提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百七十八話

司令官と師と呼べる艦娘。その人たちから背中を叩かれ、気合いを入れてもらった長月と菊月。その目はキラキラと輝き、やる気に満ち溢れていた。

 

『まもなく交戦ポイントだ。手前は三条が潰してくれているからそのまま通過』

 

「了解しました。予定ポイントには夜に着予定です。提督の予定通り、夜戦になります」

 

『気をつけろ。敵は強力だぞ。巻雲、照明弾は前みたいに忘れていないだろうな?』

 

「もっちろんです!!!巻雲はそこまでドジじゃないですよぉ!」

 

『どうだか。全員、警戒を厳にして進め。夜戦大好き、重巡リ級がわんさかいるって話だ』

 

サブ島で散々三条艦隊が苦戦を強いられ、雪風があわや…と言うところにまで陥った原因の一つに、この重巡リ級がある。

 

戦艦でさえ一撃で大破をさせてくるflagshipの魚雷。痛烈なeliteの連撃。そして一発でも油断ならない軽巡や駆逐艦。危険だらけである。三条のところのような思い切った作戦はできないが、やるなら基本に忠実に。照明弾を駆使し、目標を補足してただ殲滅するのみ。

 

その中で刈谷提督が夜戦に重視を置いた編成がこの長月と菊月である。ジャンク…生まれながらにして身体能力に欠陥があった彼女たち。前の所では睦月や水無月たちに守られ、解体されることもなく鹿屋基地に流れ着いた。

そして刈谷提督の「この世で最強の睦月型にしてやるぜ」の言葉で彼女たちは生まれ変わったかのように強くなった。

 

「皆さん、まもなく敵との交戦になります。各自、戦闘準備を!」

 

榛名の号令で素早く全員が戦闘態勢を取る。長月と菊月は暗い中、静かに陣形を変えた。これは榛名の指示ではない。あえて散ることで集中砲火を避けるためもあるが、独自の動きを見せるのがこの2人である。

 

………

 

「菊月と長月は好きにやらせろ。指示は俺が出す」

 

「わかりました…だ、大丈夫なのでしょうか…?」

 

「球磨と多摩の特別地獄な鍛錬をクリアしたやつだぞ。睦月もやりたいって言ったら30秒でぶっ倒れた。それをクリアしたんだぞ」

 

球磨と多摩の特別訓練は巡洋艦や空母でさえ音を上げる者が多い訓練である。体力をつけ、回避能力、運動能力を向上させるのだが「きつすぎる」と言う文句が多い。ちなみに文句を言うとさらなる「指導」が待っており、卯月がよくその餌食になっている。

 

長月と菊月は言葉を交わさずとも抜群のコンビネーションを発揮する。

 

「……!?長月さんと菊月さんは?!」

 

「司令官様は2人が勝手に動いても気にするな、と言っておられましたけど…」

 

「え、えーっと、とにかくもう敵の目の光が見えてるんだけど…」

 

「と、とにかく、照明弾を撃ちますよぉ!てりゃー!!!」

 

巻雲が照明弾を発射。その発射音と同時にフラッシュを頼りに敵、重巡リ級eliteだろう。砲撃を開始した。ポン!と敵の上空に火の玉が現れ、ユラユラと落ちていく。と、同時に前方ではなく、左右斜めからダァン!!!と砲撃の音が立て続けに聞こえた。

 

 

照明弾で照らされたリ級に砲撃が直撃し、撃沈する様が榛名達の目に入った。

 

『今だ!!!』

 

長月から無線が入る。すると遠くから砲撃音が聞こえ…砲弾の雨が降り注ぐ。支援砲撃だ。今回もまた、村雨と山城を加えた支援艦隊である。

 

『はいはーい!命中しましたー!今回も遠慮なくいきますよ!』

 

村雨と山城の砲撃能力は特別に正確であることを榛名は身を持って知っている。正確無比。距離があろうが本当に正確であった。今回は村雨、山城、アークロイヤル、鹿屋から比叡、ワシントン、沖波が合流して支援を行っている。

 

『ひ、ひえー!あ、当たっちゃった…!』

 

『ヒエイ、Shut Up.』

『あ、す、すいません…』

 

比叡姉様…と苦笑いを浮かべたいところだが、これにより本格的に戦闘が始まる。照明弾は消えた。だが大体の場所はわかっている。各自、移動をしながら砲撃を放ったときのマズルフラッシュと目の光で大体の位置を捉えている。

 

しかし、榛名はこの闇夜の中、長月と菊月を見つけられないでいた。しかし、砲撃の一瞬の光でどこにいるかを把握する。何とかそれで追いかけられている程度である。光が消えるともうどこに行ったかわからない。

 

「榛名さん、長月さんと菊月さんは…」

 

「榛名もあまりよくわかっていません…ただ、提督から何か指示を受けておられたのでそれを遂行しているのだと思われます」

 

「羽黒ちゃん、魚雷の反応があるよ!」

 

「きゃっ!」

 

そうは言われてもとっさに回避行動ができるかと言われると難しい。前面からきているのか…!と思ったら誰かにベルトを引っ張られる感覚がし、そのまま動かされた。だ、誰…?

