提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百五十話

ていとく!新しい仲間がふえました!大みなともかんむすがいっぱいになってきました!とってもうれしいです!ていとくのところはどうですか?ていとくはやさしいから、きっとみんなえがおでがんばってますよね!

五月雨はていとくとひさしぶりに会いたいなぁ。でも、ていとくにはていとくのお仕事がありますから、がんばってください!五月雨もがんばります!

 

1枚の手紙を読み終え、新たに増えたらしい艦娘に囲まれてとても嬉しそうな五月雨。その隣には「大好きなていとく」の1人である一宮提督が、五月雨の頭に手を置いて穏やかに笑っている。彼には北方海域の時にボロクソに言ったが、頭の回転の早さと指揮能力は認めている。まあ、俺ほどではないけど、と付け足す。

 

何より、こうして艦娘と仲良く向き合い、お互いが信頼を築くことで艦隊は円滑に運用できる。自分も少し前まではかなりギシギシしていたため、あまりこう言ったことは語れないのだが…。突き離しても、突き離してみても。結局彼女たちを嫌うことなどできず、最後には能代に自分の考えがバレ、接し方を改めなくてはならなかった。

 

「君も艦娘が好きだねぇ。五月雨君が懐く理由がよく分かるよ」

 

刈谷提督は艦娘が好きだ。打算なく自分に笑顔を向ける艦娘が。裏表なしに自分を慕ってくれる艦娘が好きだった。奴のせいで自分の道は大きく狂わされた。あの日。愛を誓い合った飛龍を失ってから。艦隊は解散。皆、泣きに泣いて嫌がった。でも、そうしなければ荒れ狂った自分が艦娘をどうするかわからなかった。

 

五月雨が最後まで諦めなかった。泣いて声が枯れるまで泣いて、一緒にどこまでも行きますと言った。

 

「今の俺はお前を不幸にする。だから、お前を幸せにしてくれる提督を見つけた。そこへ行け。俺は…お前をいつまでも幸せでいてほしいと思ってる。俺の思いに応えてくれないか…」

 

「でいどぐ…でいどぐは…し、幸せになれないんでずが…」

「全部落ち着いたら…どうかな…」

 

「なっでぐだざい!!でいどぐは…でいどぐは…じあわぜ…えぐっ!ううう!なっでぐだざい!!!」

「五月雨…お前はいい子だな…優しい…子だ」

 

「うわああああああああん!!!」

 

 

必ず、幸せになれよ。五月雨。

 

 

写真の裏側には丁寧な文字が書かれていた。

 

「時々、寂しそうですよ」と。

 

「ちっ、余計なこと書きやがって」

 

鍵のかかった引き出しを開け、アルバムと書かれた分厚いものを開く。浴衣姿。おいしそうに頬をパンパンに膨らませた顔。ひまわりに囲まれて笑顔。真面目に執務に励む姿。居眠りの寝顔。五月雨と手紙のやり取りを始めてからしばらくして、一宮提督の提案で毎回一緒に送られてくるようになった写真を誰にもみられないように隠しながら集めてきた。

 

龍田には見つかったが。いい子ねぇ。かわいい。とパラパラめくり、時々クスクス笑っていた。まあ、あいつにならいいだろう。能代や球磨達にはバレたらめんどくさいので死んでも隠し通す。

 

「ぱんぱかぱーん!提督ぅ?おやつの時間よー!」

 

ノックもなしに勢いよく入ってきたのは金髪の美しい底抜けに明るい重巡。

 

「愛宕、テメエノックしろって何度言ったらわかるんだ」

「ごめんなさーい!でもほら、おいしそうなおはぎでしょ?」

 

「聞けよ」

「えー?」

 

重巡愛宕。大本営に赴いた際に、いらないと言う理由から、彼が心底嫌う因縁の相手、大府提督の所から連れてきた艦娘だ。感情もなく、喋ることもなく、ただ佇んでいただけの人形のような愛宕を僅かな期間で元に戻した。

 

 

「ここがお前の新しい配属先だ。龍田、阿賀野を呼べ」

「はぁ〜い」

 

