提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百五十九話

/タウイタウイ泊地

 

「失礼致します。ご報告いたします。大本営はアメリカから戦力拡大のためにと寄越した艦娘は大湊警備府の一宮提督の所へ配備すると決定致しました。続けまして、イギリス海軍が大敗を喫し、一部運用の見直しをすると言うことから引き取ったイギリスの艦娘は、横須賀鎮守府の三条提督のもとへ配備するとも。続きまして…」

 

「もう結構です。下がってください」

 

「失礼します」

 

表情を眉一つ変えず、機械のように喋る重巡「高雄」を退室させた。

 

(恐らく全て刈谷君が動かしたのでしょうね)

 

大本営の上層連中は刈谷にやらせればうまくいくと言う輩が増えた。噂では佐世保鎮守府。四大鎮守府を任せると言う噂まである。だがその話はややこちらが優勢で、自分こと大府提督が席につく。いや、それを飛び越えて大本営の上層の席につく可能性もあると聞いている。

そんなものは人の噂だ。アテにならない。

 

刈谷克己。絶望に叩き落とし、もう二度と立ち上がれないようにしたと思ったのだが…再び提督を始め、肩を並べてきた。彼の澄ました態度が気にいらない。思い出す。自分が壊したはずの愛宕が元に戻っていたこと。そして何より…それを見た自分に対してのあのニヤけた顔。気に入らない。

 

この男、大府提督…感情が何一つない顔で…またボールペンをへし折っていた。

 

 

「Hi! MeがIowa級戦艦、Iowaよ。Youがこの艦隊のAdmiralなの? いいじゃない!私たちのこともよろしく!」

 

「Hello! 航空母艦、Saratogaです。提督、サラとお呼びくださいね。よろしくお願い致します。」

 

「Hi! 私がステイツのBig7、Colorado級戦艦一番艦、USS Coloradoよ!貴方がAdmiral? 悪くないわね。私にしっかりついてきなさい! 返事は?」

 

賑やかな大湊警備府の執務室。どういうわけか突然アメリカからやってくる艦娘の面倒を見ろ、と言うことでこの日、たくさんのアメリカの艦娘が着任した。戦艦アイオワ、コロラド。航空母艦サラトガ。

 

「お疲れさまです。Fletcher級駆逐艦ネームシップ、Fletcher、着任しました。マザー、ですか?いえいえそんな……。皆さんのお役に立てるよう、頑張ります!」

 

「Hi! あたしがフレッチャー級、USS ジョンストンよ!I'm going to be a fighting ship!文字通り弾が尽きるまで守ってみせる!今度もね!」

 

「How is everything.あたしは、Atlanta級防空巡洋艦、Atlanta。Brooklyn生まれ。貴方、提督さん?よろしくね」

 

防空巡洋艦アトランタ。駆逐艦フレッチャーとその妹、ジョンストン。実に多くの艦娘を寄越しましたね、と思った。ちなみにまだアメリカの艦娘はいるようだが、ひとまずは彼女たちだけのようだ。

 

「ようこそ、日本へ。そしてようこそ大湊警備府へ」

「ふふ、感謝いたします。私たちをどうぞよろしくお願いいたします」

 

「狭いところね。こんな狭いところで本当にやっていけるの?弱小なFleetだと困るんだけど」

「ジョンストン!いけませんよ!」

 

「はは、狭いでしょう。正直私に皆さんのことを任されたことさえ信じられない状況です。ですが、弱小かどうかは一度演習でも腕試しにしてみましょうか?そちらでメンバーを選出してください。こちらも、相応の艦隊でお相手いたしますよ」

 

「Wow!自信たっぷりね!いいわ!このアイオワも出るわ!」

「……仕方ありません、サラも出ましょう。コロラドは?」

 

『ふふん、この名だたるビッグセブンが出たら相手にならないでしょう?どうせアイオワたちがコテンパンにするんだから、私が出る幕はないわ!』

 

『そう…ではコロラドは出ないと言うことで…フレッチャーは?』

『ジョンストンに何かあるといけませんので…』

 