 

「あのリ級の魚雷、厄介だな。あれを潰してくるか」

 

「菊月さん!?」

 

「私と長月は動き回る。敵の動きを察知して羽黒さん達を守るのも私と長月の仕事だ」

 

「あ、ありがとうございます…!」

 

「私はアレを潰してくる。長月も今向かい始めた。行ってくる」

 

「な、なんでわかるんですか?」

 

「長月だからな。考えていることは私と似ている。それだけだ」

 

羽黒にはまったくわからなかったが長月と菊月は阿吽の呼吸で動いていること。と、言うか先ほどからずっと動き回っているが大丈夫なのだろうか…。これを切り抜けたとしても次は補給部隊を討伐しなければいけないし、今回の敵本陣のこともある。体力をここで使い切るつもりではないだろうか…。

 

ダダン!ダダン!と連撃が前方から聞こえ、リ級が沈む。その際、執拗にリ級eliteが砲を撃つ。1発は命中してしまったのか爆発を起こした。

 

「あっ!?このー!!」

 

阿賀野が緊張感のない声ではあるが砲を撃つ。同時に魚雷を放っている。砲の音で魚雷の音をごまかす気か。夜の魚雷は本当に見えにくいと言うか見えない。だからこそ常に動き回って相手に予測されないようにしつつ、魚雷を避けるのであるが。

 

リ級が大爆発する。さらに輪をかけて支援砲撃が繰り出され、敵を殲滅していく。アイアンボトムサウンドほど敵は多くなく、アイアンボトムサウンドの艦隊が殲滅されたことはかなりの打撃だったことがわかった。

 

「めんどくさそうなのは倒したが一発至近弾をもらった」

 

長月が榛名のもとに戻ってきたが、左肩から血を流していた。

 

「長月さん!?」

 

「心配はいらない。痛むけどまだ動かせる。どうせ利き腕じゃない。砲を支えるだけの腕だ。折れたりもげていないならどうと言うことはない」

 

「まだいけるか?」

 

「ああ。まだまだやれるぞ」

 

「すまん、長月。私は少し息が上がってきた。相変わらず…自分のポンコツな体が不便だな」

 

「……私も少し息が」

 

「でしたら少し休んでいてください。お二人のおかげでだいぶ厄介な敵が減りました!」

 

「阿賀野におまかせよー!お姉ちゃんがやっつけてやるんだから!」

 

「わ、私も…!」

 

「長月ちゃん、菊月ちゃん、今度は巻雲が行きます!!」

 

「すまない…しばし休む…」

「ありがとう、榛名さん」

 

ボン!と空へ向けて砲を放った巻雲だがこれは照明弾だ。どこからともなく狼狽する深海棲艦の声が聞こえたがこれはありがたい。

 

照明弾が光ると同時にまたしても支援砲が届く。瞬時に位置修正、抵抗修正などをする村雨さんの計算処理能力は艦娘の枠を超えている気がする。

 

「お二人が休んでいる間も!勝手は!榛名が!許しません!!!!」

 

「私だってみなさんを…支えて見せます!!」

 

「阿賀野もやる時はやるんだからー!」

 

「てりゃー!処分雷撃じゃなくて巻雲は敵を倒すのが本当の役目ですよー!!!」

 

長月と菊月が走り回って敵を翻弄し、倒していたため、そして村雨と山城達の支援砲撃のおかげで敵の数はだいぶ減っていた。榛名はこれを好機と見、一気に畳みかける。

 

『敵はあとわずかだが無理して前へ出るな。追い詰められた深海棲艦は味方ごとお前らを沈めて来るぞ。もう一度言うぞ、それ以上前進はやめろ』

 

「…!?は、はい!皆さん、止まってください!」

 

慌てて急停止。するとどうだ、照明弾が照らす先、重巡リ級eliteがヘ級が前にいるのにそのまま砲を撃つ。ヘ級の腹には大穴が空き、巻雲を狙う。

 

「わわわ?!あぶない!」

「チィ!!」

 

間一髪、今提督の無線がなかったら巻雲は直撃していただろう。

 

『一気に畳みかけなくていい。じわじわ減らせ』

 

「提督さん、だけどそれじゃあ補給艦が逃げちゃうんじゃ…」

 

