提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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新展開スタートです。

今回は宿毛湾泊地の艦娘によく視点が当たるかと思います。今回も新艦娘が出てきます。慌ただしい時系列になるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。


第百四十二話

「おい、ふざけるな!!!何で俺がなんだよ!俺は何もしてねえ!!!」

 

「証拠は全て揃っているし、貴様が関与していることも全て把握済みだ!逃げられると思ったか!」

 

「ちくしょう!離せ!離しやがれ!!!チクショウ、誰だ俺のことをチクったクソッタレは!!!」

 

「勇気ある者だった。貴様は知る由もない。来い!!」

「ちくしょう!!ふざけやがって!ちくしょう!!!!」

 

古井司令長官お抱えの憲兵隊第一部隊の四宮隊長が手錠をかけて無理やり歩かせている男。この男、宿毛湾泊地の提督である。安久野と手を組んで多くの悪巧みを行っており、安久野が消えたことでうまくいろいろと証拠を消して悪事をやっていたのだが、ここにきて突然彼の悪事の一部が露見し、調べ上げた結果逮捕に至ったと言うことである。

 

彼が逮捕された翌日には大本営の掲示板にでかでかと「号外」と書かれた新聞のようなものが何枚も貼られていた。

 

「鬼畜提督 艦娘オンリーの風俗店経営でぼろ儲け!!」

 

すぐさま剥がされ、破り捨てられてしまったが職員の多くが目にしたために昼の食堂では事務の女性職員がその話でもちきりで騒がしいほどであった。

 

「ねえ見た?朝のあの号外。やばいでしょ」

「宿毛湾のだっけ?怖いわよねぇ…」

 

「見た見たそれ!艦娘ってみんなかわいい子だったり美人だったりさ。ひどい提督もいるものねぇ…大湊の一宮様を見習ってほしいわ」

 

「宿毛湾の提督ってさ、艦娘をやばい実験施設に送り込んだりとかそんな噂もあるんだって」

「マジ!?激ヤバじゃん…そんな人を提督にするってさぁ…」

 

そうした話でもちきりでありもはやもみ消しもできず、ひいては大本営の人事が炎上する事態に陥った。もちろん、古井司令長官にもその火の粉は降りかかる。

 

………

 

「司令長官…よかったんですか…?大本営の支持力はガタガタになってしまうと思うんですが…」

「構わないよ。妖精が見える提督が少ないからとホイホイと採用してしまった責任は我々にもある。責任を取って司令長官の座を下りるなどとんでもない。私は私なりの責任の取り方をするよ」

 

「そうやって苦労ばっかり背負い込むんだから…」

「ですが、これでよからぬ事を企んでいるかもしれない提督への抑止力にはなりました。悪事は全て見つかるぞ、と」

 

「うむ、だがそれだけではいけない。空白になる宿毛湾泊地については異動を考えよう。1人、できれば本土近くに置いておきたい提督もいるからね。幸い今いるところは空白でも問題はないのだが…まあ誰かを立てるとしよう。ううむ、防衛省も動き出して厄介なことになるね」

 

幸い世間には「違法風俗経営」と言うことで宿毛湾の提督であると言うことも明かされず、艦娘や提督がどうこう、と言う事情は防衛省の圧力により消されたし、大本営とごく一部の者しかこの案件は知らされていない。

 

「横須賀鎮守府からの一報で、ようやく手をこまねいていた宿毛湾の奴の悪事を暴き、逮捕するに至ったわけだ。これも正直とんでもないことなんだが、私としてはもっと早く、研究所での件を暴いて逮捕してやりたかった。そうすれば、もっと早く、被害にあった艦娘達を救出できたかもしれんのだが…」

 

「遅くなったとは言え、これで宿毛湾の艦娘達も自由になることでしょう」

 

