提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百七十五話

「ええ!?今横須賀の艦隊が戦っていた地点へ向かうんですか!?」

 

帰投許可が三条提督、及び自分の基地の刈谷提督からも出ているのだが、アイアンボトムサウンドの支援砲撃のサポートとして、恐ろしいまでの正確無比な距離測定、修正を行い、多くの敵を倒すことに寄与した村雨が、考えられないことを言い出したのだ。

 

横須賀のアイアンボトムサウンド殲滅部隊が戦った跡地へ向かうと言う。こちらは村雨の指示により忙しなく動いたため燃料も戦闘ができるほどの分は残っていないし、弾薬も撃ち尽くした。そんな状態で戦地へ向かい、万が一敵艦隊がいたらもはや何もできないだろう。徒手空拳でもやって戦うしかない。

とてもではないが正気の沙汰ではない。

 

「何か理由があるのですか?そうでなければさすがに…」

 

自ら死にに行く気はない。事情が明らかでもないのにいきなり向かうと言われても、榛名と綾波は従うつもりは毛頭ない。

 

「どうしても行かなきゃいけないんです。なんなら、刈谷提督の補給艦隊の殲滅隊と合流して帰投してください。事情は…」

 

「話せばいいんじゃないかしら。まあもう帰るって言うならいいけど」

 

「い、いえ…このまま榛名達だけ帰ると言うのも…」

 

「別に、これは私たちの秘密の任務だから帰ってもらって構わないのだけれど。ウォースパイトさんやアークロイヤルさんには申し訳ないけど伝えてあるからついてきてもらうけど…」

 

「ええ。私達は構わないわ。大切なMissionですもの」

「ああ。それは私も同じだ」

 

山城の言い方は冷たいが、別に無理してまでついてきてもらう必要はないと言うことである。危険も伴うし、会敵してしまった場合は成す術もないのだから。わざわざ危険な行動に付き合ってもらう必要もない。ここから刈谷提督の龍田率いる補給部隊殲滅部隊に連絡を取って合流し、そのまま帰投すれば問題はないのだから。

 

しかし、村雨も山城も、ウォースパイトもアークロイヤルも。絶対戻らない。そして絶対に行くと言う強い信念を持った目をしていた。ミッション…任務…?秘密の任務?

 

「秘密の任務…ですか」

 

「そうよ。仲間を助けに行くための」

 

「仲間!?」

 

「説明している暇がありません!行きましょう!!」

 

「ええ。そうね」

 

「OK、ムラサメ。行きましょう」

 

「一応、まだ私はスイセイを飛ばせるぞ。爆撃ならできる」

 

もはや一刻の猶予もないような状況らしい。

 

「…わかりました。榛名もお供します」

「榛名さん!?」

 

「燃料は戦闘できるほどありませんし、弾薬はありませんが…このまま私達だけ帰投すると言うのは…」

 

「で、ですけど…し、司令官に報告を!」

 

「それは絶対にダメです!!情報が漏れちゃう!」

 

「まあ、移動する場所はバレるでしょうけどね。ただ、何をしているかがバレたら困るのよ」

 

「無線封鎖…ですか。助けを求められなくなりますが…」

 

「その時はその時よ。不幸だわってあきらめるしかないわね。けど、だからと言って放っておくわけにもいかないのよ」

 

そういえば、と榛名は思う。この山城は確か鹿屋基地から異動した山城だ。鹿屋に居た時は何もせず、髪も目の下くらいまで前髪が伸びていて表情もわからず、何をするにも不幸だわ…と言っていたはず。

 

今の山城は目に光が灯り(うっすらとだが目が死んでいたのを見た覚えがある)、こうして何か大事なことをやり遂げるためにまっすぐな目をしていた。砲撃の際も澄んだ、それでいて迫力のある声であった。鹿屋では聞いたことのない声。そして、何より砲撃だ。自分たちでは当てるが不可能な距離の敵に正確に攻撃を当てた。

敵に近づけば百発百中。その砲撃の精度は異常なほどに精密であった。

 

村雨の砲撃の修正指示もすさまじかった。風の流れ、抵抗、距離。全てを一瞬で計算して高度、ズレを補正した。こんなことを戦闘中に思ってはいけないのだろうが、おもしろいくらいに敵に命中した。

 

それはさておき、緊急を要する事態なのだろう、と榛名は察した。そして、きっと…提督に対して大いに敵対心を持っている大府提督には知らせたくない話なのだろう。綾波へ提督への報告を封じた榛名のとっさの判断は正しかった。