『奴らに逃げ場はねえよ。逃げたとしてもサーモン主力艦隊に合流するだけ。ここのワ級共が仮に主力のワ級flagshipたちの所へ集結したとして、烏合の衆にすぎねえ。こっちゃあ三条の艦隊と北と南から挟み撃ち。北方に逃げる術はねえ。背水の陣で戦うことには変わりはない』

 

そしてどの道、補給艦の足は遅い。体内にパンパンに補給物資が詰まっているため、移動速度は極端に遅い。逃げられたとしても十分追いつける。

 

腹に穴が空いたヘ級の後ろからさらにリ級が砲を撃とうとするが…

 

「仲間ごと撃ち抜く奴なんぞ、生きる資格もない」

 

そう菊月が言うと雷が落ちたかのような轟音と強烈な水柱が立つ。いつの間にか菊月が魚雷を撃っていた。その後ろでさらに爆発。長月も同じ動きをしていたようで、リ級は数を減らしていく。

 

「仲間を仲間と思わん奴なんか…許さん!!!」

 

自分たちを仲間と見てくれている鹿屋基地の艦娘、司令官。そんなみんなに感謝の念しかない長月と菊月は、仲間を仲間と思わない深海棲艦に対して激しい怒りの念を見せた。

 

自分たちも「お前なんか仲間じゃない」とよく言われていたからこそ、今、刈谷提督に拾われ、球磨と多摩の厳しすぎる鍛錬に耐え、第一線で活躍する2人は、仲間と呼んでくれる。友達と呼んでくれる皆を大事にする。

 

息を切らし、ズシリと疲れからか重くなった砲を気力で持ち上げ、長月は撃った。菊月は足が震えたが馬歩になり、魚雷を放った。見た目は格好悪いがしっかりと踏ん張れるため、2人はこの馬歩によくなる。体幹が鍛えられたこともあって、転んだりすることもなく、しっかりと命中させられる。

 

『前進して敵を殲滅しろ。策が見破られたらもうその仲間ごとの手は通用しねえよ。俺の目には今狼狽えて混乱し、指揮系統がめちゃくちゃになってる敵艦隊が見えるぜ』

 

実際、刈谷提督の言う通り、敵は圧倒的と思っていた数もだいぶ減ってしまい、指揮する艦をやられてしまったせいかでたらめに撃っているように見えた。

 

刈谷提督…このお方は本当にすごいお方ですね…と榛名は感嘆する。本当にここに来ておられて、実際にどこかで見ておられるのではないか…と思う。

 

『流れ弾に喰らって大破しましただけは勘弁しろよ?』

 

「は、はい!」

 

『こちら三条艦隊旗艦扶桑です。刈谷艦隊榛名さん、状況はいかがでしょうか?』

 

「こちら榛名!まもなく重巡艦隊の排除が完了します!補給艦隊を追いかけ、予定ポイントには予定通りに到達できるかと思われます!」

 

『承知しました。このまま私達も進撃を続けます。損傷艦隊なし。以上です』

 

「了解しました!こちらは長月が小破!中破大破は今のところおりません!」

 

『わかりました。道中、お気をつけて。予定ポイントでお会いしましょう』

 

上品な方だ。扶桑さんと言えばとても美しい戦艦だ。会えるのが楽しみである。しかし、よその提督の扶桑さんに比べていささか声が凛々しい…気迫があると言うか…。いや、今はそれどころではない。

 

「皆さん、敵がうろたえている間に一気に片付けましょう!」

 

「息が整ったぞ。長月もいくぞ!」

「私も…出よう」

 

長月と菊月も動き出す。回復が早い!?

 

「多摩さん流回復術だ…あの人は一体…いや、気にするのはよそう」

「球磨さんと多摩さんは永遠にわからんと思うぞ」

 

その名を聞いた榛名や阿賀野は「にゃっにゃっにゃっ」と高笑いを浮かべた多摩が容易に想像できた。

 

長月や菊月の活躍もあって、ようやく重巡たちがひしめく地点の制圧に成功した。しかし、思ったより時間がかかってしまった。

 

『慌てなくていい。着実に補給艦を潰せ。ワ級にflagshipはいない』

 

提督の言葉。どうやらこれは提督の予想でしかないが、サブ島、アイアンボトムサウンドの方に戦力を割きすぎたと言うか、まさかあの艦隊を打ち破られるとは思ってはいなかったようで、こちらには補給量の少ないeliteのみで構成されていた。

大容量を輸送でき、かつ重巡並の火力を持つワ級flagshipはもうアイアンボトムサウンドの藻屑と化している。

 

ただ、油断をすれば駆逐艦もいるとのことで大破しかねないと言う。細かな詳細データをどこから引っ張ってくるのかはてんでわからないが、三条提督、そしてうちの刈谷提督共々、情報量がかなり豊富で戦いやすい。三条提督の場合は提督と言うか提督の秘書艦の1人、大淀が凄まじいデータ量と作戦計画を立案する。

