提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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刈谷提督の視点から舞台は再び横須賀に戻ります。
宿毛湾の提督逮捕のところへ再度戻り、お話を進めてまいります。


第百五十二話

「ええっ!?ちょ、ちょ、提督さん!提督さん!」

 

瑞鶴がテレビにかじりついていたのだが、突然立ち上がって司令官を呼びながら部屋を出ていきました。私は何をやっていたんだろう、とテレビを見ると思い出したくもない顔の人がテレビに映っています。

 

その顔を見るや、私は頭のてっぺんからゆっくりと冷たくなっていくような気がしました。だってそれは…。

 

「お前はほんと執務もダメ。女としてもダメ。何だおめえ?生きてる意味あんのかよ?沈ませてやろうか?」

 

「よお、おめえもういらねえから、護衛として役立ってこい。おめえの妹も一緒に出してやるから。ああ、帰ってこなくていいから。まあ目標達成したらあいつらバカだからおめえ相手でもヤるだろ」

 

………

 

「吹雪ちゃん?」

「………」

 

「吹雪ちゃん、大丈夫?お兄ちゃんのとこ、行く?」

「うぷっ、うげええ!!!」

 

「吹雪ちゃん!?だ、だれかー!誰か来て!!!」

「うげっげはっ、ゲエエエエ!!!」

 

島風ちゃんが助けを呼んでくれて、駆けつけてきた電ちゃんが大和さんと扶桑さんを呼んでくれて…私は扶桑さんに抱えられて明石さんのところに連れて行かれました。吐いたもの、汚い…掃除しなきゃ、と思ったんですけど、大和さんに止められて私は連れ出されました。

 

「吹雪さん、こわい何かを見てしまったのかしら?大丈夫、怖くない…私がいるわ。提督も…ね?」

「は、はい…」

 

私は震えて上の空でしか扶桑さんに返事ができませんでした。

 

「吹雪さん、戻す前は何をしていました?」

「いえ、それがわたしにはさっぱりで…島風ちゃんが一緒にいたわね…」

 

「うへえ、島風ちゃんかぁ…島風ちゃん、説明が壊滅的に下手くそだからなぁ…」

「なんとなくわかったわよ、私は」

 

「あら、満潮…?」

「島風から聞いたわ。まあ…言葉で、じゃなくてちょっと…実力行使だけど。調律使って…」

 

「便利ねぇ…」

「いやいや、それ間違ってません?」

 

「しょ、しょうがないじゃない!あのね!とかえっとねを何百回聞いたと思う!?」

「あー、やっぱり…」

 

「だ、だから!カチカチ言わせて…その…心から直接聞いて…」

「秋津洲さんに知れたら大事だから内緒ね…」

 

満潮がおもむろにテレビのリモコンを取り、テレビをつける。明石の部屋にはテレビがある。動物の番組が好きで息抜きに見ている。癒されてストレス解消。まあ今はストレスとは無縁だが、大本営ではハゲでデブなおっさんの嫌味やセクハラでストレスがマックスで、虎や豹など猛獣を見ては、食ってくれないかな…とかを思い、小動物を見ては癒されていた。その名残で送ってもらったものだ。

 

テレビには人相の悪い男が逮捕され、連行されている映像が繰り返し流れている。見出しは「悪徳!艦娘風俗営業の男逮捕」とあった。

 

「何でしょう、この男性の方は提督の気配を感じます。ですが…とても…気分が悪くなる空気も感じます」

「そうよ。この男は司令官よ。元、私や朝潮姉さん、大潮姉さん、荒潮、妙高さん、吹雪…そして、霞の」

 

「これが宿毛湾の提督ですか。なるほどなるほど。吹雪さんはこの男を見て具合を悪くしたと。うーん、フラッシュバックかー」

「フラッシュバック?」

 

「吹雪さんはこの男に数々の暴言や暴力を受けていました。体の火傷の痕もそうです。彼女は心に深い傷を負っています。繊細な子なんだと思います。それに、妹である初雪さんや叢雲さんをあの男のせいで失っています。今までここで過ごしてきたことで傷を塞いでいましたが、これを見ちゃって、今、それを言われたり暴力を受けたかのように思い出しちゃった」

