提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百六十話

横須賀に来客と艦娘が来ると言っていたのを聞いていた横須賀の艦娘達だったが、まさかのとてつもない美人と、人形のようにかわいい艦娘と美男子の提督が来るとは思っていなかった。

 

「Excuse me?Where is your Admiral?」

 

長く美しい金色の髪をし、小さな王冠のようなものを頭に乗せた女性、おそらく艦娘だろう人に何かを話しかけられた鈴谷であったが…。

 

「え、あ、え?あー、あ、あど、ら?」

「Hey Warspite. She doesn't understand english!」

 

小さな髪の長い人形のような女の子が彼女に何かを言っている。彼女達が何を言っているかなんて1mmも理解できない。

 

「み、みくまー!」

「ええと…くまりんこに聞かれてもさっぱりですわ…」

 

「んー、困ったね。ボクもさっぱりだよ。熊野は?」

「わたくしがわかると思いまして?」

 

「鼻息荒くして自慢することじゃないと思うんだけどさ…えー、どうしよう…」

「失礼、うちのレディ達が。君たちの提督はどこにいるか教えてもらっていいかな?」

 

困りに困っていた鈴谷達に助け船を出したのは、これまた金色の髪に青い瞳が美しい、鈴谷が思うに提督よりかっこいいと思う男の人。

 

「ふぇええ!?え、あ、あーっと…し、執務室にいます!」

「Office…OK,Let’s go.お嬢さんら、オオキニ」

 

「は、はい!」

「ほわぁ、男の人だけど…ってか勝手に入ってきて大丈夫なのかな?」

 

「後ろの女性は艦娘でしょうか?と言うことは…提督?」

「それと艦娘…なのかなぁ…か、かっこよかった…」

 

「惚れたの?」

「ち、ちがわい!」

 

「あー、鈴谷はおじさん好きだもんね。マスターみたいな。あれ?でもマスターって鳳翔さんと好き同士じゃなかったっけ?」

 

「マ、マジ!?」

「素敵なおじさまだとは思いますけど、わたくしは提督の方がいいと思いましてよ?」

 

「くまりんこ!三隈も提督の方が殿方としてはいいと思います!」

「提督はモテモテだなぁ」

 

「そういう最上も提督にかっこいいセリフ言われてきゃーきゃー言ってたし!」

「え、え…ボ、ボク知らない!」

 

なぜか好きな殿方暴露大会を始める最上達であった。

 

………

 

「提督、妖精さんからの報告ですが、到着されたようです」

「ん、了解。ありがとな」

 

「おやすいごようです。ごほうこくだけでおほしさまをくれるとは…かんしゃのきわみ」

 

「イギリス…と言う国の艦娘ですか。何だか緊張しますね」

 

「世界でも有数の艦娘が顕現した国の一つだ。昔、一緒に軍学校にいたやつでな。親の都合で卒業まで日本にいたことがあるイギリス人の紹介でな。よく演習でやり合ったもんだよ。学校じゃ唯一ってくらいの友達だったな。イギリスに帰って、提督になってお互い頑張ろうなって誓い合った仲さ」

 

「司令官さんのご友人でしたら、艦娘の扱いは…」

「いいと思うぜ。演習時代もお疲れさんとか、一緒にハイタッチしてたし」

 

「ですが、なぜイギリスの艦娘が日本に…?」

「さあ、それはあいつから聞かないといけないな」

 

そう言う話をしているとガチャンとドアが勢いよく開いた。現れたのは日本では見たこともない、おそらく人間の女性なら虜になるんじゃないだろうか…?大淀も鳥海もそう思った。

 

「レイジ、いてはりまっか?」

 

その言葉で大淀も鳥海も椅子から転げ落ちたわけだが。

 

「いるよ、久しぶりだな」

「おー!レイジ!ひっさしぶりやな!元気しとったか!」

 

「お前の喋り方も相変わらずだな、アーサー」

「日本語はこうやないと喋れんのや!すまんな!」

 

イギリスから来たと言う美男子が、龍驤のような喋り方をしているとあまりにも現実からかけ離れたような事態に大淀はメガネが盛大にずれていても気にならないほどであった。

 

