提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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吹雪が目を覚ました後のお話です。宿毛湾の提督逮捕のまとめと言うか〆と言いますか、横須賀の艦娘達、玲司の反応などなどをお送りします。


第百五十五話

執務の手を止め、安く買ったはいいものの、ずっと飾りのようになっていたテレビを大淀や鳥海達と見ている。瑞鶴が言うには、鈴谷が連れて行かれた店のことで話題が持ちきりらしい。

 

実際にテレビを見ているが、艦娘が風俗で働かされていることについてはまったく取り沙汰されず、艦娘の管理問題の是非を防衛省や内閣総理大臣に批判的な内容で質問を繰り返す報道陣に呆れかえるものであった。

 

「大臣!今回の事件を受けて、やはり艦娘を性の道具として海軍でも問題になっているのではないですか?」

 

「戦争の道具を性処理に使っている海軍の状況をどう思いますか?」

 

「艦娘はやはり不要であると言う理論が高まっておりますがいかがですか?」

 

「今回の事態につきましては重く受け止めております。ですが、艦娘は我が国の防衛のためには必要不可欠な存在であります。不要と言う理論がと仰られておりますが、国民の皆様がそう仰っておられるのですか?艦娘とふれあった皆様は艦娘に感謝こそすれ、否定的な意見は聞いておりません」

 

「質問にお答えください!総理!総理!」

 

「今は状況を精査し、見極めている段階でございます。後に此度のことにつきましては正式に声明として出させて頂きます。まずは、悪しき人の手で人身売買のようなことをされ、傷ついた艦娘を全力でケアしている状況でございます。総理と私、高浜がしっかりと精査して参ります」

 

………

 

「相変わらず、艦娘のことは無視して偉いさんの批判に必死やなぁ」

「マスコミは艦娘に否定的だからな。昔っから。要はこれを材料に延々と税金のことやらを別の党と徒党組んでつつきたいだけさ」

 

「で、結局論破されるんやな。何年も前から変わっとらんなぁ」

「一部で非難している市民団体と一緒だよ。自分たちは陸の奥で文句垂れて、艦娘のことは暴力装置。戦争の道具だ。艦娘のことなんかそんな認識だよ」

 

「……私達の存在はその程度なのですね…」

「ですが、提督や商店街の皆様は私たちを必要としてくれています。私達にはそれだけで十分かと思います」

 

「それでいいよ。大和や扶桑にも。瑞鶴にも言ったことだけど、お前たちを必要としている人のために。それでいい。俺はおやっさんのこともあるし、人間だからな。でも、俺だって横須賀のみんなのことしか考えてないよ。一宮達のことは…まあ多少は…」

 

「冷たいやっちゃのう」

「あのな…」

 

「提督が私達のことを思ってくださっていることは承知しております。おそらく、私達以外のことをお考えになるとキャパオーバーになると思います。執務などについては私たちがサポート致します。ですから、龍驤さん。提督を責めないで頂けますか…」

 

玲司は妙高がいれてくれた麦茶を飲みながらその話を聞いていた。龍驤の冷たいと言う意見に真っ向から怒りの表情さえ見せながら妙高が噛みついた。いや、噛みついたと言うのは妙高に失礼だろうが…。

 

「提督にはご恩があります。私や朝潮さん達。そして、それよりも前に吹雪さんも。宿毛湾の一部の方ではありますが私たちを拾ってくださり、霞さんも快く面倒を見てくださっております。朝潮さんのことであちらの提督に激昂されたことも伺っております」

 

妙高は真剣な面持ちで語る。話が加熱すると同時に目じりに涙を溜めて語っている。妙高を含め、朝潮たちも提督には並みならぬ恩義を感じている。朝潮に至っては永遠に忠誠を誓うとまで言うくらいである。妙高も口には出さないが、もうお仕えする提督は玲司しかいないと思っている。

 

