消したり失踪する気は毛頭ありませんが、何かいいタイトルはないものか。思案中です。当面はまだ現在のタイトルで行くつもりですが、突然変える可能性もございます。ご迷惑をお掛け致しますが悪しからずご了承ください。
「雪風…?何言ってんの…?あたし、北上だよ!」
「はいっ、北上さんですね?どうぞよろしくお願いします!」
ペコリと無邪気に笑ってお辞儀をする雪風。しかし、そこにはかつて寝食を共にし、海を駆け、辛い時を戦い抜いた北上が…雪風の目には映っていなかった。
「どうしたんだ、雪風…北上を忘れて…」
「えっ?北上さんとお会いするのははじめ、て…です、よ?」
雪風の目が泳ぐ。頭からつま先まで北上を見ていく。少しずつ雪風の笑顔が消えてゆく。北上ははらはらと涙を流して雪風に抱き着いた。
「雪風…一緒に戦ってきたじゃない…。一緒に今までやってきたじゃない…一緒に寝たりしたじゃない!嫌だよ!あたしを忘れないで…忘れないでよぉ、雪風!!」
「あ、う…きた、かみ…さん…」
北上の懸命の呼びかけに雪風は涙を流し、震えだす。一体何が起きているのか…。玲司にも皆目見当がつかなかった。雪風の身に一体何が起きているのか…?
「ああ、うっ…頭…痛い……し、れえ…きたか…みさん…どうして…北上さん…忘れて…?」
「雪風!しっかりして!雪風!」
「あ、う…雪風…は…。ああ…!ああああ…!!」
頭を抱えて小さく悲鳴をあげると、雪風はそのままどさりと倒れてしまった。
「ゆ、雪風!雪風!」
「北上!落ち着け!とにかく、部屋へ運ぼう!」
雪風を抱え上げる。その躰は小さく、軽かった。この小さな躰で…どれほどの苦しみと悲しみを受け止め、背負ってきたのだろう?涙が出そうになるのをこらえ、雪風の部屋へと急いだ。
/雪風の部屋
雪風を布団へ寝かせ、明石を呼び、様子を見てもらうことにした。なぜか龍驤も神妙な顔でついてきた。その手には何かを持っている。明石がそっと雪風の頭を撫で、玲司へと向き直る。
「特に何が、と言うわけじゃないけど…たぶん一時的な記憶の喪失と混濁だと思う」
「記憶喪失!?な、なんで…雪風はそんな頭を打ったわけとかじゃないじゃん!」
「龍驤お姉ちゃんに雪風ちゃんの日記、よくないとは思ったけど読ませてもらったの。うん、一言で言うならよくここまで深海棲艦にもならずに生きてこられたねって言うのが正直な感想。普通だったらもうまともに海に出れないくらい狂っているか、深海棲艦になって横須賀の子たちと戦うことになってたと思う」
「なっ…」
「雪風を助けられへんかって…あかんとは思うたけどちょっち読ませてもろてん…そしたら…北上は知っとるんちゃうん、これ」
「うん…あたしも読んだ…。でも最近のは読めてないから…」
「まあ話を戻すと、心を守るために過去をわざと脳が忘れていたんだよ。過去の重圧で心が壊れないように。どうして突然なったのかは、私にもわからない。けど、もう雪風ちゃんはそこまで心がまずいって状況。原因は…」
「なんだ、明石。もったいぶらずに教えろ」
「…玲司君…だよ。事の発端は玲司君の料理と…頭を撫でたこと」
「……俺、が…?」
「あんたの料理と…頭を撫でるっていうんで…恨みの声が…消えるんやって。もうほとんど深海棲艦に捕らわれとったのが、その時だけ正気に戻りよんねん…。そうして…この子、あんたに助けを求めるようになって…。深海棲艦になりとうないって…必死でこの一週間、抗ってんねん…」