『ちょっと、どう言う意味よ!?こんなへっぽこそうなAdmiral、負けるわけがないわよ!!』

『油断は禁物ですよ。ジョンストン、手を抜いてはダメよ』

 

『わかってるって!ステイツの艦娘の強さを思い知らせてあげるわ!』

『アトランタは?』

 

『めんどいからパス。言っとくけど、たぶんあんたら負けるよ。あの提督さん、結構やるし、後ろのバトルシップ…強い』

『はあ?だったら見てなさいよ!あたしたちが勝つんだから!』

 

『まあやるのはアイオワとサラトガだろうけど』

『うるさい!』

 

そうして前に出たのはアイオワ、サラトガ、フレッチャー、ジョンストン。

 

「4人でよろしいのですか?何なら、こちらからあと2人お出ししますが。名だたるビッグセブンが出なくて大丈夫なのでしょうか?」

「……はい」

 

「そうですか。では日向さん、飛龍さんと曙さんそれから…照月さんを呼んでください。アトランタさんがいないなら、飛龍さんが存分に活きるでしょう。こちらも戦艦、空母、駆逐艦2人でいきましょう。よろしくお願いします」

 

「わかった。では演習場でな」

 

(……この提督、アトランタがどういう存在かを分かっている…?ヒリュウ…ジャパンの有名なaircraft carrier…)

 

サラトガはこの時、一宮提督の実力が、実はとんでもなく恐ろしいものではないか、と思い始めていた。

 

………

 

「ふむ、海外の艦娘との手合わせとは。油断するなよ、相手はやるぞ」

「わかってる!もうあの時みたいな恥をかくのは嫌よ」

 

「うわぁ、きれいな人たちですね〜」

「きれいな花には棘があるってね。気を引き締めていくよ!」

 

「それでは4対4の演習を開始します。カラーペイントは正直です。大破しているのに大破でないと言う嘘は通用しません。では、始めてください」

 

こうして演習が始まった。一宮提督の号令と共に、各艦、配置につく。

 

「航空隊!発艦始め!」

「全機!発艦始めぇ!」

 

サラトガと飛龍が艦載機を発艦。ここまでは予想通りであった。しかし…。

 

「日向航空隊、発艦始め!」

「What!?」

 

アイオワが驚愕の表情を浮かべる。自己紹介では戦艦と言っていたはず。その日向が何故か艦載機を発艦したではないか。彼女は空母だったのか!?

 

一宮提督の隠し玉、と言うわけではないが、初めて演習で彼女をみた提督、艦娘はまず度肝を抜かれる。なぜなら今のところ、このように艦載機を発艦する日向は彼女だけである。つい最近になってできた設計図や航空兵装資材によって、日向が航空母艦のようにもなることが明らかになった。

 

高速戦艦金剛型。強力な火力を持つ長門や陸奥とは違い、航空戦艦と言う伊勢型、扶桑型はどこの提督もあまり運用に回すことはない。火力はあるが低速かつ、瑞雲を飛ばして一応航空戦にも参加できるがそれまでであった。したがって航空戦艦に日の目が当たることは少ない。彼女たちをうまく運用しているのは、その気迫で相手を凍りつかせる「鬼神」扶桑。3km離れた敵を村雨とのコンビではあるが正確に撃ち抜く「狙撃手」山城。こちらは三条提督の扶桑姉妹。

 

大湊の日向と同じく、艦戦を搭載し、航空戦に空母と混ざって発艦し、制空権の確保に一役買っているのは舞鶴の伊勢だけだ。あの伊勢は「原初の艦娘」と鬼教官、虎瀬提督の凄まじいしごきに耐えた結果である。

 

日向は一宮提督の期待に応えたいと言う一心から鍛錬をし、ここまで登り詰めた。

 

「航空戦艦なんざ中途半端な戦艦だ」

 

そう大本営でよく言われたこともあり、きっと一宮提督もそうに違いないと最初は彼を信用していなかった。榛名がやってきて、いよいよ自分はお払い箱か、と思っていたのだが…。

 

「戦艦の日向さんです。今後は彼女に戦艦のいろはを教えてもらってください。日向さん、榛名さんに戦艦の戦い方を叩き込んでください」

 