 

「……」

「それで、吹雪さんはどうなってしまうのですか?」

 

「お薬で眠らせました。忘れようにも忘れられない記憶でしょう。眠らせた、としても問題を先延ばしにしたに過ぎません。吹雪さんは傷口が開いてしまった。それも、致命傷になりかねない傷です」

 

「吹雪も霞みたいに…?」

「わかりません…ですが、私は心理学者でもカウンセラーでもありません。根拠はないんですけど…玲司君と…満潮ちゃんなら…」

 

「私が?」

「結構満潮ちゃんの話、多いですよ。満潮ちゃんはすごいなぁ、とか。今日は満潮ちゃんと出撃してサポートしてくれたとか。私ももっと満潮ちゃんの足手まといにならないように頑張らなきゃって」

 

[何言ってんのよ…防空に出撃遠征…私より吹雪の方が…頑張ってるじゃない…」

 

ギュウ…と手を強く握りしめる満潮。まただ。また霞の時みたいに何もできない。こんな時、何の役にも立てない…。

 

秋津洲が言うには「調律」と言うのは艦娘の深層心理を覗き込むと言うこと。心の奥深くの時計の針のような音を感じる。そこには体の悲鳴も混じっている。それを聞き出し、探し、どこが不調を来しているのかを読み取る。だから、心の奥深く、誰にも言えない叫びを覗き込むこともできる。そうしないだけで。図書館で読んだ「サトリ」と言う心が読める妖怪のようだ、と思った。

 

「でも私たちは読める、じゃなくて読む、聞くだから、サトリさんとは違うかも。満潮ちゃんも聞こえたならしょうがないけど、聞こうとしたらダメだよ。満潮ちゃんだって心の中に閉まっている傷や声を見たり聞かれるのは嫌かも?」

 

「嫌ね…」

 

「心の中はその人、その艦娘だけのものかも。だから、秋津洲たちは本当はいけないことをしているんだって言う事だけ覚えておいてほしいかも!人のお部屋をゴソゴソするようなものかも!」

 

絶対にやってはいけないこと、と秋津洲には念を押された。とはいえ、今吹雪が苦しんでいるのは記憶を前の司令官の顔を見たことで閉じていた記憶の蓋が開いてしまったのだ。記憶を見て引きずり出すことはできても、それを再び閉じて忘れさせる術は持っていない。秋津洲もそう言っていた。

 

「心のことは心に詳しい人に聞いたり診てもらうのが一番かも。秋津洲は覗いて伝えることしかできないから」

 

……ギリ、と何もできない悔しさに歯を噛みしめる。あの時も妹が酷い目にあって壊れていくところを見ているしかできなかった。今度は同じ泊地出の友達が…苦しんでいるのに。私に何ができる?

 

「側におったれ」

 

ノソッと龍驤が現れて、満潮の肩に手を置いた。パシッと思わず払いのけてしまい、ムスッとした顔しているのをみてしまった…と反省した。

 

「お姉ちゃん、どしたの?」

「ん、いやまあ吹雪がおかしなるっていうんはやっぱりあのクソッタレ司令官のせいやろうなぁ、と」

 

「テレビ見てたの?」

「瑞鶴が血相変えて飛んできてテレビ見ぃ言うから見たんや。吹雪が見たらやばいなーって思ったんやけど…瑞鶴とおったんやな」

 

「ここのみんなが安久野にすんごいトラウマ抱えてるのと一緒だもんね。せっかく忘れてたのに」

「忘れてなんておらん。必死に必死に忘れようとしてただけや。満潮は知ってたんちゃうか?」

 

何だかジロリ…と見られた気がして背筋が寒くなった。龍驤は別にそうしたわけではないのだが、ちょっと後ろめたさを感じていた満潮がそんな気がしただけだ。そう、満潮は知っている。なぜなら満潮は「調律師」だからだ。

 

「はい…知って…ます」

「あー、別に悪い言うて責めてるわけちゃうねん。ごめんな。満潮と同じ意見やったら嬉しいなぁって思うんやけど、聞いてくれる?」

 

「は、はい!」

 