「じゃ、じゃあ何か…?俺の飯が…かえって雪風を苦しめてるって…そう言うことか…?俺が…俺が雪風を…逆につらい目に遭わせてるって…そういうこと、か?」
玲司が愕然とした。おいしいものを食べて元気を出して、笑顔になってもらおう。そう思っていた行為が、まさかの苦痛を味合わせる毒になっていたとも知らず。料理は心を明るくする…そう…思っていたのに…。
「玲司。やけになったらあかん。あんたの料理は確かにここの子らの笑顔を作ってきた。それだけは忘れんなや」
「……俺は…俺の考えが甘かったのか…」
「違う!玲司はあたしや翔鶴、それに…雪風を笑顔にしたじゃん!玲司が悪いんじゃない…。全部、全部雪風をここまでにしたあいつ…あいつが…う、うう…」
重苦しい空気が流れる。皆のためと思って料理を振る舞っていた玲司も。一時的だろうとは言え、忘れられた北上も。揃って唇をかみしめていた。玲司に至っては血が流れようと、強く。強く噛み締めていた。
雪風の頭をそっと撫でる。自分は無力だ…と痛感した。
(金剛…俺は、お前との約束。ちゃんと守れてんのか?わからない…。わからないよ。金剛、みんな)
けれど、自分はここ。横須賀鎮守府を立て直し、みんなを助けたいと思った。ここまでひどいのは予想外ではあったが、それでも。それでも玲司は実際にこの鎮守府の惨状をみて、より一層強く。ここの艦娘たちを助けたい。笑顔にしたい。そう思ったのではないか。だからこそ、自分の取柄で笑顔にできるのなら頑張りたい。
こんなに小さな体で懸命に艦娘であり続けようと戦う彼女を。見捨てるなんてことはできない。
「…玲司君…?」
「泣き言は言ってられない…そんなことを言ったら、何のためにここに来たのか。何のために提督になったのか。意味がなくなっちまう。俺は俺のやり方で、みんなを助けたい。そのためにも…手は打つ」
「……さすがはうちが見込んだだけのことあるわ。北上には悪いけど、この子を助けられるんは…もう玲司しかおらんやろう。今まで誰一人と助けを求めんかったこの子が、やっと助けを求められる人が出てきた。この子にはそれだけで大きな希望や」
「うん…玲司…雪風を…助けてあげて…。あたし、部屋に戻ってる。あたしがいるとまた混乱しそうだから」
「ああ…」
北上が部屋を去る。
「玲司君、あとは任せるからね。私とお姉ちゃんがいても迷惑になるだろうから」
「…ああ。ありがとう、明石。助かった。姉ちゃんも」
「こっからが正念場やで。男見せてみい」
「何かあったらすぐ呼んでね。工廠にいるから」
すうすうと、今は何ともない雪風の側で、玲司はその寝顔を見守っていた。
……
暗い闇夜。悲鳴、小さく助けを求める声…。青や赤や黄色の光が取り囲む救いのない世界。
少女―――雪風はそこにいた。いつものように仲間や姉、妹の助けの言葉や悲鳴には耳も貸さず、目も向けず。雪風はただただ。迫りくる光と、追いかけてくる深海棲艦と化した仲間から逃げていた。
逃げまどう脳裏には司令官の姿。声。そして撫でてもらった手の温もりを何度も繰り返し思い出しては救いを求める。しかし、その求めも虚しく、かつての仲間に捕まり、ヒヤリと冷たい手が万力のように雪風の手を掴む。
フフ…モウ逃ゲラレナイ。オ前モ早ク…私タチト一緒ニ…
