満潮が主観になっていきます。
吹雪が倒れて…私も正直あの男の顔を未だに覚えている。嫌味と侮蔑が混じった腹の立つニヤニヤした顔。腹が立つ、ではなく私はあの顔に恐怖を覚えた。
だって、人間は笑いながらひどいことができると知ったから。連れて行かれた先でもそう。笑いながら私たちに暴力を振るい、罵り、霞の何から何までを奪い、壊した。薄暗い中でもわかる狂ったような怖い目をして、でも笑って…。
吹雪の話を聞いて、やっぱり私はあの男がより怖くなった。艦娘が大破しようが沈もうが怒ったり、呆れたりしかしない。今の司令官は大破して進撃しようとすると絶対に阻止するし、命を粗末にするなとそっちで怒られると言うのに。
「……あの司令官だ」
大潮姉さんが嫌そうな顔をする。荒潮に至っては顔が引きつってる。
「荒潮」
私が名前を呼ぶと這ってきて、すぐに私の後ろに隠れるようにしながらテレビを見ている。
「テレビ消すわよ。荒潮も大潮姉さんも怖がってるし」
「満潮、待って…こ、怖いですが…この方の行く末を見届けなければ…」
「はあ?何それ意味わかんない」
「たいほと言うのをされてどうなるのか…何かがあって私たちと出会うことがあれば…こ、今度は私が大潮や満潮…荒潮に…霞を守らなければならないから…」
「逮捕って言うのは悪いことをしたから…ええっと…ごめん、私もよくわかんない。でも、悪いことをしたから何かあるはずよ。簡単に出会うことはないと思うわ」
「だけど…」
「あーもううるさいわね!どういう事になるか司令官に聞いてくるから!いつものアニメが始まる時間よ!」
朝潮姉さんはいつもお休みの日はネコがネズミを捕まえようとするんだけど、逆にネズミにめちゃくちゃにやり返されるアニメを見るのが好き。それが始まるとかじりついてる。あっと時計を見て、大潮姉さんにチャンネル変えるね!と言ってニュースを打ち切った。
「満潮姉さぁん…」
「何よ…離れたくないの?荒潮もじゃあ聞きに行く?」
荒潮は私のブラウスの袖を掴んで離さない。こうなった荒潮はずっと怖がり、甘えてくるので普段の少し大人っぽさを演じたことは一切しなくなり、かわいい。ああ、別に普段の荒潮がかわいくないわけではなくて、もっとかわいくなると言うか…。
「あ、荒潮も行くわぁ…」
「はいはい。一緒に行くわよ」
荒潮はまだ夢でもアイツの夢を見るみたい。それと、荒潮を裏切った男のことも。荒潮は私にべったりなところがある。ぽそっと司令官は安心できる人と言っていたから、私と司令官がいれば怖くなくなると言ったところかしらね。司令官に色仕掛けなんこともしないで、他愛のない話をあのねとかうーんとぉ…と必死に考えてお話してる。そうしないと自分が不安に押しつぶされるのかな。
そう思っていると執務室に着いた。ノックをすると大淀さんがどうぞと言ってくれた。
「失礼します」
「失礼しまぁす」
「満潮さんに荒潮さん?提督ですか?」
「はい。あれ、いない?」
「はい。今日は書類も少なかったので執務は私達でやると言って休んでもらいました。そしたら厨房に行くと言っていましたよ」
「霧島さん、ありがとうございます」
「何か料理の仕込みでもやってるんじゃないですか?休めって言っても本当に休まない人なんだからなぁ…もう」
「最近間宮さんが司令官さんが料理を始めるとずっとメモを取ってお止めにならないそうです」
「あちゃー、間宮さんも堕ちたかぁ」
「お、堕ちたってそんな言い方は間宮さんに失礼かと…」
食堂か。何か相談事をしようとするといつも食堂でな気がする。ああ…中庭でピザを作りながらもあったわね…。
荒潮を連れて食堂へ行くと司令官は腕を組んで何か困ったような顔をしてた。うーん…と唸ってもいる。
「司令官、どうしたの?」
「おお、満潮に荒潮か。いやな、今日の晩ご飯のおかずを思いついたんだけど間宮に今日は俺は休めって言われたんだよ。最近メモ片手にずっと作るとこ覗き込んできてたから安心してたんだけど、まーた大淀か誰かが吹き込みやがったな。霧島にも今日は仕事すんなって言われし、何しようか考えてたとこ」