提督は艦娘のために考え、動き回り、怒りもする。実際に朝潮がこちらに来てまもなく、朝潮たちがいなくなったと言うことで朝潮たちを補充するために建造してこっちに回してくれないかと言う宿毛湾の提督の発言に激怒して怒鳴った話は朝潮から何度も聞いているし、それがあって朝潮は提督を信用するようになり、今では尊敬する提督として敬愛している。

 

提督が体調不良で寝込んだ時も、艦娘のことを悪く言う提督達に怒り、それが原因で怒りすぎて深海棲艦の因子が強くなり、あわや命まで落とす手前だったと聞いたときはひどく不安になったものだ。

 

「提督は確かに過剰なまでに艦娘に気を遣い、私達のことを思ってくださります。その結果、体調を崩された時は膝からチカラが抜けるほど不安になりました。提督は私達、横須賀にいる艦娘に全力を注いでくださっているがために、他にそれを向ける余裕がないのだろうと推察します」

 

「ん、んん…言われてみればそうなのかもしれない。今俺は横須賀の子達以外だと、鈴谷みたいにこちらへ助けを求めてきた子達くらいまでしか余裕がないよ。うちも大所帯になってきたし、そろそろそれすらも余裕がないな」

 

「でも吹雪さんのことはしっかりとお話を聞いておられたんですね」

「そりゃあなぁ。吹雪はうちの子だぞ。うちの子の話をほっぽらかす提督がいるかっての」

 

「そういう提督だらけですよ、司令官さん」

「おっと、そりゃ一本取られたな、あはは」

 

のんきに笑っているがほぼ休まずに執務に料理、駆逐艦とのお遊び。紫亜のガーデニングの手伝い。先日も執務はそこそこに折り鶴を作り。見るに見かねた霧島が強制的に休むように執務室から放り出し、間宮にも協力してもらい。駆逐艦にも外で走り回るような遊びは控えてもらうなど工夫をこなして何とか提督を休ませようと努力する。

 

提督が私達に気を遣ってくれるなら、自分たちも提督の心身に気を遣わなければならない。一方的にもらうだけではダメなのだ。私達は提督に依存している。これで提督に何かあった日には横須賀の艦娘はほぼ全員が立ち直れないだろう。そうならないよう、こちらも細心の注意を払って気を遣わねばならない。

 

「うし、今日はおしまい。あんまり根を詰めると扶桑や大和から怒られるし、霧島にどやされるからな」

「はい。怒りますよー」

 

「これだもの」

「ふふ…お疲れ様でした、提督。あとは私達でやっておきますので」

 

「悪いな妙高。ちょっと吹雪のところへ行ってくる」

「はい。お疲れ様でした」

 

大淀も鳥海も頭を下げて提督を見送る。書類はもうあとは郵送の手筈を取ったりファイルする程度だ。5人でとりかかれば3時の間宮のおやつの時間までにはほぼ終わる。もっとも今回多かったのは鈴谷着任の件でゴタゴタしていただけで。さすがにテレビで知れ渡っている以上、この鈴谷の存在が知られると横須賀鎮守府の周辺や商店街にまでマスコミや市民団体が集まりだし、静かな生活を送ることができなくなるだろう。

 

「な、なあ、妙高…?」

「はい、何でしょう?」

 

「そ、そない怒らんでも…」

「怒っておりません」

 

「う、うう…」

「妙高さんも言っておりましたけど、提督は冷たいのではなくて横須賀の皆さんで手一杯なんです。ありがたいと思うと同時に申し訳ないとも思います」

 

グサグサと遠回しに龍驤に怒ってますと言う棘を刺す大淀。小さくなっていく龍驤。大淀達だってわかっている。外にあまり関心がないことも。商店街の人たちのことはよく話はするし、何かあるとすぐ動く。

 

「ま、司令ももう少し余裕を持ってほしいですね。翔鶴さんがついてくれていることでだいぶ以前よりはゆとりを持たれているようですが」

 

「そうですね。翔鶴さんも幸せそうで何よりです」

「龍驤さん、感情的になって申し訳ございませんでした」

 