「うむ。大湊、佐伯湾。それから鹿屋の提督達がそれぞれ引き取ると言っていた。横須賀ももちろん言ってきたんだが、これ以上玲司に負担をかけるわけにもいくまい。ただまあ、双子の潜水艦を潜水艦不足と言うことで送ることにした。今回の横須賀への異動はそれだけだよ」

 

「玲司君、だいぶ怒ってたんじゃない?」

「いや…それがだね。『ああ、ならうちへ案内してあげてほしい。一宮提督のとこに回すのか?それなら安心だ』と穏やかでね…激怒すると思っていたんだが…」

 

「ふふ、玲司君も成長しているのね。すぐ感情的になると見えるものも見えなくなるものですから」

 

「ま、まあすんなりといってよかったかな…行かせるのは『伊13』と『伊14』だ。小規模な合同作戦を実行した際に邂逅したようだね。体が貧相だからウリに出せないと怒られたと言っていたようだ。しかしまあ…艦娘を売りに出す。嫌な響きだね。信じられん」

 

「見た目は人でも人とは違う。だからこそ平気でそう言うことができる。人間って恐ろしいものね」

「恥ずかしい限りだ…」

 

頭を抱える古井司令長官と呆れかえる陸奥。目を閉じて宿毛湾の艦娘達に思いを馳せる高雄。

 

「しかし、宿毛湾の逃げ出した鈴谷君が、何の因果か横須賀に保護され、されてきたことを暴露か。以前の横須賀の名取君を彷彿とさせるね」

 

「ああ、あれね。艦娘を救うのは艦娘。あまりにも報われない話ね」

「…………」

 

「けれど、そんな中でも人間に救われる艦娘もいるのですね。艦娘のために奔走する人がいることを私たちは信じて戦うしかありませんわ」

 

「玲司や一宮提督、九重提督、七原提督。彼らが艦娘をそうして守り、優しくしてくれる。艦娘の人への信頼が薄れていると感じる昨今、強い絆で結ばれ、お互いに信じあって戦う彼らを見ると本当に泣けてくる。ああ、それから不器用なやり方ではあるが、刈谷提督もね」

 

「タウイタウイから異動した愛宕、とても元気になっていると聞いたわ。うるさいくらいって」

「それならよかった。若き提督のために、私は少し大臣に怒られてくるとしよう」

 

「そ、そんな…」

「ああ何、気にすることじゃないよ。高雄、青葉君。明日は頼んだよ」

 

「はいお父様」

「お任せください!」

 

海軍を変えていくには大臣にもいい加減訴えていかないといけない。今までもみ消されていた艦娘への風当たりを防衛省大臣。ひいては総理大臣に訴えねば。大臣たちは艦娘に対して好意的だ。さて…どうしてくれようか。

 

古井司令長官は少し悪い顔をして笑っていた。艦娘のため、ひいてはかわいい息子がよりよい環境でやっていけるなら、私は鬼にでもなる。そう決めているのだから。

 

 

「あらぁ、逮捕されちゃったの~」

「ちんけな悪党の最後はちんけなもんだな」

 

鹿屋基地でも宿毛湾泊地の提督のことは虎瀬中将から知らせが届き、知ることとなった。刈谷提督は宿毛湾泊地の悪事を追いかけていたのだが、大企業の幹部、社長、政財界の大物までが絡んでいたために大事にできず、手をこまねいていたのだが、古井司令長官が憲兵隊を動かし、表に知られることはせずにできたが、海軍内部では大事になるほどであった。

 

「古井司令長官も思い切ったことをするクマ。もしかすると消されるかもしれねえクマ」

「無理だな。その辺の小悪党以上にでけえパイプをいろいろと持ってるからな。外に漏れず、内部だけに漏れるようにしたのは古井のおっさんが細工しやがったからだ」

 

「すげえクマ…」

「あのおっさん、人畜無害そうに見えて相当腹黒いぜ。ま、その方向が艦娘と三条の奴に向いてるから俺らには無害なんだけどよ」

 