 

こう言ってはいけないのかもしれないが、大府提督の立案した作戦ではなく、刈谷提督と三条提督の大淀さんが考案した作戦の方が非常にやりやすい。

 

「榛名さん…次は輸送部隊の討伐…ですね?」

「はい、羽黒さん。提督が仰っていたように、危険なflagshipはいないようですけど、油断せずにいきましょう。長月さん…大丈夫ですか?」

 

「ああ、心配ない。包帯を巻いておけば問題ない。止血はしたしな。主力を倒すまでは役目は果たすさ」

 

長月さん。小さな体で必死に私たちについてきていたころが懐かしく思う。今では小さな体だけれどとても大きな背中に見えることがある。菊月さんも同じだ。背中を守られていると言う安心感がある。今回は参加していないが望月さんもすごい。

 

「あーめんどくさい。早く帰ってゲームの続きがしたいからさ。ちゃっちゃと終わらせるよ」

 

いつも気だるそうにしているのに、戦闘になると旗艦以上に指示を出す。それがとても的確であり、作戦も相まってスルスルと作戦が進む。頭の回転が恐ろしく早い。

 

「敵が動いたよ。挟み撃ちにできる動き方だからそっちへ戦艦1人。重巡の人がこっちにいてー。水無月~、そっち任せるよ」

 

そう言ったら見事挟撃に成功。あれほどきれいに、かつ気持ちよくハマった作戦はないな、と思うくらいだった。

 

「ふん、俺んとこの睦月型は世界最強だよ」

 

そう提督が言っていたっけか…文月さんと皐月さんがいないのは寂しいな、と皆さんが仰っていましたが…横須賀には確かいたはず。うちにも建造か何かでほしいところだ。睦月型姉妹が勢揃いすれば、きっと睦月達も嬉しいだろうに。

 

「長月ちゃん。つらかったら言ってね、阿賀野が守ってあげるからね!」

 

「いや、大丈夫だ。私はまだやれる。それより、阿賀野さんこそ疲れているなら休んだ方がいいぞ。私と菊月でまだやれるからな」

 

「あ、はい」

 

お姉ちゃんを発揮しようと思ったら逆にしっかりとした対応をされてしまってそれ以上何も言えなくなってしまう阿賀野さん…お姉ちゃんとしての威厳は…ごめんなさい、能代さんの方がお姉さんと思ってしまいますので…。

 

しょんぼりしながら進撃する阿賀野さんを羽黒さんが慰めつつ進む。その姿はやっぱり羽黒さんが妙高型の末っ子なのにお姉さんに見えてしまうほどでした…。

 

………

 

「……ふん!!」

 

軽い砲撃音と共に橙色の線が弧を描いて飛んでいく。菊月の放つ砲弾は、逃げようとする補給艦ワ級に命中し、爆炎と共に沈んでいく。長月も菊月も慢心は決してしない。沈みたくはないから。沈めたくはないから。自分たちに居場所を与えてくれた司令官と球磨と多摩に並みならぬ恩義を感じている。その恩を、いつまででも戦果をあげて返す。それが2人の生きる目的だった。

 

卯月が戦地でふざければそれを叱る。仲間が危機ならば身を挺してでも助ける。褒めてもらわなくてもいい。戦うことでしか私達は恩を返せない性格だから。

 

ただ、最近は少しずつ長月も菊月も雰囲気が柔らかくなった。刈谷提督に頭を撫でてもらうようになってから。そして、褒めてもらってからだ。

 

能代とドックで水のかけ合いをして以降、提督は変わった。態度が柔らかくなり、艦娘とも関わるようになった。

 

最初の頃は「そうやって優しくしておいて地獄に叩き込むぴょん…悪い人はそうやって巧みに人を騙すんだぴょん…」などと卯月が言っていたが、そんなことは一切なかった。

 

「提督…長月さんが大破した巻雲さんを庇って…」

「ふぇえ…司令官様…申し訳ないです~…」

 

「巻雲、お前はドックへ行ってさっさと傷を治せ。長月…よく守ってくれたな」

 

そう言って頭を撫でられたとき「ふみゅ…」と変な声が出た。菊月もどうやら同じだったようで撫でられたとき、あのきつい表情のまま態度を変えなかったのに、その時だけは表情が軟化したそうだ。

 

あの時の司令官の手の温もり。「頑張ったな」と認められた時。私達はより強さを求めるようになった。疲れ果てても…それを思い出せばなんてことはない。

 

「敵に背を見せるとは軟弱だな!!!」

 

