提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百四十八話

「さて、じゃあ今日は執務は昨日ブワーッと終わらせたし、ゆっくりでいい。聞かせてくれ。鈴谷がどういういきさつでマスターの店に来たのかを」

 

「鈴谷、気分が悪くなったら言ってね」

「うん…」

 

執務室には提督である玲司、秘書艦大淀。何かあった際の説明と仲裁役として龍驤。鈴谷の付き添いで最上。そして…鈴谷。執務室はそれ以外は入室禁止。聞き耳を立てようにも、廊下と外には特別気配に鋭い妖精さんがオートジャイロ「カ号観測機」に乗って周囲を飛び回っている。廊下は特二式内火艇隊が廊下を徘徊したり、妖精さん達が立入禁止区域を作って他の艦娘の来室を拒む。

 

ここへ来るまでの過程が、よほどのことではないはずで、そんなことを大勢に聞かせるわけにもいかない。最上、三隈、熊野は絶対に鈴谷から離れようとしなかったが、かといって大勢で話を聞くとどこから鎮守府以外の外部へ漏れるかわからない。

猛烈なプッシュであったが、とりあえず誰かいないと鈴谷が不安だろうと言うことで代表者として最上だけが参加となった。あまりこういう外部でのいざこざをうちの艦娘に聞かせたくないと言う気持ちがあった。

 

「えっと、じゃあ…私、どこで建造されたかもわかんないんだよね」

「なるほどな。まずそれすら告げられていないと」

 

「うん。それで、ジロジロ見られて…お前の配属先に連れて行ってやるって言われて目隠しをされてね?何か大きな音がするのに乗せられて…」

 

「海の上か?」

「ううん…何だろ…くさくて…あ、昨日乗った提督の車みたいだったよ」

 

「どれくらい乗ってた?」

「えーっと…うーん…ごめん、わかんない。でもすごい長く乗ってた気がするかな」

 

「ふむ…どんな奴が乗ってたとかわかるか?」

「ごめん…わかんない。男の人が…2人くらい?」

 

「提督、何だか質問が怖いよ。もうちょっと優しく聞いてあげてよ」

「む、そ、そうか…」

 

「いやぁ、圧迫してるようやけどちゃうねん。こういう時はな、悪いんやけど事実だけをしっかり聞いて大淀にまとめてほしいんよ。せやないと、大本営に報告するときにめちゃめちゃになるんよ。説明ができんくなる」

 

黙って話を聞いていた龍驤が助け船を出す。司令長官など、本部への報告に私情を挟んでいては正しく伝わらない。鈴谷から真実を聞き出すためには多少事務的でも質問を続けなくてはならないと思っていた。

まあ、最上からしてみれば淡々と聞こえるだろうし、鈴谷にしてみれば圧迫しているようにも聞こえるが、私情を絡めて伝えたいことが伝わらない。メモがおかしくなってしまっては困るのだ。事情を龍驤が説明すると、最上はしぶしぶ座って話を聞く。

 

「続けるぞ?そこはどんな店だった?」

「えっと…」

 

そこからは話を進めていくたびに玲司が持っていた安物のボールペンがどんどんとしなっていき、最後にはピキッとヒビが入るほど、玲司は顔に出さないけれども怒りに満ちていくのが最上と大淀に見て取れた。鈴谷を怖がらせないようにしている。以前の玲司ならば怒りを目に見えて露にしていただろうに。

 

「それで…それでね…そのもう1人の鈴谷が私を逃がしてくれてね…!」

「そうか…それでマスターの所に辿り着いたのか。逃げれてよかったな…運がよかった」

 

「でもね…その鈴谷がね…!一緒に逃げられなくて…私、私あの人にお礼を言いたいの!だからお願い…あの人を助けて…!」

 

「よし、わかった。この件はしっかり大本営に報告する。鈴谷を助けてくれた鈴谷のことも、しっかり報告するからな。大丈夫、助かるよ」

 

「ほんと?また、会える?」

「会えるさ。俺を信じろ」

 

「うん…うん!」

「最上。鈴谷を休ませてあげてくれ。最上も今日は何もなしでいいから」

 

「えっと…」

「あとは任せろ。全部終わらせてやる」

 

「………わかった。提督、その…よろしくお願いします」

「お願い…します」

 

