提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百四十一話

初めて来る商店街に内心おどおどしているイムヤと周りのおいしそうな匂いに目をキラキラさせているゴーヤ。潜水艦は対照的である。

 

「イムヤイムヤ!あっちからおいしそうな匂いがするでち!」

「もう、さっきから食べ物のことばかりじゃない。あんまりウロウロしないでよ。はぐれたら大変なんだから!」

 

イムヤは慣れない人ごみもあるがこの目を離したらすぐにどこかへ行ってしまいそうなゴーヤが心配でしょうがない。目が離せないと言うのは建前で、本当はゴーヤとはぐれてしまったらきっと泣いてしまうくらい怖いから、割ときつめに離れるなと言っているのだが聞いてもらえない。

 

ついにゴーヤの浴衣の袖をきゅっとちょっと強く握った。心配だから。ゴーヤがじゃなくてイムヤが1人になったら怖くて心配だから。

 

「イムヤ、そこを掴まれたら浴衣がぐちゃーってなるでち。手を繋ぐでち!そしたらイムヤはゴーヤとはぐれることがなくなって、安心できるでしょ?」

 

そう言われて…顔が熱くなるのを感じた。最初からゴーヤはイムヤがキョロキョロと落ち着かなかったのは知っているし、イムヤが人見知りで寂しがり屋なのも知っている。そして、ゴーヤが他の子とおしゃべりをしていると遠巻きに見つめて嫉妬しているのも。

だからゴーヤがイムヤを輪に呼んで一緒にお話しし、イムヤがやっと笑うところを見て安心する。少しイムヤはゴーヤに依存しているところがある。実戦ではイムヤのほうが実力がある。ゴーヤはこういう性格なので落ち着きがなく、察知されやすい。対するイムヤは逆に演習時、いや、演習が終わった後もみんながどこへ行ったか探信儀などを使って必死に探すくらい静かで音もなく消える。

 

演習場のどこにもいなくて提督に相談しようとしたら執務室のソファーでゴロゴロしていた、なんてこともある。その際、イムヤにどうして行き先を教えてくれないんだと言ったら…

 

「え?イムヤ、ゴーヤや摩耶さんにシャワー浴びて執務室に行くって言ったはずだけど?」

 

それを聞いた摩耶やゴーヤは「き、聞いた…はず…」と言うほどである。

イムヤのその恐るべき気配遮断の能力。五十鈴には見破られるが、五十鈴以外には気配を絶たれたらソナーを使っても見つけられないほど。

 

「その気になれば1週間でもじっとしてられるわ!」

 

そう豪語するのは伊達ではないようだ。しかしそんなイムヤも提督とゴーヤ以外は少し苦手。そして今、外に出た際のイムヤはこれである。強がるも、弱い。

玲司はそんなコミュニケーション能力をもうちょっと仲間と磨いていこう、と執務室にたまに呼んで、大淀や霧島たちと会話をさせている。

 

「じゃああっちのおいしい匂いのするところにいくでち!」

「ちょっと!そうやってイムヤを連れまわさないでって!あーもう聞いてないしぃ…」

 

ゴーヤは基本的に人懐こい。だからお店の人によく話しかけ、会話をする。

 

「へー、艦娘ってこういうの食えるんだな」

「でち!おいしいもの大好きでち!」

 

「そっかそっか。おいしそうに食ってくれると嬉しいね」

「おいしいでち!こう、おいしいのがじゅわーって出てくるでち!イムヤも食べる?」

 

「え?イムヤは…うーんと…食べる」

「あーん」

 

「あ、あーん…ん!おいしい!」

「ははっ。ちょっとオマケしてあげるか」

 

「ありがとうでち!」

 

唐揚げを出店の前で食べさせ合っていると珍しさからか人が集まり、珍しさからその食べている唐揚げを買っていく。

 

「艦娘だぁ?のんきにんなもん食ってねえで俺らを守るために戦えよ」

 

「!?」

 

イムヤがその言葉に縮み上がった。ゴーヤはもぐもぐと唐揚げを食べながら男を見た。顔を真っ赤にし、龍驤が飲んでいる飲み物のようなにおいがする。酔っている。

 

「お国のため。ひいては大切な国民守るためにおめえらがいるんだろ?だったら油売ってねえでお国のために死んで来いよ。ガハハハハ」

 

「???ねえイムヤ、この人何を言ってるでちか?よくわかんないでち」

「ゴーヤ!」

 

「あー?なんだこいつ。こんなポンコツが国守ってんのかよ!この国はもうおしめえだなぁ!こんなポンコツ共のせいで国も俺らもおしまいだぁ!あー!みんな死ぬんだー!」

 

イムヤは泣きたかった。こんなことまで言われ、バカにされ。こんな人たちのために…自分は…!