長月も苛烈にワ級を攻める。駆逐ロ級が庇おうとするも、フェイントを巧み使い、逃げるワ級を屠る。

 

……

 

「球磨姉みたいにまっすぐボッコボコにする方法もありにゃけど…やっぱりそれだけではうまくいかないことも多いにゃ。戦いは真面目にまっすぐやり合うだけにゃと身がもたないにゃ」

 

「クマー。まっすぐ行ってぶっ飛ばすクマ。右ストレートでぶっ飛ばすクマ」

 

「にゃ。長月と菊月はああなったらいけないにゃ」

 

「正攻法だけでは敵は倒せない時もある…そういうことか」

 

「そうにゃ。戦場では卑怯もへったくれもないにゃ。生き残ることを考えるなら、卑怯…ってほどでもないけど、柔軟に対応することこそが生き残る秘訣にゃ」

 

「まだるっこしいクマ!!!!」

 

「球磨姉のような野生の勘をこいつらは持ってねえにゃ」

 

そうしてフェイント戦法や奇をてらった戦法も多摩から教わっている。球磨はとにかくまっすぐ行ってバーンと行ってドーン!と沈めちまえばいいクマ!としか聞いていなかったため、長月は特に新鮮だった。逆に菊月は球磨の戦法に驚いていたが。

 

……

 

「ギッ」

 

ワ級を狙って撃つそぶりをした瞬間にそれを庇おうとするロ級。しかし、弾は発射されず、着水したと同時に発射。その砲撃はワ級に直撃する。と同時に横からワ級を庇おうとしたロ級に弾が命中。菊月だろう。

 

「全主砲、開いてください!」

 

羽黒の20.3cm砲(3号砲)が吼える。榛名の35.6cm連装砲(ダズル仕様)も吼える。巻雲も負けじと駆逐艦に集中する。

 

「てりゃりゃー!!」

 

「巻雲、左から来るぞ」

 

「はにゃあ!?」

 

「心配ない、潰しておいた」

 

「あ、ありがとうです!」

 

この夜戦も長月と菊月が大活躍した。いや、ここではそれ以上に巻雲がしっかりと活躍していた。後に長月ちゃんと菊月ちゃんのサポートがあったからですよぉ!と言っていたが。

 

……

 

「は、初めまして…!刈谷提督の艦隊旗艦、榛名です!」

 

「初めまして。三条提督の艦隊旗艦、扶桑と申します」

 

補給部隊を殲滅し、北から攻めていた三条艦隊と合流。

 

扶桑、翔鶴、瑞鶴、霧島、古鷹、摩耶。何と言うか…見ているだけで気迫が違う。何だろう、この艦隊は?威圧感はないが…何だかとても大きな存在感がある。

 

 

「皆さん、お怪我はございませんか?こちらは少々てこずってしまいまして…」

 

見ると扶桑の砲塔が何基かやられている。翔鶴も甲板に損傷がある。

 

「翔鶴さん…それでは航空戦は…」

 

「問題ありません。この甲板は改修を受けてこれしきではまだ飛ばせます」

 

「そちらは…駆逐艦の方が包帯を巻かれておりますが…」

 

「ああ、私か?私は長月だ。何、心配はいらない。かすり傷のようなものだ」

 

北側はなかなか激戦だったのか、損傷が大きい。とはいえ扶桑曰く小破。翔鶴は中破してはいるがまだ艦載機は飛ばせると言う。

 

「2艦隊で攻めれるってのはありがてえよな。空からの攻撃はあたしにまかせてくれよな!」

 

「空母はいないと聞いていますが…ですが、敵は多いようです。慢心せず勝利して無事、お互いの母港へ帰れるよう頑張りましょう」

 

「ぷはぁ!様子を見てきたでち。こわぁい敵がいーっぱいいるでち。でもちょっとだけ魚雷撃って驚かしておいたでち。にひひ」

 

「もう、イムヤ達は偵察だけって言われてたのに…」

 

「そう言いながら大穴を空けてやるんだからってワ級を1隻沈めたのは誰でちか?」

 

「……さ、さあ。誰かしらね」

 

潜水艦…?扶桑たちの後ろからついてきて、主力艦隊の偵察にだけ、前へ出て動いたらしい。扶桑に「危ないからダメよ?何かあったら大変ですよ」と注意を受けていたが、伊58は「ごめんなさーい」と気楽なものである。

 

「イムヤ達はここまでよ。扶桑さん、みんな、ちゃんとみんなで帰ってきてよね!」

「さらばでちー!!」

 

ザプンとイムヤとゴーヤは潜って戻って行った。一方敵艦隊は潜水艦の奇襲を受けたことで大慌てになっており、潜水艦を必死で探していたが見つからず、警戒が榛名達よりイムヤ達の方へと集中していた。

 

