提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百八十四話

「では、大府提督の艦隊が先陣を切り、サーモン海域北方に行かれるのね?」

 

「はい。そう聞いております。ですが、刈谷提督がアテにするなと釘を提督に刺されたと」

 

「……刈谷提督の言うことはとても正しいのかもしれません。先行すると言い、言ったルートと違うルートで侵攻し、他人の艦隊は激戦区を。自分の艦隊は比較的そちらに集中し、敵艦隊が少ないルートを進むと言う指揮が多く、それをやられた艦隊が壊滅し…自分たちが悠々と戦果を取って行く。そのようなやり方をすることが多いのです」

 

「やはりそうでしたか。サブ島の時も私達の艦隊にアイアンボトムサウンドを任せ、大府提督の艦隊はそれを片付けた後に…あれのせいで雪風さんを失うところでした。ですので、提督もこのルートに関してはまるで信用しておりません」

 

「私達はこの南のルート、それから北ルートからここに集結し、主力艦隊を2部隊。刈谷提督の艦隊も中央から先陣を切って突っ込むと聞いています」

 

「計4部隊…ですか。大げさと言われるかもしれませんが、事情を知らない外野の件を聞いているほど、この海域は余裕がありません。4部隊でさえ、アレが出てきたらもう壊滅が必至になるやもしれません」

 

作戦会議室では高雄を筆頭に大淀、鳥海、霧島、妙高が作戦を練っていた。もちろん、玲司もいるが、彼女らが淡々と作戦を練っているため、地蔵のように喋らない。

 

「支援も出すぞ。道中もややこしいからな。道中は霧島とウォースパイトを要に。敵主力には刈谷提督から支援部隊を出す。あわせて6艦隊だ」

 

「大府提督が1艦隊しか出さないのが腑に落ちませんね」

 

「隠れて戦果持って行くための隠し艦隊でも用意してるだろうよ。敵主力が南方棲戦姫だろうと、レ級だろうと。ここが一番戦果がでかい。特に、レ級を倒したとなればな。大府提督は大将にリーチがかかってる」

 

「ですが、サブ島での刈谷提督との連携ミスでバツが付いたはずでは?」

 

「それを覆せるのがレ級だ。大本営…海軍が鳳翔…さんが倒し損ねてから数年。血眼になって探してた消えたレ級。ドイツではアレのせいで艦隊が壊滅し、日本に責任を追及するらしいぞ」

 

「つまり、レ級を数年前に倒しておかなかったからこうなった、と?」

 

「欧州はそういう構えらしいぞ。日本の艦隊の不始末だってな」

 

「そんなめちゃくちゃな…」

 

「高浜防衛大臣と豊田総理大臣はこちらとて追い払うのがやっとの状況であった。全力は尽くした。しかし勝てなかった。そちらこそ、戦力は十分であると日本の艦娘の応援を蹴っておいていざとなれば助けを呼び、挙句の果てにはこちらに責任追及か。いいご身分だな、散々助けられておいてと強気だ」

 

玲司がなぜそこまで話を知っているかと言うと古井司令長官…おやっさんの愚痴をさっきまで延々と聞いていたからだ。出撃まであと2日。艦娘を所持するイギリス、フランス、ドイツ、スウェーデン、オランダ。そしてそれを援助したロシア。イギリスは日本の艦隊に謝辞を述べたもののその他欧州国は日本の批判に回った。

 

一方でアメリカはこれについては無言を貫いた。もともと日本には深海棲艦が現れてから救われっぱなしなため、本来ならば日本を擁護したいところではあるが、欧州を敵に回すとこちらも援護をしてもらっているために手を切られると困るのだ。超大国であったアメリカも、今となっては日本が9、欧州が1の割合で艦娘を送り、援護しているだけに、どちらにも借りがある。

 

それを言ったら日本は欧州にも惜しみない支援をしているわけだがこの手のひら返しに総理、防衛大臣共々怒り心頭である。おまけに、日本に向かったであろうレ級を倒し、日本が栄誉をもぎとろうとしているとまで言われ、そこまで言うのなら艦隊支援を考慮させてもらう必要があるとまで言い出し、国際問題に発展しそうとも言えないくらいの状況である。

 