 

「あーら見苦しいわねぇ。お酒に酔ってしか強く言えない汚いおっさんが弱い者いじめ?」

 

イムヤ達の前に立って男に苦言を呈すのは随分と身なりの整った服装の女性。と、もう一人、バリっとこの暑い中、ひとつも乱れていないスーツを着こなす男性。女性は派手でもなく地味でもなく、女性にぴったりの浴衣であった。

 

「あんだとぉ!?」

「あなたも何か言っておやりよ。男としてどうなんだい?」

 

「………ま、みすぼらしいですな!」

 

その男の言葉にドッと笑い声が上がった。酔っ払いはキョロキョロとし始め、焦りだしていた。

 

「艦娘に守ってもらっておいて偉そうに。偉そうに言うなら提督にでもなって艦娘と一緒に海を守るようになってから言いな。うちの息子は立派に海を艦娘と一緒に守る男さ。息子と比べるのもアレなおっさんだね」

 

「涼介と一緒にしたらいかんぞ、母さん」

「あっはっは!そうだね!さ、艦娘に文句垂れるだけならさっさと失せな!」

 

ダン!と女性が啖呵を切ると酔っ払いはスゴスゴと去っていった。

 

「最近多いね。ああいう艦娘を貶していい気になる男。情けない」

「そうでしか自分を保てん者もいる。それに負けず、立派に我々を守ってくれるんだものね」

 

「あ、あう…」

「もう大丈夫だからね。怖かったね」

 

「よくわからないけどありがとうでち!」

「あ、ありがとうございました…」

 

「艦娘は人間の悪意にも晒される。気をつけねばね」

「ま、嫌なことは唐揚げでも食べて忘れなさいな」

 

「唐揚げ、おいしいでち!」

「そうかい!あっはっは!」

 

「いた!社長!社長!」

「あーれ、見つかっちゃった。あなた、どうする?」

 

「まあ、決まってる。せっかくお忍びで来たんだ。逃げる」

「じゃあね、艦娘ちゃん!」

 

夫婦は去っていった。黒いスーツを着た男たちがぐぬぅ!と言って焦っているようである。

 

「な、なんだ?どうなってんだ?」

「さっきちらっと聞こえたんだけどさ。一宮財閥の社長とご婦人がお忍びで来てるって」

 

「ええ!?」

 

イムヤやゴーヤにはわからないが、とにかくすごそうな人に助けられたな…と思うしかなかった。

 

………

 

「ふんふーん!」

 

両手を繋がれてご機嫌なピンクの髪の女の子。その左手を持っている子も髪がピンク色。反対側の子はアホ毛をへろーんとさせながらニコニコと歩いている。

 

「いやぁ、両手に花で漣ちゃんは嬉しいですぞー!」

「あはは、漣ちゃんご機嫌だね」

 

「もう最高だよ!最高にハイッて「それ以上いけません」

 

不知火、漣、潮。最近ようやく2人のわだかまりも解消し、そこに潮が加わって「マブタチトリオ」と言うよくわからない漣が名付けたチームのように、寝るときも風呂に入る時も3人一緒だ。ただ、グループを作っているからと言って他の艦娘との交流がないわけではない。潮は雪風達とも仲がいいし、不知火や漣のギクシャクが溶けたおかげで自然と駆逐艦も集まるし、ほかの艦種の艦娘とも仲がいい。

 

ただ、誰が加わろうと3人はいつも一緒だ。漣が不知火に依存しすぎていると言うこともあった。寂しがりの裏返しであって、今は仲を取り持ってくれようと奔走していた潮にもべったりである。