刈谷提督がずっと手を引いて執務室まで引いてきた。抵抗することはなかった。手を握り返すこともなく、強引にここまで引っ張ってきたのだ。そうでなければ車でも座ったまま。降ろせば立ったまま。クシャッと頭をかき、来いと言いながら引っ張らなければ何もしないのだ。

 

「テメエは人形か」

「………」

 

愛宕は何も答えない。

 

「テメエはしゃべれねえのか?はいかいいえで答えてみろ」

「はい」

 

「喋れるんじゃねえか」

「はい」

 

カチンときた。愛宕にではなく彼女を不要と言ったあいつに。言わなければはいもいいえも答えない忠実な人形。こんなのを作ったところで何がしたいのか。奴の崇高な考えが理解できない。こんなことをする奴が次期大本営の偉いさんだ?提督のカリスマだ?笑わせやがる。今カリスマ性がある奴はあいつだ。あいつ以外考えられない。

 

「お前の名前は?」

「重巡、愛宕です。なんなりとご命令ください」

 

「出撃も何もない。おい、ここにサインしろ。これでお前の異動は完了だ」

「……刈谷克巳様。新しい提督様。なんなりとご命令を」

 

「おい阿賀野はまだか」

「それがすごい慌ててたのよねぇ」

 

「……また部屋で干物になってんじゃねえだろうな」

「能代ちゃんが3日前にこってり絞ったって言ってたし、どうかしらね〜?」

 

「し、失礼しまぁす!阿賀野!まいりました!」

「よお阿賀野。ずいぶんしわくちゃな服だなぁおい?」

 

「ぎくっ、そ、そんなことありませんよ!」

「スカートにお菓子の食べかすがいっぱいよ〜?」

 

「ち、違うもん!」

「阿賀野、30分後にお前の部屋を龍田に見に行かせる。問題ないな?」

 

「えっ!?え、えっとぉ…」

「能代のお説教じゃあ効かねえみてえだなぁ?」

 

「そう言えば能代ちゃんが言うこと聞いてくれないのって嘆いてたわねぇ」

「ぎくぎくっ」

 

「阿賀野、長門の特別鍛錬を3日だ。反省文原稿用紙10枚と。俺が知らねえと思ってんのか。テメエの部屋の状況は能代と球磨から逐一情報を得てる。お前、今後だらし姉って呼んでやろうか?」

 

「いやです!阿賀野は最新鋭軽巡なんですよ!?だらし姉なんて不名誉じゃないですかぁ!」

「それくらいだらしねえんだ。嫌なら部屋の片付けをきっちりしろ」

 

「そうしたら訓練は…」

「あるに決まってんだろ」

 

「ふぇええん、そんなぁ…」

「その前にこいつを寮の空いてる部屋に連れてけ。寝床は整えてあるからな」

 

「提督さんがしたの?」

「知らねえよ、どっかの世話好きだろ」

 

「提督さんのことじゃない…」

「5日にしてやろうか?」

 

「案内しまぁす!愛宕ちゃん、こっちだよ!いこ!」

「………」

 

「……?愛宕ちゃん?」

「愛宕、阿賀野についていけ」

 

「はい」

「提督さぁん…」

 

「連れて行って座らせろ。そしたらここへまた来い。部屋まで手を引いてやれ」

「は、はぁい」

 

パタン…と静かに出て行った。はぁ…と刈谷提督は大きくため息をつく。

 

「どうやったらあんな風に艦娘をできるのかしらねぇ…」

「飛龍が言うには何かを斉唱させてるらしいが…それだけじゃねえ。禁じ手使ってんだ」

 

「禁じ手?」

「古井のおっさんや虎瀬のおっさんが断固として拒否したもんだ。艦娘の心を無にする機械。心を破壊して謀反を起こさないようにするもの。名付けて『艦娘操作機零式』だ」

 

「それはもう禁じられているんでしょう?」

「あいつと他に人を寄せ集めて設計図をほじくり返したんだろうよ。どこにでもいやがるんだ。燃やして、すべてのデータを消去したと思ったやつを、隠し持ってる奴ってのがな」

 

「…………」

「そうして、心を空にした後に暗示みたいに自分たちは兵器だと刷り込む。そうすりゃああなる」

 

「その人は…何者なの?」

 