「吹雪は真面目でええ子やでなぁ…忘れるっちゅうんは無理な子やと思うねん」

「私もそう思います。時々、調律しなくても…辛そうな顔をしている時がありました」

 

「せやろ。吹雪がひたむきに防空演習や実戦、遠征に励む理由は…単にそうして何かに必死に打ち込んでる方がな、その間だけでも忘れられるんちゃうかなって。そんでもって、何もないときは誰かといつも一緒におって、お風呂入ったり、お喋りしたりな。しよるんよ。うちにもどんな細かなことでも疑問を持ったら話に来る。何時間でも付き合うときもある」

 

「吹雪、よく言うのよね。私はちゃんとできてるかな?龍驤さんや司令官に…いらない子、とか…言われてないかなって!」

 

ここで満潮が声を震わせ出した。吹雪がどういう状況だったかは正直最初はあまりわからなかった。だが調律を始めてみてしまった吹雪の記憶の一部。最初のころは深く入り込みすぎてしまって記憶を見てしまい、そのまま記憶の海に意識を引きずり込まれそうになったこともある。秋津洲にその辺りの具合を教えてもらってからは大丈夫だが…。

 

記憶を見てしまったことを言ってしまえばよくないことになる。だから吹雪の心の傷の深さ、必死で傷を塞ごうと必死になっていることも言えないままで。友達が苦しんでいるのに見ているだけしかできない。できるだけ優しくしよう。側にいてあげよう。そういう思いで吹雪といる時間が姉妹よりも長いように思う。

 

「私…私…吹雪に大切なお友達って言われたのに…言ってくれたのに…私は何もできてない!!こんな私を友達って呼んでくれるのに!!」

 

「そりゃ間違いだよ、満潮」

 

今度はポンと頭に手を置かれた。大きくて暖かい手だったので払いのけはしなかった。口には出さないけど、優しくて大好きな手。自分を救ってくれた手。

 

「しれ、か…ん」

「玲司やん。また仕事に手がつかんねやったら出てけ言われたんか?」

 

「ん?んー…」

「当たりやんけ。まあ、吹雪のことは気にかけてたししゃーないかー。過保護提督やしな」

 

「うっせえ。自分とこの子が倒れたとかおかしくなったって言ったら心配しない奴は提督じゃねえ」

「うーわ、他の司令官にゃ耳が痛い話やなぁ」

 

吹雪の手を握り、優しく頭を撫でている司令官。その顔はとても…優しい顔。満潮は本当にこの司令官の所に来れてよかったと心から思う。吹雪の苦しそうな顔が少し楽になった顔になったように見えた。吹雪は司令官を心の底から慕っていると前に言っていたっけ。

 

「えへへ、満潮ちゃん。司令官には内緒だよ?私、司令官のこと大好きなんだぁ」

「それって翔鶴さんみたいに恋人になりたいってこと?」

 

「ち、ちがうよぉ!司令官は…優しくて…私や満潮ちゃん達を助けてくれて。毎日楽しいんだ。だから感謝してるんだよ。尊敬してる好きかな。あ、でも甘えたくなる時もあるけどね」

 

「ああ、それで頭を撫でてもらってるのね」

「満潮ちゃんも時々撫でてもらってるよね?」

 

「なぁ!?」

「抜け駆けは許しませーん。えへへ、うそうそ」

 

眠っていても司令官だとわかるのだろうか。安らかな顔でスースーと寝息を立てだした。やっぱり司令官と認識してる…?

 

「嫌なもん思い出しちまったなぁ…吹雪。でももう姿を見ることはないぞ。島送り確定だ」

「あー、やっぱり?」

 

「艦娘を売買した者はすべからず島送りだ。二度と返ってこられない。人権侵害だ何だとうるせえけど、艦娘の権利や尊厳を剥奪して好き放題してんのはどっちだ、バカが」

 

よくわからないけど、宿毛湾の司令官は二度と…ここの前の司令官のように姿を見せることはないってことなんだろう。それならもう吹雪は安心だと思う。でも、初雪や叢雲は戻ってこないから…そこは…。

 

