提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百四十九話

「はあ!?どうなってやがる!!!」

 

艦娘に執務をさせ、ソファーに寝転がってテレビを見ていた宿毛湾の提督は勢いよく飛び上がり、テレビに掴みかかる。その動作に秘書艦の机で作業をしていた駆逐艦「磯波」が恐怖で縮み上がる。よくはわからないが、磯波は「この人のことだから、きっと自分に関わったことなのだろう」と思った。機嫌が悪くなる…。それだけはやめてほしかった。

 

「ち、ちくしょう…何でだ!?何で…バレた!?」

 

チラリと提督に見つからないようにテレビを盗み見たが、磯波にはよくわからなかった。

 

「へ、へへ、待てよ…何も問題ねえ…」

 

この男、自分に都合の悪いことは何一つ大丈夫の一言で片付けようとするところがある。大体がそう言ってはやり過ごして来たし、見つからなかった。だから今回も大丈夫だ。そう信じていた。

 

「おい」

「は、はい…」

 

「それ終わらせとけよ。今日中だ。じゃねえとぶん殴るぞ」

「はい…必ず…」

 

クソが…胸糞わりい…と言いながら乱暴にドアを開け閉めして出ていった。おそらく誰かに嫌がらせをしにいくのだろう。今やっている書類は提出が遅れると厄介な書類の為、磯波の手を止めるとまずいことになると思ったのだろう。一応、そう言うのだけは把握している男だ。自分は何もされなかったが…誰かが餌食になる。ごめんなさい…そう心の中で念じ、涙をこらえて書類を進めた。

 

………

 

日付が変わるギリギリにようやく書類は終わった。朝から飲まず食わずでやっと完成した書類の山を見て、労いの言葉一つもなく、終わったらさっさと出ていけよと蹴飛ばされ、部屋に戻ってきた磯波。疲労と報われない仕事の疲れから、感情のタガが外れてしまい、へたり込んでその場で泣き出してしまった。泣いたところで何もない。

 

姉達は数ヶ月で皆いなくなり、妹の浦波とも満足に会えないし、誰とも会話すらできない。いろんなものが積み重なって声を殺して泣いた。声をあげたらもしかして嫌がらせをしにきた彼に何をされるかわからないから。

 

「おめえみてえな芋くせえ女とヤる気もねえしな。ケッ、マジで使えねえなぁ」

 

浦波共々手は出されていない。暴力は受けるが性的なことはない。それだけでも、まだマシだが、でも女としての何かを否定された感はある。

 

しばらく静かにさめざめと泣いたあと、明日も早いがどうも眠れない。どうせなら私も姉たちと一緒に沈めてくれたらよかったのに…と思っていた。

 

コンコン…とどこからか音がする。ビクッとなった。ノック…それはまさか…あの人?ドアをおそるおそる開けても誰もいない…。すると背後からコンコンと音がした。窓だ。窓に…誰かいる!!!

 

艦娘のようだ。見慣れない艦娘。得体のしれない人であったが、そのどこか余裕のあるちょっとうっすら笑っているかのような顔を見て、この人は救世主か何かではないかと思った。

 

「よかったよかった。気付いてくれて。ね、上がってもいい?」

「はい…どうぞ…」

 

「お邪魔しまーす。横須賀鎮守府を思わせる汚さだね。妖精さんはいないし、戦果レポートも読ませてもらったけどまあ嘘ばっかりだね」

 

「レポートを…読まれたのですか!?」

「しー!声が大きいって!」

 

「あ…ど、どうやって…あれは…提督がご自分のお部屋に持って行って…隠しているはずでは…」

 

「あたしに隠し事なんて無理だよ。それに、あたしは()()()()()ね」

「え…???」

 

「あー、いいのいいの。気にしないで。ただ、あのおっさんが部屋でボーっとテレビ見てる横でじっくり読ませてもらったよ。これがまず1アウト。それから、日常的に暴力はあったみたいだね。それから、うちのかわいい吹雪を轟沈寸前に追いやって、傷を残したのが2アウト」

 

「吹雪姉さん…!?」

「いつも執務を押し付けられて、気に食わないことがあったらボコボコにしたとかお湯ぶっかけとかされてた吹雪ね」

 

「は、初雪姉さん達と一緒に出撃して全員…し、沈んだって…」

「生きてるよ。今は防空の要として頑張ってるよ」

 

「ねえさん…もう会えないと…」

「生きてたらいつか会えるさ。まあ、もうあんた達も自由になる」

 