「あれでも心理学に長けてるみてえだな…だからってわけじゃねえが人の心を掴むのがうまい。若き提督のカリスマとはよく言ったもんだ。心を掴むつっても、アイツの場合は弱みに付け込むのがうまい。カリスマじゃねえよ。恐怖で人を動かす。あの感情のない目と抑揚のない機械みてえな声であらゆる弱みに付け込む。なぜか一部の提督や大本営の偉いさんの一部から将来を有望されているらしいが…まあ、俺には脆い薄氷みてえなもんだと思ってるぜ」

 

「若きカリスマなら彼の方が有望視よね〜?」

 

「ふん…まあ、そいつを摘み取られねえように裏方でコソコソやってんだよ」

「大変ね〜」

 

「あいつはもう厄介ごとで潰されることもほぼねえ。大府のクソが直接あっちに行かなきゃ…な。弱い部分をほじくりだすのが得意だ。三条もほじくり返されたら…やばいかもな」

 

「あらぁ、あなたを相当敵視してるからそれはないんじゃないかしら?潰すなら三条提督よりもあなたでしょ~。それは置いておいて…まずは愛宕ちゃんね〜」

 

そう、まずは愛宕だ。心に穴を空けられた彼女を何とかせねば。愛宕は明るく、世話焼きな子であんな人形のような重巡ではない。いや、艦娘にはそれぞれ個性があり、それこそが艦娘がこの世に存在し、生きている証だ。その証を消し、人間のいいようなおもちゃにするなど、許せるわけがない。

 

「見てな。次の大本営会議の際には、奴の前に元に戻した愛宕を連れて行ってやるぜ。どんな顔するか…見ものだ」

 

刈谷提督はこう見えても人脈は太い。提督の中では腫物扱いだが、大本営の人間、上層部からの信頼は厚い。カタカタとキーボードをせわしなく叩く。龍田はその間執務を進める。しばらくして能代もやってきて龍田と共に執務をこなす。刈谷提督はその間、夢中でキーボードを叩く。

 

昼が過ぎ、今度は電話だ。忙しい。しゃべり方から見て上郷提督か…いや、うるさい声が聞こえる。三好提督だろう。

 

「ああ。話を通せるか?一応信頼のおける奴にメールは送った。あ?あえてだよ。盗み見て行動を起こすバカがいたらそいつが黒だ。釘刺してやってんだ。何人か引っ掛かるんじゃねえか?」

 

『ガハハハハ!!お前も大胆なヤツじゃわい!で、その艦娘は何とかなりそうなのか?』

「わかんねえから可能性に賭けるんだよ。いったん消滅した設計図をイチから起こして再現する。おそらくどこかに何かしら抜けがあんだろ。最初の開発者見つけ出して締め上げてもいいんだぜ?」

 

『そやつならすでにこの世におらん。自ら謝罪の言葉を並べ立てて自害しおったわ』

「チッ…」

 

『作った当初は世紀の開発と喜んでおったが…そうなった艦娘を見て何てことをしてしもうた、とな』

「多くのバカが使って轟沈が激増。敗戦の匂いが漂ってたらしいな」

 

『おお。ワシと上郷、虎瀬、古井は大戦果をあげておった。じゃがそれ以上に轟沈ばかりじゃった』

「バカが…!」

 

『その気持ちを持つお前は本物じゃあ…その炎を絶やすでないぞぉ!』

「当然だ。轟沈は…もういい」

 

『刈谷よ。佐世保を継ぐ大炎を持つ漢よ!お前に全面的に協力しよう!じゃが、果報は寝て待てじゃ!ガハハハ!』

 

一方的に鼓膜が破れそうなくらいの声で笑って電話を切った三好提督。耳が痛い。久しぶりに電話したら大喜びしやがって。上郷のジジイといい、厄介なジジイ共だ。何が果報は寝て待てだ。結局何も情報を持ってねえってことじゃねえか。だが、希望がないわけではない。やはりオリジナルとは違う劣化コピーの装置のようだ。そうでなければ、涙を流したりはしないだろうから。

 

「提督さん、愛宕さんの案内終わりましたぁ」

「阿賀野。お前はあの愛宕をどう思う」

 

「ふぇ?どうって?」

「感情がねえだろ」

 

「えーっと、うーん…でも、提督さんなら何とかしてくれるかなぁと思います」

「へえ」

 