私を戦艦と呼んでくれる。瑞雲を積ませてくれと言っても快く搭載させてくれた。少しずつ一宮提督のことを信用していった。どんな時でも戦艦と言えば日向。背中を任せられる榛名と共に危険な海域もこなした。

 

「お疲れ様でした日向さん。日向さんがいたなら、突破してくれると信じていましたよ」

 

その言葉で自分は彼に恋をした。瑞雲を磨いていても、何をしても彼の言葉が頭から離れない。顔も離れない。気がつけば彼を目で追う毎日。

 

「榛名よ。私はおかしくなってしまったようだ。瑞雲よりも彼のことで頭がいっぱいだ」

 

榛名はずっこけていたが、思いを伝えてみればどうでしょうか?と言われると…特別な瑞雲をやろう、などとすっとぼけられた。まあ、予想を超えて提督の方から日向に愛を囁き、すっかりそれに落とされてしまったわけだが。

 

だからこそ、今回も期待されたのだ。ならば、彼の期待に応えるほかない!

 

「照月!任せたぞ!」

「はい!えーい!ガンガン撃って!!」

 

長10cm砲ちゃんと呼んでいる生き物のように動く自走砲が空へ向けて砲を放つ。さらに機銃も凄まじい音をあげて火を噴いていた。サラトガが放った艦載機がバタバタと墜ちていく。

 

「くっ!」

「Fire!!」

 

「ちっ!?」

 

凄まじい轟音と共にアイオワの砲が吼える。その砲は喰らえばひとたまりもない。一宮提督のデータ通り、凄まじい攻撃力を持っている。三条提督のところにいる大和や武蔵。その火力に匹敵するとも言われている。

 

(なるほど、だが火力に任せて隙だらけだぞ!)

 

ドォン!と今度は日向の砲が火を噴く。ここが日向が厄介であると言われる所以だ。航空戦を行い、かつ戦艦の砲撃を繰り出す特殊な戦艦。アイオワに比べて火力はだいぶ落ちるが、それでも戦艦の砲撃だけに直撃すればダメージは大きい。

 

「ワオ!あぶなーい!」

「ちぃ!」

 

相手は大戦艦。冷静な日向だがさすがに緊張していたようだ。なんて事のない砲撃だと思っていたが、1つ間違えればこちらが大破判定を喰らうところであった。

 

(旗艦、頭脳は常に冷静でありなさい。ですが、心は燃え盛る炎のように熱くありなさい)

 

提督の言葉だ。頭までカッとなって熱くなると周囲を見ることができなくなり、見えるものまで見失う。落ち着け。

 

「照月!援護しろ!」

「はい!」

 

「デストロイヤーじゃミーには通用しないわ!」

「そ、そんなことないもん!」

 

ふふん、と得意げに照月に照準を合わせるアイオワ。しかしアイオワは内心焦っているのだ。サラトガからの援護がない。艦爆や艦攻がやってこないこと。この駆逐艦を始末している間にサラトガが日向を爆撃、雷撃し、完膚なきまでに沈黙させる算段でいたのだが。

 

「サラトガさんの艦載機なら照月が落としちゃいましたよ!」

「なっ!?」

 

「そこは、織り込み済みだ!」

 

ズガァン!と日向の砲が火を噴く。しかしアイオワは自分が攻撃されると思っていたのだが…。

 

「きゃああああ!?」

「フレッチャー!?Shit!」

 

「予想通りだ。私もそうやって手痛い目に遭ったことがあるからな」

 

日向は照月に気を取られたアイオワの隙を狙って、背後で魚雷を構えていたフレッチャーを狙い撃ったのだ。タイミングを間違えれば照月がやられてしまう可能性もあったが、照月もそこはしっかりと日向の射線に入らないように動き回る。陽動。さらにアイオワは挑発に乗りやすい性格も相まって、見事に数秒ではあったが日向から気を逸らしてしまった。

 