「ど、どういう…」

「さて…それはあんたがあたしに真実を教えてくれたら教えてあげよう」

 

「真実…この泊地のことですか?」

「あんた頭いいね。そう。それも暴力とかの話じゃない。いいかい。今、この泊地での生活に嫌気がさしているなら正直に本当のことを話しな。しないなら一生このままだよ」

 

「………」

 

僅かな間だが考えた。この人があの人の遣いだったとしたら。だからこそ隣で戦果を読むこともできるしあの人のことが詳しいんだと思った。しかし、磯波にとってはこの環境がわずかでも変わるなら。そして、それがダメであの人の下で一生こき使われるならさっさと出撃に加わって沈もう。もう疲れた。

 

「あたしこれでもマジで頭にきてるんだ。ほんとだったらあんたと面と向かって話せないくらい、話すの苦手なんだけど。でも、あたしが動かないとどこかで必ず尻尾を掴まれるんだ。そして、ここのクズ男を捕まえようにも逃げられる。だから…お願い。あたしもこうして勇気を出して、今死ぬほど恥ずかしいし喋りたくないし逃げたいけど耐えてる。お願い、教えて。ここのこと」

 

「うう…」

 

川内が一気にまくしたて、磯波が戸惑っているとドアが開く。磯波は心臓が止まるかと思うくらいに慌てた。開けたのは浦波だったが。

 

「姉さん、どうしたの?誰か…いるの?」

「え?い、今…」

 

「誰もいないよね?」

 

浦波が部屋をキョロキョロと見渡しても誰もいない。磯波は浦波は何を見ているのだろうと思った。今そこに正座しているじゃないか…。

 

「どうしたの?何か…ひどいことされたの?」

「ううん…ごめんね…でもいろいろ疲れちゃって泣いちゃって…」

 

「姉さん…私も手伝うよ。明日」

「ダメよ。浦波が余計な気遣いをすることはなくていいの」

 

「姉さん…」

「大丈夫…大丈夫だから。ね?」

 

「姉さん…ごめんね。私…何もできなくて…」

「ううん…平気。ねえ、浦波。私のお部屋には私しか本当にいない?」

 

今そこに「いる」のに…。

 

「…本当に大丈夫?姉さんと私しかいないよ」

「ごめんね…私…疲れてるみたい」

 

「早く寝てね。姉さんが帰ってきて安心した。おやすみ」

「うん、おやすみ」

 

浦波が自室に戻ってから約5分。はぁ…と磯波は大きなため息を吐く。

 

「どういう仕組みなんでしょう…」

「あたしを認識していた人は見える。浦波は私と顔を合わせていなかったからね。だから見えなかった。まあ暗示みたいなものだよ。仕組みはあたしも詳しくはわかんない。生まれ持ったチカラだからね」

 

あはは、と自分でもよくわかっていないことをお気楽に笑う。ただ、この人が提督の隣で堂々と物を読んでいた理由がよくわかった。この人は…本物だった。

 

「ごめんなさい…あなたを信用していなくて…」

「あんなクズの下で働いてたらそうもなるだろうね。あんた賢いよ」

 

「……私たちは、もうこんな生活は終わることができるんでしょうか?」

 

「終わる。終わらせる。もうここまで大事になってきてる。ここの提督がここの艦娘を外へ連れ出してろくでもないことをしていたことをしゃべってもらった。もう邪魔はさせない。絶対終わらせる」

 

泣きたくなるのを堪えて磯波はとつとつと語った。ここでの現状も。資料のことも全て伝えた。

 

「提督は机の引き出しに隠し板を使って何か資料か帳簿を持っているはずです。そのことを知ってしまった艦娘が何人か異動したと聞きました」

 

「なるほどね。ありがと。ちょっと探ってみるよ」

「気を付けて下さい…何か仕掛けを施してあるはずです…」

 

「任せといて。かくれんぼは得意だからさ。じゃあ、もう少し我慢してね」

「はい…!あの、どうか…よろしくお願いします…」

 

川内は最初からいなかったかのように消えた。夜はもう遅く…明日は大変だ…そう思ったらガクリと眠気が来て、そのまま寝てしまった。

 

………

 

次の日も、その次の日も、自分が喋ったことで何かを聞かれたり、責められたりと言うこともない。いつも通り、自分の机に足を乗せて何か端末をいじっていた。あの人の存在も、何かに希望を持っていることも知られてはいけない。浦波やほかの艦娘に迷惑がかかる。嘘だったならそれでもいい。諦めがつくから。

 

ほら、やっぱり嘘だったんじゃないですか…と全てを諦めかけていた時だった…。

 

「提督さんよぉ、なんか提督に会いたいって人が来てるぜ」

「あ?俺に…?誰だ?」

 

「大本営直属、憲兵隊だ。そこを動くな」

「何!?」

 

それを皮切りに何人もの人が勢いよく入室してきた。磯波は怖くて固まってしまう。しかし…今憲兵と言った?