「ははっ、イムヤ達、さては大淀に言われてたな?こうなることを見越してたんだろ」

 

摩耶が笑っている。これも…三条提督…いや、大淀の作戦だったのか。

 

「こちら榛名、三条提督の艦隊と合流しました。敵は…三条提督の潜水艦の攻撃を受けて混乱しているようです」

 

『ちっ、あの野郎、俺の作戦パクリやがったな』

 

そう言うや否やさらに敵艦隊の方面から雷撃の音と水柱が上がっている。これにより、さらに敵は混乱に陥ったようだ。

 

「提督?刈谷提督のほうも潜水艦攻撃を…ええ、はい…わかりました。翔鶴さん、瑞鶴さん、発艦をお願いします」

 

「「了解!!」」

 

翔鶴と瑞鶴が弓を構える。瑞鶴の弓は随分と使い古したような見た目だが、逆にそれが何だか安心感を得られた。

 

「全機発艦!翔鶴、まだやれます!」

「鎧袖一触よ!!!瑞鶴攻撃隊、発艦!!!」

 

翔鶴は水面すれすれを。瑞鶴は天高く矢を放つ。艦載機に気が付いた時、すでにもう遅い。逃げようとしたワ級達だったが資材をたんまり積んでいるため、動きは鈍く、成す術もない。ここで補給路を断てば北方での戦闘が楽になることは間違いない。

 

「んだよ瑞鶴、お前加賀さんかよ鎧袖一触って」

「んなっ!?ち、違うわよ!く、くそー!口が勝手に!!」

 

「きひひ、その弓のせいじゃねえかぁ?っとと、あたしもサボってらんねえな!いくぜ!!!」

 

摩耶のハリネズミのように配備された機銃と対空砲だがそれをワ級に向けて撃つ。古鷹も続けて砲撃を始め、敵を倒し始めている。

 

「は、榛名達も…続きましょう!!」

 

見惚れている場合ではなかった。翔鶴の放つ艦攻隊は本当にすれすれを見たこともないスピードで飛び、魚雷を投下する。瑞鶴の艦爆隊は見たこともない高さから一気に急降下をし、爆撃する。その航空攻撃はすさまじく、多くの旗艦を庇おうとした駆逐艦や巡洋艦が沈む。

 

「シズ…ム…ミンナ…シズ…ム…」

 

低く…小さくではあるが声が聞こえた。そこに佇んでいたのは空母ヲ級。空母…ヲ級?そんなのがいるとは扶桑たちも、榛名達も聞いていない。何だこのヲ級は…?

 

手に持った杖で水面をコツンとつつくと水底から禍々しい歯を剥き出しにした艦載機がヲ級を取り囲む。

 

「甘いぜ!!」

 

摩耶の対空機銃と砲撃でほとんどが打ち落とされる。しかし…。

 

「ちぃ!こいつ!」

 

「摩耶さん、避けて!!」

 

このヲ級できる!あたしの対空をかわしやがった!!かわされることを予測はしていたが思った以上に速度が速い。摩耶は回避をとっさにするが、わずかながら被弾してしまう。

 

「すまねえ!機銃と砲をちょっとやられちまった!まだやれる!」

 

「シズム…シズメ…」

 

ボソボソとヲ級が虚ろな目で榛名達を見る。その無機質な目と、呪いのようにシズメと繰り返すヲ級に若干の恐怖を感じた。

 

と言うか、サーモン海域に空母ヲ級がいる話は聞いていない。これは一体どうなっているのだ?

 

「アノ日…ワタシモ…帰リ…タカッタ…気ガツケバ…ワタシハ…海ノ底…暗イ、深イ…海ノ…底…戻レナイ…帰リタカッタ…ノニ…帰レナイナラ…ミンナ…ミンナ…」

 

———―沈メテアゲル。

 

ゾワリと榛名達は背筋にうすら寒さを感じた。無機質な目で。彼女…ヲ級は笑う。そして…その目に青い炎のようなものが宿る。それは…。

 

「flagship改!?北方から流れてきたの!?」

 

「ミンナ一緒ニ…海ノ底ヘ…」

 

「そうはいかないわ…。私達には帰るべき場所があるの。そのために…ごめんなさい…海の底へ還ってもらうわ」

 

先頭に立ちはだかる扶桑の気迫が一気に変わった。ビリビリと伝わる凄まじいまでの闘志。殺気にも似たこの気配。

 

「扶桑さんと言ったな。援護する」

「同じく…。こいつは危険な感じがする」

 

「…お願い致します。いきます」

 

扶桑の41cm砲が火と黒煙を噴き上げたと同時に長月と菊月が散開する。狙いは空母ではなく、それを庇おうとする他の深海棲艦。しかし、ヲ級flagship改の艦載機の量が多く、なかなかに近づけない。摩耶が対空砲火を行っているが…。