「おー!アーサーやんけー!」

「リュージョー!おじゃましとるで!」

 

「邪魔するんやったら帰ってや」

「何でやねん!」

 

漫才まで…霧島もメガネがずれて呆れたような顔をしていた。イギリス…イギリスと言う国は龍驤さんのような人がいっぱいいる国なのだろうか…わからない。

 

………

 

「私はWarspite…えっと…Japanで言うせん、せん…」

「ウォースパイト。戦艦や。うちんとこのエースや」

 

「Nice to meet you。皆さん、お世話になります。よろしくお願いいたします」

「んで、こっちがアークロイヤル。空母や」

 

「空母はうちは少ないから助かるな。アークロイヤル、よろしく頼む」

「あなたがAdmiralか。私はアークで構わない。ふむ…いい葉を使っているな…」

 

「ネルソン、ビッグセブンや。長門や陸奥なんかと一緒や」

「余がネルソンだ。Admiralから話は聞いている。実に興味深いな。見せてもらおう、貴様の采配をな」

 

(武蔵とケンカが絶えなさそうな気がしてならない…)

 

まあその辺はうまく調整せねばならないだろう…。しかし、長門や陸奥…いや、陸奥姉ちゃんとはまるで違うからアレだが、世界に名を馳せたビッグセブンの1人が仲間に加わるとは。しかし、戦艦は恐ろしいほど充実しているな。アークが加わったのはありがたい。翔鶴、瑞鶴、祥鳳…龍驤は別格として、「普通の」空母が着任してくれたのはありがたい。

 

「Lucky Jervisよ!私が来たからにはゼーッタイ大丈夫よ!」

「ジャービスは、むっちゃラッキー艦や!ええことがいっぱい起きると思うで」

 

果たして建造を任せたら伝説の艦娘、大和と武蔵を建造したうちの時雨と雪風に勝てるのだろうか?あと商店街の福引で一発特賞、特選タラバカニと国産黒毛和牛セットを当ててしまった瑞鶴。幸運艦が多いのに、さらに幸運艦が増えると、本当に何が起きるかわからないな。おもしろそう。そう思う玲司であった。

 

「Hi!Jervisの僚艦、姉妹艦のJanusよ!私のこともしっかり覚えておいてよね!」

「ジェーナスや。ナスって言うたら怒るねん」

 

「提督!またそうやって馬鹿にして!」

「いや、そりゃ当たり前だろ」

 

ナスは嫌いなのです!と電が言う時があるから気をつけないと…しかし、訳ありでない艦娘が一気に5人も増えるのは喜ばしい。それもイギリスからとは。

 

「ってわけで、よろしゅうたのんますわ、レイジ」

「アーサー、下手にイギリスの艦娘をここへ送って大丈夫なのか?下手すりゃあ日本とイギリスの国家間問題だぜ?」

 

アーサー・ウィリアムズ。歳は玲司と同い年。10年以上大阪に仕事で住んでいたためとは言え、それ以上のコテコテの関西弁を喋る両親もイギリス人の提督。気前がよく、艦娘にも優しい男であり、英国で任されている艦隊では艦娘にも慕われている。玲司の質問にアーサーは暗い顔をする。

 

「ヨーロッパはもうあかん」

「どう言うことだ?」

 

「倒しても倒しても、より強い深海棲艦がでよる。この間はアンツィオ姫っちゅう装甲のごっつい硬いのが出てきてな。ネルソンが何とか沈めたんや。そしたら…またとんでもないのが出てきよってな」

 

そう言って白黒の写真を出してきた。画像は悪いがその姿を見た龍驤は目の色を変えた。

 

「こいつ。こいつ…お前んとこの海に顔見せよったんか…?」

「せや。わいらの艦隊はやばい思うて引いた。他のFleetと国はこぞってしばきにいった。結果は…」

 

「全滅か」

「ちゃう…辛うじて全員生き残った。つまらん言うて…壊滅寸前にまで持ち込んで…フランス語喋る深海棲艦ブチ殺して消えていきよった。レイジ、リュージョー。知っとるんか、これ?」

 