「じゃあ、今日はもうお休み?」
「うーん、そうだな。ちょうどいい、満潮に荒潮。ちょっとドライブ行こうぜ」
「ドライブ?」
「デートだデート」
「なっ…そう言うことは翔鶴さんとしなさいよ!」
「翔鶴は今日は瑞鶴と空母寮の掃除なんだってさ。どっか出かけようぜと言ったんだけど断られちまった。しっかし、空母寮汚してんのなんざ、龍驤姉ちゃんしかいないのに…」
ああ…瑞鶴さんが言ってたっけ。龍驤さんの部屋が汚すぎるって。お酒の瓶やらがゴロゴロ転がってるし、服も脱ぎ散らかしたままとか…。島風にさえきったなーい!って言われるって…。
ああ、島風と川内さんはすっごくきれいにしてる。2人とも、散らかしてたらお姉さんの雷が落ちて怖いから習慣になったって。龍驤さんにはきかないのかな。
「私は別にいいけど…荒潮は?」
「あ、荒潮はぁ…」
「ちょっと外に出て、風でも浴びればいろいろと気分転換にはなるよ。大方、テレビで嫌なもん見たんだろ。今それでもちきりだからな。吹雪はそれで倒れちまったし、鈴谷もちょっとへこんでたし。んー、朝潮と大潮も呼んでくるか?俺、妙高と霞呼んでくるよ」
結局姉妹全員と妙高さん、霞も一緒にとのことだったけど…霞は行かないとのことだ。大和さんと武蔵さんとお昼寝中。えっと、まだお昼でもないんだけど…。
「艦娘が出撃しないで寝てるって言うのはある意味平和だってことだ。まあ世界中の海で深海棲艦は動いていて、今も何かを攻撃しているのかもしれない。けど、俺たちの周りでは今はないってことだ」
司令官がそう言うのだからそう言うことにしておこう。大潮姉さんは出かけるけど、と言うとすぐに行く!と言う。朝潮姉さんはアニメが気になるものの…出かける方を優先し、すぐに準備を始めた。結局、みんな司令官を優先するわけね。当たり前…か。
………
「よーし、シートベルトはー?」
「ヨシ!!」
「司令官!ヨシです!」
「ヨシよぉ」
「ヨ、ヨシ…です」
「ヨ、ヨシ!」
何か最近駆逐艦の間で工廠の妖精さんが被っているような安全ヘルメットをかぶったネコが「ヨシ!」って言ってるのを真似するのが流行ってるみたいで…こんなところで妙高さんまで付き合わされて…。大潮姉さんがノリノリ…。朝潮姉さんは指さしじゃなくて敬礼してるし。はぁ…疲れる…。
………
車は商店街へ行くんじゃなくてもっと遠くへ出かけるみたい。みんなにはどこ行ったか内緒なっていうけど、時雨や村雨、皐月達がすごくうるさくなるのよね…。
商店街へ向かうときと訳が違う。車は翔鶴さんや瑞鶴さんの艦載機のようにビュンビュンとすれ違っていく。
「水族館へ行こう」
「はい?」
司令官の隣に座っている私が一番変な声をあげちゃった。車はその水族館というところへ向かっているらしい。世界中の魚や海の生き物を展示しているって。ふ、ふん。別に、そんな、楽しみとか…そんな風には…思ってないし。
「ですが提督、今海は深海棲艦に制圧され、そのようにお魚や生き物をどうやって…」
「そういうのにも艦娘を用いて国同士で正式にやり取りをしているらしい。昔は種類もいろいろあってきれいだったはずなんだけどなぁ。今は深海棲艦に支配された海での生物はどうなっているのかって研究が盛んらしいぞ」
「ええっ、ま、まさか…」
「解剖したりじゃないぞ。水槽で泳がせて、何か深海棲艦になりそうじゃないか、とかな。ま、今水族館が動いてるってことはそういうのはないってことだ」
日常を忘れて海に潜っているかのような気分を味わうのは楽しいぞ、と笑ってた。水族館の入り口が見えると大潮姉さんはみんなの耳がおかしくなるんじゃないかってくらいの大声でうおおおお!って言うし…朝潮姉さんは鼻息が荒いし。みんな…はしゃいじゃって。
「満潮、足をパタパタして楽しみか?」
「はっ?!ち、違うったら!そんなんじゃない!」
「はは、そうか」
「な、なでないでよ!何するのよ!!!」
まったく!私を皐月や文月みたいに子ども扱いしないでほしいわ!