 

「村雨が先行します!ついてきてください!」

「いいえ、私が出るわ。足は遅いけど、いざと言うときに盾にはなれる」

 

「山城さん…それは」

「万が一戦艦の一隻でも生き残っててあんたが直撃して沈んだら?もう雪風さんどころの話じゃないわ」

 

「わかりました…」

「私も前に出るわ。これなら問題はないでしょう?」

 

「ええ、助かります」

「空からの警戒は私に任せろ。もう夜が明ける」

 

「な、なら榛名は後方の警戒に回ります!」

 

「そう。ありがとうございます」

 

山城がそっけなく言うが、あの山城がそう言うことを言うのが榛名には驚きでしかないのだ。その後は静かに戦地あと、Kポイントへ向かう。

 

………

 

「見つけたぞ!This way!」

 

K地点に近づくにつれ、日が昇ってきたのでいち早く艦載機を飛ばしたアークロイヤルが見つけたようである。アークロイヤルが指さす方向へ村雨が急加速していく。

 

雪風、と言う名をさきほどチラリと聞いたが一体何があるのか…。榛名は固唾を飲んで目的の地点へ向かった。

 

 

「雪風ちゃん!!!!!」

 

村雨が叫ぶかのように名を呼び、駆け寄った。そこには艤装が見るも無残な姿になり、体中もボロボロの白い服を着た艦娘が座り込んでいた。沈んでいないのが不思議である。

 

「雪風ちゃん!雪風ちゃん!!」

「村雨、あまりゆすってはダメよ…生きてる?」

 

「山城さん…雪風は沈みません」

 

村雨の叫ぶような声と山城の問いかけに目を開け、ゆっくりと…そう言って小さくブイサインをして見せた。

 

「ユキカゼ…もう大丈夫。さあ、ここに座りなさい」

「いいんですか…?」

 

「ええ。もちろん。眠りなさい。疲れたでしょう」

「はい…雪風、とっても疲れました…しれえに早く…会いたい…な」

 

「会えるとも。Admiralもきっと、首を長くして待っているだろう」

 

「よーし、これにて任務完了!アイアンボトムサウンド、作戦完了し、帰投しまーす!あ、でもまだ提督達へは内緒ね」

 

「はあ、やっと帰れるわね。疲れたわ」

「ふう。Admiralの支援ミッションはかなりハードね…」

 

「ああ、私に合わせるのはね…」

「でも、素晴らしい砲撃でした。命中率もすごかったですし」

 

「ああ、何発か外したわね…まあ、暗いし慌ててたしね…」

 

チッと山城は舌打ちした。完璧に全部当てたかったのに外してしまったことにかなりの不満を覚えているようだ。

 

「あの…その…雪風ちゃん…何があったんですか…?」

 

「ええっと…話をすると長くなるんですけど、大丈夫ですか?」

 

「え、ええ…ここから龍田さん達との合流までは時間もありますし…」

「と、言うか付き合わせてごめんなさい。ちゃんとこれから話しますけど、そちらの提督にだけお話しくださいね」

 

「わかりました」

 

「えっと、これは私の提督が雪風ちゃんとお話していたのを聞いていたんですけど…」

 

………

 

サブ島に出撃するメンバーと大淀、鳥海、妙高、それから明石を集めてのミーティングが行われた。そして、玲司は驚くことを口にした。

 

「今回の作戦は大府提督が総指揮をする。つまり、俺の命令で撤退ができない。おまけに…大淀の計算ではまずこの最初の夜戦、Iポイントで誰かが大破する確率がほぼ100%。つぎのKポイントで轟沈する確率が80%…との計算だ」

 

その言葉にアークロイヤルやウォースパイトは耳を疑った。普段あまり表情を変えない山城でさえ、その言葉に目を大きく開いていた。

 

「兄さん、マジで?」

 

「ああ、霧島もこの話は聞いていた。俺だってこんな作戦は参加させたくないんだけど…参加しなかったらまず俺はここを去らなきゃいけないだろうし、お前たちの行く先はどうなるかもわからない。だから俺は大淀とここ数日、ずーっと話してた。どうしたらみんな無事でこの夜戦地獄から帰ってこさせることができるかを」

 

兄と大淀なら必ずいい結果を出してくれるに違いない。川内もそう気楽に構えていた。だが、現実はそう甘い物でもなかった。

 

