提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百七十六話

/鹿屋基地

 

三条艦隊の雪風がレーダーから消えた時、刈谷提督は「終わった」と思った。これで今後の中心となりうる三条が海軍から消える。そう思った。

一宮が中心になるか?九重が中心になるか?七原が中心になりえるか?答えは「否」である。

大本営、軍学校の艦隊運用の基礎のための教練の艦娘達。彼女たちは今もなお、強烈に三条を支持し、できることならば彼のもとに行きたいと言っているくらいである。

 

彼が指揮をした練習艦娘は全てと言うわけではないが勝利を収め、そしてそのたびに感謝されたと言う。

 

「ありがとう。みんなのおかげで勝てた。また勝とう。頑張ろうな」

 

「今日はこのメンバーか。よし、負けてもいい。でも後悔のない負け方をしよう。でも、勝てるなら勝っちまおうぜ」

 

などなど激励、勝利後の褒められたこと。今までほぼなかったことに大いに士気をあげた艦娘達は三条の時だけは、普段とは違う演習を見せ「僕の祖父は海上自衛官の偉い人だったんだぞ」などと言う七光りで「わざと負けろ」と言う威圧をものともせず、完膚なきまでに練習艦で叩きのめしたこともある。

 

奴は訓練生の時から強烈なカリスマがある。特に艦娘に対してはすさまじく、練習艦だった戦艦「金剛」は三条が卒業し、ショートランドへの着任が決まった際、自分も行く。行けないなら解体してくれと泣き叫び、どうにもならなくなったので特例で初期艦を金剛にし、ショートランドへ着任したくらいである。

ほかの艦娘もあの手この手で同じように着任をもくろんだが、練習艦全てがいなくなっては困ると言うことで却下。その際の艦娘の不満はすさまじかったそうである。

 

結局、その練習艦、のちに『英霊』と呼ばれることになった金剛は沈んだ。大本営で広報をやっている青葉だけが、ショートランドの生き残りであり、最後に「戦艦水鬼」にとどめを刺した生きた『英霊』として存在している。

 

未だ練習艦たちの三条への強烈なカリスマは消えていないし、一宮達も奴を中心に活気溢れる提督達である。ここで三条が潰れては…後がない。

 

葬式のような雰囲気をぶち壊すファックスの音。能代が恐る恐る紙を取る。

 

「て、提督…これを…」

「後にしろ。今はそんな暇は…そんな暇ねえんだよ」

 

計画が全て丸崩れだ。サブ島の作戦も。この先のサーモン海域も…これからの海軍も。考え直す暇さえない。しかし、能代は言葉を続ける。

 

「横須賀鎮守府からのファックスなのですが…」

 

それを聞いた途端刈谷提督は奪い取った弾みで紙が破れるのではないかと言う勢いで能代から紙をひったくった。きゃっと声を出し、非難するかのような目で見ていたが、刈谷提督はそんなものに気づいてはいない。

 

『白き妖精アイアンボトムサウンドにあり』

 

その言葉の意味を能代はわかりかねた。何を意味しているのだろうか。新手の深海棲艦?それに雪風さんが沈められてしまったのだろうか。

 

「ク、ククク…ハハハハハハハ!!!!」

 

予想とは裏腹に刈谷提督が大笑いをした。こんなに声をあげて笑う刈谷提督は見たことがない。

 

「て、提督…?」

「ククク、だよな。そう簡単に…そう簡単にあいつの艦娘がやられるわけがねえし、無策で行くわけがねえよな」

 

「あ、あの…」

 

「雪風は沈んでねえよ。たぶん。レーダーから消えただけでな」

 

「えっ!?で、ですが…レーダーから消えたなら…」

 

「レーダーから消えたから沈んだって考えは捨てとけ。あいつの前の提督と呼ぶのも気色悪い豚が捕まった理由は、レーダーから消え、轟沈したと思った名取が大本営に駆け込んで陳情したからだ」

 

「!?」

 

「あの時は北上がやったんだと。名取と。艤装をギリギリまで破壊して電源もジャイロコンパスも海図も吹き飛ばすくらいやっちまったらしいが…今回は『原初』の明石がいんだろ。ピンポイントでレーダーぶっ飛ばすくらい簡単だろ」

