提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百六十二話

「先ほどうちの管轄の小さな島から微弱な救難信号をキャッチした。場所はここだ」

 

大淀が海域を示す。さらに拡大してみるが、本当に小さすぎてわからない。

 

「小笠原諸島のこの小さな島だ。小笠原諸島は現在人はどの島も住んでいない」

 

当たり前だろう。海路が寸断されたこのご時世に住んだところで本当に絶海の孤島であり、生活はできないだろう。あるいは本当にそこが好きで朽ち果てるまでそこに住まう人がいるのかもしれないが。

 

「旗艦は扶桑。最上は索敵及び救難信号発進地の調査を。お前はそういうところ、うちの利根姉さんのようにものすごく目がいい」

 

「瑞鶴や翔鶴さんたちを使って数で探した方がいいんじゃないの?」

「それよりも最上の目の方がこういう時はいいのさ。扶桑は万が一の際の敵の排除役。五十鈴はもちろん、潜水艦対策」

 

「ふふん、五十鈴にお任せよ。で、五十鈴たち3人で行けって言うの?」

 

「まさか。扶桑、最上、五十鈴。それぞれがこの子はって言う子を1人ずつ選抜して艦隊に加えてほしい。ただし、戦艦、空母は不可だ。万が一の場合に第二艦隊に霧島を旗艦に祥鳳と翔鶴などを組んだ機動部隊を近くに配備するから」

 

「へー、了解だよ」

「かしこまりました。では、失礼いたします」

 

「うーん…そうねぇ…」

 

「あー、ちょっと待った!」

 

3人を制止する。考え事を止めさせられてやや不機嫌になる五十鈴。

 

「何よ。まだ何かあるの?」

「そうだよ。今回の作戦は現地について、もし交戦せず、保護する対象が深海棲艦だった場合、通信で一切こっちに名を出さないでほしい。対象を保護、もしくは死亡などと『対象』と言ってほしい」

 

「提督、その救難信号はもしかして紫亜さんのお友達の可能性が?」

「さすが扶桑…そう。紫亜が無線で確認した」

 

「バカね。そんなことをして他の泊地なんかに聞かれてたらどうするのよ?」

「すまん…紫亜の友人じゃないかと聞いてそう言うの…吹っ飛んでた…」

 

このバカ!と五十鈴に怒られる玲司。もちろん大淀も同じだ。冷静になって紫亜との交信を止めるべきであった。深海棲艦を海軍、それも横須賀鎮守府が匿っているとなると余計に炎上する。横須賀鎮守府はただでさえ、監視の目が厳しいのだ。

 

「まあ、皐月達が言う隠れ家に匿えばいいだけのことだろうけど、このことを聞かれていたら厄介よ。大淀や鳥海がいながらなんてザマかしら?」

 

「返す言葉もありません…」

「うう…すみません」

 

「それはもっともなんだけどさー。紫亜さんのお友達かもしれないならなおさら早くボクは動きたいんだけど。五十鈴、提督達への説教は今はそれくらいにして、ボクたち出るよ。ボクは古鷹に動いてもらおうかな。古鷹もボクと同じで目がいいし、もし夜になっても、夜目がすごいからね」

 

「私は時雨かしらね…あの子の注意力はしっかりしているから」

 

「五十鈴は霰ね。対潜もできるし、しっかり五十鈴たちに指示をくれることもあるから」

 

「わかった。ではその6名で出撃を許可する。なるべく交戦は避けてくれ。救助を最優先に」

「了解したよー」

 

そうして今度こそ退室していった。そうだった。紫亜を普通に無線に出してしまったが紫亜の存在が見つかるのはまずいのだ。今になって反省した。

 

「いえ、まあ。混線したとすっとぼければいいんでしょうけどね」

「それで本当に大丈夫なのかよ…」

 

「なぁに、それで万事解決ですよ、司令!!」

 

適当な霧島。しかし、深海棲艦の無線が横須賀の無線に入ったとなると、防衛ラインを超えられてしまったのではないか、と言う新たな懸念事項が浮き出てしまう。いずれにせよ、知らぬ存ぜぬを通すしかあるまい。姫級の無線を知らぬ存ぜぬで通せるのか甚だ疑問ではあるが…。