 

「ぼのやぼろさんとも一緒に回りたかったなぁ」

「漣さん?」

 

「あ、ああいや、も、もうお別れもちゃんとしたから大丈夫だってば。単にもっとみんなでわいわいやりたかったなって。でも、そうだね。誰かのグループに混ざっちゃおうか。今いる誰かの!」

 

「ふふ、賑やかになるから私も混ざろうかな」

「仕方ありませんね…」

 

不知火は少し表情が柔らかくなり、ふっと笑顔を浮かべることがある。ようやく見ることができたありのままの不知火の姿に漣は嬉しくなり、思わず抱き着いたらひっぺがされてしまったことがある。毎日が楽しい。最初は本当に横須賀でやっていく気もなかったのだが、今では不知火と潮。そして少しずつだが横須賀のみんなと仲良くやっていきたい。そう思っている。

 

「阿武隈さんみぃつけたぁ」

「ひゃああああああ!!!!!」

 

キーンと高周波が周囲に広がり、道行く人が耳をふさぐ。ゴッと漣の頭にはゲンコツが落ち、うずくまる。

 

「うおおおお…」

「耳いった…阿武隈にちょっかいかけないでよ!」

 

ゲンコツの主は五十鈴で。耳元で生ぬるい息を吹きかけられ、ねっとりと名前を呼ばれた阿武隈は半泣きになって腰を抜かしていた。

 

「あわ、あわわわ…あわわ、さ、漣ちゃん…」

「すいませんっした…」

 

「誠意がこもってない!やり直しよ!」

「すいませんでしたあああああ!!!」

 

腰の角度が90度曲がってるんじゃないかと言うくらいの謝罪の敬礼。阿武隈はドッキリや怖いもの系が苦手だ。知っていながら阿武隈に仕掛け、高周波を出させた罪は重い。五十鈴に怒られている中、阿武隈はすぐに気を取り直し、チョコバナナを潮や不知火と食べ、おいしいね~♪とのんきである。

漣はチラチラとチョコバナナがうまそう…と横目をやるものだから五十鈴のお説教時間が追加。助けて…と言う目で潮を見るも、ごめんね…と言うような顔をして阿武隈達と歩いて別の出店に行ってしまうのであった。

 

「どこ見てんの?まだ話は終わってないわよ!」

「あの…」

 

「なによ」

「阿武隈さん達、行っちゃいますヨ…」

 

「……こぉらあんた達!!!!」

「ぴゃっ!?」

 

結局、五十鈴の「まったく…」と言う言葉で長時間説教は回避された。回避された理由が「五十鈴も回りたいのに抜け駆けしないでよ!!」と言うもの。五十鈴も浴衣でずいぶんとはしゃいでいたので、やはり祭りの雰囲気を楽しみたいようだった。それもかわいい妹と。

 

「あむっ」

「あー!あたしのチョコバナナー!」

 

「ふふん、五十鈴を放って出店を回った恨みよ」

「ううー…阿武隈もそれ食べる!」

 

「何言ってんのよ、お姉ちゃんのを横取りする気!?」

「お姉ちゃんだって妹の食べたでしょ!?」

 

「やれやれ…五十鈴さんはこれだから…うっしー、漣ちゃんの分はあるよねー?」

「………」

 

「は?じゃあ、ぬいー」

「………」

 

「は??????」

 

不知火と潮のチョコバナナは見事に食べ切ったあとだった。漣がにっこりと2人を見ても、彼女らは目を逸らすだけだった。ニコニコと笑っていた漣の顔が、みるみるうちに怒りに変わる。

 

「ムッカー!!!人が怒られてるときにのーーーんびり何か食べてると思ったらさっさと漣ちゃんの分もなしに食べたぁ!?ムッカー!!」

 

「漣さん、落ち着いてください。そう言うと思って焼き鳥串を買っておきました。あーん」

「……あーん……うっまーーー!!!!!」

 

(不知火ちゃん、あれ自分で食べたいからって言ってたのに…うまいなぁ)

(食べ物で釣るのは漣さんには有効です)

 

