寝な。明日もまた、いい1日が待ってるぞ」
「う、ん…まやさ…おや…す…」
「おう、おやすみ」
所要時間6分。ちょっとかかってしまった。いろいろとチビでも悩み事はある。それを聞いてあげるのも自分の仕事。提督には言いにくいこともあるだろうし。部屋を出る前に4人の頭を撫で、それから駆逐艦寮の部屋1つ1つを見て回り、ちゃんとみんな寝ているかを確認してから自室に戻る。
「んー!あたしも寝るか」
「あら、摩耶。もう寝るの?」
「へへ、チビ寝かしつけてたらあたしまで眠くなるんだ」
「そう。いつもお疲れ様」
「鳥海も寝かしつけてやろうか?」
「バカ」
ひひっといたずらっぽく笑う。
「ルカ君と早く寝たら」
「んー、もうちょっと起きてる。さっきさ、響が…」
大体、寝かしつけたときの駆逐艦たちの相談事を鳥海にも言って、アドバイスをもらう。自分はこうだけど他にもいい意見はないかな、と。鳥海も優しい子だからいいアドバイスをくれるし、同じな時もある。鳥海は親身に聞いてくれるから摩耶は鳥海に話すのが好きだった。
そして、寝顔がかわいい。むにゃむにゃ言って寝てるのがかわいいなどを聞いて鳥海と笑い合い、談話ははずみ、夜が更ける。
「夏祭りだっけ。楽しみだな!」
「ええ。私も…楽しみ」
カレンダーのある日付に大きな花丸をつけ「夏祭り!!!」と書かれたところを見て笑っていた。もういくつ寝ると夏祭り。摩耶も大いに楽しみにしながらルカ君を抱いて寝るのだった。
夏祭りといえば浴衣。いいですね。なおミニはありません。
かわいい浴衣姿の艦娘。あなたは誰がいいかな?次回は夏祭り本番と花火大会。艦娘がとても楽しみにしています。さあ、祭りへ繰り出しましょう。
次週からイベントですね。新艦娘が10人とまた多い…頑張ってお迎えしたいと思います。
それでは、また。