 

「何だこいつ!?」

 

「まるで無限に呼び出してるみたいね」

 

「すごい…ここからでも寒気を覚えるほどの憎しみを感じます」

 

古鷹は感応力が高いのか、ヲ級flagship改の怨念にすっかり飲まれている。それを察知した扶桑がそっと古鷹に近寄り、扶桑の殺気でその怨念から守ってくれていた。

 

「彼女の目を見てはいけないわ、古鷹さん。凄まじい怨念…どこでここまで…」

 

「攻撃がなかなか通じませんね…」

 

「まずいですね。イムヤさん達がせっかく場をかき乱してくれたのですが…」

 

ヲ級の怨念の強さに呼応してか、潜水艦によって場をかき乱された深海棲艦たちが落ち着き始め、こちらへの攻撃が激しくなってきた。押されるか…。

 

「……帰リ…タイ…」

 

「帰りたい…あなたの言う帰りたい場所はどこですか?海の底ですか?それとも…」

 

「帰リ…タイ…ナァ…ミンナガ呼ンデル…帰ラナキャ…」

 

「お、おい…扶桑さん、こいつどうしちまったんだ…?」

 

「強い怨念と同時に…何か強い使命感を感じます。彼女はもしかして…元艦娘…?それとも…かの大戦のときの…?」

 

「ミンナガ…泣イテル…提督ノセイデ…」

 

「……」

 

瑞鶴はその言葉に昔を思い出した。みんなが提督のせいで泣いている。虐げられ、死刑を宣告され…穢され…殺され…。

それを思い返した時、ガンと頭を殴られたかのように何かが見えた。

 

………

 

「大丈夫。きっとよくなるよ。いつかはわからないけど…ごめんね。でも、私が笑顔を忘れたらみんな沈んじゃうからさ」

 

「あはは…また怒られちゃった。あはは…ははははは…あー……ろしたいなぁ」

 

「加賀さん、ごめん。先行くね。追ってきたらダメだからね!鎮守府を…守ってね。あいつは…殺したかったなぁ」

 

………

 

「…え?」

 

「瑞鶴?」

 

「瑞鶴たちが建造されて着任する少し前に…戦果目当てに…南方海域へロクな装備も持たされずに行かされた空母がいたって話…聞いたことあるよね…私、思い出した…結局…というか…当たり前のように…帰って…こなかったって…」

 

「瑞鶴…まさか…!?」

 

「……横須賀の…その空母…?」

 

ここでもまた安久野の置き土産…になるのだろうか。どうしてどこまでもついて回るのか。あのクソ男は。

 

「あなた、横須賀にいた空母さんだよね!?」

 

瑞鶴が名を呼ぶとビクンとヲ級が反応した。

 

「ヨコ…スカ…私ハ…ウグッ…」

 

突如ヲ級が頭を抱えてうずくまった。

 

「私ハ…空母ヲ級…ソウリュウ…違ウ…イエ、私ハ二航戦…ウアッ…ウアアアアアアアアア!!!!!!」

 

「ソウリュウ?おい、マジかよ…蒼龍ってあの…空母蒼龍か!?いや、横須賀に蒼龍なんていたか…?聞いたことねえぞ」

 

「私も知らない…けど…なんか知らないけど…私の頭にあのヲ級の記憶が流れ込んできたんだ。間違いない。あのボロボロの鎮守府。あの憎たらしい鉄仮面…後ろに長門さんもいた気がする。あれは…間違いなく横須賀だった…え?弓…が」

 

瑞鶴の持つ弓がブルブルと震えている。今見せたのは…加賀さんの弓?

 

………

 

「二航戦…提督を殺したところで貴女に待っているのは提督を殺したと言う罪と…罰よ」

 

「ふふっ、それでもいいんじゃないですか?罪は背負えます。罰で私が解体になったとしても、加賀さん達は楽になりますよ」

 

「確かにそうだけれど…そこに二航戦の貴女…蒼龍がいない」

 

「私はいくらでも建造でできるじゃないですか。あいつは殺せばおしまい。ね?そっちのほうが加賀さん達は楽になる」

 

「安易な考えを捨てなさい。長門さんが聞いたら激怒するわよ」

 

「だから加賀さんに言ったんじゃないですか」

 

「私のことをわかって言っているの?私も頭に来ているのだけれど」

 

「あんな人間、生きている方が間違いなんですよ」

 

「それでも…手をかけるのはダメよ。何か他に策はあるわ」

 

「ちっ、うるさいなぁ!!!話して損した!!!!もういいです!!!わかりました!!!!!」

 

「蒼龍…あなた…」

 

「もういいって言ってるでしょう!?放っておいて!!!」

 