「いつどうなろうと、世界が手を取り合って1つの目標に向かって何かを成しえない。まあ、俺は世界の動きにゃ興味はないけどな。何でか知らないけどウォースパイト達に謝られたよ。イギリスは日本に感謝こそすれ、罵倒する気はないとまで言ってたんだけどな。まあウォースパイト達にはフィッシュアンドチップスや何やらをご馳走して、この謝罪のことは忘れてもらったんだけど」

 

で、それはさておき、と。玲司は話題を変えた。

 

「大府提督も同じさ。失敗すればこちらに責任を転嫁し、戦果をあげたら自分の手柄。そうならないように刈谷提督が手を打つ。こちらもだけどな。そのために、こちらは『原初の艦娘』のみんなに強化を頼んだわけだし、刈谷提督だって何もしてないわけじゃない。何より厄介なのが南方棲戦姫と戦っている最中にレ級が出てこられたら一番ヤバいんだ」

 

「はい。私達も以前空母水鬼と戦っていた最中に横やりを入れてきて、空母水鬼をレ級のめちゃくちゃな攻撃に翻弄されつつ倒し、満身創痍でしたので…」

 

「レ級が出たならレ級を使うぞ」

 

「「「「は?」」」

頭脳艦娘達の声が一斉にはもる。レ級を使う…?

 

「レ級ってのは何でもありだ。大和をも大破させる凶悪な砲撃。装甲空母だって一撃で大破させる雷撃。空母にだって負けない艦載機。機動力。ただ、ごっそり欠けているものが『敵味方関係なく撃破をしようとするところ』だ」

 

レ級と言う者は紫亜が言うように敵味方問わず、面白ければ戦い、そうでなくても面白おかしく殺そうとする。つまり、こちらがヤツの気分を高揚させ、南方戦棲姫を邪魔と思わせて潰し合わせればいい。あわよくばダメージでも負ってくんねえかなぁと言っているが、とんでもない考えであった。

 

「玲司君…リスクが高すぎます。仮に協力し合ってこちらを襲い掛かった際には…」

 

「そのための大和と武蔵。そのための翔鶴と瑞鶴。鈴谷、それから邪魔な潜水艦を潰してもらう霰。まず南から扶桑、最上達が行く。そこで南方戦棲姫とガチンコでやり合ってもらう」

 

「レ級が来ない可能性は?」

 

「ここまで噂されてんだ、来るだろ。俺と刈谷提督はそう見てる。アイアンボトムサウンドでの血の匂いでも今頃嗅ぎつけてんじゃねえか?」

 

「私もそう考えます。こつぜんと欧州から消えた…そしてつまらないと言い残して消えた。なら、先のアイアンボトムサウンドのことをおそらく嗅ぎつけるのではないか。そう考えています。かと言って、大和さんや武蔵さん達と扶桑さん達を同時に鉢合わせ、南方戦棲姫と戦わせると大和さん達がレ級とぶつかった際の切札です。時間差での波状攻撃を提案します」

 

大淀はそう言うとまず先遣として扶桑たち「三条第一艦隊」を南方戦棲姫と戦わせる。その次に刈谷提督の艦隊。伊勢改二を主軸をした航空戦隊と戦艦、重巡による機動部隊。そして来るかわからない大府提督の艦隊。この際、大府提督に南方戦棲姫の戦果は獲らせてもいいとまで大淀は言う。

 

「そうして最後に…大和艦隊を到着させる。その手はずならばほぼほぼ大和さんや武蔵さん達は無傷で主力艦隊の場へたどり着けます。切札は最後まで取っておく。これが大府提督のやり方なら、こちらもそれを利用するまでです。これが、鳥海さん、霧島さん、妙高さんと話し合った結果です」

 

「最初は何を考えておられるのか…と思いましたが…確かに無傷、かつ弾薬も潤沢。そうしてレ級が現れたならほぼ十全で戦えます」

 

高雄と大淀が自信を持って考えた作戦。しかし、玲司はそれを覆した話をする。

 

「これは推測だが…行った時には南方棲戦姫は死んでいる可能性がある」

 

「え?」

 

それは高雄も大淀も…いや、鳥海たちでさえ口をぽかーんと開けて玲司を見ていた。

 