「知っとるも何も、日本かてこいつを探しとるんや。こいつは何もかもがええ加減な深海棲艦。戦艦レ級。大和を大破させるほどの砲撃を持ち、並の空母以上の艦載機を放ち、駆逐艦以上の威力を持った魚雷を撃ち、潜水艦ですら沈める対潜能力も持っとる」

 

「何でもありかい…はっ、こんなん相手にワイらは…勝てっちゅうんかい」

「勝つしかない。こいつを生かしておけば、アーサーの国も、アメリカも、全ての艦娘を破壊してめちゃくちゃにするぞ」

 

「せやかてどうないせえっちゅうねん!アークもネルソンもこいつのせいで殺されるか思たんやで!?うちのドックで丸3日修復!完全回復まで3ヶ月かかるほどの重傷や!勝てるかい!あんなフリークス!」

 

「勝つんだよ。勝つしかない」

「あれのせいでイギリスはもう戦意を喪失しとる。ドイツもイタリアも…欧州の海を捨てるっちゅうとるんや」

 

原初の艦娘でさえ手に負えなかった。鳳翔が弓を持てなくなった。追い払うことしかできない深海棲艦。日本の強力な艦娘でさえこうであったヤツを、欧州の艦娘では押さえ込むことすらできなかったか…。

 

「アーサー、お前らが諦めたら艦娘はどうする。今俺はここでウォースパイトやネルソン、アークの目を見てるけど…希望は捨ててないぞ」

 

「What!?」

「あの時は勝てなんだ。だが、次は負けるとは思わん。アーサーよ、ヤツを倒すために、余やレディをわざわざジャパンの、その中でも強いと聞く、このAdmiralの下へ来させたのではないのか」

 

「Admiralはアレを退けたと聞きます」

 

「いや、あの時は俺の艦隊でも手も足も出なかった。だが、うちも立ち止まって手をこまねいているわけじゃない。うちの艦娘は、レ級を倒すことを諦めない。誰一人沈めることなく、奴に勝つ」

 

鋭い玲司の目。僅かに青みがかった、アーサー提督とは違う青い…蒼い眼。その美しい目にまずウォースパイトは惹かれた。優しい海のような眼。その中に宿る確かな信念。アークロイヤルもその眼に引き込まれていた。

 

「JapanのAdmiralよ。貴様はあのRed Devilに勝つと言うのか?」

 

「勝つ。勝たなくてはならない。あんな奴相手に手こずっていたら、この先、レイテや欧州の新たな深海棲艦に勝つ見込みはない。そのために…うちには限界を超えた艦娘がいるし…」

 

「ヤマトにムサシ。それに、Queenと呼ばれる艦娘…か。レイジ、あんさんはやっぱごっつい提督や」

 

まだまだ横須賀は1年も経っていない艦隊の集まりだ。それぞれが心に問題を抱えている、いた、そんな「艦娘の最終処分場」とまで言って笑われていた鎮守府。捨てた艦娘を拾ってちょぼちょぼ育てている笑える四大鎮守府。そんなレッテル貼りはもう終わりだ。

 

大和に武蔵。「牙の女王」朝潮。原初の艦娘の龍驤、川内、島風。それだけじゃない、雪風や五十鈴、摩耶、吹雪…翔鶴に瑞鶴。うちの鎮守府はもう笑われる鎮守府じゃない。日本の提督全てが注目をしている鎮守府。

 

「この鎮守府はな。みんなで最強を目指す。誰一人沈めることなく。どんな深海棲艦もぶっ潰す。困難な海域も深海棲艦も、みんなとならやってのける。そんな鎮守府に。艦隊にする。そのためにはウォースパイトやアーク、ネルソン。ジャービス、ジェーナス。みんなのチカラも貸して欲しい。どうか、よろしく頼む」

 

立ち上がり、深く深く頭を下げる。周りの艦娘も「よろしくお願いします」と深々と頭を下げる。言うのは容易い。成し遂げるには相当な覚悟と練度、団結力がいる。提督と彼女たちはその覚悟を共にしている。

 

「レイジが言うとることはワイもやり遂げたかったことや。のおネルソン。一発ワイを殴ってくれや」

「良い覚悟だ!行くぞ!」

 