 

「私は憲兵隊の四宮だ。貴様が行ってきた行為について、大本営で聞きたいことがあるそうだ。同行願おう」

 

 

「俺が…?俺が何したってんですか?」

 

「証拠は全て揃っているし、貴様が関与していることも全て把握済みだ!逃げられると思ったか!」

 

「ちくしょう!離せ!離しやがれ!!!ちくしょう、誰だ俺のことをチクったクソッタレは!!!」

 

 

「勇気ある者だった。貴様は知る由もない。来い!!」

 

「ちくしょう!!ふざけやがって!ちくしょう!!!!」

 

グェッと首を掴まれた提督は情けないカエルみたいな声を出して連れていかれた。あっけにとられた磯波は何が何だかよくわからず、ぽかーんといなくなった提督の机を見つめていた。

 

「被疑者を捕まえた。そのまま大本営へ連れて行ってくれ。これよりこの泊地の艦娘を保護する。彼女らも大本営へお連れしてくれ。始めろ」

 

誰かに自分たちを保護するように伝えていた。やり取りを終えた男の人は、今までの厳しい顔とは違い、フッと柔らかい笑顔になって自分を見つめていた。

 

「川内さんから…あなたへ言伝です。遅くなって、ごめんね、と」

 

川内。それはあの夜の幽霊なのか艦娘なのかわからない人。あの人は…幽霊じゃなかったんだ…。初めて窓から入ってきたときみたいに、きっと笑って言ってたのだろう。

 

「あなた方の異動先は大本営が考えるはずです。大丈夫、きっと素晴らしい提督の下へ行けるでしょう」

「あ、ありがとうございます…」

 

「川内さんから聞きました。勇気を出した方のお1人が、あなたであったと」

「私は…わた、し…」

 

「さあ、浦波さんがお待ちしております。どうぞこちらへ」

 

決して四宮と言う男の人は自分に触れなかった。それも優しさなのだろう。建造されてから初めて見る乗り物、風景。そして…疲れ切った顔をしていた浦波の泣き顔。妹がわんわん泣いている中、私はただただ、浦波がまだ生きていて、そして暖かい。その暖かさがトクン…と胸に染みた。

 

………

 

ゆらゆらと揺れる大きな箱の乗り物は、どれほどの時間が経っただろう?気が付いた頃には夜も更けていた。浦波はどこへ連れていかれるのだろうか?と言う不安から、日が暮れた辺りからずっと自分の手を握っていた。

 

「ようこそ、大本営へ」

 

乗り物を下りた先には、髪の毛が白と黒の混ざった男の人。この人が新しい提督だろうか?と思った。

 

「残念だが私は提督ではないよ。明日、君たちの異動先の提督達がやってくる。今日はゆっくりしていってほしい」

 

連れていかれた先は大きな食堂。ずらりと並んだ食事。先ほどのおじさんが帽子を取り、さあ座りなさいと促される。宿毛湾泊地から一緒にやってきた艦娘の人数分くらいはぱっと見でわかる。いい匂いのする食べ物…。

 

「料理長、もう大丈夫かね?」

「おうよ、万全ですぜ。そういやぁあんたの息子は元気でやってるのかい」

 

「ええ。鼻が高いほどに」

「そうかそうか!なら戻って来いとは言えねえなぁ」

 

「さあ、これは君たちの為の食事だ。何も気にせず召し上がってほしい!」

 

ほぼ全員がぎょっとした目でおじさんを見る。磯波もその1人だった。そのあと全員出撃でもさせる気なのだろうか?そして…。

 

「これが…最後の晩餐、と言うものですか?」

 

ゆらりと立ち上がったのは空母「赤城」だ。宿毛湾のリーダー的存在。戦果戦果とひっきりなしに出撃させられ、いい装備を渡されて、そしてたくさんの仲間の死を見てきた。おかげでいつも悲しそうな目をしている。

 

