提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

153 / 291
横須賀の吹雪は雪風や皐月達と同じく、誰からも愛される真面目でかわいい子です。見えない心の奥底にある消えない大きな傷。玲司達はこの吹雪の傷をどうしてあげられるのでしょうか?




第百五十三話

「吹雪!おい吹雪!どうした!?」

 

勢いよく摩耶が飛び込んできた。摩耶は吹雪を本当に妹のようにかわいがるため、鳥海が時々やきもちをやくほどである。吹雪はその思いを肌で感じているため、摩耶には本当に、艦娘では一番懐いているのではないかと思う。

 

「摩耶、しー…寝てるんだから…」

「あ、わ、わりい…吹雪…」

 

ベッドの前で膝をついて吹雪の手を握る。本当に心配そうにして、涙を目に溜めながら吹雪の寝顔を見つめている。いつも元気な吹雪。でも、その奥に隠されていた心の傷を見つけてあげられなかった。お姉ちゃんなのに。

 

「吹雪は」

 

玲司が摩耶の頭を撫でながら語りだした。

 

「吹雪は摩耶を本当によく慕ってた。本当の姉妹のようだ。はは、俺の妹思い出したよ。お兄ちゃんお兄ちゃんってついてくる妹みたいに、吹雪が摩耶さん摩耶さんってよく寄っていくのを見てるとな」

 

「…へへ…ぐすっ、そっか」

「摩耶には本当にお世話になってるって。助けられるって言ってた」

 

「そんな…あたしは何も…こんなことになるまで、吹雪を…」

「吹雪はそういうとこ、遠慮するから。摩耶やみんなに自分のことで負担をかけたくないって」

 

「そんなことあるかよ。あたしの負担になるなんて考えたことない。あたしは吹雪のお姉ちゃんだからな」

 

「そう。そう言って、遠慮することはない。本当のお姉ちゃんのように思うならちゃんとそういう話はしなきゃダメだって言ったことあるんだよ。吹雪はごめんなさいって言ってたんだけど」

 

「ほ、本当のお姉ちゃん…バッカ…そう思ってんなら…あたしに言えよぉ…」

 

グスグスと泣き出す。一緒にお風呂にしょっちゅう入り、ご飯も一緒に食べ、自分の部屋に呼んで。もしくは吹雪の部屋に行って一緒に寝たりすることが多かった。龍驤のきつい練習も、鹿島の厳しい走り込みも、お互いに励まし合って頑張り、時には一緒にきつさに泣いたこともある。

 

だからかわいい。だから妹のように思う。鳥海だってもちろん大事だし、みんなも大事だ。あまり優劣をつけたくないけど、吹雪が一番かわいいくらいに思っている。だからこそ、クソな提督のせいで傷ついた吹雪を支えたかった。

 

「起き…起きたら…怒ってやるんだ…言いたいことは言えって。それが姉妹だろって」

「ええけどほどほどにやで…」

 

「も、もちっす…」

「ん。妹を残して自分だけが生き残って。それで幸せになったらあかんって思うてるみたいや。玲司とうちがおる時にぽそっと言いよった」

 

「誰にだって幸せになる権利はある。艦娘にも。生きてるんだから。こういう言い方、あんまよくないんだけど、生き残っただけ幸せになってあげなきゃ、初雪や叢雲が心配すると思うんだよ。だから、吹雪は幸せになるべきなんだよ。もちろん摩耶もそうだし、みんなだってそう。龍驤姉ちゃんだってそう」

 

「あんたもな」

 

「あー、うん。まあ。俺は今幸せだよ」

「せやろな。ラブラブやもんな。翔鶴と」

 

「あんたも幸せになってくれよ。翔鶴もな」

 

バシッと背中を思い切り叩かれ、むせる。どいつもこいつも手加減なしで背中叩きやがって。

 

「うっし。あたしは待ってるしかできなさそうだけどさ。頼んだぜ、提督」

「摩耶が今しっかり手を握って、心配してくれているってのはちゃーんと吹雪に伝わってる。声にも出して、ちゃんと言ってあげてくれ」

 

「おう。吹雪…あたしもついてるかんな。一緒にやってこうな」

 

額に吹雪の手を当てて祈る摩耶。この2人は本当に仲がいい。吹雪から離れようとしない。

 

