「チィ!!!」
「っつぅ!!!」
砲撃から始まった北上と木曾の第2ラウンド。動きがさっきまでの緩慢なだらりとした動きはあまり変わらないが、緩慢なように見えて速く鋭い。
両者が放った砲は木曾は先ほど掠めた頬を。北上は左肩を掠めた。その痛みで腕の動きが鈍くなるだろう。その狙いもあったのだが。
「こんな傷み、大井っち達みんなを守れなかった痛みに比べたらなんてことは…ない!!!」
ドン!!!
15.2cm連装砲改が木曾へ向けて火を噴く。左肩の傷みなんか気にならない。それよりも今怒りが勝っていて興奮状態である。いつもアイツとの戦いの時なんかはかすり傷程度で痛いなんて言っていたら雪風だって守れなかったかもしれない。片腕が骨まで見えるほど抉られたときだって、痛いだの腕がちぎれそうだのと言っている暇もなかった。
それに比べればこんな傷、痛いなんて思わない。それよりも玲司を、雪風やみんなを馬鹿にしたことが許せない。
(クソが!なんだコイツ!!さっきと動きが違え!)
本来の正しき重雷装巡洋艦の艤装。そして明石が1から作った艤装である。正直、朝潮や神通に作った「女王のための艤装」に等しい。
「ああ、あたし、『女王』とか興味ないから。ハイパー北上さんって言うのはまあ言ってもいいかな、にひひ」
地位も名誉も興味はない。日本中の艦娘があこがれ、畏怖する「女王」…なれるものならなりたいと日々研鑽する艦娘もいるくらいなのだが、それにすら興味がない。全ては玲司のため。仲間のため。
あたし達をどん底からこんな明るい光の下へ引っ張り上げてくれた玲司を。生き残ってきた雪風や瑞鶴、摩耶たち。そして新しい仲間たち。そんなみんなのためならあたしは『女王』だろうが何だろうが関係ない。どこまでも強くなる。
ただ、コイツだけは絶対に許さないけどね。
「クソが!!『雷の竜巻』!!」
木曾の必殺技の一つ。竜巻の様に魚雷が渦を巻いて迫りくる。その範囲を狭めていき…やがては全てが直撃する仕組みになっている。直撃してもかわしても、誘爆で周りの魚雷が弾けても大ダメージを負う。
「へー、こんな魚雷の動かし方もあるんだね。勉強になるよ」
「は?」
気が付けば木曾の周りにも魚雷が竜巻の様に渦巻いていた。それと同時に北上は魚雷を1本木曾へ投げつけた。気を逸らしてこの渦の対処を刺せない気か!?
「なめるなああああああ!!!!!!」
上半身を逸らし、投げつけられた魚雷をかわし、「雷の竜巻」を対処する。しかし、僅かながらに反応が遅れたせいで木曾の近くで大爆発を起こす。北上もこれはさすがに避けきれない。動けないまま静かに魚雷を放っていた。
両者の位置で大爆発。「北上さん!」と雪風が叫んだ。
「あら…あらあら。すごいおもしろいことしてるのね」
「うぇ!?」
龍驤が思い切り飛び上がった。
「まあ、これは…すごいですねぇ」
「ひぇっ!?」
龍驤が凍った。
「陸奥姉ちゃん。それに…鳳翔さん?」
「はぁい、玲司君、お姉さん、ずぅっと会いたかったんだぞっと」
「軽空母、鳳翔と申します。元、ではございますが…」
「『ジェネシス』のレ級を退けたって言う鳳翔…さん、マスター…じゃないや、安城元提督の鳳翔さんか!」
「ふふふ、鳳翔で結構ですよ。古井司令長官と虎瀬提督の頼みとあらばお断りするわけには参りません。横須賀鎮守府の空母を鍛えてほしいと言う依頼を受けて参上しました」
「お、おお。それはありがたい。陸奥姉ちゃんたちが来るのは知ってたけど、まさかあの鳳翔…さんまで」
「もう、鳳翔で結構ですってば!」
「あ、はい」
「りゅーじょー」
「りゅーうーちゃん」
「はいいい!?」
「どうして逃げるのかしら?久しぶりにお姉ちゃんに会えてうれしくないの?」
「龍ちゃん、私のことが嫌いになってしまったのかしら…」
「あ、ああいやちゃうねん!ちょ、ちょっちお花を摘みにやな…」