「何よ…」
「うふふふふ、司令官の隣に座ったり~、足をパタパタさせてたり~、満潮姉さんってほんっとかわいいわぁ~」
「はぁ!?何それ意味わかんない!!隣に座ったのは居眠りをさせないためよ!!」
「司令官は荒潮たちを乗せて居眠りなんてしないわ~」
「ぐっ…ち、違うの!道案内をしようって!」
「道は私達じゃわからないわよぉ。妙高さんでもわからないわよねぇ」
「ええ。私も外はさっぱりでして…」
「妙高さんは関係ないでしょ!?」
「足をパタパタさせてたのは~?」
「そ、それは足が疲れたからよ!」
「動かしてないのに~?」
「う、うるさあああああいい!!!!!」
「満潮、うるさい」
「何よ!」
「あはははははは!!!!!」
「わわわわ、笑わないでよ司令官!」
「うふふふ、ほ・ら。満潮姉さんはぁ、か・わ・い・い・の・よ~♪」
「うるさいうるさいうるちゃい!!!」
散々からかわれた…もう知らない!口なんて利いてあげないんだから!!!
/
「軍関係者の方ですか?艦娘をお連れですね。どうぞ、お通り下さい」
「ああ、いえ、ちゃんと払います。えーっと…妙高と俺は…大人2枚。子供4人で」
「こ、子供じゃもがが」
「満潮姉さん、落ち着いてね~」
「よ、よろしいのですか?」
「ええ」
荒潮の手に噛みついてやろうかとも思ったけど…やめとく。
「司令官!あれは何でしょうか?」
「あれか。あれは観覧車だな。後で乗るか?高いところから見る景色はいいもんだぞ」
「はい!ぜひ!」
「司令官!司令官!あれは何ですか!?」
「あー、ありゃジェットコースターだな。高いところから一気に落ちる感覚が楽しめるぞ」
「行きたいです!」
「はいよー」
早く早くと大潮姉さんが急かすけど、私たちは水族館に来たんじゃなかったっけ…。あっ、水族館の方に向かってる。よかった。
「ふふふ、水族館楽しみだもんね〜」
「うるさいったら!」
ちょっかいをかけてくる荒潮をもう無視する。荒潮は笑ってるし…もう!
「きれいですね…」
「わぁ、大きいですねー!」
「大潮、静かに」
建物の中に入ると水のトンネル…透明な水が頭上に広がってる。これが…イムヤさんやゴーヤが見ている世界なのかな?青い世界。深海棲艦になったら見ると言う暗く青い世界じゃなくて…太陽の光がキラキラして…宝石みたい。
「満潮さん、大丈夫ですか?」
「えっ…」
妙高さんがハンカチで私の顔を拭ってくれる。涙が流れていたみたい。あまりのきれいさに。幻想的で…とても…とても。
「司令官。どうして涙が止まらないのでしょう」
朝潮姉さんも一緒だった。あまりのきれいさに言葉を失くしてる。大潮姉さんや荒潮は笑ってきれいねーとかそうだねーって言ってるだけ。
「司令官、海とは…こんなにも美しいものなのですね」
「そうだな。海は本当にきれいだ。そして、そんな宝石のような海を守っているのが、朝潮や満潮達、艦娘なんだよ」
そう言われて朝潮姉さんは司令官にしがみついて顔を隠して泣いてる。海を守るって、ただ人と国を守るためにと思ってた。こんなきれいなものも一緒に守っていたんだ。私も司令官に抱きついて泣いた。
「司令官、あれはなぁに?」
「イルカって言うんだ。南の海でよく見かけるかな。かわいいだろ」
「へぇ〜。海ってこんなかわいい子達がいっぱい泳いでいるの?」
「そうだな。深海棲艦がいるから、大々的に調査はできてないからわからないけど、きっといっぱいいるさ」
「そうなんだぁ。荒潮もぉ、一緒に泳いでみたいわぁ〜」
「いつかできるといいな」
「司令官、きれいなお魚です!」
「おお、そうだろ。海の中はこんなきれいな魚がいっぱい泳いでるんだぞ」
「おお!深海棲艦はこんなきれいな魚を守るためにいるんでしょうか?」
「……そうか。そういう考え方もあるのか…」