「違う。君たちをそのようなことをさせるためにここへ呼んだわけではない。君たちは今後、新たな異動先を決定し、そこで宿毛湾でのような無茶な出撃などではなく、しっかりと帰ってくることができる。君たちに悪逆非道なことをする提督では決してない。そんなところへ行ってもらう。男性が怖いと言うことであれば、女性の提督の所へ行くことも相談に応じよう。

君たちのことを長きに渡って救うことができず、辛い目ばかり遭わせてしまったこと、本当に申し訳なかった。次は必ず君たちが笑顔で生活できる場所の提供を約束しよう」

 

「そう言ってたアイツも結局ああやって変な場所へ売り飛ばしたり轟沈させてたじゃない!いまさら都合のいいこと並べたてないで頂戴!私は嫌よ。どこへも行かない。解体してちょうだい」

 

「………」

 

歯を噛みしめ、悲痛な顔をするおじさん。おじさんと言っているが、こういう事を言える人だから提督よりも偉い人なのではないだろうか?

 

「すまない…それは、許可できない。可能ならば大本営で広報活動の手伝い…と言うのもあるが…まずは彼らを見てもらってから判断してもらえないだろうか…大井君…」

 

「……わかり…ました」

 

大井さんは北上さんとある日突然引き離され、そのまま北上さんとは二度と会えなくなってしまった人だ。提督に怒鳴り込んできた数少ない人。あまりの剣幕に何をするでもなく、とにかく「さっさと消えろ」としか言えなかった提督。私もこれくらい強く言えることができれば…とも思ったが、そんなことをしていたらおそらく私はもうここにはいないだろう。以降、大井さんは徹底的に無視され、部屋から出ることもままならないくらいの扱いであった。

 

「すまない。本当に…すまない…」

 

後ろを向いて顔を手で覆うおじさん。泣いているんだろうか?艦娘のために涙を流す人がいるんだな…今はそれくらいの感情しか湧かない。大井の剣幕と今のおじさんの様子に誰もが食事に手を付けない。つけられるわけがない。そんな空気だった。

 

「ボーノ!これ、おいしいね~!」

 

そんな空気を破壊するのんきな声。それは、ハグハグと目の前の料理を食べる…駆逐艦。それもどこからどう手に入れてきたのかわからないイタリアと言う国の駆逐艦「リベッチオ」だった。彼女を手に入れたルートは謎であったが、海外の女とありゃ高く売れるかもしれねえと言っていたが、あまりの幼さに誰もが必要ない、と言うほどであった。幸か不幸か、彼女はいわゆる飼い殺し状態であった。結局売り手もつかず、誰かの手に渡ることもなく…こうしてここにいる。

 

「君は…イタリアのリベッチオ君だったかな?」

「そうだよ!リベこんなおいしいの初めて食べたよ。テートク、グラッツェ!」

 

「はは、は…そうか。ゆっくり食べなさい」

「はーい!」

 

リベッチオが緊迫した空気を壊してくれた。リベッチオが隣の初風にも「おいしいよ!食べよ食べよ!」と言っておそるおそる食べ、そして堰を切ったように皆が食べだした。無言であったがみんな食べていく。ちらっとおじさんを見ると、目を赤くしながら「よかった…」と言っていた。ああ、この人は…そう、あれだ。優しい人なんだろう。

 

食事を終えると今度は順番にお風呂へ入らせてもらった。自由に入っていいと言うのはありがたい。服も新しいものだ。これも嬉しかった。艦種別であったが大きな部屋に布団を敷き、一緒に眠る。布団がある。部屋もいつも寝るときは暑くて寝苦しいものだったがここは涼しい。

 

「姉さん…」

 

隣でくっついている浦波が心配そうな目で見ていた。

 

「どうしたの?」

「私たち…どうなるのかなぁ…」

 

「それは…私にもわからないかな…」

「うう…姉さんと離れるのだけは絶対いや…」

 

「私も…浦波と一緒だよ」

 

ギューッと自分にしがみついてくる浦波。かわいらしい私の大切な妹…。ずっと…最期まで一緒にいるから…。

 

………

 

徹夜もしなくていい。朝早く起きなくてもいい。そんな状況でゆっくり寝たわけだが、目を覚ますとまだ6時。体はなかなか習慣ついているのか、まだ寝てもいいのに…とも思う。おじさんもゆっくり寝たまえと言っていたのに。浦波はまだ隣で眠っているし、腕にしがみついているので動けない。お手洗い…行きたいんだけどな…。

