柱島泊地。南方海域の覇者、三好薫大将が指揮し、燃ゆる炎と称した戦場、南方海域ににこれまた燃ゆる熱き炎を持った艦娘達を送る戦果トップの泊地。
しかし、この柱島泊地の艦娘が大敗を喫し、あわや轟沈寸前にまで陥ったと言う。再度出撃を命じようかとも思ったが、その際の旗艦、長門の報告を聞いた三好提督は再出撃をやめ、大本営に援助を求めた。
未知の深海棲艦等はいないが、数が恐ろしいまでに増えていると言う。その中でも特に厄介なのがかつての大戦で鉄底海峡、アイアンボトムサウンドでの深海棲艦の勢いが増し、手が付けられなくなったと言う。1つの泊地の艦隊のみでは対処しきれなくなるほどの大量の深海棲艦の増殖。それと同時にある1つの不穏な噂が大本営にも舞い込んだ。
「『暴虐の姫君』がアイアンボトムサウンドに向かっている」
この話を聞いた古井司令長官、清州副司令長官はただちに大本営会議を開くことを決めた。その前に、清州副司令長官がある作戦の代表者を選出したのであるが、これが古井司令長官と清州副司令長官とで大いに揉めた。
「彼らは水と油だ。そんな2人をリーダーにするなどありえん。作戦を立てても崩壊する」
「今はそう言っている場合ではない。大府を総大将とする意向は変わらん。仲良しこよし、好き嫌いで戦闘に支障を来すような2人でもないだろう」
「なるかもしれんと言っているのだ。清州、お前も覚えているだろう、刈谷君の飛龍君の話を」
「艦娘が1隻沈んだ程度で大勝したのだ。ならば、大府の指揮は間違ってはいなかっただろう」
「あれは仕組まれていたと言う話もあったと思うがね?」
「ならばその証拠を出せ。さもなければ、刈谷の失態でしかない」
「……くっ」
「刈谷君が受けると思うか?」
「受けなければ別の者にやらせるだけだ。それどころか、佐世保へ行くことの話も白紙、居場所がなくなるぞ」
………
「提督がまさか、総大将が大府提督なのに副大将を引き受けるなんてねぇ~」
「早え話だ。清州のおっさん、大府を試してんだよ」
「本当に大将にするために?」
「ちげえよ。現実を突きつけてやるんだろ。テメエにゃあ島の泊地の提督がお似合いだってことをよ」
「でも、大府提督の戦果は柱島の三好提督にも負けないほどよ?」
「多大なる犠牲の元にな」
「轟沈はないんじゃ?」
「練度が高く、戦果も完璧。だが、それはあいつが1人で艦娘を指揮しているか、あいつに忠実な連中の艦隊だからだ」
「じゃあ、今回の提督や三条提督のような人がいれば…」
「どうなるだろうな。俺は奴の指揮に従う気はねえ。三条も自分の艦娘が轟沈するような指揮をされたら動かねえだろ」
「上官命令の違反は厳しいわよぉ?」
「大本営は今轟沈させるほうのが見る目が厳しい。古井のおっさんも清州のおっさんもそっちのがきついぜ」
「清州副司令長官がねぇ…」
「信じられねえ話だろうけどな。あのおっさん、現役時代は1隻やらかしてる。そこから現場を離れた」
「あらぁ、そうなの~」
「いろいろあんだよ。まあ、俺がどう動くかなんざあの2人にはお見通しだろ」
もともと大府と組んだとしても奴の命令に従うつもりはない。三条や一宮がいるのなら、こいつらとこちらで自由に動かせてもらう。
「大府提督とは飛龍さんを犠牲にされて以外で何かあるの…?大府提督の提督への執着が何て言うか…もう怖い通りこして…」
「奴とは昔の防衛大学の時からの同期だ。俺が首席、ヤツが次点。そこから何かとあの爬虫類みたいな無表情な顔で俺と競ってきた。俺は無視した。俺は俺のやり方があるからな。あいつの家は大昔から旧日本軍のお偉いさん。自衛隊のお偉いさん。確か、俺が学生の時にヤツの祖父が海上幕僚長。つまり、今の司令長官みたいな存在だった」
大府提督が大府提督なら刈谷提督も彼の情報をかなり持っている…お互いに全てを知り、隙を作らないようにしているのだろうと葛城と能代は感じた。
「じゃあ大府提督は…そういう類のエリート?」
