提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百四十七話

出会いがあれば別れがある。だがそれは永遠の別れではない。また会える。

うちの同居人の巣立ちの日が近い。喜ばしくもあり、寂しくもある。私は見送る。けれどまた会えるとわかっているから。

 

「おじさーん、ごめんね…」

「ええ、お構いなく。今日は午後からはお休みにします。玲司君が来ますからね」

 

最上達が嵐のようにやってきてから数日。鈴谷は一気に何かが来たのか動きが鈍い。もう限界のようだ。急がなくては。

 

「……おじさん。鈴谷、このままじゃ迷惑になるもんね。提督と話をして、ついて行くか…解体を選ぶか。どっちか決めるよ」

 

「……鈴谷さん。解体と言うのは…」

「ううん、もうだめだーって思ったらだよ。最上達と一緒にいるの、楽しそうだし。あれ見てたら…あの人の夢も叶いそうだからさ」

 

あれが嘘だったら、と言うところか。そんな未来は絶対にない。そうは自分の口からは言えない。彼女の言う「あの人」との夢はきっと叶うだろう。だから、今はもう、早く鎮守府に行くべきだ。

 

「すずやー!来たよ!!」

「マスター!来ましたわよ!さあ、キャロットケーキとやらを出してくださいな!克服してみせますわ!」

 

「もう、2人とも何をしに来たのかわかりませんわ…三隈たちはすずやんをお迎えに来たのでしょう?」

 

「まあまあ…」

「提督もしっかりと叱ってください!最上型の次女として恥ずかしいですもの!」

 

「お、おお…そ、そうか」

 

三隈に怒られている提督。何と言うか…うん、いろんな艦娘に尻に敷かれていそうな気がする。けど、それだけ提督と艦娘の付き合い方は、おじさんと自分のように対等なんだろう。

 

「提督…だよね?」

「お?おお。三隈に怒られてるけど俺が提督だ。三条玲司。それが俺の名前だ。よろしく」

 

提督の制服ではない。今日も何だかよくわからない、背中に「うーちゃん!!」と筆で描いたような謎の字。前も小さく「うっそぴょーん!」と書いてある謎のTシャツを着ている。どういった趣味なんだろうか…。

 

「さて、改めて話をしようか…って、どうしたその目。何か俺の服についてるか?」

「あ、ううん…ごめん…なさい。何でもないです…」

 

「このTシャツさぁ。俺が学校に行ってた時に演習でよく当たった卯月が送ってきてくれてな。卯月が書いたらしいんだよ。いいセンスしてるだろ?今も元気で訓練生と頑張ってるらしくてさ」

 

「その服で動き回られると恥ずかしいんだけどなぁ、ボク…」

「そうか?」

 

「そうだよ!さっきも梅さんに言われたでしょ!なんだいその服って!変に目立ちすぎるんだよ!」

 

「あら、わたくしはいいセンスだと思いましてよ?」

「熊野も…毒されてるね」

 

「んー…じゃあ華の二水戦って書かれたのは…」

「ほかになんかないの…?」

 

「三隈が見繕ってさしあげますわ。はい」

「ボクも手伝うよ…」

 

「お、おう…」

 

またも最上と三隈に言い寄られている。服まで見るって仲がいいんだな。こんな生活…こんな生活がしたかったんだ。私は。あの人も。

 

「鈴谷…泣いていますの?どこか具合でも?」

「えっ…」

 

熊野に言われて気が付いた。ポロポロと涙が止まらない。自分が求めていたもの。こんなふうに当たり前のようにわいわいと姉妹で楽しい生活。きっと、戦うのは怖いし痛いけど…みんながいれば…。

 

「鈴谷はわたくしたちの鎮守府に来るのがそんなに嫌なんですの?」

「……グスッ…まだ怖い」

 

「あれを見ても?」

 

「提督ー!早く鈴谷を連れて帰ろうよー!んでオムライス作って!今日はデミグラスがいいな!」

 