 

7時に陸奥と言う戦艦の人が「総員、起床!!!」と言う声で全員飛び起きてあわあわしだしていた。陸奥さんは笑っていた。

 

「心配しなくてもいいわよ。朝ごはん、いつでも食べられるから目を覚ましてから食堂に来てね」

 

そう言ってまだクスクス笑いながら出ていった。新しい服に着替え、食堂へ行き、またみんなで食事だ。嬉しそうな浦波を見れてとても安心した。

 

大きな広間に移動し、座って待っていると3人の提督と思しき人がやってきた。遅れておじさんも入ってきた。

 

「やあ、揃ったね。おはよう、良く眠れたかな?」

 

おじさんの問いに駆逐艦はうんうんと首を揃えて縦に振っていた。それはよかった、と笑った。

 

「さて、ここにいる3人が君たちの新しい活躍の場をくれる提督達だ。希望があればそちらの提督の所へ行ってほしい。ないなら、彼らが声をかける。よろしく頼むよ」

 

そうして立ち上がった提督3人。男性が2人、女性が1人。

 

「あ、あの!あの!ああああええっと…」

「提督、落ち着きなって…何でそんなテンパってんだよ…」

 

「涼風ちゃぁん…」

「しゃきっとしろい!しゃきっと!んなんでこいつら引っ張っていけるかってんだ!」

 

「う、うう…!み、みなさん!な、七原と申します!み、みんなを!みんなと一緒に笑って!生活したいです!ふ、不束者ですが!どうぞよろしくお願いいたします!」

 

「提督よぉ…それってなんだ?嫁にでもいくのかよ…てやんでえ、提督はどこにもやらねえかんな」

「す、涼風ちゃん!!!」

 

「むぐっ!むーーー!!んむーーーー!!!!」

 

「七原提督…涼風さんが窒息しませんか…」

「え、ええ!?ご、ごめんね!涼風ちゃんにそう言ってもらえて…嬉しくて…その…」

 

「う、ういー…」

 

リベッチオがまた「あはは、おもしろーい!」と笑っていた。

 

「はじめまして、一宮と申します。私も今回皆さんと共に戦っていきたいと思います。もちろん、束縛などは少ない生活を保障いたします。どうぞよろしくお願いいたします」

 

「提督、固いな。もう少し柔らかくいかないと…涼風と七原提督のようにするか?」

「いえ…それはちょっと…」

 

「そうか。では瑞雲の飛行隊をここで飛ばして皆の気持ちを落ち着かせて…」

「いえ、それはないですね」

 

「まあ、そうなるな」

 

ふふ…と何か楽しそうな戦艦日向さん。少し自分が見た日向さんと違うが…どういうことだろうか?そして最後にもう1人立ち上がった。端正な顔をしている。優しそうな目だ…。

 

「九重よ。みんなのことは聞いたわ。もう心配いらないわ、アタシがまとめて面倒みてあげるわよ!」

「おい、台本と言葉遣いが全然違うじゃねえか!」

 

「だーってめんどくさいんだもの。あんなキザったらしいセリフ、アタシに似合うと思ってんの?この喋り方じゃないとほんと肩凝るのよねぇ」

 

「オレの苦労…オレの苦労した時間返せよぉ…」

「じゃあアタシがドレスを作ってあげるからそれでいいかしら?」

 

「……ピンクのパジャマ」

「それも作ってあげるわよ」

 

男の人で男の声で…お、女の人みたいな喋り方…。天龍さんと逆じゃないか?いや、天龍さんがあんな喋り方もおかしいし…。どこかでズデン!と誰かが椅子から転げ落ちる音がした。何と言うか…3人とも…すごい変わっていると言うか…。

 

でも、と磯波は思う。今まで見てきた人間とは違い、目の輝きが違う。そして優しそうな目をしていた。それぞれの提督に興味を持った艦娘が提督に話しかけている。

 

「わたしのところ?うーん、厳しくはないかなぁ。あ、おやつに間宮さんがホットケーキ作ってくれるの、おいしいよ!」

「な?あたいんとこはこんなゆるゆるなんだって」

 

「男性はその…こ、怖いですし…その、よろしくお願いします!」

 

「はい。ええ。しっかりとお休みも用意しておりますし、寮にもご案内いたします。食事もちゃんと用意しますよ……この食後の瑞雲鑑賞会は…はい、任意です」

 