目での会話。不知火は何か漣が不機嫌になったとしても、コロッケを半分あげるだとか、おやつをあげるだとかすると機嫌が直る。長年の付き合いだからなのか、それとも最近知ったことなのか。とにかく何か騒ぎ出したときにはおやつなどをあげている。

 

(あ、あれよく見るとねぎの方が多い…)

 

そしてちゃっかり不知火は、自分が食べる量が多い方や、メインとなるものを食べる量が多いものをすかさず選び、おいしく頂いている。ちなみにもう肉の量が多い方であったが、漣がわからないように2口ほど食べており、大きさを同じように偽っていた。素早い…。

 

「はい、じゃあぬいもフランクフルトをどうぞ!」

「ありがとうございます」

 

パクリと結構な量をいったが漣は気にしていない。むしろニコニコしている。

 

「うっしー!うっしーもどうぞー!」

「え?わ、私が食べちゃったら漣ちゃんの分が…」

 

「あー、ノープロよ!漣はちゃんと自分の分用意してるから!」

「そ、そうなんだ…」

 

「漣さん、もうひとくち」

「だーめだっての!さ、うっしーもどうぞ!」

 

「くっ…」

「い、いただきまーす…んむっ!?」

 

口を押えてその場でジタバタ足踏みをはじめ、何か落ち着きがない。だんだんと涙目になってと言うか泣き出したが、吐き出せない、飲み込めないでどうしたらいいかわからないようだ。

 

「ちょ、ちょっと大丈夫?このビニール袋を使って!」

「ぶえ…」

 

何というか、女の子が絶対に見せてはいけないシーンだった。原因はたっぷりフランクフルトに塗られたマスタード。潮はからいものが大の苦手だ。カレーでさえ、カレーの中でも響と霞しか食べない超甘口(間宮仕様)でないと食べられない。つまり、マスタードなど潮にとっては一般人がジョロキアをまるかじりした時くらいの殺人的辛さである。

 

阿武隈が甘いジュース(大サイズ)を買ってきて飲ませてあげると一気飲みである。ゴキュゴキュ言いながら飲んでいる。

 

「プハァ…!!!………けぷっ」

「うっしー、だいじょぶ?」

 

「ご、轟沈するとおもったよぉ…」

「んな大げさな」

 

「あー、あたしも辛いの苦手だからわかるかも…お姉ちゃんの辛いのを間違えて食べた時、ほんとに死ぬかと思ったもん」

 

「あれはあんたがうっかりしすぎでしょ」

「えー」

 

まだピリピリするのか落ち着かず、そわそわしているが何とか落ち着いた。阿武隈がとっさに出したジュースが炭酸でなかったのがさらに救いだった。阿武隈も炭酸が苦手だ。鎮守府の業務用の特大冷蔵庫には果汁100%ジュース、炭酸飲料、乳酸菌飲料、牛乳、お茶、アイスティーなどがたくさんある。なぜかコーヒーはみんな苦手で誰も手を付けないので間宮が作らなくなった。

 

阿武隈は潮が飲み物を飲んでいるところをよく見かけるが、自分と同じく果汁100%ジュースか乳酸菌飲料を好んで飲んでいるのを知っていた。このしゅわーってするの、お口の中がぴりぴりするんで苦手なんですと聞いていて、自分も同じなんだ、と意気投合した。辛い物が苦手。炭酸が苦手。なんだか似たところが多いね、と言って話に花が咲いた。

 

「阿武隈さん、ありがとうございます」

「ううん、黄色いのが見えたから辛そうと思ってたら、ほんとに辛かったんだね」

 

「はひ…」

「あ、じゃあこれ、一緒に食べよ?ベビーカステラって言っておいしいの!」

 

「わ、甘くていい匂い…いただきまーす」

「あーあ、うっしーまた食べてる」

 

「漣さん、卵せんべいを食べながら言うセリフではありませんね」

「んぐっ」

 

「あんたも焼き鳥追加で食べてるくせにね」

「そういう五十鈴さんもですが」

 

「な、なにをー!?」

 

何だかんだで不知火たちはわいわいとそれからも食べ歩き、花火が始まる頃にはお腹がいっぱいで苦しいくらい食べたとか。

 

………

 

