提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第十七話

雪風を無事救出し、深海棲艦も無事倒しきった瑞鶴達。雪風の状態が心配だったのでなるべく急いで帰路につく。まもなく夜が明ける。水平線に少し光がこぼれる。

 

「わあ…海から太陽が昇ってくるよ。きれい…」

「昔は、こんな風にのんびり朝焼けを見ながらのんびり帰る…そんな余裕なかったもんなぁ…こんなにきれいだったんだな…」

 

瑞鶴と摩耶が朝焼けを眺めて感傷に浸る。かつての出撃ではそんなものを見る暇もなく、仲間を失った悲しみと戻った後の絶望が待ち受けているだけだった。今回は仲間も全員無事。そして気を付けて帰って来いと言う玲司の言葉が何よりも嬉しかった。晴れがましい気持ちでいっぱいだった。早くみんなの顔が見たい。玲司の顔が見たい。勝ったと報告がしたい。気持ちははやるばかりだった。

 

「んー!何だかお腹空いちゃったっぽい。提督さんに何か作ってもらおうかしら」

「ふふ…いいね、それ。僕も何か作ってもらおうかな」

 

「いいなぁそれ。私もお腹ぺこぺこ!」

「あっ、でもそれより、出撃でがんばったから頭をなでてほしいっぽい!ね、時雨?」

「え、ええ?僕は…僕はいいよ」

 

「あぁ?んだよそれ…」

「あー、あたしもそれお願いしよっかなー。頑張ったんだしー」

 

一連のやり取りをみた神通がクスクスと笑う。戦闘時の鋭い顔つきとはまったく違う。最後尾から一歩引いてみんなを見て穏やかな顔をしていた。

横須賀鎮守府の闇をも晴らすかのように、まぶしい太陽が姿を現した。瑞鶴達を照らし、暖かい光が降り注ぐ。まもなく母港。

 

「ん?あ、あれ、提督さんじゃん!」

「えっ…提督…待ってて…くれたんだ…!」

 

瑞鶴達の顔がほころぶ。皆を見つけて大きく両手を振っている玲司の姿があった。大淀や間宮もいる。母港で出迎えがあるのはもちろん初めての体験だ。笑顔で手を振っている玲司の姿を見て、こんなにも嬉しいことがあったのか、と摩耶や時雨は胸が熱かった。

陸に上がった彼女たちは一列に整列をし、玲司に敬礼を行う。

 

「旗艦瑞鶴。以下7名、全員…全員帰頭しました!」

「お疲れ様。瑞鶴。それにみんなも。おかえり」

 

「提督…ただいま…ただいま!」

 

おかえり。その言葉に感極まった時雨が泣き出した。単純にうれしかった。自分たちの帰りを待ってくれていたこと。そして、笑顔でおかえりと出迎えてくれたこと。帰ってくるなり罵倒された過去とは違う温かい気持ち。昔からその言葉を待ち焦がれていたかのように…。

 

「まずは雪風をドックへ連れて行ってやってくれ…。雪風…頑張ったな…おかえり」

 

眠ると言うか気を失ったまま目覚めない雪風の頭をそっと撫で、優しい笑みを浮かべる玲司。北上はその玲司の顔に、久しく見せていなかった笑顔を見せた。雪風を背負ったまま北上はドックへと急いで行った。手伝いにと名取も走っていった。

その姿を見送った玲司はくるりと瑞鶴達に向き直り、まずは瑞鶴の頭を優しく撫で始めた。

 

「瑞鶴。よく雪風を見つけてくれた。ありがとな…。お前のおかげだ」

 

そう言って玲司は瑞鶴の頭を撫でる。温かい玲司の手。そして優しく撫でてくれるくすぐったいような不思議な感触。褒めてもらえた嬉しさ。涙がこぼれるが悲しくなんかない。むしろ飛びはねたい気分だ。

 

「えへへ…えへへへ…何か恥ずかしいな…でも嬉しい!」

 

「摩耶。瑞鶴と協力してくれて雪風を探してくれてありがとな。助かった」

「な、何だよ…あたしは何も…って、頭なでんなこのスケベ!あたし達以外、他の鎮守府とかの奴らにはやるなよ!絶対だかんな!」

 

恥ずかしいからと怒鳴るけど、顔を真っ赤にして嬉しそうにしている摩耶。ちゃっかり自分たち以外にはやるな、と言う。

 