「常に頂点たれってのがヤツの祖父がヤツに言ってた言葉だ。が、防衛大学。自衛隊のエリート中でもトップに立つための最初の一歩を俺に挫かれたって奴だな。最初だけで、あとはあいつが全部主席で卒業もヤツが首席だったけどな」
その最初の一歩から刈谷提督に執着を…?たったそれだけだろうか?大府提督はそれ以上に何か刈谷提督に執着…いや、もう憎んでいると言っても過言ではない。盗聴、スパイ、やることが犯罪である。
「ヤツは一般人が持つ倫理観なんてないぜ。そうでなきゃ、用のない人間を簡単にこの世から消したり、社会的に殺したりしねえ。ヤツは産まれるときにすげえ難産かなんだかで、産まれるのに時間がかかって、脳にダメージがでた、とか額の右に傷があって、それが産まれた時になんらかのダメージを脳に与えたかで脳の機能の一部が壊れてやがるんだと」
「提督も良く知ってるね…そう言う話…」
「ヤツの親父から聞いたんだ」
「えっ!?」
「どうしてお父様が?」
「実家に帰省した時にヤツの部屋に俺の盗撮か何かした写真をナイフでめった刺しにしていたりしてたらしいから、危機を覚えて、祖父に相談したんだと。親父さんは祖父の言うことを聞かずに商社に行った。だからこそ、祖父の期待は自衛官になると言ったヤツに全部行った」
何とも複雑だ。龍田はわかるが葛城や能代にはさっぱりわからない。当たり前だろう。家族とかそう言うのはわからないのだから。
「で、深海棲艦が現れ、艦娘が現れ、戦争がはじまり自衛隊は海軍のごっこを始めた。俺もアイツもそのまま何か知らねえけど妖精さんが見えるからと提督をやらされた。三条の父親にな」
「三条提督のお父さんが!?」
「あいつの親父さんはいうなればこの海軍を作り上げてた立役者だ。すぐに自分の家族が住んでる街が深海棲艦に襲われ、住人を避難させてるときに死亡か、行方不明か。消息がわからない。たぶん、跡形もなく吹き飛んだ可能性があるな」
「そ、そんな…」
「司令長官は三条の親父さんがなるつもりだった。で、どういうわけか息子のあいつが横須賀で提督やってる。まあ、古井のおっさんに育てられて、艦娘に囲まれて育ったからとかそんな理由で海軍目指して、提督の資格もあって、ショートランドの英雄とまで呼ばれる奴になった」
まあ、俺からいわせりゃまだまだ半人前だけどな、と負けず嫌いを発揮している。龍田は知っているが、刈谷提督も高難度の作戦を幾度も完遂し、提督の中でも誉れ高い甲種勲章と言うものを何個も持っている。飛龍が轟沈して以来、一切高難度作戦は参加せずにいる。刈谷提督は歴戦の英雄とも言える提督である。
ミッドウェー作戦以来、素行の悪さばかりが目立ち、過去の栄光は一切忘れられてしまっている。
「大府提督もやっぱり実力は…?」
「さて、どうかな」
「はぐらかさないでくださいよ」
「ヤツもいろいろ持ってるぜ。今も甲種勲章の数は増やしてるはずだ。俺はレイテにも参加したがジジイのサポートしかしてねえからもらってねえが、ヤツはもらってるはずだぜ」
「そもそも大府提督は…その、洗脳を施したり一体…」
「ヤツの艦隊運用のやり方は勝てばいいってわけでもない。勝つは勝つでも完膚なきまでの勝利を望む。そのために余計な感情は排除したマシンを作り上げる。愛宕のようにな」
刈谷提督も艦隊運用黎明期からいる古株である。大府提督も同じだが、刈谷提督は当時はまだ駆け出しと言うこともあって大本営で何やら、と言うことはなく、手探りで艦娘をどのように扱うかを模索していた。艦娘が建造できるようになってからは提督となり、艦娘との演習を経て南方の泊地にそれぞれ着任した。
刈谷提督は艦娘とコミュニケーションを取りつつ、ゆっくりとであるが少しずつ戦果をあげていた。対する大府提督はめまぐるしい戦果の上げ方だった。当時の提督達は艦娘の謀反を恐れ、提督に絶対服従をする装置を作り上げた。
刈谷提督は断固拒否した。使わなかった。大府提督はそれを使い、その他の提督も多くがその装置を用いて戦果をあげた。多大な艦娘の犠牲を伴って。
