提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百六十六話

「欧州は壊滅ね。そして戦艦レ級は見失い、どこの国も所在がつかめず、欧州の艦娘の証言で『帰る』だけ言って消えた。今どこの国もレ級探しに大騒ぎだぜ」

 

大本営会議が終わり、別室の会議室で刈谷提督がつまらなさそうな顔をして話を始めた。

 

「ここ数年姿を消していたのと同じ状況ですね。ですが、また数年姿をくらますなどと言うことは…」

 

「ありえねえな。地震みてえに定期的に起きて災害起こすようなもんじゃねえぞ。動く大災害だ。たしかに今まで沈黙してたが今はもう動き回って戦を求める災害なんだぞ。ヨーロッパの海岸線はアンツィオ姫とか言うの率いる深海棲艦にボロボロにされ、挙句にゃあ艦隊も突如現れたレ級により壊滅」

 

「踏んだり蹴ったりね~。それで、日本も血眼で今行方を追っているのねぇ」

 

「欧州の深海棲艦との対決はそれは大規模だったみてえだな。で、今回の大規模作戦『アイアンボトムサウンド掃討作戦』ときた。大きなドンパチやってりゃ、血と硝煙の匂いで飛んでくるだろうな。どう思う?三条」

 

「欧州で戦いの楽しさと血の味を覚えたんなら艦娘だろうが深海棲艦だろうがそれを破壊しに来るでしょうね。ダメージは全くと言っていいほど与えられていないと聞いています」

 

「だろうな。で、今回司令長官が万が一ヤツが出た場合に『原初の艦娘』を総動員で出すと言ったが、それだけじゃ今のアレは止められねえだろ」

 

「数十の艦隊が総動員で止めた…が、結果はほぼ傷つけられず、轟沈が半数以上、戦闘の存続ができなくなり、解体、もしくは退役した艦娘が多数。生き残った艦娘も重傷がほとんど…幸運にも、三条提督の所にいるイギリスの艦娘は提督がとっさに撤退を命じて無傷だったようですね」

 

「結局敵前逃亡で大失態だって責任喰らってしばらく提督業は停止らしい。何とかうちにウォースパイト達を行かせることだけには成功したが…」

 

「どこの上層部もアホばっかりだな。戦艦レ級なんざ昔からよその国でも知ってんだろ。日本の艦隊が追い払うまでしかできなかった奴を数だけで押し切れるかよ」

 

 

艦娘を無駄に沈めやがって、と珍しく刈谷提督が憤慨していた。やはり刈谷提督は艦娘を大事にしている提督なんだな、と改めて玲司は思った。

 

「これが大府から渡された海図だ。前面からもう深海棲艦だらけだな。で、これが件のサブ島沖。アイアンボトムサウンドだな。その前に珊瑚諸島沖。ここを解決する必要もある。ここも深海棲艦だらけだ。この2海域を制圧したら勝ったようなもんだ」

 

一宮提督と玲司の大淀が海図を見つめる。言葉が頭に入っていない。特に大淀は、今自分が海図を見つめ、立体的に自分が海に立っているかのような状況だろう。どこから敵が来るか。襲いやすいか。どこがこちらから襲撃に有利に運べるか。それを全て頭でシミュレートしているだろう。

 

「どうだ、大淀」

「……横須賀、大湊、鹿屋、そしてタウイタウイ。4つの艦隊がしっかり動けば珊瑚諸島もアイアンボトムサウンドも何とかなるかもしれません。ですが、正直私の中ではアイアンボトムサウンドを突破できる可能性が低いです」

 

「私もそう思います。アイアンボトムサウンドを抜けたあとのこのサーモン海域で勝利を得る率が考えうる限り少ない」

 

「その理由は?」

「……早ければ珊瑚諸島。早ければ前面から仕掛けてくるであろう大府提督の奇策、もとい、邪魔でしょう」

 