その後も代わる代わる吹雪の様子を心配した子達がゾロゾロとやってくる。防空を一緒に頑張る皐月に文月。傷痕が残った者同士の時雨、村雨。そして横須賀にいるすべての艦娘が吹雪のお見舞いにやってきては、自分の宝物である第二十二駆逐探検隊のバッチ(明石作)やぬいぐるみ。おやつなどなどを置いていく。

 

「ボクそう言えば本で読んだことあるよ。千羽鶴って言うのを折ってお祈りすると願いが叶うんだって!吹雪が元気になりますようにってみんなで折ろうよ!」

 

最上がどうも食堂にみんなを集めてそう言ったらしい。霰が折り紙が好きと言うことでいっぱい持っていたのでそれを使って食堂でみんなで霰に教えてもらいながら作っているらしい。

 

「その前に吹雪が目を覚ますと思うんだけど…」

「いいじゃねえか。元気になったんだったら願い事は横須賀のみんなと提督がこれからも仲良くやっていきますようにって言う願い事にするんだってよ。で、最後の一羽を吹雪に折ってもらうんだってよ」

 

「そ、そうか。じゃあ俺も一羽折っておくか」

「うっし、あたしも折って来ようっと!また来るからな、吹雪」

 

折り鶴を折るために摩耶は食堂へと向かった。明石が診ているからと、玲司と龍驤も食堂へと向かう。退室前に、吹雪の手を握り、念を込める。

 

(深海棲艦になったりするんじゃないぞ…金剛、比叡…ショートランドのみんな…吹雪を…この子を守ってくれ…!)

 

…退室し、明石と眠る吹雪だけになった医務室。吹雪の心配は明石だってしている。宿毛湾の提督のせいでできた傷痕をどうにか消してあげられないかと模索している。明石は工作艦であって医者ではない。できたぞ!傷痕を消すことができる薬だ!と薬を開発することはできない。

艤装を誰よりも完璧に整備することくらいしかできない。こういうことは苦難を幾度と乗り越えててきた玲司しかもう頼るところはない。

 

「お願いね、玲司君…」

 

吹雪に関しては吹雪がこれを乗り越えられるか。玲司がどう動くのか?玲司を昔から頼ってばかりいることに申し訳なさを覚えつつも、明石は玲司を頼るしかなかった。

 

………

 

一方で玲司も吹雪のトラウマは雪風や翔鶴に匹敵するのではないかと思っていた。しかし、仮に吹雪が目を覚まして今度は自分にさえ怯えるようになったら…そう思うと気が気ではない。玲司は艦娘と共に生きることで自分も生きると艦娘に強くどころか完全に依存してしまっている。心のどこかでは戦いが終わった後のことを考え、艦娘がいなくなることを認めつつも、いなくなった際の自分の存在価値を見出せていない。

 

そして、吹雪を始め、横須賀の艦娘にどんな理由があれ、拒否されてしまったら…そう考えると怖かった。翔鶴は絶対にそんなことが起きることは考えられませんと否定はしたが、それでも…とマイナス思考が一度降りかかるとそちらへ転がり落ちて行ってしまうのだ。

 

「しれえ!!」

 

ハッとなった時、目の前には雪風がニコニコとしながら立っていた。食堂だ。無意識のうちに食堂へ足を進めていたらしい。

 

「お、きたきた。提督、早く折ってくれよ。もうみんな手先が不器用で進まねえんだよ!」

「不器用とは失礼ですわね!この熊野、本気を出せばこれくらい簡単に折ってさしあげますわ!」

 

「そう言って得体のしれない何かができたの、何枚目さ…」

「くまのんのこれは生き物とも形容しがたいものですわね…」

 

霰を中心にしてみんなが真面目に折り紙をせっせと折っている。霰は器用に、かつ丁寧に鶴の折り方を説明していた。

 

「ここが…難しい…もう一回、見せます」

「ここを…こう…霰~、ボクもうわかんなくなっちゃったよー」

 

「こうしてぇ、できたぁ!霰ちゃん、できたよぉ~!」

「ん…きれいに、折れてる。文月ちゃん、すごい…ね」

 

「んー!文月に負けないぞぉ!」

「おうっ!お兄ちゃんと一緒によく折ってたからできるもん!あたしが一番はっやーい!」

 

「島風、またそこ間違ってんぞ」

「えー!?」

 