 

その手の情報漏洩を目的とした機械、通信機器などは開かずの間探検をした時に全て妖精さんがお宝だと全て解体して持ち去ってしまった。しかし「ただのがらくたじゃないか!だまされた!」と憤慨していたのである。

 

ちなみに、青色発光ダイオードだけは安眠をもたらす癒しの光として重宝されているらしい。横須賀の妖精さんは、玲司や何者かの図り知らぬところで、玲司、いや横須賀の危機を救っているのだった。

 

………

 

「イムヤとゴーヤも行くわ、誰かに見つかったらまずいんでしょ?イムヤの索敵、なめないでよね!」

「ゴーヤも変なソナー出して他の艦隊の邪魔するでち!」

 

扶桑達が目標を保護し、もしそれが紫亜の友人であったなら、似たような救難信号、ソナーで妨害を入れると言う。潜水艦の頭脳、イムヤの考えたことである。ゴーヤはイムヤの考えたことなら間違いないでち、ということで従う。あえて持ってきたおそらく以前いたであろう潜水艦の壊れ掛けの無線。こいつを使うという。もちろん、大淀や鳥海、霧島には伝えてある。

 

「さあ行くわよ。伊号型潜水艦だってやってやるんだから!」

「出撃するでち!扶桑さん達の通過ポイントで待ってるでちよ」

 

「ゴーヤさん、イムヤさん。ありがとう。頼むわね」

「任せておいて。仕事はきっちりこなすわ!」

 

やる気に満ちているイムヤとゴーヤ。彼女達に無理なことは一切させない玲司。しかし、今回はお世話になっている紫亜のこともあってどうしても行きたいと言う熱意に折れた。「インビジブル」と言う呼び名が付きそうなくらい隠れるのがうまいイムヤ。「デコイ」と呼ばれるくらいうるさく敵を誘き寄せるのがうまいゴーヤ。イムヤ曰く、もっと潜水艦がほしいとのことだが。

 

「みんな…決して無理はしないで…危険だと分かったり、罠だと分かったらすぐ逃げるのよ…」

 

母港では紫亜が心配そうな顔で出撃するみんなに声をかける。あの声は間違いなく港湾棲姫である。しかし、レ級がどこにいるかわからない以上、そして、レ級がもしかしたら喋らせているのかも…などと最悪のことばかりを考えている。

 

「どうしても私にはレ級が誘き寄せるために喋らせたとしか…」

「そのことについては、大淀さんは既に予測を済ませているようです」

 

「えっ?」

「そもそも、レ級がレーダーから消えて五十鈴達の領海内に入れるはずはないわ。ウォースパイトさんの司令官がレ級はヨーロッパで暴れているって話だしね」

 

それを聞いて安心した、奴に殺される可能性は極めて薄いか。五十鈴曰く、姫級の深海棲艦が万全でやってきたら小笠原諸島に入り込まれたら一発でわかるらしい。日本の深海棲艦への監視の目は厳しいのだ。

 

「仮に紫亜の友人だった場合は昔の提督がめんどくさいからってほったらかしたのかもね」

「それならありがたいわ…あの時、私たちは戦闘の艤装を全て捨てていたし、通信系も他の深海棲艦に気付かれないよう破棄したもの」

 

「では、どうやって…」

「艦娘の艤装でも流れ着いたかしら?アイツのせいで海に漂う艤装なんてわんさかありそうだし」

 

「あー、まあね。おっと。ボーッとしてられないね」

「そうね。では、『芙蓉隊』出撃します」

 

パタパタパタ…と掲示板が変わる。待機から出撃へ。妖精さんが何故か旗を振り、出撃準備ヨシ!ご武運を!と旗信号を送っていた。

 

「紫亜、必ず連れて帰ってくるからね」

 

最後に時雨がそう言って、港を出港した。紫亜は彼女達に何事もないことを祈るしかできなかった。

 

………

 

「提督、高雄さんの話では、人間の旧寮、皐月ちゃんたちが開かずの間と呼んでいたところに、何処かへの情報送信。それもかなり大掛かりなものが設置されていったと言う話は聞きましたか?」

 

「その件に関してはきっちり聞いてるよ。なぜか、完膚なきまでに破壊されている、とまで聞いた」

「はい。安久野が破壊したのでしょうか?」

 