ドゴォ!と言う鈍い音が執務室に響いた。

 

……

 

「あんなぁ、ワイはたしかに殴れ言うたわ。せやけどな、いくら艤装を外しとるっちゅーたかてお前のクソバカチカラでな!殴られたらワイ、アゴの関節がグッバイするか思うたわ!!!!」

 

氷嚢で右頬を冷やすアーサー提督。歯や骨が砕けたりしていないのは幸いだった。それくらいネルソンは容赦なくアーサー提督をぶん殴った。大淀が慌てて氷嚢に氷水を入れ、必死に冷やしている。

 

「あー、まあ…レイジの覚悟は受け取った。やっぱり、あんさんにこの子らを安心して任せられる」

 

「ま、こちらで何とかやってみるさ。特にレ級はな」

「頼んだで。ワイらの分まできっちりぶちかましてくれや!」

 

「オッケー。で、アーサーはこれからどうするんだ?」

「ワイは本国帰って海軍の立て直しや。アメ公がしゃしゃり出てきよるらしいから、ラードこってりのフィッシュ&チップス食わして黙らせたるわ!デザートはスターゲイジーパイやな!カカカカ!!」

 

ウォースパイトがそれを聞いて身震いしていた。アーサー提督は日本の味を知っているため、それを鎮守府で食べていた彼女たちは、いざ街に出て同じフィッシュ&チップスを食べたら、鎮守府に帰って2日ほど寝込んだと言うほどであった。

アーサー提督はわざと食べさせる気だ。恐ろしい…。

 

「おー、せや、帰る前になんかうまいもん食うて帰りたいなー」

「しょうがねえなぁ。今日は泊まってけ。俺が作るから」

 

「Really!?Yeah!!レイジのうまい飯やー!」

 

アーサー提督が手を伸ばして大喜びするほどである。この提督の料理はいかほどか?お手並み拝見といこう。ウォースパイトとアークはそう思った。

 

………

 

食材が足りねえ、とアーサー、ウォースパイト、ジャービス、ジェーナス、アーク、ネルソン、そしていつの間にかついてきていた霰と共に商店街へやってきた。夕飯はいつものように、新艦娘が増えたルールとしてオムライスである。それだけでは味気がないか、と言うことでせっかくアーサーが来ていることだし、何か追加しよう。そう言うことで買い物に来た。

 

ところが玲司達が降りてきた瞬間から大騒ぎだ。当たり前であるが、まず美しい金色の生糸が光を反射して輝かせているかのようにたなびく金髪。佇まいがなんというか上品を通り越してどこかの貴族のよう。その背後にはその姫を守るかのような騎士のようにキリッとした女性。

 

さらにさらに勇しくもあるがどこか気品がある金髪の女性。その後ろには人形のような金髪碧眼の少女が2人。そりゃ騒ぎにならないわけがない。八百屋、肉屋、魚屋からうおおおおおおお!!!と言う声が聞こえた。ああ、いつものことか。

 

それから背が高く、整った王子のような男性が降りてきて、主婦の方々からきゃああああ!!!と黄色い歓声が上がった。

 

「あーれまあ、玲ちゃんじゃないかい。またすごい子を連れてきたもんだねぇ!」

「映画の撮影か何かかい?いやぁ…これだけ美人な子がねぇ…扶桑ちゃんや大和ちゃんとも違う綺麗さだね!」

 

「あ、えっと…Nice to…はじめまして、英国…イギリスの艦娘、ウォースパイトと申します」

「アークロイヤルと申します。以後、よしなに…」

 

「まるでお嬢様と騎士だね。あらー!霰ちゃん!久しぶりだねぇ!」

「竹おばさん。こんにちは。お久しぶり…です」

 

「うんうん!挨拶も相変わらずちゃんとできてえらいね!」

「ご挨拶は…大事」

 

英国では艦娘と見ると随分と下に見られたり、戦争の犬だのと随分ひどい暴言をあちこちで吐かれたものだが…この女性は霰と言う艦娘の頭をなで、霰は女性に撫でられて嬉しそう…な顔に見えないが、提督曰く、あれでも喜んでるんだよ、と言う。

 