「ですが、だからと言って無関係の人や街を破壊する理由にはなりません。深海棲艦にもそういう正義の下に戦っているのかもしれませんが…艦娘には艦娘の正義があります」
「…そうだな」
司令官が言ってた気がする。正義の反対は悪ではなくて別の正義だと。そして自分たちの正義と違うものは悪にもなる。難しくてよくわからなかったけど…深海棲艦の正義と艦娘の正義。正義と正義がぶつかって争いが起こる。お互いの正義を主張する為に。でも、だからと言って私は自分たちの正義を譲る気はない。
別の建物に入るとまた青の世界だ。私は艦娘だからかもしれないけど、海が好き。でも、私は水面からしか海を知らない。だから、海の中を知るというのはとても私には素敵なことだった。司令官や姉妹の言葉も耳に入らず、ずっと…ずっと私は海の中を泳ぐ魚を見つめていた。宝石を散りばめて泳がせているような感じだった。
「きれいだな」
「うん。宝石が泳いでいるみたい」
「いいこと言うな」
「司令官。ありがとう」
「ん?どうした、満潮」
「司令官に引き取ってもらえて…霞も…助けてくれて。こんな素敵なものが見れて。私…ううん、私たち、司令官に会えてよかった…。そう思ってる」
「あんまり頻繁には無理だけど、また来ような」
「うん…今度は…霞も」
「そうだな。外を怖がらなけりゃな」
「うん…!」
「司令官に感謝します…みんな、司令官に…敬礼!」
「敬礼!」
「敬礼〜」
「こ、こら、こんなとこでやめなさい…」
………
「これ、みたことあります!クラゲですよね!」
「クラゲはいいわねぇ…ぷかぷかと浮いてるだけで…」
「クラゲにもいろいろあるのでは…」
「かわいい…」
「クラゲはいいよな。いろんな形があって、いろんな色があって。ゆらゆらとずっと見てられるよな」
「海って…いろんなのがいるのね」
「ああ。イルカみたいなでっかいのから、こんなのまでな」
………
「あははっ、なぁにこれ?かわいい♪」
「グソクムシだな。海の深いところにいる」
「イムヤさん達は見れるのでしょうか?」
「イムヤ達でも見れないな。それだけ深いところにいる」
「深海ってどれくらい深いんですか?」
「日本でも深いところは8000mあるって言うしなぁ」
「?????」
「あー…やめよう。大潮が思考停止した」
「もう少し勉強したほうがいいんじゃない?」
「では、一番深いところは…?」
「10000mを越すらしいぞ」
「真っ暗で光が届かず、水圧がものすごいと聞きます」
「ああ。水圧で大変なことになる」
「と、言いますと?」
「潰されてぺちゃんこになる」
「………」
「あ、やめよう。朝潮が泣きそう」
「あ、カニです!司令官!おいしそうです!」
「話逸らしたぞ。タカアシガニか」
「おいしそうねぇ」
「まず食うことかよ」
………
「し、司令官!イルカさんとは違う怖そうで大きいのがいます!」
「サメだな。気をつけろよ…水中から朝潮を狙って…食べちゃうんだぞ」
「」
「あ、やべ」
「何してんのよ!ばっかじゃないの!?」
「朝潮、朝潮!大丈夫だから!食べないって!」
………
「いやー、すまんすまん。ちょっとやりすぎたな」
「い、いえ…そのようなことは」
「提督、朝潮さん達を怖がらせるのはほどほどにしてください」
妙高さんに怒られている司令官。お昼ご飯をお店で食べている。おいしいとは思うけど…ぜんっぜん違う。司令官や間宮さんが作るご飯に比べれば、お世辞にもおいしいとは言えない…かな。食べるけど。大潮姉さん、黙々と食べてるけどおいしくなさそう…鹿島さんに叱られた時のような顔で食べてる…。
司令官の料理に慣れてるから、やっぱりみんなちょっと違うっぽいな。
「はぁう〜!水族館すごかったね!」
「ふふふ、海っていろんな姿があるのね〜」
「司令官…ありがとうございます。すごくきれいで楽しめました!」
「よし、昼からは大潮が気にしていた遊園地の方へ行ってみるか」