「阿賀野、球磨さんや多摩さんのこと知ってるし、能代も嫌な提督さんの所から来て、人間なんてって思ってたのが提督さんにデレデレだしぃ…だから、愛宕さんもきっと…元に戻ってここでみんなと楽しくできるんじゃないかなって。提督さんがそうしてくれるって信じてます」

 

「………そうかよ」

「ぴぇっ、変なこと言ってごめんなさい!あ、阿賀野、失礼しまぁす!」

 

「阿賀野」

「ひえー!お、お許しをー!」

 

「持ってけ」

「きゃっ!?い、伊良湖券!?」

 

「食い過ぎで動けねえとか言ったら球磨の地獄特訓だ。加減して食え」

「わーい!あはっ、やったー!能代と食べて来るね!」

 

ふん。ったく、んなこと言われたらやる気出すしかねえじゃねえか。褒美に伊良湖券10枚をくれてやったわけだが。しかたねえ。阿賀野の期待のためじゃねえが、愛宕があのままでは胸糞が悪い。刈谷提督はへっ、と笑って愛宕を何とかするためにまたパソコンをいじりだした。

 

………

 

『………』

 

ガツン…ゴトン…と言う音が受話器越しに聞こえた。受話器を落としたらしい。なんだ、失礼な奴だな。

 

「おい、どうした?」

『いえ…何でもありません。刈谷提督が自分に教えてくれって言うのが…』

 

「テメエ言うじゃねえか。俺だって1人で解決できねえもんはなんだって使う。今回はテメエが適任だと思ったんだよ、三条」

『は、はあ…』

 

「不知火はどうだ?」

『ああ…不知火でしたら漣やみんなのおかげで今は感情も顔にはあんまり出ませんが、少しは感情が見て取れるようになりました。漣も落ち着いていますし、曙や朧ももう見えていないと』

 

「艦娘が不知火の心を呼び戻したと?」

『俺は何もしていません』

 

「艦娘をお前が何とかしたみてえな話はねえのかよ?」

『雪風は皆の支えもあってか…北上も雪風も俺のおかげだと』

 

「よし、詳しく話せ」

『はい?』

 

何か言いたげであったがそのことを語りだした。クソ野郎のせいで心を破壊され、深海棲艦一歩手前までいった雪風の話。その感情を呼び戻したのが恥ずかしそうにボソボソ言っていたが自分の料理と頭を撫でてやったことだと言う。と、言うか雪風をそこまで追い込んだゴミクソ野郎を自分の手でブチ殺してやりたいと思う気持ちが芽生えたが、既にこいつは海の藻屑になっている。怒ってもしかたがない。

 

北上の話についても聞いた。話を聞いて泣いてすっきりさせる話。どちらかと言えば雪風と不知火の状況が愛宕には近いか。何だこいつ。聖人君子かよ。とにかく艦娘のためにチカラを尽くしている。艦娘と生きるために生きているのかこいつ。愛宕を元に戻せるか、こいつの話を聞いていたら自信がなくなる。だが、あいつは俺が連れ帰ってきた。だから俺が何とかしなければならない。

 

「ふーん。だいたい聞けたな」

『なんか、そんな艦娘がいるんですか?不知火と一緒のような?』

 

「テメエにゃ関係ねえよ」

『あ、そうですか』

 

「テメエは自分の艦娘の面倒に全力を尽くせ。テメエの艦娘はテメエで見る」

『で、助言がほしかったんですね?』

 

「あー?聞こえねえ」

『刈谷提督。その心を壊された艦娘は、何か助けを求めてきたりはありましたか?言葉はなくとも、何か助けを求めていませんでしたか?』

 

「……泣いた。かわいそうな奴ってそいつの前の提督に言ってやったら。俺のとこだったらいろいろとやってやれるのになって言ったら」

 

『そうやって無意識に泣いたりできるなら可能性はあります。まだその子の心は完全に壊されていません。そんな気がします。ですから、刈谷提督にしかその子は助けられないと思います。艦娘とチカラを合わせれば…』

 

「そうかよ。お前は…俺にできると思うか?」

『なんだかんだで轟沈ゼロの提督でしょう?蔑ろにしているようには思いません。ですから、何かあったらまた聞かせてください。俺で良ければチカラになります』

 

「……ああ」

『では、これで』

 

長電話は終わった。参考になった。こういうのはアイツが役に立つ。同じ提督の中では信頼できる。本当に。まああっちは敬遠してる感じだが。「よお」と電話を出た瞬間に言ったら妙な間があったし。面白い奴だ。

 

さて、と刈谷提督は考える。三条は艦娘とチカラを合わせればと言う。協力できる艦娘?龍田…はまあいいだろう。こいつは頼りになる。さて他はどうだ?