「ふふ、いいだろう。食後に瑞雲を眺め、日ごろの疲れを忘れて癒しの時間を提供しよう」

「日向さん、洗脳のような真似は許可できませんが」

 

「よし、あたしゃ提督についてくよ!昼寝もありと聞いちゃ黙ってられない!だから…もう寝てもいいかな…?」

 

「ああ、これ?かわいい眼帯でしょう?アタシのお手製よ。今じゃストックが50個くらいあるわねぇ。日替わりでつけてくれて嬉しいわぁ」

 

「ねぇねぇ!リベにも何か作ってくれる?」

「ええいいわ。お洋服を作ってあげるわよ」

 

「やったー!じゃあリベは提督についてくー!」

「あら、よろしくお願いね。ちょっと、天龍ちゃん、いい子が来たわよ!」

 

「あのさ、オレの趣味をいろいろとサラッと暴露しねえでくれる?」

「何がいいかしらねぇ…眼帯は…ああっとダメね。やっぱり小さい子向けのゴスロリドレス…」

 

「聞けよ!!!!!」

 

それぞれ、艦娘が提督と個々に話をし、どこに行くかを決めていく。疑心暗鬼ではあるが、あの飾らないであろう話し方からも、いい人なんだろう…と少し信じることができてきた。

 

「ね、姉さん…姉さんは誰の所に行くの…?」

「私は…浦波ちゃんは誰がいい?」

 

「私は…わかんない…」

 

浦波はまだ怖いらしい。私はほぼ決めている。浦波を連れてその提督のもとへ向かう。

 

「あら!これまたかわいい子よ天龍ちゃん!」

「艦娘は誰だってかわいいんだろ…」

 

「あら、一番は天龍ちゃんよ?それはもう世界一かわいいわね」

「今この場でそう言うことをしれっと言うなよ!?」

 

「言葉に出さなきゃそれは相手に伝わらないのよ」

「時と場合によるだろ!」

 

「ああ、ごめんなさいね。アタシの話が聞きたいの?」

「はい。私は磯波と申します。こちらが妹の浦波です」

 

「知ってるわよー。ふーむ、ずいぶんときつい目にあってきた顔をしているわね。磯波は。浦波も怖い目にあってきたみたいね」

 

「………」

「う、うう…」

 

「アタシはこんなんよ?まあ、結構な数の子がアタシのとこに来てくれるって言ってくれたけど。オネエよ?」

 

「男の人とも何だか違うし…その…そこが安心できると言うか…」

「手を出すのは天龍ちゃんだけだしね。服に関しては思い立って作ってみたりするけどね。ああ、あとうちはスイーツが自慢よ」

 

「おい、今なんかサラッとすごいこと言わなかったか?」

「さて、どうかしらね。嫌なら一宮君やすみれちゃんのとこに行ってもいいって言っているから、まずはお試しでってことでいいかしら?」

 

「いえ。私はもう異動しません。私は…提督を。九重提督を信じようと思います」

「ね、姉さんが…信じる人なら!」

 

「……オッケー。そう言われたのなら、ちゃんと責任は取るわ。あなたたちも歓迎するわ。ん、これでほぼアタシのとこは決まりかしら」

 

スッと頭を撫でてくれた。その感覚は未知なる感触だった。提督が触れたあとの頭を自分も手で触る。違う。柔らかくて…優しかった。浦波も何か両手で頭を押さえて不思議そうな顔をしていた。自然とそう言うことをしてくれる人。あったかい人なんだ。提督の手は甘い匂いがする。

 

「提督の手は、甘い匂いがします」

「そうかしら?」

 

「あー、いつも何かおやつ作ってくれるかんな。提督の作るパンケーキは1回食ったらやめらんねえぜ!」

「パン…ケーキ?」

 

「帰ったら作ってあげるわ」

「テートク!リベもリベも!」

 

「はいはい。その代わり、アンタはいろいろと測らせてもらうわね?」

「やたー!リベ、服も着てみたーい!何でも着たーい!」

 

「ん?今何でも着たいって言ったわよね?」

「変な言い方で言質取ってんじゃねえよ」

 

さあ、帰るわよ。と今度は背中を手で押されて退室する。それぞれの提督にも挨拶をし、おじさんにも提督が頭を下げる。

 

「司令長官、ありがとうございました。この子達の面倒は責任を持って見ていきますわ」

「うむ。頼んだよ…九重君」

 

しれいちょうかん…司令長官…一番、えらいひと…司令長官!?