「主人、このコロッケとは何だ?良い香りがするな。このネルソンに1ついただけないか?」

「ハイヨロコンデー!!」

 

「Hey!ジャービスにもくーださい!」

「ジェーナスにももらえるかしら!」

 

「ハイヨロコンデー!」

「ちっきしょう、茂め…コロッケって言うお近づきになりやすいもんで釣りやがって…おい徳!なんか言って…」

 

「こっちのグレープもおいしいですよ!」

「あ、ああ。本当にいいのか?Thanks…いただいておこう」

 

「ああ、てめえ!裏切り者!」

「Excuse me?What’s this the fish?」

 

「え、ああ、ええ?あー、でぃ、でぃすいず、あー、マグロ!さしみ、いずうめえ!」

「サシーミ?本で読んだことがあるわ。Japanでは生の魚を食べる習慣があるって。スシ?」

 

「お、おう!寿司なら今握れますぜ!ちょっと待ってな!おう、酢飯あまって…ラッキー!これをな?こうして…」

「Amazing…きれいにカットできるのね…」

 

「これくらいお手のもんよ!この道18から始めて30年だかんな!」

「Wow…素敵ですね…」

 

「こうしてほい!マグロの握り寿司一丁!わさびは軽めだ、食べてみな!」

「こ、これがJapanese スシ…」

 

「ジェーナス知ってるわ!トロって言うんでしょ?魚の寄せ集めのジャンクフードで、シャリはライスじゃなくてパスタとか!」

「ジェーナス。どこでそんなのを知ったんだ?」

 

「日本の◯って言うのをみたの「それ以上いけない」

 

寿司のことを細かくジェーナスに説明する。騙されたわ!となぜか憤慨していたが…。

 

「んん!?おいしいわ!これが…これがスシ…」

「おいしいわ!ねえ!もっと食べたい!」

 

「ジャービスにもほしいよー!」

 

寿司は人気のようだ。一方でネルソンは…。

 

「Brilliant!!なんだこれは!?ううむ、ラム酒が欲しくなるな!」

 

コロッケをいたく気に入ったようだ。以降、ネルソンはことあるごとに余はコロッケを希望するぞ!とうるさくなった。ジェーナスは寿司、寿司とうるさい。

 

ラム酒はないが紅茶なら、と言うとアーサーまで目を輝かせて反応した。

 

「紅茶は紳士の嗜みやで」とはアーサー談。

 

………

/喫茶「ルーチェ」

 

「ほう、英国の艦娘ですか。なるほど。紅茶にはたしかに厳選に厳選を重ねて茶葉をブレンドしておりますが…はてさて、お口にあうかどうか」

 

「……良い香りがしますね」

 

ウォースパイトが優雅に足を組んで紅茶がくるのを待つ。その姿でさえ優雅であり、来ていたご婦人でさえ息を呑む。

 

「どうぞ。良いディンブラの葉が手に入りましたので」

「………」

 

ふぅ…と息を吸い、吐く。その香りにウォースパイトの顔が綻ぶ。そのまま静かにカップに口をつける。ほう…と一息吐く。

 

「That will be great…本当に美味しい…素晴らしい香りだわ…素敵ね」

「感謝の極み」

 

「ああ…心が安らぐ」

「ジャパーンもおいしいTeaがあるのね!」

 

「ええ。素敵なお時間をここで過ごしていただくため、妥協は致しません。茶葉は今日はディンブラでしたが、ルフナや時にはブレンドも試しております。お時間がございましたらぜひ」

 

「素敵ね。本国の紳士のようですわ」

「ええなぁ、こんなお店があるん…」

 

「残念ね〜提督。ジェーナスが提督の代わりにいっぱい堪能しておくわ」

「クソー!ワイも玲司のお手伝いでええから日本におりたい!」

 

「ああ、紅茶のことでしたら鎮守府でなら摩耶さんに淹れてもらうと良いでしょう。彼女の紅茶の目利きと淹れ方は一級品ですよ」

「あ〜、マスターにめっちゃ教わってたもんなぁ」

 

「満足いくまで帰らない、と玲司君を困らせておりましたものね」

 