「南方棲戦姫とまず『遊んで』ウォーミングアップ。ウォーミングアップにもならないかもしれんな。そうして俺らの艦隊の到着を待つ。レ級ならやりかねない。これが俺の考える最悪のシナリオ…いや、チャンスと捉えてもいい。だってそうだろう?道中はさておき、主力を潰しておいてくれてるんだからな。危険は伴うが、こちらとしては4艦隊と支援。これでレ級一隻と戦えるならその方がいい」

 

玲司の考えは最初からもうレ級しか目に入っていない。玲司が考えた編成、装備もレ級を相手にした場合の考えそのものである。高雄もそれは考えたがまさかそうなる可能性は低いと判断し、切り捨てたくらいだ。だが、玲司はレ級のみに視点を合わせていた。

 

第一艦隊、上ルート編成…旗艦翔鶴。瑞鶴、大和、武蔵、最上、鈴谷。

第二艦隊、下ルート編成…旗艦扶桑。霧島、熊野、神通、潮、島風。

 

「島風ちゃんを起用するのですね」

 

「ああ。島風のスピードでヤツを翻弄してもらう。そこから扶桑たちや神通の攻撃を頼りにする。対潜については刈谷提督が動いてくれるらしい。うちの第二艦隊が先に到着、その後に刈谷提督、大府提督の艦隊が到着、遅れて翔鶴達が到着すると言うやり方だ」

 

「でも玲司君、島風ちゃんはそう長く走ることは…」

 

「そのために夕立と毎日鬼ごっこしてるのさ。夕立の体力は駆逐艦の中でもお化けだし、野生の動きで島風を捕まえようと必死だ。島風には悪いが、100%で走ってもらうことになる。夕立との鬼ごっことは違う。捕まったら死ぬ。ある程度でいい。時間稼ぎができればそれでいい」

 

「現状、敵勢力に強大な反応は1つ。南方棲戦姫のみです。その他、潜水艦や空母ヲ級flagshipなどがひしめき合っていますね。今のところ、ターゲットの反応、ありません」

 

「よーし、その辺も織り込み済みだ。来ないなら来ないでぱっぱとやっつけちまって帰ろう。できりゃ出会いたくもないしな。さーて、ブリーフィングといきますか」

 

そう言うと玲司は立ち上がり、放送で出撃メンバーを呼びだした。

 

……

 

「瑞鶴はどうしたんだ一体?」

 

「鳳翔さんに雑念が多すぎると延々と正座をさせられたせいで…」

 

「あ、あがが…」

 

そう聞いた玲司は瑞鶴の足の甲をつついてみた。

 

「ああああああ!!!」

 

悲鳴を上げ、「ば、ばくげ…爆撃!!目標!提督さん!」と弓を構え始めたので慌てて翔鶴が止めたり玲司が龍驤に怒られたりした。

 

武蔵は目に青あざを作っていたり、陸奥もなぜか来ていて鼻血を拭いていたり…また殴り合っていたな…。

 

「姉ちゃん…」

 

「しょ、しょうがないじゃない。久しぶりにサシで殴り合える艦娘なんて柱島の長門以来なんだもの…」

 

「はっはっは!!私は楽しかったぞ!殴り合いもいいものだな!」

 

武蔵はそんな呑気なことを言って笑っている。武蔵がずっと「オラオラ」と言い、陸奥がずっと「無駄無駄」と言いながら殴り合っていた、と大和が呆れながらに語っていたと言う。

 

「全員、提督に傾注!!!」

 

バッと今までの和やかな雰囲気が一転。大淀の声でビシィッ!と整列した。大淀はいかんなくリーダーシップを発揮している。時に最上や摩耶、北上にいじられながらもこういうところはピシっとしているのだ。そんな大淀をみてかっこいいなぁ…とちょっと胸を高鳴らせる高雄であった。

 

「そんな硬くならなくていいぞ。楽にしてくれ。いよいよ南方海域も大詰め、いよいよサーモン海域北方。南方海域の最後の掃討戦だ。敵は強大だ。けど、刈谷提督と…あー、うーん。大府提督と共にチカラを合わせて南方海域の暁の水平線に勝利を刻もう」

 

そう言うと最上や武蔵がうんうん、と自信満々に頷いていた。任せろ、と言うことらしい。何とも頼もしい限りだ。鈴谷や熊野は不安な感じ。神通は「女王」として目覚めて初めての本格的な出撃と言うことで高揚している。夕立はレ級と聞いて前回の借りを返したいのか、怒りに満ちた顔をしている。

 