「お手洗いはあっちよ。見え透いた嘘もそこまで来るとすがすがしいわね」
「ひ、ひいいい!か、かんにんやぁ!!」
「何でそこまで怯えてんだよ姉ちゃんは…」
いつの間にか「原初の艦娘」のリーダー的存在、「刃の女王」陸奥とレ級を退けたと言う第二世代「ジェネシス」の軽空母、鳳翔がいた。その後ろから赤城や高雄がやってきた。
「ちょおおお!?姉妹全員勢ぞろいかい!?」
「あれ?お姉ちゃん知らなかったの?島風は陸奥お姉ちゃんたちが来るよってお兄ちゃんに教えてもらったよ?陸奥おねーちゃん!」
「ふふふ、島風、久しぶりね。元気になってよかったわ」
「うん!あのねあのね!いーっぱいお友達もできたんだよ!」
「そう!それはよかったわ」
「にひひー♪」
「おいこら玲司!なんでうちには教えてくれんかってん!?」
「いや、陸奥姉ちゃん来るって言ったら絶対逃げるだろうと思って」
「当たり前やあほぉ!!!あ…しま、あががが!!!!ちょぉまって!われる!!!!頭がわれえええええああああああああ!!!!!!」
アイアンクローをされ、宙づりにされる龍驤。口は災いの門。さらに鳳翔まで暗い笑みを放っているように見えた。
「大淀ちゃん」
「た、高雄ちゃん!会いたかったです!!」
「ふふ、私もですよ。何やらすごいことになっていますね。北上さん…ですか。すごい、あの木曾ちゃんの攻撃を全て真似ている…」
横で死にそうになっている龍驤は無視され、木曾と北上の戦いを見ていた。先ほどから北上は木曾の攻撃を全て真似しているのだ。そして、その真似をすることで、防御のやり方も確実にものにしていく。「雷の檻」、「雷の竜巻」、その他魚雷攻撃も全て真似をして魚雷と魚雷がぶつかり合い、飛沫が飛び散る。時に虹が浮かび出て美しいものではあるが、木曾はそんな悠長なことを言っている場合ではなかった。
「木曾ちゃんは確かに頭が切れて戦略を立てるのは得意ですが、突発的なことに弱いの。だから、きっと北上さんがずっと自分の真似をして徹底的に防がれていること。そしてその精度が段々と自分に近づいてきていること。これによって木曾ちゃんはかなり焦っているわ。あの北上さん、すごいわね…」
「それにあの殺気。見ていてすごいわねぇ。よほどの死線を潜り抜けてきたみたい。おもしろいわねぇ」
口は笑っているが目が笑っていない陸奥。北上の強烈な殺気に反応しているらしい。
「それに…あそこで見ている子達。私もあとで立ち合っていいかしら?伝説の大和と武蔵…とね」
「勘弁してくれよ姉ちゃん…」
「あら、どの道私達が指南するなら避けて通れないわよ。特に、大和と武蔵なんて、扶桑や霧島の育成とはおそらくやり方が全然違うはずだもの」
「まあ、そうだな…」
「それよりも、あれ、そろそろ止めた方がいいんじゃないかしら?このままでいくと…木曾が勝ちに近い引き分け、かしらね」
「いえ、北上さんが勝ちます」
「高雄…?」
「見ていればわかりますわ」
………
「はぁっ…はぁっ!」
「ぜぇ…ぜぇ…」
お互いに肩で息をしていた。音もなく来る魚雷。激しく動き回るし砲撃も避けなくてはならない。北上は木曾の真似をすることで必要以上に体力を消耗していた。木曾もまさかここまでやられるとはおもっていなかった。木曾も北上もお互いに中破状態である。
「や、やるじゃねえか。そろそろ…ここらでストップといっとくか。これ以上やると陸奥姉に怒られる」
「やめるのはいいんだけどさぁ。謝ってよ」
「なに?」
「謝ってよ。玲司とみんなを馬鹿にしたこと」
「それは…」
「あたしの宝物なんだよ。ここが。みんなが。あんただって自分がお姉ちゃんや妹を馬鹿にされたらキレるっしょ?それと一緒だって。あたしがここまでムカついてんのはあんたがあたしの宝物を馬鹿にしたから。大切な大切な…宝物。玲司がくれた…かけがえのない生活」
「北上…」
