提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百八十三話

玲司と翔鶴の交際が晴れて陸奥に公認され、気兼ねなく交際できるようになったわけではあるが、やはりイチャイチャしているところを見ていると歯ぎしりが止まらない陸奥。

 

「鳳翔さん、翔鶴は徹底的に特訓を「ダメに決まっているでしょう?平等に鍛錬を行い、しっかりと強化を図っていきますよ。それに、いいではありませんか。若い者同士、あのように手を取り合って愛をはぐくむ。私もやってみたかったです」

 

「安城のおっさんとええとこまで言ったんちゃうのん?」

「おっさん?」

 

「あ、ああ、あーっと安城司令官とやな…」

「結局私は弓を持てないようになり、提督は鎮守府を去り…叶わぬ恋でした」

 

「今となっちゃあなぁ…人は老いるもんやでな。今はもうお父ちゃんと娘みたいなもんやしなぁ」

 

「そうですね…それに、仮に愛を育むことはできても…人間の様に子を育む、と言うことはできませんし…」

 

「そこやなぁ。退役して人間になった艦娘ならともかく、現役の艦娘と人間が愛し合って赤子ができたって話は聞かんなぁ」

 

「玲司さんは深海棲艦の血が混ざった混血児…もしかしたらと思うことはありますが…」

 

「まっさかー!それでもうちら、そういう機能ないねんで?艦娘であり続ける限り」

 

「あー、でも玲司君ならできたとか言いそうな気がしなくもないわね」

 

「姉やん、変なフラグ立てなや…」

 

「わからないわよ?玲司君のチカラで艦娘も『女』としての機能が活動を始めて…」

 

「はいはい、要は玲司の子供が見てみたいんやろ、陸奥姉やんは。んでもって光源氏計画でもすんのかいな…女子やったらどうすんねん」

 

「………」

 

「当たりかーい!!!!」

 

「うるさいわね!」

 

「逆ギレかい!?」

 

まあいろいろな思惑がありつつも、晴れて玲司と翔鶴は恋人同士として認められたわけである。

 

………

 

「祥鳳さん!的へ狙う時に手がぶれすぎです!!!それでは真ん中に刺さるはずがありません!」

 

「は、はい!!」

 

「瑞鶴さん!雑念がひどすぎます!!!弓を置いて正座!!!!黙想をし、心を無にしてから弓を持ってください!」

 

「う、うそぉ!?」

 

「翔鶴さん、もう少し肩のチカラを抜きましょう。それではいけません」

 

「はい。こう…でしょうか」

 

「まだです。心を鎮め、体を休めるのです。そして目だけで的を射るのではありません。六感全てで風を…体の気の流れを把握し、指先に全神経を集中するのです。目だけで物を射ると言うのは難しいものです」

 

「なんか…翔鶴姉にだけ鳳翔さん優しくない…?」

 

「瑞鶴さん!正座1時間延長!!!」

 

「い、いやあああああ!!!!」

 

翌日から原初の艦娘、そしてジェネシスの鳳翔による特訓が始まった。今回は超詰め込み式、5日で練度をガッツリ底上げ大作戦。サーモン海域北方への出撃が1週間後と決まったため、できうる限りを詰め込み、誰が出撃してもいいようにとにかく横須賀の艦娘全員の猛特訓が始まった。

 

「防空演習は来た艦載機をパパッと狙ってあとはズバーッと墜とせばいいだけだろう」

 

「いや、説明になってねえよ」

 

「磯風さん、わかんないよぉ…」

 

「ふむ。では一度やってみようか。疑似艦載機を発艦してくれ」

 

『黒狼』と言う二ノ名を持つ磯風が艦載機の大群に向けて対空射撃の準備に入る。しゅっと切れ長の鋭い目つきがより鋭くなる。

 

「ふむ、さすがは龍驤姉さんが指南しているだけのことはある。こいつはそうだな。さしずめヲ級flagship改までは言い過ぎだが、ヌ級flagship改が2隻くらいはいるくらいの艦載機の量だな。いいところまでいっている。これしき、撃ち墜とすのはたやすい」

 

「マジでか!?あたしら、これでヒーヒー言ってんだぞ!?」

 

「まあ見ていろ。ゆくぞ」

 