「あ、ああいやいや、こっちこそごめんやで。玲司がおるからみんなこうやっておれるわけやしな。うちかて大本営やと他の偉いさんからは冷たい扱いやったで、居心地がええんやけど、やっぱなぁ。心配なんよ。人に関心がなさすぎて艦娘にばっかりってとこがな。一宮君や商店街の人らのおかげでマシになったんよ」

 

「そんなにひどかったんですか…」

 

「人間不信ってレベルちゃうからな。人を怖がっとるんよ。大本営でコックやっとる時に大勢の人と関わって、だいぶマシになって、商店街の人らや一宮君ら若手提督のおかげでマシになったって感じかな。翔鶴と付き合いだしたんは予想外と言うか…いやまあ艦娘とお付き合いするんは予想できてたけどなぁ」

 

「人間の女性とはどうだったんですか?」

「あいつあれでモテよるんよ。ぜーんぶお断り!」

 

「そ、そうなんですか…」

「そうやでー。まあ、いろいろあったでなぁ」

 

「……そうですね」

「人は裏切る。艦娘は裏切らんやろう。そんな保証もないし、どうなるかなんてわからへんねんけど…翔鶴なら大丈夫やろ」

 

「ふふふ、私は見守りたいですよ。翔鶴さんと提督の恋の行方。最後には赤ちゃんができたりして」

「できるかーい!人間と艦娘で子供なんか!」

 

「あら、ですけど…提督は提督自らが人とは違うと仰っております。深海棲艦と人間の血が混ざったお方。もしかするともしかして…」

「大淀、あんた、割とそういうの好きなんやな…」

 

「さて…どうだか…」

「ふむ、翔鶴さんと司令の子供さんですか。興味ありますね。翔鶴さん、パパーっと作ってくれませんかね?」

 

「なっ…そ、そんな簡単に赤子ができるかーい!」

 

さて、玲司と翔鶴に子供ができるかは…今後のお楽しみ。

 

………

 

吹雪の所へ行く前に食堂へ寄ったらまた瑞鶴がテレビにかじりついていた。今回の被害者である鈴谷までもがテレビを凝視している。

テレビの内容はやはり艦娘を使っての違法風俗店の営業のことだ。提督が逮捕されたことまでしっかりと報じられ、防衛省の手回しよりも早くこの事件が明るみ出てしまったと言うことだ。

 

(……青葉だろうな。たぶん、おやっさんと動いたんだろう。責任を取らされるだろうに…)

 

内部告発と言うことにしたのだろう。慎重でありながら迅速な動きを見せる高浜防衛大臣がマスコミに後れを取るはずがない。父と防衛大臣。そして青葉。おそらくはその裏にはさらに総理大臣まで絡んでいそうな案件だ。

 

総理大臣は艦娘を理解する数少ない政治家の1人だ。今まで提督の不祥事は表に出さなかったが、事が事だけに、と言うこともあるし、おそらくは全ての提督への見せしめだろう。艦娘を使っての悪事の末路がどうなるか、それを知らしめるためだ。

 

「うっわ、悪そうな顔。この人、これから先どうなるのかなぁ」

「島流しだ」

 

「わあ!?提督さん!?ちょっと、驚かせないでよ!」

「そんな驚くほどかじりついてみてたのか?」

 

クックックと笑ってみた。瑞鶴は顔を真っ赤にして何だか爆撃でもしてきそうな雰囲気である。鈴谷が落ち着かせている。

 

「ねえ提督、瑞鶴さんを刺激しないの」

「ははは、すまんすまん。瑞鶴はそういう反応がかわいらしいからな」

 

「はあ!?かわいいとかそう言うのは翔鶴姉にいいなよ!喜ぶから!」

「瑞鶴!?」

 

「翔鶴には毎晩言ってるけど」

「提督!?」

 

「ふ、ふふふ不潔よ!!!」

「うわー…うわー…」

 

「いや、一緒に寝てるだけで何もないぞ」

「そ、そういう…その…あ、あのあの…」

 

「あーもう…おほん、提督さん。さっきこのそ、ソーリー大臣って言う人が言ってたんだけど」

「総理大臣な。日本でかなり偉い人だぞ。テレビに出るくらいだからな。ああ、宿毛湾の奴の処遇か。厳罰に処すってやつだな。島流しだ」

 