「そりゃ無理だな。安久野でさえ気づいていない代物だと思うぜ。ただ、あまりに高度なサーバーだったって話だ。高雄さんが舌を巻くくらいだ。よっぽど横須賀の情報がほしかったと見える。俺のこのパソコンにも、この部屋、食堂、あらゆる部屋に盗聴器もあったらしい。寮のほうは妖精さんが完膚なきまでにお宝と勘違いしてばらしたらしい。その他は高雄さんからそんな気がするって言われて、妖精さんに全部撤去してもらったよ。どっちゃり出てきたよ」

 

「そこまでして一体…」

「情報を収集した上で何かしたかったんだろ。寮の通信機器についてた青色LEDを大事そうに持ってる妖精さんがいたんだけど、これは我々の宝ですってさ。奪う気にもならんからそれは好きにしてくれと言ったら神様扱いよ」

 

「あはは…」

「まあ妖精さんに洗いざらい調べてもらったけど、そういうのはもうないみたいだ。今回の紫亜の件、盗聴されてたらすぐに憲兵と上層部が飛んでくるだろうし」

 

隠し部屋なども一切合切見つけさせ、横須賀の見取り図を妖精さんに作ってもらった。隠し部屋はいわゆるヤリ部屋だろう。妖精さんもここはいやなくうきですと使うのを躊躇うくらいだ。怪しい機械は片っ端から外してもらった。執務室や寝室は特に念入りに。艦娘の部屋も許可を得て全て。報酬は金平糖だけでいいと言うのだから、ありがたいと言うか…それでいいのかと言う申し訳なさもあり…。

 

「では、紫亜さんのことも、連れ帰る方が港湾棲姫でも漏れることはないと…」

「外での監視の目はわからん。だからこそ、イムヤとゴーヤが動いたんだろう。あの子ら、抜群に頭いいからな。港湾棲姫だった際に監視の目を逸らすために色々工夫するらしいから。ゴーヤからだけど、扶桑たちと通信してる最中に無線がとぎれとぎれになったら無線切れだってさ」

 

さて、と無線に集中する玲司。こうなると雑談はほぼない。艦娘の一挙一動、一言一句を聞き漏らさないために意識を集中するからだ。大淀達もすぐさま、出撃した艦娘達の追跡や指示をできるようにした。

 

 

「あの、扶桑さん。芙蓉隊と言うのは一体…」

 

小笠原諸島へ向かう最中に古鷹が隊の名前を聞いてみた。扶桑隊ではなく芙蓉隊とは?

 

「声でわかってしまうかもしれないけれど、暗号みたいなものよ。私たちは『芙蓉隊』…横須賀の艦娘と分かりづらくするためらしいわ。扶桑をもじって芙蓉。きれいなお花の名前ね。そして、今回確認すべきものは紫亜さんのお友達。『対象』ね。うっかり名前もあまり口にできないわ」

 

「バレたら大事じゃ済まないからねー。ちゃっちゃと見つけて帰ろう。でもまあ艤装なんかでボク達ってすぐバレちゃうだろうけど、引っ掛かればいいよねー」

 

「潜水艦の反応、なし…イムヤさん、ゴーヤさん、消えた…」

 

「さすがね。一応五十鈴は把握しているわ。いい?扶桑さんと司令官とが無線で通信してる時に無線が途切れだしたら全員無線を即刻切ること。耳がおかしくなっても知らないからね」

 

五十鈴がふふん…と得意げな顔をしている。きっと…これが何かの作戦なのだろう。最上や古鷹達はうん、と頷いた。最上は気にしていないが古鷹は横須賀のみんな総出で隠し事をしているのだと改めて知る。古鷹は真面目なだけに隠し事は…とも思ったが、古鷹のさらに上をいく真面目な名取や大淀、扶桑までもがこうして関与している。

潮も紫亜には懐いているし…紫亜には自分もお世話になっている。悩み事相談なんかもする。

 

「ここの練習は大変なようね…見ていてわかるわ。けど、その鍛錬で鍛えた体と努力は決してあなたを裏切らない。やっていけるようになるわ」

 

「あら、お疲れ様古鷹ちゃん。麦茶でも飲む?」

 