 

能代…まあ、手伝ってくれるだろう。

阿賀野…信頼できる。干物が伝染しなければいいが。

長門…硬すぎる。

球磨…艦娘。特に駆逐艦の面倒も見ず、羽黒にケツをかきながらセクハラする奴。ダメだ。

多摩…放任主義。

 

龍田、能代、阿賀野。こいつらとやっていくしかない…。榛名は優しすぎる。いきなり壁にブチ当たった。

 

プルルル!とファックスのコール音。何枚かの書類が届いた。内容は図面。最後には丁寧な文字で「役立ててほしい」とだけ書いてあった。それは…メールで頼った相手ではない。メールの返信は残念な答えばかりだ。監視の目が恐ろしいのか、辞退、お断り。もしくは見当たらない。そんな内容。外部も頼ってみたがダメだった。内部なのか外部からなのかわからない。だがそれは間違いなく、「艦娘操作機零式」の図面である。

 

「……コピー品であり、不完全である。参考にされたし。愛宕君を助けてあげてほしい…ねぇ…」

 

刈谷提督はこれが誰かわかってしまった。口にも出さないし、電話で礼も言わないが…アイツだ。いや、俺の言い方じゃ気持ち悪くなるだろうが、あの人だ。これが漏れたら自分の身が危ないと言うのに。無茶しやがる。

 

「しかと参考にさせてもらうぜ。これなら…元に戻せるかもな」

 

ヒュウ…ときれいな口笛を吹く。しかし、よく知っていたな。

 

 

>  が入室しました。

 

>役に立ててくれ。それくらいしか出来ずに申し訳ない。

 

あんた誰だ?

 

>私のことはどうでも良い。これは零式ではなく模造品だ。完璧ではない。ある提督が外部の者に委託して作らせたものだ。残念ながら、委託した者によって製作した者は始末されている。

 

それを俺に教えてどうしたい?

 

>決してそれを探ろうとしてはいけない。君が消される。忠告だよ。

 

聞き入れておこう。で、お前は誰だ?

 

>ただの君のファンだ。艦娘をどうか頼む。それでは、また。

 

おい

 

>  が会話を終了しました。

 

 

パソコンが突然チャットを開き、役立ててくれと来た。会話を適当にしながら、チャットを閉じようとしてもできず、情報を探ろうとしても一切わからなかった。名無しの誰かは多少必要な情報を残して去った。あの男にこんなことをできる技量があったのか?だが、俺に手を貸していいのか?あんたに心酔しているあのクソ野郎が見たらどう思うだろうな。

 

「まあ、いい。望みは…ありか」

 

「失礼します。提督、愛宕さんですが夕飯の時間なので食堂で待機してもらっていますがいかがいたしましょうか?」

 

能代だ。もうそんな時間か。夏は日が暮れるのが遅い。まだ明るいからと思っていたが、調べ物のせいで随分と時間を食ってしまった。腹は減った。

 

「飯は食わせるべきだな。俺も腹が減った。ちょうどいい。うちの飯を食わせてやれ。行くぞ」

 

ポンと頭を撫でて部屋を出る。ひゃっ!?と驚いた声をあげる能代を背にスタスタと食堂へ向かう。提督!?と何度か能代が呼び掛けたが無視した。たまに五月雨にやっていたことだ。なんだ、昔の癖が今になって出てきやがった。

食堂では皆が食事のために待っていた。清霜が嬉しそうに歓迎してくれた。

 

「司令官だ!司令官!ここが空いてるよ!」

「そうかよ」

 

躊躇いもせずに清霜の隣に座る。清霜は嬉しそうに「ふっふーん!」と鼻を鳴らしている。能代と阿賀野が気を利かせ、刈谷提督の隣に愛宕を座らせる。清霜の頭をむんずと掴みながら立ち上がる。