「最上、お前鈴谷をダシにして晩飯それが食べたいんだろ」

「えー?そんなことないよー?」

 

「朝から今日はオムライスが食べれるね、と言っていたのはどなただったでしょう?」

「わー!三隈!内緒だって言ったのにー!!」

 

「最上、お前は梅干しと白米だ」

「わーん!提督、ごめんってば!」

 

……

 

「ああやっていつも誰かの面倒を見ていますわ。見ていて飽きませんわ」

「戦闘は…怖い?」

 

「わたくしはまだ出ておりませんの。最上が詳しくてよ」

「そう…なんだ。出撃しなくて…怒られないの?」

 

「まずは基礎訓練だそうですわよ。慣れたら近海には出すそうですけど…正直言って…あれはきついですわね…」

 

海の上に立つところからまず始まり、ゆっくり走ること。そこから少しずつ速度を上げていくこと。障害物を避ける訓練。この避ける訓練がきついらしい。夕方に終わるころにはヘトヘトで動けないとか。

 

「最上がおつかれーとか言いながらスタスタ歩いているのが納得いきませんわ!」

「そりゃあボクと熊野じゃ鍛え方が違うよー」

 

「そんでもって最近一番ご飯はまだかとうるさいのが熊野だな」

「提督!?わたくし、そんなに催促した覚えはなくってよ!?」

 

「ニンジンはいやだー、ピーマンはいやだー。トマトはいやだー。うちと間宮の目が黒いうちは好き嫌いはあってもちゃーんと食べてもらうからな。みんな克服してるんだから、ちゃんと食べなさい」

 

「提督の目は蒼いじゃありませんこと?」

「へりくつじゃねえか!」

 

「お待たせいたしました。キャロットケーキとニンジンたっぷりの野菜ジュースでございます」

 

「おじ様?!こんな仕打ちあんまりですわー!」

「あはははは!熊野、頑張ってね。ボクも最初、魚の目が怖くってさー。食べるの苦手だったんだけど、今は克服したからね!」

 

「ぐ、うう…」

「くまのん、ファイトですわ!」

 

「も、最上?食べてくださっても…」

「マスターが熊野のために作ってくれたんだよ?感謝して食べなきゃー」

 

「鬼!悪魔!」

「さあさあ、おいしそうだねぇ。ほらほらぁ」

 

「いやー!」

 

「ははは、頑張れよ熊野ー。さ、鈴谷。いいかな?」

「あ、うん…」

 

ハンカチをそっと差し出される。涙をぬぐえ、と言う事か。そっと優しく。今までの男にはないことだ。

 

「改めて、俺はここにいる最上、三隈、熊野の提督だ。ここからすぐ近くの横須賀鎮守府ってとこの提督。ほかにもたくさん、鎮守府には仲間がいるぞ」

 

簡単にだが提督の話を聞く。楽しくおいしく生活ができる鎮守府をモットーに運営しているらしい。提督ともう1人の艦娘と、仲間たちで手伝ってみんなでご飯を食べていたり、最上も加わっていろいろとすごい鎮守府であることがわかった。そういえば熊野も前に言ってたっけ。

 

修理ドックだけでなく、お風呂は大浴場、露天風呂、サウナ、水風呂まで管理。マンガや小説、図鑑が揃った図書室。規律があってないようなものだ。ピザ?を焼く窯と言うものまであるらしい。

 

「な、何かすごいとこだね…」

「訓練は厳しいけどね。でも、おかげで戦うときにすごい戦い方が変わったね。強くなったよ」

 

「戦えない、戦わない艦娘もいるよ。間宮はまあ給糧艦だから当たり前だけど、その他いろいろ訳アリで。そういった子も含めてみんな横須賀の仲間だ。一応、俺が着任する前と、してからの経緯を話しておこうか。最上、協力頼む」

 

「はーい」

 

そうして、これまでの経緯を鈴谷は聞いた。今目の前にいる提督になる前は、とんでもないところだった。自分なんかよりもひどすぎる。

 