一宮提督がスッパリと言い切った。聞けば一宮提督は以前にも大府提督の指揮の下で作戦を遂行していたことがあったのだが、危うく一宮提督の艦隊に大打撃を受けるような指揮を強要していたことが発覚。一宮提督の機転により、何とか最悪の事態は免れたが、はっきり言って、自分が立案した作戦の方が優位に進められたと言うのに邪魔をされ、艦娘達も激怒するくらいであった。

 

「あー、そりゃ災難だったな。あいつは自分の被害は最小限で抑えて他は知らねえってスタンスだからな」

 

「こちらを陽動として使って本隊を自分がやっつける人もいますよね」

 

「あ?そらお前んとこの艦隊が崩れねえってわかってっからやるんだよ。お前まだ西方海域のこと根に持ってんのか?女々しい奴だなお前」

 

「あれで作戦が全部台無しになりましたからね」

「戦場じゃ事態はコロコロ変わんだ。あの時はあれが正解だったんだよ」

 

「どうだか…」

「結局最後にドでかい戦果取ったのはテメエだろうが。もういいだろうが」

 

何やら揉めている。軽口を叩き合う兄弟と言うか…大淀はハラハラと。龍田はニコニコとその様子を見ている。

 

「あー、テメエとケンカしてる場合じゃねえんだって。で、他に気になるところはあるか?」

 

「何がと言われればわかりませんが、サーモン海域から北へ行ったこの海域…ここがどうにも引っ掛かるんです」

 

「ほう?サーモン海域の海図見せろ」

 

「島を内部を拠点ではなく、北側からであればすぐに侵攻もできる…なるほど、同時に今大淀さんが指を差した島も何もない海域。サーモン海域だけに目をやっていると、ここから隠れて出撃でもされた時には手遅れになる可能性が高い」

 

「陽動にしてはサーモン海域も強力な敵が多そうです。ですが、こちらはもっと強力な艦隊が待ち受けていそうです。サブ島は危険を伴いますが、夜間突破を狙うのがいいかもしれません」

 

夜戦か。川内が活躍できるな。『宵闇』川内。影から影へ。闇を駆ければ敵はなし。とまで言われるほどである。油断はもちろんさせないが。

 

「夜戦か…夜戦に関する訓練をしなきゃいけませんね…」

「うちじゃ神通と川内が目隠しさせてどこに誰がいるか当てろとか超能力でも開花させるつもりかって演習やってるな…」

 

「あれ、効果は本当にあるんでしょうか…」

「俺が知りたい。ただ、時雨や村雨が言うには感覚が鋭くなったって話だけど」

 

「ええ…」

「夕立ははなっから匂いでわかるらしいぜ。まあ、夕立はなぁ…」

 

「そこで区切らないでください。夕立さんの実力は底知れませんから」

「駆逐艦の中で限界のわからない1人だな。夕立、雪風はまあいろいろと。隠れて時雨か」

 

「ですが、ここで夕立さんや雪風ちゃんと言う好カードを切るのはいかがかと」

 

「アイアンボトムサウンドもあるが、大淀が言うこのサーモン海域北方か。ここが気になるな。対潜も考えて霰を入れるか。突如改二になって対潜に花開いたし」

 

「そうですね。主力としてはやはり、扶桑さんでしょうか?」

「出し惜しみなしだ。状況次第では大和と武蔵を出すぞ」

 

「ほう、ついに虎の子大和武蔵を出すか。最強の一番艦と二番艦。戦力過多とも思うが、少ないよりはマシか。いいだろう、アイアンボトムサウンドにゃこっちも戦力を割く。球磨と多摩が夜戦に関しちゃ強い。駆逐艦も初霜や叢雲がいる。ここに大きな艦はいらねえ。海峡を抜けた先の戦力を一宮、お前が考えろ」

 

「承知しました」

 

「今回は単独で海域をこなしていくのはナシだ。俺ら3人で協力して突破する。そうでもしなけりゃ三好のジジイが対処しきれねえほどの状況だ。ジジイにゃ有終の美を飾ってもらう」

 