 

「今日からタウイタウイから来た愛宕がうちの一員になる。見てわかる通りこんな状況だ。何とかはするがどうなるかはわからねえ。お前ら、手貸せ」

 

なぜか清霜の頭を撫でながら喋っていることに耐えられない球磨と多摩が下を向いて笑いをこらえている。清霜はご満悦で刈谷提督の手を手でさわっている。

 

「司令官、清霜に何ができる?」

「話しかけてやれ」

 

「司令官!むふふ、睦月の頭もなでなでしてくれると協力するにゃしぃ!」

「そうかよ」

 

「おほー!よいぞ…よいぞ…ふふーん!」

「司令官…如月も…撫でてほしいなぁって…」

 

「ダメだクマ…まだ笑うなクマ」

「にゃっにゃっ…」

 

ここ最近、艦娘の扱いが変わってきた提督に睦月型が群がる。清霜や、少し前の作戦で邂逅した秋霜ももっともっととねだっている。

艦娘を恐怖のどん底に落とす恐怖の提督、と恐れていた睦月型であったが、今やこれである。清霜にイタズラをする刈谷提督を見て大丈夫と判断したらしい。それを見た巡洋艦や戦艦も、少し態度が軟化していった。

 

「さっさと戻れ。飯にすっぞ」

「はーい!」

 

ボーっとそれを見つめる愛宕。これといって特に動きはない…が。

 

「愛宕さん?」

「泣いてる…」

 

提督と駆逐艦のやり取りを見てなのか、理由はわからないが一筋の涙を流す愛宕。これを見た刈谷提督は確信した。こいつは完全に壊れているわけではない。やはり、不完全な洗脳のやり方だった。

 

バカな奴。テメエはほんと昔から、あと一歩が足りねえな。

 

「お前の飯だ。食え」

「はい」

 

命令には従う。今はこれが精一杯か。寝ながらご飯を食べている加古の頭をはたきながら様子を見守る。箸の持ち方をレクチャーする清霜と秋霜。おいしいでしょ?と話しかける睦月や如月。好き嫌いはいけないと言いつつブロッコリーを避ける菊月。

 

「おい菊月。テメエ言ってることとやってることが矛盾してるじゃねえか。残念だな。俺が見たからには残させやしねえぞ。長月、菊月を押さえろ」

 

「……!?む、こ、こうか!?」

「長月、貴様、裏切るつもりか!?」

 

「すまん、司令官には逆らえない」

「もう、好き嫌いはダメよ!」

 

「いいぞ三日月。もっと言ってやれ。オラ、口開けろ。俺の命令が聞けねえのか?」

「くっ、し、司令官、後生だ!それだけは…!やめろ!やめて…!」

 

「俺に命令してんじゃねえよ。テメエは命令をする側じゃなく聞く側だ。三日月」

「は、はい!こちょこちょ」

 

「う、うひっ!あっ!」

 

口を開けた瞬間にブロッコリーを放り込んだ。んむー!と普段の物静かな菊月からは考えられない声であった。それほどまでに、菊月はブロッコリーが嫌いであった。独特の風味が口の中に広がり、さらに鼻腔を刺激する。菊月は涙目になり、足をジタバタさせている。刈谷提督が目の前にいるため、吐き出すこともできず、頑張って噛んで飲み込んだ。

 

「はぁっ!はぁっ!た、食べた…ぞ…」

 

口を大きく開けて飲み込んだことを証明する。如月が「うわぁ…菊月ちゃんだいたーん…」とか「恥じらいは持つべきだ」長月が言ってみたり、何を言っているのやら。如月の豆知識では「口の中を見せるということは身も心も許した証拠でもう愛の告白をしているようなもの」と言う。んなわけあるか。

 

「よし。これでもうブロッコリーは食えるな。次も食えよ」

「う…うう…わかった…」

 

「よし、菊月。あそこの冷凍庫の戸を開けて来い」

「ああ…」

 

フラフラとしながら菊月は冷凍庫へ向かい、戸を開けた。すると今まで死にそうな顔をしていた菊月の顔がみるみる綻んでいく。

 