「時雨。自分から行くと立候補してくれてありがとな」

「ううん…雪風のためだもん…。僕は今回はあまり役に立てなかったよ。でも…嬉しいな…」

 

目を閉じて頭を撫でてもらう感触をしっかりと確かめる時雨。生きて帰ってこれたことへの喜び。そして死の恐怖。足を失うかもしれない重圧から救ってくれた玲司の優しさにさらに涙がこぼれる。

 

「神通。すごいじゃないか。初出撃とは思えない戦いぶりの報告。見事だよ」

「はい。全ては提督のために…。提督のお役に立てて…とても嬉しいです…」

 

強い眼差しで撫でられながら玲司を見つめる。その眼差しは尊敬の眼差し。そしてより玲司を崇拝する目だった。

 

「夕立。すっかり目の色やら何やら変わっちまって…すごいぞ。今回のMVPは間違いなくお前だ。よくやったぞ」

「えへへ…っぽいっぽい!」

 

眼が紅くなり。ちょっと大人っぽくなった夕立。しかし、性格まで変わったわけではなく、いつもの夕立と変わらない。満面の笑みで、尻尾があればぶんぶんと振り回しているであろう。

 

「よし。一旦艤装を置いて風呂に入ってきな。おにぎり握っとくからさ」

「っぽーい!提督さんのおにぎりー!お風呂いってきまーす!!」

「あ、夕立待ってよ!」

 

慌ただしく駆けていく夕立と時雨。クスクスと少し楽しそうに笑いながら続く神通。手を後ろに組んで行く摩耶。最後にみんなに「おいていかないでよー!」と走って追いかける瑞鶴。みんな、どこか嬉しそうだった。

 

「よかった…皆…無事に…帰ってこれたのですね…」

「当たり前だろ、大淀。俺はここのみんなを沈めるような作戦は組まない。まあ、ちっと神通が心配だったんだけど、杞憂だったみたいだな」

 

「はい…。提督。ありがとうございました…」

「よせやい。毎回そんな風にお礼を言うつもりかよ?そんなんじゃ疲れちまうよ。横須賀は生まれ変わるんだ。連戦連敗じゃなくて。連戦常勝。最強は横須賀のみんなだってな。だから毎回お礼なんか言うなよ?」

「……はい。提督。私も、共に提督とこの鎮守府で歩んでいきます」

 

「おう。よろしくな。大淀」

「はいっ!」

 

玲司が差し出した右手を両手でそっと握る大淀。このお方と共に。共に戦い。共に生き。共に未来を歩みたい。その先にどんな楽しいこと。幸せなことが待っているのか。この目で確かめたい。つらいこともあるだろう。何せ戦うために生まれてきた艦娘だから。けれど、それでも彼は自分たちを優しく包み込んでくれる。だからこそ、大淀はその手を取って決意したのだ。共に生きると。

玲司は柔らかな眼差しで大淀に大きくうなずいた。

 

「さて、おにぎりを作ってあげなきゃな。大淀も食べるか?」

「はい!お供いたします!」

 

「かってえなぁ、大淀は。もっと気楽に行こうや」

「え、ええっ…ですが、そのぉ…」

 

けらけらと笑って大淀をからかいつつ食堂へ向かう。顔を真っ赤にしてもう!もう!と怒る大淀。頭を撫でてやると途端におとなしくなるところがおもしろかった。

 

……

 

夕立達は風呂で冷えた体を温めてから来ると言う。明石が高速修復材を使い、雪風を玲司の部屋へ運んだ。と言うのも、雪風の部屋はあちこち血に塗れており、ここで寝かせるのはとてもではないが精神衛生上よろしくないだろうからと言う苦肉の策だった。血に塗れた部屋は、妖精さんが親指を立ててまかせろと言うのでそのままだ。きっと、一日も経たずにきれいになるだろう。

 

「肉体の傷は全然問題ないよ。ただ大問題なのは心だよ。まだ深海棲艦になる要因はあるだろうから、ここで負けてしまえば…悲しいけど誰かが葬らなきゃいけない。これは大鉄則だよね…」

「深海棲艦になってもうたら、ここの子ら。それに玲司。みんなを殺しにかかる。その際は…悪いけど始末させてもらうで…」

 

「心配ない。雪風は深海棲艦になんかなりゃしない。雪風は…勝つ」

「そうであってほしいもんや…夕立らには言わんけど。覚悟だけはしとかんと…」

 