その頃から大府提督のほうが先に出世をし、刈谷提督は中佐、大府提督は大佐となっていた。
「艦娘洗脳装置…」
「1年も経たねえうちに全部ぶっ壊せって指示が来たな。物のように扱いすぎ、艦娘をボコボコ沈めすぎた。おかげでその装置に乗っかったバカ達は練度がまったくと言っていいほどに低い艦娘ばかりになり、海を侵略されすぎた。気付くのに1年かかるってのもバカだよな」
「でも、大府提督はその中でどうしてそんな戦果を…?」
「少数の犠牲で大きな戦果をあげる。それがヤツの言う合理的なやり方だ。艦娘の中で龍田は龍田でも個人差がある。龍田が2隻建造されて優秀なほうは沈めないようにする。逆に弱いほうの龍田は捨てる。こうすることで練度の高いのだけが残る」
「じゃ、じゃあ今うちにいる愛宕さんも…」
「だろうな。だからいらねえって言ったんだろ。当時は轟沈させてでも戦果をあげ、深海棲艦を1隻でも殺すことがよしとされていた」
結果として深海棲艦を増やしてるんだからバカだよな。そう刈谷提督が付け足す。手探りでとは言え、昔から艦娘は物として扱われていたのか…。そう考えると、外にある慰霊碑などを見ても、何だか仕方なく建てました、と思ってしまう。
「いや、実際そうだろ。古井司令長官や虎瀬のおっさん、昔いた安城提督なんかは、本当に申し訳なく思って建てたんだろうけどな。ちなみに俺がいたとこは建てるまでもねえって突っぱねた。沈めてねえからな」
安城提督、と言うのは初めて聞いた。知らない人だ。もう退役しているんだろうか?話を聞いてみると三条提督の父親の友人の1人であり、自衛隊から海軍へと名を変え、艦娘と共存を一番に始めた人だと言う。
「もう退役しちまったけどな。『原初の艦娘』じゃない艦娘の中で唯一、今話題の戦艦レ級に一矢報いた鳳翔を連れていた凄腕の提督だった。古井司令長官、虎瀬のおっさん、安城提督。黎明期の三英傑。この3人がいなかったらレ級に全部やられてただろうな。特に、安城提督がいなきゃな」
そんなすごい提督がいたのか…と思った。英傑の提督。結局、その鳳翔はレ級との相手をし、追い払うことはできたものの、二度と弓を持てない体になり、安城提督はそのことで責任を感じ、やめてしまったと言う。誰しもが止めたが風のように消えてしまったと言う。
「で、今度は俺たちが最悪こいつの相手をしなきゃならねえんだ。俺、三条、一宮でな」
「え、ええ?大府提督は?」
「知るか。俺はあいつの指示は受けねえし、次の大本営会議でしっかり言わせてもらう。まあ、ある程度は従うぜ。ただ、三条や一宮の艦娘に犠牲が出そうな場合は俺の判断で撤退させる」
「提督の場合は…?」
「知らねえな。俺は元から遊撃で打って出るだけだ。三条や一宮のサポートに回る。俺直接じゃなく、三条や一宮を振り回して俺を動かそうとするだろう。先手を全部打つ。あいつはいい加減自分のやり方を直接評価されりゃいい」
それが沈められた飛龍に対する大府提督への復讐だ。なぜいつまでもタウイタウイから本土へ動かないのか。鎮守府への異動がないのか。大本営?夢のまた夢だ。こちらは堅実に敵を鎮圧し、南方海域を平定する。
提督は受話器を取り、誰かに電話をする。
「ん?ああ、五月雨か。なんだ、また慌てて受話器取ろうとして頭転んで頭打ったか?ふふ、ちゃんと冷やすんだぞ」
「ん?ああ、俺は元気だ五月雨が…んふっ、元気そうで何よりだ」
『~~~!』
何を言っているかは聞こえないが、大きな声で抗議の声をあげているようだ。話に聞く、以前の提督の初期艦、五月雨だろうか。提督の声が優しい。悪い悪い。など優しい声色で話している。そんな温和な感じで話をしているのは初めて能代は聞いた。
「悪かったよ。ところで、提督はいるか?………ああ、作戦概要見たか?今度の大本営会議は必ず出ろ、いいな。三条とお前とで作戦を練る。いろいろ教えておいてやるから、必ず来い。いいな。出なかったら知らねえ、好きにしろ」