私タチノ苦シミと憎シミヲ受ケルトイイ…
諦メナサイ…モウ逃ガサナイ…
その言葉にもう疲れを見せていた雪風。けれど…けれど。あの温もりを一生感じなくなるのは嫌で。雪風は薄れそうな意識を無理やり引き戻し、掴まれた手を振り払った。
「まだ…まだ…雪風は…うぐ…沈み、ません!」
目の前の青白い顔が怒りに染まる。再び複数の青白い手に掴まれたかと思うと思いきり引っ張られ。海へと引きずり込まれる。
「あ、ああっ…た、助け…しれえ!助けて!しれえ!!」
「モウ手遅レヨ…アナタハモウ…私達ノ仲間ニナルノヨ!!」
「ごぼっ、だずけ…ワタシハ…モウ…助けて…!シレエ!」
雪風はついに…夢の世界の海の底へと引きずり込まれるところまでに至った。
………
またしても思いきり飛び起きる雪風。その体は氷でも抱いて寝たのかと思うほど冷たく、それでいて大量の汗で服はべちゃべちゃであった。息は荒く、寒い。世界から温もりが消えたかのように、雪風をただただ寒さが包み込む。
「雪風」
その言葉に横を向くと、夢の中で何度も助けを呼んだ司令官がそこにいた。心配そうな顔で。何度も見たかった、顔。聞きたかった声。その人がそこにいた。
「大丈夫か、雪風…。すごいうなされてた…」
「は、はあ…しれえ…」
「よかった、目を覚ましてくれて…大丈夫か?どこか痛い場所はないか?」
「はい…雪風、大丈夫です」
「そうか…。よかった…」
――――嘘をついた。大丈夫ではない。なぜなら…司令官も。そして月も。全てが灰色の世界なのだから。色がついているのは、いつもの眼だ。青と赤と、黄色の。雪風の周りを激しく回り続けるその眼だけは。色があった。
先ほどの夢で海にその身をほとんど沈むほど引きずり込まれた雪風は、もう深海棲艦化まで秒読みの状態であった。
最後の最後で激しく海に引きずり込まれることを拒否したがため、本当にギリギリのところで留まっている。一つ気を抜けば。次に眠ればもう深海棲艦になってしまうだろう。雪風はそう思った。
「しれえ。雪風はもう大丈夫です。しれえに手を握ってもらって、頭もなでてもらって。これならまだがんばれます」
「しかし…」
「もう少し眠ったら大丈夫です!しれえはお部屋に戻って休んでくださいね!」
「………」
明らかに嘘をついているのは明白だった。大丈夫ではない。目が死んでいる。しかし、ここまで明確にここにいることを拒否されている以上、このままでは雪風に負担をかける…。
「そうか。わかった。じゃあ、何かあったらちゃんと言えよ?」
そういって頭を撫でて、頬をもう片方の手で撫でる。かつての雪風が好きだった撫で方だった。しかし…
(雪風。お前が帰って来てくれたおかげでまた勝利だ。んん…また、明日も頼んだぞ?お前は役に立つ。しっかり儂に貢献しろよ?)
雪風はなぜかその時、最も忌み嫌う男に同じことをされた記憶が蘇った。それも鮮烈に。出撃から帰り、仲間を犠牲にした勝利を持ち帰った際によくやられた。
(ほかの役立たずとは違う。お前は北上と一緒でよくやってくれる。ククク…いいぞ。盾などいくらでも作れる。お前は敵を倒すことだけを考えろ。何が横須賀は最弱だ。ふざけよって。これほど勝利に貢献してやってるのになぁ?雪風?)
気持ち悪く、臭い声。タバコで臭う手。何もかもが不愉快だった。その声で…その手で、仲間を…姉を…妹を!!