「勝つ。雪風は深海棲艦になんか、な。俺は信じてる」

 

玲司は信じていた。雪風が。ショートランドにいたころのように。コロコロと表情が変わり、いつも笑顔の元気な雪風になってくれると。ショートランドの雪風とは違うが、それと同じくらいに笑って幸せを振りまく少女になってくれると。そう思いながら、おにぎりを作っていく。

 

今握っているものは何も入っていない。塩握り。それに味付けのりを一枚巻いただけ。シンプルイズベスト。だからこそ、出撃から帰ってきた艦娘には絶大な人気がショートランドではあった。争奪戦を繰り広げ、出撃した者もそうでない者も取っ組み合って取り合う姿が思い出される。

 

「提督さーーーーん!!」

 

そうこうしているうちに夕立がまた髪をべちゃべちゃに濡らしたまま飛んできた。一応バスタオルで髪とパジャマが直に当たらないようにしているが、パジャマにまで染み込んでしまうのは時間の問題だった。ふう、と少し困った顔をして玲司が笑う。

 

「こーら夕立!髪は乾かしてこいって言ったろうが」

「だってー、提督さんに乾かしてほしいんだもん!っぽい、ドライヤーもってきたっぽい!」

 

「しょうがねえなぁ…ちょっと待ってろ」

「んふふー。っぽいっぽい!」

 

手を洗ってから夕立の髪をドライヤーをあてて乾かしていく。龍驤と明石は目を丸くしてそれを眺めていた。

 

「な、なんやて…そんなんしてもろたことないで…!なんちゅう羨ましいことを…!!」

「ず、ずるい…。私たち、一度たりともこんな羨ましいことしてもらってない!」

 

「はー、ほら。乾いたぞ。夕立は長いのと髪が多いから大変だ…」

「んふー!さらさらっぽい!提督さん、ありがとうっぽい!」

 

「あ、あの…提督…。僕もよかったら…乾かしてほしいな…」

「なんだ時雨もかー。しょうがねえなぁ。ほら夕立、交代」

 

顔を上気させた時雨もまた、髪がベタベタなままやってきた。見かねたので時雨の髪も乾かしていく。その光景にさらに怒った表情にしていく明石と龍驤。食事を作ってもらったことはあったがこんなことはされた覚えがない。嫉妬の炎に身を焦がし、歯をギリギリと鳴らしてその様子を見る。実に見苦しい光景である。

 

「ほい、きれいに乾いたぜ。きれいに真っ黒だな、時雨は。扶桑のも見事だけど、時雨のもきれいだぜ」

「そ、そっか…ありがとう。嬉しいよ…」

 

「けっ、いっちょまえに色気づきよって…まあ、別に羨ましくもなんともないんやけどな!」

「そうだよね龍驤お姉ちゃん。別に私達もそんなことしてほしいなーなんて思ってないもんね!」

 

「あー、見苦し…さ、おにぎり握ろ…」

 

何かとぶつぶつうるさい二人を放っておにぎりを握る作業に戻る玲司。その何とも言えないコミカルな雰囲気に間宮は嬉しくなった。

 

それからしばらくして瑞鶴、摩耶、神通。そして北上も食堂にやってきた。目の前にあるおにぎりに目を輝かせていた。

 

「6人ともお疲れ様。ほぼ一日食ってないから腹減ったろ?好きなだけ食べてくれ」

「わあ、おいしそ!いっただっきまーす!」

 

瑞鶴が一つ手に取ると、それに続いて我も我もとみんなが一斉に手に取って頬張る。シンプルな塩とご飯の味。そしてちょっとだけ主張する味付け海苔の味と風味。すきっ腹にドンと来る。余計な味はいらない。6人は夢中で食べた。食べていると夕立が涙をぽろぽろと流しだす。それに続いて時雨。摩耶も涙を流す。

 

「うまいなぁ…うまいなぁ本当に…グスッ…」

「おいひいっぽいい…生きててよかったっぽい…」

 

全員無事で帰ってくるという初めてのこと。そしてすぐに食事にありつけること。それが何よりも、今。本当に生きているという実感。そして。ちゃんとみんなと一緒に同じものが食べられること。何よりもうれしかった。ほめてもらったことも。全てが感動の連続だった。ようやく、彼女たちの緊張がほぐれたようだ。

 

(何をボーっとしている?さっさと出撃せんか!飯?役立たずにくれてやる飯などあるか!!この愚図が!)