 

艤装のレーダーだけを正確に撃ち抜くなどやってみたことはないが…駆逐艦の一撃でも最悪艤装が破壊され、艦娘として海に浮くことが不可能になる可能性だってあると言うのに…そもそも、仲間を撃つと言う行為が恐ろしくてできない

 

「生きる為、沈ませない、沈まないためなら何だってやる。それが横須賀のやり方か…恐ろしいことを考え付きやがる」

 

「仲間の艤装を撃ち抜く…それも正確にレーダーだけ…」

 

「まあ、三条の艦隊だからこそできるのかもな。俺には…いや、世界中どこの提督を探したってこんなことを思いつく提督や作戦練る艦娘なんざいねえよ」

 

「艦娘も…ですか」

 

「大淀だ。あいつんとこの大淀は司令長官んとこの高雄並に頭が働く。過去の経験と勘。それに艤装のことを知り尽くした『原初』の明石。それから仲間を撃つだなんていう狂気の沙汰のようなことをする勇気。フン、あの野郎、大府の盤石を全部ひっくり返しやがった」

 

こんな楽しそうな刈谷提督は能代は見たことがない。

 

「はは、見ろ。アイアンボトムサウンドの敵、壊滅させやがった。きれいさっぱり敵の反応がなくなった。それからうちんとこもな」

 

Pポイントの補給艦隊。その反応が全て消えていた。PポイントからKポイント方向に動いていたようであるが。

 

「本隊に逃げようとした連中を追いかけて潰したのさ。大府には徹底的に。1隻たりとも残さずやれって言われてるからな」

 

見事に全てをやっつけたようである。ただ、下手に無線を繋ぐと大府提督にいろいろと探られてしまうため、目的を達成したらKポイントを越え、Dポイントへ向かえと事前に指示を飛ばしている。つまり引き返すのだ。そして、大府提督や三条提督がEポイントから北上し、Qポイントの島近くにいる本隊を叩く手筈でいる後方から攻撃を仕掛けるのだ。

 

「提督。Dポイントから攻撃を仕掛けた場合、西へ逃げられるのでは?」

 

「それでいいのさ。南方棲戦姫はここでやられたら困るのさ」

 

「わ、わざと逃がすんですか!?そんなことをしたら提督が!!」

 

「俺にバッテンはつく。だが、大府にもバッテンがつく。お互いバッテンがつき、三条のとこだけが大戦果をあげた。こういう結果に仕立てるのさ」

 

「三条提督に功績を…?」

 

「バカのせいで雪風を失いかけながらも一番きついIマスとKマスの深海棲艦潰したんだぜ?そりゃそっちの功績を評価させたほうがいいだろ。大府は詳報をちょろまかすぞ。激戦の末自分たちもIマスとKマスで共に戦い、そして進撃の後、見事南方棲戦姫を撃沈しましたってな」

 

「なっ!?」

 

「昔やられた手だ。そんときゃ飛龍が沈み、どうしようもならなくなったところを奴の艦隊がミッドウェーのターゲットを潰して甲勲章を晴れてゲットだ。俺は飛龍を沈め、甲勲章を降りた無能って当時は言われた」

 

「そんな、そんなことって!!」

 

「やるんだよ。そういう奴なんだ。あいつに戦績掠め取られた提督は多い。嫌になって何人やめたっけな。数えんのめんどくせえな」

 

「で、ではそれを…」

 

「大戦果を真っ当に評価してもらう。それは当たり前のことだろ?それか、親玉逃しましたで3人ともバッテンつけてもらうかだな。あのバカだけの手柄なんてのはありえねえ。もっとも、今回の作戦はアイアンボトムサウンドこそがメインと言ってもおかしくねえ。あの激戦区を三条が引き受けたって話は、司令長官も副司令も知ってる」

 

「そこで大府提督も必死に戦ったと嘘を…?」

 

「やるさ。あいつは頭がイカれてんだ。あいつのボケた元自衛官のクソジジイのせいと、生まれつきな」

 

「そこまで言わなくても…」

 

「現にあいつの父親から事情聞いてんだぞ。表情をピクリとも変えず、誰にも溶け込まねえからいじめの対象になって、給食で靴のままわざと踏んだパンを食えって言われたからって、報復で帰りにその辺の木の棒で食わせた奴の膝の皿叩き割って動けなくして犬の糞食わせたり、小突いてきた奴の片目を抉ったりしてたそうだ。刈谷くんも気をつけて、だとよ。テメエで止めるとか監禁するとかはねえのかよって思うよな」

 

提督の話から大府提督の異常性がヒシヒシと伝わる。そんな人がなぜ提督に…?