それはかつて完全に無防備だった利根に、こちらに視線を向けていたはずの横須賀の扶桑がやってのけた手だ。意識が完全にこちらに向いていたと思ったら、まさか利根が撃沈判定を受けたあの演習。さらには護衛の雪風によって扶桑まで仕留め損ねた失態。駆逐艦を放っておくと危険だ。そう思わされた瞬間だった。

 

(ふふ、あの時の反省はきっちり生きているよ)

 

「飛龍!!」

「はいよぉ!予定通り!」

 

「し、しまった!」

「ふん!引っかかったわね!」

 

ジョンストンは飛龍の妨害を担うはずであったが執拗に曙に邪魔をされ、飛龍はすでに艦載機を放った後であり、一切の妨害ができなかった。

 

あらかじめ、一宮提督の動きをサラッと聞いただけであったのだが、それを司令塔である日向が的確に動かした。アイオワの砲撃は脅威だが、それよりもサラトガが脅威だった。そこで照月に防空を最初に徹底させ、危険ではあるが日向からアイオワの気を逸らす作戦に出た。艦載機はきっちり撃ち落とした。そして陽動を買って出た。

 

ほんの数秒。されど数秒と言う間は大きい。日向は余裕を持ってフレッチャーを仕留めた。そして、悠々と飛龍がアイオワに爆撃を見舞う。あえなくアイオワは照月と日向に気を取られ、ジョンストンが相手をしていたであろう飛龍にやられた。もちろんこの後、曙がカッとなっていたジョンストンを撃破。残るは攻撃のできないサラトガのみ。

 

「……Give Upです。攻撃に使う艦載機は全て撃ち落とされました。サラだけではもう…」

 

「よし、戦闘終了だ。照月、よくやってくれた」

「えへへ、よかったです!」

 

「曙ー!ナイスだよー!おかげですっごい楽だった!」

「ちょっと!離れてよ!!」

 

見事な連携であった。頭脳だけではない。このチームワークの高さも大湊警備府の良いところである。曙が若干怒っているが。

 

「おおー、おもしろいことをしておったのう!空母が戦艦を狙うのは当然じゃが、ちと勉強不足じゃのうサラトガ。うちの照月は防空駆逐艦としてはピカイチじゃ!吹雪も負けとらんがの。アイオワは己の火力を過信しすぎじゃ。じゃからスキだらけなのじゃ。フレッチャー、お主もアイオワの後ろに隠れておるからと油断しすぎじゃ。日向はそんなのを見逃さんぞよ」

 

突如現れた賑やかな艦娘。名乗りもまだしていないし、こちらも名を知らない。なのにこちらの名前だけはしっかりと知っているし、認識している。

 

「ジョンストンは昔の曙そっくりじゃのう。何、提督のぶっ通し座禅をすればすぐ矯正できそうじゃの。おー、日向よ。今日はこれで終いじゃ」

 

「ああ。わかった。曙。作戦は成功だな」

「納得いかないけど!」

 

「まあ、次は攻撃にまわそう。今回は提督の言う通り、ジョンストンの妨害は成功だ」

「どうも」

 

「曙ちゃん、お疲れ様〜」

 

演習に参加したメンバーが去っていく。呆然とするアイオワ達。何が何だかわからない。

 

「全ては提督が言っておったことを我輩が言ったまでじゃ。提督は一目でお主らがどう動くかを読み取ったのじゃアイオワは戦艦同士の殴り合いをするじゃろう。サラトガはその隙で日向を狙うじゃろう。フレッチャーも魚雷で日向を狙う。ジョンストンは飛龍の邪魔でもするつもりじゃった。駆逐艦をまーったく見ておらんかった。それが敗因じゃ」

 

ところで我輩は利根じゃ!といきなり名乗ったわけだが、この利根の言う通りだった。ぐうの音も出ない。特に徹底的に邪魔をされて何もできなかったジョンストンは顔を真っ赤にしてプルプルと怒りに震えているし、フレッチャーもシュンと下を向いている。

 

「我輩たちは駆逐艦の恐ろしさをよう知っとる。かつて当たった演習でとんでもない駆逐艦がおっての。日向も提督も真っ先に潰すべきは駆逐艦じゃと言うとる。まあその辺は我輩のように提督にみっちり叩き込まれるじゃろうな!」