「島流し?」

「何もない島へ連行される。施設はある。が、そこでは何もすることなく、牢に入れられる。島の名もない。瀬戸内海の名もなき島でな。まあ、収監島なんて呼ばれるようになったけど。そこはその施設以外は何もない」

 

「え、でも連れて行かれるだけ?」

 

「厳正な人選。厳正な艦娘の選抜。ごく少数で管理された施設だ。衣食住は問題ないが、自由は大幅に制限される。暇は無味無臭の劇薬って言葉があってな。何もすることはないのに起床就寝は管理される。食事の時間も決まってる。手紙を出すこともできないしもちろん面会なんかもできない。艦娘を使った大きな悪事を行った場合は全ての自由を剥奪される」

 

「へえ…」

 

「想像してみな。瑞鶴の寝室に1人で朝起こされてご飯を出されて、あとは1日テレビを見ることもできない。弓道場で弓を射ることもできない。もちろん出撃遠征演習もダメ。外への散歩はダメ。俺に声をかけても無視される。いないものと扱われる。夜は強制的に電気を消され、寝ることを強要される。どうだ?」

 

「…無理。気が狂うと思う」

「鈴谷は?」

 

「む、無理…頭がおかしくなるよ…」

 

「だろうな。この件は外部の人間は知らない。漏らしてもならない。艦娘の尊厳とあらゆる自由を剥奪した人間には、艦娘と同じく全ての自由と尊厳を剥奪される」

 

「どんな島なの?」

「おいおい、それを聞いてどうすんだ」

 

「いいじゃん、ちょっと気になっただけ」

「もう、瑞鶴ダメよ?玲司さんに迷惑かけちゃ…」

 

「艦娘に対して何かすると、結構きつい罰が下るんだね」

「ああ。今回は一番重いな。艦娘に対して何かやらかすといくつか罰がある」

 

テレビはすでにお決まりの艦娘に対してと防衛大臣、総理大臣に関する批判的なことばかりを語りだしているため、瑞鶴はすでに興味を失っている。玲司の罰則についてのほうが興味があるらしい。こんな話の何が興味を持つのか…瑞鶴の感性はわからん。と思う。ただ、翔鶴や瑞鶴、いつの間にか耳をダンボのようにして聞いている間宮。やれやれ…と思う。

 

「いや、あの…俺、吹雪にご飯作ってあげたいんだけど」

「作りながら教えてよ」

 

「あのなぁ…」

 

ねぎを切りながら困った顔をしている玲司。暑いのだが、消化のいいうどんを作る。だしはこだわりの関西風(龍驤が関西風じゃないと嫌だと散々昔から駄々をこねるため)である。昆布とかつお節を使い、味には妥協しない。

そのダシの香りに段々と興味がそっちにいきだしている瑞鶴。玲司の作戦ではある。食い意地が何だかんだと瑞鶴は強い。

 

「大半の人間は妖精さんが作った記憶消去装置で提督だったこと、艦娘に何かしたこと。全部記憶を消される。それでもって軍が斡旋した職場へ就職させられる。軍関係者がいるから監視の目もあるしな」

 

大鍋から昆布といりこを取り出す。どうやら今日は全員うどんになるらしい。強烈ないい匂いが立ち込める。

 

「轟沈が多い奴。鎮守府内で艦娘に暴力や性行為を強要してバレた奴なんかは大体これ。と、言うか島流しにあった奴は俺は知らないな。ただ、おやっさんが言うには数年に1回はあるらしい。宿毛湾の奴はそんなレベルのどでかいことをやらかしたってとこだな」

 

ねぎを細かく刻んで皿に盛る。ねぎのいい香りがする。国産のいいネギだ。食材はほぼ国産で、食費予算から足が出た場合は玲司が内緒でポケットマネーから出している。

わしっとかつお節を鷲掴みし、鍋に放り込んでいる。またかつお節のいい香りがする。ぐぅ…瑞鶴の腹が鳴る。恥ずかしそうにお腹を押さえてもじもじしている。

 