「三条提督にクマか?」

「そうじゃなきゃ2年ブランクのある自分から将官の座を蹴った准将なんざあの横須賀に置くかよ。ショートランドの英雄って言うのあるし、横須賀を任せるに足る提督がいなかったってのは事実だけどな」

 

「なるほど…確かに言われてみれば…」

「大和や武蔵も、横須賀は防衛の最重要拠点だからあそこに置いて、建造したものがきっちり管理するのは当然。そう言ってたけど、三条が死んでも手放したくねえって言うのをおっさんが聞き入れてるからだ。まあ、あんな馬鹿共に大和と武蔵渡したらすぐさま轟沈させるだろうし」

 

「違いないにゃ。金剛型でさえ沈めて懲罰行きになる提督もいるにゃ。バカもバカにゃ」

 

「あのおっさん、総理大臣や防衛省大臣、その他の偉いさんともつながりがある。おっさん消そうもんならそれこそえらいことになる。大本営でさえ知らねえだろうけどな」

 

「食えないおっさんクマ」

「猛毒ねぇ」

 

だからこそ10年以上も司令長官をやっていられるのだ。艦娘のために。軍をよりよくするために方々に繋いだパイプをフルに使っている。置物の司令長官と揶揄されているが、その裏でやっていることは常人なら過労死するのではないか?と言うほどの過密な業務である。

 

「売った艦娘だろうと何だろうと、きっちり管理してねえから思わぬとこから情報が洩れんだよ。頭が足りねえヤツが金儲けに走るとこうなるんだ。俺ならもっとうまくやる」

 

「怖いクマー。優秀でかわいい球磨ちゃんもこの大悪党の提督にいずれ売られるんだクマ。そんでもってエロ本みたいなことをされるクマ」

 

「にゃー…こわいにゃ」

 

「んなことするかよめんどくせえ。テメエらは俺のもんだ。売って戦力が低下するのは困るから、一生こき使ってやる」

「安心したクマ」

 

「ぱんぱかぱーん!おやつをお持ちしましたー!」

「愛宕うるせえクマ!!!」

 

鹿屋基地。最近ますますにぎやかになり、鬱陶しいと言いながらも楽しそうに仕事をする刈谷提督の姿が執務室にあり、最近では食堂に顔を出すようになり、寄ってきた駆逐艦の口にフライドポテトをねじ込んだり、好き嫌いする艦娘に食べねえならテメエのやらかした恥ずかしいことを暴露すると脅迫する姿が見られるようになったとか。そして最近、鹿屋基地では駆逐艦と愛宕がぱんぱかぱーん!と事あるごとに言うため、うるせえと言っているようである。

 

 

「鈴谷。よく勇気を出して言ってくれたな。鈴谷のおかげで宿毛湾の提督、逮捕されたって」

「そ、そうなんだ…」

 

「宿毛湾の艦娘はうちは『伊13』と『伊14』だけ異動させて、あとは他の提督が面倒を見るそうだ。大丈夫、異動先の提督はみんな宿毛湾の艦娘を大事にしてくれるさ。信頼できる」

 

「それは…あたしに言われてもなぁ…」

「む?」

 

「鈴谷は…その…あそこに着任してすぐに、体をジロジロみられて使えるって言われて…そのまま…」

「とんでもねえ野郎だな」

 

呆れ返っていた。本当に吹雪や朝潮たちへのことと言い、それも思い返すだけで腹が猛烈に立つのだが怒りを抑えて冷静にした、とにかく、鈴谷がされたこと、そして吹雪や朝潮も改めて司令長官、虎瀬中将に話したおかげで事態が動いた。今回の一件は司令長官だけでなく、別の何かが動いていたようにも見えたが、深入りはやめておこう。藪をつついて蛇どころか龍でも出てきそうであった、

 

「しかし、聞き出そうとした俺もいきなりとは思ったけど、俺を信用してくれるのか?」

「吹雪ちゃんやみんなのことを見てたら提督がどれだけ信用されてるかってわかったし、それに、私もオムライスを作ってくれたときのことでちょっち信用できるかな。信じてもいいかなって思ったんだ」