 

なっはっは!と笑っている利根。提督が違えば艦娘も変わる。と、言うよりは某鎮守府の10回言っても理解しない利根が特殊すぎるだけであるが。大湊の彼女は一宮提督の作戦を遂行、そして教わるごとにぐんぐんとその知識を身につけていった。頭の回転が早く、戦況と敵味方の配置をいち早く察知し、指示を送る。日向とは違うブレインとなっている。

 

基本的な性格は変わらないが、戦闘となれば話は別だ。そして彼女はここに来る前に提督からアイオワたちの資料に目を通し、顔も名前も一致させているし、どんな性格かなども大体ぱっと見で把握した。

 

「そこで観戦しとったアトランタはアイオワらが負けると最初から思っとったじゃろ」

「…さあ、別に」

 

プゥーっとガムを膨らませて知らんふりをしているが、図星である。レベルが違いすぎる、とそう思っていた。逆にコロラドはけちょんけちょんにできると思っていたようだが。この言ってしまえばアホそうな艦娘にここまで言われるとは…完敗である。

 

「利根さ〜ん、日進さんが利根さんの分のドーナツ食べちゃいました〜!」

「な、なんじゃとー!?五月雨ぇ!日進はどこじゃ!今度こそ我慢ならんぞ!!!」

 

ドーナツに激怒して走っていく利根。何だあれは…と思ったがアトランタは利根をある程度認めざるを得なかった。

 

「お疲れ様でした」

「Admiral…」

 

「予想通りな動きでした。実戦経験がほぼないと見えます」

「………」

 

フレッチャーがその言葉にキョロキョロと落ち着きがなくなる。ジョンストンはふん!とそっぽを向く。

 

「ノ、ノーよ!私は戦艦アイオワよ?エネミーをバッタバタと!」

「いえ、着任したて特有の、足がまったく動いていない戦い方でした。動いてもおぼつかない。皆さん同じでしたね」

 

「提督…Sorry…」

「いえ、怒っているわけではありません。これから共に頑張っていきましょう」

 

「まあ、そんなに頑張る気はないけど…ここなら生活しやすそうだし、よろしく、提督さん」

「アトランタ?」

 

「何?」

「い、いえ…」

 

サラトガが驚いていたのは、あの野良猫みたいな性格をしているアトランタが「生活しやすそう」とさらりとここに着任することを決めたことだった。ふらりと消えてはどこかで昼寝をし、出された食事もあまり口にしようとしなかったのだが…。

 

………

 

「では、手を合わせてください!いただきます!」

 

戦艦榛名が号令をかけると一斉にみんながご飯を食べる。箸の持ち方がわからないだろうからとスプーンやフォークで食べられる料理を出してくれていたのだが。

 

「ねえ、これの使い方、教えてくれない?」

「え?ああ、うん。こう持ってね?こうすると…」

 

「Hmm…」

 

長良に箸の使い方を教わり、ぎこちなくはあるがお茶碗のご飯を食べるアトランタ。お茶碗にはアトランタみたいに愛想の悪い顔をしたひよこ。アメリカでは誰に出されても少ししか口をつけなかったり、食べなかったのに…。

 

「おいしい?」

「まあまあかな」

 

「そっか!」

「ん」

 

まあまあと言いつつおかずもぱくぱく食べている。サラトガは嬉しい半分、戸惑い半分である。

 

「ん…ねえ、このフライドチキン…」

「ああこれ?これは唐揚げって言うんだよ」

 

「鳳翔さん、みんなのためにいっぱい作ったんだって!いっぱい食べてね、ね!」

「カラーアゲ…ん…悪くないな」

 

「これがジャパーンのディナー!素敵だわ!」

「アトランタちゃん、これもおいしいよ!」

 

「こりゃ!わしのじゃぞ!」

「日進さん!にんじんも食べなさい!」

 

「鳳翔!い、いやじゃ!」

「好き嫌いは許しませんよ!」

 