「その言い方はどうなんすかね」

「火の上りどころを見誤った。と言うことはもう自分は限界にきたと言うことだと。今回も作戦には参加せず、提督業に幕を下ろすそうだ」

 

つまり引退する。猛将と言われた提督の幕引きは、実にあっさりとしたものである。ごちゃごちゃ駄々をこねて提督を続けるよりは、潔く引いた方が良い、という彼らしい引き方である。

 

「三好提督まで…」

「どっちも70超えてんだ。働かせすぎなんだよ。いい加減隠居して好きなことやってやがれ」

 

呆れたように言う刈谷提督。そういえばおやっさんももうすぐ70近いし、虎瀬のおじさんもそうだった。早いこと、引退してゆっくりしてほしい…とも玲司は思うが、今はおやっさんや虎瀬のおじさんがいないとまともに軍が動かせない、と言うのも事実。

 

実際には早く消えてほしいだの、創設からいるけどいつまで居座ってるんだなどと言う声もたまに聞く。しかし、実際には司令長官を任せられる提督がいないこと、不正を監視する目の鋭い者がいないと艦娘がもっとやりたい放題される可能性がある。

 

一応司令長官の座は堀内提督が有望であるそうだが、これまた四大鎮守府を任せられる提督が育っていないこと。それどころか不正を働く者が出て来そうであるがために、堀内提督が「では」と任せられる状況ではない。不正に関しては刈谷提督がその立場を虎瀬提督から引き継ぐつもりである。

恐怖の刈谷提督による不正の監視。これほど高い効力がある提督はいないだろう。

 

「まあそれはいい。潔く去るって言ったんだ。最後に華持たせてやろうや」

 

「そうっすね」

 

「で、だ。俺たちだけやるのなら問題は何もねえ。ただ、問題は…」

「大府提督…ですね」

 

「ヤツの命令には極力従え。そうでなければ後々に面倒になる。総指揮官の命令に背くと言うのはかなり罪のでけえ案件だ。背任で降格どころか提督をやめさせられることになる。だから、大府の命令は従え。フォローは俺がする」

 

「承知しました。ですが、こちらもある程度大府提督の作戦を読めることができれば…」

「あいつの脳についてこれるか?あの野郎の頭の回転は並じゃねえぞ」

 

「私にも艦娘を沈めないと言う目標があります。そのためにはあの方の他人の艦娘なら使い捨てのように使うと言う策を破る策を練らねばいけません。正攻法だろうと奇策だろうと、勝てば良いと言うのなら何だってします」

 

(へえ。ちったぁこいつも成長してんだな)

 

真っ向から策を練り、攻めるのかと思っていたが…一宮提督もここでのやり方をだいぶ覚えてきたらしい。正攻法で敵わないなら奇策。それでもだめならどうにかする。脳を絞り切れ。脳汁が耳から出ようが大府の策に勝つのではなく、逃れる方法を考えればいい。

 

「俺は大府の策に真っ向から対抗しようとして失敗して、飛龍をやっちまった。奇策は読まれる。時にはストレート。時に変化球を使って大府を翻弄しろ。テメエの脳が俺らの明暗を分けんだ」

 

「前面、珊瑚諸島はほぼ指示はないと考えています。サブ島からが大府提督の真価を発揮すると言ってもいいでしょう」

 

「だろうな。ましてや危険の伴う夜戦、親玉は強力な南方戦棲鬼。敵も数が半端じゃねえし、ここで俺らを疲弊させるつもりだろう。サーモン海域も無理な指揮が出るだろうな」

 

「疲弊した我々の艦隊を踏み台に、サーモン海域の本体を討ち取り、勝利を得る。そこまでは考えられました。問題は…」

 

「サブ島の勝率か。大府の艦隊は動かすか…動かさないか…」

「こちらとしても大淀が言うサーモン海域の北方を気にしているので、そちらに万が一のための戦力を割きたいですね」

 

(この大淀、何が見えている?気にしすぎかもしれねえが…北方海域のこともある…古井のおっさんの高雄みてえになってきてやがる)

 