スッと五月雨と話をしている時と変わる。まだ淡々としているわけではないが、やはりまだ一宮提督には壁があるようだ。『嫌われ者』を演じるのもいい加減やめたらいいのに…と思う。
「四の五の言ってんじゃねえ、テメエんとこの艦娘沈めたくなけりゃ必ずだ。いいな」
ガチャンとそれだけ言い切って電話を切る。これも『嫌われ役』の演技なのだそうだ。彼はこの数年このやり方でやってきた。誰も彼を慕おうとしない。だが、今は少しだけ彼も変わった。
「よお」
そう言う挨拶をする電話の相手は彼しかいない。
「何だ、嫌そうでもねえのか。つまんねえな。はあ?そろそろ来ると思っただ?お前、俺のことどっかで盗聴でもしてんのか」
冗談を言うのも彼にしか言わない。間違いなく三条提督に電話している。トーンが三条提督と電話している時のそれだ。楽しそうである。キヒヒ、といたずらっぽい笑い声まであげて。
「そうだよ。で、どうする?ほーん、大府にはつかねえのか?へー」
何だか嬉しそうな顔をしている。おそらく、刈谷提督につく、と言ったのだろう。あんなにイキイキ話をしているのは阿賀野をいじっているときくらいだろう。
「そうかよ。大本営会議には来るんだな?ああ。一宮とお前と俺で話がしたい。時間を作ってくれ」
南方海域ともなれば綿密な戦略も必要だろう。それと同時に、大府提督のやり方を叩きこむのだろう。他の提督にも犠牲を強要して自分が戦果を得るやり方。性格など、全てを大府提督の耳に入ると知りながらも吹き込むのだろう。
「それでいい。ああ、メガネは連れて来いよ。そいついねえと話にならねえから。スケベスカートの間からパンツ見せねえように言っとけよ。襲われても知らねえぞ?股間に脳がついてるような連中が多いんだからよ。なんだ、聞こえてたのか。キヒヒヒ、気をつけろよ」
じゃあな。と最後の挨拶までつけて電話を切る。三条提督と話をした後はいつも上機嫌だ。
「大淀ちゃんのこと?あまりセクハラ発言はダメよ~?」
「忠告だよ。飢えた豚が多いんだからな、特に大本営はな。人間の女には嫌われ、艦娘にも避けられる奴らがそう言うの見て喜ぶのさ」
「うう…気持ち悪い」
「だろ?まあ、艦娘の服装は際どいのも多いから、奴らにとっちゃいい目の保養だろうな」
「ふふふ、おさわりは禁止されています♪触ろうものなら手を切り落としちゃうわよ~」
「龍田さん、早まったらだめだからね…」
「冗談よ~…冗談…クスクス」
龍田の言う冗談は冗談に聞こえないのである。本当に手を切り落としそうで怖い。葛城と能代はそう思う。まあここの龍田はわきまえて提督に迷惑がかかることはしないので大丈夫…だろう。
「ねえ提督、そういえば大府提督はおじいさん?が軍人だったからってことだったけど、提督は何で軍に入ったの?」
「あー…」
うまいことはぐらかして逃げようとするが、スッと葛城がドアの前に立ち、能代もソワソワしている。龍田もそう言えば経緯は謎なので聞きたそうである。チッと言いつつもドッカと椅子に座り、お茶、だけ言って待った。
刈谷提督はコーヒーが嫌いだ。大体は緑茶。暑いときは麦茶やウーロン茶を好む。あんな苦いだけの飲み物、誰が飲むか、といつも言っている。だから、大本営の際の偉いさんとの話も全部コーヒーは一口も口をつけない。
「は~い」
と龍田がすぐさまウーロン茶を入れてきた。氷無し。冷蔵庫で冷やしただけの冷たさでいい。キンキンに冷えたものは好まない。いろいろと注文が多いのだ。能代もその辺、こめかみに青筋を浮かべながら学習したものだ。
龍田が絶妙な葉の量でまず沸かし、そして冷やしたウーロン茶。和菓子にぴったりの味である。
「うちの家はな。父親が医者。母親が大企業の偉いさんだった。大府が軍に関するエリートなら俺は医者か大企業の偉いさんになるためのエリートに俺を育て上げようとした」
………