「ボクはまあそんなじゃないんだけどね。いろんな酷いことになった子がいっぱいいるよ。でも、提督のおかげでみんな元気だし明るくなったし、ケンカもよくするけどわーわーやってるよー」

 

「俺を信じろとは言えないからなぁ。うちの子たちはみんな頑張り屋さんだし、優秀だよ。まあ、俺のことはほとんど気にしなくていいからさ。みんなで楽しくやってくれればそれでいいかな。あ、でも戦闘は申し訳ない。ゆくゆくは出てもらうことになる。まずはまあ…厳しい訓練をだな…」

 

「じゃあ、さ。鈴谷が出たくないって言ったら?それもずっと」

「そりゃあ…困るなぁ。でもまあ、鈴谷の心境を考えるとやむなしか」

 

「えっ…」

「艦娘にも得手不得手がある。出撃できない、したくないならその他のことでうちで活躍してもらえばいい」

 

「あ、ご、ごめ。うそ、うそうそ。ちゃんと、ちゃんと出撃、します」

「まあ最初は怖いよねー。大丈夫。ボクがちゃーんと守るからさ」

 

「そ、そういうんじゃない!」

「鈴谷。もし、もしだぞ。鈴谷が海に出て深海棲艦と戦うとする。その時、何を思う?」

 

「え?えっと…えっと…」

「何でもいい。言ってみな?勝って喜びたいでもいい」

 

「えっと…うう…」

「最上は?」

 

「ボクはみんなと一緒に戦って、一緒に勝って、一緒に鎮守府に帰って、一緒にご飯食べて、今日も頑張ったなーってみんなと一緒にお風呂入ってー。明日も頑張ろうって」

 

「三隈は?」

「くまりんこはまだ出たことがありませんが…みんなと一緒に頑張って、もがみんや提督に褒めてもらいたいですわ」

 

「熊野ー」

「ううう…」

 

「あーキャロットケーキに忙しいか」

「わたくしはえむぶいぴー!とやらを取ってレディの嗜みを楽しみますわ!」

 

「こんな感じでみんな出る目的はバラバラさ。三隈や熊野はまだわからないだろうけど、最上は言ってるよな。みんなでいろんなことを分かち合って生きていきたい。三隈も近いな。うちはみんなとの連携が強いから。嬉しいことはみんなで喜ぶし、悲しいことはみんなで分け合う。俺は余計な命令は一切しない。最上やみんなに任せている。

俺がみんなに出す命令なんて知れてるよ。『死ぬな』『みんなで家に帰ってこい』だ」

 

「家…?」

「同じ飯食って、一緒に寝て。ケンカもするしいろいろぶつかり合うこともあるだろう。でもさ、戦いが終わって、俺はいつも最後まで気を付けて帰ってこいって言う。最上は気を付けて帰るよって言ってくれる」

 

「へへ、何かさ。帰るねって言うのがすごく言って嬉しいんだ。帰ると提督や大淀や間宮さんが待っててくれる。ご飯がある。帰るまでが楽しみなんだよね。提督は帰ってくると必ずおにぎりを握っててくれるんだ。その具は何かなーとか。今日も疲れたねーとか。あとね、提督や間宮さんにおかえりって言ってもらえると、あー、帰ってきたーってね。だからボクは今の横須賀鎮守府は大好きだよ。他の鎮守府とかに行ってもいいけど、提督がいないと嫌だなー」

 

「……」

 

家。つまり今の自分がいるここ。おじさんも家に帰るとホッとしますねぇ。と言っていた。

 

「家ってのは帰ってきて安心できる場所。自分が一番気を抜ける場所」

「帰ってくる場所?」

 

「出撃でも遠征でも。お出かけしても。例えば練習場に行ったとしても。最上はいつもさあ帰ろうって言ってるかな。言葉じゃうまく説明できないな。最上ー」

 