「望月ちゃん、アスパラベーコン巻きおいしいね!」

「ん…あたしは唐揚げもっと食べたいんだけどね」

 

賑やかなダイニングルーム。アイオワはすぐに利根や榛名達と馴染んでいるし、フレッチャーも駆逐艦と馴染んでいる。ジョンストンは曙とまたケンカしている。大丈夫だろうか…。

 

アトランタはこの雰囲気が気に入ったのだろうか。長良や由良と一緒にご飯を食べている。

 

「ここでは戦艦も駆逐艦もありません。ご飯を食べるときも、お風呂に入る時も、みな一緒です。優劣はありません。ある提督が、みんなは家族だ。そうおっしゃる鎮守府がありましてね。私もそうあってほしいと思っているのですが、彼のようにはいきませんね」

 

そう言って笑う提督。艦娘を見る目が優しい。

 

「Victory!Victory!それこそが米国の方式だ!」

 

勝利しか目になく、艦娘を大量に建造、投入。物量による作戦を用いて勝利を刻むが、練度が伸びず、艦娘は沈む。英国の少数精鋭とは合わない。ドイツやロシア、艦娘を保持する国とは違うやり方。サラトガとフレッチャーはその中で数少ない練度の高い艦娘である。アイオワやジョンストン、コロラドに至っては多少の戦闘は経験しているが、日本で昔の戦でやっていたと言うカミカゼのような戦い方をし、無茶をする。

 

だがサラトガも練度はそう高いわけではないし、フレッチャーも同じだ。物のように使役し、ボロ雑巾のようになるまで酷使する。使えなくなった艦娘は近代化改修か解体か。一宮提督はあるツテを使ってアメリカの艦娘の使い方の情報を知っていた。

 

「やはりそうでしたか。ええ、ご心配には及びませんよアルフレッド君。私の所に来たからには、そのような扱いは決して致しませんよ」

『そりゃ助かるよ!ジャパン屈指の大企業、イチノミヤコーポレーションのプレジデントの息子とありゃ、喜んで艦娘をそちらへ送るさ!』

 

「それは国防省にバレるとまずいのでは…」

『なに!俺のダッドはヒーローさ!それくらいお安い御用さ!ああ!Intrepidを今度送るよ!クウボ、少ないんだろう!?』

 

「ヒーローではなく元帥でしょう。あなたも大概ですね」

『使えるもんはなんでも使う!それが俺!それからNavyさ!』

 

「それは助かります。では、お父様にどうぞよろしくとお伝えください」

『OK!じゃあな!親愛なるベストフレンド!』

 

耳が痛い。彼はいつも声が大きいから困る。アルフレッド。留学のために渡米した先で出会った海軍の大将(現元帥)の息子であり、彼もまた、アメリカ海軍で艦娘と共に戦っている。彼は一宮提督の艦娘との戦い方を聞いた際にとても感銘を受け、ボロ雑巾のように使役する他の者と違い、艦娘を大事にしている。

 

彼とは深海棲艦が現れる前から連絡を取り合い、自分が提督になると言ったら「じゃあリョースケと同じく、Admiralに、俺はなる!」と言って父のコネを使わず、独学で提督となった。親の七光りなど一切気にせず、少ない艦娘を徹底的に大事にして少佐ながらも少しずつ戦果をあげているらしい。

 

「俺と俺のFleetがヒーローさ!」を合言葉に、時々電話をしつつ切磋琢磨している。アイオワやサラトガをこちらへ送ったのは初めて父のコネを使ってのことだと言う。かつて最強の国家と言われていたが、深海棲艦が現れてからはジリ貧で衰退している。だからこそ、アルフレッドは日本にアメリカの艦娘を送り、そこで強くなった艦娘を見れば、艦娘の育成のしかたが変わるのではないかと言う淡い期待を込めてのことだ。

 

日本では有数の大企業「一宮財閥」。金融、不動産、そして誰もが忌避して撤退した海運。安全な航路を徹底的に研究し、様々な物資を海で運ぶと言う行いから過去よりもさらにチカラをつけた一宮提督の祖父、父。

 