しっかりとした敬礼をして退室する最上と、泣きながらペコリと頭を下げて出ていく鈴谷。妖精さんもビシッと敬礼をして見送る。ドアが閉まり、数十秒。はぁ…と大きなため息をつく玲司と…

 

「クソッタレが!!!!!!!!」

 

バァン!と応接用の机を壊れんばかりに叩く龍驤。猛烈に怒り狂っている。

 

「おんどれらを守っとる艦娘を性のおもちゃ!金儲けの道具かい!!!!!なめてんのちゃうぞ!!!!!玲司!!!!お父ちゃんに電話繋げ!!!!!!!」

 

「………」

 

無言で頷き、ダイヤルする。龍驤は烈火のごとく激しく、玲司は静かに激怒している。

 

「ああ、おやっさん?ちょっとさ、調べてほしいことがある。あまりにもふざけてやがる案件だ。艦娘の鈴谷を保護した。ああ。どこかで艦娘の風俗店の営業だってよ。逃げてこれたんならまあうちの近くだろうな」

 

龍驤が牙を剥いて玲司が電話している様を見ている。受話器をひったくって物申したい様子である。何とか玲司が待ったをかけているが…。

 

「いや、違う。逃げてきたところを民間人に保護されて…うん。半年ほど匿っていたそうだ。これについては事情が事情だけに不問にしてほしい。ああ。漏らさないでほしいけど、安城さん。そう。ああ。徹底的にやってほしい。頼んだ。姉ちゃんがブチギレてるからまた」

 

「お父ちゃん、何て」

「状況を説明したら声色が変わったよ。すぐ動くだろ。ただ、これが明るみに出るとなると…」

 

「……せやな」

 

国を守っているはずの艦娘を風俗店で働かせると言うことが明るみに出ると、ただでさえ艦娘の存在に反発している反艦娘の市民団体や政治家のいいカモになってしまう。戦争行為を助長するだけでなく、性の道具としても存在する艦娘を徹底的に排除する動きが出るだろう。

それと同時に、提督の管理と艦娘の管理をしっかりできていない政府と大本営に対し、親艦娘の団体からもひどくバッシングを受けることになる。これについては政府も動くことになるだろう。

 

「やばいな…お父ちゃんが一手に責任を負うことになってまう…」

「……けど、店で働かされている艦娘を放っておくわけにもいかない。もみ消しは…無理だろうな」

 

「無理や。艦娘のことを嗅ぎまわってちょっとでも叩きたい連中がゴマンとおるんや。必ずこれは明るみに出る…」

 

「では、司令長官は…」

「最悪、左遷される」

 

「そんな…そのようなことをした提督が責任を負うのではないんですか?」

 

「腐っても司令官っちゅうもんは組織で動いてる。司令官がやったことでも上がその管理をきちんとしてないっちゅうことで、上が結局責任を負わなあかんねん。もちろん司令官には司令官で罰を受けてもらう。これはやらんと周りへの警告にもならへんし、大本営としても示しがつかへん」

 

「大本営だって神様みたいに全部を見れるわけじゃないし、把握もできていないが…いかんせんそれが問題なんだよな。何年も前から。大本営も事務やらなにやらは増えて大忙しだが、離れている鎮守府なんかを見る目がない。雇う人を見る目もない。古井のおやっさんや虎瀬のおじさんは安久野にしても採用許可はしなかったらしいが…人事が権力をかっさらってるからな」

 

「せやけどアレは採用されてむちゃくちゃしよった。表には出てないだけで轟沈した艦娘の数も多いし、不祥事も多い。こんな話はようけある。ま、司令官が艦娘をボコボコ沈める話の逆で、ある時なんかは艦娘が提督をうっかり殺してもうた話、とかな」

 

「えっ!?」

「まあ整備不良で装備が爆発してもうてな。せやけど…死人に口なし。解体された艦娘に口なし。事故やのうて…自分の手で殺されへんのやったら事故死にみせかけたろ。人間は絶対に殺したろって言う雰囲気が漂ってた。…いろいろと司令官と艦娘の闇は昔から深いんよ…直接人に危害を与えられんなら間接的に殺る。頭のええやっちゃ。噂やと、やったんは望月っちゅう噂や。解体される前に仕掛けといたらしい。それを執務室に隠しといて…ドンや」

 

怖いのう…と玲司を見て言う。玲司はブルッと体を震わせていた。キヒヒ、といたずらっぽく笑う龍驤をジト目でさらりと流す。

 