 

「あれか?ああ、あれはまあみんなにも言ってることだしなぁ」

「みんなを家族って呼んで、私もそこに入れてもらえるって、なんか嬉しかったんだ」

 

胸に手を当て、目を閉じて嬉しそうに振り返る鈴谷。そのことは鈴谷にとっては初めてのことであり、温かさを感じるものだった。

 

………

 

彼女はなかなかに複雑で、なんとこの頃顔が出せていなかった喫茶「ルーチェ」で数ヶ月生活をしていたのだと言う。ここに来るきっかけは、夏祭りの少し前、たまたま最上と三隈、熊野が「ルーチェ」に寄り、鈴谷がそこで働いていたからだ。

 

最上達の猛烈なプッシュにより、何度か横須賀に来ないかと最上達が説得に行ったのだ。夏祭り以降もとにかく最上、三隈、熊野が執務室に押しかけ、何としてでも鈴谷をここに招きたいととてもとても騒いで仕事にならなかった。

 

結局マスターの説得、玲司との面談、あまりに騒がしい最上達により、鈴谷は鎮守府にいた方が安全だし、姉妹もいるし…と言うことで折れた。

 

宿毛湾の艦娘がここにいると言うことを聞いた鈴谷は最初、連れ戻されるのではないかと心配していたのだが吹雪や朝潮たち、鈴谷は知らないが元宿毛湾泊地の艦娘達が今どういう生活をしているかをしっかりと聞き、横須賀鎮守府が安全である、とわかりようやく安心した。しかし、吹雪や朝潮たちもかなりひどい目に遭っていたという話を聞き、さらに心の壊れた霞を見たことで、だんだんと宿毛湾の提督に怒りがこみ上げ、自分がされてきたことを全て玲司に打ち明けた。

 

「よし、話はわかった。鈴谷、ありがとう。これであのクソ野郎を追い出すこともできる。鈴谷、もう一度その内容を司令長官に話してもらうことになるけど、いけるか?」

 

「いけるよ。これ以上鈴谷や吹雪ちゃんたちみたいな艦娘を出したらいけないと思う」

「よし。ありがとう、鈴谷。今日はもう部屋に戻っていいよ。早く帰さないと最上達がうるせえのなんの…」

 

「あはは…30分以内に返してだもんね…もう2時間オーバーしてるけど…」

「なーに、ハンバーグくわせときゃおとなしくなるから大丈夫だ」

 

「えー…」

「さて、大淀。悪いけど抜けるぞ」

 

「はい!オムライス、期待していますね!」

「司令官さん、お疲れ様でした。期待しています」

 

「司令!こちらはお任せあれ!」

「おう。いつもこれくらい簡単に抜け出させてくれるとありがたいんだけどな!!」

 

「え、提督が料理作るの?ちょっと気になるかも」

「見に来るか?おもしろいところはないと思うぜ」

 

それでもいいから!と聞かないので鈴谷を連れて食堂、厨房へ。厨房では間宮がすでに準備を始めていた。山のようなタマネギのみじん切り。ツンと強烈なタマネギの匂いに目が痛くなった鈴谷。

 

「ど、毒ガス!?」

「タマネギだっつーの」

 

「ふふふ、いらっしゃい鈴谷ちゃん。私は間宮。よろしくお願いします。今日から鈴谷ちゃんも横須賀の一員になるのね?」

「は、はい。そうです。よろしくお願いします…」

 

鈴谷は本来ならば最上型の中でも一番のお調子者、と言うと失礼だが明るく元気のいい性格をしていると聞いているが、事情があるのだろう。そう間宮は察した。この鎮守府では珍しくないのだから。

 

「間宮、いけるか?」

「はい、準備はできております」

 

「よし、じゃあ後は任せたぜ」

「はい!」

 