クオオオオオオン!!!とまるで狼が吼えるかの如く、磯風の対空射撃がバタバタと艦載機を撃ち墜としていく。それも、苦労することもなく、まるで艦載機の行き先がわかっているかのように、砲を空へ向けて放ち、艦載機が通りがかったらそこに弾が命中し、墜落する。あっと言う間に艦載機は全て撃ち墜とされた。

 

「うわぁ、すごぉい」

「すごいよー!ボクあれだけくるとぱにっくになっちゃうんだ!」

 

「簡単なことだ。赤城姉さんや龍驤姉さんの艦載機の動きに比べればなんちゃあない」

 

「なんだその言葉?」

 

「ん?ああ、今おもしろいてれびどらまと言うものを見ていてな。この言葉が気に入ったのだ。何てことはない、と言う意味のようだが、なんっちゃあないぜよ。とかな」

 

「へ、へえ…」

 

「なんちゃあない~」

 

「こら、変な言葉覚えようとすんな!」

 

「さて、今くらいの量なら4人でなんちゃあないき、ヲ級flagshipが2隻出てきちゅうが時の量でいくぜよ。勝ったらわしが特製プリンを作るっちゃるき、がんばるぜよ」

 

「何言ってっかわかんねえっての!あとそのテレビに感化されすぎだろ!!!!」

 

「え、ええっと、勝ったら磯風さんが作ったプリンを食べられるってことでいいんですよね…」

 

「そういうことだ。しっかりがんばれば、だがな」

 

「~~~~~~~!!!!!」

 

ウルトラマイペースな磯風。摩耶のような性格の艦娘には胃に穴が空きそうなほど強いストレスを感じる…そう、あのほわほわしすぎている航空巡洋艦のように。

 

………

 

「と、言うわけでじゃ!スパーンと飛ばしてスパーンと見てダダダダー!!!っと撃つべしなのじゃ!!!!!」

 

「何言ってるかさーっぱりわかんないしぃ…」

 

「くまりんこもさっぱりわからないですわ…」

 

「あー!そう言う事か!もっとこう、ズバーっといけばいいわけだね!」

 

「こうして一気にだだだだだーっと攻撃に回ればよろしくて?」

 

「おーおー!そうじゃそうじゃ!!!それで索敵はばっちりじゃのう!!最上と熊野はスジが良いのう!我輩教えやすいのじゃ!」

 

「ねえ三隈、鈴谷達なんか馬鹿にされてない?」

「わからないものはわかりませんが…何だかこう…イラっとします」

 

一方の『大鷲の目』利根の索敵術を教わっている航空巡洋艦たちだが、三隈と鈴谷は利根があまりにも擬音が多すぎて大雑把すぎてさっぱり理解できないでいた。

 

一方、何となくと勘で生きている最上と熊野はそれを理解し、うまく瑞雲やら晴嵐やらを飛ばし、索敵に集中できていた。最上はもともと横須賀ただ1人の航空巡洋艦だったため、艦載機を飛ばし、瑞雲からの偵察には慣れていた。瑞鶴たちの索敵もなかなかのものだが、最上の瑞雲からの索敵能力はさらに細かく敵の分析や範囲も広い。

 

利根からはスジが良いと言われ、へへーと笑っているが索敵時の最上の顔は三隈がメロメロになるほどかっこいいと言う。

 

最上曰く、敵の見逃しはすなわち「死」と心得よ。と言うのが自分の心構えである。先遣で瑞雲を飛ばし、敵を把握し、情報をすぐさま仲間と本部の大淀や提督に伝え、指示を迅速に仰ぐ。これが航空巡洋艦の務めであり、攻撃はオマケのようなもんさ、と利根に語った。

 

「おーおー!!!最上はよくわかっておるのう!そうじゃ!航空巡洋艦は攻撃は二の次じゃ!!」

 

「と、利根にまともなこと言わしとる…最上はすごいやっちゃなぁ…」

 

「龍驤さん、利根さんって普段からああなんですの?」

 

「おお。磯風と利根は10回同じこと言うても一言も理解せえへんときもあるくらいちゃらんぽらんや。能力だけはむっちゃ高いんやけどなぁ」

 

「あ、あはは…あー、最上とほんっと気が合いそうな性格」

 

「やろな…」

 

この龍驤の溜め息から、利根と言う人には苦労をものすごく昔からかけられてるんだろうな…と思った。

 

「さー!三隈、鈴谷、熊野もシュッと言ってバーンと行ってドーンといくぞー!!」

「だから何言ってるかさっぱりだってば!!!」

 