 

「一宮財閥と並ぶ大財閥のボンボンだ。パトロンなんだとよ。だから切るに切れないって防衛省のバカが言ってんだ。戦争ってのはバカみたいに金がかかる。こっちにばかり金かけてると国民の生活が貧相になる。昔の戦争でそうだったからな。俺らに当てられる予算は全部の予算の中じゃ最下位なんだ。それより福利厚生。こっちに回してんだ。2大財閥様様だな」

 

「よく…ご存知ですね」

 

ああ、豊田総理大臣、俺の数少ねえダチだからな。

 

「は、はい!?」

 

圧倒的支持率を誇る豊田総理大臣。全ては国民の安全、健康、生活が第一をスローガンにし、福利厚生を手厚くし、さらには海軍を率いて海の安全を守り、生活は安定している。世界各国とも連携して海を守り、深海棲艦の手から日本を中心に奪取し、漁が遠洋は不可であるができるようになり、各国の首脳陣からも信頼が厚い。その総理が…ダチ…友達…!?

 

「で、ですが、いろいろそんなことを話していたら国家機密も…」

 

「ああ。いろいろ聞いてるぜ。まあ、ここで言うのはちょっとな」

 

「あ、あ、はあ」

 

「まあ、海軍が円満に維持できてるのはこれがカラクリさ。だから不用意にヤツをどうにかできねえのさ。別に切っちまってもいいんだけどな。親父さんは奴が退役したとしても支援はするって言ってんだけどな。まあ、アレを退役させたら何するかわかんねえしなぁ。俺でも殺しに来たらいいのにな」

 

「そんな物騒な!その時は私たちが提督をお守りいたします!」

 

「おう、そうか。期待しとくぜ。さて、雑談は終わりと行こうか。龍田らにはそう動けってあらかじめ言ってある。倒したらお見事。ま、100%に近い確率で逃げられるだろ」

 

ククク、と悪い人がやりそうな笑い方だった、能代はとりあえずこの人に逆らうのはやっぱり無理だ…そう思うのだった。

 

 

B地点。南方棲戦姫の背後からの急襲に成功した龍田隊はある程度穴を空けるとそのまま離脱。あっという間の展開であった。背後からの急襲にやられると思った南方棲戦姫は護衛艦に守られそのまま西へ逃げた。追いかけようにも大府提督の艦隊も金剛が大破、追いかけることはできず、三条艦隊ももちろん夜戦からの参加であるため、追いかけてもやられるだけと判断され、撤退が下された。

 

散々夜間、補給艦を撃ち、斬り、串刺しにして暴れ倒した龍田は満足そうに作戦終了を告げ、提督に指示を仰ぎ、撤退したのだった。

 

「艦隊がもどったわ~。夕雲ちゃんが中破、峯雲ちゃんも中破、あとは小破とかかすり傷程度ね~」

 

「も、申し訳ありません…提督さん…」

「提督…申し訳ありません…」

 

「謝る必要はねえ。一晩中駆逐艦を一発で撃沈するくらいの火力持ったワ級やら鬱陶しい駆逐艦相手に十分だ。俺にも龍田らにも謝る必要は何ひとつねえよ。きっちり傷治して寝ろ」

 

わしゃっとちょっと強く夕雲と峯雲の頭を撫でた。ひゃっ、とかきゃっと言う声が聞こえたが気にしない。わしゃわしゃと乱暴に頭を撫でる。

 

「提督。多摩にもご褒美はないのかにゃ」

 

「ああ?あー、テメエ確か外洋へ逃げようとしたワ級艦隊、1人飛び出して全滅させたんだっけか。よくやったな。メザシをご馳走してやるよ」

 