そうして豪快にタマネギを炒めだす玲司。レタスをちぎる間宮。提督が料理?と頭に「?」をたくさん浮かべている鈴谷。提督と言えば普通はさっき執務室でやってたように執務をしているか(宿毛湾の提督は鼻をほじって仕事など艦娘に全て投げていたが)、暴言を吐くか、自分だけご飯を食べているか、寝ているかのどれかだ。

 

でもここの提督は自分から巨大なフライパンを振るい、料理を給量艦じゃなくて提督が主として作っている。不思議な光景だった。

 

「提督よ!!!!いい匂いがすると思ったらおむらいすを作っているのか!?」

「おう、武蔵。鈴谷が新しくうちの仲間になるからな。新しい艦娘が仲間に加わる際はオムライスをふるまうのが俺のルールだ」

 

「そんなもんは知らん。毎日作れ」

「無茶言うな!!オムライスって結構大変なんだからな!!」

 

「おうっ!タマネギの匂い!これはオムライスだね!」

「ぽいー!中庭でお昼寝してたらいい匂いがするっぽい!」

 

「お前らの鼻は犬の嗅覚持ってんのか」

「あー、ついでにハッシュドポテトもつけてくれると北上さんは嬉しいぞー」

 

「はいはい。じゃあ今日は特別ですよ」

「いえーい。言ってみるもんだね。ところで新しい艦娘?」

 

「え、あ、はい。鈴谷です…元宿毛湾の…」

「あー、ふぶきちや朝潮たちと一緒かー。いらっしゃーい。我々は鈴谷を歓迎する―」

 

「歓迎するっぽい!」

「島風だよ!疾きこと島風のごとし!です!」

 

「よろしくお願いします」

「ほいほいー。で、鈴谷鈴谷ってうるさかった最上達は?」

 

「えーと…部屋にいるんじゃないかな」

「おーい玲司ー。後が怖いんだけど」

 

「俺に言われてもな。まあここに呼んだの俺だけど」

「うわ、あたししーらない」

 

そうかよと言いながらもフライパンはずっと振っている。やいのやいのと言っている間に白いご飯が入り、誰かが「おおおー」と声をあげる。たぶん駆逐艦だろう。しばらくして赤いものを入れ、赤だかオレンジだかに染まっていくご飯。さらに「おうっ!おうっ!」と喜んでいるらしい声があがり、島風が飛び跳ねている。待ちきれない様子だ。

 

「これって提督が食べるの?」

「こんな量食えるかっての。うちの鎮守府は今は忙しくて毎日作れないけど、俺が料理を作ってることもある。昔は毎日のように俺が間宮と作ってたんだけどな」

 

「何?ずるいぞ提督。私にも毎日作ってもらおうか」

「無理だっつーの。大淀、鳥海、霧島、妙高がいても書類が終わるの、夕飯ギリギリなんだからな」

 

「私のお料理ではお気に召しませんか…」

「ああ、いや、違うぞ間宮。そういうわけではない。間宮の飯も特別うまいんだ。だが、時々猛烈に提督の飯が食いたくなる」

 

「それは私もですね。だから提督が厨房に立った時はわくわくしちゃいます」

「毎日わくわくさせろってか」

 

「まあ、仕方があるまい。貴様が私たちをより住みやすく、戦いやすくするために毎日私たちと違う戦いを繰り広げていると言うことはな」

 

「そう言ってもらえるとありがたいね。ところで、武蔵からの要望だった岩盤浴と水風呂だけど、妖精さんがいけるってよ」

 

「本当か!?提督よ、ありがたいぞ。この武蔵が夜一緒に寝てやろう。ふふん、好きにするがいい」

「むーさーしー!!」

 

「む、なんだ。いてててて!耳を引っ張って!おいこら!」

「何を言っているんですか!提督にそんなことをお願いしてお礼にい、いいいいっしょに寝るだなんて!エッチなのはいけないのよ!!提督!武蔵を甘やかさないでください!サウナもダメです!」