「いやっ!!!」
ドンッと雪風は以前の記憶がフラッシュバックし、玲司の手を払いのけさらに突き飛ばした。
「ゆ、雪風…あ、ああ…すまん。軽はずみ、だったな。すまん」
「えっ…あ、し、しれえ…ごめんなさい!」
「いや、俺が悪かった。むやみになれなれしかったな。まだ、いろいろあるってのに」
「ち、違うんです!ごめんなさい…!思い出してしまって…前のしれえのこと…急に…なんで、ごめんなさい!ごめんなさい!!!」
雪風は顔を青くして何度も何度も頭を下げて玲司に謝罪を繰り返した。追い詰められていた。だからこそ突然忘れていた安久野のことを思い出してしまった。よりにもよってそのことで玲司を拒否してしまったことに、雪風はショックを隠し切れない。玲司。それは雪風にとって最後の希望。その希望を拒否した。雪風はそれを破滅だとも思った。
「ごめん、なさい…」
「雪風、俺は怒ってもない。こっちもいきなり声もかけずにで悪かった。ごめんな…」
気まずい。どうにもいたたまれなくなってしまい、玲司は立ち上がった。
「一度部屋に戻るよ。何かあったらすぐに時雨か誰かを呼ぶんだ。みんなお前を心配してるからな。」
「…はい…ごめんなさい…」
もう玲司が何を言っても謝罪の言葉しかでない。これ以上は雪風をさらに傷つけると判断した玲司は無言で部屋を去った。
拒否をしてしまったと強く感じてしまった雪風にはもう絶望の二文字しかなかった。そして、北上を忘れ、玲司を拒否した自分には何も残されていないと感じていた。自分を取り囲む光が一層強くなり、自分を呼ぶ声が大きくなった。このままでは自分は…もう…。
クスクス。モウ終ワリヨ
サア、コッチニオイデ
シズメ…シズメ…クスクス
うるさい…。深海棲艦になんかなるもんか。なってやるもんか…。バラバラに壊れていく意識を何とかつなぎとめる。北上の布団で抱きしめられて眠ったこと。一緒に泣いてくれたこと。司令官の手の温もり。温かなご飯。その記憶だけで雪風は抵抗した。
カチ シズメ カチ シズメ カチ シズメ カチ シズメ カチ シズメ
シズメ シズメ シズメ シズメ シズメ
カチ カチ カチ カチ グシャ
時計の針と共に誘う声がうるさかった。時計もうるさかった。だから壁に思い切り投げた。渾身の力で投げたからか、時計はバラバラになり、カチカチとうるさい音はなくなった。一切の静寂が部屋を包み込み、より一層光と声は大きくなる。
…コワシタイ。ヒトヲコロサナクテハ。大きなどす黒い衝動が胸からズルズルとあふれ出し、脳に命令を下す。全てを壊せと。自分たちをひどい目にあわせた人間を殺せと。ミシミシと意識が破壊されていく。ガラガラと心が壊れていく…。目の前が海に潜ったかのように暗くなっていく中、震える手で机の引き出しに手を伸ばす。取り出したのはハサミ。しっかりと握りしめ、左手を机に置く。そして…
ドンッ!!!
思いきりハサミを左手の甲に突き刺した。もう一度刺す。ドンッとハサミが机に突き刺さるほど。
「ギッ!?ガッ!!!!!」
激痛に目が覚める。意識が戻る。流れ出る赤い血液。それを見ただけで、まだ自分は深海棲艦にはなっていないと安心ができた。
無駄ナ抵抗ヲ…イツマデモツノカシラネ?
タオルで手を巻く。すぐに赤く染まっていくがこれ以外には何もない。ただ単にほんのわずかに猶予が伸びただけで変わらないのかもしれない。ドクドクと疼く傷のおかげで意識は覚醒したまま、雪風は朝まで耐え抜いた。
どことなく、耳障りな声が苛ついたような声をあげていたような気がした。それだけで何だか勝ったような気がした。
……
永遠に続くかのような長い夜が明け、日が昇り始めた。これで夜までは耐えられる…。だが、頼りになる人はもういない…。しかし、それでもまだ自分は駆逐艦雪風として存在できる。薄氷の上を歩くかのような一日ではあったが、雪風として存在できることは嬉しかった。