「はいはーい。鎮守府に帰るってことだね?うーん…出撃って鎮守府に戻るまでが出撃だよ。それまでは気が抜けないけど、鎮守府に戻って、提督に間宮さんに。出迎えってもらってただいまーって言うと緊張が一気に抜けるんだよ。今日も生きてる!って。すごく安心できるんだよね。誰かにおかえりって言ってもらえて、ただいまって言って、気が休まる場所」

 

「………」

 

「マスターから最上に。最上から俺に話は行ってる。明石に聞いたら今すぐにでも連れてこいって話だった。体、動かなくなってるの」

 

「それは…うん」

 

「だからと言ってそれだけ済ませて鈴谷が鎮守府にいたくないって思うなら、ここにまた戻す。定期的に鎮守府でメンテすればいいだけの話だ。けどまあ、鎮守府を見て、俺やみんなと一緒のレールを歩きたいって言うならそれはそれで歓迎だ。行き先はわかんないけど、チケットは発行するぜ」

 

「提督ってそんなキザな言葉を言うこともできますのね…」

「歯が浮きそうでしたわね」

 

「お前らな、人が真剣に言ってるんだからちょっとはいい反応してくれない?」

 

「かっこいい…提督かっこいいよ!ねねね、ボクにも言ってよそれ!あ、もうボクは提督と一緒に乗っちゃってるからチケットをもらうのって無理かー」

 

「よし、最上。俺たちと一緒に来いよ。俺はお前が気に入ったから言ってるんだよ」

「きゃー!提督!かっこいいなぁ!ボクの好きなマンガのセリフじゃないかー!わかってるぅ!」

 

「いてえ!!!背中叩くなら加減しろっての!!!」

 

提督と最上のこの関係。先輩鈴谷が言っていたような関係だ。鈴谷にはそれがとても眩しく、羨ましく思えた。私もきっと…。

 

「あの…えっと、鈴谷は…鈴谷はどうしたらいい?」

「それを決めるのは俺でも、最上でも、マスターでもない。決めるのは鈴谷、お前だ。ここに残るのもよし。俺たちと一緒に生活するもよし。支えることはできる。でも、決めるのは鈴谷にしかできない。まあ、うちにとりあえずメンテってことで来てから考えるでもいいんじゃないかな」

 

「あ、うん…」

「よーし!決まりー!いこいこ、鈴谷!」

 

「こら最上、まだ鈴谷はうちに住むと決まったわけじゃねえぞ」

「わー、お、おじさん!」

 

「いってらっしゃい。きっと、あなたの中ではもう答えは決まっているのでしょう」

「あ…」

 

「いつでも遊びに来てください。お待ちしておりますよ」

「………うん」

 

最上に連れられ、三隈と熊野もついていき、玲司だけが残った。

 

「玲司君。鈴谷さんを宜しくお願い致します」

「ええ」

 

「彼女はとても怖がりですが、いざと言うときには爆発力があるのでしょう。いずれ…あの恐怖心は薄れていくものと思っています。それから、彼女はパエリアが好きです。たまには作ってあげてください。ええとそれから…」

 

「嫁にやるお父さんみたいっすね、マスター」

「ああ、あはは…いえね、半年近くも生活しておりましたからね」

 

「ですが、承知いたしました。後のことはお任せください、安城元少将殿」

「……おやおや」

 

「ふふ、ドッキリ大成功!最初から知ってましたよ。父さんの親友である人を忘れるわけないでしょう」

「……やられましたな。最初から?」

 

「最初は何となくそうなんじゃないかなって。もう長くお会いできていませんでしたからね」

「そういえば古井君とは会っていましたが玲司君とは話にしか聞いておりませんでした。提督になったと聞いたときは、血は争えないと思いましたよ」

 

「違いないです。父さんができなかったことをやれたらな、とは思っていますがなかなか」

(いいえ。あなたはもう十分お父さんの跡を継いでいますとも)

 