あの優しい笑顔。私の悩みを聞いてくれて…。

 

「私は深海棲艦。本来ならば…私は敵だもの。怖がられても仕方のないこと」

「いいえ!こうして古鷹の悩み事を聞いてくれたり!モヤモヤを聞いてくれたり!疲れてる時にお茶をくれたり!私にとって優しいお姉さんです!」

 

「そう…そう言ってくれるのなら嬉しいわ、遠慮なく相談に来てね」

 

そんな紫亜さんのためなら…私は横須賀のみんなに着く!横須賀はいろんな艦娘がいる。事情もサラリと話してくれるので衝撃なことだらけだったが…中でも霞とこの深海棲艦がいると言う環境。突然やってきた姫。しかし、恐怖感は何もない。あの優しい笑顔を絶やさない人だ。中庭が少しずつ綺麗になっていき、いずれはお花でいっぱいになるために頑張っていると言う。

いつか見てみたい。桜以外のいっぱいのお花。

 

『こちら牡丹。芙蓉隊、どうぞ』

 

紫亜のことを考えていたら大淀からの無線が入った。こちらは芙蓉。本部は牡丹。コードネームみたいなものだ。横須賀の艦娘と知られにくくするため。気休め程度だが…。

 

「はい、こちら芙蓉。牡丹さん、感度良好」

『もう間も無く目標地点に到達。これより先は傍聴により位置を知られぬようこちらから無線は送りません』

 

「了解しました。無線封鎖を行います。では、後ほど。通信終わり」

 

さて、と気持ちを切り替える。最上が瑞雲を発艦。周辺の探索に入る。

 

「提督や大淀さんから教えてもらった無線の発信源は…普通の海図には載っていないみたいだね」

「小さすぎて…載っていない…のかも」

 

「紫亜さんは、たしかに昔小さな島で別れたと言ってはいたようだけれど…」

「交戦をするとややこしそうです。古鷹の大型電探で索敵を頼むよ」

 

「はい!」

 

32号電探。本当に横須賀の倉庫からはあるポケットからなんでも道具が出てくるロボットのように、何でも出てくる。妖精さんが開発を行なっていると言うのもあるが、時雨や霰にも高性能な33号電探が艤装に積まれている。最上の瑞雲はいつの間にか一ニ型だし…。ちなみに前の提督の時は13号対空電探で主力艦隊を探せ。見つからないなら探照灯で居場所を知らしめてやれ、などと言われたらしい。馬鹿げている。

 

海図のマジックで囲まれたところを探そうにも広い。そんな中から海図にも見えないほど小さな島を見つけるのは到底燃料が持つかどうかさえわからない。

 

「うーん、何も見えないなぁ」

 

最上でさえこれである。空母が出られない海域で最上は索敵の真価を発揮する。戦闘においても上空から見下ろしたようにして敵と味方の位置を瞬時に判断し、指示を下す。龍驤曰く、死ぬほど疲れる奴やけどそう言うのに長けたうちの妹に修行につかせるか、とまで言うほどである。

 

無線は紫亜とのやりとりから一切何も聞こえなくなった。鳥海が即座に場所を特定しようとしたが、深海棲艦の無線だからだろうか。特定できなかった。敵の反応もない。

そもそも小笠原諸島近辺は深海棲艦の斥候隊がよくいたのだが、山城長距離砲と、暇を持て余しすぎて鎮守府内で暴れそうになった武蔵を宥めるために斥候隊を容赦なく戦艦を引っ張り出し、なぜか大和まで連れられて文字通り跡形も残さず深海棲艦を叩きのめした経緯がある。

 

ならばここは重要な拠点なのだろうと深海棲艦は策を練っているのかもしれないが、ただの武蔵の憂さ晴らしの場である。武蔵と大和を近海で出し、吹き飛ぶ資材に大淀の顔が青ざめていたが…。

 

「紫亜のためにも何とかして見つけたいのに…」

「あの、これ…」

 

霰が海図を扶桑に見せる。霰の小さな指は本当に小さな点を指していた。

 

「あのね。海図をずっと、見てたの。ほこり?ペンの跡?とも思ったんだけど…これ、霰は、気になります」

 