 

「は、はわぁ!し、司令長官!失礼しました!!!」

 

磯波は慌てて頭をさげた。ただのおじさん提督だなんてなんてことを…そうだ、偉い人じゃなきゃこんなことできないし、発言権も持っていない!!

 

「磯波、どうしたの?」

「し、司令長官を…や、優しいおじさん提督だとばかり…」

 

「んふっ、あっはっはっはっは!」

「ははははは!!いやぁ、そうかそうか!うむ、けどそれいいんだよ。私は提督と呼ばれる方が嬉しい。磯波君、浦波君。元気で、頑張るんだよ。大丈夫、九重提督ならきっと君たちをもっとはばたかせてくれる」

 

「は、は、はひ!」

「ふふふ、もう、姉さんったら…」

 

意外に思い込みが激しいのとそそっかしいのねぇと提督に笑われ、耳まで真っ赤になってしまった。港には天龍さんをはじめ、九重提督の艦娘達がいて、本土からは離れているために提督は船。その護衛に集まった艦娘達とあいさつも交わす。自分たちは海を走らず、提督と同じく船に乗って、泊地に着いたら艤装をしっかりセッティングし、まずは感覚を掴むトレーニングからスタートしていくらしい。磯波に浦波、リベッチオ。巡洋艦も数名。めったに顔を見たことがないので誰かわからない。

 

期待と不安を胸に、新たな着任地へ向かった。

 

 

泊地に着いて、部屋へ案内される。ピンクのフリフリがかわいらしいカーテン。柔らかそうな布団。シーツには謎のキャラクター。「BOKU KAWAUSO」?掛布団には首の長い黄色の謎の生物。深海棲艦…?ではないらしいけど…。浦波は救命の浮き輪に手が生えたような、不気味に口だけが笑っているキャラクター。夢に出てきそう…。それでも…。

 

「柔らかいね。でも、なんだか柔らかいと眠れないかもね、ふふっ」

「ふああああ……あふっ!?え、へへ…」

 

「もう、浦波ってば…ふぁあ…」

「姉さんもじゃない。うん。食べて、お風呂も入って…なんだか一気に眠くなってきちゃった…」

 

布団の気持ちよさに負け、寝てしまった。柔らかい布団に毛布。暖かさが心地良い。外は本土は夏真っ盛りだが、こちらは冬の様相で…寒かった。お風呂のお湯は熱め。しっかり温まった。「アンタ達だけね」と宿毛湾から移ってきた子達にだけ作ってくれた蜂蜜入りかりん湯という甘い飲み物。おいしかった。天龍さんがものすごい羨ましそうな顔で見てた。暁ちゃんも「暁も!暁も!暁にもくれなきゃ寝ないもん!」と怒っていたが、天龍さんが抱き上げてちょっとしたらもう寝ていた。すごい技術だ…。

 

明日から私たちはどうなるんだろうか…。何もかもがわからない…。考え事をしていても、プツンと何か緊張の糸が切れたのか、いつの間にか眠っていた。

 

………

 

やってしまった。最悪だ。浦波と揃って寝過ごした。壁にかかっていた時計を見て浦波を慌てて叩き起こし、急いで着替えて執務室へ。こんなことをした日には徹底的の罵られたものだ。そして蹴りまで入れられ、真っ暗な営倉に3日ほど放り込まれて気が狂いそうだった。だと言うのに…また放り込まれる…。恐る恐るドアを開けた。

 

「あら、おはよう。今日はゆっくり寝てていいって言ったはずだけど?ちゃんと寝れた?」

「あ、あの…あの…はい…ご、ごめんなさい!」

 

「申し訳ありません!」

 

「いいのよ。アンタ達はしばらくゆっくりしなさい。ま、とりあえず2週間くらいは何もしなくていいのよ」

「で、でも…それだと…」

 

「毎日おバカさんのせいで夜遅くまで働き詰めだったんじゃない?ほら、その指、ペンをずーっと持ってる指ね」

「う、うう…」

 

「てーとくー…まーたここ間違えてんぞ…」

「そう言う天龍ちゃんもここ、間違えてるわよ」

 

「ゲッ」

「あ、あの、この書類はホワイトで修正できます。こちらの書類は…ここを…こうすれば」

 

「姉さん、これ混ざりそう…こっちに置いておくよ」

「うん。あ、この書類提出期限…浦波ちゃん、これ、ファイリングしてもらえる?」

 

「はーい」

 

書類を片付けていく。浦波が終わった書類をてきぱきと仕分けていく。

 