「貸してみな。ほらここ」

「し、知ってたもん!」

 

「じゃあこれ全部間違ってるのは?」

「うわーん!北上さーん、お兄ちゃんがいじめるー!」

 

「んあー、折ってんのに邪魔しないでよー。玲司、うるさいから何とかして」

「ええ…」

 

霰の隣に座って島風の折った鶴の修正をする。きれいになった鶴を見て島風や皐月達がおおー!と声を歓声をあげる。玲司が来るとすぐに玲司の周りに艦娘が集まり、囲まれる。

 

「お、霰すごいな。俺もそこまできれいには折れないからなぁ。教えてくれ」

「んちゃ。ここが…肝心…です」

 

「んんん、霰ちゃんすごぉい…」

「くっ、この五十鈴がこれしきで…」

 

「五十鈴姉と阿武隈ちゃん…」

「何よ、名取だって…き、きれいに折れてる!神通は!?」

 

「こちらに…」

 

「うっそ、包丁の使い方がすごかったのに…」

「それは…言わないでください…」

 

巡洋艦は巡洋艦で集まっている。それぞれが折った鶴を見せ合うが、摩耶と妙高、名取はきれいだ。最上姉妹は三隈と鈴谷が丁寧。最上はそこそこ。熊野は…謎の生物ができている。ある意味才能ではないだろうか。

 

「姉様!折れました!」

「まあ、山城は器用ねぇ」

 

「僕もできた…!」

「時雨…何それ…」

 

「つ、鶴だよ!」

「夕立よりひどいっぽい…」

 

「あ、あはは、さすがは時雨だね…」

「村雨は器用っぽい。きれいっぽい!」

 

「くっ…笑うといいさ…」

 

「ドーンとできましたー!」

「できたわよぉ~」

 

「う、ぬぬぬ、これしきのこと…朝潮型一番艦としてできないのは…朝潮型の名折れ!!!」

「あー、違う、姉さん、ここをこうするの。ほら、これでいいでしょ」

 

「満潮…お姉ちゃんとして誇り高いです!」

「大げさすぎなのよ」

 

扶桑と山城の周りで朝潮型と白露型の姉妹が折り紙を折っている。朝潮は眉間にしわが寄るくらい苦戦しているし、時雨は熊野と同じく謎の物体ができている。そして、いじけている。

 

「できたー!祥鳳さん、どう?」

「ズ…ズイズイ…」

 

「な、なにその踊り…」

「祥鳳さん、こうすれば。霰ちゃんがこうしていたわ」

 

「翔鶴さん、ありがとうございます。瑞鶴もきれいね」

「へ、へへ、やった!」

 

「ふむ。こんなものか。霰はすごいな。この武蔵がほめてやろう」

「ううう…武蔵が偉そうだけど…私よりうまい…」

 

翔鶴と瑞鶴はきれいに。祥鳳は目を回して不思議な踊りを踊りだしている。古鷹は手先が器用でスイスイと折っている。大和は武蔵に対してお姉ちゃんになって折り方を教えようと思っていたのだが、実は武蔵のほうがきれいに折っているので姉のいいところを見せられず、落ち込んでいる。

 

「霰ちゃん、どうでち?」

「うん、とても…ていねい」

 

「やったでち!」

「これなら文句ないわよね!」

 

イムヤとゴーヤはどちらも器用で問題はない。きれいに折れている。ゴーヤは霰に褒められて大満足。

 

「くっ…くぅ!折れ…ない!」

「何ですかこれ。何かこういい方法はないんですか?」

 

「私の計算と違う…!」

 

秘書官のメガネトリオこと大淀、霧島、鳥海は大苦戦である。実は彼女たちは手先が不器用である。

 

「司令官。これで、吹雪ちゃんは…元気になる?」

 

「なるさ、霰。みんな一生懸命折ってるんだ。吹雪が元気になったあとも、これはどこかに飾って、俺やみんなが元気に笑顔でここで暮らせますようにって言う祈りを込めて折ろう。吹雪のためでもあるけど、みんなのためにも折ろう」

 

「みんなのため!しれえ!雪風もみんなとずっといたいです!だからいっぱい祈りを込めて折ります!」

「なのです!電もみんなのために折るのです!」

 

「ハラショー」

 