「この件はみんなは内緒な。でも俺が説明はする。吹雪の妹たちは戻らんが…。ああ、生き残っている妹、磯波、浦波は九重提督のとこに行ったみたいだぞ。九重提督なら問題ないな」

 

もう名前を言われても誰かわからない。もうここに来て結構経つ。吹雪が知っているかどうかも怪しい。

 

「司令官…吹雪を助けて…!私じゃ側にいることしかできない!」

「何言ってんだ。お前のおかげで吹雪がどれだけ救われたか聞いてから言え」

 

「わたしが…?」

 

そう言うと司令官は笑ってチカラ強く頷いた。その目は優しく、私を褒めるときの目だった。

 

「吹雪はな。満潮の話をよくするんだ。いつもちゃんと、退屈だろうに自分の話を真面目に聞いてくれるって」

 

私は確かにいろいろと吹雪と話をすることが多い。今日はしんどかったね、とか。エビフライ楽しみだね!とか。週に何回は一緒に吹雪の部屋で寝ることもある。吹雪と一緒に寝る競争率は高い。だいたい雪風や文月、皐月、あと村雨や時雨。いやいや、駆逐艦は入れ代わり立ち代わりで吹雪と寝ているんじゃないだろうか?

 

吹雪の話はおもしろい。そのほかにもちょっとドジなところとか、見ていてかわいいと思うし楽しい。初めてあの子の部屋で見た派手すぎる際どい下着はまだ捨てていないらしい。相変わらずいろんな下着が脱ぎっぱなし、干しっぱなしだったりするし。あと布団で横になって伸びてるときのほにゃーっとした顔がかわいい。

 

「満潮ちゃん、あのねあのね!今日はね!」

 

これから始まるいろんな雑談。身振り手振り。大げさに話をするんだけど、聞いていて笑っちゃう。でも、吹雪は決してだれだれがドジをして、とか馬鹿にした話はしない。皐月が武蔵さんの腕にぶら下がってはしゃいでるのかわいいとか、紫亜さんの育てたお花はとてもきれいだったとか、ほめてばかりだ。

 

「満潮ちゃんとお友達になれてよかったなぁ」

 

そんなことを言われて「ふん、どうも!…ありがと」って言って、ありがとって言った後の目の輝きがとんでもなくて、抱き着かれたこともあった。

 

「私だって…吹雪と友達になれて…よかったわよ…大好きよ!」

 

涙が出る。自分だって吹雪のほにゃっとした顔や眩しい笑顔に嫌なことをどれだけ吹き飛ばしてくれたか。救われたか…!

 

「満潮と話をして、寝る頃になると胸があったかくなるって言ってたな。この子はすごいよ。いつも誰かを褒めているな。貶すことは絶対しない。ピシッと怒る時は怒るけどな。いつも一生懸命頑張ってる裏で…いろいろと聞いたよ。体の傷跡のことも知ってるし、何をどうされてきたのかもな。

どんなことがあっても腐らず、驕らず。何事も真面目に。もう報われてもいいだろう。頑張った。いや、もう頑張りすぎた。そろそろ心を本当に落ち着かせてゆっくりしてほしいな。執務室では気を抜いてたまに昼寝したりしてるんだけどな」

 

「なにそれ、私知らない」

 

「そりゃあなぁ。サボってるって思われるから絶対に見せないよ。大淀や鳥海も、わざと用事があるっていって席を外すくらいだからな。寝ていいよって俺がいつも言ってたんだ。雑談しながら大あくびこいてるの、かわいいんだぜ?

でも時々悲観するときはある。私は役に立てていないだろうとかな。けど、もっと頑張るって言いだすから頑張らなくていいって言ったこともあるよ」

 

吹雪は確かに頑張りすぎだ。でも私や司令官に話をすることでガス抜きをしていたんだろう。

 

「自分にできることを頑張ればいい。何も全部を頑張ったところでどっちつかずになっちまうし、疲れてしまう。覚えることもやることも多くなる。だから、吹雪には摩耶がいる防空の練習と基礎だけしっかりやれって言ってある。それ以外のことは全力じゃなくていい。やれることだけをやりなさい。全部頑張る必要はないよって言ったら大泣きされた」

 