 

「そ、そんな…わたしたちのおしごと…」

「え、ええ!?ええと…」

 

「いいんです…わたしたちのことならおかまいなく…」

「わ、わかりました!岩盤浴と水風呂は許可します!でも武蔵!一緒に寝るだなんて私もしたことがないんだからダメです!」

 

「大和よ、ならばいっしょに提督と寝るか?」

「な、ななななな、ダメです!こっちに来なさい!」

 

「いててて!だから耳を引っ張るな!!いてててて!!!ちぎれるだろう!」

 

「いっそがしいねぇ、大和さんも」

「ふふ、ふふふふ!」

 

大和と武蔵のやり取りを見て思い切り緊張がなくなったのか、鈴谷が笑い出した。ここは宿毛湾と違い、本当に自由だ。提督との距離の近さも最上達を見ていればよくわかる。怒らないし対等だ。艦娘のためにご飯を作ってくれるというし、施設も艦娘のためにあるようなものだ。そしてこの艦娘達がのんびりと、明日は自分たちが出撃し、沈む番や人間に売られたり変なことをされることもない。

 

「横須賀はさ。ほんとに安心できる『家』って感じだよ」

 

最上がそう言っていた。部屋は冷暖房完備。次の冬からはこたつも用意しようかと言っているらしい。こたつって何?って聞くと写真を見せてもらったそうだ。楽しみで仕方ないから入れよう、と言うことで決着。それから妖精さんが言うには囲炉裏も作ろうと言っているらしい。どういうものかわからないが、どこかに作るらしい。艦娘も妖精さんも自由。こんな艦娘にとっていい所があっていいものか?と提督に最上が訊いたらしい。

 

「いいんじゃね?」

 

それだけで終わったそうだ。最上はそれを聞いてそっかーで終わらせたらしい。提督もそうだよ、だけ言って終わったらしい。そんな関係が出来上がっているんだ、と鈴谷は思った。だからこそ鈴谷はある程度提督を信用するようになったし、最上が嘘を言っているようにはまったく見えないくらい目がキラキラしていたから。

 

そして待つことしばらく、おいしそうな食べ物が着席したテーブルに出された。鈴谷を部屋に戻さなかったことにブーブー文句を言っていた最上も、オムライスを出されたらすぐさまケロッと態度を変え、おとなしくなった。

 

「遠慮せずに食べていいんだよ」

 

そう最上は言う。熊野はがっついているし、三隈もスプーンを口に運ぶ手が早い。最上もゆっくり味わうように食べだしたのでおそるおそる食べた。

 

「ん!?おいしい!?」

「でしょー?提督のオムライスは宇宙一おいしいんだって」

 

口まわりを汚さないようにゆっくり食べる。熊野は口まわりがケチャップだらけ。頬にご飯粒もつけている。まるで子供だ。でも、そう言う食べ方をしても何も言われない。おいしい。優しい味だ。あのおじさんの作る料理も優しい味だった。

 

(さあ、しっかり食べなくてはいけません。艦娘であろうと、食事を口にしないのは体に毒です。終いには身動き一つできなくなりますからね、まずはゆっくりこのリゾットをお食べなさい。温まります)

 

あのリゾットも忘れられないが、このオムライスも忘れられないだろう。私の好きな味だ。

 

「お味の程は?」

「……うん。鈴谷の好きな味。提督、料理がうまいんだね。おじさんのお店の料理みたい」

 

「そりゃ元コックだからな」

「えー?いつもそうやって大嘘じゃない?美容師の息子とかさ」

 

「バッカ、大本営でマジでコックやってたっつーの。なあ鹿島」

「はい!それはもう提督さんのオムライス目当てに食堂がごった返すほどでしたよ!でも、大本営で食べた時と味が違う気が…」

 

「おー、よくわかったなぁ。味を変えたからな」

「え、ええ!?提督!そんなの聞いていません!メモをしますから教えてください!」

 