艦娘それぞれ、思う所がいろいろとあるらしい。

 

「支援は村雨と山城を中心にウォースパイトや今回は蒼龍にもサポートに回ってもらう。俺から言える命令はいつも通りだ。死ぬな。生きて帰って来い、だ。いいな」

 

その言葉に全員が揃って頷く。

 

「『原初の艦娘』のみんなから教わったことをみんなしっかり活かして、帰って来てくれよ」

 

「ああ、相棒よ。任せておけ。必ず帰って来るぞ」

 

武蔵がドン、と胸を叩いた。過剰戦力?とも思ったが、そうでもない。とにかくこのサーモン海域北方は柱島の三好提督でさえ「大炎がない」と無視していただけにデータがない。調査すら赴かないのは甚だ疑問ではあるが…。

 

だが、それはレ級がいなかったせいでもある。今回は状況が「レ級がやってくる可能性が高い」と言うこと。メインターゲットである南方棲戦姫がそこへ逃げてしまった、と言うやらかしてしまったことが向かう理由の一つ。

 

高雄は杞憂で終わってほしいと思っているが…そう思っていない提督が別にもいるのであった。

 

 

「じゃあ、レ級は出てくるってことでいいクマね?」

 

「間違いねえな。戦の匂いを嗅ぎつけて、全てを破壊するクソッタレだ。特に、昔のデータを見ているとかの『原初』たちがレ級と戦った場所が南方海域のここしかねえ。データがこれっきり、レ級は消えちまってるがな」

 

球磨、それから龍田、能代と作戦を計画している最中にレ級がやって来ると断定したもう一人の男、刈谷提督である。パサリと資料を机に投げ、ひとまず編成を考えることにした。

 

長門だ。長門を旗艦に特殊砲撃で鬱陶しい道中を蹴散らすぞ。

 

「あらぁ、レ級には使わないの?」

 

「三条の大和と武蔵がいる。それよりも最深部にできるだけ早く駆け付けて周囲の安全を確保するのが俺らの役目だ。万が一、総崩れになった際に退路を確保し、ケツまくって逃げる道を作るのが俺らの仕事だ。ただ…」

 

「ただ?」

 

「三条の艦隊がレ級に苦戦しているようなら横から思いきりぶん殴るのもありだな」

 

クックック、と悪そうな笑みを浮かべる。卯月辺りが見たらまた誰かを解体する計画を考えているんだぴょん!とかそんなうわさを駆逐艦に広めそうである。まあ、もうそんなことをする提督、司令官でないとはみんな知ってしまっているわけだが。

 

ここまではでにサブ島、それからサーモン海域で派手なドンパチをやった以上必ず来るだろうとは思っている。来ないはずがない。来る。確信めいた何かが刈谷提督を徹底的に警戒させた。

 

戦艦レ級。砲撃は大和を大破させ、航空戦は並の空母では制空権を取れず、雷撃は重雷装巡洋艦かそれより酷い。潜水艦も対潜でやられる何でもありの戦艦。戦艦?そういうしかないから戦艦と呼んでいるのだろう。刈谷提督から言わせてみれば単なる化け物だ。化け物を自分たちは相手にせねばならない。

 

大府提督はまた金剛を出すだろうか。今度こそ、轟沈するのではないかと危惧している。いくら死ぬほど嫌いな奴の艦娘とは言え、艦娘を沈めさせてしまうのは寝覚めが悪い。そのために思いついたのが、何かあった際にとにかく逃げ切るための退路を作る作戦。大府にも、三条にも話していない。だがレ級は追いかけてくるだろう。殿を長門達に任せねばならない。

 

貴重な大和や武蔵を沈めたとあってはこちらも申し訳が立たないし、かと言って自分たちの艦娘を殿にして沈めてしまったら…いや、ここでマイナスなことは考えるな。生き残る。生き残らせる作戦をとにかく考えろ。

 

「潜水艦対策を怠んなよ。奥地へ行く前に潜水艦にやられました、じゃ話にならねえからな」

 

「わかりました。では駆逐艦は朝霜さんと白露さんを出しましょう」

 

「ああ。索敵が高い巡洋艦を用意しろ。2人だ。戦艦2、巡洋艦2、駆逐艦2。これでいく」

 

「提督…本当にうまくいくでしょうか…」

 