「要はさくっと瑞雲飛ばして索敵して攻撃せえっちゅうこっちゃ」

 

「よくわかるね!?」

 

「あれと何年姉妹やっとると思っとんねん…」

 

「さ、さすがですわ…いずれは最上のあれも理解できるようになるのかしら…」

 

「無理っしょ」

 

「よーし!ズバーンといくよー!!」

 

「もー誰か助けてー!!日本語喋る教練がいいしー!」

 

鈴谷の願いは叶いそうもない。

 

………

 

「教えることがないわね」

 

陸奥は腕を組んでそう言った。当たり前だ。「刃の女王」の徒手空拳なんて戦艦に教えても意味がない。武蔵なら教えてもいけそうだが。

 

「あ、あはは…」

 

大和が苦笑いする。武蔵は昨日の続きがやりたくてウズウズしているが、ダメだと玲司と大和に止められている。

 

「戦艦は命中精度が明暗をわけるって言うけど。まあ…私はほぼ砲は撃たなかったし、やるとしても利根が目標を定めてくれたから」

 

「なら、私達の砲撃手村雨さんと同じような状況だったのですね」

 

「へえ。村雨が?」

 

「ええ。百聞は一見に如かず。村雨さんと山城の砲撃を見て頂ければ。そのあと、私達は私達で村雨さんを見習って砲撃練習をしておりますが…なかなか」

 

「しかし、私は陸奥の技を習いたいところだ。陸奥よ、私に教えてはもらえまいか?」

 

「武蔵になら使えそうね。いいわ。教えてあげる。ただ、日にちが全然ないから付け焼刃みたいになるけど、いいの?」

 

「構わない」

 

「むーさーしー!砲撃演習をサボっちゃだめよ!!」

 

「だそうよ。後でね」

 

「むぅ、うるさいな…」

 

「何か言ったかしら?」

 

「いや…何も」

 

なるほど、しっかりしたお姉ちゃんだなと思うところだが、腕が腫れ…ひびか折れたかと聞くやいなや涙目になって「大丈夫!?しっかりして!武蔵死んじゃやだあああ!!!!」と大泣きをするほど大騒ぎして武蔵が必死に宥めると言う場面を見ているため、何とも微妙な気分な陸奥であった。

 

さて、武蔵に自分のものを教える前に、なぜか戦艦の中に1人だけいる駆逐艦村雨。そして、戦艦たちが砲を構える。標的が出てきたが遠い。これを当てるのは至難の業なのだが。

 

「主砲!ってぇ!!!!」

 

山城が砲を放つ。その砲は正確に的を撃ち抜いた。

 

「うそ…」

 

この距離では自分でもあたるか当たらないか微妙な距離である。超長距離砲と言うのは当たればラッキー程度にしか感じていない陸奥にとって、いとも簡単に当ててしまうこの山城の正確な砲術に舌を巻くしかない。

 

(けど、一発当たったならたまたまかもしれないわね)

 

「撃てえええ!!!!」

 

再度山城の41cm三連装砲が吼える。どこからこんないい砲を持ってきたのかとも思ったが、横須賀にならあってもおかしくはないか。ヒュルルルル…と言う音と共に再度的に命中。んん?と陸奥は山城と的を二度見する。

 

「山城さん!連撃いきましょう!」

 

ズドドドォォォン!!!!と山城の砲が単発ではなく、連撃を繰り出す。耳をつんざくような音が周囲に響き渡り、さらに交互砲撃。

 

するとどうだ、並んだ的が次から次へと破壊されていく。最後だけなぜか日の丸のついた扇子が的の上についており、さながら那須与一のようなことをして妖精さんが遊んでいる。ふざけているようだが最後だけは、的と飛ぶ瞬間の扇子を撃ち墜とす芸当を見せた。

 

「……遊んでる場合じゃないと思うんだけど」

「あはは…山城さんの砲術を見込んでのことだから、大目にみてあげましょ、ね?」

 

「まあ、別にいいのだけれど…悪くはないわ。ただ、4つ目の的、5ミリずれたわ。納得がいかない」

 

「ちょっと焦りすぎましたか?まあ戦艦くらいの大きさの敵なら大破にはなるでしょうけど」

 

「一撃必殺…」

 

「もー、山城さん無茶言いすぎ~」

 