雪風の言葉を聞いた駆逐艦のみんなが一気にやる気を出した。北上も雪風の隣に座って一緒になって折る。雪風は北上が来てくれたのが嬉しくて、ニコッと北上に笑うと、北上も柔らかい笑顔で雪風にこたえる。本当に北上と雪風は姉妹のようだ。

 

「よし、霰。俺たちも頑張ろうな」

「うん。霰も…がんばる」

 

「ふふふ、提督と霰ちゃんは親子みたいですね」

「おとうさん?」

 

「あ、霰、なんだかそれはくすぐったいな…間宮、それは…」

「ふふっ」

 

上機嫌の間宮は夕飯の準備を始める。玲司もと思ったが、霰ちゃんや雪風ちゃんと一緒にいてあげてくださいと言われ、間宮に感謝して折り紙を折り続けた。

 

 

「ここ、どこなんだろう…司令官やみんなは…私、えっと…なんだっけ、思い出せない…」

 

吹雪は薄暗い夕暮れのような海の上に目が覚めると立っていた。周りは何もない。街の明かりも、灯台の光も、陸の影さえない。肌寒い海の上を走り続けた。

 

やがて吹雪の目は一隻の小さな船を見つけた。それを見た吹雪は体が石のようになったのではないかと言うほど硬直した。

 

「なん…で?」

 

それは…あの時の船だ。初雪と叢雲を助けられず、自分だけが助かってしまったときに護衛するよう命じられた船。船は魚雷で吹き飛ばされ、襲い掛かられた初雪や叢雲は成すすべなく致命傷を与えられた。あの時、この場で。今みたいなチカラがあったなら。私は妹を助けられただろうに。

 

「あの時私が弱かったから…初雪ちゃんと叢雲ちゃんを助けられなくて、私だけ生き残ったんだ」

「!?」

 

声がした方を見ると、目から血を流した自分がうずくまって嘆いている。船を見つめているのか、うっすら見える海面から手だけが伸びているどちらかわからない妹を見つめているのか。

 

「私だけが生き残って…私だけが幸せに生きていい資格なんてない。私はあの時妹と沈んじゃえばよかったんだ」

 

違う。そうじゃない。確かにチカラがなかった自分にも非はある。まったく戦闘に出さなかったのに私たちを海へ送り出した司令官も悪かったのもある。けどそれだけじゃない。成す術がないわけじゃなかった。司令官の恐怖に萎縮し、怖い人間に怯え、逃げようと思えば逃げ出せたかもしれないチャンスを自分たちで潰した。

 

自分たちが弱かった。練度もなければ逃げ出す勇気も。海で人間たちだけでいればどうなるかと反抗できたかもしれない。何もかもがあの時は弱かった。

 

……

 

「確かに吹雪はあの時は練度も1だったし、心も弱かったかもしれない。けど、だからと言ってそれを引きずることは吹雪にとってはマイナスだよ」

 

「だけど、あの時私に強さがあれば!」

 

「吹雪、たらればは自分を弱くする。あの時こうだったら。あの時チカラがあれば。悔やんでなにくそと思うことは大事だ。けど、ずっとたらればを引っ張ることはよくない」

 

三条司令官…今の司令官はそう仰っていた。

 

「でも、吹雪にとってはそれはもう大きなトラウマになっている。思い出したくないだろう。けど、今吹雪がへとへとになってまで強くなろうとする理由は、何だ?」

 

「横須賀のみんなを守りたい。一緒に歩んでいきたいからです」

 

「後悔も失敗も大事だ。けど、何より大事なのはそれをいつまでも振り返ることじゃない。それを忘れずに前を向いて、じゃあ今度は何ができるか?同じ後悔をしないためにはどうすればいいのか?しっかり考えていくことだ。今の吹雪は…あー、っと」

 

「初雪ちゃんと叢雲ちゃんのことなら大丈夫です。はい。もう初雪ちゃんや叢雲ちゃんと同じ目にはあわせない。もう、ただ何もできないで見てるだけしかできないのは嫌ですから!私は…もっと強くなりたい!」

 

「それでいい。でも、無理はしないようにな。頑張ると言っても、体を壊したり潰れたら何もならないからな。何かあったらいつでも言いにおいで。相談なら俺がいつでも聞くから」

 

「はい!ありがとうございます!司令官!」

 

………

 