一宮提督が記した北方海域の報告書では、この大淀がキス島の異変に即座に気づき、過剰とも言えるほどの戦力をキス島に割いた。が、それが功を奏して隠れていた機動部隊の殲滅、そして九重提督の艦隊の窮地を覆したとある。

 

原初の艦娘、『未来視』の高雄の指揮の下で動いたことがある刈谷提督。それはもうこちらから余計なことを言わなくともすべてが高雄の予想通りに動き、無傷で海域を制圧した経験があるが、それに近いものを感じた。

 

「三条、お前のとこの大淀がそう言ってるなら念のため強力な機動部隊を編成しておけ。サーモン海域は俺と大府で打って出る。サブ島…アイアンボトムサウンドは三条、一宮、総出だ。勝率が低かろうが出なけりゃならねえ。放っておいたら勢いづいて各泊地を攻撃、もしくは本土を目指して仕掛けて来るぞ」

 

「同時にレ級まで来られてはたまったもんじゃないですね。大淀、お前を信じるぞ」

 

「は、はい!ですが…外れた場合は…」

 

「どっちにせよ来なけりゃよかったじゃねえかで済む。よそはほっとけ。そこで配備していませんでした。レ級が来ました。ボコボコに壊滅しました。それじゃ話にならねえだろ?噂は噂だが当たったらやべえんだ。やっぱり、お前らと話をすると楽でいい。他の連中は話にもついてこれねえからな」

 

刈谷提督はニヤリと笑って玲司達を見た。

 

「お前らの艦娘を沈ませるような指揮は俺はしねえよ。大府のせいでなりそうになったら俺が何とかする。お前らはいつも通りの指揮をしろ。いいな」

 

「わかりました」

「了解です」

 

「大淀。お前の推測、アテにしてるぞ」

 

「ふぇっ!?は、はい!」

 

そうして刈谷提督は立ち上がり、これで終わりだ、と言って去っていった。

 

「ふう。しかし、2人の中将の板挟みになる作戦とは。難しい作戦になりそうですね」

「そうだな。けど俺は何と言われようと刈谷提督につく。最後の沈ませないって言葉が決定打だった」

 

「私も大府提督の指揮については詳報を読ませてもらっておりますが…完璧すぎる故に何かあると思っております。加えて、刈谷提督があそこまで言ってくださったとなると、ね…」

 

刈谷提督が真面目に説明を行っていた。大淀を信じると言った。そして、艦娘は沈ませないと言っていた。随分と会った時から刈谷提督の印象が変わった。いい上官…とはお世辞にも言いにくいが信頼はできる。

忙しいのに自慢の話やどうでもいいことを電話して来たり、大淀をいじっては業務に差支えを起こしたり、そこが迷惑である。

 

しかし、あの「艦娘を沈ませるような指揮はしない」と言うときの目は本気だった。だからこそ刈谷提督を信じる。そう決めた。

 

「提督…あの…」

「ああ、高雄さんに会いたいのか。いいよ、行っておいで。一宮提督、俺たちはコーヒーでも飲むか」

 

「ええ、そうしましょう。行きましょう、日向さん」

 

会議室を出て各々、目的の場所へと向かった。

 

………

 

「ここに来るのは久しぶりですね。ふふ、前よりかわいらしくなったんじゃないですか?」

「そうでしょうか…でも、そう言ってくれると頑張って模様替えしたかいがありましたわ♪」

 

久しぶりに友達、高雄の部屋へやってこれた大淀。無機質な書類の山とパソコンの部屋の先に入ることができるのは限られた者だけ。外部の者では本当に大淀だけである。

次に大淀ちゃんが来た時の為にちょっと模様替えをしてみようかしら…と暇があった時にテーブルクロスを買ってみたり、ベッドのシーツの色を変えてみたり、工夫を凝らしている。