ほっほ、とマスターは笑った。帰る際も、またどうぞ、と流暢な英語で挨拶をするマスター。英国の紳士だわ!とジェーナスが目を輝かせていた。

 

さて、たくさんの具材を買い込み、竹美や梅にすっかりかわいがられたジャービスとジェーナス。今夜はスシかしら、と目を輝かせるウォースパイト。ああ、そうだな。と賛同するアークロイヤル。コロッケを作れ!とうるさいネルソン。それぞれ騒がしい。

 

で、結局夕飯で出てきたのは…。

 

「やったぜー!今日はオムライスだー!」

「オムライスです!オムライス!」

 

「ハラショー、チカラが湧いてくるね」

「オム…ライス?Looks delicious!」

 

ジャービスとジェーナスはオムライスに目を輝かせている。ネルソンは間宮が揚げたコロッケが気になる様子だ。ウォースパイトは寿司でないことが残念なのか、ちょっと残念そう。アークロイヤルは食自体に興味がなさげだ。

 

「さあ、食べるよー!」

「ちょーっと待ったー!!」

 

「先に食べたらぁ、ダメなんだよぉ」

「Why?なんでー?」

 

「なんでよー!早くしないと冷めちゃうじゃない!」

「みんなでたべるときは、いただきますっていうんだよ。じゃないとおぎょうぎがわるいんだよ!」

 

「はーい。みんな席について!」

 

間宮が手をパンパンと叩き、着席を促す。ジャービスとジェーナスは渋々と座る。

 

「Hey、あなたは艦娘?」

「かすみはかすみだよ」

 

「それじゃわかんないじゃない」

「だってかすみだもん」

 

「はいはい…」

 

(なんやこの子…デストロイヤーのカスミちゃうんか?レイジがやったんやないやろうけど…どこのやつらも艦娘やからってメチャクチャしよるな…Shit!)

 

「よし、席についたなー。みんな挨拶は済んだと思うけど、今日から仲間が増えた。国は違うけど、共に戦う仲間だ。みんな、仲良くな」

 

はーい!と元気よく言う駆逐艦達。ぱちぱちぱちと拍手をする巡洋艦や扶桑達。

 

「ジャパンで最強と言うバトルシップ。今度手合わせ願いたいものだ」

「ふっ、いいだろう。ビッグセブンとか言う戦艦のチカラ、見せてもらおうじゃないか」

 

「ウォースパイトやジャービス達も続いてくれな。これが俺らの食事の前にやることだ。手を合わせて!いただきます!」

 

いただきます!(なのです)(っぽい)と続いてみんな夢中で食べ出す。特に霧島のがっつきはオムライスとなると違う。

 

「霧島さん、もうちょっと落ち着いて食べましょうよ…」

「はむ!はふっ!そうは言っても!手が勝手に!」

 

「うむ!うまいな!」

「ああ。ここの飯は全てうまいぞ」

 

「まあ、これは…」

「んー!おいしーい!」

 

「これならジェーナスも満足よ!」

「ね、おいしいよね!」

 

「ジャービスちゃん、こぼすと服が大変だよ?」

「……うん」

 

「アークロイヤルさん、おいしい?」

「ああ…英国ではない味だ。Very tasty」

 

硬かったアークロイヤルの表情が緩んだ。少しずつでいい。この雰囲気に慣れてくれれば。上品な手つきで食べるウォースパイトとアークロイヤル。武蔵と一緒にコロッケにかぶりつくネルソン。皐月や霞たちとパクパク食べるジャービスとジェーナス。

 

「ええとこやな…」

「ん?」

 

「みんなが笑とる。ワイもこんな風にしたかったんや。せやけど上層部がアホすぎて、この子らをこんな風にしてやれんかった。飯はまずいし自由はあらへん。まあ、今回の大敗で上層部は全部クビ吹っ飛ばされよった。アメ公が介入して余計に肩身の狭い思いさせられるくらいやったら、絶対…絶対艦娘をハッピーにしてくれるレイジのもとへ、せめてこの子…ワイが育てた艦娘だけでも…と思うてな」

 