「あー、間宮…この味は一番初めて、間宮や夕立、雪風、大淀に出した味。そこから味は一つも変えてないよ。ってか間宮は一回食って微妙な顔したろ」

「ぽい!初めて食べたオムライスと…うーん、たしかに変わってないっぽい?」

 

「言われてみれば、ああ!あれですか!あれは、うーん、そのー…じゃあメモしなくていいかな…」

 

「鹿島が大本営で食ったオムライスはいわばお店で出す用の味。こっちも金もらってたし、下手なことはできないからな。具材もだいぶ違うし。龍驤姉ちゃんや川内、島風はどうだ?」

 

「うちは大本営で食べたんと、家で作ってもろたんと、ここで食べたんと、3つの場所で食べたから言えるけど…」

「お姉ちゃんずっるーい!」

 

「あんたも食べとったやろ!?」

「食堂で食べたことないもん!」

 

「あたしもあるよ。そうだなぁ。あたしも家と、ここで食べる味が好きかな」

「うちもや。大本営の食堂で食べるんはちょっち味付けがちゃう。うまいんやけど、ちゃうねんなぁ」

 

「店の味。家庭の味。その違いだよ。料理に関しては手は抜きたくないからどっちもおいしいって言ってもらえるように作ってる。けど、俺は今みんなに振る舞ってるのは家庭の味のほう。1回だけ雪風と間宮、北上、翔鶴に大本営で作ってたときのオムライスを作ったことがあるんだ」

 

「あー、あれか。あれはねー、うん。おいしかったよ。でも違うんだよね。落ち着かないって言うか」

「雪風も今のオムライスのほうがしれえの味だと思います」

 

「安心できる味…と言いますか…」

 

おふくろの味、とオムライスで言っていいものか憚られるが、玲司は間宮に料理を教えるにしても家庭の味と言うものを出せるようにといつも言っている。帰ってきて、ご飯を食べる、その中で「ああ、今日も帰ってこれた」と安心できるようなご飯を食べてほしい。ゆっくり、時に艦娘とおかずの取り合いになってもいい。ケンカはよくないことだが見ていても笑って済ませられるケンカがしょっちゅう繰り広げられている。

 

この鎮守府は艦娘たちが毎日、ゆっくりできる『家』として存在させたい。きつい練習、命を賭けた戦い。それが終わった後、ゆっくりくつろげる。そんな鎮守府を目指して、妖精さんとも協力して作り上げた。日常では遊んで笑って食べて。食べる時もせかせかとしたものでなく、艦娘同士、提督も混ざって雑談をして安心してゆっくり料理にありついてほしい。そう考えて大本営のときとは違う味付けを研究していた、まだ仕事も艦娘も少なかった頃。

 

家なんだから家の味のほうが落ち着くじゃないか。家族団欒の味。それはもう二度と食べることのできない母の味だ。そして、いつも妹にせがまれて、これだけは母も負けたわ、と言っていたオムライス。研究に研究を重ねた妹が大好きと言ってくれたオムライス。大本営では少し変えてしまったが、今艦娘たちに振る舞っているのは妹が大喜びしていた味のまま。龍驤や島風たちもこの味が好きだと言う。

 

「なんて言うか、オムライス1つでもこんな変わるもんなんやなぁ。うち、この味は好きくない」

「おいしい…ですけど…また食べたいとは私は思いません…」

 

「うーん、これ半分くらい食べると飽きるね。ほんとに大本営の人、これを毎日食べたいって言ってたの?あたし無理」

「しれえ…いつものオムライスがいいです…」

 

今日のオムライスはどうだ。雪風は満面に笑顔で食べている。味付けだけで人を笑顔にもしかめっ面にもできる。

 

「提督はさ、鈴谷たちにこんなにおいしい料理を食べさせてどうしたいの?」

「いや、何も?俺は雪風みたいに笑顔で食べてるのを見て嬉しく思うだけさ」

 

「提督!おいしいかも!」

「おー、ありがとな!」

 