「で、さっき言った通り、艦娘の尊厳と自由を剥奪したものは同じ目にあってもらう、らしい。外にバレたら人権侵害だとか喚きだすんだけど、艦娘に同じことしてもいいのかってことでな。まあ、これは表にはばらさない」

 

「あれはね…ほんとに…」

 

「宿毛湾の奴は朝潮たちのこともあるし、吹雪のこと。鈴谷のこと。もう言い逃れできないよな。朝潮たちのことを何かしようとしていた研究施設の人間は別の島へ島流し。こいつは提督だからな。よりひどく人権を剥奪される」

 

「それが何もさせてもらえないってこと…」

 

「そう言うこと。こんな話聞いた後にうどん食ったってうまくないだろうよ」

「うーん…せっかくのいい匂いが台無しになるね…」

 

「鈴谷、ご飯はおいしく食べたいんですけど…」

「だろ。だからこの話はこれでおしまい。はい鈴谷、ちょっと味見して」

 

「あ、ずるい!瑞鶴にもちょうだいよ!」

「はいはい…翔鶴と間宮もな」

 

「あ、ありがとうございます」

「ありがとうございます!むむ…これは四国のいりこに…昆布も利尻の…」

 

「間宮さん、この少量で何でどこの素材使ってるかわかるの…?」

 

間宮がメモを取り出し、何をどれだけ使っているかをメモし始めた。北上たちも言っているのだが、最近間宮の食事の味が玲司とは違うものになってきていると言う。悪い意味ではなく、間宮オリジナルの味付けになってきているのだと言う。

 

玲司はそれについては喜ばしいことだと思っている。玲司にとっては自分とは違う味と言うものは新鮮味があるし刺激にもなる。こういう味付けがあったのか、こういう味に仕上がるのか。最近は間宮の料理が楽しみだったりもする。

 

一方で間宮は逆で、玲司の味を真似しようと努力している。彼の作る食事の味に魅せられて、何とか彼の食事を真似しようとレシピ、調味料、全てにおいて真似をしている。どれくらい調味料を入れたかなどはなぜかグラム数まで完璧に目だけで把握し、さらにはダシやスープなども試飲させてもらい、ちょっとした量からでも完璧に把握する。

 

「むむ、提督、これはサバ節も使っていますね?」

「お、よくわかったな」

 

「ふむふむ…サバ節を…」

「間宮さんはすごいですねぇ」

 

しかし、悲しいかな。玲司の味を真似ようとすればするほど、なぜか玲司の味とは離れていってしまう。おそらくこのダシも、間宮が同じ配分で作っても、なぜか少し違うものができあがってしまうだろう。

玲司はそれはそれでいいと思う。自分のコピーではなく、間宮オリジナルの味になる。自分だって、母が作ってくれたオムライスを何度どう真似をしても母の味に似ない。

 

「お兄ちゃんのオムライスがいい!お母さんのもおいしいけどお兄ちゃんのほうがいい!」

 

妹の雪乃もそう言っていた。何が違うのかは自分もわからない。分量を完全に真似て、火加減も時間も一緒にしてみた。けど違う。間宮は今はそれで何が違うのだろう、と悩むかもしれない。けど、ゆくゆくは「間宮の味」として熟成され、それが自信になり、みんなからさらに親しまれる「間宮にしかできない味」ができると思っている。

 

「何かいいにおいがするぞ!」

「おなかすいたよぉ~」

 

ダシの匂いにつられて文月と皐月がやってきた。夕飯まではまだ早いのだが、料理のにおいに惹きつけられてほぼみんなが食事の時間になると椅子に座って待っている。文月や皐月、霰はいつも早い。島風も早い。ちなみに赤城がいた時は赤城が必ず一番であった。大本営に帰らないといけないとなったとき、机にかじりついてでも帰ろうとしなかったが、陸奥の逆鱗に触れると悟ると、すごすごと帰って行った。

 

「今日はうどんだ。ご飯はかやくご飯だぞ」

「ええ!?司令官、ご飯に火薬混ぜちゃったの!?」

 

「んふっ、違う違う。間宮、いけたか?」

「は、はいっ!」

 

「じゃあこれを入れて米を炊いてくれ」

「おだしを入れるのですか?