「すみません。助かりました…」

「ありがとうございました。私たちではどうにも…」

 

「いえいえ。まったく、チャラチャラといけ好かないですね。司令は…あー…そこまで硬派でもないですけど、あんな軟派ではないし、ああ言うのは嫌いですから」

 

いつもの緑のメガネをくいっと上げてふんっと息を吐く霧島の横でペコペコとお辞儀をする銀髪の浴衣の女の子。鹿島と黒く長い髪が美しい祥鳳だ。ただ歩いているだけなのだが、鹿島はとびきりかわいいし祥鳳は美人だ。2人が歩いているだけで続々と男がナンパしようと声をかけてくるのであった。何とか鹿島がかわしていたのだが、最後の3人だけは異様にしつこく、目がギラギラしていてとても怖くて声が出せずに居たところを霧島が機転を利かして男を撃退したのであった。

 

「お巡りさん!こちらです!!あそこで女性が危ない目に!!」

 

その言葉に慌てた男たちは退散。もちろん、霧島のハッタリである。

 

「ま、あれで逃げなければ私のこの拳が火を噴いていたでしょうけど」

「だ、だめです!霧島さんがそんなことをすればよくないことに!」

 

「うーん、まあ逃げてくれたのでよしとしましょう。では、私もお供しますよ」

 

すると安心したのかしっかりと腕にしがみついて歩く鹿島と祥鳳。何も気にせず祭りの雰囲気を楽しむ霧島。おっ、と言うと半ば2人を引きずるようにして、やぐらの方へ歩いていった。

 

「楽しそうですねー!」

「おー、お嬢ちゃんも踊るかい?形なんてないさ、踊れや踊れじゃ」

 

「ふふっ、わかりました!」

「あわわ、き、きり、霧島さん!」

 

ぐわっと腕を振り上げてしまったので鹿島と祥鳳が持ち上げられそうになったので慌てて離す2人。霧島は話しかけた老婆の踊りを見よう見まねで踊る。

 

「姉ちゃんスジがいいねぇ」

「ありがとうございます!」

 

周りの爺さんやおばさんたちも若い者(?)が踊ってくれることが嬉しいのか「よっ、いいねえ!」だとか「美人が踊りゃ映える!」と乗り気になってきたのである。浴衣姿の背の高いきれいな女性、霧島が踊ることで行き交う人の目にも止まる。

 

「鹿島さんと祥鳳さんも踊りましょう!楽しいですよ!」

「わはは、姉ちゃんらも踊れ踊れー!踊る阿呆に見る阿呆!同じ阿呆なら踊らにゃ損損!わははは!」

 

「だぁれが阿呆だこのクソジジイ!!」

「なんじゃとこの!」

 

そのケンカでさえわははは!と笑い声があがり、霧島もおかしいのか笑っていた。霧島は時々図書館で縁日のことなどをもっと楽しみたいといろいろと文献を漁っていた。間違った方向の漁り方であったが、それはそれで霧島も楽しむものを見つけたらしく、それがこの縁日の踊りであった。意味はいろいろとあるが、陽気に踊ろう的なノリが霧島にはヒットしたらしく、ここに来たら参加しよう。絶対参加しようと決めていた。

 

人間も艦娘も関係なく踊る。鹿島や祥鳳も楽しんでいるようだ。

 

「え、ええっと、こ、こう…」

「お嬢ちゃんリズム感がないねぇ…」

 

「お嬢ちゃん、舞踊でもやってたんかい?優雅だねぇ」

「え、ほ、ほんとですか!やったー!」

 

………

 

「あー!楽しかった!」

「う、うう…ロ、ロボットだなんて…」

 

「ふふ、霧島さん、楽しかったです!」

「ええ!私も堪能できました!」

 

参加賞としてもらった「〇〇町内会 盆踊り部」と書かれたタオルで顔の汗をぬぐいながらさっぱりした顔でいる霧島と、「姉ちゃんロボットみてえだな」とおじいさんに言われてショックを受けるほどのひどい踊りを披露した鹿島。日本舞踊のような振る舞いと言われ、ご機嫌の祥鳳。三者様々。楽しい時間だったようである。鹿島は謎であるが。