結局私はあの時あの司令官を見て魚雷が海中を滑っていくかのように頭の中でいろんなことあの司令官にされたこと、初雪ちゃんや叢雲ちゃんのことが頭の中でグルグルと回りだして…そこでどうなったんだろう。それから、ここにいる私は…心の中の私かな。司令官には前を向いて頑張りますと言ったけど、奥底ではこんな感じだったんだ。

 

 

「弱い自分に負けるなじゃなくて、弱い自分を受け入れてそこから前へ出ることが大事だと俺は思うよ」

 

本当はずっとこわかった。三条司令官ももしかしたらあの司令官のようなことをするんじゃないかって。また私と駆逐艦の誰かで捨て艦をするんじゃないかとか。弱い自分がむくりと顔を出し、引っ込めようとするんだけど邪魔をした。

 

「俺だって出るさ。俺はまたショートランドの時みたいにしちまうんじゃないか、とか。安久野みたいな提督になりゃしないかとか。でもさ、俺も吹雪も心があるからそう言うことを考える。誰だってそうさ」

 

司令官だって弱いんですか?

 

「ははは、俺ヘタレだよ。出撃させた際は俺の指揮が全然だめで沈めたらどうしようとかそんなことばっかり考えてるよ。で、大淀に怒られるんだ。シャンとしてください、提督がそんなことでは出撃している方々に響きますって。そう、ショートランドの時のことがフッと出てくる。毎回出てくる。でも今は違うからって言ってもダメ」

 

乗り越えられないんでしょうか…?

 

「でもなにくそって思って指揮するんだ。昔のように全員沈ませないように。あの時はまだまだ俺は青かった。俺1人で全部指揮するんだって思ってた。でも、今は大淀や鳥海、霧島に妙高。頼りになる秘書がいてくれる。俺の指揮が間違ってたら違うと言ってくれる。俺の目が届かないところは大淀達が支えてくれる。みんなが支えてくれる」

 

みんなが…。

 

「そうだよ。だから吹雪も抱え込まないで俺やみんなに相談するんだ。そうすればきっと弱虫やトラウマが顔出しても何とかなる。支えてくれる。吹雪、お前は1人じゃないんだから」

 

はい、司令官。私も司令官をいっぱい頼っていいですか?

 

「ああ。俺でも摩耶でもいっぱい頼れ。頼っておいで」

 

………

 

「吹雪、なんかあったらあたしを頼れよな!あたしが頼りないなら…提督を頼れよ。それか、扶桑さんや大和さんとか」

 

「吹雪さん、一緒に考えていきましょう」

 

………

 

「私はもうダメ…このまま初雪ちゃんと叢雲ちゃんと一緒に海へ…」

 

「そこまで私は思ってないよ」

 

うずくまるもう一人の吹雪(わたし)に声をかける。驚いたのかビクリとなってこちらを見る。目は閉じているし、血の涙は流したままだ。

 

「初雪ちゃんと叢雲ちゃんが沈んでしまったのは私が弱かった。それもあるよ。でも、だからと言って私がそこまで思うほどじゃない。司令官がそう言ってくれたから。その時は守れなかった。でも…今度は私も強くなったから…だから、もう絶対にあんな目には私の大切なお友達を。鎮守府のみんなを守るから…!」

 

「でも、私は駆逐艦…いざと言うとき…私はきっとみんなを守れない…」

 

「その時は…その時は一緒に守ってくれる人がいる!そこは私だけじゃない、みんながいるから!みんなで考えようよ!1人じゃないんだから!」

 

「いざとなったら私は1人だよ。誰も助けてくれない。守ってもくれない」

 

ズブリ…と足が海に沈んだ気がする。この子はそこまで傷ついていたんだ。私はここまで傷ついていた?違う。これは…これは違う。私は帰りたい。司令官やみんなのところへ。

 

「沈め…沈め…みんな…最期には沈むんだ…」

 

「それは違うと思いマース」

 

パン!と手を叩く音がした。その人は見慣れない人だった。でも嫌な感じはしない。何だろう、どこか…司令官と同じ気配がする。包み込んでくれるような優しさ…。

 

「お姉さま~!待ってくださいよ~!」

「オーウ、ソーリー。この子に早く会いたくて急いで来ちゃいましタ!」

 