 

「そういや初めてだったな。そうなんだ。この具も入れてな。頼むぞ」

「はいっ、お任せください!ええっと…」

 

「メモに夢中で焦がすなよ~」

「そんなことしません!るんるん♪」

 

怒ったり鼻歌を歌ったり忙しい間宮。また初めてのことだからご機嫌でメモを取ってあとでレシピノートにまとめるのだろう。間宮のレシピノートは玲司が今まで作った料理の材料や調味料、時間などが細かく書かれ、イラストもかわいらしく描いていて、玲司の一言アドバイスなどもちゃんと書かれている。

間宮のコメントも書かれ「おいしい!」とか「お塩を一つまみ♪」とか書かれている。そんなノートももう10冊くらいはできているらしい。和食編、洋食編、中華編などに分かれている。横須賀の艦娘は洋食の方が好みなのか洋食編のノートの冊数が多い。

 

「おうどん、ちゅるちゅるおいしいよね~」

「うん!あのおあげが甘いのがいいんだよね!」

 

「よーし、今日は2枚入れちゃうか」

「やたー!」

 

「やったぁ♪」

 

皐月と文月はきつねうどんが好き。卵を入れる月見うどんかのどちらかである。しばらく間宮や瑞鶴たちとはテレビでの嫌な話は忘れ、雑談を繰り広げる。

 

「あ、そうだ司令官。霰ちゃんのおかげで千羽鶴はもうすぐ完成だって!」

「そうか。頑張ってくれたな。ありがとう。みんなにもお礼を言わないと」

 

「えへ~。文月がんばったよぉ~。吹雪ちゃんが早く元気になってぇ、横須賀のみんながいつまでも。ずっとずっとず~っと、い~っぱい笑って過ごせますようにってお祈りしながら折ってたんだよぉ~」

 

「文月…そうか」

「わぁ~司令官?」

 

吹雪のこともそうだが、横須賀のことも考えていてくれているのか。そう考えると嬉しくなり、思わず文月を抱きしめて頭を撫でた。

 

「文月のその吹雪や横須賀のみんなのことを思う優しい心に感動したんだ。文月は本当に優しくていい子だ」

 

「えへへ。だってみんなだ~い好きだもぉん。優しい司令官にぃ、みんなにぃ。みんなだ~い好きだよぉ」

「ボクも大好きだよ!へへっ」

 

「皐月も…」

「へへ…司令官、ボクたちとずっと一緒にいてね」

 

「ああ。約束する」

 

この幸せな時間にいつ終わりが来るかはわからない。戦が終わった後艦娘はどうなるのか。自分は人間で老いていく。そして自分がいなくなった時この子達はどうなるのか。それは誰にも分らない。けど。今は。今この生きている瞬間瞬間は大切に。そして、俺が生きている間はこの子達を絶対に幸せにする。それだけは心に決めている。この時間に終わりが来るその瞬間まで。

 

………

 

「吹雪、いるか?」

 

皐月と文月を抱きしめ、褒めていたら時間はあっと言う間に流れ、かやくご飯も炊け、ご飯の時間になった。吹雪にはどうしても自分が食事を運びたいと間宮に伝え、間宮に夕飯は任せた。

ただ1人、吹雪にだけは自分がうどんを茹でてあげて、そして持ってきたのだ。

 

 

「はい。どうぞ~」

 

吹雪は医務室から自室に戻り、心配性の玲司の指示で安静にしている。

 

「お邪魔するよ。吹雪、うどんを持ってきたぞ」

「わぁ~ありがとうございます!司令官のおうどん大好きなんです♪」

 

顔色も良く、元気そうである。これならもう出撃などはさせられないが動いて回ったりするのはいいだろう。すぐにうどんをすすりだす。食欲もあるようだ。

 