「ほんとですか!やったー!!!」
「大潮さん、静かに…!静かに!」
大潮姉さんがあんなにはしゃいでいるのを見るのは初めてかも。横須賀に来た頃はおどおどと元気なく、朝潮姉さんの後をついて回るだけだったんだけど…。荒潮も目つきが前よりも変わった。きつい目つきをしていたような気がするけど、柔らかくなった。
朝潮姉さんは笑うことが増えた。いつも気を張ってガチガチだったのに、あはは、と声を出して笑うことも増えたように思う。そして、いつも緊張してた。
みんなここに来て変わった。私も変わったのかな?私のことは私では見れないからわからない。ただ、少し起きる時間が遅くなった気がする。5時に起きろとかじゃないから、うっかり7時くらいに起きて朝ごはんをギリギリで食べる時間が増えたような…いけない。もうちょっとピシッとしないと…。
「満潮は何か気になるところはあるか?」
「え?あ、ああ…えっと…さっき、イルカのぬいぐるみを見たの。それがほしい…かも」
「おっけー。満潮は前に比べて素直になったな。何か食べたいものがあったり、ほしいものがあっても無理して我慢してた感じだったけど。それでいい」
「イルカさんのぬいぐるみが…あっ、摩耶さんが持っていたような!」
「摩耶に買っていくと最上達がブータレそうだなぁ…」
「司令官…あの、朝潮も…よろしいでしょうか!」
「ああ。買って帰ろうな。その前に大潮と荒潮のおねだりを聞こうな」
「はい!」
朝潮姉さんは頭を撫でられるのがすごく好きみたい。ま、まあ司令官のなでなでは…気分が和らぐから…。わ、私もしてほしいわけじゃないし…。
「満潮も後でな」
「わっ…うん」
「よし、妙高。妙高も楽しんでくれよ」
「はい。私は朝潮さん達の笑顔を見ているだけでも楽しめますが…そうですね」
食事を終えて、私達は遊園地の方へと向かう。大潮姉さんと荒潮は司令官の手を持って早く早くと引っ張ってる。ほんと、休むことを知らない人なんだから…。
「提督はあれでこそ英気を養っているのかもしれませんね」
「妙高さん?」
「ふふ、さっき水族館で見たんです。マグロは止まると死んでしまうそうです。提督も同じなのかもしれません」
「…納得」
「でしょう?提督がこれでいいと仰るのなら、これでいいのでしょう」
妙高さんも提督をよく見てるな…。ん、何で私がやきもちやいてるみたいになってるのよ!知らない!!
………
「なあ朝潮」
「はい」
「無理して乗らなくてもいいんじゃないかな?」
「この朝潮、これしきのことでは動じるわけがありません」
「ほんとかよ…」
「司令官!楽しみですね!」
「うふふふふふ、楽しみねぇ~」
「ね、ねえ朝潮姉さん…降りた方がいいんじゃ…」
「だ、だだだだだいじょうぶれす」
「ダメだ、降ろそう…あ、ダメだ」
『では、いってらっしゃいませー』
バーを下ろされ、発進するジェットコースターと言う乗り物。目の前の急な上り坂は高くまで上るみたいで…。朝潮姉さんの顔が汗だくなんだけど…。
「わあ!上っていきますよ!!」
「し、しれ、しれいか、司令官、手、手、手を、ぜった、ぜったいはな、はなさないで」
「ふふふふ、満潮姉さん、荒潮こわぁい♪」
「それは怖がってる顔じゃないわね」
「ど、どうしましょう…」
ガタンガタンと言いながら上っていく乗り物。
「し、しれ、しれいかん、あさ、あさしおは、しれいかんといられてしあわ、幸せでした」
「縁起でもないこと言うなっての。ほれいくぞ!」
「し、しれ、しれい…かあああああああああああああんあああああああああああああ!!!!!!!」
「きゃーーーーーー!!!!!すごーーーーーーーい!!!!!!」
「あはははははは!!!!!!」
「……!!!」
すごいスピードで落ちていくかのような感覚。す、すご!風!ってか朝潮姉さんと大潮姉さんうるさ!!!!