「マスター。ありがとうございました。鈴谷はこれで助けられる。また最上達と顔を出しますよ」

「ええ。いつでもおいでください。歓迎いたします。その時は鈴谷さんの幸せそうなお顔が見れると信じて」

 

「必ずや」

 

そういって玲司は上官に見せる敬礼を行った。ビシッと背筋を整え、そして手もしっかりと。それにマスターは同じく敬礼をもって返した。久しぶりにやったものだが、その姿はビシッと忘れていない敬礼であった。

 

「じゃあマスター、また」

「ええ。鈴谷さんをよろしく頼みます」

 

シーンと静かになってしまった家。だが後悔はない。これでよかった。時々騒がしい彼女たちが来てくれるだけでいい。見守ろう。彼らを。

 

「おや、いけませんね。バーの準備を始めましょうか」

 

その日はバーでありながら「冷やし中華あり〼」と鈴谷が初めて食べておいしいと感激したメニューを出して、彼女の門出を祝うこととした。

 

………

 

「あーあー、みんな聞いてくれ」

 

鎮守府に戻り、全員を食堂に集めて鈴谷と共に前に出る。鈴谷は横須賀にいる艦娘達全員の視線を浴びて混乱して目を回しているが、構わず玲司は続けた。

 

「今日からうちで暮らすことになった鈴谷だ。最上の妹にあたる。最上としばらくは一緒に生活してもらうからよろしく。みんな、仲良くしてあげてくれな」

 

はーい(なのです)と声が一斉にし、摩耶が「よう!」と元気よく声をかけてみたり、突然響がハラショーと言ってみたり、様々だ。

 

………

 

「はーい。おしまい。ちょっと体の動きが鈍いのは確かですね。ドックに浸かってればすぐ治りますよ」

「はあ、どうも…」

 

提督と最上たちに連れられ、工廠と言うところに連れてこられた。自分の体が鈍いのを診てもらうためだ。初期から中期への一歩手前くらいだったらしい。思考能力低下。運動機能低下。もう少し遅いとちほーと言う症状が出て、自分が何をしていたかをすぐ忘れるくらいの頭になるところだったとか。そうなるとあの人の夢も忘れてしまっていた。危なかった…。

何だかよくわからない銀色の丸い薬を飲まされた。怪しい薬だろうか?

 

「体が艦娘としての体を忘れちゃうと艦の魂が維持できなくなります。魂がなくなると抜け殻になってしまいますので、それを思い出すお薬です。まあ、うっすらと鋼材やら燃料、弾薬の成分が溶けたドックのお湯を濃縮したようなものです。長時間例えば誘拐されちゃってまずい状態の時とかに飲ませます。じゃないと死んじゃいますんで」

 

「し、死ぬ…」

「そうです。体がじゃなくて魂が。心が。抜け殻になっちゃいますね」

 

「???」

「あはは、まあわからなくて大丈夫です。でもまあ、これで体の鈍いのは多少マシになりますよ。夜にドックに10分ほど浸かってください。それを毎日続けてればよくなりますよ。じゃあ、お大事に~」

 

言ってることの半分以上が理解できなかったが、とりあえず動けなくなったり、大切なことを忘れたりしなくていいんだ、と安心した。食堂に戻ると最上が元気よく顔をのぞいてきてニヒッと笑った。何か企んでるな。食堂はとにかく騒がしく、賑やかだ。その中で熊野がブルブル震えて黙っているように見えたが。

 

「よーし、鈴谷!ボクがここがどれだけいい所か教えてあげるね!」

「三隈もお供致しますわ」

 

「わたくしは…ぐふっ…ニンジンのケーキとニンジンジュースの味が…消えるまで…休んでおきますわ…」

「熊野ちゃん、大丈夫?何か飲みますか?」

 

「そう言いながらニンジンジュースを置かないでくれますこと!?」

「熊野ちゃんがニンジン嫌いを克服しようと努力しているんだったらお付き合いしますね!」

 