印刷の時のミスのか、はたまた大淀達が作戦を練った時につけたペンの点か。そんな黒い小さな点を霰は気になると言う。

 

「うーん…島じゃなかったらお手上げだね。まず時雨と霰の燃料がこれ以上の捜索ではもたなくなるから帰還しないといけなくなるよ」

「けど、霰の直感は割とすごいところがあるわよ。第六感?霰のこうかもしれないは、五十鈴はいつも聞いてるわ」

 

「古鷹も霰ちゃんの危ないの一言で助けられたこともあるので…」

 

霊感少女霰ちゃん、と呼ばれるくらい、霰の〜かもしれないはよく当たる。明日は洗濯がはかどるほどいいお天気になりそうですね!と間宮が意気込んでいたら「明日は…雨が、降るよ」と言った。そんなまさか、と天気予報は快晴だったので洗濯物を干したら1時間後に夜まで大雨が降ったとか。

 

海図ではこっちがルートっぽいな!と摩耶が言ったところを「こっちは…危ないから…こっち、回ると、いいよ」と言った。摩耶は霰を信じて霰のルートで行ったら何一つ遭遇せず帰還できた。ちなみに摩耶の進もうとしたルートを別の艦隊が通った際は戦艦やら何やらで酷い目にあったらしい。

 

霰の予感はよく当たる。最上もそれに乗ってみることにした。しかし、外れたらもう捜索はできない。二度も三度もこの辺をうろついていては他の鎮守府の人々にも怪しまれる。その際は紫亜に港湾棲姫を諦めてもらうことになる。そんなことは…できない。余談ではあるが響もよく当たる。霰と響の話は瑞鶴が割と信用している。響の場合は匂いや音でわかるらしいが。

 

とにかく、霰の予想を信じて海図の点へと向かう。もう陽が傾き出した。この頃陽が暮れるのが早くなったな…。扶桑はそんな場違いな考えを巡らせていた。

 

 

「海図的にはこの辺り…だねぇ。もう日も暮れた。瑞雲は飛ばせないよ」

「ええ、私も協力していたけれど…これでは無理ね」

 

海図を頼りに点のような島を探してはみたものの、なかなかに小さすぎて見つからない。すっかり日は沈んでしまい、これ以上の調査は難しい。

 

「日も暮れてしまったし、ここまでかしらね…霰さんや時雨の燃料ももうギリギリでしょうし…」

「けど…もう少しかもしれないのに…」

 

「霰なら…まだ、大丈夫です」

「まあ、最悪ボクや扶桑で引っ張ればいいだけのことなんだけどね」

 

「うーん…」

 

扶桑が考える。海図ではこの辺りで間違いないのだ。ただ、下手に無線を使ったりするのは危険であるし…。

 

「ぷはぁ!」

「うわぁ!びっくりした!!!」

 

水面から勢いよく顔を出す誰か。にひひ、と笑うこの声は…。

 

「ゴーヤ!?もう、驚かさないでよ!!!」

「ごめんでち。ちょっとイタズラ心でち」

 

「バカなことやってないでさっさと報告しなさい!」

「ぶー、イムヤはうるさいでち」

 

ふくれっ面をしながらイムヤに文句を言うゴーヤ。あのね、と最上や扶桑に説明を始めた。

 

「ゴーヤは耳がいいでち。こっちの方向から女の人の声が聞こえたでち。ぼそぼそっとでうまく聞こえなかったけど、たぶん女の人の声でち」

 

こっちでちー、とゴーヤが先頭に立って進む。あまりに遠ければ霰たちが心配だが…。月に照らされた島が見える。本当に小さな島だ。

 

「島…だ」

「ほんとに小さい島ね。こんなの…昼間でも難しいわよ」

 

「で、でも本当にここに?」

「今も聞こえるでち。ごめんなさい。ごめんなさいって」

 

「ゴーヤさん、イムヤさん、ありがとう。行ってみるわ。何かあった際は、手筈通りに」

「もちろんでち!」

 

「わかりました。気を付けてね」

 

イムヤとゴーヤは再び潜っていなくなった。さて…、ゴーヤが教えてくれた島。鬼が出るか、蛇が出るかわからない。静かに上陸する。月明りが頼りなので薄暗い。

 