「たったそれだけかにゃ!?多摩は鯛の尾頭付きを所望するにゃ!!!!」

 

「あーうるせえ。鹿児島の知人からえれえ新鮮な魚がわんさか届いた。間宮に言っとくから刺身なりなんなりにしてもらって勝手に食え」

 

「さすがはていt…ミスターKにゃ!!!太っ腹にゃ!!!」

 

「テメエはやっぱりメザシ1匹だ」

 

「にゃああああ!?」

 

そう言って後ろの三日月や長月も撫でていた。あれだけ恐怖の対象でしかなかったはずの刈谷提督だが、今では撫でてもらうと元気が出るとか士気が上がるとかいろいろといい方向へ働いていて、それを見る龍田も顔が綻ぶ。

 

「ありがとうございます!次もがんばります!」

「よし…次もやるぞ」

 

「気張りすぎて沈むんじゃねえぞ」

 

「はい!」

「もちろんだ」

 

「風呂行ってこい。今日はよく寝れるだろ」

 

シュンとしていた夕雲も峯雲も三日月たちに支えられてドックへと向かっていった。多摩はメザシだけは許してほしいにゃ…と懇願したが龍田に引きずられてドックへ連れて行かれた。

 

「うるせえヤツだな、相変わらず」

「ふふ、皆さん無事に帰ってこれて何よりでしたけどね」

 

「ふん。当然だ。俺の艦隊がそう簡単にやられるか」

 

刈谷提督の艦隊は練度は誰もが高い。睦月型の改二になれない艦娘。彼女たちは大体が使えないと言うことで遠征や雑務をやらされ、暴言をよく吐かれていたのだが、ある日突然鹿屋に異動になった。何でも三日月が聞いたところ「ぜひともうちで頑張らせてほしい」と『おはなし』したそうだ。

 

が、着いたその鹿屋基地では司令官に対して恐怖を抱き、誰もが怖がっているような基地であった。長月も駆逐艦の話を聞いて、冷静を装いながらもおしっこをもらしそうになっていたくらいだ。三日月は1週間ほどしてから、別に怒鳴られもしないし、装備は12.7cm連装砲C型と言うとても使いやすく、いい装備を与えられたりしたし、ご飯もちゃんと食べられる環境が嬉しかった。

 

司令官と一度ちゃんと話がしたいと思っていたが、誰もが解体されるからやめろと言って聞かず、ずっともやもやしたままだったが、ある時能代がドックで司令官と水のかけ合いをしているのを見てから「あれ?提督って怖くない?」と言う話が広まり、今では普通に会話したり今回のように頭を撫でてもらったりするようになった。

 

そうして三日月は、どうして自分と長月姉さんをここに配属したのですか?と聞いてみた。

 

「ああ?駆逐艦が足りなくて困ってたんだ。テメエらにはここに来たからにはバリバリ働いて、俺を楽にさせてくれよ?」

 

とあくどいことを言っていたが、装備はきっちりしているし、遠征、出撃、演習もローテーションで組まれているし、夜は2100以降ならいつ寝てもいい(ただし、寝坊や寝不足が見つかると怒られる)し、ご飯は3食、時におやつもあり。がんばった子には間宮アイスや伊良湖最中券がもらえるし、出撃しなくていい日は外で遊んでも良し、部屋で本を読んでいてもよし、談話室などもあるからおしゃべりしてても怒られない。

 

長月も少しずつ態度を柔らかくし、頭を撫でてもらうために今は一生懸命いつもがんばっているのだ。

 

「俺の艦隊がそう簡単にやられるか」

 

三日月はその言葉の裏に、誰も絶対沈ませないと言う意味を感じ、胸がほわほわとする感覚を覚えてにこにこしながらドックへ向かうのだった。

 

………

 

「じゃあ雪風ちゃんは生きていたのね~」

 

「はい。榛名も付き添って実際に見ておりましたので」

 

「ま、大府にはバレてるだろうけどな。轟沈艦なしで馬鹿みてえにいたアイアンボトムサウンド2か所の深海棲艦を壊滅させたんだ。本来なら勲章もんだぜ」

 

「私達には大きなバッテンがつきそうだけどね~」

 