その親の七光りを嫌い、後継は弟に任せ、自分は提督となった。小さい頃から「あの一宮社長の息子、孫」などと言う言葉を聞きながら育ってきたわけだが、彼は一切気にしない。玉の輿を狙った欲まみれの女性にも、生来の洞察力、観察眼で全て避けた。大企業の坊っちゃまが提督など、と笑われたが、演習では好成績を残して提督となった。

 

父は「男は夢を持ってこそだ!海を守ると言うのはこのご時世なかなか言えんことだな!うちの会社など別にいつ潰れても構わんしな!涼介は漢の中の漢だ!私は猛烈に感動しているぞおおおおおお!!!」

 

母は「よく言ったわ!それでこそ私たちの息子よ!ああ、別に啓介のことを悪く言ってるわけじゃあないんだよ?あんたもうちを継ぐと言ってくれた立派な漢だよ!お父さん、あたし達の息子達はこんなに立派だよぉ!」

 

弟は「兄さんは何も気にせず提督として海を守ってほしい。会社は僕が継ぐよ。兄さんが会社の社長ってのも似合わない気がするしね」

 

家族は快く送り出してくれた。そうして右往左往しながら。時に艦娘に怒られながらも何とかやっている。

 

「五月雨さん、サラトガさんとフレッチャーさんを呼んでください」

「はい!」

 

五月雨。古井司令長官からなぜか彼女が初期艦だと紹介された艦娘。本来、吹雪や叢雲…漣など選ぶことができたのだが…。後になって彼女が刈谷提督の元初期艦であったと知る。確かに始めから要領はいいし書類の処理も早かった。時々何か寂しがっているのか泣いていることもあった。刈谷提督に手紙を送っていることも知っている。イタズラでちょっとかわいらしい写真を送ったりもしている。

 

「提督は、一宮提督は優しくてきっといい提督になるからそこに行きなさいって言ってました。本当に優しい提督で五月雨は毎日幸せですよ。えへへ」

 

ドジは多いが真面目で頑張っている。

 

「提督!サラトガさんたちを連れてきました!」

「ありがとう、五月雨さん。では五月雨さんもこちらへ」

 

「はーい!」

 

秘書艦の椅子に座り、真面目な顔をして話を聞く体勢になった。

 

「提督?サラとフレッチャーをお呼びで?」

 

「ええ。みなさんの今後についてですが…サラトガさんとフレッチャーさんがおそらく、アルフレッド君の艦娘で、何かを聞いてこちらへ来たのではないかと思いましてね。コロラドさん、ジョンストンさんはおそらく建造したてで、アルフレッド君が無理やり連れてきたのでしょう。イントレピッドさんも今度こちらへ来させると言っておりましたので」

 

「アルフレッド提督のことをご存知なのですね。ステイツも私たちのことは使い捨てのように使役します。アルフレッド提督は、あなたのことをいつも話しておられました。突然日本語を勉強しろと言われ、気がつけば日本へ…」

 

「私も同じです。提督は…リョースケのところへ行くんだ。そこで学ぶべきことがいっぱいあるはずだよとおっしゃられて…」

 

どこの提督も同じか。特にアメリカは敗北、と言う言葉を否定する。アルフレッドの情報では勝つためなら今手段を選ばなくなっているようだ。そして、アメリカの海域だけでなく、欧州にも手を伸ばしたため、手が回っていない。海外から艦娘を送るのは、明確にこちらの艦娘もよこしてやるから協力しろと言うことだ。

 

アメリカ艦娘はアルフレッドとその父の独断だろう。ただ、アメリカは日本へ艦娘を回したところで気にはあまりしないだろう。沈めたとあれば問題だが。日本はアメリカへの艦娘の協力を強くしているため、文句は言えまい。アルフレッド達に何かなければいいのだが…。

 

「ここでは…艦娘はぞんざいに扱う気はありません。それは、少し見て回ってみて感じて頂けたと思いますが」

「はい。皆さん、とても練度が高く、やる気に満ちていますね」

 

「サラトガさん達もここでは皆さんと同じく、我々の仲間です。アイオワさんやジョンストンさんやコロラドさんにもお伝えはしますが、まずは御二方に伝えておこうと思いまして」