な、何なのこの子達…村雨はよくわからないけどこの山城…ああ、そう言えばサブ島で恐ろしいほどの正確な支援砲撃でアイアンボトムサウンド攻略に貢献したって言う話を聞いたわね…。なるほど、やっぱり外に出てみるとおもしろい艦娘がいっぱいである。偉そうに口上だけは垂れる新米ベテラン問わず、窓際族に追いやられた能無しとは違う。

 

「武蔵さん、今日は風が強いです。風を考慮してもう右へ4ミリずらしてください。大和さんは…そのまま!」

 

「わかった。これでいいか?」

「了解しました!」

 

「はい!じゃあ46cm交互砲撃演習、開始!!!」

 

46cm砲ともなれば陸奥も試しに艤装に装着して撃ってみたが反動がひどく、バランスが崩れ、連射どころではない。だが、大和も武蔵もしっかりと踏ん張り、ぶれることなく第二射を繰り出す。

 

大和…命中。命中。至近弾。掠める、命中。掠める。

武蔵…掠める。至近弾。外れ。命中、掠める。

 

なるほど、武蔵は命中率が悪いらしい。大和は割と当てているが、やはり山城が異常すぎる。

 

「ぬう…この距離は当たらんな。めんどくさいから殴りに行かせてほしいくらいだ」

 

「その前に砲撃でやられるわよ!」

 

大和にまた怒られている。一方で霧島は5つ中3つ命中。2つが掠めるであった。

 

「うーん、私の計算では4つは命中すると思ったんですけどね」

 

「3つ当てれば御の字ですよ!」

 

「いえ、納得がいきません!」

 

「ええ…」

 

戦艦の命中率。それから山城の脅威の必中も素晴らしいと思うが、一番はやはり、正確な砲の修正、風と抵抗の計算を瞬時に行うこの片目側に大きな傷跡が残るこの村雨の修正のすごさだろう。話では前の提督に傷を放置され、痕になってしまったと言うことだ。村雨と言えばその何とも言えないかわいらしさが提督の間では人気だ。スタイルも申し分ない。まあだからと言って性的に手を合意なしに加えようとした提督には、すり潰されたいか、切り落とされたいか、蹴り潰されたいかどれかを選ばせてあげると言い、股間を押さえてすみませんでしたあああああと泣き叫び土下座をしてクビにした提督がいたっけか。

 

「姉様、さすがです!!!」

 

「全弾命中。けど、一発は大きくずれたわねぇ」

「いいえ、さすが姉様です!」

 

「最後の一発はびゅっと風が一段と強く吹いたのも原因だったかな?あと、足がちょっともつれてたのもいけないかなって」

 

駆逐艦ながらズバズバとよくなかったところを言う。村雨が12.7cm連装砲C型を両手で構え…

 

「いっきまーす!!!」

 

そう言うとダダン!ダダン!4発すべてど真ん中命中。ガシャコン!と薬莢を排出し、さらに4連撃。これまた命中。

 

「波レベル3にしてくださーい!」

 

妖精さんがよいしょー!とスイッチを押すと波が荒くなる。これでは命中が定まりにくいが、深海棲艦の巣ではよくあることだ。渦潮だったり荒波だったり、特に姫や鬼級の深海棲艦が現れると波も荒くなることが多い。

 

「いきまーす!」

 

さらに連射。的に正確に命中する。いや、もちろん距離は先ほど戦艦が撃っていた距離より近く、駆逐艦の砲が一番おいしいダメージを与える距離だが。ダダン!ダダン!!!命中。

 

「はいすぴーどあたっくぼーなーす!」

「なみれべるまっくすぼーなーす!」

「のーみすぼーなーす!」

 

妖精さんがボーナス?を言っている。まるでゲーム感覚だ。一方で村雨は荒波をものともせず、連撃を繰り返す。命中命中命中…何なんだこの子は。

 

「いやっほーぅ!」

 

妖精さんもノリノリである。

 

「そこまで!ぱーふぇくと!さすがです、むらさめさん」

 

「いえーい!いっちばーん!」

「それは白露の口癖だよ、村雨…うーん、またパーフェクトかぁ…難しいね」

 

「時雨も高得点じゃない!」

「僕としては村雨と同じでパーフェクトで並びたいんだけどね。でも、そこに名取さんと古鷹さんって言う壁がなぁ…」

 

「ぐぬぬ…漣ちゃんは下の方でミソッカスですぞ…メシマズ…」

「漣さんは波レベル2でも低いのですから、いきなり飛ばしていく方が間違いかと」

 

「そう言うぬいぬいだって波レベル2でも漣チャンと変わらないじゃん!」

 

「不知火に落ち度でも?」

「落ち度だらけっす!落ち度さんって前の提督のように言おうか?」

 

「………」

「あ、やめてください。戦艦さえ睨み殺しそうな目でって逆ギレじゃん!落ち度…いひゃひゃひゃ!!!」

 

「そう言うことを言う口はこうです…いひゃひゃひゃ!!!」

「ほのぉ!!ぬいひゃっれこうら!!