「誰か…いる」

 

霰が小さくつぶやく。扶桑や最上、五十鈴が身構える。

 

「古鷹、いける?」

「はい」

 

探照灯ほどではないが古鷹の目は明かりになる。感情が高ぶると大型探照灯のように光ることもあるが、今は懐中電灯くらいの明かりだろう。光を照らした先には白い何かが見えた。

 

「「ひっ!?」」

 

古鷹の悲鳴と同時に誰かも悲鳴をあげた。扶桑が攻撃を制止する。五十鈴や最上が砲を撃とうとしたからだ。

 

「みんな、落ち着いて。古鷹さん、もう一度明かりを…」

 

暗闇には赤い2つの光がある。目だろう。時雨はそれが紫亜と出会ったときとかぶった。

 

「待ってください、僕たちはあなたを攻撃するつもりはないよ。あなたは…港湾棲姫さん…?それとも…艦娘かい?」

 

「オ、オ願イ…ゴメンナサイ…何モ…何モシナイ…私ハココデ…」

 

声からして深海棲艦のようだ。古鷹が失礼しますと言いながら明かりを声のする方へ向けた。真っ白な容姿、頭から生えた角。紫亜や大淀達と確認しあい、画像も確認した。港湾棲姫で間違いない。

 

「戦艦棲姫と友達の…港湾棲姫さん…で間違いない…かな?」

「戦艦棲姫…知、知ッテイルン…デスカ?」

 

「彼女とは友達だよ。もしあなたが紫亜…ああっと戦艦棲姫のお友達なら…これを見てもらえるかな…?」

 

 

古鷹が時雨の手を照らす。そこにあったのは少し欠けてしまった貝殻。それを見た港湾棲姫は目を見開いた。

 

「コレ…コレ…アノ時ノ…戦艦棲姫…ソウ、アノ人ハモウ…」

「違う、違うんだよ。戦艦棲姫は生きてるんだよ!僕たちの鎮守府で生活してるんだ」

 

「捕虜…」

「それも違います。私達の鎮守府をよりよくするために花壇を作り、土を耕し、お花をたくさん咲かせようとしています」

 

「………」

「今はシアって呼んでるんだ。僕が名付けたんだ。僕の大切な友達で…お姉さんだよ」

 

「シアお姉さん…優しくて、好き」

 

2隻で生きていくには小さすぎる島。それ故に身軽な戦艦棲姫がここを出、また会いましょうと言って去っていった。自分に付き従い、着いてきた空母ヲ級もかなり前に力尽き、海の底へと消えた。もうどれくらいここで1人で生きてきたかわからない。

 

また会いましょうと言う彼女の言葉だけをバネにここまで生きながらえてきたが、彼女ももはや心身ともに限界であった。ヲ級が残していったもう動くかどうかさえ怪しいほどにボロボロの艤装の通信を使い、望みを託して通信を開始した。返事があった。

 

途切れ途切れであったが懐かしい声がした。ああ、生きていたのか、と安心した。それと同時に会いたい…と言う寂しさがこみ上げた。ヲ級がいなくなり、孤独に数年間生きてやっと慣れたところに戦艦棲姫の声。一気に孤独の恐怖感が押し寄せてきてしまった。その矢先にこれである。

 

「私たちをすぐに信じることは難しいとは思いますが…あなたに戦意がないのはわかりました。私たちであなたを私たちの鎮守府…あなたのお友達であると言う戦艦棲姫がいる場所へ私達と共に行きませんか?」

 

「この間の無線で他の艦隊が動いて探し回るかもしれないわ。見つかったらあなた…本当に命はないわよ。生きたいの?それとも死にたいの?」

 

「い、五十鈴さん…言い過ぎでは…」

 

「古鷹、五十鈴たちは発覚したら司令官も五十鈴たちも全員命がなくなるかもしれないのよ?時間をかけている暇はないの。今横須賀に行くか、ここに残るかを決めてもらわないと五十鈴たちの立場も危ないし、誰かに見つかったら終わりよ」

 

五十鈴が強く言うのは時間がないのでさっさと選べと言うことだ。夜とはいえ、自分たちの居場所はわかっているはずだ。無線封鎖をしているだけに、今横須賀以外の艦隊がどう動いているかも五十鈴たちにはわからない。もしかしたら自分たちの位置情報を頼りにこちらに向かっていて、すぐ鉢合わせるかもしれない。