「弱気になってんじゃねえよ。いく。うまくいく。絶対うまくいかせる。知ってるか能代?俺の辞書に不可能はねえんだ」

 

「……真顔でよくそんな歯が浮くようなセリフが言えますね…」

 

「……」

 

「いひゃひゃひゃ!!!!!」

 

「ぷふっ」

 

「そこはかっけえクマって提督を立てておきゃよかったクマ。まあ、球磨ちゃんの辞書にも不可能はねえクマ。任せとけクマ」

 

「そうかよ。んじゃ、出るぞ。命令だ。全員生きて帰って来い。それだけ伝えとけ」

 

「了解だクマー」

 

/そうして、出撃の日

 

それぞれが出発ポイントに同時に到着し、大府提督が作戦開始の指示を出した。

 

『それではサーモン海域北方掃討戦を開始します。各自、それぞれのルートを使って行動を開始してください』

 

その号令に三条艦隊2艦隊。なぜか話に聞いていなかった刈谷艦隊2艦隊。そして大府提督の艦隊、1艦隊が動いた。

 

『刈谷提督、なぜ私に報告なく2艦隊を出しているのですか?』

 

『三条のメイン艦隊、翔鶴艦隊の護衛だ。奥地に辿り着く前に大破しましたとかじゃ話にならねえだろうが。防空、対潜、しっかりそろえて護衛だ。何か文句あるのか?』

 

『……ならば事前にオーダー票を『んなもん出したところで却下するんだろうが。最初からテメエ通さずにやるのが定石だ。命令違反?知ったこっちゃねえな。軍法会議ならちゃんと出頭してやるよ。ただし、失敗したらの話だがな』

 

『いいでしょう。しかし、いささか大げさではありませんかね』

 

『テメエはレ級の恐ろしさってのを知らねえみてえだな。大事な大事な金剛が沈んでからレ級は脅威だなんざ言っても遅えぞ。わからねえんだったら黙ってろ』

 

『……』

 

今回も大府提督の旗艦は金剛である。防空、対潜、しっかり揃えての出撃である。彼もレ級の脅威は十分データで知っているはずである。結局は刈谷提督達への妨害か?いや…本当に知らないのか…そんなはずはない。どの提督でも、レ級と聞けば生唾を飲みこみ、顔を強張らせる驚異の存在。

 

そして、さらに以前三条提督が会った際には赤い目をし、「elite」に進化していると言う。もはや全てがでたらめの戦艦。刈谷提督は玲司に賭けたのだ。大和と武蔵ならば、あの暴君を止められるのではないかと。

 

そのために護衛まで引っ張りだしたのだ。レ級は現れないかもしれないと言うのに大げさな…。そうため息を吐いて今回の無断出撃に関しては目を瞑った。が、レ級が現れないだろうと言うその考えは、後々に大府提督に悲劇を招いてしまう結果になるとは…このときは想像すらしていなかったのである。

 

……

 

「さて、いよいよ運命の時だ。本当なら出てきてほしくないが…」

 

原初の艦娘達が見守る中、玲司達の戦いが始まった。まず最初に扶桑率いる第二艦隊が目的地に到着するはずである。刈谷艦隊、大府艦隊と何とか時間を稼いでもらい、大和達第一艦隊が到着するのを待つ。そうすれば撃退、あるいは撃沈は可能ではないかと踏んでいる。

 

「高雄達とこの2日間、ずっと練っていた作戦、うまくいくといいわね」

 

陸奥が心配そうに玲司に言う。無理もない。陸奥もかつて奴に大敗を喫しているし、赤城も鳳翔の助けがなければ沈んでいた。鳳翔は弓が持てなくなり…惨憺たる結果になりながらも何とか撃退できた。しかし、「elite」に進化している奴は、大和を一撃で大破させ、夕立もはらわたを食いちぎられ、死んでいたかもしれなかった。

 

「今回は…前のようにはいかない。今回は念入りに準備をした。あとは…あの子達次第だ。大淀、目的地の反応は変わらずか?」

 

「はい。大きな反応ですが1つです」

 

「よし。ならまだレ級は現れていないと言うことだな。頼む、おとなしくしててくれ」

 

玲司は祈るような気分でモニターの赤い鬼のようなマークを見つめていた。

 

 

「対潜、用意しろクマ!」

 

「え、えーい!」

 