小せえときからやれバイオリンや乗馬、ピアノ、いろんなものを習わされ、お前は医者か大手の証券マンになるべきだ。なんて言ってな。勉強も馬鹿みたいにやらされたな。友達と離れるのが嫌だから小学校の受験なんて嫌だって言ったら顔が腫れるまで父親にぶん殴られたこともあるな。今なら半殺しにしてやるけどな。
結局ガキなもんだからよ。親に嫌われたら生きていけないって心理が働くんだ。だから親を喜ばせるために成績は地域で一番頭のいい小学校。その中で常にトップを取り続けた。友達と遊ぶこともなく、親から言われた勉強と習い事だけを繰り返した。
友達は全然いなかったが1人だけどうしてもくっついて喋ってくるヤツがいてな。そいつがいなかったら俺は今頃親の…そうだな、大府んとこの艦娘みたいになってたかもしれねえな。
きっかけは…もうすぐ小学校を卒業する少し前くらいだったかな。バス停でそいつとダべってたら日も暮れねえうちから千鳥足で酔っ払ったおっさんがいてな。
………
「♪~ういー、ヒック」
「刈谷君…知らないフリしたほうがいいよ…」
「………」
「えんやーこらー…おお?ここらで一番いい小学校の少年たちか?お父ちゃんやお母ちゃんにいいように言いくるめられてしたくもねえ勉強をさせられるのは楽しいか?少年たちよ」
「……!」
その時俺はそのおっさんの顔を見た。ハッとなったんだ。おっさんの言葉に。楽しいって…何だ?ってな。
「おお?そっちの少年は図星かい?ダメだぞダメだぞ。お父ちゃんとお母ちゃんに賢くなって、いずれは政治家か、医者かになれ…エリートになれ。そんな言うこと聞いてたらテメエは何なんだってな~。俺の人生俺のもの~♪好きなことして何が悪い~♪」
好きなことなんてできやしなかった。周りの奴らが友達とキャッキャ言いながら走り回って遊ぶのが羨ましかった。駄菓子をなけなしの小遣いで買ってうまそうに食ってるヤツが羨ましかった。今日の晩ご飯何がいい?って母親に聞かれてカレーと言ってはしゃぐヤツが羨ましかった。俺にはそんなもん、何もなかった。
「少年。人生は1回こっきりだぜ。自分の人生、自分で決めて生きるのが一番さ。そりゃ邪魔もあるさ。まずは親って邪魔が入る。こんなもんは簡単にブチ壊せるもんだ。まずはそいつをぶち壊してみな?こんな風にな!」
バス停のポール殴っていってえ!!って叫ぶおっさん見て初めてそれがおもしろいと思えたな。でもな、やっぱりガキってのは怖いのさ。親が。だから俺はまだ親の言いなりで、お受験ってやつで中学校を選ばせてくれなかった。でも何とか成績だけはいいように。親が喜ぶように頑張った。友達は相変わらずできなかったけどな。
ある日、あの時のおっさんのセリフを思い出して…初めて会ったバス停に行ってみたんだ。そしたら、そのおっさん、また千鳥足でいてな。
「おお?イケメンになったがあの時の少年だな?元気でやってるか?」
覚えてくれてた。2年くらい会ってないし、1度しか会ってないのにな。だから聞いてみた。何で自分を覚えているのか?って。
—―助けてほしそうな顔してたからな。
カカカカと笑うおっさんは俺にビールよこしやがってな。飲んだらまずいのなんので噴き出した。
「このうまさがわかんねえようじゃまだまだ若者だな。いつまでも言いなりになってっと、取り返しがつかないぜ?少年にゃ無限の可能性がある。それを摘み取られて何になる?テメエの人生はテメエのもんだ。覚悟決めやがれ。そうでなきゃ、テメエはエリートなんかじゃねえ、一生親の言いなりになる負け犬だ」
その瞬間、金づちか何かで頭を叩かれたような衝撃を受けた。親のために…親のために。そうしてここまでやってきた。
「一生懸命少年は頑張った!親の期待に応えようと必死に!結果は出した!だがどうだ!親は少年に偉いぞとか、ご褒美はあったか?」
そんなものはない。成績オール最高評価を取って見せても「それが当たり前」と返され。小遣いも何ももらったためしがない。お菓子さえ買い与えられていない。食事は侍従が作った食事。家族団らんもない。じゃあ、僕は…何のために生きてきたんだ?