(貴様らなど食わずとも生きていけるだろう?ほら、燃料と弾薬だ。とっととそれを食って出撃だ!勝つまで帰ってくるな!)

(クハハハ!そうだ、貴様らは人間じゃないんだ!化け物らしく弾薬でも食っておれ!わかったか化け物!)

 

全てを忘れるには傷が深すぎた。これしきのことで癒える傷ではない。緊張もほぐれるものではない。少しずつ、彼女たちの傷は癒えていく。さりげないけれど大きな優しさを感じ取った彼女たちは、食べ終わるまでずっと泣いていた。そして、安久野から受けた傷を着実に。少しずつ癒していくのであった。

 

「はあ…お腹いっぱいだよ…ありがとう。提督。とってもおいしかった…ふぁあ…」

「ははっ、大きなあくびだな、時雨。よし、みんなはもう寝な。ほぼ丸一日起きてたんだからな」

 

「んん…そうする…ありがとう、提督さん。おいしかったよ」

「サンキューな…ふぁあああ…あたしももうねみい…寝る!おやすみ、提督、みんな!」

 

「私も失礼致します。おやすみなさい…提督」

「おやすみっぽいー…」

 

「大淀。俺も雪風の面倒を見て寝るよ。今日は何もしなくていいから、何かあったら起こしてくれ」

「かしこまりました。おやすみなさい、提督」

 

大淀に手を振って自室へと戻る。部屋には眠る雪風と、不安げに見守る北上の姿。

 

「北上。お前ももう寝な。雪風は後は俺が見るよ」

「…ん。そうだね…雪風のこと。頼んだからね…」

 

「ああ。任せな」

 

任せなの一言に北上は大きく安心し、あくびを隠しながら部屋を後にした。目が覚めた時。きっと雪風が自分の名を呼んでくれると強く信じて。

 

 

暗闇の中を走る。そこは陸なのか。海なのかさえわからない。滑るように走っているのできっと海なのだろうと、雪風は思った。ああ、またこの夢だ。夢の中であると理解した雪風は何となく次の展開が読めていた。

 

ドウシテ逃ゲルノ…

アナタモコッチニコイ

ニガナサイ…

 

強い怨念を含んだ声と白い手が水面から雪風に掴みかかる。姉に似た姿をした何かがニタリと笑って雪風に話しかける。

 

逃ゲラレナイッテ言ッタジャナイ…雪風ェ…暗イノ…寒イノ…ダカラ、一緒ニイキマショウヨオオオオオ!!!

海ノ底ハイイワヨォ…ダカラオイデヨ…クスクス

 

「雪風はそっちになんか絶対に行きません!!帰れるんだ…!みんなのもとへ!あのみんながいる鎮守府へ!!」

 

無駄ヨ…アナタハモウコッチ側ノモノヨ!!チカラヅクデ連レテイッテヤル!!!

 

「ぐっ…ああ!負けるもんか!負けるもんか!!!」

 

――――助けて…!しれえ!!!!

 

以前と同じように深い闇の底に引きずり込まれる雪風。その絶望に小さな体で必死に抵抗するも、足がずぶりずぶりと沈んでいく。ああ、助けを呼んでもここまでか…深い絶望に飲まれかけたとき、聞き覚えのない声が聞こえた。

 

(全砲門!ファイアー!!!)

 

掛け声と共に轟音が響き渡り、閃光が闇を照らした。それと同時に雪風を引きずり込もうとしていた深海棲艦のようなモノが何かに思いきり吹き飛ばされた。

 

ガアアアアアア!!!????

 

直撃を受け、のたうち回る何か。何だ。何が起きた!?誰もが理解できなかった。

 

すっと雪風の前に背を向けて立ちはだかるのは巫女服のような服を着た、背の高い誰か。大きな艤装と大きな砲塔。頭には二つの団子のような形をした髪を結い、雪風の方を向いてニカッと白い歯を見せて笑っていた。

 

(よく諦めなかったネ。あなたは強い艦娘ネ!そして、あの人の艦娘だから。あなたを守りに。そしてあの人の下へ返すために。ワタシはここに呼ばれたみたいデース)

「あ、あなた…は?」

 

(まだ…まだあなたには風が吹いています…だから。あの人を…提督を…守って…!)