「あ、あの…あなた達は…?」

「通りすがりのバトルシップシスターズです!」

 

「イエース!テートクにお願いされたのでここまで来ましタ」

「司令官の!?」

 

「はい。司令が吹雪さんを助けてっていうので」

「あの…本当にお2人は…一体」

 

「テートクをシャドウから見守る者デース。英霊、とも呼ばれていマース」

「英霊!?」

 

「私たちは志半ばで司令と未来を一緒に進むことができませんでした。ですが、こうして司令と皆さんをひっそりと見守ってるんですよ。お姉さまたちと」

 

英霊。深海棲艦にならずに志半ばで散っていった艦娘のこと。摩耶さんが言っていたっけ。加賀さんや長門さん、大井さんが見守ってくれているって。本当に…いるんだ。

 

「ワタシたちは見たいんデス。テートクやブッキーがこれから先、どんな道を歩いていくのか。確かにテートクはあの時、1人で何でもしようと思ってた気がします。けど、今は素敵なファミリーを見つけた。ちょっと妬けちゃうくらい」

 

「ブ、ブッキーって…」

「細かいことはいいんですよー!」

 

「い、いえ、あ、はい…」

 

イエース!とすごいマイペースな人たちです…。だけど、この人達が…司令官と一緒に激戦を駆け抜け、壮絶な最期を遂げた艦娘…。テートクには内緒デスヨ。トップシークレットね!と言っているけど…。

 

「ところであの…お名前は?」

「オオウ、申し遅れましタ。私は英国で生まれた金剛デース!」

 

「金剛お姉さまの妹分、比叡です!」

 

金剛さんに比叡さん。2人とも心なしか山のように大きな存在感。

 

「本当ならハルナや霧島もいるんデスけど、ちょーっとビジーネ」

「そ、そうですか…」

 

「んー!霧島はずるいです!司令のオムライスを1人で食べて!!」

「それデス。許しがたいことネ」

 

緊張感がない…あ、でも司令官のオムライスは絶品なのは頷けます。ほっぺが落ちるって言う言葉がすごく合うと思います。

 

「こうなったら司令に比叡と金剛お姉さまを建造してもらって…」

「ノー!ノー!ノー!そんなことしたらその金剛がテートクにバーニングラーブ!しちゃうからノーデス!!」

 

「ひえー!?く、くぅ…その比叡も…きっとバーニングラブしちゃいますね!」

「ですカラ、ノーです。乗り移りでもできれば…」

 

「お、おふたりも司令官が大好きなんですね…」

「イエス!イエス!!イエス!!!ワタシのテートクへのラブはフッジサーンより高いですヨー!!」

 

「はい!司令とお姉さまを思う気持ちなら負けません!!!」

「へ、へえ…て、ていうか…その…」

 

「ン?そうでしたネ。ダークブッキーを何とかしなきゃいけませんネ」

「ガン無視でしたね、お姉さま!」

 

どうしよう、別の意味で泣きそうな顔してるんだけど…。

 

「このブッキーは1人で心の奥で抱え込んでいた姿」

「でも、私は私です。今は司令官や摩耶さんたちがいますから…」

 

「そうネ。ブッキーとダークブッキーは2人でやっていけばいいネ。もし何かあれば…わかってるネ?」

「はい。みんなに相談する!」

 

「そうです!けど、すぐにそう変わるわけじゃないと思いますから。司令達もいますし、どこかで私たちのことを思い出してくれると嬉しいです」

 

「ブッキー。テートクのこと、雪風にも頼みましたケド、ブッキーにも頼みましタ」

「司令のこと、お願いしますね!」

 

何だかとても自由な人達だったけど、本当に最後の最後まで司令官のことでしたね。任されました!

 

そうして、金色に光る桜吹雪になって消えていく…何しに来たのかあまりわからなかったけど。仲間を頼れ、司令官を頼れ。みんなと一緒にやっていけ。そうすれば解決する。ま、まあ、これが言いたかったのかな…。

 

「さて、と…で、どうやってここから出ればいいの…?」

「………」

 

うずくまっているもう1人の私は答えない。何かこう、光の階段みたいなもので私を連れて行ってくれるとか、そういうのなかったんですか?あんまりすぎませんか?