「サーモン海域で挽回してやるよ」

 

自分の戦果に傷がついたにも関わらず、刈谷提督は嬉しそうだった。轟沈なし。そして見事勝利を収めた三条艦隊と、外洋に逃げようとした補給艦隊を独断ではあったが確実に仕留め、壊滅させた自分の艦隊。これは大きい。まあ、作戦を無視して背後から穴を空けて本陣を逃がしたのは痛いマイナスである。

 

「提督…龍田さんも帰投したことですし、あそこで背後から攻撃して穴を空けて南方棲戦姫を逃がした意味を教えてほしいのですが…」

 

「レ級にやらせる」

 

「え?」

 

「あら~…またすごいことを考えたわねぇ」

 

刈谷提督の口から出た言葉はとてつもないことであった。能代も資料を見て震え上がるほどだった。超強力な砲撃だけでなく、航空戦、雷撃もできる戦艦と呼んでも良いものかさえ躊躇う深海棲艦の中で最強最悪とも呼ばれている「暴虐の姫君」…刈谷提督曰く「壊し屋」「何でもありの暴君」。姫にしちゃおてんばがすぎんだろと言うことで、刈谷提督はそう姫とは呼ばない。

 

「原初の艦娘」最強の陸奥や赤城を大破させ、欧州を壊滅状態に追いやった恐怖の対象。その名を聞いた提督は震え上がり、逃げ出すくらいだと言う。

 

「し、しかし…サーモン海域北方にレ級が出たと言う報告はありません。それに欧州にいるはずでは…」

 

「飽きて里帰りして来んだろ。散々派手に暴れて好き勝手潰して来たんだ。どうもサーモン海域北方があいつの根城って噂だ。ま、あちこち動き回って神出鬼没。三好のジジイの艦隊が何度も見かけているらしいからな。何度かやり合ったこと、あるらしいぜ。報告してねえけど」

 

それはまずいのでは…大本営が血眼になって探しているアレを…それに、今度は私達が?

 

「戦果は南方棲戦姫とタッグ組まれて瞬殺か、ヲ級flagshipが邪魔してボコボコ。あと潜水艦もいるらしいし、轟沈はいなかったが全滅するところだったそうだ。あのジジイ、レ級こそ炎の塊。あれを消し飛ばすのは自分だって言って聞かなくてな。だから存在を隠した。他のが来ても邪魔になるだけだしな」

 

三好提督…そこまでして大炎と呼ぶ戦を好む戦闘狂であったか…矢矧の苦労が見て取れる。話を聞けば聞くほどますます戦意を失う。しかし、三条提督の艦隊はこれに遭遇し、撃退したと言う。いや、しかし、あの戦艦大和が一撃で大破に陥り、虎瀬提督の「原初の艦娘」の救援がなければ全滅していたと言うことだが…。

 

「もし鉢合ったとして…勝てるのですか?」

 

「勝つしかねえだろ。そのために北方に行けって通達も来てんだぞ。いなけりゃラッキー。鉢合わせたら祈るしかねえな。こっちも全力で行く。大鳳も出す。支援だって出す。生きて勝つためだったらどんなことでもする。それが俺だ」

 

そして真剣にパソコンを見つめ、何かをしているのだが…作戦でも練っているのだろうか?

 

「あら、提督、お酒?勝利の美酒に酔うには早いわよ~?」

 

「三条の奴らが雪風を使って大府を出し抜いたのが見事だったからな。やるじゃねえかってことで酒の詰め合わせでも送ってやろうと思ってな。こいつなんかどうだ?1本2万円だってよ。合わせて7万くらいか。まあいいだろ」

 

「三条クンってお酒飲めるの?きつい焼酎ばっかりだけど」

 

「あー、飲めんじゃね?誰か飲むだろ」

 

「適当ねぇ」

 

そう言われながら適当に5本ほど、高い焼酎や泡盛などを選んで送っていた。次の作戦なんかまるで気にしていないくらい気楽なものだった。7万では済まなかった。

 

「こんなことをしている間に…大府提督が次の海域で、また何か変な作戦を考えてたりしていた時の対策なんかはしないクマ?」

 