「大淀と鳥海、霧島、妙高。うちのブレインが3日3晩シミュレーションしたとしても、Kポイントで必ず誰か1人が轟沈するんだ」

 

「じゃあ手詰まりじゃん。兄さんが去っても終わり、誰かが沈んでも終わりのこの鎮守府だよ?この作戦で横須賀鎮守府は終わりってこと?」

 

「しれえ…」

 

「そう。このままはいはいと大府提督の指示に全部従っていたら、と言う話になる。だから、俺と大淀、それから艤装のことについては完璧な明石とである作戦をやろう、と思った」

 

「ある作戦?」

 

「雪風や村雨は聞いたことがあるかな?名取がどうやって安久野の目を盗んで大本営に助けを求めたのか」

 

「あります!」

「あります…でもそれって…」

 

「可能性の低い全員での帰還の可能性をわずかでも上げられるなら…と言うことでだ。やってみる。どうも大府提督は俺の艦隊の誰かが轟沈してほしいみたいだしな」

 

「はあ!?何それ、ふざけるんじゃないわ!」

 

珍しく山城が声を荒げた。ここに来て数ヶ月。随分と山城も変わったものだ。最初は姉様…つまり扶桑以外にはあまり興味を持たなかったのだが、今では村雨といることが多いし、何だかんだと横須賀鎮守府に打ち解けている。

 

「仲間を守るためだったなら…そうね、村雨がいるなら10キロ先の敵だって当ててやるわよ」

 

そう言って横須賀の皆を『仲間』と言い、仲間を守るためならどんな距離でだって当ててみせる。ただし、村雨がいないと困る、と村雨に100%の信用を置いている。扶桑だけでなく、山城も漣や不知火と同様に、ここを最後の安住の地として認識している。

 

「だから大府提督の目を欺くために、名取がやったことを…誰かにやってもらおうと思う」

 

霧島、川内、最上、三隈、響、雪風。6人の顔が強張る。簡単に言ってしまえば沈んだフリをしてもらうわけだが、名取はうまくいった。今度もうまくいくかわからない。それに、激戦区であるがため、万が一撃ち漏らしていて敵にでも発見されたら確実に命はないのだ。

 

「あたしがやります!!」

「雪風…!!」

 

すぐさま手を挙げて名乗り出たのは雪風だった。響が目を疑う。なぜだ。なぜそこまで危険なことに自ら手を挙げて名乗り出るのか…!

 

「雪風…」

「雪風は…ぜっったいに沈みません!幸運の女神がついていますから!それに…みんなを信じていますし…しれえも信じていますから!!」

 

まっすぐに雪風は今この場にいる皆を見渡し、笑顔でそう答えた。その目は一点の曇りもない。

 

「だ、だが沈んでしまう可能性もある…もう嫌だ、友達が…沈んでしまうところを見るのはもう嫌なんだ…」

 

「響ちゃん、絶対大丈夫!」

 

どこからその自信がくるのか。雪風は沈まない、大丈夫を繰り返す。

玲司はどうしてこんなことを艦娘にさせなければならないのか、と言う怒りと悲しみに包まれ、胸が苦しくなった。軽度だが深海棲艦の血が活性化している。頭が痛いし吐き気がする。でも…今はそれどころじゃない。

 

「提督、目が…」

 

大淀に気づかれてしまった。眼が少し蒼く揺らいでいるのだろう。暖かみのある眼から冷たい眼に変わっているのだろう。

 

「……すまん、大丈夫だ」

 

「しれえ、雪風は必ず帰ってきます!だから、その役は雪風が引き受けます!!」

 

強い目だった。茶色の目がしっかりと玲司を見つめた。痛いだろうし辛いだろうに。死ぬかもしれないだろうに、なぜそんな目を輝かせて雪風は矢面に立つのか…。

 

「だって好きだもん!みんなが、ここが、しれえが!!」

 

その言葉にウォースパイト、アークロイヤルは目が熱くなった。この鎮守府の信頼、友情、絆の結びつきがとても固い。決してほどけないであろう絆。Admiralだけじゃない。ここにいる艦娘は全て、Admiralと固い絆で結ばれているのだ。だから雪風はAdmiralや仲間を信じて、進んでこの危険なミッションを引き受けた。

 

玲司は立ち上がり、そのまま雪風を抱きしめた。

 

「しれえ?しれえ…?」

 

雪風は玲司が震えていることに気が付いた。玲司が声も振るわせて喋る。

 