普段『未来視』と呼ばれ、冷静沈着、執務も雑務も淡々とこなすので、ここの高雄はかわいらしげがない。スタイルはいいし美人だが性格が…と言われているが、高雄だって女の子だ。オシャレはしたい。しかし、大本営では見えるところでオシャレをすれば、これまた艦娘のくせに色気づいてとか、そんなオシャレなどと、と言われることは目に見えている。だから、せめて自分の城であるこの私室だけはせめてかわいらしく、と頑張っているのだ。

 

「今日は私もいろいろとご用意してきたものがあるんです」

「え?私にですか?」

 

中身を見せないようにするのが大変だった。だいぶ前、初めて高雄の部屋に案内されて雑談した際、かわいい服や下着がほしい、と言う話をしていたのを大淀は忘れていなかった。先日提督に無理を言って松子おばさんに頼んでみたのだ。サイズが心配であったが、玲司が写真を見せただけでこれとこれとこれとあれこれ持ってきた。

採寸せずともなにゆえサイズがわかるのか…この人の目は本当によくわからない。前に来た間宮って言う子のようなもみたくなる尻だね!と言うものだから出された麦茶を吹き出してしまった。大淀自身もスカートの横の隙間から手を入れられ、あんたもプリッといい尻してるね!と言われ、叫んだものだ。

 

「わあ、かわいいお洋服!こちらは下着?サイズは…大丈夫かしら?」

「見る目は確かだと思うので…」

 

「わかりました。着てみますね。んしょ」

 

隠れることも隠すこともなく、いつもの服を脱ぎだす。バルンと揺れる胸部装甲。武蔵さん?扶桑さん?よりも柔らかそう…というか…人が目の前で着替えているのを見ているのは恥ずかしいものだが…。わっわっ、ブラまで…!うわぁ…きれい…。

 

「ん…まるで私にあつらえたかのような下着ですね。ちょうどぴったりです。しっかり支えてくれて楽ですね…痛くないですし…ネットで取り寄せると合わないものばかりで困っていたの。こちらも履いてみますね」

 

ちょおおおおおっと!?ここで!?いや、まああれか…鎮守府のみんなでお風呂に入る時と同じか…よく考えたら恥ずかしがることもないんだった。

 

パステルグリーンの下着。高雄のために用意されたかのように似合っていた。

 

「高雄ちゃん、スタイルいいなぁ…」

「ええ?そうかしら…私は大淀ちゃんのようなすらっとしたほうがいいと思うけど…」

 

「私は高雄ちゃんのようなスタイルがいいです」

「ふふっ」

 

「ふふふ♪」

 

何かわからないけど笑ってしまう。何かわからないけど楽しい。よく摩耶と最上が意味もなく笑っているのがこういうことだろう。やっぱり、お友達っていいな。何をするわけでもないのに楽しい。

コンコンとノックの音…と同時に誰かが入ってきた。

 

「高雄―いるー?…あら、お邪魔だったかしら」

「む、む、陸奥姉さん!?もう!ノックしながら開けるのはいつもやめてって言ってるじゃない!!」

 

「ごめんね。で、大淀の前で下着姿になって、今から火遊びでもするの?あらあら、お熱いわねぇ」

「陸奥姉さん!!!!!」

 

顔を真っ赤にして怒っている高雄。あ、怒った顔もかわいい。そう思う大淀。急いで服を着る。

 

「もう!せっかく大淀ちゃんがせっかくかわいい服を持ってきてくれたのに…それで、ご用は何ですか?」

「あら、そう言えば他の子をここにまで招き入れてるってことは玲司君のところの大淀か」

 

「ご、ご無沙汰してます…」

 

「はぁい。玲司君が倒れた時以来ね、話をするのは。あーあ、いいわねぇ、高雄だけかわいい服に下着ねぇ。私もオシャレしたいわ」

 

むー、とむくれている陸奥。高雄だけずるい、と頬を膨らませているのだ。

 

「じゃ、じゃあ今度陸奥さんのも…」

「あら、嬉しいことを言ってくれるわね。お姉さんの試着ショー、見せてあげよっか?」

 

「結構です」

「高雄に言ったわけじゃないんだけど」

 

「私の大淀ちゃんに迷惑をかけないでほしいわ」

 