「親に飼い殺しにされるためさ。親に搾取されるだけの人生は楽しいか?少年、ええ?」
楽しかったことなど一度たりとてない。怒られ、時に打たれたり罵倒されたり。ほぼ無視される。友達と遊ぶことも、クラスメイトが楽しそうに今発売されているテレビゲームの話を聞いてもわからない。僕は持っていないのだから。勉強や習い事なんて楽しくもない。やらされているのだから。
「だったらよぉ、少年。今の生活をぶっ壊せ。勇気を出してやってられっかー!ってな。前会ったときはできなかった。今やらなきゃテメエは一生そのままだ。男見せろ」
ギュウ…を両手を握りしめた。やるんだ。やってやる…何もかも…僕…いや、俺を変えるんだ!!
「ハハハハハハ!!!いいぞ少年!いい目の輝きになった!ぶちかましてこい!テメエの人生はテメエで決める!それが漢ってもんだ!さーて、いいもんみたし俺も飲みなおすぜぇ!」
そうして数年前見た時は恰幅のよかった、今は頬骨が浮き上がるほど痩せたおっさんはビシッと見事な敬礼をして歩いて行った。背を向けたまま、苦しそうに咳き込み、最後にゴブッ…と嫌な音が聞こえた。振り返る。手にはべったり…血…?今のことはなかったかのように、ズレた鼻歌を歌って去っていった。
………
後に自衛隊の偉いさんだったってことがわかってな。部下を庇って自衛隊をやめ、酒に入り浸っちまった。そう虎瀬のおっさんが言ってたな。優秀な人だったらしいが…酒の飲みすぎやら不摂生で体中ガンだらけになって死んじまったらしい。
そんなことは知らなかったが俺はなぜか自衛官、海上自衛官になりてえと思い始めてな。街頭のテレビで見た船に乗って一糸乱れず敬礼する自衛官の姿が別れ際のおっさんにそっくりでな。それ見て俺もなりてえって思ったのさ。
そこで邪魔が入るのは当たり前だよな。親だ。医者を継げ、優秀なエリートになれとうるせえ親が自衛官なんざさせるわけがねえ。猛反対だ。その時ゴチャゴチャ言うもんがあんまりにもうるせえもんだからテーブルひっくり返して椅子蹴っ飛ばして花瓶もぶっ飛ばしてやったかな。
「ごちゃごちゃうるせえええええええ!!!!!!」
おっさんの口調真似て言ってみたわけよ。
「俺の人生は俺のだ!!テメエらの言いなりになんかならねえ!!テメエらが何と言おうと俺は自衛官になる!追い出したかったら追い出せよ!今まで俺を自分の思い通りになるおもちゃで遊んで楽しかったか?ええ!?」
ククク、家中めちゃくちゃにしてやったな。侍従には謝ったけどな。ただ、「坊ちゃんは間違ったことは仰ってはおりません」って言ってくれたのが救いだった。俺をずっと気にかけてくれてたんだ。ただ、逆らえねえからな。隠れていろいろ手を回してくれたのは知ってる。もう侍従も俺が家を出たらやめちまって、今の家は幽霊屋敷みてえになってるらしいぜ。
………
「それでは、提督はご両親とは?」
「高校までは一緒に住んだ。一切会話もねえ。侍従とだけは喋ってたけどな。いい子ぶっておとなしく『親に迷惑をかけてはいけない』ってことでいじめにも耐えてたけど、はっちゃけた後はあれだ。暴力とかは厳しい学校だったからな。進学校っつって頭のいいお坊ちゃんお嬢ちゃんが集まる学校だ。成績は絶対に1位をキープして、1人はトラップ作って転んだらパンツまで脱げるようにしてケツと汚えイチモツをクラスメイトの面前で醜態を晒したりしたな。キヒヒヒ」
「も、もう!提督、下品!!」
「そこから『ようフリチン』って呼び続けたら「もういいってば!!!」
葛城が顔を赤くして止めたが龍田は続きが気になったので唇を尖らせて不満げに葛城を見つめた。夜聞いてみたら、ズボンをしっかりとつかんで離さなくなったそうだ。