 

「さ、そろそろ花火の時間ですね。集合時間に遅れるわけにはいきませんので行きましょうか!」

「はい!」

 

「はーい…」

 

宴もたけなわ。もう間もなく、花火大会が始まる。艦娘はそれぞれ集合場所を目指して歩いていた。

 

 

「はあ…ひでえ目にあった…」

「あははは…」

 

「横須賀鎮守府一同様」と書かれた場所に集まって、松子の撮影地獄を逃げ出してきてぐったりしている摩耶と古鷹。わたあめやらフランクフルトなどを食べながらまだかまだかと空を見上げる駆逐艦たち。それぞれがもうすぐ始まる花火大会に期待を膨らませていた。

 

「あら、早かったのね」

「いーすーずー…もうあたし疲れたよ…」

 

「あー、松子さんに捕まったんだっけ?ご苦労様」

「早々に逃げ出しやがって…あたしと古鷹はずーっと撮られてたんだかんな!鳥海も逃げやがって!」

 

「いくらでも梅おばさまたちも行きなって言って下さったし、逃げる機会はあったはずよ?」

「ま、摩耶さんが、で、でもよお…こんなに泣いてるのにって…ウソ泣きに騙されて…」

 

「摩耶はそういうとこ騙されやすいから…変なツボを買わされたりしないでね」

「うっせえ!!」

 

………

 

「はなびはなび!楽しみ~」

「ボクもボクも!!図鑑では見たんだけどかわいかったよ!」

 

「もうすぐ始まるって!」

「ありがたいね。場所まで用意してもらって」

 

「竹おばさんと徳さんに感謝です!」

 

「ねーえ扶桑さん?暑いんだけどぉ?」

「ふふふ、いいじゃない♪」

 

「響ちゃん、お行儀が悪いのです」

「空を眺めるには寝そべるのが一番だよ」

 

それぞれが始まるのを待っている。

 

「おー、セーフセーフ!間に合った!」

「瑞鶴おっそーい!」

 

「ごめんごめん!提督さんと翔鶴姉はうまくいきそうだよ」

「おー、そっか」

 

最後に瑞鶴がやってきて、島風に抱き着かれ、座ったら膝に乗られて暑さを覚えながらも悪い気はしなかった。

 

「ぽい?真っ暗になったっぽい」

「始まるかな?」

 

辺りの照明が落ち、期待をして皆で静まり返って待っていると…。

 

ヒュルルルル………ドン!!!!

 

夜空を眩く照らす花火が腹に響く轟音を立てて咲いた。おおー!と誰だろうか。龍驤の声のような気がしたが、驚きと感動の声をあげた。

続いて夜空に何度も咲く色とりどりの花火。時に大きく、時に控えめに。何発もあがる初めて見る花火に誰も言葉を発しず、見惚れている。

 

「きれい…」

 

そう発したのを聞いた時雨は隣で空を見上げる吹雪が涙しているのを見た。

 

「吹雪、どうしたの?」

「……きれいだなぁって。私…私…こんな素敵な…の…見れ…見れて…私…ここに、ここ…来れて、よかっ」

 

時雨が吹雪を抱きしめる。朝潮たちもそれは見ていた。朝潮も少し涙が出たのが目をこする。吹雪が妹の犠牲のもとに生きている、と重荷に感じていると言うのを時雨は聞いている。今を毎日一生懸命、そして楽しく生きている吹雪だが、妹が無理やり海に駆り出され、悪い人間と共に沈んでしまったこと。守り切れなかったことをひどく後悔している。

 

吹雪は真面目だ。辛いとも苦しいとも一言も言わず、真面目に練習し、勉強もする。でも、吹雪だって遊びたい盛りの女の子だ。皐月や文月が遊んでいるのを見て羨ましいと思うこともある。吹雪は妹は守れなかったが今度はここにいるみんなを守る。その重い決意を胸にがんばってきた。改二にもなれた、摩耶には信頼されている。龍驤にもかわいがられている。そんなことに慢心など一切せず、真面目に。

 

何かに感動する。それはやはり人の心と同じものを持つ艦娘だから。そうしてあふれ出た涙を皮切りに、いろんなものがあふれ出てしまったようだ。

 