「も、もが、最上…た、たす…け」

「電も飲むのです!ニンジンさんは体に良いのです!」

 

「雪風も飲みます!」

「朝潮も頂きます!ニンジンはおいしいです!」

 

「ああああああ!!!!!」

 

熊野の絶叫を背に食堂を出る。なぜか隣には小さな駆逐艦がいる。

 

「えへ~。文月だよぉ。鈴谷さんをご案内しま~す」

「文月~、助かるよー!よし、タッチだ!いえーい!」

 

「いえ~い♪えへへ~」

 

あの目が覚めた場所では提督の横に立っていた駆逐艦と思しき小さな子は泣きそうな顔をしていた。ここの子は最初からにこにこと笑顔で楽しそうだった。まるであそこと違う。ギスギスもしていない。

 

「ここは変わってるからなー。風呂も俺は入れないけど大浴場があったり、図書室にゲームができる部屋に…いろいろと妖精さんが頑張ってくれたからな」

 

「文月も司令官と一緒にお風呂入りたいなぁ~」

「だーめ」

 

「むすー。翔鶴さんとは入ったのに?」

「ぶほっ!?」

 

「ぷー、クスクス!!!提督ー、見つからないようにしなきゃー」

「は、はい…」

 

「え、それって…」

「あー違う違う。翔鶴と提督はそりゃもうラブラブなんだ。朝帰りのデートとかもしたくらいね。お泊り場所は提督の部屋!もー熱くて熱くてさぁ」

 

「最上、それ以上いけない」

「司令官、文月も一緒にお風呂~!」

 

「摩耶に言いなさい」

「ちぇ~。じゃあその代わり、明日は文月と一緒に寝てね~」

 

「はいはい…」

「やったぁ~!皐月ちゃんも呼ぼ~♪」

 

「に、賑やかだね」

「ここじゃいつものことさ」

 

提督はここで別れ、執務室へ。すぐにご飯の準備を提督がすると言うのだから驚きだ。間宮と提督が作る料理は絶品で、一度食べたらそれ以外は食べられないと言う。おじさんの料理とどっちがおいしいだろうか?商店街から鎮守府に帰る前に、食べたいものはあるか?と聞かれ、やきに…と言いそうになって慌ててパエリアと答え、材料を買って帰っていたな。

 

「それにしてもパエリア?だっけ。どんな食べ物なんだろうな~。ボク初めて食べるよ」

「そうなの?」

 

「うん!新しい艦娘が来ると必ずオムライスだったけど、今回は特別だね」

「へえ…提督も久しぶりに腕がなるみたいに言ってたね…」

 

「ああ言った時の提督の料理はすんごいからね。楽しみだね!あ、ここがお風呂だよ」

 

これが熊野が言う質素な脱衣所か。いやいや、広いしこのカゴ、かなりいいものじゃない?

 

「おめがたかいわぁ~。さいこうきゅうのとうをあんだかごです」

「ちょ、心を読まないでよ…」

 

「いいものはいい。そういってくれたからです。おふろあがりにはぎゅうにゅうをどうぞです。いちごみるくがおすすめです」

 

あ、おいしそう…。最上はご飯食べたら入って飲もうかーと言っている。

 

「戦いにも出てないのに…いいの?」

「原則、真夜中はちゃんと寝なさいって規則だけど、22時までだったらお風呂はおっけーだよ。暑いから汗もかくしね。ベタベタで布団に入りたくないしねー」

 

「最近のボディーソープはスーッとして涼しくなりますし、お肌もサラサラになりますからお布団に入っても気になりませんわね。お風呂もお肌がすべすべになってとっても気持ちいいんです」

 

「ねえねえ鈴谷さん。今日は文月と体の洗いっこしよ~」

「え?ええっと」

 

「あはは。これもこの鎮守府の習慣なんだ。新しい艦娘は最初に髪や体を洗ってもらう習慣なんだよね。ボクが頭をやるから文月は鈴谷の体を洗ってあげてね」

 