「なんでよ?」

 

「肩にチカラが入りすぎてたのさ。その荷を自分で下ろせないなら俺が下ろしてあげただけ。そしたらスッと軽くなったみたいだな。満潮もそう。みんなそうだ。やれることだけを頑張るって言うことは悪いことじゃない。何もかもを背負い込むことのほうがよくないことだ。重さで潰れちまう」

 

司令官の言葉は私の胸にも来るものがある。私もそうだ。ここに来てから私の存在意義を探すためにあれもこれもと学び、ものにしようとした。けど私は朝潮姉さんのような攻撃力もない。霰のような冷静な判断力もない。やっとのことで見つけた調律のチカラ。それが私の存在意義だと思っていた。

 

けどそれだけじゃない。それだけが存在意義じゃないのだ。艦娘や司令官が認め合って、初めて居場所と言うものが存在する。司令官は私が調律のチカラをもっているからここに居てくれと言っているわけじゃない。

 

「満潮は面倒見がいいし、鎮守府の変化によく気づくしな。お手伝い、いつも助かるよ」

 

その言葉を今思い出してまたポロポロと涙が止まらなくなった。調律のチカラではなく、私のいろんな面を見てくれていて、それでいて私を認めてくれているんだ。私だって司令官が助けてくれたこと、いろんなことを褒めてくれること。ダメなものはダメだと叱ること。全部頼りにしている。

 

「うっ…うう!」

「満潮ももうちょっと肩の荷を下ろそうな。朝潮や大潮、荒潮が心配してるぞ?無理してないかって」

 

「うううううう!!!!」

 

大好きな姉さん、そして荒潮。みんな…!

 

「吹雪さんは大丈夫ですか!満潮は…!」

 

しー…と司令官が指を立てる。そして吹雪を指さす。そしたら朝潮姉さんは口をはっと手で押さえてうんうんと頷いていた。こういうところ、姉さんはかわいらしくて好きだ。

 

「吹雪さんが具合が悪くなったとお聞きして…その、心配になりまして…いてもたってもいられなくなりまして…」

 

「そうかそうか。大丈夫。今はよく寝てるよ」

 

「そう…ですか。よかった…」

「朝潮も吹雪を心配してくれてありがとうな」

 

「とんでもありません!吹雪さんは辛いときにいつも励ましてくださって、朝潮にいつも手を貸してくださりました!嫌な顔ひとつせず、本当に…いつも…感謝しているんです!」

 

「そうか。吹雪はどんなときでもいつもみんなを励ましているな。私がみんなを守るんだからって、恐怖を乗り越えて…前向きに前向きに頑張って、改二になって。吹雪のみんなを守りたいって言う思いはとても強いな」

 

「はい!吹雪さんは良き先輩であり、仲間です!家族です!!」

「そうか。家族か。朝潮。その気持ち、ずっと忘れるんじゃないぞ」

 

「はい!この朝潮…この気持ちは一生忘れることはありません!!」

 

「そう言えば朝潮のことをずーっと褒めていたなぁ」

「吹雪さんがですか?」

 

「ああ。『牙の女王』になる前から。どんなに苦しくても決してあきらめない。何度でも立ち上がるその力強さ。『牙の女王』になってからはそのすごいチカラで駆逐艦を引っ張っていくことができる。私ももっと頑張って見習わなきゃって」

 

「…朝潮は吹雪さんの防空演習をずっと見てきました。龍驤さんにどれだけきついことを言われても。どれだけ厳しい練習でも、決してもう嫌だとも、ものすごい数の艦載機が飛んでこようとも、火の玉が飛んできても、絶対に逃げない…無理とは言わない…私こそ、吹雪さんのいつも全力で何事にもぶつかっていくお姿を見習わなければと思いました。吹雪さんこそ…見習うべきお方です!!!」

 

朝潮姉さんは涙で目を潤ませながら司令官に吹雪のことを語る。

 

……

 

「朝潮ちゃんはすごいなぁ。『牙の女王』だって!!かっこいいよね!」

「そうね。姉さんの努力が実った結果ね」

 

「ふふふ、ますます頑張らなくっちゃ!」

「頑張ったって『女王』になるにはいろいろあるんじゃないの?」

 