「金剛大破させて動揺してんだろうから次は俺が陣頭指揮を取るぜ。多分サーモン海域じゃあいつは役に立たねえ」

 

「金剛さんを?ですが、轟沈をさせてでも勝利へと持っていくと言う大府提督が…」

 

「そういえば金剛が大破した時、追うなって言ってたクマ。轟沈させたくない感じだったクマ」

 

「クク、ちょっとおちょくってやるか」

 

おもむろに受話器を取り、電話をする。音声を皆に聞こえるようにしてだ。

 

『はい』

 

「よお、テメエんとこの金剛は元気か?」

 

『何が言いたいのですか?失敗したことを笑いに電話したのですか?』

 

「テメエほどゲスじゃねえよ。単純に大破した金剛が気になっただけだ」

 

『…あなたには関係ありません』

 

「声が震えてんぞ、ククク。テメエの大切な金剛が大破したんだもんなぁ」

 

大切な金剛?あの人が艦娘を大切にしているようには思えないのに、そう言うことを言う提督に球磨もムクリと起き上がり、どさくさに紛れて能代の尻を触り、ゲンコツを食らっていた。小さく「……ってぇ」と言いつつ、刈谷提督の話を真剣に聞こうとしていた。

 

『私に?馬鹿馬鹿しい。サーモン海域の打ち合わせかと思えば下らない電話をかけてきて、何のつもりですか』

 

「フン、サーモン海域の指揮は俺に任せるって言ったんだから打ち合わせなんかしねえだろ。ちったぁ身に染みたか?」

 

『意味が…わかりません。まさかあなた、私の金剛を…』

 

「私の!?私の金剛!ハハハハハ!!!!艦娘に興味がねえって言い切ったテメエが私の金剛!!!ぶははははは!!!!」

 

間違いない、刈谷提督は本気で大府提督を煽っている。そして、今回、穴を空けて南方棲戦姫を逃がそうとした目的は……!?

刈谷提督はしばらく睦月たちが見たら3日くらい寝込みそうなくらい恐怖を覚える大笑いをしたあと、ククク…とまだ含み笑いをしたまま黙った。

 

『満足しましたか?』

 

「三条の艦隊の誰か沈めようとしてた奴が言う言葉じゃねえな。テメエこそ満足したかよ?俺の飛龍を沈めて、今度は三条んとこ雪風だ。満足したか?」

 

『それほどまでに激しい戦闘だったのでしょう。ですが、雪風さんは沈んではいないのではないですか?l』

 

「そうさ。沈んでねえ。残念だったなー。テメエの目論見は失敗だったわけだ。三条の艦娘は沈められず、大切な金剛は大破であわや沈むところだった。全部大失敗だったな」

 

『…嫌な人ですね』

 

「テメエにだきゃあ言われたくねえな。ま、しっかり直してやれよ?じゃあな」

 

受話器を置く前にガチャン!!と乱暴に受話器を置いたかのような嫌な音が響いて切れた音が無機質に流れた。

 

「怒って切りやがった」

 

「いや、あれじゃあいつも笑顔な愛宕だって助走つけてぶん殴るレベルの煽りだったクマ。やっべえクマ。大府提督ブチギレてたクマ。提督、大本営行ったら防刃チョッキでも着て行った方がいいんじゃねえクマ?」

 

「知らねー。毎回煽られてんだぞ俺が。たまには煽らせろよ」

 

「子供みたい…」

 

「ふふふ、私はスッキリしたわ〜」

 

「で、大切な金剛ってどう言う意味クマ?」

 

「金剛だけは特別扱いなんだと。練習艦の金剛を指名でくれって頼むくらいな。まあ、三条に取られちまったんだが」

 

「マ?」

 

「クが抜けてるけど。あと、さっきからお尻を触ってこないでくれる!?」

 

「これはマジ?って意味の略だクマ。いや、目の前にこんないいでっかい尻があったら触らない方が失礼クマ」

 

またゲンコツを能代から食らっている、ちなみに球磨が羽黒のような小ぶりなお尻も、能代のようなでっかくて引き締まった尻も、阿賀野のやわらけえ尻も全部好物だクマと、酔っ払いの親父のような艦娘である。が、その実力は刈谷艦隊の軽巡…いや、巡洋艦の中では最強である。