頼れる仲間。いつも一緒にいることが多い摩耶さん。厳しいけどいつも最後は褒めてくれる龍驤先生。そして、自分は気にせずに温かく迎え入れてくれて、いつも優しくしてくれる司令官。本当にここに来れてよかった。その思いが心の底から出てきたので、ボロボロと泣きながらこうしている。

 

「吹雪はいろんなもんをずーっとため込みすぎや。泣け泣け。いーっぱい泣け」

「そうだぜ。時々くらーい顔してたの知ってたんだかんな!あたし達がいんだろ。時雨もそうだし、あたし達にももっと頼れよな!」

 

「ううっうわあああああん!!!!うわああああああああん!!!!」

 

ああ、本当にここに来れて。司令官やみんなに出会えてよかった。胸がじんわりと温かくなった。

 

「朝潮も泣いていいんだよ」

「意味が分かりません」

 

「つれないね」

「余計なお世話です」

 

朝潮も宿毛湾の艦娘だからもしかして…と思ったら全然相手にされず、やや頬を膨らませる響。こんな言い合いをするけど、練習の終わりには拳をコツンとぶつけあう仲だったりするからよくわからない。

 

………

 

泣きながらも花火を見て。いつの間にか笑顔で花火を龍驤や摩耶、時雨達と見ていると笑顔になって花火を楽しんでいた。何か吹っ切れたのか。それならそれでいい。龍驤も笑った。

 

楽しい時間も終わり。花火が終わり、周りの観客が立ち上がって帰る準備を始めていた。んー!と摩耶も伸びをする。

 

「文月ちゃん?はしゃいで疲れて寝ちゃったかしら?」

「花火が終わったらもう眠そうにしていましたからね」

 

「大和さん、皐月ちゃんをお願いできますか?私は文月ちゃんを」

「はい。お任せください」

 

「んー。ちびっこはもう寝る時間だもんな。あーあー、吹雪も寝ちまったか?」

「んにゃ…起きてまふ…」

 

「ダメだこりゃ。ほれ!」

 

摩耶がおんぶすると言う格好になると吹雪は一瞬ためらったが、あまりの眠さに摩耶に甘える形となった。

 

「よいしょっと!なんだ軽いな。ちゃんと食ってるか?」

「女の子にそんなことを聞いて。摩耶の体重を吹雪さんに言ってあげようかしら?」

 

「おい鳥海!やめろよ!」

「むにゃ…」

 

「摩耶?吹雪さんが背中で寝てるんだから静かに」

「~~~~~!」

 

「おっ!なあ、これあたしの小遣いで買っていいか?」

「花火?」

 

「中庭でできそうだろ。鳥海、あたしの財布からお金出してそれ買ってくれ。みんなで鎮守府でできるから、霞たちともな」

 

「ふふ、いいわね。わかったわ。私も出すわ」

 

「私も出します!」

「おー、古鷹、いいのか?」

 

「はい!みんなで花火をやればいい思い出になりますから」

「よっし、やるぞ!」

 

そうして摩耶が言い出したことだが、重巡、軽巡、そして瑞鶴もお金を出してたくさんの花火を買う。きっと楽しい。そう信じて。

 

「おー、お疲れさん。花火は楽しめた…みたいだな。ははっ、皐月に文月はいつも通りだけど吹雪もか。かわいい寝顔してんな」

 

「提督、おんぶ代わってくれよ」

「バスに乗ったら一緒だろ?ま、鎮守府に着いたらどうせ雪風や霰も寝るだろうし、協力お願いしまーす」

 

「クッソ!」

 

そうブーたれる摩耶だったが、明日の花火を楽しみしてバスに乗り込み、吹雪を座らせて自分も隣に座り、いつもより少し安心して寝ているように見える吹雪の顔を見てクスッと笑うのであった。




それぞれの夏祭り、いかがだったでしょうか?翌日は中庭で長門たちが見える場所で花火をし、楽しんでいるところを見せたりしていました。

さて、次回からは急展開な話になっていきます。吹雪たちの元提督に何かが?次回をお待ちくださいませ。
それでは、また。
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