 

「こらー!そこケンカしてはいけません!不知火さん、漣さん!走り込み全速!10周!」

 

「えーーーー!?」

「し、不知火に落ち…落ち度…落ち度は…ありま、せん」

 

「まったくもう!ゲーム感覚の鍛錬はいいですがそこでケンカになるなんて!」

 

鹿島が呆れているが、これは妖精さんが考え、作り出したゲーム感覚で遊べる射撃演習らしい。主に駆逐艦用である。こんなものまで横須賀はいろいろと鍛錬を苦にならないように考えているようである。いや、単に妖精さんが好き勝手やっているだけであるのだが。

 

ちなみにこれは巡洋艦、戦艦ももちろんできるのだが、ハイスコアは村雨、名取、古鷹がトップ常連である。しかし村雨がいつもパーフェクトなので誰も追いつくことができないようである。戦艦の射撃支援を正確に行うだけに、村雨の砲撃も正確無比である。毎回、あまり人目が多い時にはやっていない。なぜなら、恥ずかしいからと言うことである。

 

 

一方、潜水艦はと言うと五十鈴がなぜか指導をしている。むしろ、潜水艦のことを教えるなら五十鈴が適任と言えよう。

 

「ほらゴーヤ!!!そんなんじゃ爆雷の餌食よ!!」

 

「ふぇえ…五十鈴さんにかかればどう隠れても見つかるでちぃ…」

 

「イムヤはもう少し気配を絶つ鍛錬をしたほうがいいわね」

 

「そんなのどうやってやればいいのよ!!!」

 

「川内あたりに聞いてみる?」

 

「えー?気配を消す?こんな感じ?」

 

「できるわけないでしょ!?」

 

「ひゅっと隠れる!それだけなんだけど」

 

「できたら苦労しないったら!」

 

潜水艦はいかに気配を絶つか、の鍛錬をやっているようである。五十鈴はただでさえ潜水艦がどこに隠れていようが気配を探知する「潜水艦絶対沈めるレディ」と言う変な名前がついてしまっているほど、潜水艦を見つけることがうまい。それ故に、いかに他の艦娘が見つけられないイムヤも五十鈴にかかれば当たり前のようにそこにいるのと変わらないくらいに見える、感じると言うのである。

 

「おーい、五十鈴~」

 

「ん?あら司令官、五十鈴に何かご用?その子たちは?」

 

「ああ。さっきうちに着任した伊13と伊14だ」

 

「あー、どっかの泊地か何かで追い出された子?」

 

そういうところはズバズバと包み隠さず言ってしまうのが玉にキズ。だがまあ、その性格だからこそ嫌われにくいと言うのもあるが。

 

「伊…13…です。ヒトミ…とお呼びください…」

「伊14だよ!イヨのことはイヨって呼んでね!よろしくお願いしまーす!」

 

「で、早速なんだけど練度は改にはなるほどなんだが…潜水艦は余ってるからいらないって追い出されたみたいで、大本営で手持ち無沙汰になってたんだ。うちはイムヤとゴーヤしか潜水艦いないし、前々からこっちにほしいって言ってたんだけど、なんか邪魔が入ってな。着任が遅くなっちまったんだ」

 

「フン、どうせ司令官が今ガンガン戦果上げてるし、元コックが横須賀鎮守府に着任して少将になって…ってのが気に入らないんでしょ?バカね。この五十鈴がいる限り、司令官はグングン名将になっていくわ!」

 

 

五十鈴と言えばかつての大戦時、彼女の艦長を務めた者は名だたる海軍の名将になった、と言う逸話がある。つまりは、玲司もそれに倣えば今の海軍の名だたる名将になる。いや、してみせると言う玲司には明かしていない五十鈴の野望があった。実際、僅か1年足らずで凄まじい戦果をあげ、准将…まあ架空の階級ではあるがそこから少将になり、今回の海域で大きな戦果をあげることになるだろう。実際、サブ島のアイアンボトムサウンドでの活躍はすでに各提督の目に触れ、耳に入っている。