………

 

「蒼龍が提督を殺そうとして南方海域へ行かされただと!?」

 

「……あの子を止められなかった…もっと強く言っておけば…」

 

「加賀…言ったところで聞くどころではなかった…あの子の目は…もう深海棲艦に堕ちていた目だった…私も出撃を止めさせようとしたのだが…あの子は喚いて話にならなかった」

 

「……ごめんなさい…ふがいない私を許して頂戴…いずれ…私も」

 

「バカな考えはやめるんだ。それよりも空母が加賀だけになってしまったことで空母の建造を行う可能性がある。願わくば…失敗してほしいものだが…」

 

「そうね…」

 

………

 

これは…加賀さんの記憶?加賀さんの弓が加賀さんの記憶を見せている?とっさに横須賀の蒼龍かと尋ねたのは加賀さんが言わせたのか。

 

「横須賀…提督…ミンナ…ミンナ沈ンデ…沈ンデシマエ…!!!!」

 

ゴォッ!と強い風が吹いた。その風は艦娘に悪寒をもたらす風だった。激しい憎悪をまき散らし、怒り狂った青く燃える目で瑞鶴を睨みつけた。

 

その憎悪に包まれ、竦んだ瑞鶴であったがその時加賀の弓が光りだした。キィン!と眩く。

 

 

しっかりしなさい、五航戦———あの子を…助けてあげて。

 

 

「激しい憎悪ね…ですが…ここは引けないの。ごめんなさい。あなたが何者であろうと…ここで海に還ってもらうわ」

 

扶桑が負けじと殺気を強くする。その殺気と憎悪がぶつかり合う。そして、それと同時に扶桑の背後からもう1つ。大きな気配が扶桑の殺気と混ざって怨念を押し返す。すくみ上っていた鹿屋の艦隊ははぁ…と大きく息を吐く。

 

「扶桑さん、私もやるわ。ったく…なんで私が叱られなきゃいけないのよ。帰ったらお墓にいたずらしてやるんだから」

 

「瑞鶴さん…」

 

瑞鶴がヲ級flagship改を睨みつける。その右の眼が…蒼く輝いていた。

 

「元二航戦蒼龍さんだか何だか知らないけど…今の提督さんの邪魔をして…みんなを沈めようとするなら…この五航戦の誇りにかけて!あんたをここでみんなで協力して沈めてやるわ!!!」

 

「…そうですね。ここで負けるわけにはいかないもの」

 

ガコォン…と41cm三連装砲を全てヲ級に向ける。瑞鶴は弓をつがえ、矢を構える。

 

(あ、あの青い目は一体…?横須賀の艦娘は一体…どうなっているんですか…?)

 

榛名はその光景に立ち尽くすばかりであった。

 

「何をしている榛名さん、羽黒さん、阿賀野さん。私と菊月と巻雲はやる気だぞ。横須賀に続こう」

 

「……ヲ級があちらに気をやっているなら好機…この機を逃すのは…惜しい」

 

「横須賀の皆さんをサポートしましょう!」

 

駆逐艦に背中を押される。ああ、そうだ、私がこんなことではいけません。

 

「…わかりました、今がチャンスです!奥の敵艦隊を倒します!榛名に続いてください!」

 

……

 

「主砲、副砲、撃て!!!!」

 

「鎧袖一触で決めてやるわ!!!」

 

「……海ニ…消エロオオオオオ!!!!!」

 

 

横須賀、鹿屋。それぞれのサーモン海域最後の戦いが始まった。




ここでも安久野の置き土産が。摩耶達も知らない空母「蒼龍」の成れの果ての姿です。詳細は次回にでも、

私独自の設定ですが、深海棲艦は怨念が深いほど強い深海棲艦になります。そして、その怨念の要因は海の底に沈んだかの大戦の際の無念、悲しみ、怒りをかき集めるもともう一つ。艦娘の時、沈む前にどれほど深い怨みや怒りを心に秘めていたか。無念や悲しみを持っていたか。それじよって生まれる強さが変わると言う設定です。蒼龍ことこのヲ級flagship改の生前の怨みや怒りは相当だったようですね。深海響の時のように。

次回も2艦隊によるサーモン海域戦の続きです。蒼龍の過去も明かしていきたいと思います。

正直な話をしますと、Wikiでどんな深海棲艦が出るかを調べていた際、誤って5-5のところを見ていたようで「ヲ級flagshipが出るのか」と思い話を書いていたところ、何かがおかしいと調べ直したらワ級flagshipが期間でヲ級なんて出ないじゃん!となり、しかし話はもう書き直すには難しいくらい書いてしまっtたので安直ですがこんあシナリオになりました。ごめんなさい…。

それでは、また(逃走)
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