「あらあら…まあ…」

「すげえ…」

 

昼前に書類は終わった。いつものサボりにサボった書類よりもはるかに少ない。

 

「あ…」

 

しまった。勝手に…。いや、でも、これ、サインをお願いしますとか判をお願いしますとか。いろいろ言った気はする。

 

「磯波ちゃん」

「は、はい…出過ぎたマネを…」

 

「浦波ちゃん共々うちの泊地の終身名誉秘書艦よ!アンタ達がいてくれたらうちの泊地のちょーーーーーう弱点な事務!事務が完璧に運べるのよ!!!」

 

「これで本土の人に怒られなくて済むぜー!提督!机!いい机買おうぜ!磯波と浦波の!」

「もちろんよ!経費でしょっぼい机なんてダメよ!大理石!大理石の机よ!」

 

「ええ!?」

「て、提督、そこまではいいです!普通でいいです!」

 

もう早速パソコンを使って机を探している。磯波ちゃん!浦波ちゃん!どれ!?どれがいいの!?ともう断れない雰囲気だった。とりあえず普通の事務の机を頼み…届くまではなぜか私が提督の机、浦波ちゃんが天龍さん、秘書艦の机だった。

 

「2人とも紅茶よー」

「これがウワサの提督のパンケーキだぜ!リベッチオが10枚食ってたぜ。磯波達も10枚食って、仕事を頼むぜ!」

 

「天龍ちゃんも仕事よ」

「えー!?」

 

「書類が多くてやってらんないのよ!?なんかアタシ達本土に移る話も出てるんだから!」

「提督、異動前の艦娘の所属数と名前を詳細に書き込んでほしいとのことですが」

 

「はいはい、すぐやるわよ」

「あ、いえ…終わりました…」

 

「在籍している艦娘もまとめておきました。宿毛湾から来た艦娘もリスト化、終わってます!」

 

「提督、次は経費の計算が合いません。これでは大本営から電話が…ああ、もう…はい、幌筵泊地の磯波です。はい、経費ですね、はい、今訂正しておりますので」

 

「浦波は何してんだ?」

「あ、はい。本土へ移るのでしたらその分の経費も計算しておこうかと…」

 

「浦波ちゃん、それより提督が着任してからの帳簿を調べてくれるかな。あちこち食い違いがあるって…」

「はーい。あー、姉さん、これまとめないと大本営の人もわかんないと思う」

 

「できる?」

「まかせて」

 

「ねえ。もうこの子達が提督と秘書艦でいいんじゃないかしら?」

「足向けて寝れねえよ…」

 

「てーとくー!ホットケーキまだー!ねーまだー!?」

「リベ、あんたあれだけ食べておいて…」

 

その後、大本営から実に見事な帳簿と計算です。提督の指示の賜物でしょうか?と嫌味をいつも怒りの電話をしてくる事務員さんに言われ、何も言えねえ状態な九重提督だった。

 

私と浦波ちゃんは事務仕事は必ず現地時刻の1700でおしまい。朝は0900から仕事。戦闘や演習もちゃんと出るようにするも、事務はその後はなし。次の日に、時々間違えている書類を訂正したりと、忙しいけど居場所を与えてもらって。あの事務の束で培ったことも悪くはないな、と思っています。

 

「提督、今日も書類をがんばりましょう」

「天龍さんもがんばりましょー!」

 

「何よこの判子待ちの束…」

「おいこれ、ぜんぶクリップしろってか…?」

 

ゲンナリしているお2人を横目に、今日も事務仕事、がんばります!

 




宿毛湾の提督の終焉を磯波の視点から。
なんとスーパー事務艦の誕生です。浦波は浦波で資料室とは名ばかりの場所で黙々と磯波の仕事で出た書類をファイリング、仕分けそたり郵送の手続きをしたりと多忙な毎日でした。嫌がらせでせっかくファイリングした書類をバラバラにされてファイリングし直したりしているうちにこちらも事務レベルが格段に戦闘よりアップしています。

そこでこの2人が事務仕事をやれば最強です。横須賀の大淀、鳥海、霧島、妙高と磯波、浦波コンビが仕事をするのとでは、おそらく磯波浦波コンビのが早いでしょう。彼女達は自分の居場所を、仕事を見つけました(提督が壊滅的なので)

次回は某ツンデレ提督の視点となります。ぱんぱかぱーんを忘れた重巡とのやりとりを書いていこうと思います。

それでは、また。
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