 

刻一刻と時間が過ぎる。急がねば自分たちがどういう状況になるかもわからないのだ。

 

「時間がないんだ。お願いだよ。僕たちを信じてほしい。あの人がこれを僕にも友達との宝物だっていつも言っていたんだ」

 

文月、皐月と同等かそれ以上に、「紫亜」と名付けたこともあってか戦艦棲姫「紫亜」との絆は深い。だからこそ、港湾棲姫に紫亜への強い思いを伝える。

 

「……アナタガ…ソコマデ言ウ…ナラ」

「ありがとう!さあ、行こう!時間がない、誰が来るかわからないから!」

 

時雨が手を差し出し、その手をゆっくりと掴んだ。全てを時雨に託すかのように、ギュッと強く手を握った。

 

扶桑、古鷹、最上が港湾棲姫を引っ張り、時雨、霰、五十鈴が周囲を警戒する。しばらくして、予定していた小笠原諸島の海域を抜けた。無線封鎖を解く。

 

「こちら芙蓉隊。牡丹、聞こえますか」

『こちら牡丹。芙蓉隊、状況をお教え願えますか』

 

「救難信号の『対象』を捜索いたしましたが、艤装だけがみつかり『対象』本体は発見できず。海に漂う艤装だったのですが…壊れているようです」

 

『了解しました。帰還………いただ…ザザ…に…ザーー…』

「牡丹?牡丹?無線が…みんな、無線を切って!!」

 

扶桑がそう言うと慌てて艤装の妖精さんが無線を慌てて切る。それでもなんだか耳が痛い。実は、ゴーヤがかつて横須賀にいたが大破したため、解体されたボロボロの艤装を持ち出したのだった。明石がいじってみたらとてつもない高周波を無線で放つ壊れたものであり、スパナでぶん殴って黙らせたのだった。直そうとすると高周波を放ち、またスパナでぶん殴るしかなかったので放置していたものだった。

 

早い話、今の無線を傍聴していた連中に対してのこちらからの攻撃と目くらましである。おそらくヘッドフォンなんてしてた日には鼓膜が破れるのではないだろうか。要するにこれで大破した艤装。轟沈した艦娘の艤装であった、と証明させるためのものだ。うまくいくかはわからないが。

 

遠くでドーンと言う雷が鳴ったかのような音が聞こえた。これはゴーヤとイムヤがその艤装を破壊した合図の音だろう。それから数分。

 

『き、聞こえるでちかー?み、耳が…』

「ええ、聞こえるわ。どうしたの?」

 

『沈んじゃった艦娘の艤装をせっかくだから持って帰ろうと思ったでち…けど、動かしたら突然無線が…』

「ええ、耳が聞こえなくなるかと思ったわ…」

 

『イムヤよ。だから魚雷でもう艤装を破壊したわ。止まらなさそうだったから』

「そう…わかったわ。哨戒も問題なしね?なら、帰投命令が出ているから帰投してください」

 

『了解しました。敵影、敵潜水艦の反応もないからこちらも帰投します。通信、終わります』

「と言う事です、牡丹。芙蓉隊も帰投いたします」

 

『………』

「あの…牡丹?」

 

『み、耳が…なんでこんなめに…了解しました…帰投してください』

 

いい演技をしているなと思った。これにより、「調査に赴いたが艤装が浮いていただけだった。どこの何の艦娘かもわからない」と言うことで片付けたのであった。

 

「さあ、急いで帰りましょう。時雨、霰ちゃん、周囲の警戒をお願いね」

 

「わかったよ」

「はい」

 

こうして、港湾棲姫救出作戦はとりあえず成功、と言ったところであろう。あとで何を追求されるかはわからないが…。

 

………

 

特に誰と接触することもなく、怪しい航路を使ったわけでもなく、正規の航路で鎮守府まで帰ってきた。母港には玲司と大淀、間宮が待っていてくれていた。

 

「提督、ただいま帰投致しました」

「扶桑、みんな、お疲れ様。それから…その子が紫亜の友達だな」

 