まったくもって他意はない。ただただおいしいと言ってもらえるようにしているだけ。微笑みながらそう言う提督の目は嘘をついている目ではなかった。家庭の味。私も家族…?みんながおいしそうに食べているんだし、間違いなくここはいいところで、安心できる場所なんだ。鈴谷は少し冷めてしまったオムライスを口に運びながら、ようやく安心できるであろう場所にたどり着いたことを内心喜んでいた。

 

それから鈴谷は最上たちにどでかい大浴場、ふかふかの布団。涼しい風が出るエアコン(ただし必ず0300までには電源が切れるようにすること!風邪に注意!と張り紙が貼ってあった)と扇風機(これまた直撃は避ける!首振り必ず!とまた書いてある)を見て、なんだかいい加減心配ばかりするのがバカらしくなってきたので思考を手放したらあっという間に朝を迎えたとか。

 

………

 

翌朝もご飯、味付け海苔、納豆、焼鮭、味噌汁という朝食を平らげた鈴谷。納豆はちょっと慣れそうにない…と思っていたが、なぜかまた食べたいと思うようにごちそうさまをしてから思うのであった。

 

「失礼します」

「おう鈴谷、そこに座って座って。麦茶飲むか?摩耶が作った紅茶とレモンもあるけど」

 

「ん、んー…じゃあ、紅茶で」

「はいよ。摩耶のアイスティーうまいんだなこれが」

 

「司令官、失礼します!」

 

アイスティーを待っていると元気よく吹雪が入ってきた。同じ泊地にいたと言う、自分は顔も見ることなく、泊地からある場所へ連れて行かれたのでわからない。

 

「提督、失礼致します」

 

次にやってきたのは同じく元宿毛湾の艦娘、妙高。今から鈴谷が話すことを聞くためにここにやってきた。鈴谷もそうだが吹雪も妙高も。鈴谷は知らないが奴の被害者である。鈴谷が話したこと。吹雪の話すこと。そして妙高の話、これを用いて宿毛湾の提督にトドメを刺す。そう提督は言っていた。

 

「ほい、吹雪と妙高もな。さ、じゃあ話してて気分が悪くなったなら話すのをやめて構わない。吹雪と妙高も気分が悪くなったら退室して構わないぞ」

 

「いえ。私もあのお方の非道な行為を放ってはおけません。彼から、あそこから目を背け、このまま放っておくわけにはいかなくなりました」

 

「私も…もう初雪ちゃんたちのような子を増やしたくない…今まで忘れたフリのようなことをしてきましたけど…」

 

「時間はかかった。けど、よく勇気を出した。えらいぞ。龍驤姉ちゃん、俺と一緒に証人になってくれ」

「証拠はあったりなかったりな中で、鈴谷が言う『店』っちゅうもんを不意打ちで凸ったら、確実何が出るかも知れん。それよか、艦娘外へ追い出して風俗営業させて副業で荒稼ぎとか、んなもん見過ごすわけにいかんわ」

 

「鈴谷、鈴谷が建造されてからここに来るまでのこと、聞かせてもらうよ」

「わかった、じゃあいくよ。まず最初なんだけど…」

 

鈴谷が語り出したその内容に、吹雪は泣き、妙高も目眩を覚えるかのような怒りを覚えたと言う。




新章ということでまず新艦娘、鈴谷が登場しました。
そして、宿毛湾の提督ですが、名前は考えておりません(ぇ。名無しのまま消えてもらいます(笑)

次回は鈴谷が建造されてからここまでに至る経緯を語ります。宿毛湾の提督が逮捕されるまでの流れを鈴谷が語ります。明るいはずの鈴谷がなんだか言葉遣いなども遠慮しているのは前の提督のトラウマと、まだ玲司に警戒しているからです。
おじさん、と言うのはマスターのことですが、さてさてどんな生活を送ってきたのでしょう?次回をお待ちください。

それでは、また。
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