 

今度は雪風を優しく誰かが後ろから抱きしめていた。誰かはわからない。しかし、その温かさは彼に似ていた。頭がジーンとしびれる。おそるおそる振り返ると、前で背を向けて立っている艦娘?と同じように巫女のような服を着た黒い長い髪の女性が雪風を包み込むように抱きしめ、深海棲艦の手から雪風を守っていた。

 

(生きて。あの人と共に)

(こっちにきてはだめ)

(私たちが守るから)

 

雪風の周りに温かな光が灯っていく。雪風はその光を追った。光の一つ一つが雪風に声をかけていく。やがてその光は大きな光の柱となり、雪風から闇を完全に払った。

 

キ、貴様ラ…雪風ヲ返セ!ソイツハモウ私タチノ仲間ダ!!!!

 

(ノンノン。雪風はあなたたちの仲間ではありまセーン!この子はあの人のところに帰るべき子デス。ちょっとおいたが過ぎましたネ。とっととこの子から出ていけ!)

 

ガコオンと主砲を構える。その巨大な砲はおそらく戦艦のものだ。当たればひとたまりもない。その砲塔に怯える深海棲艦。その成り行きを見守る前に、光に雪風が吸い込まれるかのように浮かんでいく。

 

「あっ、あっ!ま、待って!」

 

抱きしめてくれていた人の手を放したくないと手を伸ばしたが、するりと手がほどけ、そのまま遠ざかっていく。二人の女性が上を見上げ、笑っていた。

 

(あの人を頼みましたヨー!すーぐ無茶するからネー!)

(みんなと共に…提督の側にいてあげてください。それが、私たちの望みです)

 

頼みました。任せました。生きて。たくさんの言葉を聞いて雪風はさらに眩い光の世界へと吸い込まれていった。最後に聞こえた言葉は…

 

(バーニング…ラーーーーブ!!!!)

(勝手は!〇〇が!許しません!!!)

 

と言う言葉と戦艦の静寂を引き裂く砲撃の爆音であった。雪風は太陽の下のような眩しい白なのか何かわからない世界に立っている。その遙か向こうに人が2人立っている。その2人は優しく笑っていた。

 

「何してんのさー。早くおいでよ、雪風」

「行こうぜ。帰ろう、俺たちの家に。雪風」

 

「しれえ…北上さん!!」

 

雪風は2人のところへ走り出す。走った。転んだ。痛くない!また夢中で走り出し、北上に抱きつき玲司に頭を思い切り撫でられた。大声をあげて泣き出す雪風。やがて温かな光に包まれて視界が白一色となった。

 

(あとは頼んだヨー…)

 

 

柔らかな日差しで目が覚めた。いつものように飛び起きるわけではない。暖かい布団。冬だけれども暖かい日差し。温もりが雪風を包んでいた。

 

「……ここは…?」

「俺の部屋だよ」

 

ふと横を見ると、どうしても会いたかった一人。玲司が笑みを浮かべて座っていた。目に涙を浮かべて飛び起きて玲司に抱き着いた。会いたかった。抱きしめてほしかった。…また、会えた。

 

「ううう…しれえ…しれえ!」

「おはよう、雪風。こいつめ、心配かけさせやがって」

「あうっ…ごめんなさい…」

 

撫でていた頭を力をこめずにグリグリとする。そのちょっとした痛みでさえ今は心地よかった。すぐに撫でるに戻り、気持ちよさそうに目を閉じる。目を閉じてもあの光はない。

 

「さ、お腹すいたろ。もう2日ほど何も食べてないだろうから。ほら、塩にぎり」

 

小さな三角形のおにぎりが3つ。おずおずと手に取って、一口小さくかじった。一回一回噛み締めるたびに、米の優しい甘味とさっぱりとした塩の味。その絶妙な味加減が雪風の口の中で跳ね回る。

 

「ぐすっ…おいひい…おいじいでず…ぐずっ…」

「ゆっくり食べな…。そっか。おいしいか」

 

無言でうなずいてひたすらに食べた。空腹と。そして今までの寂しさや悲しみを埋めるかのように夢中で。

 

……

 

「さて、これからのお前のことなんだが」

「はい…雪風はここに居たいです…ですけど、雪風はいつ深海棲艦になるかわかりません。その時にはしれえにもご迷惑がかかります…」

 

「深海棲艦になる要因なんざ艦娘には誰だってある。北上だって、一歩間違えて居れば深海棲艦になってたかもしれない。みんな海を走って呪いをかきあつめてなっていたかもしれない。それはただの要因でしかない」