 

きっと中将になるのも近いかもしれない。フフン、この五十鈴がいれば、司令官は司令長官にだってなれるわよ!と心の中で豪語しているくらいである。

 

残念なことに、玲司は生涯現役を考えているため、司令長官に上り詰めることはまずないのだが、それくらいの気概で五十鈴は励んでいるのである。

 

「お、おう…そりゃどうも…」

 

「ま、司令官にその気がなくて、五十鈴たちを大事にするって言うのが目的だって言うのは承知の上だけど。で?この子達も五十鈴が面倒を見ていいわけね?」

 

「ああ。お手柔らかに頼むよ。ゴーヤが五十鈴さんの練習は厳しすぎるでち!っていつもブーブー言ってるから」

 

「てーとく!?それは内緒だって言ったでち!」

 

「へーえ?ゴーヤはじゃあちょーっと優しく指導してあげようかしらねぇ」

 

「ひええええ!!!て、てーとくの裏切り者ぉおおお!!」

 

「ニヒヒヒ、厳しいけどそれだけ五十鈴はお前を大事にしてるんだ。潜水艦は危険な任務を任せることも多い。万が一がないようにしっかりと…厳しく指導しているわけだ。きついのはわかる。けど、五十鈴の想いもわかってあげてくれよ」

 

「……わかったでち」

「実際五十鈴さんのおかげで敵に見つからないで資材回収なんかもできるようになったわけだし、成果はちゃんと出てるわ!えっと…ヒトミとイヨだっけ?厳しいけどがんばりましょ」

 

「は、はい」

「はーい!じゃあ、お手並み拝見!」

 

「言ってくれたわね。さあ、じゃあ始めるわよ!今から五十鈴は目を閉じて耳も塞ぐから、五十鈴にわからないように水中で息をひそめなさい。見つけたら即刻疑似爆雷を投げるからね」

 

「わかり…ました…」

「なんだ、簡単じゃん!イヨ、いっくよー」

 

そうして潜航したわけだが…。

 

「そこ!」

 

水中でドンと響く音。するとブハァ!!と現れる子。イヨである。

 

「えー!?五十鈴さん、絶対イヨが隠れるとこ見てたでしょー!?」

 

「五十鈴さんはちゃぁんと目を閉じて耳を塞いで後ろも向いてたでち。ゴーヤとイムヤが見てたし、てーとくも見てたよね?」

 

「ああ。しっかりこっちを向いてた」

 

「そ、そんなぁ…始まって10秒も経ってないのに…」

 

「話をしている最中だけどヒトミはそこ!」

 

「プハッ!?うう…こんな…簡単に…」

 

「ゴーヤとイムヤもそんなもんだったわ。まあ、五十鈴の目からは逃げられないんだけど、んふふふふ」

 

「鬼!悪魔!五十鈴!でち!!」

 

「ゴーヤ、追加特訓ね」

 

「で、でちぃ!?」

 

「あーあ…イムヤしーらない」

 

「連帯責任よ!イムヤ、ヒトミ、イヨも1時間延長!」

 

「ええ!?ちょっとゴーヤ!?あんたのせいで休憩できなくなったじゃない!」

 

「で、でちいいいい!!!!」

 

五十鈴のスパルタ潜水艦練習は続く。しかしこれは、五十鈴自身の鍛錬でもあるのだ。特にイムヤは本当に気配を絶つのがうまく、見失うことも増えてきた。そして疑似魚雷を喰らって中破判定をもらってしまったこともある。ゴーヤも最近はイムヤ同様に気配を絶つのがうまくなってきた。敵だって進化しているだろう。

イムヤのように気配を絶つのがうまい潜水艦で誰かが魚雷の餌食になったら…もうそんな真似はさせない。だからこそ、イムヤはいい練習相手なのだ。そしてゴーヤも。新たに加わったヒトミやイヨもそうなってほしい。

 

「まずヒトミとイヨは上手に潜航するところからね。仕方ない。まずはイムヤとゴーヤでそれを教えてあげて。五十鈴は軽巡の砲撃訓練に参加してくるわ」

 

「わかったわ。さ、じゃあイムヤがヒトミを教えるわね」

「イヨちゃんはゴーヤが教えるでち!」

 