「ア…ウウ…」

「紫亜は食堂で待っている。時雨、霰、案内してあげてくれ」

 

「うん!」

「わかり、ました」

 

「ゴーヤも帰投したでち!」

「イムヤ、帰投したわ」

 

「イムヤ、ゴーヤ、お疲れ様。計画通りだった。ありがとう」

「ま、まあたまにはこんな役目も悪くないわ…でも、耳が聞こえなくなるかと思ったわよ!」

 

「でち…頭がふらふらするでち…」

「す、すまんかった…風呂に入ってゆっくり寝るといいよ…」

 

「ゴーヤはおにぎりが食べたいでち」

「はいはい。じゃあ先にお風呂行っといで」

 

「はーい!」

「イムヤの分も頼むわよ!」

 

イムヤもおにぎりが好きだ。帰ってきて、お風呂上りにお腹ぺこぺこの状態ですぐ食べられるおにぎり。ツンツンしているが、本当は提督とみんなと鎮守府が大好き。

 

「イムヤ達にも新しい仲間が増えるなぁ」

「ああ、伊13と伊14…宿毛湾の子達ですよね」

 

「そうだ。数少ない潜水艦だから、どうするかもめてたみたいだな。一宮達のところに行かせてもよかったのにな」

「潜水艦の少なさを鑑みて、だそうです。ちなみに、口出ししたのはあの刈谷提督だそうです」

 

「……後で電話しとこ。あー…」

「頑張ってくださいね、提督」

 

港湾棲姫を連れてくることに成功。そしてみんな無事に帰還できたことを喜んでいた矢先に、これである。刈谷提督は「知るかよそんな話。潜水艦が少ないんだったらちょうどいいもらいもんだろ」とのことだった。潜水艦がうちがなぜ少ないことを知っているのか、聞いたらややこしいのでやめた。礼を言う隙さえ与えさせなかった、と言うのは別の話。

 

………

 

「ああ…またこうして会えるだなんて…」

「私モ…んんっ、わたしも…戦艦棲姫…あなたが持っていたあの貝殻…まだ持っていてくれていたのね…」

 

「ええ。あなたとの友好の証ですもの。壊さないようにするのが大変だったわ」

「それで…あなたとわたしは…」

 

「私はここで生活をしているの。大丈夫、あなたのことを保護するように艦娘を動かしてくれたのは提督よ。私があなたにだけ話したことがある命を救った人間の子よ。とんだ運命よね」

 

「じゃあ…わたしは…」

「それはあとで彼から聞きなさい。それよりも、まずはその…」

 

「………?」

「あ、っと、あのね?その…」

 

「しあおねえちゃーん」

 

戦艦棲姫がギクッとした表情になった。見た感じ小さな駆逐艦のようだが…。

 

「???あたらしいおねえちゃんだ」

「霞?あのね?今お姉ちゃんたちは大事なお話をしていてね…?」

 

「わたし、かすみ!おねえちゃん、よろしくね!」

「う、うん…」

 

ぽふっと港湾棲姫に抱き着く霞。やーらかーい♪と最初はご機嫌であったが…少しずつその笑顔が消えていき…スンスンと鼻を鳴らして…ああ…私がショックでどうにかなりそうな言葉が出るのよ…きっと…と紫亜は思った。そして案の定

 

「おねえちゃん、くちゃい!」

「えっ…」

 

オロオロと紫亜と霞に目をやり、焦る港湾棲姫であった。紫亜はただただ、呆然とする彼女に「お風呂に案内するわ…」と言うしかできなかった。霞は「おふろー!おふろー!くちゃいのとんでけー♪」とさらに港湾棲姫の精神に追い打ちをかけるのであった。




オチはいつもの霞の必殺「くちゃい」でした(笑)
さて、無事に港湾棲姫の保護に成功しました。これにより、紫亜と名前はもう決めてありますが港湾棲姫、どちらも無事に横須賀で生活することになります。
港湾棲姫は深海棲艦の中ではかなり好きなので仲間に加えました。離島棲姫でもいいなと思ったのですが、港湾ちゃんのが好きです。大きいし(ぉぃ

さて、次回は港湾ちゃんの名前発表とその他港湾ちゃんに関わる話になると思います。

それでは、また。
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