勘違いした人間とそれに従わざるを得ない艦娘。その闇を大淀は嫌と言うほど知った。安久野の前の提督もどうやら安久野とつながりがあったようで、安久野が横須賀に居座るための細工をしていたのではないか、と言うことだ。その男は艦娘に関わること、提督であった時の記憶は全て抹消され、どこかでうだつの上がらないチンピラをやっているとか。

 

「しばらくはまた商店街も行けないな。艦娘との接点が多いから、どこからともなく市民団体が湧いてくる」

「生ごみに湧く蛆虫みたいにな。深海棲艦と話し合えばわかるって言うけど、話し合った結果魚雷喰らって大勢ぶっ飛んで魚の餌になったっちゅうアメリカでの話知らんのやろか」

 

「都合の悪いことは知らんふり、聞こえないさ」

 

艦娘を悪く言う人がいれば、商店街の人のように良く思ってくれる人もいる。それだけは忘れないでくれよ、と大淀はよく言われている。大淀達は命令とは言え人に砲を向けたことがある故に、そういう話には敏感だ。商店街でもたまにボソッと悪口を言われることもある。怖い、気持ち悪い。グッとこらえてはいるが…。

 

「まあ商店街はこわーいそういうのを蹴散らす人がいっぱいいるからなー」

「うーわ、言いよった。おばちゃんにチクッたろ」

 

「そ、それだけは…姉ちゃんそれだけは勘弁してくれ…」

「提督…それって梅おばさま達のことじゃ…今度言っておきますね」

 

「やめろって!やばいんだから!!!」

「にひひひ、口は災いの元やなぁ玲司!」

 

「提督。ルーチェのアップルパイで手を打ちましょう」

「大淀お前!そういうことだけはずる賢いな!!!」

 

龍驤と大淀が笑い、ピリピリした空気は消えた。しかし、龍驤だけは気づいていた。天井裏で川内が聞き耳を立てていたこと。最大レベルで気配を絶っていたこと。姉妹だけがわかる、姉妹の気配。

 

………

 

「うん。こればかりは表に出てしまうだろうね…」

『仕方ありません。艦娘に対する不正を放置するわけにもいきません。この件は徹底的に洗い出しましょう。ですが、提督がそのようなことをしていたと言う事実は…省かねばなりませんが』

 

「そうか…だがそれでも風当たりはきついと思うけどね」

『貴方も官僚の方々同様に体裁を気にされますかね?』

 

「とんでもない。ひとえにこれは私の不始末だ。何より、艦娘を商品になど許せるはずもない」

『覚悟は決まってるようですねぇ。では、大きくいきましょう。貴方の頭を下げさせたくはないのですが』

 

「気にすることはないよ。君だけに…防衛大臣だけに頭を下げさせるわけにもいくまいよ」

『そのお気遣い感謝いたします。ですが、まずは原因の解明を』

 

「うむ。すまないが…よろしく頼んだよ」

 

受話器を置き、大きくため息を吐く古井司令長官。今回、玲司から聞いた話はとてつもなく重大な事件であり、ましてや提督が艦娘を売り飛ばしていたなどと。それも外部に漏れやすいものであった。古井司令長官としてはもう目星はついている。前回の際に炙り出しをすればよかったのにどこからか邪魔が入る。

 

簡単だ。この男の裏にはそれを楽しむためのバック。それも、こちらが対処しづらい大物政治家もいるだろうし、大企業の社長などもいる。この件に首を突っ込めば間違いなくこちらも危うくなるだろう。だが、それでも。今後のこと、そして、もしかしたら娘と呼ぶ子達にまで被害が及ぶかもしれない危険性に我慢ができなかった。

事は重大になるし、もしかしたら玲司にまで危害が及ぶかもしれない。私が狙われるのなら何でもいい。危険な自己犠牲から、彼は防衛省の大臣に話を通した。直通回線で繋がっている先輩と後輩だ。

 

賽は投げられた。もうこうなっては止められない。あとは突き止められれば終わりだ。

 

………

 

1週間ほど経った際に、司令長官室に来客がやってきた。あまり人に対して態度を変えない陸奥が、とてもかしこまった様子で部屋の入室を促した。

 

「ありがとうございます。たばこの匂いがしますね。随分と前からやめた方がいいですよ、と注意をしていたはずですが」

 