 

「はい。提督、感謝いたします」

 

「それから、私は何があろうとあなた方の母国の言い分は聞きませんし、彼らのやり方には従わないことは伝えておきます。無駄な動きが多すぎて作戦に支障がでます。三条提督と言うイギリス艦を受け入れたやり方と同じです。従わないのならこちらとしても考えを改めさせて頂きます。なおその際の皆さんを返せと言われても従う気はありませんよ。こちらも、海路輸送を止めることも可能です」

 

サラトガは驚いた。フレッチャーも同様で、冷静ではあるが穏和な性格だと思ったが強かである。だが、国と国で動きがあるならば従えないのではないか…?

 

「一宮海運が動きを止めれば輸送は大打撃を被ります。一宮の名をこんな形で使いたくはありませんが、アルフレッド君のお父上、グッドスピード元帥には伝えてあります。何かあったら大統領は黙らせてやるわいと言われております。ご安心を」

 

何という手回しの早さか。しかし、この人はそれだけ艦娘を大切にしてくれると言う思いが伝わってきた。たしかに、こんな話はコロラドやジョンストンは理解できないだろう。人間に不信感を持っているのだから。

 

「コロラドさんとジョンストンさんもですが、お二方も磨けばまだまだ伸びます。どうぞ、よろしくお願いします」

「はい!提督!よろしくお願い致します!」

 

「ええ。サラもよろしくお願いします」

 

こうして正式にサラトガ達は大湊鎮守府の一員となった。

 

………

 

「このビッグセブンコロラドに地べたで寝ろって言うの!?信じられないわ!」

「オーウ!これがジャパーンのフトーンね!ミーはこれでいいわ!」

 

「ふーん。私もこれでいい。おやすみ」

「ベッドを用意しなさい!」

 

「うるさーーーーい!これがうちの寝るための布団よ!嫌ならはい!」

「なにこれ!?シュラフ!?ふざけないでくれる!?」

 

「うるさいのう。のう利根。このちんまい戦艦、うるさいけえテントでも出してやったらどうじゃ?」

「我輩はキャンプ気分で楽しいと思うのう!」

 

「い、嫌よ!」

 

「うるさいなぁ…」

 

アトランタはうるさいと思いつつもこの雰囲気を楽しんでいた。本国ではない賑やかさである。あの提督さんも好きではあったが。

 

「リョースケはもーっといいAdmiralだよ!俺のヒーローさ!きっとアトランタも馴染めるさ!」

 

彼とは先程個別面談をしたが、とてもいい話だった。

 

「あなたの防空能力をもっと活かせるよう、こちらも作戦をいろいろと考えます。あなたがきてくれたなら、秋月さん達もいい刺激になるでしょうし、あなたの能力はとても役立つでしょう」

 

期待されるのは嫌いじゃない。表情は表に出さないが、あの提督さんの期待になら応えてあげる。そう思うアトランタであった。

 

後に一宮提督のアメリカからきた艦娘は、予想通り「返せ」との脅しが来るほどの有能かつ高練度に育ったが、一宮財閥の名を使い、かつグッドスピード元帥の一喝により、黙らせてしまったとか。

 

「防空巡、アトランタ…出撃するから…」

「遠慮はいりません、演習とは言え実戦と変わらず全部撃ち落としてください。サラトガさん、空は任せました。コロラドさん、思い切りいきましょう」

 

これは遠くない近い未来の話。静かに親指を立てるアトランタ。お任せくださいと笑うサラトガ。見せてやるわ!と意気込むコロラド。そして…

 

「それじゃあ始めますよ!五月雨もいっきまーす!」

 

五月雨の合図で散開する一宮艦隊。五月雨がリーダーはいつものこと。新生一宮艦隊は今日も活気あふれている。




一宮艦隊にアメリカ艦娘がやってきました。書ききれない感マックスですが、また改めて活躍を書いていきたいと思います。

さて、次は横須賀に戻ります。横須賀にも海外から艦娘が。紅茶の国からやってくる艦娘。乞うご期待ください。

それでは、また。
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