 

「なぜか知らねえが金剛だけは異様に大事にしているって話だ。姉がいたわけでも妹がいたわけでもねえ。あいつの母親はあいつ産んだ時に死んでるらしいし、母親の面影にも似てねえらしいし、よくわかんねえんだよな」

 

「ふむ…もしかして金剛に恋でもしてるのかにゃ?」

 

「ぶふっ、あの冷徹鉄仮面がクマ?」

 

「人は見かけによらねえにゃ…ギャッ!」

 

「人の胸を揉もうとしながら語らない!!!」

 

「ててて…ちぃ…バレたにゃ」

 

球磨が艦娘の尻を揉むなら多摩は乳を揉むのが好きだ。お気に入りは阿賀野。あの柔らかさはたまんねえにゃと語られたことがある。ちなみに「私、少し胸が大きくなったみた〜い」と言って回った如月の乳を揉み「なんにゃ。1mmも変わってねえにゃ」と言い放ち、1週間如月を寝込ませた前科がある。龍田のは極上、と命知らずなことをしている。が、龍田からの叱責はなかったが、1度きりである。「ああ、次は殺されるにゃ」と言っていた覚えがある。でもやっぱり阿賀野のおっぱいが絶品だにゃ、と多摩は語った。

 

どうでもいいと言っていいのかわからないけど、姉が戦力で評価されているわけでなく、胸やお尻の柔らかさで最高だと言われて評価されるのは何だかとてつもなくモヤっとするものがある。というか…この変態姉妹…。

 

ちなみに多摩は球磨に続く巡洋艦最強のNo.2である。その次が龍田、羽黒…と続く。能代は…その次くらいだろうか。これまた微妙である。

 

「金剛を三条んとこの『英霊』金剛みてえな強さにしてえとかそんな感じか?知らねえけどよ。ま、あの様子じゃ一生かかっても無理だな。三条の金剛の強さはあいつがいたからだ。あいつと強い絆を結び、命を賭してでもあいつを守り抜いた。その前に、大艦隊を先導してぶっ潰したこともある。洗脳した艦娘で『英霊』は作れない。待っているものは深海棲艦っていう『悪霊』だろうさ」

 

「それとは何か違う意図もありそうなのよねぇ…私にもわからないけど〜」

 

「あいつの心が読めたら心理学者か心療内科医になれるぜ。さって、次のサーモン海域の打ち合わせ、三条とすっかな」

 

「は〜い。じゃあ能代ちゃん以外は解散ね〜」

 

「へーいクマ」

「わかったにゃ」

 

「ひゃあ!ちょっと2人とも!?あとで覚えてなさいよ!!!」

 

「改二になってよりハリがよくなってデカくなったにゃ!いい感じだニャ!」

「尻もいいハリクマー!また揉ませろクマー!!次はちょっと大きくなったって言ってた如月の尻をもんでくるクマー!」

 

「やめて!お願い!また1週間寝込むからやめて!!」

 

「ククク、賑やかなこった」

 

そうして笑いながら作戦を確認していると如月の悲鳴が聞こえたとか。そして鬼の形相で能代が飛び出ていき、やっぱり球磨に尻を揉まれ「1mmも変わってねえクマ」と言う言葉に倒れ、寝込んでしまったとか。能代に脳から汁が出そうになるくらい説教されたとか。

 

/タウイタウイ泊地

 

「提督、修理が完了致しました。この度は私が大破したせいで申し訳ございません。罰は何なりとお受けいたします。解体でも何でも…」

 

「そのようなことはしません。下がりなさい。サーモン海域北方で挽回していただきます」

 

「かしこまりました」

 

1人になった大府提督。違う。あの時見た金剛とはかけ離れている。だが、この状態を保たなければ、私の側に寄り付きもしないだろう。

 

………

 

「ノオオオオオ!!!嫌デーーーーーース!三条提督のところに行けないなら解体を希望しマーーーース!!!」

「いや、俺に言われてもどうにもならねえよ…」

 

「いーやーデース!!!ワタシ!提督の指揮に惚れマシタ!ノー!テイトクに恋しましタ!!!一生ついていくデーーース!!!じゃないとワタシ、これから南方海域へ1人で行って…」