「ごめんな…ごめんな雪風…こんな…こんな危ないこと…ほんとはさせたく、させたくない…ごめんな…雪風…ごめんな…」

 

玲司は泣いていた。どうしてこんな危険なことをこの小さな体で大丈夫と言ってのけるのか。しかし…やはり…玲司としては申し訳なかった。こんな捨て艦みたいな作戦…。それを雪風がしっかり受けますと言ったこと、言わせてしまったこと。悔しかった。悲しかった。怖かった。

雪風を失うかもしれない恐怖が玲司を包む。

 

「しれえ!大好きです!」

「しーれーえー!」

 

深海棲艦になる寸前だった雪風を何とか救い、それ以降やや遠慮がちだったが、紆余曲折合ってすっかり懐いてくれた雪風。一緒に寝たりもするし、響にそそのかされて一緒に風呂にも入ったな…。いろんな雪風との思い出が蘇る。死なせない。死なせたくない。

 

「しれえ。雪風は必ず帰ってきます。だから、泣かないでください」

 

雪風はにっこり笑って玲司の頭を撫で、そのあと玲司の頬に手を当てた。

 

「ゆきかぜ…」

 

「しれえ!帰ってきたらオムライスを作ってください!」

 

「……わかった。最高においしいのを作ってやるからな」

「しれえのオムライスはいつだって最高です!」

 

「あ、いいこと思いついた!はいはーい!提督、いいですか?」

 

「ん?村雨、どうした?」

「私達が雪風ちゃんを救出しに行った際に、雪風ちゃんを無事救出できましたら『異常なし』って言いますね?そうすれば、怪しまれないと思うんです」

 

「グスッ、そうだな。そうすれば誰にもわからんもんな。よし村雨、それで行こう」

 

「了解でーす!」

 

「霧島、みんな…すまん、雪風を…守ってくれ」

 

「了解です、司令。必ずみんなで帰ってきて、オムライスを振舞ってくださいよ」

 

「もちろん!」

 

「はーい。じゃあ作戦はわかったのでこれから雪風ちゃんの艤装についていろいろ説明するね」

 

やたらと細かい雪風の艤装の図だった。どこをどう破壊すれば電源が失われ、レーダーから消えるのかを丁寧に説明する。

 

「北上さんが撃ったときもたぶん妖精さんがギリッギリのとこを撃ってたんですね。外して違うとこ撃ってたら名取さんは沈んでました。別に今回は艤装をジャイロコンパスや電源喪失まで破壊しろってわけじゃないから、ここをとにかく撃ってください。川内姉さんか響ちゃんの砲撃がいいでしょうね。最上さん達以上になると砲撃も強力ですから危ないですね」

 

「わかった。川内のでも大丈夫?」

 

「うーん、響ちゃんだけのがいいかぁ…」

 

「…気は進まないが全員で帰るための作戦ならやろう」

 

「響…すまない…俺は…お前の言っていた『また仲間を沈めるのか』と言う問いに…」

 

「いや、私も早とちりがすぎた。司令官がそんな、前のアイツみたいなことをするはずがないって信じているから。私も…雪風を沈めないようにがんばるよ」

 

「響…ありがとう」

 

「では…作戦は決まりですね…では、これよりアイアンボトムサウンドでの動きについて私と鳥海さんが説明します」

 

明石の艤装の破壊の方法、そして今度は大淀と鳥海の作戦説明。雪風の命運…いや、横須賀鎮守府の行方を左右する決死の作戦。全員で生きて帰ると言う目標があるため、支援砲撃部隊の艦娘も全員が真剣であった。山城は特に、普段の気だるそうな顔とはまるで違う、『鬼神』扶桑のような迫力があった。

 

………

 

驚くべき作戦であった。まさか、艦娘が自ら艦娘の艤装を破壊する作戦など考えもつかなかった。たしかに、雪風のボロボロの艤装の一か所だけ、何かで撃ち抜いた穴が空いていた。ここが…レーダーの部分で響は正確にここを撃ち抜いたのか…。彼女の射撃能力もすごいものである。

 

「すっかり夜が明けちゃった。潜水艦とかが警らを始めたりする前に早いこと帰りましょう。あ、そうだ。提督に帰還の報告をしなきゃ」

 

どうやら通信を解禁するらしい。横須賀の三条提督への連絡を村雨が始めた。

 

「こちら横須賀、鹿屋合同支援艦隊の村雨です!聞こえますか、提督?」

 