「よーし、潮、ガンガン行けクマ!朝霜もやっちまえクマ!!」

 

「わーってるよ!!させるかってんだ!!!」

 

「むう、大府提督の艦隊は無視をして素通りか?」

 

「ほっとけクマ。球磨たちの言うこと聞くようにはできてないクマ」

 

「仕方あるまい…すまんが潜水艦に我々は無力だ。頼んだ」

 

「任せとけクマ!」

 

潜水艦隊はソ級と言う戦艦ですら簡単に中破大破させるような危険な潜水艦だったが、刈谷提督が念入りな対潜装備を持たせた朝霜たちと、潜水艦を危惧した玲司艦隊の潮の手によって排除された。対潜については五十鈴にみっちり仕込まれているし、朝霜もみっちりと多摩たちにしごかれている。造作もない。

 

「では、ここからはそれぞれ分散して合流地点までそれぞれ行くことになります。私たちが一番遅くなると思います…どうか、ご無事で」

 

「はい、皆さん、目的地でお会いしましょう」

 

「んじゃ、また後でクマー」

 

「龍田、そっちは任せるクマー」

 

「はぁい。翔鶴さんたちは任されたわ~」

 

「翔鶴さん、みんな、また後でね!おっそーいのは嫌だからね!」

 

「はっはっは!任せておけ。この武蔵がさっさと片付けて追いついてやる。待っていろ島風」

 

「うん!」

 

じゃ、と軽いまた後でといった感じで別れ、それぞれのルートで目的地へ向かうのであった。

 

……

 

「ゲェーッ!いきなり渦潮クマ!?そりゃねえクマ!!」

 

「で、電探のおかげで何とか燃料だだ洩れは防いだけどよ…これ本当に大丈夫かあたい心配になってきたぜ…」

 

「文句言わずに行くクマ!……っと、お出迎えクマ」

 

「ふっ、ここからは私の出番だな。任せておけ。この長門を侮るなよ!!!」

 

……

 

「翔鶴姉!あのヲ級を何とかしなきゃ!」

 

「わかったわ、行くわよ、瑞鶴!!」

 

「全主砲!薙ぎ払え!」

 

「秋月ちゃん、照月ちゃん、よろしくね~」

 

「わかりました!いくわよ、照月!」

 

「ガンガン撃って!!」

 

「ふん、シブヤン海のようにはいかないぜ」

 

(すっごい砲撃ねぇ…これなら本当に…提督の思った通りなら…)

 

「と、とにかく…ま、回せー!!」

 

「葛城ちゃーん、落ち着いてね~」

 

翔鶴達三条第一艦隊と、刈谷提督の第二護衛艦隊が進んだ先は激戦区であった。何せ「flagship改」クラスの敵が多く立ちはだかる。さらにはル級。リ級。2艦隊でいかなければ進むのも難しい状況である。玲司も刈谷提督も、このルートに関しては「目的地に焦って到達しようと考えなくていい。落ち着いて障害は排除しろ」と伝えてある。

 

戦場での焦りはかえってミスを誘発する。上空からの空母の攻撃の見落とし、何でもない砲撃を食らってしまう。そんなことで先へ進めなくなってしまっては作戦は丸つぶれだ。だからこそ、焦らずに排除しろと伝えてある。

 

球磨達は退路の確保、おそらく大府提督は主力艦隊を倒し、戦果を得ようとズンズン先へ進んでいるであろう。遅れてもいい。必ず到達しろ。それが2人が示し合わさずとも命令が一致したことであった。

 

………

 

「提督、やはり第二艦隊は三条艦隊第一艦隊と共に遅れが発生しています」

 

「そりゃそうだろうな。ここに深海棲艦の強力な艦隊を配置してると三条の斥候潜水艦部隊からの報告があったからな。で、能代。主力艦隊のほうは何も動きなしか」

 

「はい。強力な反応は1隻、南方棲戦姫のみです」

 

「そうかよ。で、そりゃ本当に…そいつなんかな」

 

「え…?」

 

「俺はな、ある一つの懸念がある。それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って言う懸念だ」

 

「は!?」

 

能代が驚愕の表情で提督を見た。だが刈谷提督はいつもの余裕を持った笑みではなく、眉間にしわを寄せ、緊迫した表情でモニターを見ていた。

 

「で、ですが、ずっと私たちが注視してきたんですよ!?そんな反応があればすぐ…」

 