「ううん!女王になれなくってもいい。それよりも私は朝潮ちゃんの努力する姿を見習わなくっちゃ!」

「あんただって頑張りすぎてるくらい頑張ってるでしょ」

 

「そうかなぁ?」

「そうよ」

 

「んふふー!満潮ちゃんにそう言ってもらえると嬉しいなぁ。すごいなぁ。龍驤先生たちと同じ称号だよ?『女王』だよ?横須賀のお友達から『女王』!すごいことだよ!」

 

「はいはいわかったから!」

 

………

 

私は朝潮姉さんが『女王』のチカラを得た時、私は置いて行かれる。足手まといではないのか、と少し悩んだことがある。そして、『調律者』と言うチカラが出てきたときに少しだけホッとした。これで私も…と。

 

「すごいよ満潮ちゃん!!!満潮ちゃんにしかないチカラだよ!?すごいことだよ!うわぁ、満潮ちゃんもすごいよー!」

 

そう思っていた考えを吹き飛ばしたのが吹雪だった。私は情けなくなった。ちょっと他の艦娘と違うチカラを持っているからって、朝潮姉さんに嫉妬したり、自分は無力だと落胆したり、そして自分が他の艦娘にないチカラを得たら今度は優越感に浸って。

吹雪はそんなことは一切考えず、姉さんや私をすごい、やったねと喜んでくれた。そして、まっすぐな目で祝ってくれた。嬉しいと同時に情けなかった。

 

いつも励ましてくれて、いつも喜んでくれて。へこんだり嫌なことを思い出したりしていると「満潮ちゃん、どうしたの?」といつも心配してくれた。何でもないって言ってもずっと側にいてくれて…自分だって辛いことがあったり思い出したりしてただろうに…。

 

「満潮…」

「司令官…助けてあげて!吹雪を助けてあげて!!」

 

こう言うときいくら『調律者』であっても。体のメンテはできても心のメンテはできない。無力な駆逐艦だ。いや…こういう言い方はよくない。助けてあげられる人に頼って、見守るしかない。

 

「ああ、もちろんだ満潮。大丈夫。吹雪はまた、いつもの元気な笑顔で満潮を呼んでくれるさ。朝潮もな」

 

「うん…うん!」

「はい!この朝潮、吹雪さんのお帰りをいつまでも待つ覚悟です!」

 

「それ言い方がおかしくない?」

「はぇ!?ち、違いますか!」

 

「はは、朝潮らしいけどな。吹雪に一番いい薬って言うのはなんでもない。満潮や朝潮たちの笑顔だ。それだけで吹雪はいつも元気だよ。嬉しいことは人一倍。悲しいことは自分のことのように悲しむ。それが吹雪だ。だから吹雪のことも、吹雪がしてくれたことのようにしてやればいい。それが吹雪にとって一番いい薬だ」

 

「わかった…」

「わかりました!」

 

私と朝潮姉さんの頭をぽんぽんして、司令官はよし!と言って笑ってくれた。私達ではどうしようもないから。司令官に任せよう。私と朝潮姉さんは邪魔にならないように出ていった。

 

………

 

「吹雪は人気者やなぁ」

「人懐っこいからなぁ。それでいて誰の悪口も言わず、勤勉で。暇があれば何かを手伝いに来て。ほんとに、いろいろ抱え込んでるのに…」

 

「この子は運が良かった。いや、そう言うたらあかんのやけどな…」

「毎回、慰霊碑に行っては初雪と叢雲のことを思うよ。吹雪も、みんなに内緒で慰霊碑に来ては真剣に手を合わせてる」

 

「クソッタレは消えても、吹雪の傷が消えるわけやない。玲司。今吹雪が頼りにしてるのはあんたや」

 

「俺だけじゃない。満潮や朝潮…吹雪のお姉ちゃんを自称する摩耶。本当に姉妹と見間違える紫亜。鎮守府のみんなが吹雪の支えだ。姉ちゃんだって、大本営に帰っちまったけど、赤城姉ちゃんも。みんなが吹雪を支えてくれている、吹雪にはそれをわかっていてほしいな」