「オレは自分の信念は曲げねえ。オレの言ってることは間違ってねえ。北上姉の信念だって間違ってねえってのはわかる。北上姉の信念がそこまでってのはわかった。オレも信念を曲げられねえからよ。北上姉が勝ったら北上姉の信念が強えってことだ!!」
もう残り少ない魚雷。北上は防御に全てを使い切ってしまっていることはわかっていた。だから、北上よりも温存していた魚雷を今ここで全部使って北上を轟沈判定にしてしまえば勝ちだ。この勝負はオレの勝ちだ。そう確信した。
「喰らえ!!!オレの最後の『雷の檻』だ!!!もう防ぐ手立ては北上姉にはねえだろう!!!」
「あるよ」
北上がそう言ったとき、木曾に背後から魚雷が直撃した。
「な………に………?」
爆発に木曾が吹き飛ばされた。そのまま水面に叩きつけられ、激しい痛みに襲われる。立ち上がれない。
「そこまでよ。木曾、轟沈判定。木曾の負けね」
「むつ…姉」
「油断したわね、木曾。あんたは最後の最後でツメが甘いのよ」
陸奥がよいしょ、と木曾を担ぎ上げる。北上は「雷の檻」を喰らう前だったので中破だったが、雪風や電たちが駆け寄る。
「北上さん!大丈夫ですか!?」
「うん。平気」
「と、とにかくドックに行くのです!傷を癒すのです!!」
「北上さん!!ああっ!北上さんがこんな…!とにかくドックへご案内します!!!」
「電に朝潮うるさーい」
「ドーンとお風呂に行きましょう!」
「あーもーくちくうるさーい!」
わらわらと駆逐艦たちが寄ってきてドックへ連れて行こうと引っ張る。うざいと言いながらもその顔はいつものちょっと困ったような笑顔だった。
「あー、ちょっと待って。ドックに行く前に」
そう言うと北上は木曾に寄って行った。
「……北上…姉」
「あたしの勝ちでしょ。あたしの信念が勝ったんだから謝って。玲司とみんなを馬鹿にしたこと」
「ま、まだ言う…のか」
「自分の大切なもの馬鹿にされたら怒って謝れってあんた言わないの?謝る気ないの?じゃあいいや。もういい」
「木曾、何を言ったの」
陸奥に睨まれてしまっては…木曾は正直に陸奥に話した。
「木曾、あなた、自分のお父さんが一端の提督に馬鹿にされた時激怒して謝れって言って喚いてたくせに自分は謝らないってそんなスジが通ると思うわけ!?そんな道理は通らないわよ!!!自分がされて嫌なことをしておいて、知らないで済まそうなんてそんな風に言ってきた覚えはないわ!!謝りなさい!!!それとも何?『原初の艦娘』であり『雷の女王』だからただの艦娘に謝ることなんてしなくていいとでも思ってんの!?とんだ思い上がりだわ!!!恥を知りなさい!!!!」
陸奥に激怒されてしまった。玲司は怒られて仕方ねえわな…と思った。陸奥の剣幕がすごすぎてたじろいでしまって止められない。とりあえず陸奥が言い終えたようなので何とか声を出した。
「木曾。謝らない、謝れないって言うのは情けないことだ。陸奥姉ちゃんが怒るのは当たり前だ。俺に謝る必要はないけど、怒らせた北上には謝るべきだ」
「う、ぐ、うぐっ…ごべんなざい…」
「泣くんだったら最初から謝りなさい!!!このあんぽんたん!!!」
「う、うわあああああん!!!!おねえぢゃんごべんなざいいいい!!!!」
「私にじゃなくて北上に謝るんでしょ!ほら!頭下げてごめんなさいは!?」
「ごめんなさああああいい!!!!!!」
陸奥のあまりの剣幕と、鼻水を垂らすほど大泣きして謝っている木曾に、何だか怒りも消え失せてきた。
「あちゃー、やっぱ陸奥姉さんのお叱りはすごいなー」
「川内…んなこと言ってると巻き添え食うぞ」
「そんなもんは犬も食わないっと。退散退散」
ひゅっと消える川内。何度も頭を下げて北上に謝る木曾。
「……次はマジで容赦しないから」
「うぐっ…ううううう」