「よろしく…お願いします。私も…ここで、がんばりたい…から」

「イヨも頑張る!だからよろしくね、でちさん!」

 

「ゴーヤさんと呼ぶでち!」

 

新たな潜水艦、ヒトミとイヨが加わり、イムヤとゴーヤは嬉しそうに基礎である潜航訓練を開始するのであった。

 

………

 

その夜、会議室に「原初の艦娘」が一堂に会し、話し合っていた。横須賀の現状を皆で話し合うためである。

 

「で、どうやった?玲司の艦娘達は」

 

「以前来た時とは格段に仲間も増え、練度も向上していますね。ですが、鳳翔さんが言うにはまだまだと…」

 

「ですが、明石さんが改修した翔鶴さんの『白鶴隊』と瑞鶴さんの『黒鶴隊』は見事なものでした。たった5日しかお教えできないのが残念です。数ヶ月、私達がお教えすれば目に見えて変わるでしょうに…」

 

「そうね。私は大和と武蔵がどんなものか、と思っていたけれど…お互いにあちこち殴る蹴るでとんでもなかったわ」

 

「あばら折ったり大腿骨折ったり…無理しすぎやっちゅうねん」

 

「武蔵はどちらかと言えば私似ね。大和は繊細な砲撃がいいと思うわ。命中精度も高い。しっかり妖精さんの練度も高いようね」

 

まだまだ成長の余地は大いにある。これが彼女たちの意見である。数日しか鍛錬に加われないのは惜しい。

 

「最上のやつがすごかったぞ!我輩の索敵術をほぼ覚えたぞ!」

 

「防空演習は龍驤姉さんと以前赤城姉さんがいた時の鍛錬の賜物だろう。摩耶と吹雪は特に素晴らしいな。この磯風が誉めてやろう。皐月と文月も頑張っているがな」

 

「武蔵の真似すんなや」

 

「夕立ちゃんが島風の速さについてき始めてるの。もー!島風が一番速いんだからね!」

 

「そう言ってまだ本気出してないじゃん。6割くらいの速度でしょ?」

 

「もう半分以上本気出してるんだよ!今までそんな子いなかった!」

 

「夕立はなぁ。ありゃいずれ『目覚め』よるで」

 

「ほんと、横須賀からぽんぽん『女王』が生まれるのねぇ。鹿屋基地の球磨と多摩もその資質があるし…私達が歯が立たない日が来るのかもしれないわねぇ」

 

「原初の艦娘」…起源にして頂点。その牙城が今や崩れつつある。いや、それはそれで喜ばしいことである。特に、自分の弟、兄…である玲司のところからそう言った艦娘が生まれるのは喜ばしい。陸奥としては、翔鶴との付き合いも含め、巣立っていく感じがして寂しさを覚えるが。

 

「それにしても…深海棲艦まで味方につけているなんてね。よりにもよって、散々手を焼いた戦艦棲姫と…港湾棲姫がいるなんてね…」

 

「あー…うん、紫亜については偶然やったんや…横須賀の奥まった防空壕に隠れ住んでたんを皐月らが見つけてな…」

 

「全部聞いたわ。利根が悲鳴をあげて飛んでくるから何事かと思ったわよ」

 

「そりゃあそうじゃろう…我輩、戦艦棲姫に痛い目に何度遭うたと思っとるんじゃ」

 

「そらうちら全員や。せやけど、紫亜は…」

 

「玲司君の命の恩人…とは。運命なのでしょうか。確かに彼女がいなければ、私達と玲司君が会うこともなかったんですもの。私は彼女に感謝しますわ」

 

「あのね、茉莉お姉ちゃんの膝枕はとーっても柔らかくて落ち着けるんだよ!」

 

「本来深海棲艦は冷たいはずなんだけどね。どの論文を読んでも、私達艦娘や、人間の様に温かみを持つ深海棲艦はたぶん紫亜さんと茉莉さんくらいなものだと思うな」

 

深海棲艦は氷の様に冷たい肌、ときにぬるりとした粘膜に日の光から身を守るためなのか覆われているため、触れると言うのは不快感極まりない、と言うのが陸奥曰くである。陸奥はそれよりも返り血塗れになることが多いのだが。

 

「後にも先にも…きっと人間側、艦娘側に着いた深海棲艦なんて紫亜さんと茉莉さんくらいじゃないかな」

 

「違いないわ…ほんまに、それを簡単に受け入れる玲司も玲司やけど」

 