「だいぶ減らしたんだがねぇ…陸奥と妻と君くらいかな。うるさいのは」

「心外ですねぇ。お体を大切に、と思って言っているのですよ」

 

「ふむ…まあ、最近はまずくてかなわん。やめようと本気で思っているよ」

「それは結構なことです」

 

「久しぶりだねぇ…高浜君。いや…高浜防衛大臣殿」

「その呼び方はご遠慮願いたいものです。高浜とだけ」

 

高浜克典(たかはまかつのり)防衛大臣。この海軍を管理する最高責任者。今回の事態を重く見た防衛省が腰を上げたのだ。もちろん、極秘裏にである。これを知るのは高浜防衛大臣と最も信頼できる右腕だけだ。事が解決した後に全てを暴露するつもりでいる。

 

「さっそくですが、あなたご自慢の「影」を使わせて頂きました」

「川内……!?」

 

「彼女からこちらにアポイントを取りに来ましたよ。あなたには内緒でと言われましたが、そうもいかなかったので。それから、私の秘書も念入りに調べてくれました。大山君」

 

「はっ」

 

大山と言う名の高浜大臣の秘書が「川内さんの情報も入っておりますが」と続けた。書類は文章と、地図らしきもの。それから、艦娘にいやらしい服と呼べるのかもわからない下着のようなものを着せた画像がいくつも。

 

「すでに場所も把握しております。横浜の歓楽街の路地裏にひっそりとありました。中の様子は私の部下が隠し撮りしたものです。随分と警戒されたようですが、羽振り良く金を出すと態度が変わったそうです。駆逐艦から巡洋艦までの艦娘が十数名。客の出入りはそこそこありました」

 

店は会員制になっており、まず最初は艦娘とは明かされない。入会金に3桁万円の金額がいる。1回の行為でもン十万円から100万円以上が必要。口外は絶対にしないことなどの念書を書かされたとか。結局、奴らはすぐさま口外されるとは知りもしない。

 

「………最低ね」

「………」

 

「司令長官。いえ、古井さん。かつての後輩として…私も提督であった者として申しますが…すぐさま動かさせて頂きますが…構いませんか?」

 

「構わない。高浜君…迷惑をかける」

「いいえ。迷惑だなど、思いもしません。では、さっそく……ああ、私です。例の件のことです。始めてください。よろしくお願いします」

 

「高浜君…本当に大丈夫なのかね?」

「何、総理にちょっと怒られるだけですよ。他の有象無象の噛みつきなど、痛くも痒くもない」

 

「むぅ…」

「それよりも…古井さんもお叱りを受けますよ」

 

「私も構わんよ」

「いえ、たぶん…あそこに呼び出されてしこたま…」

 

「会食かね…ぬぅ…お酒はそこの陸奥に止められてるんだがね」

「タバコもやめてねって言ってるはずだけど?」

 

「むぅ…」

「ははは、娘さんの言うことはしっかりと聞きましょう」

 

「わ、わかったわかったとも…」

「さて…では、ちょっと失礼して」

 

そう言ってテレビをつける。昼過ぎの他愛ないワイドショーをやっている最中であったが、突然司会者の顔色が変わった。

 

『たった今入ってきたニュースです。神奈川県横浜市で艦娘の風俗店を営業していた店が摘発され、店を営業していた男たちが逮捕されると言うことです』

 

「こ、これは…なぜだ…なぜテレビで早くも情報が…」

 

ハッとなって横を見ると…ニヤリと笑っている高浜の顔があった。

 

「艦娘の存在を今一度国民に知ってもらった方が良いのです。艦娘は兵器。艦娘がいるから深海棲艦との争いが起きる。そう言っている人間は艦娘の存在を知っていますが、たまにしかニュースで見ない方々にとっては、艦娘は不気味な存在なのです。

ですから、この事件で今一度周知したいんです。艦娘の存在を。そして…艦娘がやかましい団体が言う存在ではなく、我々を。国を守ってくれている存在なんだと国民に伝えるのが私の仕事です」

 

彼が言うには、この一件で世間の目は「かわいそう」とか「なんてひどいことを」と言う同情の目で見てくれる人がいるだろうと読んでいる。そこで、艦娘とはどんな存在か?と言うのを自分が発信するのだ。しかも、総理大臣と共に。

 

「総理大臣とかね…?」

「ええ。私も発信致しますが、やはりここは総理から発信してもらうほうがいい。そのための布石です」

 