 

「私の扱いがぞんざいすぎませんかー!?」

「………」

 

宵闇の海上で叫んでも、反響も何もなかった。

 

………

 

「うわぁ!?びっくりした!?」

 

目が覚めると隣で誰かがひっくり返った音がした。横を見ると椅子から転げ落ちた明石さんがお尻をさすっていました。あ、パステルグリーンのレースがついたパンツ…かわいいな…。

 

「明石さん…?あ、あの…私は…」

「いたた…目が覚めたんですね…よかった…」

 

椅子に座りなおして私の方を見る。机の上には霰ちゃんが好きな折り紙が鳥の形に折られていた。司令官に報告するためかな。明石さんはのそのそと電話を誰かにする。

 

「ああ、提督。吹雪さん目が覚めましたよ」

 

瞬間。

 

全身を猛烈な寒気が襲った。

 

何かがおかしい。明石さんがなぜ司令官を提督と言う?そして、最近明石さんは私を吹雪ちゃんと呼んでいたはずだ。何かがおかしい。

 

「はいはい。問題はありませんよ。はい」

 

受話器を置く。その顔は笑っているけど…ものすごく…こう言っては何だけど気持ち悪い何か貼りついたような笑顔だった。寒気が止まらない。

 

「提督、すぐ来るそうですよ。待っててくださいね」

 

 

———————げ———て

 

何かが耳元で聞こえた。恐怖と気持ち悪さで頭が働かない。聞こえない。

 

「提督心配してたんですよー。これでまた戦線復帰して頑張れますねー」

 

—―なさい。早く。

 

心臓を吐きそうなくらい気持ちが悪い。どうする…?

 

——————逃げなさい!!!!早く!!!!!!!

 

部屋中に響き渡るのではないかと言うくらいの怒鳴り声で逃げろと言われた。同時に背中をグイッと押されるような感覚。私が立ち上がったと同時に…明石さんが気味の悪い笑顔のまま…「あ、来ましたね」と言った。ドアが開き…。現れたのは司令官は司令官でも…。

 

「よお、生きてやがったか。またおめえに出撃してもらわねえとなぁ。またおめえの妹沈んじまったぞ?」

 

—―逃げて。早く。

 

耳元で誰かがまだ逃げてと言ってる。あなた達は誰?

 

—―――いいから早く逃げなさいって言ってるのよ!!!!

 

叢雲ちゃん?

 

逃げて。早く。早く。

 

初雪ちゃん?

 

「どうした?ククク、もう逃げられねえぞ?おめえはここで俺たちと一生、おめえの妹を毎日建造して沈めてを繰り返すんだ。楽しいだろ?」

 

「もう逃げられませんよ。さあ。大人しくこのお注射でお人形になりましょうね」

 

恐怖で動けない私。心臓どころじゃない。内臓を全部吐き出して鼻と耳からのうみそが出てきそう。首にチクリと痛みがする。ああ、あとは明石さんがその紫の液体を私に入れたら…

 

「それ以上何かしたらあんたの頭を吹き飛ばすわよ」

「……さすがの私も怒った」

 

ゴリッと言う音と感触が頭にした明石は薬液を入れる指からチカラを抜いた。カシャンと注射器が床に落ちて割れ、紫色の液体が黒い煙をあげてジュウジュウ言っている。

 

私にはもう何が何だかわからないが…ただ、そこには沈んだはずの…私の妹。それも目の前で焦りの表情を見せる司令官が沈めたはずの…

 

「姉さんは…渡さない」

 

初雪ちゃんと

 

「お痛が過ぎたわね。海の底に消し去ってあげるわ」

 

叢雲ちゃんがそこにいた。




ショートランドの英霊「金剛」と英霊「比叡」です。最初の頃に雪風を助けたのもこの英霊「金剛」です。
英霊の金剛4姉妹は常に玲司や玲司の艦娘を守るために動きます。それが彼女たちの与えられた使命です。使命というか、そうするように何者かが干渉しています。舞台の外で観ているだけから、自分も舞台へ上がった者によって。

最後に吹雪は何やら違う世界線へ飛んでしまったようです。そして現れた沈んだはずの妹、初雪と叢雲。世界に迷った吹雪は玲司の下へ帰れるのでしょうか?そして、英霊「金剛」と英霊「比叡」が吹雪を最後まで助けなかった理由とは?

次回をお待ちいただけますと嬉しいです。

それでは、また。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。