『こちら横須賀司令部。聞こえるよ。どうした?』

 

「私達、K地点に到着しました。周囲に敵影、反応、なしです」

 

『そうか…』

 

提督は緊張した声だった。少し上ずっている。

 

「はい。K地点()()()()!弾薬が尽きておりますので撤退の許可をお願いします」

 

村雨の異常なしと言う言葉に山城も小さく笑っている。ウォースパイトやアークロイヤルもふう…と安堵の息を漏らした。

 

『了解した。撤退の許可はこっちで任されているから、撤退を許可する。気を付けて帰ってこい』

 

「了解しました。では、これより帰還致します」

 

プツリと無線が切れる。切れたのだが

 

『こちら鹿屋司令部。補給艦討伐部隊、帰還しろ』

 

『了解しました~』

 

刈谷提督からの無線も入った。榛名達も安心した。皆さん、ご無事だったのですね…と思い、こちらもふう、と息を吐いた。

 

おそらく大府提督の艦隊と三条提督の艦隊…雪風以外はこれからさらに戦闘だろう。三条提督の艦隊は無事でしょうか…そう榛名は祈るしかなかった。

 

………

 

龍田たちは撤退の命が出たようだが合流には至らず、安全圏に入ってから榛名と綾波と別れ、母港に帰ってきた。玲司が泣きながら雪風を労り、村雨達にもゆっくりと休むよう指示をした。

 

夜に玲司のもとへ刈谷提督から電話があり「やるじゃねえか。褒美に九州のいい酒の詰め合わせ送ってやるから飲め」と大変機嫌のよさそうな感じの声であった。龍驤に見つかるとややこしいな…そう思い、隠し場所を考える玲司。

 

それからほぼ1日空けるような感じで川内達が帰ってきた。最上が大きく手を振ってきたので玲司も大淀も手を振り返す。間宮も大げさなくらい手を振る。

 

「あれ?最上…お前…」

「あはっ、さすが提督!よく見てるなぁ。うん、なんか改二になっちゃった」

 

にへーっと笑っている。大淀や間宮としてはこんなんなっちゃいましたって軽く言っていいレベルではないんだけど…と思う。

 

「なるほど、最上さん中破と聞いていましたが、最上さんが途中で改二になり、傷や弾薬などがなぜか治り、戦力が増強して戦況は変わった…?」

 

「あー、南方棲戦姫との戦闘であったまきちゃってこうなったから、Kポイントで持ち直したわけじゃないよ。あ、ごめん。南方棲戦姫は逃がしちゃった…」

 

「いえ、それでいいのです。恐らく、と言うかほぼ確実に逃げられるように刈谷提督が穴を空けたのですから」

 

「何ですかそれ。それじゃあこの作戦は刈谷提督のせいで失敗…?」

 

「いいえ。いいえ。そういうわけではないんです。あえて逃がした、と思っています。ですが、意図までははっきりわかりません。刈谷提督から提督への伝達もありません。一見すれば、刈谷提督のミス、と言うことになりますが…」

 

「……何を思って逃げ道を作ったか。単に大府提督の失敗を促すためだけじゃない。これでは自分もバッテンがついちまうわけだから…あー、クソ。ほんとあの人の考えはわかんねえ」

 

「寝ていないから、と言うのもあるでしょう。雪風ちゃんが提督のベッドで寂しそうに寝ていますよ」

 

目の周りを隈で黒くしながら頭をガシガシかきながら考えるが、考えが一切まとまらない玲司。

 

「司令。雪風さんへの作戦の行方と作戦報告全ては明日、司令が目を覚ましてからご説明致しますのでとっとと寝てください。オムライスも明日お待ちしています」

 

「霧島、お前ほんと俺にきついな…」

 

「知りませんよ。何か知りませんが司令にこう言えみたいにスルスルと口から出るんです」

 

(……口うるさいところがアイツに似てる…と言うかほんとに乗り移った感じだな)

 

「何ですか?何か言いたそうですけど」

 

「いや、何でもない。わかった。おにぎりは作ってあるから入渠して疲れを取って食べてみんなも休んでくれ。俺も寝る」

 

「司令官、あとでお邪魔するよ」

 

「はいはい…」

「はいはーい!村雨もいいですかー!?」

 

「わかったわか「村雨、帰りを心配していたよ。僕も心配で眠れなかったから僕と一緒に寝ようね」

 