一応許したようであるが、まだ怒りは冷めやらぬ様子らしいように木曾は見えた。北上自体はこれ以上はあの陸奥って人が怒ってくれたし、木曾はこんなだし、もう怒るのもめんどくさい…そう思っていた。そのまま北上は駆逐艦たちにドックに案内されるようである。
「ねえねえ北上さん!島風が髪の毛洗ってあげるね!」
「島風のシャンプーははっやーいでしょって言って洗えてないもんなー。電に頼もうかなー」
「えー!?ちゃんと洗うからー!」
「じゃあ電は背中をお流しするのです!」
「で、では朝潮は前を!」
「いや、いいから。至れり尽くせりかっちゅーの」
「雪風!肩をおもみします!」
「だーかーらー。あーもーくちくってやっぱうざーい」
「あはははは!!!北上さんはもてもてですなぁ!漣チャンもお手伝いしますぞー」
あれだけ恐ろしい殺気を振りまいていた北上はさきほどとうってかわって笑っていた。
「あ、あれこそが北上の強さ…か」
「お、姉ちゃん生き返ったか」
「お、おお。玲司、うちの頭、何ともないか…?」
「おう、かわいらしい頭してるよ」
「どないな褒め方やねん!」
わしわしと頭を撫でられ、文句を言いつつもまんざらではない様子である。
「なあ、提督。最後の木曾への背後からの魚雷って何だったんだ?あたしにはさっぱりだぜ。北上は魚雷、撃ちきってたはずじゃ?」
「ああ、それはな」
摩耶や横須賀のみんなは訳が分からない状況だったらしい。
「北上が魚雷一本、木曾に向けて投げていたのを覚えてる?」
陸奥が皆に問いかける。そう言われれば…と皆が言う。そして、ハッとなる。
「まさか、あのぶん投げた魚雷が!?」
「正解よ。それを警戒しなかった木曾の負けよ。あれは北上が木曾の気を逸らすために使ったんじゃなく、油断した隙を狙っての最後の一撃、奥の手。そんなところね」
「ははは!北上はやっぱりおもしろいな!あいつのやることはいつもおもしろい!そして、強いな!この武蔵も負けておれんな!」
後から北上が言うには切札「最後のにぎりっぺ」と言うなんともみんなが顔をしかめるネーミングセンスではあるが…木曾は見事にひっかかった。あれは気を逸らすためのものでもあるが、そうして一本放り投げておいて確実に最後に仕留める。
「瑞鶴が深海棲艦になった加賀さんを倒すために最後の最後まで『黒鶴隊』を飛ばして隠しておいたってのをヒントにしてみた」
とのことらしい。瑞鶴にパクリよパクリ!!!とキーキー言われていたが勝つための手段でしょーと軽くスルーされていた。
「お見事ですわ。まさか…『原初の艦娘』と対等に戦い、頭脳戦で勝つなんて。木曾ちゃんはあの魚雷がもしかしたら狙っているかもしれない、と言う危機感がすっかり抜け落ちていたみたいね」
「それでも、攻撃においては『原初の艦娘』3本の指に入る木曾姉さんを負かすとはな。恐れ入った」
陸奥、赤城、木曾。攻撃においては3本の指に入る木曾に打ち勝った北上。やはり、北上の実力は本物であった。
「『原初』を超える艦娘。そうね…いろんな私達では歯が立たないような深海棲艦も出てきているわけだし、それに対応するために艦娘だって変わっていくのよね」
「世代交代…ですか」
「あら、高雄の頭脳はまだ錆びついているわけじゃないでしょう?大和や武蔵が現れた。その時点で私はもう勝ち目なしよ」
「それはわからん。実際に手合わせしてみてだな」
「あら、武蔵…と、言うことは?」
「ああ、貴様を見ている時から体が疼いて仕方がなかった。私より強い相手となると…なおさらな!」
「仕方ないわねぇ…じゃ、玲司君。ちょっと演習させてもらうわ」
「ってか大丈夫なのかよ…陸奥姉ちゃんと武蔵って…」
「大和もやる?」
「い、いえ…私は…ちゃんとした鍛錬を受けてからで…」
「あら、謙虚ね。まあいいわ。そういう謙虚な子って好きよ」
「ど厚かましい人が言うとなおさ…あがががががが!!!!!!!ご、ごめんて!!!!!あたま!!!!!あーたーまー!!!くだけるうううう!!!!!」