「わ。私の…」

「はっ!?」

 

「あら、あらあら。もうラブラブねぇ…」

 

クスクス笑う陸奥。真っ赤になる高雄。お友達とは違う雰囲気。これが姉妹、家族と言う雰囲気なんだろうか。これは横須賀でもよく見るような光景だ。時雨と夕立や朝潮と大潮や満潮。時に摩耶と五十鈴など。こういう雰囲気はよくあること。大淀はあまりそういうのは…いや、あるか。やっぱり、こういう雰囲気は好きだ。

 

「はぁ…もう顔が熱い…」

「ふふふ、ごちそうさま♪」

 

私の…提督と翔鶴さんのような…?そう言われるとボンッと顔が熱くなった。いやいや、何を考えているんだ。

 

「それで、ご用は何ですか?」

「立ち直りが早いわね。別に?単に息抜きがしたかっただけよ。ここは私の癒しの最後の城なのよ」

 

「まあ、姉さんや赤城姉さんなら使ってもらっても構いませんけど…」

「ちゃんと高雄がいるときだけにするわよ。赤城は弓道場行ってる方がマシでしょうからね」

 

「はあ…大淀ちゃん、お茶はアールグレイがいい?ダージリンがいい?」

 

「えっと、アールグレイで」

 

「クッキーが食べたいわー」

「もう…わかりましたよ」

 

要領よくティーセットを用意し、お茶を淹れていく。父こと古井司令長官がもらいものとしてもらったが、そう言うのは食べないために回された上等なクッキー。陸奥はそれが高雄の手に渡っていたことを知っていたので催促した。

 

「はい、お待たせしました。陸奥姉さん、1人で食べてはダメですよ」

「食べないわよ。大淀のために用意したんだろうから私は遠慮して食べますよーだ」

 

「もう…大淀ちゃん、遠慮なく召し上がってくださいね」

「ありがとう、高雄ちゃん」

 

「ふふ、高雄が私達以外の前でそんな笑顔を見せるなんてね。大淀、私のかわいい妹とこれからも仲良くしてあげてね」

 

「はい!私もとても大切に思っておりますから」

「大淀ちゃん…」

 

ポッと高雄が顔を赤く染める。本当にコロコロと表情が変わったり、色が変わったりかわいらしいものだ。

 

「南方海域、それも噂の戦艦レ級…大淀ちゃんももちろん出るのよね…?」

 

「はい。おそらく出ることになると思います。現場での指揮が重要だと思っておりますので、私も出るつもりでいます。噂は噂、空振りで終われば良いと思っておりますが…」

 

「出たとなれば私達も出ることになるかもね。前はやられたけど、今回はそうはいかないわ」

「それで、高雄ちゃんにも見てもらおうと思っていたのですが…」

 

そう言って玲司から預かった南方海域。特にサーモン海域の海図を広げる。何となく不安感を覚えたのがアイアンボトムサウンドよりもこのサーモン海域。その北方。理由はわからない。ただ、何度頭の中でシミュレートしてみてもここに強力な敵が現れる、と脳裏に浮かぶのだと言う。

 

さらに現状、敵の数もわからないがサブ島、アイアンボトムサウンドの勝率が横須賀、鹿屋、大湊の艦隊総出で戦ったとしても勝率が恐ろしく低いことを伝えた。

 

「少し考えさせて。私も試してみるわ」

 

大淀と高雄の目は鋭く海図を見つめている。その目は2人ともそっくりで、「未来を視ている」かのようである。高雄はそうだろう。大淀はスーパーコンピューターのように、超高速であらゆる戦闘を繰り返している。高雄も同じく、過去の経験、膨大なデータから勝利を導き出す。

 

(類は友を呼ぶじゃないけど…高雄のシミュレートについていく艦娘なんて初めて見たわ…)

 

ふう、と2人が息を吐いた。どうやらシミュレートが終わったらしい。

 