「し、司令官…!アイス…いいのか!」

「ああ」

 

「感謝する」

「あー!司令官!清霜もちゃんとコーン食べたよ!?」

 

「テメエの好物だろうがそれは」

 

最近の食事の風景はこう言うほのぼのしたものが多い。提督も加わってにぎやかになった。刈谷提督が何を言い出すか。龍田が何をしだすかにビクビク怯えるような食事では味もわかりにくいものだったが、今はこれだ。そこには刈谷提督も加わっている。

 

「提督、うちもアイス食べたいな~!」

「菊月だけだ」

 

「ちぇー」

 

「よう、食ってるか?」

「………」

 

「食ってるみたいだな。うまいか?」

「……うまい?」

 

「味はするか?辛いとか苦いとか酸っぱいとか」

「……わかり、ません」

 

「そうかよ。うちでは飯は好き嫌いと残しは悪だ。全部食べろ」

「はい」

 

ちょっと荒っぽくだが頭を撫でた。龍田や能代、榛名はその時の提督の顔を忘れることはないだろう。何かを慈しむような顔だった。彼が初めて見せた顔だった。ブーッと球磨と多摩が噴き出していた。球磨と多摩が見合っているど真ん中にフォークが飛んできて壁に突き刺さる。ヴォオオ!?と変な声を出して慌てる球磨。

 

非常にゆっくりであるが全部食べ終えた愛宕。何かを待っているかのように刈谷提督の顔を見つめていた。

 

「食ったか?」

「はい」

 

「腹は膨れたか?」

「はい」

 

「よし、誰か愛宕を風呂に連れて行ってやれ」

「はーい!はいはいはーい!衣笠さんにお任せ!」

 

「はいは一回でいい。うるせえ」

「は、はい!」

 

「衣笠。頼んだ」

「………」

 

「おい」

「は、はい!任されました!」

 

行こっか、と手を引いてゆっくり歩いていく衣笠。連れられて行く愛宕。何だ急にやる気を出しやがって。一体何なんだ。駆逐艦のチビ共はうるせえし、見つけると群れて来るし…昔のやり方に戻しつつあるのは自覚している。五月雨がぴーちくぱーちくうるさかった時。

 

 

提督!えへへ、提督に頭を撫でてもらうと元気が出ます!えっ?じゃあやめる!?うるさいから!?ひどいですー!ひどいですー!!!ぷんぷん!!

 

 

懐かしい。結局、あのクソ野郎みたいに恐怖で艦娘を動かすなんざ無理だ。2、3年やってみたがストレスしか溜まらない。龍田がいなけりゃきっと潰れてたか、クソ野郎に付け入る隙を与えていただろう。

 

「顔、綻んでるよ?」

「うるせえな」

 

「ふふ…今の方が提督らしいわね~。じゃあ私もやり方を変えよう~っと」

「なんだそれ」

 

「いいのよ~。私は今の方が好きだし」

「そうかよ」

 

「そうなのよ~」

「で、何でこっちに頭向けてんだテメエ」

 

「私も~、なでなでしてほしいなぁ~って」

「はあ?」

 

「誰も見てないわよ~」

「ちっ…」

 

「………うふふふふ♪素敵ね~♪」

「そうかよ…」

 

んふふ~とご満悦な龍田。いろいろと今日はペースが崩れている刈谷提督。恥ずかしいのか龍田がるんるんしている横で龍田を無視してパソコンをいじる。メールは何件か来ていた。自分が期待した結果のメールの内容ではなかったが。

 

「ん…」

 

三条からメールが来ていた。画像を開くととびきりの笑顔で笑う漣。困ったような顔をしているように(刈谷提督には見える)不知火。本当に困っている顔をしている山城。短く「近況報告です」と漣に飛びつかれている三条からのメールだった。

 

「……ふっ」

 

やっぱりこいつの所に行かせて正解だったぜ。安心した。

 

「龍田」

「は~い」

 

「買い物行くぞ、明日。付き合え」

「デートかしらぁ」

 

「ただの買い物だ、行くぞ」

「はぁい」

 

その夜の刈谷提督は機嫌がよかった。

 

………

 

「花火だ」

 