「相変わらずだな、龍驤姉さんは」
またしてもアイアンクローをもらい、ミシミシと頭蓋骨が悲鳴をあげているのが玲司にも聞こえた。
………
「今度は武蔵さんかよ…で、相手は『原初の艦娘』最強の陸奥さんか…大丈夫なのか?」
「さぁてなぁ…大和もだけど、武蔵も未知数だからな。特に、まだ武蔵は本格的に戦ったこともないしな」
今度は「原初の艦娘」最強「刃の女王」陸奥。そして、大和型戦艦2番艦。武蔵。これまた展開が全く読めない闘いであった。
「艤装を装備しておきながら格闘技の構えか。なるほど、只者ではないらしい」
「『原初の艦娘』…その『刃の女王』と言えば蹴りだけで重巡リ級を沈められるとまで言われている十傑の1人だ、武蔵」
「なるほど。砲はそう必要ないと言うわけか」
「46cm砲を苦も無く担いでいる戦艦は初めて見たわ」
「これが私の装備だ。重くもない」
武蔵の巨大な砲が何基も伸びる艤装。自分でさえ、46cm砲を何基も抱えたら恐らくは命中精度も悪いだろうし、動きも鈍る。だが、彼女は重いとは感じず、涼しい顔で水面を走っていた。
「さあ、じゃあ始めましょうか!!!」
少ない41cm三連装砲改を取り付けた艤装の陸奥の方が動きは軽い。まずは46cm砲を武蔵が放つ。魚雷とはまた違う、腹に響き、鼓膜が破れそうな轟音が周囲に響き渡る。思わず見ていた艦娘は突然の轟音が近くで鳴り響いたことに耳を塞いだ。
もうもうと立つ黒煙に視界を奪われる。撃ちすぎたか…話には聞いたことのある「原初の艦娘」ならば、これくらい何と言うこともなくかわすだろう。さて、どう出…と思っていた矢先、黒煙から不敵な笑みを浮かべて陸奥が突っ込んできた。そして…
ドゴォ!!!!!
「まさかり…そう呼ばれとる陸奥姉やんの蹴り。あれをノーガードで喰らった重巡リ級が真っ二つになってな。しょんべんやなんやわからんもんちびってみんな深海棲艦逃げ行ったわ。そこから、鉄槌と呼ばれる突き。敵に寄っちゃ槍や。ヘ級のどてっぱらに大穴空けよる。『刃の女王』っちゅうんはそういうとこからきとる」
武蔵には見えていたらしく、強烈な陸奥の右足の蹴りを左腕で受け止めた。
「うっそ、マジ?陸奥お姉ちゃんの蹴りを止めちゃったよ」
これには川内も驚きである。戦艦タ級でさえあの蹴りで骨を粉々に砕き、腕を使い物にならなくしたことがあるくらいなのだが。
「……重いな、だが、これで貴様の動きは止めたぞ、むっ!?」
片足をあげたままひねりを加え、さらに強烈な突きを繰り出す。目つぶしか!!!
チッ!と言いながら武蔵も体を捻る。そして距離が離れた。
「へえ、私の蹴りを受け止めたのは貴女が初めてよ」
「そうか。それは光栄だな」
しかし、武蔵の左腕はダラリと垂れ下がっている。強烈な一撃だった。まともに腕や体で受け止めるべきではなかった。
(チッ、妙な音が聞こえたからヒビが入ったか、軽く折れたな…とんでもない艦娘がいるもんだな)
「左腕は大丈夫かしら?」
「ふん、私は大和型。これしきの蹴り、蚊に刺されたようなものだ」
傷むがその表情を見せず、左腕を動かし構えを取る。だが、次にまともに受けたら腕の骨が砕けそうだ。しかし、あれが初撃、一撃必殺の技だと言うのなら、その種明かしをしてしまったが故に対策は取れる。こちらもむやみに砲を撃つと煙で見えなくなる。
「そこまで!陸奥姉さん、むやみやたらに戦いを挑まないと約束しましたよね?」
「高雄?ちょっと待って、今おもしろいところなんだから!」
「お父様に言われたことを忘れましたか?私たちのすべきことは腕試しではなく、練度の向上です!いくら武蔵さんが姉さんの蹴りを防いだからと言って、続けるべきではありません!」
「何よ!せっかく骨のある子がいるって言うのに!私が楽しめそうな子がいるって言うのに!」
「それ以上言うなら仕方ありません」