「はぁ~い!一生懸命洗うよぉ」

「ふふふ、すずやん、楽しみですわね」

 

「そ、そうだね…」

「もしかして…文月に洗ってもらうの…いや?」

 

「ちがうちがう!そんなことないって!ついていけてないだけだから!」

 

文月の涙目は誰もが胸に刺さるものがある。うれし涙ならいいのだが…。好意を無駄にはできない。いや、できるはずもない。なすがままになろう…そう決めた鈴谷であった。

 

「うわぁ、でっか!マジでかいし!」

「横須賀鎮守府名物のドックと大浴場さ。そっちに海が見える露天風呂があるよ」

 

ドックは4人入れる分の広さだが、それよりも巨大な湯船。何とサウナと、檜でできた浴槽には水風呂が外にある。お風呂にどれだけチカラを注いだんだろうか…。

 

「ふふふ…素敵ですの♪足を伸ばしてお風呂にゆったり入れるなんて」

「おっきなお風呂~、みんなで一緒に入るとたのしいよぉ~」

 

「ほえー…」

「あ、サウナはほぼ武蔵さん専用だよね。暑すぎて入れないから」

 

「水風呂は…お水が冷たすぎますしね…」

「サウナの後に入るのがたまらないらしいけどね」

 

「摩耶さんがすごい声で叫んでいましたわね…」

「あー。あれは大笑いしたなー」

 

「摩耶さんに無理やり入れられそうになってましたものね」

「結局摩耶だけまた落ちてまた悲鳴あげてたもんねー」

 

「クスクス。あれは失礼ですけど笑っちゃいました」

 

最上と三隈が楽しそうだ。文月と言う駆逐艦も楽しそうだ。本当に…ここは、すれ違う艦娘も楽しそうに笑っている…。

 

図書館に行くとマンガを読みふける巡洋艦に空母。五十鈴と言う艦娘は小説を読んでハンカチで涙を拭いているし、寝転がってマンガを読んで大笑いしている大潮と言う駆逐艦。隣であおむけで本を読んでいる北上と言う巡洋艦。女の子だらけだけどさすがにスカートでパンツ丸見えで本を読むのはどうかと思う…。

 

「はぁ~…なんか、マジすごいとこだね…」

「提督がいろいろとボクたちのことで鎮守府を変えてくれたからね。ほんとに…今の提督には感謝しなきゃ」

 

「三隈も…提督が拾って下さらなかったらと思うと…」

「文月はぁ、司令官が大好きだよぉ~♪だって、皐月ちゃんやみんなと楽しいも~ん」

 

最上がこう言っているし、あの何かに怯えるようなところと違ってみんな何も警戒していない。寝そべったり雑談をキャーキャーしたり。大きな戦艦がゲームで駆逐艦と夢中で遊んでいたり。

 

「ん、いい匂いがしてきた!これは提督が何かご飯を作り始めたな!行こう!」

「え!?ああ、ちょっとー!」

 

「文月も~!」

「すずやん!早く行きますわよ~!」

 

さっき行った食堂へ走り出す。自由だなぁ、鈴谷は…そう呆れてクスッと笑った。そこで鈴谷は自分が久しぶりに自分から笑ったな…そんな気がした。おじさんのところでもそんなことはなかったな。

 

………

 

食堂に最上達についていくと、すでに駆逐艦が提督の前に集まり、何かを見ていた。

 

「ぽいー…オムライスじゃないけど何だかおいしそうなご飯っぽい!!」

「海の匂いでちー!楽しみでちー!!」

 

「朝潮は…はっ!よ、よだれなんて垂らしていません!」

「姉さん…」

 

「おいしそうかもー!提督の料理は大好きかもー!」

 

駆逐艦だけでなくたくさんの子が集まっている。みんな目を輝かせて、早く早く!と催促している。

 

「だー!うるさーい!!」

「鈴谷―!ナイスだぜ!こんなおいしそうなの初めて見るからさ!オムライスが食べれないのはちょっと残念だけど…これはこれでいいよな!」

 