「きゃーー!」
妙高さんまで…!?楽しそうだから別にいいんだけど…司令官もひゃー!って楽しそう…あ、でもこの風を切る感覚、いいかも…。
………
『ご乗車ありがとうございましたー』
「はあ、はあ、ま、まあいいんじゃない?」
「司令官!!!もう一回!!!!もう一回!!!!!」
「荒潮ももう一回よぉ♪」
「はいはい、俺は休憩だ…朝潮?おい朝潮!」
「」
「し、死んで…「バカ言ってないの!大潮姉さん!」
朝潮姉さん、途中から曲がるたびに頭がガクガクしてたから…途中で気を失ったんだろうな…。よだれ垂らして気絶してる…。
「す、すいません。大丈夫、大丈夫ですから!」
司令官が慌てて抱っこして降りて連れて行く。あーあ…もう。
………
「そういえば、こんなところに私達艦娘を連れてきても大丈夫なの?」
結局大潮姉さんと荒潮が3回ほどジェットコースターを乗ったことで他に乗ることもできず、お店へ。そこでふと思った疑問を投げかけてみた。
「ああ、今日実は一般の人は入れないんだ。大本営や、各鎮守府の関係者なんかが入れる日なんだ。今日は全然いねえな」
「嘘ですよ。提督が今日は私達以外は入れないようにしたんです」
「おい妙高…そればらすなよ…」
「どういうこと?」
「まあ、鎮守府の提督の特権だ。費用もそんな痛くないしな」
「提督の私費ですよね」
「妙高~」
「はい。結構な額になったと聞いています。領収書をこっそりゴミ箱に入れていたのも知っています」
「ま、まあ水族館は本当にうちらも一枚噛んでるからな…学者も必要だけど海軍と艦娘がいないと魚やイルカをここに運ぶことさえままならないから」
「ですが、それが大切な研究になるのでしょう」
「ああ。いつか、普通に船で世界一周とかがまたできるようになればいいな。結局、深海棲艦の影響を何ら受けていないらしいし、生き物ってすげえよなぁ」
「イ、イルカさん…こんなにかわいい…!」
「このメンダコさんがかわいいです!」
「荒潮はこれがいいわぁ~」
「ま、今日のことは聞かなかったことにしてくれ。毎回これをやると俺の貯金がなくなる」
「わかりました」
「サンキュ。満潮はそのマンタでいいのか?」
「べ、別に…!」
「遠慮すんなよ。これも思い出だ」
「思い出…」
「そっ。朝潮が気絶した!とか思い出せるだろ」
「…ふふ、そうね。あっ、霞にも…いい?」
「もちろん」
霞には…これかな。ペンギンさん。図鑑でずっとかわいいって言ってたし。
「よし、じゃあこれでいいな」
それぞれ返事をして司令官が買ってくれた。司令官からの贈り物…。そう思うと胸が温かくなった。私達は本当に、恵まれた艦娘だなと思う。姉さん達もすっかり、アイツのテレビ番組のことは頭から消えたみたい。司令官はそれが狙いだったんだろうけど。
「司令官、感謝いたします!」
「ありがとうございます、司令官!!」
「あ・り・が・と!」
「んじゃ、遅くなる前に帰るか」
私は何だか帰るのが名残惜しくて出口で一度振り返る。司令官は「また来ような」と言って頭を撫でてくれた。私はうん、とだけ言ってついていく。私には大きすぎるぬいぐるみを抱えて。
/
帰り道。朝潮姉さん達は疲れたのか寝ちゃってる。私も後ろの席に行ってうつらうつらとしていた。
「みんな、よく寝ていますね…」
「はしゃいで楽しんでくれたようで何よりだよ。写真を撮ったりできなかったのが残念だな。思い出に残せない」
「写真だけが思い出ではないと思います。今日のことは色褪せない記憶になったのではないでしょうか。私は今日のこの日を忘れないでしょう。それくらい、今日は充実しました」
「そうか。たまには妙高も息抜きがいるなと思ってな」