総員起こしがかかる前にドックへ行き、突き刺した傷を治しておこうと早足で歩く。これさえ治しておけば誰にも何もなかったと思わせることができる。誰かに見つかる前に…
「あれ?雪風っぽい?」
見つかった。心臓が飛び出るかと思うくらいの驚きだった。雪風は懸命に手を隠し、声の主の方へと向いた。そこにいたのは同じ駆逐艦の夕立だった。ほっとした。北上や司令官ではないことに。
「ゆ、夕立ちゃん、ここでどうしたんですか?」
「夕立は早く目が覚めちゃったからお散歩だよ。雪風はどうしたっぽい?お風呂?」
「はい。怖い夢を見て汗びっしょりだったので…汗を流そうかと思いました!」
「ぽいー。夕立は寒いからお部屋に戻るっぽい」
安堵した。よかった。これで何事もなくやり過ごせると…。しかし、夕立はスンスンと鼻を鳴らして何かの匂いをかいでいるようだった。やがて顔をしかめて独り言のように言う。
「血の匂いがするっぽい…。雪風が来たほうからずっと。雪風からすっごい濃い血の匂いがするっぽい」
背中をツウ…と本当に嫌な汗が流れる感触がした。どうやったらそんな敏感に匂いをかぎ取れるのか。夕立が雪風に迫る。スンスンと匂いを嗅ぎながら。
「な、何もありません…。ちょ、ちょっとノートで手を切って…」
「そんな軽い匂いじゃないっぽい。濃い…時雨や村雨が大破してたときのような…深い傷のときのような匂い。雪風。手を見せてほしいっぽい」
「な、何もありません!本当に!何もないです!!」
「じゃあ、その床に落ちてる血は…なあに?」
足元を見るとぽたぽたと血が垂れていた。その隙を見た夕立は雪風に詰め寄り、左手を掴んだ。そして…見られてしまった。赤と黒に染まる何かを。べちゃりとそれが落ちると同時にダラダラと垂れ流れる夥しい血。
「ゆ、雪風…こ、これ」
「…あ、あう…」
「て、提督さんに言ってこなきゃ!」
「ま、待ってください!しれえには内緒に…!ダメ!!」
「雪風!待ってて!すぐ提督さんを呼んでくるっぽい!」
雪風の制止も聞かず夕立は玲司を呼ぶために走っていった。ダメだ…。これを見られたらまた迷惑がかかってしまう。北上にも…。これ以上は…もう…。
正常な思考をなくしてしまった雪風は慌ててドックへ向かい、高速修復材の入ったバケツの中に手を突っ込み、一瞬で傷を治す。そのまま雪風はわき目もふらずに母港へと走った。もうダメだ。また迷惑をかけてしまう。これではここにはいられない。どうせならもう…もう…終わりにしよう。「ゼカキユ」と書かれた艤装を背負い、そのまま海へと飛び出した。
/
事態を夕立から聞いた玲司はドックへと夕立と共に走っていた。
(頼む…頼む!そこにいてくれ!!)
あわよくばと言う期待を胸にドックへ駆け込んだが、そこには雪風はいない。真っ赤に染まった高速修復材が一つあり、ここに来たことだけはわかったが…。
「どこだ…雪風はどこに行った!?」
ドックから出るが、どこへ行ったかはわからない…。八方塞がりのように思えた。
「提督さん、こっちっぽい!」
スンスンと何かの匂いを嗅いでいた夕立が母港の方向へ走り出す。まるで警察犬か何かのように匂いで雪風を追った。
「夕立!本当に合っているのか?」
「雪風はすごい血の匂いをしてたっぽい。傷を治しても服や体に血の匂いがついたままっぽい。すぐわかる!」
そう説明してくれたが玲司には血の匂いなどさっぱりわからなかった。もはや今は夕立の嗅覚だけが頼りであり、賭けるしかなかった。
「雪風!?雪風!!」
母港にたどり着き、雪風の名を呼ぶが返事はない。夕立も必死で匂いを追うが、見つけられないでいた。
「…ダメっぽい。潮の匂いで途切れちゃった…。でも、雪風の艤装がないから…ここで途切れたのも海に出ちゃったからっぽい…」
「海に出た…のか!?まずい…ヤバいぞ、雪風が深海棲艦になっちまう!!!」
「っぽい!?て、提督さん!」
「夕立!出撃準備をしてここで待機!ほかの奴らを呼んでくる!!!!」
「ぽ、っぽい!!」
(雪風!雪風!!ちくしょう!ちくしょう!待ってろ!!)