「ぽい。夕立も心配で心配で8時間しか眠れてないっぽい。だから時雨と夕立と寝るっぽい」

 

「え、えー!そ、そんなぁ…」

 

目が笑っていない時雨。今にも牙を剥きそうな笑顔をしている夕立。村雨はズルズルと引きずられながらドックの方へと連れて行かれた。

 

「響ちゃんずるいのです!!電も一緒に寝るのです!!」

 

「わーかったからもう寝かせてくれー!!!」

 

ふふ、と霧島は微笑んだ。

 

「あーあ。ボクも疲れたなー。改二ってすごいチカラは出るけどその分疲れるねー」

 

「そうですね。私も疲れました。よし!ゆっくりお風呂に入って寝るとしますか!」

 

「ふふ、お疲れ様でした。三隈ももう眠いですわ」

 

「今日はゆっくりしますか!三隈さん、背中、流しますよ」

 

「じゃあボクは髪を洗おうかなー」

 

「まあ、嬉しいですわ。くまりんこも洗いますよ♪ところで…川内さんは…」

 

「わー!ここで寝ちゃダメだって!!!」

 

川内が静かだと思ったら地面に突っ伏して寝ていた。行き倒れのようだった。慌てて霧島と最上が抱き上げ、風呂に連れて行った。

 

「相変わらず騒がしいですね」

 

「あら、でもそれがいいんじゃないですか♪よかった…皆さん無事で。いつもそう思います」

 

「ええ。私もそう思います。誰一人欠けても…この横須賀は終わってしまいますから」

 

大淀も玲司がいるからこそもっているとわかっているし、大淀も玲司に依存している。玲司は寝ていないが大淀は仮眠を取れなど自分に厳しく艦娘に甘い。そこをもう少し改善してほしいものだ…と思っているのだが、それが言えない。霧島がそのあたりをズバズバ言ってくれるから助かっている。

 

「刈谷提督は何を…まさか…」

 

「大淀さん、どうかされましたか?」

 

「いえ、ある考えが浮かんでいまして…実は…」

 

それを聞いた間宮は自分の耳を疑うような話だった。戦闘のことはわからないし、今の状況がどんな状況かもわからない。しかし、大淀の考えがもし当たりであれば刈谷提督と言う人の作戦はとんでもないものだ、と思った。

 

「ああ、提督に伝えたいけど…うう…あ、そうだ!高雄ちゃん!」

 

高雄の名を呼ぶと走って私室へ戻って行ってしまった。高雄。大淀が言うには大本営の「原初の艦娘」であり「未来視」と言う名がついた提督の姉的存在、そして大淀の大切なお友達だと言う。

お友達かぁ…あ、でも私にも紫亜ちゃんや茉莉ちゃんがいるか、と思うとお友達っていいな、と思う間宮。軍師同士、きっと私にはわからない会話が繰り広げられるのだろう。

 

「あ、ま、間宮さ…ん。夕飯の…仕込み…」

 

「あら、もうそんな時間?じゃあ今日も頑張りましょうか!」

 

「はい。よろしく、お願い…します」

 

茉莉と今日は何が食べたい?と言う話をする。あ、あう…え、えび、フライと恥ずかしそうにいうのがかわいすぎたので頑張っておいしいエビフライを作ろうと思った。

その日の夕飯はサブ島から帰ってきて眠っている艦娘を除いては全員集合し、雪風の安否が気になっていた日に比べて賑やかな夕食となった。

 

 

翌日、サブ島に出撃したメンバーが執務室に集まった。

雪風は玲司の膝の上に座り、頭を撫でられていてご機嫌である。響も玲司の傍から離れず、大淀の椅子を奪って玲司の隣に座っていた。川内はまだ寝ているのか立ちながらよだれを垂らして寝ている。

 

「みんな、良く帰ってきてくれた。本当に…本当に頑張ってくれた…ありがとう」

 

「作戦がうまくいってよかったです。響さんの耳が雪風さんを救いました」

 

「そうなのか。響、すごいじゃないか」

 

「スパシーバ。私も正直耳で聞いて体が勝手に動いていたからね」

 

………

 

雪風が大破し、動けない状態で響と三隈で何とか雪風を守っていた。

 

「何としてでもあの作戦を発動するまでは雪風さんをもたせてください!!!」

 

「リ級だ!リ級の魚雷はやばい!砲撃もやばいけど魚雷はもっとやばい!!!!」

 