「うん、いろいろ心配なところはあるけど、ひとまず出撃とかはまだ許可できないけど、遊んだりはいいぞ」

 

「本当ですか!やった!あ、え、ええっと…ご、ご心配をおかけしました…」

「気にしなくていいよ。吹雪がこうしてまた元気になって笑っていてくれるならそれが何よりだ」

 

「あ、…えへへ、何だか恥ずかしいですね」

 

そう言うと恥ずかしさをごまかすかのように夢中でうどんをすする。かやくご飯もパクパク食べる。

 

「ふう…ごちそうさまでした」

「お粗末さま」

 

「やっぱり司令官の作るご飯はおいしいですね。あ、もちろん、間宮さんの作るご飯もですよ!」

「ふふ、そうか」

 

「司令官のご飯は元気が出ます。明日も頑張ろうって。間宮さんのご飯は…優しい感じがしますね。安心できます。だから、司令官と間宮さんが一緒に作ったご飯は…幸せがいっぱいです」

 

「そこまでか」

「そこまでなんです!」

 

えへへ、と吹雪は笑う。元気が出る味。優しい味。やっぱりわかる人にはわかるのか。じゃあ間宮はもう自分の料理と言うのをしっかりと習得しているんだな。そう思うと嬉しくなった。

 

「そうか、それを間宮に言ってあげるといいぞ。すごく喜ぶと思う」

「間宮さん、いつも司令官の味と違うー!って悩んでましたからね…」

 

「え、そこまで?」

「はい。何で一緒のように作っても一緒のようにならないんだろう。私には給糧艦の名を名乗る資格はないんじゃないのかって言うくらいまで…」

 

「んー、間宮には俺からも言っておくか…料理ってのは人それぞれで違うよって」

「は、はあ…」

 

「間宮は俺の料理を真似て俺の味までコピーしようとしてるんだけど、そりゃ無理な話さ。コピーできたとしてもどこか違う。それが吹雪が言う元気が出る味や優しい味ってとこだろう」

 

「司令官が作ったオムライスと間宮さんが作ったオムライスは確かに…味が違う…気がします」

「お、いいね。吹雪はそう言う違いがわかるんだな。細かい味の違いがわかるなら、吹雪には試食係をやってもらおうか」

 

「ほんとですか!?あ、え、えっと…」

「ははは、まあ新作食べるときは頼むよ」

 

「はい!」

 

そうしてどんなものが食べたいかをいろいろと聞いてみた。が、結構どれも作ったことのあるやつばかりで新作はわからなかった。ジャガバターを提案すると反応が大きかったのでそれを作ってみようと思った。でもこれはおやつだな…とも思う。

 

コンコン

 

ノック。静かなノックだ。誰だろう。

 

「吹雪、いるかー?」

 

この声は摩耶だ。摩耶にしては控えめである。いつもならノックもなしにバンと勢いよく入ってくるのだが。たぶん、病み上がりなのだから静かに行けと鳥海あたりに言われたのだろう。

 

「摩耶さん!どうぞ!」

 

吹雪は元気に入室を許可する。ゆっくりドアを開けると摩耶の顔が隠れるほどの大きな何かを持っていた。玲司はすぐに気が付いた。

 

「摩耶さん?」

「よお吹雪。元気か?」

 

「えっ?は、はい。元気ですよ」

「そっかそっか」

 

すごくわざとらしく気を遣っているのがおもしろくて玲司は笑いをこらえる。棒読みじゃねえかとか、緊張してる顔してんな、とか見ていておもしろい。

 

「んだよ提督!人が緊張してんのに!!!」

「それがおもしろくてな」

 

「お前…あとで覚えとけよ!」

「まよおねえちゃん、まだー?」

 

「霞ちゃん!」

「ふぶきちゃん、もうぽんぽんいたくない?」

 

「うん、もう平気だよ」

「そっかぁ。あのね、かすみたちね。ふぶきちゃんがはやくげんきになりますようにって。つるをね、おったの」

 

「ああ、それあたしが言おうと思ってたのに…」

「これ…私に…?」

 