/
館内放送で緊急招集をかける。ここ数日、ボヘーっと起きてきた瑞鶴や北上達も全員が鋭い顔つきで執務室へとすぐさま集まってくる。
「提督さん!どうしたの!?敵!?」
「一体何があったんだい?夕立は?夕立はどこ?」
「訳を話す。雪風が一人で海へ出て行ってしまった。だが、もちろん出撃を許可した覚えもないし雪風は今まともに戦える状態なんかじゃない。このままじゃ雪風が…深海棲艦になっちまう!!!」
その言葉に北上がへたり込んだ。瑞鶴も摩耶も。執務室の艦娘全員が驚きの表情で玲司を見ている。龍驤はサンバイザーで顔を隠した。
「こんな形で雪風をみすみす深海棲艦にさせたくもないし、させる気もない。みんなを守る。誰一人沈ませないと約束しておいて何てザマだ…。けど、あきらめたくない。だから頼む!みんなの力を俺に貸してくれ!!!」
玲司は額を机に打ち付けんばかりに頭を下げた。
「行く…。あたしが行く。絶対に…ここで待ってるなんかできない!!玲司、行かせて!」
「私も行く!私の艦載機があれば、もしかしたら探しやすいかもしれない!!」
「あたしも行くぜ!放っておけるかよ!」
北上、瑞鶴、摩耶が名乗りをあげる。その目には、雪風を助けたいという真剣な眼差しと確かな闘志を感じた。ただただ馬鹿みたいに出撃を繰り返させられ、絶望だけを連れて行くような出撃ではない。明確な目的があり、そこには仲間の命がかかっている。そして、玲司の必死の懇願。これに応えないわけにはいかない!
「提督…僕も行くよ。雪風は昔からの友達、だからね」
「私も出撃いたします。提督、どうかご許可を」
かねてからの友人であった時雨。なぜか凄まじい闘志を燃やす神通。神通に関しては正直最上か大淀を出したいところではあったが…こういう時の神通は是が非でも押し通す性格であるのと同時に、そんなことで揉めている暇もない。
「わかった。出撃メンバーは母港で待たせている夕立。時雨、神通、北上、摩耶、瑞鶴。以上6名だ。旗艦は瑞鶴!お前の空から見る目が頼りだ。現地の細かい指示は目を頼りにして的確に指示が出せるだろうから頼む」
「わかったわ。任せて」
「すまん…、俺はここでこうして椅子に座ってふんぞり返ってることしかできねえ。だが頼む、雪風を助けてくれ!!」
「提督、補佐はこの大淀にお任せください。私もここでですが、私なりの戦いを行い、雪風ちゃんを救うお手伝いを」
「助かる、大淀。のんびりしている暇はない。夕立と合流し、出撃!!!!」
「「「「「了解!!!」」」」」
(頼む…雪風…無事でいてくれ!!)
藁にもすがる気持ちで玲司は出撃する皆を見送った。
/
「みんな、初めて今の提督さんの下での出撃よ。以前のあいつとは違うと思うから、思い切って行こう!」
「夕立、ものすごいやる気があるっぽい!雪風を早く助けに行くっぽい!!」
「…雪風。死なせない。深海棲艦にもさせない!」
「北上さん。うん、そうだね。行こう!」
「おう、瑞鶴。きっちりサポートするから頼んだぜ!」
「………」
「よし!横須賀鎮守府、第一艦隊。旗艦瑞鶴、出撃する!!!」
「「「「「了解!!!」」」」」
こうして、新生横須賀鎮守府の艦隊の初出撃となった。彼と彼女たちの栄光の第一歩はここから始まろうとしていた。
少し遅くなってしまいました。もう少し早くあげようと思っていたのですが、なかなか納得いくものにはならず、一度半分ほど消して書き直しました。次回くらいで横須賀鎮守府の艦娘を救うお話は終わりになるかと思います。
まだまだ彼女たちの話は始まったばかり。他のブラック鎮守府などにも嵐を巻き起こしたいなぁと思っています