どの海軍も上層部が艦娘に理解がない。日本は古井司令長官。おやっさんが艦娘に優しいからマシであるが。アメリカ、ドイツ、イギリスはなかなかにひどいようだ。イタリアは提督ととある重巡が朝から晩までワイン片手に騒ぐようなのが多いと聞く。ロシアは艦娘のが立場が上らしい。

 

アーサーは何とかして、レイジと語り合っていた艦娘が笑って過ごせる鎮守府をやっていく。そんな提督になろう。国が許さなかった。下っ端のアーサーは抵抗できなかった。監視は激しいし意見などすればボコボコに暴力を食らった。結局、アーサーの艦隊。この5人だけが大敗せず、アンツィオ姫を退けた。

 

「亡国の危機を救う英国の騎士!」と銘打って大々的にこの時だけは英雄視された。しかし、海軍はこの5人を酷使しようとする魂胆が見え見えだった。だからそうなる前に、日本へ逃す方法を思いついた。日本にはすごい提督がいる。そこに彼女たちを預け、もっと強化を図って来る深海棲艦に備えよう。上層部はそれで英国が強化され、英国が栄華を取り戻すならと快諾した。書類もろくすっぽ見ていなかった。アーサーの艦娘を日本の三条玲司少将に譲渡する、と書いてあることを一文字も読まず、判を押し、サインした。

 

今頃騒ぎになっているだろう。知ったこっちゃない。こっちにだって意地がある。手塩にかけたこの子たちをボロ雑巾のようにされるのは我慢ならない。意地も張れない栄華など願い下げだ。ワイはワイのやり方でやる。腐っても自分はアンツィオ姫を退けたことで少将になった。多少の発言権はある。

 

「レイジ。あの子らを頼むわ。ワイはまた、ワイのやり方でやるさかい」

「……引き受けたよ」

 

「レイジなら安心や…アークは最後までワイについていくと言うて聞かんかった。まあ、ワイが何とか説き伏せたで、しばらくはツンケンしよるやろうけど、すぐに忠誠を誓うわ。ウォースパイトもな」

 

「お前の国にも、ウォースパイト達の名が轟くようにしてやるさ」

「頼んだ…頼んだで…!My soul mate!」

 

涙を浮かべながらオムライスをガツガツ食べるアーサー。うっま!やっぱうっま!と最後には笑っていた。

 

「レイジ提督のもおいしいけど、ジャービスはアーサー提督のディナーも好きよ。おいしいもん!」

 

そう言われるとアーサーは寂しそうな顔をした。そう言ってくれるのは嬉しい。

 

「ジャービスはジャパーンにいることになったけど、心はずっと一緒よ!」

 

離れていてもずっとお世話になった提督だから。ずっと楽しく面倒を見てくれた人だから。貴方だけは信用しているから。悪意を持った人からもずっと守ってくれたから。にっこりジャービスは笑ってアーサーの手を取った。

 

アーサーがジャービスを抱きしめて肩を震わせた。

 

「すまんなぁ…すまんなぁ…!ワイかて…ワイかてなぁ…!お前らと一緒にもっと戦いたかった!一緒に飯も食いたかった!笑ってたかった!」

 

無念。このままでは自分が手塩にかけて面倒を見たこの子達まで沈めることになってしまう。ネルソンが守り抜いたこの子達。今度はそうはいかないかもしれない。ネルソンがやられていたかもしれない。全てが噛み合って追い返して何とかみんな生きた。一目散に逃げろと言った。ネルソンは退こうとしなかったが怒鳴り散らして無理やり撤退させた。

 

撤退させていなければレ級とやらにやられていただろう。なぜアレと交戦しなかった。おかげで英国海軍は壊滅だ。彼らは日本語がわからない。

 

「じゃかあしいんじゃボケェ!壊滅とか知ったこっちゃあるか!おどれらの無能でうちの艦娘失うてたまるか!!ワレ寝言も大概にせえよこのクソボケ!」

 

ありったけの罵声を関西弁で浴びせた。大激怒したことだけは伝わったのか、退いた。英国海軍の艦娘艦隊は壊滅した。立て直そうにもこの5人とあとわずかな艦娘ではとてもではないが他国とも手を取り合えない。イタリアもそう余裕があるわけでもない。アメリカでさえジリ貧である。