霧島と中破しながらも奮闘する最上の怒号が響き渡る。雪風を守るための必死の砲撃だった。南方棲戦姫?そんなの関係ない。仲間を守るために弾を撃ち尽くせ。そんな鬼気迫る猛攻を続けていた。

 

「……雪風!」

 

川内が名を呼ぶ。雪風は動けない状況だ。だが何か嫌な予感がして雪風の名を呼んだ。

 

「うぐっ!」

 

響がチカラいっぱい雪風を引っ張った。襟首をつかんで思い切り引っ張った。引っ張ったそこを白いラインが通って行った。魚雷だ。危なかった。リ級が放った魚雷だろう。もし響が引っ張っていなければ…雪風は海の藻屑と化していただろう。

 

「ナ、ナイス響!!!」

 

「雪風に向かって何かシュウウウって音が聞こえた。すまない、ちょっと…私も…」

 

「響さん!?三隈がお守り致します!」

 

………

 

「あの時、魚雷の音を聞いたと同時に霧島さんの砲撃の音をまともに聞いてしまってね、頭がグラグラして動けなくなったんだ。あの時の川内さんの声も、お風呂場でしゃべっているかのような感じでよく聞き取れなかった」

 

「あやうく耳が聞こえなく…」

 

「心配はいらないと思う。耳が聞こえなくなるのは戻ってくるまでだろうから。ドックに入れば問題ないだろう」

 

「そうとは限らないぞ。響、今回は助かったけど、あまり無理しないでくれよ…」

 

「ハラショー。善処する。けど、この耳のおかげで雪風は無事だった。それだけで私は十分だ」

 

「響ちゃん、ありがとうございました!」

 

「気にしないでくれ。大切な友達だからね」

 

「はい!!響ちゃんは大切なお友達です!」

 

「そういうわけだから司令官の膝の上に乗るのを代わってもらえないだろうか」

 

「嫌です!!」

 

ふぐっ…と玲司が笑いをこらえた。そこは譲れないらしい。珍しく響が感情を露にし、頬を露骨に膨らませている。響の頭を撫でてやると「まあ、今回はがまんしよう」と膨れるのをやめた。

 

「そういうわけで今回のサブ島の作戦は全員帰投に成功。まあ、南方棲戦姫の討伐には失敗、逃げられちまったが、そこは俺たちの作戦じゃないからな。おそらくサーモン海域の北方に逃げ込むだろうな。ここはうちも全力で大和に武蔵、翔鶴に瑞鶴を出す。あとは鈴谷が出たいって言ってたから鈴谷。それから、島風。『原初の艦娘』だって惜しみなく出す」

 

「おお、ついに武蔵さんまで。しかし…アレが出るかもしれないんですよね」

 

「ああ。レ級が出るかもしれない、と考えて全力出撃だ。どうなるかはわからないけど…やるだけやるしかない。ここは3提督総当たりさ」

 

「司令、また無理のないようにしてくださいよ」

 

「う、ま、まあ努力する」

 

「まあ、今回は私もおりますし、大淀さん、鳥海さんもいますし、安心して寝てていいですよ」

 

「あのなぁ…」

 

相変わらずな言い方だが玲司を気にしているのだ。体を壊さないように。無理をして倒れたり、深海棲艦の要素が強く出ないように。

 

霧島は夢で自分に言われたのだ。

 

『司令をどうか守ってください』

 

不思議な気分だったがすんなりと受け入れた。わかりましたと言うと。

 

『まず司令は出撃中は寝ません。もし執務室で手伝うことがあるなら執務室から放り出してでても寝かせてください。無理をしているとわかったら本当に執務室からつまみだしてください。そうでもしないと倒れるまで仕事をしますから。ですから絶対厳しくしてくださいね。

ああ、それからオムライスは定期的に作れと言ってください』

 

最後のそれはどうかとも思ったが、司令のオムライスは出されると止まらなくなるし、しっかりと言っておくようにしますか、と思うのだった。司令には黙っているが…きっと、過去に司令と関わりのあった霧島なのだろうと思う。

 

そこまで心配しなくてもと最初は思っていたのだが、寝ないわ休まないわ危なっかしく、放っておけない。だからこそ、夢の自分が言う通り、執務室から締め出したりしているわけである。

 

「ふぁ~あ…私も仮眠を取るとしますか…」

 

霧島だけは寝ずに作戦の報告書をまとめていたのだ。いろいろとありすぎて帰ってきてからも寝ずに仕事をしていた。司令のことを言えないなぁ…とも思ったが黙っておこう。大あくびを1つかました。

 

「ええ、お休みください。私と鳥海さんと妙高さんでやっておきますから」

 

「よろしくお願いします!では、おやすみなさい」

 

そうして部屋に戻り、眠りについた。

 

夢…また夢か。何だか懐かしさを覚える執務室。カラン…とガラスのコップの氷が溶けた音、おいしそうな麦茶。

 

ああ、これは私が私にいろいろと司令の注意を聞いたところ。何だろうか、また何か司令へのお小言だろうか?