「ならやらせてくれるのよね?」
「玲司君に今まで行って来た行為を横須賀の艦娘の皆さんに暴露します」
「……は?」
「高雄さん、それって…」
「そうですね。例えば学校から帰ってきて、たまたま体調が悪くてよろけていた女子生徒をちょっと休ませてあげてほしいと言って帰ってきた時にその女子生徒さんにこの泥棒猫と「にゃああ!にゃあああ!!!!ま、待って!そう言う暴露!?やめて!!!人前でそう言うの言うのやめて!!!!!」
「なら、武蔵さんとの手合わせはストップできますね?」
「そ、それは…」
「高校生になった玲司君がお風呂に入っている時に人の目もわきまえず廊下で服を脱いでお風呂へ…「にゃあああああああああ!?!?!?!?!?!」
「ね、姉ちゃんそんなことしようとしてたのか!?」
「ああ、あれ止めるんむっちゃ苦労したわ…お母ちゃん出てきてそのまま服着せて…」
「おばさんのおかげか…それでなんか離れに連れて行かれて怒られてたわけね…」
「ねえ提督…陸奥さんってもしかして…漫画で読んだことあるけど…ブラコン?」
「ブラコンって言うか…ヤンデレかな」
「ああ…」
「何よヤンデレって!?」
「病むほど…時に狂気的にその人が好きでたまらなくて何をするかわからないくらいデレデレの…」
「何か不名誉じゃない!?」
「あら、馬鹿ね。ヤンデレは純愛よ?」
「五十鈴…」
「最上も読む?ヤンデレの女の子が『中に誰もいませんよ』って言うのだけど」
「それ読んだことあるけどマジで怖かったやつじゃん!?」
「ああ、読んだの?あの主人公は許せないわね。もう一つの話はまたドロドロしてて首だけに主人公がされてたけど、いい気味だったわ」
「五十鈴も十分病んでるんじゃないかな、それ…」
「一途な女の子を踏みにじる主人公が悪いのよ。ああいうヤンデレって言う女の子、一途でいいんじゃない?ほら、司令官にラブラブな翔鶴みたいに」
「い、五十鈴、あかん!?」
ピキッと言う音がした気がした。空気が凍った。
「ぬわんですって?」
陸奥が修羅の顔になった気がする…。
「ああ、そう言えば玲司君、翔鶴さんとお付き合いしていますよね?」
「え?あ、は、はい…えへへ、お付き合い…大切な人って言って下さります…」
ビキビキッと空間が何だか歪みそうな状態になってきた。
「姉やん、玲司かて男や…異性を好きになるっちゅうこともあるやろがい…」
「わ、わた、私…私…何も聞いて…ピーガー」
「あ、壊れよった」
「つつつ、提督よ。すまんが私もドックへ行かせてもらう。腕が腫れてきた。やはり、陸奥の蹴りを喰らって折れたかヒビが入っている。治させてもらうぞ」
「ああ、ゆっくりしておいで」
白目を剥いて思考停止している陸奥と、怪我を正確に訴えドックへ向かう武蔵。そのしっかりさ加減で言えば、武蔵の勝ちであろう…。
………
「おほん…で、正式に翔鶴とお付き合いしているわけね」
「あ、ああ…俺からちゃんと告白した。まあ、その前から告白されてたような言葉をいっぱいもらってるんだけど」
「れ、玲司さん…」
恥ずかしそうに顔を赤らめる翔鶴。そうなのだ。龍驤や川内は陸奥が玲司と翔鶴が付き合っていると聞いたら殴り込みに来てもおかしくないからと黙っていたのだった。
結果は思考停止からのフリーズ。口から黒い煙まで吐いて固まっていたわけだが。
「姉ちゃん。姉ちゃんが俺が道を踏み外さないようにしてくれたこと。甘えさせてくれたこと。感謝してる。人間の女性じゃないけど、俺も深海棲艦の血を分けて持ってる人からは外れた人間だ。いや、まあそれはどうでもいいんだけど、献身的に俺を支えてくれる翔鶴を好きになった。翔鶴も俺を好きでいてくれる。だから、お付き合いしてる」
「………」
事情を説明しても陸奥は一言もしゃべらない。まるで娘さんをお嫁さんに下さい!と言っているが頑として首を縦に振らない娘の父のようである。