「しれえ…」

 

「難しいことを言っちまったな。まあ、誰にでも深海棲艦になってしまうかもしれないってことだ。お前はちょっとその確率が高いかもしれないだけで。けど、俺がそうはさせない」

 

雪風の手を取って玲司が強く言う。その目はまっすぐで確かな信念の炎を纏った目をしていた。

 

「この鎮守府にいる子たちは、俺がいる限り。誰一人として沈めない。そして深海棲艦になんかさせない。そのために俺はここへ来たんだ。だから、雪風。俺を今すぐ信じてくれとは言わない。けど、もう誰も。辛いことや悲しいことはさせない。俺に着いてきてくれないか?」

 

「本当なら…解体をお願いしようと思っていました。でも…でも、雪風はここが。司令…北上さん。みんな。みんな大好きです…だから、雪風も司令と一緒に戦いたい。みんなと笑って生きていたい。…ここに、いたい!雪風はここに、居たい、です!!」

 

カシャンと何かの音が聞こえた気がした。過去のしがらみとの決別。死神と呼ばれた過去。けれど今度こそ。自分の幸運を存分に発揮してみんなと海を駆け、ここに帰ってくる。そう決意して雪風は玲司に強く抱き着く。

 

「しれえ…。雪風は何かあったら泣いてしまうかもしれません…そのとき…司令は雪風を、助けてくれますか?」

「当たり前だろ。俺たちはみんなで一つだ。何かあったら遠慮せず来い。いいな」

 

「…はいっ!雪風、いつまでも司令と共にがんばります!」

「ははっ、頼りにしてるぜ、幸運の女神さん?」

 

「えへへ…しれえ!雪風、まだ眠いです…お休みしたいです!司令と一緒に!」

「わかったわかった。俺ももう限界…ほら、寝よう…おやすみ…」

 

玲司と共に布団に入り、玲司の手を握って眠る。スルスルと眠りに落ちていくがもう怖い夢を見ることはない。その寝顔は今までの何かに怯えるような寝顔ではなく、笑みを浮かべているようだった。

 

……

 

昼過ぎ、目を覚まして食堂へと向かう。手を繋いで現れた玲司と雪風に歓声があがる。雪風は北上を見つけるとすぐに走って飛びついた。

 

「北上さん!この前は北上さんを新しい人なんて言ってごめんなさい…」

「いいよ…そんなの…またあたしの名前を呼んでくれて…それだけで嬉しいよ…」

 

「北上さん…雪風、ただいま帰りました!」

「うん…おかえり…雪風…」

 

「んだよぉ…泣けるじゃねえかよぉ!」

「ううっぐすっ…ゆぎがぜじゃん…よがっだよぉ!」

 

「何泣いてんだか…阿武隈も摩耶も…。ま、五十鈴も嬉しいんだけど」

「あはは、五十鈴姉…でも、よかった」

 

「さあ、腹も減ったし飯にすっか。今日のリクエストは雪風!何がいい?」

「えっ。えーと、えーと。しれえのオムライスがいいです!」

 

「おーし、任せとけー!」

「提督さんのオムライスだー!やったー!」

「もう、瑞鶴ったら…」

 

雪風のリクエストはオムライス。初めて食べた時のあのおいしさが忘れられなかった。けど、今日食べるものもきっと最高においしいだろう。何と言っても、もう何も怖いものを気にすることはないのだから。

出来上がったオムライスを口の周りを真っ赤にして食べた。途中で北上に拭いてもらったりしながら夢中で。その味は、何よりも格別だった。

 

/雪風の日記

 

12月10日

 

今日から新しい日記ちょうに日記を書いていきます!

 

今日はとてもうれしい一日でした!しれいといっしょにねてお昼ご飯にオムライスを食べました!とってもおいしかったです!

北上さんと一緒におふろにも入りました。北上さんが頭をあらってくれてすっきりです!

 

もうこわいものはありません。だから、みんなといっしょにがんばっていきたいです!

 

しれい。北上さん。大好きです!!!




雪風編、ようやく終わることができました。遅くなってしまい申し訳ありません。

この世界にはブラックがたくさんです。そこで助けを待つ艦娘を助け、共に戦うようになり、最後にはハッピーエンドで終わりを迎えることができるよう、頑張っていきたいとおもいます。

次回もよろしくお願いします
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