「高校卒業して、防衛大学って言う今で言う提督の養成学校みてえなとこに入ってから、親とは会ってもねえし連絡もしてねえな。離婚したって話だけは学生時代の寮に電話がかかってきて親父が言ってたっけな。今は生きてるのか死んでるのかさえ知らねえ」
「提督、リコン…と言うのは何でしょうか?」
「結婚の反対だ。強い絆を結びました、ではなく絆がなくなりもう別れましょうってな」
「………提督も…葛城や…」
「ねえよバカ。死ぬまで一緒だっつってんだろ」
「……」
その言葉に安心して目をウルウルさせている葛城。龍田はふふふ、と優しく笑っていた。
「鬱陶しいのとやっと別れられたと思ったら鬱陶しいのにまた付きまとわれるんだぜ。泣けるぜ」
「大府提督ね~。お別れできるといいわねぇ」
「ああいう奴はな。最後にゃいつかどこかで壊れる。んで、とんでもねえことしでかして終わる。あっけなく、みみっちい終わり方でな」
「それでも、提督の身に何かあるかもしれないから、その時は私たちが絶対、守るからね!」
「そうかよ。期待してねえでおくよ」
「何よそれ!!せっかく守ってあげるって言ったのに!!!」
「うるせえな。テメエらに守ってもらうほどヤワじゃねえよ」
「もう、むっかつくー!龍田さん、何とか言ってあげてよ!」
「無理しちゃダメだからね~?」
「わかってるっての。あと人前で頭なでんな」
「えっ!?えっ!?提督、龍田さんに頭なでてもらってたの?ずるい!葛城もなでたい!」
「やなこった」
「なんでよ!私だって提督のお嫁さんなんだから…ね…あ…」
「勝手に恥ずかしがってんじゃねえよ」
「ふふふ、もう葛城さんったら」
「あ、み、見ないで…今、わ、わたし…す、すご、しゅごい変な顔してりゅ…みにゃいで!!!!!」
「キヒヒヒ、オラその手どけろよ」
「い、いやああああああ!!!!」
葛城の悲鳴が基地内に響き渡り、何事かと執務室に飛んできた球磨と多摩に文句を言われた。
「惚気るなら静かにやれクマ」
「チッ、見せつけてくれるニャ」
「おうテメエら、ちょうどいい。これ全員集めて目通させとけ、でけえ戦いになるぞ」
「ヴォオオオオ!?マジかクマ!?」
「にゃっにゃっ、これはおもしろいにゃ。さっそく長門さん達に報告にゃ」
「三好提督の艦隊がやられるほどのことをおもしろいって…はぁ…」
「おもしれえじゃねえか。俺が勝つか、ヤツが勝つか。ここで決めてやる」
「あ…」
そうだ。大府提督が表に出てくるがこちらはそれに従うフリをしつつも裏で彼のやり方とは真逆の犠牲を最小限どころかなしで進めていこうと考えているのだ。
大府提督の頭脳が勝つのか。刈谷提督の頭脳が勝つのか。ほぼ直接対決に近い。
「見てろ、南方海域。レ級まで出てきたら荒れに荒れるぜ」
「目標は私達と~、三条提督と~、一宮提督の轟沈艦娘はぁ、ゼ・ロで♪」
「ったりめえだ。完全勝利で終わらせてやるぜ」
いつもの勝ち誇ったかのような顔で笑っている刈谷提督。しかしまあ…この悪魔のような人が昔はおとなしいお坊ちゃん…?想像ができず、顔は今のまま、おどおどと大人しくしている姿を想像して思わず吹き出してしまい、きっちり刈谷提督に問い詰められ、艦娘のドックと浴場の掃除の手伝いを強要されるのであった。もちろん、水をぶっかけられたのは言うまでもなく、またぶっかけ戦争になったのももはや鹿屋基地の提督と能代のお約束になっているのだった。
刈谷提督の登場でした。準主人公になってしまってますね(笑)
刈谷提督の幼い頃はそれはそれは女の子のようなかわいs(ターン
さて、次回は大本営で玲司、一宮提督、刈谷提督のブリーフィングのお話を書いていこうと思います。ちょっとピリッとした雰囲気に久々に戻ります。
次回もお読みいただけると嬉しいです。
それでは、また。