「これが原因でまた周りが騒ぎ出さないかね?」

「総理はこれしきのことでへこたれませんよ。鋼鉄のハートを持っていますからね」

 

「なら良いんだが…」

「昔、古井さんにしごかれた時に比べればなんてことはありません。地獄の古井演習。思い出すだけで夕飯が食べられなくなりますね」

 

クックック…といたずらっぽく笑う高浜大臣。テレビでは「衝撃!艦娘の風俗店経営者逮捕!ずさんな艦娘管理」と銘打ってやはり防衛省や海軍を非難する流れのようだ。

 

「はい高浜です。はい。ああ、やはりですか。今外出中ですので待たせておいてください。はい?ええ。うるさく言うならぶぶ漬けでも出しておいてください。では」

 

「さっそくかい?」

「ええ。大臣としての責任を果たせとのことです。今こうして仕事をしているんですがね。まあ、ぶぶ漬け出しても帰らないような勘の鈍いお方ですから、さっさと私が話しをつけて帰っていただきましょうか。と言っても今から3時間は待つことになりますが。大山君」

 

「はっ」

「帰りますよ」

 

「はっ。会見は翌日18時から総理と共に準備しております」

「ご苦労様です。ではその手はずでいきましょうか。では古井司令長官。後日、私がお呼び出し致しますがご容赦ください。失礼いたします」

 

静かに素早く。高浜防衛大臣は帰ってしまった。これから大変だ…私もそうだが大臣は特に…。

 

『ご覧ください!艦娘です!本当に艦娘が出てきました!艦娘が保護されています!バスの中はわかりませんが艦娘が何隻か乗っているようです!!』

『雲雀丘さん、艦娘はどんな表情でしょうか?」

 

『疲れた顔をしていますねー!足取りも覚束ない様子で…あっ、また1人連れられてきました!!!』

『邪魔だ、どいて!!!』

 

連れられてバスに乗り込むのは鈴谷だろうか。パッと見でわかる。長いことそこに居たようで…もうほぼ動けないのだろう。艦娘とは海軍の施設から離れて長い期間何もせずにいると動けなくなったり、意識障害などが出始める。

準備をせねばと思っていた矢先に電話が鳴った。

 

「はい。ああ。すぐ全員をこちらに向かわせてくれたまえ。保護し、その後を考えよう」

 

その準備を夕張にも指示する。長い期間外に放り出されていたのなら、療養にも時間がかかる。全力でそれに努めよう。ああ…また玲司や彼が電話をしてきて引き取ると言いそうだ。彼らはそういう男なのだ。彼らになら任せられる。

 

「陸奥、高雄、すまないが手伝ってくれ。忙しくなるぞ」

「はい、お父様」

 

「わかったわ」

 

ギッと鋭い目で虚空を睨み、未だわからない真犯人を恨む。しでかしたことの罪を恨むがいい。そう呪った。

 

………

 

「提督さん!!テレビ見た!?」

 

テレビっ子の瑞鶴が血相を変えて執務室に飛んできた。テレビなんかほとんど見ない玲司だが、瑞鶴の様子を見ると、おそらくだが…。

 

「艦娘のいかがわしい店の話か?」

「そうそう!って…提督さん、何で知ってんの?」

 

「あ…」

「提督さん、何を隠してるの?言いなさい!言わないと爆撃するわよ!」

 

「…司令長官から聞いたのさ。川内が真犯人を探してる。ったく、こっちに内緒で…」

「え…そうなんだ…」

 

「ああ。まあ俺たちはあまり関与しないから。安久野の残りカスだ。大本営が潰してくれるさ」

「…あいつ…」

 

「いつまでもめんどくせえ奴だ。とっとと島流しに遭えばいいさ、こんなクソ野郎」

「提督さん、ほんと最近刈谷提督に似てきたね…」

 

「やめろ…いろんな人に言われて割とショック受けてんだよ…」

「あはははは…ま、まあ提督さんは提督さんだよね…」

 

「そう言ってくれると嬉しいかな…」

「ん、わかった。提督さん、無茶したり変なこと考えちゃだめだからね」

 

「何だよそれ」

「いや、こいつをぶん殴ってやるー!とか」

 

「ないない。俺が罰を下すよりも社会的に制裁が待っている。俺が手を痛めることもないさ」

「ふーん。提督さん、ほんと丸くなったね」

 