「私は絶望の底にいた時、玲司さんを傷つけてしまったこともありましたが…優しく私を光へと導いてくださいました」
「傷つけたですって!?」
「あー!落ち着きぃや姉やん!!!しゃあないやろ!ここは元ブラック鎮守府やったんやから!!!」
経緯を説明し、玲司をナイフで切りつけたと聞いたときはわなわなと体を震わせ、執務室の重い執務机をひっくり返しそうになっていたが、龍驤がきっちり始末をつけたこと、それからの経緯を説明したことでそれは収まった。
「と言うわけで…翔鶴とお付き合いを始めて…」
「はい…不束者ですが…どうか、玲司さんとのお付き合いを認めて頂けないでしょうか…」
「いやいや、玲司が誰と付き合おうが自由やん?ましてやうちとしては女にひとっつも興味持てへんかってこいつホモちゃうんかって思ったくらいやったから、翔鶴と玲司が付き合うっちゅうんは大賛成やで?」
「私も心配していましたからね。艦娘とお付き合いしそう…とは読んでいましたけど」
「さすがは高雄やなぁ…」
「艦娘のことですぐ感情的になる子でしたからね。こうなるのでは、とある程度読めるものですよ。それで、陸奥姉さんはどうするんですか?まさか、反対だなんて言いませんよね?」
「………」
「姉やん」
「姉さん」
「わかってるわよ!!!!私にそもそも玲司君が誰とお付き合いしようと反対する権利なんてないでしょ?」
「せやけど前病人のおなごを連れてきたときはあがああああ!!!なんでうちだけえええ?!」
「もう、陸奥姉さん。あまり龍驤姉さんにきつくしないでください」
「んんっ!翔鶴?」
「は、はい!!」
「頼りない子だけど…優しくて、絶対にあなたを裏切らないと思うから…ただ…浮気とかしたら…」
「し、しません!そんなこと絶対に!」
「そうよね。もうそれだけかたーく恋人つなぎをいつの間にかしてるくらいだし…まあ、私のかわいい弟…おとうとを…」
「いつつつ…な、なんやどないしたんや陸奥姉やん?」
「よろじぐだのんだわよおおおおお!!!」
「姉ちゃん!?」
「陸奥姉さん?もう…ほんとにもう…」
「じあわぜになっでねえええ、うわあああああん!!!!!}
「……はい…必ず2人で幸せになります!」
「翔鶴ええこと言うた!!!ええか玲司!翔鶴泣かすなや?」
「もちろん。翔鶴と俺はこの先幸せにやっていくよ」
「うわあああああああああん!!!!!」
「うるっさ!!!!姉やんほんまあんたは娘はやらんっちゅうオヤジか!!!」
「うるさあああああいいい!!」
執務室での翔鶴とのお付き合いのお許し(?)は陸奥に認められ、丸く収まったのであった。
………
陸奥が落ち着いたところでやれやれ…と今後の話をしようと思ったとき、利根がドアを破壊せんとする勢いで飛び込んできた。
「しゅ、襲撃じゃああああああああ!!!!!深海棲艦の襲撃じゃああああああ!!!!!」
それを聞いた瞬間、玲司はやっべ…と思った。そう、すっかり忘れていた…うちには…戦艦棲姫の紫亜と…港湾棲姫の茉莉がいたこと…。
「やっべ…」
「しもた…忘れとったなぁ…ってそれどころやない!!!木曾や磯風が何しでかすかわからんで!?」
「あーもう!俺も悪いけど!!!!誰か木曾と磯風を止めてくれ!!!頼む!!!!」
館内放送で割れんばかりの大声で指示を出し、食堂へ走る玲司と龍驤達。利根は「戦じゃあああああ!!!!!と謎の燃え上がり、扶桑が玲司と合流。満潮が「バッカじゃないの!?」と玲司を叱り、あーもうめちゃくちゃだ…今日は厄日か?と思う玲司であった。
北上vs木曾決着。そして武蔵vs陸奥をちらっと。それから玲司と翔鶴のおつきあいのお許し編でした。
真面目から一転なぜか娘はやらんのようなお父さん的な話になってしまいました。
次回は新しい潜水艦が登場します。原初の艦娘による特訓、開始です!
それでは、また。