 

日本の艦隊がレ級を退けたと聞いた。情報を仕入れたらそれは親友の艦隊であったと言う。ならばもうこの子たちを親友に託すしかない。あのアホタレ共に引き渡すわけがない。日本を見下していた英国海軍であったが、レ級を退けたと聞くや黙った。だからこそ、おどれらみたいな能無し鼻タレになんか誰がやるかい。

 

「Admiral…」

「お前らはもうここのfleetや…達者でな。ワイは…」

 

「アーサー、離れていてもこの子達はお前を思っているよ。ただ、彼女たちは責任を持って、いつか、お前が偉くなって、英国も大きく海軍が戻ってきたなら、ちゃんとお返しするよ」

 

「レイジ…!頼んだで!この子らはほんまええ子らや!頼む!頼むわ!」

「ああ」

 

そう言って固く。固く玲司の手を握った。これは約束ではない。漢と漢の誓いだ。誓いは必ず果たす。

 

アーサーはもっと偉くなって海軍を立て直し、彼女らを迎えに来る。

玲司は死んでも彼女らを沈めず、アーサーのために彼女らを預かる。

 

必ず迎えに来る。必ず返す。それだけだ。艦娘はウォースパイト達も含め、眠りについた夜遅くまで、玲司とアーサーは将来を語り合った。俺もお前も偉くなろう。艦娘が笑って過ごせるように。国が違えど、信念は1つ。

 

「ほなな!ネルソンら、頼んだで!」

「また会おう、Admiral!」

 

「See you.Admiral.Take care.」

「英国の艦娘の名に恥じぬよう、心がけるさ」

 

「Darling!See you!」

「ま、待っててあげるんだから、しっかりしなさいよね!」

 

「おおきに!またな!」

 

アーサーは安全な航路を使った空路で帰っていく。己と親友との誓いを果たすため。己の信念を貫くため。別れの時は笑顔で。

 

「しっかしまあ、うちに負けんくらいのこってこての言葉やったなぁ。相変わらずやったわ」

「たこ焼き食いそびれたって昨夜嘆いてたよ」

 

「あー、今度来たらうちが作ったるわいな」

「おっ!おーいみんな!龍驤姉ちゃんがたこ焼き作ってくれるってよ!」

 

「おい今作るって言うてへんやんか!!」

「わぁ、龍驤さんのたこ焼きっておいしいんですよ!」

 

「鹿島ぁ!だまらっしゃい!」

「わー!食べる食べる!」

 

「僕も食べてみたいな…」

「へー、おいしそうね、翔鶴姉!」

 

「ええ。気になるわ」

「ふふふ、よろしくお願いしますね、龍驤さん」

 

「ああああああ!!わーったわ!あ、せや!たこ焼き機がないわー!残念やわー!ないんやったら作れんわー!」

「あ、それでしたらこの間お取り寄せしておきました。作ってみようと思って買ったのですが、よくわからなくて…」

 

「う、うそやん…」

「よーし、たこ焼きパーティだ!ウォースパイト達も混ざろうぜ!姉ちゃんのたこパだたこパ!」

 

「ああああああああ!!!!めんどくさいいいいいい!!!」

「はーい、龍驤さんよろしくー。やったー」

 

「北上!手伝え!」

「あー、あたし食べる専門で作るのからっきしだから」

 

「ちくしょおおおおおおお!!!」

 

龍驤の叫びも虚しく、中庭でたこ焼きパーティとなった。龍驤がひたすらに作り、ウォースパイトやジェーナス達もいたく気に入り、事あるごとに食べたいと言っては「じゃかあしい!」と言う龍驤をよく見るようになったとか。

 

英国艦隊。彼女たちは横須賀の雰囲気をとても気に入ったようだ。




横須賀にも海外艦、英国艦隊が着任しました。ネルソンタッチなんかをどうかっこよく書こうか、これから楽しみです。

次回はビッグセブンvs最強の演習や、はちゃめちゃな横須賀鎮守府の楽しい設備を楽しむ英国艦やらをおたのしみいただければと思います。

それから、とある軽巡に何やら異変が…そんなお話になると思います。

それでは、また。
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