「そりゃどうも」

「翔鶴姉のおかげかな?今日も翔鶴姉を朝帰りさせるのかな?」

 

「うるせー!!」

「あはははは!じゃ、失礼しまーす!」

 

「ったく…」

「提督…鈴谷さんのことは…」

 

「瑞鶴もああ見えて何となく察してるのさ。だからこうやって来たんだよ。大淀、大本営から連絡があったら鈴谷と出るから、その時は頼むな」

 

「はい。承知いたしました」

 

大淀もいろいろと言いたいことを玲司に言っている。自分たちは何なのか?どうしてこうも艦娘の待遇が悪いのか。人間は艦娘の何なのか。全てじっくり話したこともある。玲司が奴らみたいなことは絶対しないと信じているから。何度も玲司は大淀に謝ってくれた。提督が悪いわけではないのに…と自己嫌悪して泣いたこともある。そのたびに提督は困ったような顔をして笑って頭を撫でてくれた。それだけで十分優しさが伝わった。

 

私たちは幸せな艦娘です。だけど、この幸せが全ての艦娘に伝わればいいのに…。

 

そう思っても現実は鈴谷や自分たちみたいな艦娘がいなくならないのだ。何もできない…でも、全てを救うのは難しい。そう提督は言っていた。

 

「横須賀にいる艦娘だけは日本一…いや世界一幸せな艦隊にするさ」

 

それだけも単純かもしれないが、私たちは幸せな艦娘だと思っている。できれば、今保護された艦娘も…幸せにしてほしいな…。そう願っていた。

 

 

鈴谷がいかがわしい店の艦娘達が保護されたとテレビで見たことから、鈴谷は言っていた先輩鈴谷に会いたい、と言うことで、大本営にやってきた。玲司はあまり連れて来たくなかったのだが、どうしてもと鈴谷が言うので連れてきた。

 

「玲司…来たね。この子がアレを教えてくれた鈴谷君か。ありがとう。君のおかげで艦娘を艦娘として見ていない愚か者達の手から救うことができた。本当にありがとう。そして…申し訳なかった。それでだね。君の心の傷をえぐることを承知で聞きたいんだ」

 

そう言うと古井司令長官は何やら何人もの顔が写ったものを持ってきた。

 

「これは…」

「そうだよ、大淀君。これは提督の履歴書と言うか…うむ、管理するためのものだ。君が言う鈴谷君に会わせる前に聞きたい。お願いだ。君が分かればでいい。君をあそこへ連れて行った提督は…ここにいるかい?」

 

「……いる…この人」

 

玲司はやはりか…と言う顔。古井司令長官もやはりか…と言う顔。

 

「ありがとう。疑惑から確信に変わった。玲司、川内をしばらく借りるよ」

「了解。鈴谷、ありがとう」

 

「う、うん…あ、あの!お店から保護した鈴谷は…?鈴谷さんに会わせて!」

「………わかった」

 

沈痛な表情で退室した。玲司はその表情で悟った。ギリッ…と強く噛む。

 

しばらくして陸奥と共にやってきた司令長官。陸奥は手に何か持っている。

 

「待たせたね…」

 

そう言うと机に陸奥が物を置く。それは…鈴谷には何かわからない。いや、横須賀に来て見慣れたものに変わったが。

大淀は手で口を押えた。それがどういうものかを理解したようだ。

 

「え…燃料と…弾薬と鉄?ねえ、これ何?こんなもの…補給でもしろってこと?」

「鈴谷君…これが…君が会いたいと願う鈴谷君の…成れの果てだ」

 

「え…?」

「彼女が一番衰弱していてね。記憶も混濁していたし…体もドックに入れてメンテナンスを施しても改善が見込めなかった。他の艦娘も衰弱していたんだがね…」

 

「で、どうしたって言うの?まさか、だからって解体したとかじゃないよね!?あんた達の都合で!!」

「話を聞きなさいよ。お父さん…司令長官の話を聞いて」

 

「……続けるよ。鈴谷君は…私が最も信頼できる提督の下に配属できるよう工面しようと言った。だが、彼女は最後まで首を縦に振らなかった。最後まで…解体してくれと言った」

 

大淀の目から涙がポロポロと止まらない。玲司は手を強く握りしめていた。クソが…!と小さく言っているのを大淀は聞き逃さなかった。

 