突然買い物に出かけたかと思ったら大量の花火セットとやらを買ってきていた。段ボールにいっぱい。何かがわからない艦娘達はぽかーんとしていたが、龍田が説明をすると割れんばかりの歓声が駆逐艦たちから上がった。今すぐやろうとか言いだすので夜になってからって言っても聞きやしねえ。騒がしい清霜にはアイアンクローを見舞っておいた。軽くだが。

 

夕飯時でもとにかく花火の話でもちきり。提督の周りには駆逐艦がズラリ。愛宕を隣に座らせるのは何とか死守した。

 

「火、つけますよ」

「わくわく!」

 

「きよきよ、早くー!うちもうちも!」

 

榛名が火をつけて花火にやるとシュボーッとピンクや緑の鮮やかな光が清霜や秋霜を照らす。キャー!とはしゃぎ、さらに睦月たちも大はしゃぎである。

 

「ねー、なんか面白そうな花火あるよ!火つけるよー!」

 

清霜が率先して花火を出していく。能代が火をつける。

 

ズズズズズ…

 

黒い塊がうねうねと動き出す。それは火も出なければ派手でもない。煙をまき散らし、動く「蛇花火」だ。

 

「………」

「………」

 

「楽しいのか、それ?」

「た、楽しい!」

 

「無理があんだろ」

 

ロケット花火を手に持って…

 

「全主砲斉射!てーー!!!」

 

ピューーーーン!!

 

「長門さんかっこいい!」

「いいな、それ…!」

 

………

 

「さ、これ持って?」

「……」

 

「いきますよぉ~!着火~!」

 

阿賀野が愛宕に花火を持たせ、火をつける。ボーっと花火を眺めているようだが。また涙が流れていた。昨日今日だけで何回泣いているんだこいつは。

 

「楽しいか?」

「…楽しい?」

 

「花火見てなんか感じねえか?」

「……わかり、ません」

 

「ま、その涙は何か感じてるんだろ。テメエはもううちに来たからには俺の艦娘だ。まあ、いろいろあるだろうが覚悟するんだな」

 

「…出撃ですか?何なりとご命令ください」

 

「ねえよバカ。テメエを今の状況で出撃させたら一発轟沈だ。俺の鹿屋に来てからの轟沈ゼロの記録が止まっちまうだろうが。当面食っちゃ寝だ」

 

「いいなぁ…」

「阿賀野。テメエは来週ずっと遠征だ」

 

「ええっ!?そ、そんなぁ…」

「いい運動になるだろ。干物生活もたいがいにしろ」

 

「あ、阿賀野そんなに干物じゃないです!って言うか干物ってなんですか?!」

「テメエみてえなことを言うんだよ干物。見てくれきれいなんだからダメにすんな」

 

「えっ?き、きれいだなんて…え、えへへへへへ」

「だったらきっちり遠征行け」

 

「はぁい!阿賀野がんばりまーす!」

「阿賀野姉…」

 

「で、話を戻すぞ。しばらくはチビ共に遊んでもらったり、巡洋艦や空母や戦艦に世話されろ。いいな」

「はい」

 

「清霜。愛宕に花火やらせろ」

「はーい!」

 

長門たちは打上花火の方を楽しんでいるようだ。そっちはそっちで駆逐艦や巡洋艦、みんなが盛り上がっている。こんなに楽しいのは初めてだったとみんなが言う。

俺は俺のやり方で艦娘と向き合う。見てろ。必ず愛宕は俺が元に戻してやる。ポッと消える花火みたいにじゃなく、太陽のようにずっと燃えるように。

 

愛宕の頭をまた撫でて、愛宕を全力で救うと心に決めたのだった。龍田はその様子を目を細めて見守り、彼に一生ついて行くと心に決めなおした。

この基地。そしてゆくゆく佐世保に移った時も、明るい場所にしよう。クソ野郎にはぜってえ負けねえ。




刈谷提督と愛宕編、スタートです。
とは言いますが刈谷提督のお話だらけですね…。愛宕を元に戻すために刈谷提督の奔走が始まります。
刈谷提督の艦娘への接し方も変わってきましたね。これから先、ツン成分が少なめになっていくんだろうと思います(適当)

では次回も刈谷提督のお話です。次回も刈谷提督のツンツンぶり(?)をお楽しみください。

それでは、また。
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