「大淀ちゃん、サブ島は刈谷提督と一宮提督の動きが私と大淀ちゃんの想像通りなら勝てると思うわ。サーモン海域も問題はないと思う。ただ、ここね。確かにここが全く読めない」

 

「勝率はいかほど?」

 

「………2割あるかないか、程度よ」

「冗談でしょ?」

 

2人がどう計算しても勝率は2割。いや、2割もない

 

「それって、レ級が現れた場合?」

 

「いいえ、そうでない場合です。レ級が出たのでしたら、どう練っても勝率は1割もないでしょう。100回やって勝てるかどうか」

 

「あまりに残酷な計算ね」

「お父様に『原初の艦娘』の出撃の許可をもらうわ。それだけでも勝率は上がるもの」

 

「レ級が出たとして、私達と舞鶴の妹たちを出してどれくらい?」

「5割…」

 

「そう。それでも出なきゃいけないのが艦娘の役目だもの。私から言っておくわ。大淀、そっちにいる川内、島風、龍驤にも伝えておいてね」

 

「わかりました」

 

「まあ、玲司君の艦娘は毎回何だかんだと土壇場をひっくり返すからねぇ。それを信じるとしますか。特に、大和と武蔵がいると言うことだし、『女王』もいるし」

 

「あはは…そうですね。大和さんや武蔵さんの練度も十分になりましたし、おそらくこの北方に配備になるでしょう」

 

「そうね。お手柔らかにお願いね」

「こ、こちらこそ…!」

 

「陸奥姉さん、クッキー…食べすぎですよ」

「あら、バレちゃった。ふふふ、もう怒んないでよ」

 

「あ、頭を使ったので甘い物が…」

「遠慮なく食べてくださいね」

 

その後は陸奥が高雄のここがかわいい、と言うポイントをたくさん大淀に吹き込み、そのたびに高雄が真っ赤になったり、あわあわ言ったりとまったりなティータイムとなった。特に、どこから持ってきたのかこっそり通販で買った、横須賀の駆逐艦たちにも人気のアニメ「ラブリーマイエンジェルぼのたん」のプリンセスぼのたんの衣装を着た高雄の写真を見せてくれた時は鼻血が出そうなくらいかわいかった、と大淀は後に語る。高雄は悲鳴をあげていたが。あげる、と言われ受け取ろうとしたが、残念ながら高雄の目にも止まらぬ速さで写真を奪い取り、破いて捨ててしまった。

 

なお、データは残っているらしく、今度こっそりあげるわねと後ほど言われ、ブンブンと首を大きく振って頷く大淀であった。

 

………

 

「もうお帰りですか?」

 

刈谷提督が玄関に向かう途中、待ちわびていたかのように佇んでいた大府提督。その横にはまた感情のない艦娘…高雄が立っていた。

 

「なんだ、またそいついらねえからくれてやるってか」

「いいえ、彼女は譲れません。私の秘書艦ですので」

 

「そうかよ。なら俺は忙しいんだ。要件を言え」

「まだ、飛龍さんのことを根に持っているのですか?」

 

飛龍のことは最大の挑発になると踏んでいた。

 

「だったら何だ?また飛龍の時みたいなことを考えている、と捉えていいんだな?」

 

大府提督は否定も肯定もしない。刈谷提督は興味なさげに聞き返した。

 

「変わらねえな、テメエは。昔のまんまだ。だからテメエの相手をする気にもならねえんだよ」

「……」

 

「ま、せいぜい頼むぜ、総指揮官殿」

「………よ」

 

「あ?」

「どうやっても、あなたは私には勝てませんよ」

 

「何の話だ?テメエと勝負してるつもりはねえよ。勝手にテメエが大将になろうが知ったこっちゃねえ」

「私の指揮には従ってもらいますよ。必ず。私が今回の指揮官ですから」

 

「そうかよ。好きにしろ。必ずしも従う、とは思わない方がいいぜ。今は艦娘を沈める行為のほうがマイナス要素高えぞ?それでも俺や三条の艦娘沈めたいなら好きにしな。そのままじゃテメエは一生中将でありながら島での提督生活だ。ま、頑張れや」