「ありがとうございます。きっと、朝潮さん達が今回の逮捕の件であのお方を思い出していたでしょうから…気晴らしにと思いまして」
「さすが妙高、鋭いなぁ」
「だてに提督を毎日見ておりませんから」
うっすらと目を開けてみる。妙高さんはそっぽ向いてる。妙高さんは司令官を好きでいるからだと思う。好きと言っても翔鶴さんの好きじゃない。朝潮姉さんと同じ「尊敬」だ。でも、妙高さんだって女の子。ちょっとくらいは…意識してるのは知ってる。だって「視える」から。音でわかるから。
「そっかー」
「そうなんです」
なんでそれで終わりなのよ…。
「提督、これからも私たちをどうぞよろしくお願い致します」
「おう。こちらこそ支えてくれな。みんながいるから俺は頑張れる。1人も欠けさせない。妙高も朝潮達も。みんな。この戦いに終わりが来るその瞬間まで。みんなと一緒だ」
「提督…」
「俺が見つけた最後の居場所だ。重いとわかってる。けど、俺にはそれしかない。まあ、それが嫌ってんなら受け入れ先は探す」
「嫌なわけないでしょ!」
「満潮…起きてたのか」
「私たちは司令官だからついていくの。恩もあるけど、それ以上に司令官だからみんなついてきてるのよ!嫌だったらとっくに誰か離れてるわよ!」
寝たフリをしていたけど、ちょっと我慢できなかった。私たちは司令官に助けてもらった。司令官は、助けたのは別の人だって言うけど、心を助けてくれたのは司令官。助けてくれた人には感謝したい。でも、それよりも。私は司令官だからついていく。どこへだって。朝潮姉さん達だってそう。
「…そうか。すまん。俺はほんといろいろ鈍いなぁ。満潮、ありがとな」
「ふん!」
司令官が私たちがいる場所が最後の居場所だって言うように、私にとっても司令官のいる場所が最後の居場所。お互いに寄りかかってもいいじゃない。
「鈍いは鈍いなりに、一緒にいるさ」
「はい。私たちも…提督と共に」
「そう言うことよ」
その時の司令官の顔は…とても嬉しそうだった。私も…嬉しい。司令官。ずっとそばにいて。絶対に言わないけど。
………
「わあ!かあいい!」
「よかったね、霞ちゃん」
「うん!」
ぬいぐるみ、喜んでもらえた。司令官に買ってもらったから大きな顔はできないけど、選んでよかった。
「おねえちゃん、ありがと!しれいかん、ありがと!」
「うん。気に入ってくれてよかった」
「えへー!」
素敵な思い出。私は…ううん、私たちは忘れない。今日という日を。
「イルカさん…今日はイルカさんと寝ます!」
「大潮はメンダコさんと寝ますよ!」
「じゃあわたしはぁ、満潮姉さんと一緒に寝よーっと♪」
「はあ?まあ、いいけど…」
「む、むむ…」
「お、大潮も寝よっかなー…」
「で、では朝潮も」
「あら、イルカさんとメンダコさんはどうするのかしらね」
「み、満潮ぉ〜」
「み、満潮、この子を間に挟んでいいですから!」
「だぁめ、満潮姉さんの隣はいただきま〜す」
「ならジャンケンで勝負です!」
「だ〜め♪」
「そ、そんなぁ〜」
「ふふ、ふふふふ!」
おかしいの。
「反対は…霰が、いただきます」
「わあ!?霰!?いつの間に!?」
いきなり出てきた霰のせいでまた騒がしくなる私たちの部屋。あれは忘れられないけど、これからいっぱいこの部屋で楽しい思い出を作っていけばいい。みんな、そう思ってると信じてる。
司令官。いつもありがと。お礼は言っておくわ。面と向かっては言わないけど!
第八駆逐隊と妙高さんの遠足でした。
息抜きは大事ですね。そして、気を逸らして忘れさせる作戦はとりあえず成功ではないでしょうか。朝潮はいろいろと飛んでそうですけど(笑)
次回はスーパー事務艦姉妹の泊地の様子です。こちらもちょっとバタバタします。次回もお楽しみください。
それでは、また。