 

「わあああ!!!まてまて!!わーった!!!司令長官とこ行くぞ!!!」

 

「オーウ!!さすが私のテイトクデース!!さあ、レッツゴーー!フォロミー!!ついてきてくださいネー!!」

 

大本営会議で見かけた金剛。艦娘など兵器であり、使い捨ての駒。そう思っていたのだが、その時見た戦艦金剛は、彼の目にはとても眩しいものに見えた。輝いていた。自分をみた艦娘は怖がるか近寄らない。しかし、彼女は一度だけすれ違った際に

 

「大府テイトク!遠くからいつもお疲れ様デース!」

 

そう言って敬礼してきたことがあった。興味もなく無視をしていたのだが、会うたびに敬礼をし、笑っていた。いつしかその金剛が眩しく見えた。強烈な光を放つ金剛が忘れられず、練習艦であることがわかり、古井司令長官に彼女をタウイタウイへほしいと言ったが却下されたことがある。

 

しかし、大府提督は三条提督にそうやってついていけないのなら死ぬくらいの勢いで迫っているのを見た。その後、彼女は三条提督と共にショートランドへ行ってしまったと言う。彼にとっては、父に呼ばれたパーティーで詰め寄ってきたどんな女よりも眩しく輝き、美しかった。彼女をモノにしたかったが、叶わなかった。

 

偶然金剛が建造された。しかし、彼は彼女の持ち前の、彼が眩しいと憧れた金剛の明るさを破壊した。しかし、金剛自体には側にいて欲しい。そう思った。彼女を秘書艦にし、常に側に置いた。しかし、金剛を見ているとあの時の笑顔や強烈な光を思い出し、すぐに退室させてしまう。

 

初めて心の底からほしいと思うものだった。どんなものも「天才」と呼ばれるほどの才能があった。バイオリンもピアノも。スポーツも全てがプロになれるほどだったが、それもすぐやめた。欲しいものはないかと聞かれても何もなかった彼が初めて手中に置きたいと思ったものだった。

 

しかし、金剛はショートランド海戦で三条提督を守り抜いて沈んだと言う。『英霊』と呼ばれ、今も三条提督が大切に祀っていると聞いた。

 

今回の件は完全に刈谷提督にしてやられた。背後から強襲したことでこちらも指揮が乱れた。そして、金剛を沈めるかもしれなかった。使い捨てのように艦娘を沈めた私を、彼女の洗脳が解けた時、彼女はどう見るだろうか?まあ、結果はわかっている。

 

それでも私はこうするしかない。そして、全てを手に入れる。大和も、武蔵も、司令長官の座さえも。それでも金剛だけは…側に置いておきたい。

 

「刈谷提督…三条…玲司」

 

邪魔な存在だ。今回の件でまた祖父が口出しをしてきた。いつまでも現役のような口振りで…。次に帰国した際は…お見舞いに行き……してしまうか。もう祖父も邪魔な存在でしかない。今までならば彼の威光があり、誰も私に逆らえない状態であったが、それもう老いて、光も消えた。邪魔にしかならないなら消えてもらおう。

 

そして…いずれは彼らにも…。今回は失敗した。次はうまくやる。

 

大府提督は気がついたら祖父から貰った万年筆をへし折っていた。邪魔なものは切り捨てる。ああ、これも何だか気持ち悪いものでしかなくなった。長年使っていたが、何の感慨もなく、ゴミ箱へと捨て、海軍から支給された安物のボールペンで書類を書いていく。激しい憎悪を胸に渦巻かせて。




今回は刈谷提督を主眼に、大府提督の秘密をチラチラと明かしてみました。
彼が金剛にこだわる理由。それはたんに眩しい存在だった。彼女が自分のものにならないなら興味を失った。と言いつつも金剛を大事にします。『英霊』金剛のようにはなれないと一生気が付かないまま。

さて、次回も鹿屋基地のお話です。鹿屋基地には皐月と文月を除く睦月型がいます。彼女たちを引き取った過去のお話を、サーモン海域の作戦と合わせて書ければと思います。

それでは、また。
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