 

カチャ…と静かにドアが開く。真っ黒な膝まで伸びた髪と対照的に真っ白なワンピースを着た紫亜だ。朱い眼がアクセサリーのよう。

 

「今、いいかしら?」

「ああ、眠ってるよ」

 

「そう…吹雪…」

 

優しく頭を撫で、吹雪の胸に頬を寄せる。その表情は吹雪を憂う。

 

「吹雪はね…わたしが中庭で花壇のお花のお世話をしていたりすると、すぐに声をかけてきてくれてお手伝いをしてくれるの。疲れているからいいのよ、と言っても聞かない子でね…植木鉢を運んだり、肥料を撒くのを手伝ってくれたり…ありがとうって言うと本当に人懐こい笑顔を見せてくれるのよ。またお手伝いしますって言うんだけど、毎日のようにお手伝いしてくれるから…本当に、優しい子」

 

………

 

「紫亜さん!」

「あら吹雪。今日は練習はお休み?」

 

「はい!紫亜さんは何をされているんですか?」

「ああ、この子がもう植木鉢では狭いだろうからこっちの花壇に植えてあげようと思って」

 

「わぁ、大きくなりましたねぇ!お手伝いします!」

「いいのよ?いつも練習で疲れてるでしょう?」

 

「平気です!」

 

暑いのにお昼まで麦わら帽子かぶって土を掘って…植物にさえ、元気に育ってね!というくらい優しいのよね。顔も手も、服も土でドロドロ。でも嫌な1つせず、大きくなって綺麗なお花を咲かせてほしいですね!って言っていたわ。あれ、来年に向けたお野菜よって言ってあげるとまた笑ってたわ。

 

「あははは…じゃ、じゃあおいしいのが実るといいですね!」

「ふふ、ごめんなさいね。ついイタズラしたくなったの」

 

「えー!?紫亜さんひどいですー!」

「うふふふ、ごめんなさい。吹雪がかわいいからつい」

 

「え、えっ!?か、かわ、かわ…えへへ、むぎゅ!」

「ありがとう吹雪。おかげで早く終わったわ。ありがとう」

 

「ぷはっ!紫亜さん、服が汚れちゃいます…」

「いいのよ。洗えばいいんですもの。吹雪こそ、泥だらけになって…」

 

「いいんです!1人より2人でやったほうが楽ちんですもん!」

「…ありがとう吹雪」

 

「えへへ…またお手伝いしますね」

「無理のない程度にね」

 

「はい!」

 

………

 

「この子の体の傷を見るに…辛いことを体験してきたのね。それでいて笑っていられるのは…尊敬するわ。こんなことを言うのは吹雪に失礼かもしれないけど」

 

「この鎮守府はいろんな傷を負い、悩みを持っている子ばっかりだ。それでもみんな前を向いてみんなと歩いてる。俺はそれを最後尾から見守っていたい。吹雪も道を間違えないよう。足を踏み外さないよう」

 

「そうしてあげて…わたしもそこに加わりたい」

「もちろん、紫亜だってそうさ。龍驤姉ちゃんもそう。吹雪も…みんなも支えてあげてほしい」

 

「ええ。必ず。わたしがここに来た理由。流れ着いた理由はこのためにあったのかもね…。ええ…ああ、吹雪…わたしのかわいい…妹…」

 

小さく肩を震わせ、吹雪から離れようとしない紫亜。本当に吹雪は愛されている。まだしばらくは目を覚まさないが…しっかりとみんなに愛されているということは伝わってほしい。そう玲司は願っていた。




吹雪編のスタートです。吹雪は笑顔の下に多くの苦悩を抱えています。その苦悩を書いていきたいと思います。
宿毛湾の提督はいなくなっても傷はそれだけでは癒えません。

仲間に囲まれ、龍驤先生がいて、摩耶と言う姉がいて、紫亜と言う姉がいて。そして司令官、玲司がいて。優しい皆に囲まれていると言うことに気がつけるのか?気づいているのか?そこが今後の吹雪の分かれ道になるのかなと。

次回も吹雪編です。次回もお読みいただければ嬉しいです。

それでは、また。
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