摩耶に肩を組まれてなぜか褒められた。

 

「玲司はさー。どこまで料理を極める気やねんな…」

「そらーみんなが喜ぶんなら何だって作るぜ?」

 

「ほなうちインドカレーが食べたいなぁ…できへんやろうけど」

「妖精さん、ナン焼く窯作ろうぜ」

 

「きたこれ!!!」

「冗談や!そこまでせんでええて!」

 

「えっ!!!」

「こっち見んな!!!」

 

「お兄ちゃん!あーん」

「ん、あーん。どうだ?」

 

「んむっ、おいしいよ!」

「ちょいちょい島風さんや、そりゃないっしょー!」

 

「にひひー、ごめんね漣!味見はいつも島風の役ー!」

「ご主人様、漣にもくれますよね?」

 

「できたらなー」

「おおっと!到底許されることではありませんよ!」

 

「鈴谷―」

「あ、はい」

 

「あい、エビ、食ってみて」

「え、あ、いいの?」

 

「今日の主役は鈴谷だからなぁ。鈴谷の口に合わないとあれだし」

「あーむ…はふっはっ!あふあふ!」

 

「あ、いけね、熱いって言うの忘れてた」

「ん、ん、んぐっ!ちょっと提督、今のひどすぎない!?ヤケドしちゃうじゃん!もう!」

 

「すまんすまん、ほれ、次ご飯な。ふーっ、ふーっ」

「ちょちょちょちょちょちょ!!!!マジ恥ずかしいって!!!!!」

 

「あーん」

「うー…むー…あーん…ん、おいし」

 

「そりゃよかった」

 

そのやり取りを見て最上達は笑っているし、みんなは私も私もよこせと言っているしもうめちゃくちゃ。間宮さんが座ってくださいねーと言わなかったらそれだけでパエリアがなくなってたんじゃないだろうか?

 

席に着き、目が宝石のように輝いている艦娘達。これを見て鈴谷は確信した。この鎮守府は…私とあの人の夢を叶えられると。

 

「よし、じゃあ新しく仲間になる鈴谷も加わって!手を合わせて!……いただきます!」

 

「「「いただきます(っぽい!)(なのです!)」」」

 

みんなすごい勢いで食べる。摩耶は「うめえ、うめえ!」と。武蔵もものすごい量を「うまい…うまいぞ!」ともりもり食べているし…。みんなの食べるのを見ているだけでお腹がいっぱいになりそうだ。

 

「鈴谷!食べないならエビちょうだい!」

「くまりんこはムール貝を所望しますの!」

 

「あら、でしたらわたくしはこのイカを」

「だーめだっての!あげなーい!こら最上!しっしっ!」

 

誰かとご飯を食べるって楽しい。おじさんの時は静かに食べていたけど、みんなでわいわい食べるのもいいな。そう思うのであった。

 

………

 

翌朝、最上達と一緒に執務室にやってきた鈴谷。

 

「朝ごはんの時は言えなかったけど、よく寝れたか?」

「うん…ぐっすり…途中で最上の寝相が悪くて蹴っ飛ばされて起こされたけど…」

 

「えー、そんなことしたかなぁ?」

「うっわ、タチわっる」

 

「あははー、ごめんごめん。次から気を付けるよー」

「ふふ、で。どうした鈴谷?」

 

「提督。助けてほしいの。鈴谷の大切な人」

「よし、聞こう。教えてくれ」

 

その内容は刈谷提督と出会う前の玲司であれば激昂して殴り込みに行っていたであろう内容であった。




鈴谷、ついに鎮守府へ。
次回で鈴谷の話はおしまいになると思います。さて、鈴谷編冒頭に書いた宿毛湾の名も無き提督。彼の最後も書いていきます。そして、鈴谷を逃してくれた先輩鈴谷はどうなったのでしょうか。

次回をお待ちください。

それでは、また。
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