 

龍田、行くぞ、とスタスタ歩き去ってしまった。龍田はまるで大府提督が存在していないかのように何の反応もなく通り過ぎていった。

 

 

大府提督はかつて飛龍を沈めた時のように大いに怒った表情と言葉で攻撃をしてくるかと思っていた。だが、刈谷提督はそれどころかまるで自分を相手にしていないかのような態度であった。

違う。そうではない。もっと怒りの情念を。飛龍を沈めた時のような憎しみの感情を思い切りぶつけてほしかった。拍子抜けだ。彼からぶつけてくるその情念こそが、自分が今生きていると実感できる。

 

「ほっほ。主席を落としたくらいでは大したことはない。そこから先が問題じゃ。大府家は代々軍の名家。それを忘れてはならんぞ?幕僚長になるのはお前なのだから。それこそが大府の男たるものよ」

 

祖父にそう言われ、つねに上を目指してきた。だが彼に邪魔をされた。

 

「はあ?邪魔なんかしてねえだろ。俺がたまたまトップだった。それだけだ。変なイチャモンつけてくんじゃねえよ、気持ち悪いな」

 

昔からそうだ。彼は自分を相手にしていない。自分の行く先々で邪魔をする男。だが、彼は自分のことなど相手にもしていない。

大府提督は昔から自分の邪魔をする者には容赦がない。無表情で言葉をほぼ発さないのは幼少の頃からで、それが原因でいじめられていた。だが、勉強の邪魔をするためにちょっかいをかけてきた生徒。

 

「何か言ってみなよ、優等生の大府くん」

 

いじめっ子が大府の頭をはたいたそのあと、スックと立ち上がり、何をするかと思えば…

 

「ギャアアアアアアアアアア!!!!」

 

鉛筆を頭をはたいた男子生徒の目に突き刺した。しかもかき回した。潰れた眼球と血の混じった液体を垂れ流し、のたうち回る男子生徒と周りで悲鳴をあげたり嘔吐したり、呆然と立ち尽くす生徒たち相手に…

 

「勉強の邪魔です」

 

それだけ言い放ち、再び中学生でありながら国立大学の入試過去試験問題を参考書なしに解いていく。学校で大事になったが彼の祖父が揉み消した。目をつぶされた生徒は他所の中学校へ転校した。

高校でも似たようなことがあった。帰り道、不良に金品をよこせと強奪された際も1人の男を簡単に転ばせ、足首を180°捻じ曲げ、「邪魔なのですが」と言って退かした。

 

邪魔する者には容赦はしない。よって、今は刈谷提督が邪魔なのだ。しかし、昔のように迂闊なことはできない。だからこそ、彼が愛していたと言う飛龍を罠に嵌めて沈め、それで去るだろうと思った。邪魔者はいなくなると思った。だが、彼は再び提督を続けている。邪魔だ。それから彼の上に立ち、邪魔はないと思っていた。しかし、追いつかれた。

 

なぜだ?なぜ彼にすぐ追いつかれる?なぜ彼はいろいろと頼りにされる?自分はなぜ相手にされない?

 

ワタシガイチバンニキマッテイルノニ。

 

一番。一番、一番。祖父との約束が果たされない。司令長官の座になり、頂点に立つのは私なのだ。去りゆく彼の背中に刃物を突き刺したい衝動を抑えつつ、握りしめた拳から血が垂れていることも気づかない大府提督。しかし、大府提督はそれが『怒り』『憎悪』と言う感情である、と言うことなど知りもしないのであった。




人それぞれの思い。そこにはさまざまな思念が渦巻いています。特に、刈谷提督と大府提督はその渦が激しく深いです。
南方海域掃討作戦、彼らの思惑が激突する場になることでしょう。

さて、次回は舞台は横須賀に戻ります。ある軽巡の『女王』として開花するか、それともそのまま朽ち果てるか…
南方海域までに彼女はどうなるのか?そこを書いていきたいと思います。

それでは、また。
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