「そこが兄さんの優しいところではないかと思うが」

 

「そうじゃ!玲司は優しくて思いやりのある子じゃったぞ!昔からな!」

 

「だからと言って、お父さんにまで隠し事をしなきゃいけない…ましてやバレたらシャレにならないのよ?私達だからって気が抜けすぎよ。他の誰かがこっそり監査にでも来た日にバレたら、即刻逮捕、死刑もありえるんだから」

 

「リスクを背負うとるのはわかっとる。それでも、命の恩人とその友達を、あいつが追い出すっちゅうんは考えられんなぁ」

 

「今度監査が万が一あった時の為に2人に特別な地下シェルターを作るって言ってなかった?妖精さんがもう工事始めてるみたいだけど…」

 

「なはははは!玲司の妖精さんは皆仕事が早いからのう!!」

 

しあさんをまもれー。まつりさんをまもれー。そう掛け声をあげながら、すさまじいスピードで土を掘っていた妖精さん達。最悪、横須賀鎮守府が襲撃された際に玲司の身の安全を確保するため、と言う建前がある。なんと指令室まで作ってしまい、いざとなればそこで食料などがあればずっと生活できるくらいにはすると言っているくらいである。

 

かんせいは2しゅうかんください。

 

2週間と聞いて目を玲司が白黒させていたが…。とりあえず今は、万が一別の人間が来た時の紫亜と茉莉の隠れる場所がほしい、と言う遅すぎる提案を妖精さんが金平糖を報酬にいそしんでいる。

 

「ところで、木曾。北上にはちゃんと謝れたの?」

「もう一回謝った…んで今日はいろいろ教えてくれって北上姉から言われてずっと雷撃訓練やってた」

 

いつもの木曾らしくなく、北上に声をかける際には「あ、あの、あ、あの」と利根が後ろで腹を抱えて笑いそうになっていたのを陸奥が止めていたわけである。

 

「あのさー。木曾っちの雷撃ってすんごいいろいろ学べるんだよね。あたしにもそれ、いろいろ教えてもらえないかなー」

 

「え…」

 

「あ、ダメ?企業秘密?」

 

「い、いや違う!北上姉…昨日は…ごめんなさい…」

 

「あーその件?もういいよ。あたしもかっかしすぎちゃったし。ちょっと怒りすぎたって反省反省」

 

「じゃ、じゃあ…」

 

「まー次言ったら容赦しないけど、もう怒ってないよ。それよりさー、北上さんもーっと強くなりたいから、木曾っち、ご指導ご鞭撻お願いしまーす」

 

「あ、ああ!わかったぜ!!」

 

………

 

なんてことがあり、その後夕飯では北上に唐揚げを取られたり、オムライスをスプーン一口北上から奪うなど仲良くなっていた。不和を気にしていた陸奥は朝からの始終を見て安心していた。

 

「茉莉…だっけ?あの人の作る飯、うんめえな。兄貴のオムライスは別格として」

 

「間宮が作ったサラダのどれっしんぐじゃったか?あれもうまかったのう!」

 

「いいわねぇ…みんな見た?玲司君の艦娘の目がキラキラしながらご飯食べてたの」

 

「ああ。正直羨ましい。まあ、私は父上のもとにまだいたいが…もし父上が提督から離れてしまうなら、ここであのように楽しく過ごしたいものだ」

 

「艦娘の理想郷…ですわね」

 

「せやなぁ。毎日やかましいけどな」

 

「ふふ、だけど龍驤姉さんも楽しそう。明石ちゃんも、川内ちゃんもね」

 

「あーうん。毎日楽しいよ」

 

「島風も!あ、でも今日は久しぶりに陸奥お姉ちゃんと寝たい!」

 

「ええ。いいわ」

 

「やったー!」

 

「今日は姉妹水入らずで寝よかなぁ」

 

「あ、それいいね!」

 

深海棲艦までいる不思議な鎮守府。横須賀鎮守府。そこに集まった最強の艦娘達の夜の会話はまだまだ終わりそうもない。島風は先に陸奥に抱かれて寝てしまったが。




「l原初の艦娘」と猛特訓、でした。付け焼き刃的な感じでしかありませんが、ないよりマシ、程度で。

さあ、いよいよそれぞれの提督がいろいろ思うところがあるサーモン海域北方まであと少し。あと一話だけ陸奥達を交えたほのぼのを書いていければと思います。

それでは、また。
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