「吹雪さんが元気になりますように…それから、横須賀の私を含めた皆さんが健やかにずっと笑って過ごせますように…そう祈りを込めて千羽…鶴を折ったの」

 

「扶桑さん、あのさぁ…それもあたしが…」

「ぶふっ」

 

「提督、ほんとに覚えとけよな…」

「まあそんだけ吹雪はみんなから好かれとるっちゅうこっちゃ。摩耶がいっちゃん一生懸命折ってたんちゃうかな」

 

「あ、も、もう!みんなして!あれだ、吹雪。もう元気そうだから送っていいのかなって思うんだけど…もらってくれ!んで、あたしたちと一緒に、ここでやっていこうぜ!」

 

わさっと千羽鶴を差し出し、それを無言で受け取り、うつむく。グスッとすすり泣く声が聞こえる。

 

「私…私も…みなさんと一緒に…笑って、一緒に頑張っていきたい…です」

「おう。一緒にやっていこうな。今度は嫌なことや怖いことを思いだしたら、あたしを頼れよ。あたしはお姉ちゃんなんだからな!」

 

「…はい、お姉ちゃん!」

 

「まよおねえちゃん、ふぶきちゃんのおねえちゃんだったんだねー」

「まあ、なんちゅうか…せやなぁ」

 

龍驤は思う。横須賀にも、艦種や姉妹艦と言う枠を超えて姉妹になる。そんな関係が出来上がってきたんだなと思うと嬉しくなった。最初はバラバラで、興味さえ示さなかった自分たちが…いつの間にか姉やんとかそういう風に呼んでいた。今それが、何もしていないのに横須賀できた。あまりの感動に体が身震いする。

 

(艦種を超えて…家族っちゅうんになれば…お前らはもっと強うなれるで!)

 

この鎮守府の行く末を見守ると決めた龍驤は、これでより、横須賀を離れる気はなくなった。玲司とその艦娘がきっとこんな関係を築き上げてくれると信じて、教官と言う立場で横須賀に着任し、最初期から見守り続けてきた。これはまだ始まりに過ぎない。これから先、この「絆」がきっと、より凶悪な深海棲艦を倒せると信じて。

 

………

 

「吹雪ぃ!手加減すんなってもうええんかー?」

「はい、龍驤先生!吹雪復活しました!ドーンと来てください!」

 

「ばっか吹雪!龍驤さんにちょっかいかけんじゃねえって!」

「おっしゃあああああ!言うたな!!!!いくで吹雪!摩耶ぁ!」

 

「あたしもかよ!?」

「摩耶さーん、吹雪!がんばってー!」

 

「気をつけてね~!」

「っておい!皐月と文月は見学かよ!!!!」

 

「おう、まずはお前らの腕試しや!いくで、『炎の鳥』!!!」

「ぎゃああああああ!」

 

「吹雪、いきます!!!」

 

燃え盛る艦爆が集まり、炎の鳥の形となり、吹雪たちに向かってくる。若干手加減はされているようだが、これを龍驤が使うとなるとかなり本気モードである。半泣きになりながら機銃と対空砲を構える摩耶と、真面目な顔をして砲を構える吹雪。

 

まだ完全にあの人の顔が消えたわけではないが…それよりも司令官の顔や、昨夜の摩耶たちの笑顔を思い出し、吹雪は今日も全力で寝込んでいた勘を取り戻すために頑張るのであった。




心の傷はそう簡単には消えませんが、信頼できる司令官、先生、お姉ちゃん。みんながいれば和らげることはできると思います。吹雪はこれを機にまた少しずつ歩き出していきます。みんなに見守られて支えられて。吹雪はそれに甘えはしますが自分でちゃんと一歩一歩足を踏み出して歩けるでしょう。もう1人の吹雪と一緒に。

さて次回は、これまた宿毛湾の被害者である朝潮姉妹のお話を書こうかと思います。満潮視点で。
彼女達も妙高も。吹雪と同様に深い傷を負っていました。吹雪が倒れてバタバタでしたが玲司は彼女達のフォローもしっかりとします。

それでは、また。
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