 

『ありがとう』

 

そうとだけ、私の声が聞こえた気がした。すぅ…と執務室が遠ざかっている。

 

『司令の為にチカラをお渡ししました。後は…頼みます』

 

執務室は光の彼方へと消え去った。それと同時に何かぽっかりと心に穴が空いたような。誰かがいなくなったような。そんな気持ちになり、なぜだか寂しくなり、泣いた。

 

………

 

『これでもう大丈夫でしょう』

 

『やーっと帰ってきたネー!!!ずるいデースずるいデース!!!テートクとノーミツな時間を霧島だけが一人占めデス!!!!ギルティね!!!!』

 

『お姉様?あまり変なことを言うとぶっ飛ばしますよ』

 

『オ、オウ…』

 

『霧島、お疲れ様でした』

 

『いえいえ、お安い御用です。彼女には私のチカラを少しわけました。そのおかげで改二になれたようですね』

 

『じゃあ、霧島は弱くなった?よーし、勝負だー!』

 

『いいでしょう。はい』

 

『あがががががが!ひえー!!!!割れるー!!!頭が割れる!!!!ひえええええ!!!』

 

『なーにやってんのよあんた達は…さ、これからが正念場だね。提督の為、提督の子達のためにがんばるっきゃないね!』

 

『イエース!!!テートクを影ながら支えるのデス!!』

 

『霧島に託しました。それにいろんなチカラが動いているみたいです。司令に勝利を…』

 

光り輝く英霊たちの会話。それは…とても楽しそうであった。

 

………

 

霧島は目が覚めても胸からぽっかり空いた寂しさにまた涙をこぼした。しかし…

 

「ありがとうございます…司令を守るため、あなたの意志は受け継ぎました」

 

涙を拭きながら最後は笑顔で挨拶をした。体にチカラがみなぎる。きっと何かしてくれたのかな?わからないが、司令の為、みんなの為に使おう。そう決めたのであった。

 

 

「しれえ!オムライスおいしいです!」

 

「そうかそうか。いっぱい食べろよ」

 

「はい!いっぱい食べます!!!」

 

「あれ?霧島さん、前みたいにすごい勢いで食べないんですね」

 

「ええ。慌てて食べるよりゆっくり味わって食べたいんです。前は何て言うか…がっつり食べなきゃ、と思ってたんですけど…ふふ」

 

「霧島、なんか1つ垢ぬけた顔つきになったな。まあでも、その特盛は変わらないのな」

 

「ええ、司令のオムライスは格別ですからね!あむっ」

 

「んー!うまー!」

「おいしいですね」

 

「川内さん、寝てる…てい」

 

「うおおおお!?な、なに!?」

 

「食べながら寝るのは行儀が悪いよ」

 

「わ、わきばらが…」

 

約束通り、みんなでオムライスを食べ、この日1日は平和に終わるのだった。

 

「さて、サーモン海域の作戦を食べたら考えますかね、大淀」

 

「了解しました。お任せください」

 

しかしまだ南方海域の戦いは終わっていない。海域の制圧も大詰め。まずはその前哨戦であるサーモン海域の作戦を練るのであった。

 

「ほら雪風、口の周り」

「んむっ…えへへ♪雪風は幸せです!」

 

アイアンボトムサウンドの功労者、雪風は満面の笑みで拭いても拭いても口の周りを真っ赤にしてオムライスを幸せそうに食べる。その雪風の幸せそうな顔に、玲司の顔も綻んだ。




サブ島編、終了です。
雪風は無事帰ってきてオムライスを食べることができました。
それと同時に、霧島にも変化が…?

英霊のチカラを少しだけ授かり、強くなった霧島。今後も現場で頭脳と火力をフルに活かして戦うことでしょう。

次回はもう1人、何を思ったかわからない行動をした彼の行動の種明かし編です。そう、第二の主人公扱いになっている彼の視点です。

それでは、また。
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