「もう艦娘として生きていくにしても擦れすぎた。もう、疲れた。生きていたくないと…言ってね」

「そんな…そんな…!」

 

「……そしてこうも言っていたよ。未来を。幸せな艦娘として生きる未来を託した子がいる。連れ戻されてもいないと言うことは逃げ切れたんだ。だから…その子が私に代わって幸せな未来を生きてくれるだろうから、それに託すと。鈴谷君…後は…頼んだよ…と」

 

「う、うわあああああああああああ!!!!!!」

 

泣き崩れる鈴谷。もう一度会えると信じていたのに。どうしてこのような資材となった姿で再開しなければならないのか。そんなことを託されても私は困る。一緒に幸せになろうって。待ってるって言ったじゃないか。

 

「鈴谷は鈴谷でも別人のようだった。顔つきも…見た目も…私が最期を見届けたけど…こう言ってもいたわ。私が資材になっても他の艦娘には出さないで。このことを暴露した鈴谷がいるはずだから、その子に私を差し出して…って」

 

「う、ううう!なんで…なん…で…!!」

「あの子の最期の頼みよ。これは…あなたに」

 

泣き崩れていたが、そっと机の上の資材を手に取り、胸に当てる。スゥッと資材は鈴谷の体の中に入っていく。そしてさらに泣き出した。会いたかった。でも…こんな形で会いたくなかった!!!

 

(ほら、泣き止みなよ)

「うぐっ…ひっ!?」

 

(やっぱりうまくいったんだね。よかった)

「ど、どこ!?どこにいるの!?」

 

(あんたの中。今あんたが資材になった私を取り込んだからね)

「……!!」

 

(ひひっ、ちょっとあんたの記憶見させてもらったよ。よさそうな提督じゃん。へえ…優しい人に会えたんだね)

「わ、わだじ…」

 

(いいよ。この提督についていくんでしょ?きっと大丈夫。あたしはあたしとして一緒に生活できないけど…見てるよ。あんたの中から。ずっと。だから…幸せになってね。あたしの分まで)

 

「……い、いっしょ…」

「鈴谷、どうした?」

 

「鈴谷さん?」

 

(見てるよ。あんたが幸せならあたしも幸せ。だから…ほら、泣いてちゃだめだよ。あたしのことで泣くのはもうこれで最後。見せて、あんたが笑って仲間と一緒に過ごす毎日を)

 

「うん…うん!」

「鈴谷?」

 

「…グスッ。ごめん…もう、大丈夫。会えた。会えたから…頑張れって…見てるからって」

「…そうか。俺が…ちゃんと面倒見るから。みんな幸せにするから。見ててくれ」

 

(鈴谷泣かせたらマジ怒るかんね!)

「提督…鈴谷を…よろしくお願いします」

 

「ああ。任せろ。ようこそ、横須賀へ」

「うん!!」

 

玲司が手を出すと鈴谷はそっと手を握り返してきた。先輩鈴谷と2人で1人。これからは一緒に。提督と頑張っていこう。この人は信じられるから。

 

「うし、帰るか!鈴谷。今日の晩ご飯、何が食べたい?」

「え!?えっと…えっとぉ…焼肉…」

 

「焼肉ぅ?」

「しょ、しょうがないじゃん!何も思いつかなかったの!!!」

 

「そっかー。肉はこの間かなり買い込んだし…よし、じゃあ焼肉するか!」

「待って!待ってってば!あ、あれ!あれあれ!黄色いフワフワのが乗ったあれ!最上が言ってたあれ!」

 

「ダメー。今日は鈴谷のリクエストで焼肉定食になりまーす」

「ちょっとー!」

 

さっきまでの涙はどこへやら。ポカポカと玲司の背中を叩く鈴谷と笑う大淀。古井司令長官も陸奥も、玲司が自分の居場所を見つけたんだな…と思った。今度こそ、彼にも幸せになってほしい。そう願って。その光景は本当に見ていて眩しいものであった。

 

「こーらー!取り消してー!」

「やきにくやきにく!」

 

「お、大淀は賛成です…」

 

鈴谷の未来は…明るい。




鈴谷のお話はもうちょっとだけ続くんじゃ。
と言っても鈴谷よりも今度は朝潮姉妹、それから吹雪。こちらが主になっていくと思います。名前もないクソ野郎提督ですが、これでチェックメイトです。生きて一生を掛けて罪を償うがいい(闇笑

それでは、また。
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