「だが奴は霧のように突然現れると聞いた。欧州でもいつの間にか何かに紛れて現れて大暴れしていった。レーダーに探知できないくらい気配を断つことができるような奴なら?」

 

「そ、そんな…では…」

 

「確証はねえ。だがな…さっきから手が震えてたまらねえんだ。以前、大府の糞野郎に飛龍を沈められた時、感じた何とも言えねえ不安と共に…この手の震えが出た。だからそう思ったのさ…」

 

「で、では長門さん達に…」

 

「伝えなくていい。余計な不安を今伝達すると作戦に影響が出る。絶対に言うな」

 

「はい…」

 

(大府、気づいてるか?どうなっても知らねえぞ)

 

……

 

(おそらくこの反応は南方棲戦姫ではない。レ級でしょう)

 

大府提督は気づいていた。しかし、それでもこのまま退くわけにはいかないし、彼らの艦隊を待つと言うことはしない。

 

『こちら異常はありません。間もなく目的地に到達します。戦闘の準備を開始致します』

 

「わかりました。そのまま進撃を続けてください」

 

レ級がいると勘づいていながらも前へと進撃させる大府提督。サブ島では撤退した。そのことを聞いた本土で入院中の祖父から罵られた。

 

「大府の者とあろうものが退くなどと何と情けない。儂が現役の時は…」

 

そう言われ、この後も延々と自分語りをはじめ、そしてまた罵られた。次に退却などした日には貴様は大府家の名折れよ、とまで言われた。

 

「ええ、わかりましたよ、おじいさん」

 

無機質な声でそう返し、電話を切った。おじいさんの言うことは絶対。だから、ここで退却などすればまた…。

 

悲しいかな、感情のない彼はこの祖父の傀儡(かいらい)のようになっている。

 

こうして大府提督の艦隊は…目的地へとたどり着いた。そこで見たものは…。

 

 

「玲司君の言う通りなら今すぐ大府提督の艦隊を撤退させなければ!」

 

一方で刈谷提督と同じく、玲司も南方棲戦姫ではなくこの大きな反応がレ級だったなら、と言う仮説を立てた。そうなった場合、モニターを見ているともうすでに到達してしまうであろう大府提督の艦隊はレ級と対峙することになる。止めなければ、と高雄が言うが…。

 

「無駄だよ高雄さん。彼女らは大府提督の命令しか聞かない。今進撃しろと言っていた。なら…あの子らは進むしかできない」

 

「なら大府提督に伝えるべきじゃないのかの?」

 

「大府提督も気づいているはず…だが進撃させたと言うことは…もう止められん」

 

「待つことも退くこともさせへんのか…むざむざ艦娘を殺す気か…!!」

 

「もうすぐ扶桑たちも到着する。扶桑、こちら本部。作戦は甲。甲作戦で行く」

 

『こちら扶桑。承知いたしました。警戒を厳として目的地へ向かいます』

 

甲作戦。それは事前に話しておいた相手がレ級だったときの際の作戦だ。攻めはする。扶桑の声は緊張が高まっていた。甲と聞いて、激戦は激戦でも、本当に激戦になるとわかったから。

 

「この作戦の肝は島風だ。島風に…100%で走れと伝えた」

 

「マジか?けどよ兄貴、島風は100%じゃ数分ともたねえぞ」

 

「そのために夕立とフィジカルを鍛える鍛錬をしていたんだけどなぁ…10分。10分もってくれればいい」

 

「提督…まもなく扶桑さん達が会敵します!!」

 

「よし、大淀、鳥海、気を引き締めろ!ここからは俺たちがあいつらの命の綱を握るんだからな!」

 

玲司は鋭い目つきに代わり、ヘッドセットをしっかり耳にはめなおし、モニターから目を離さないようにした。

 

………

 

「もうまもなく目的地です。提督からは甲作戦と言う指示が出ました。ですので…」

 

「レ級…ですか」

 

霧島が驚かずに一言言うと扶桑も同じく頷いた。

 

「私と霧島さんが主力、神通さん、島風さんは攪乱、熊野さんは空からの攻撃に瑞雲で少しでいいので対抗してください。島風さん…頼みましたよ」

 

「任せて。ここで会ったのが百年目、次は…お姉ちゃん達を痛めつけたことを後悔させてやるんだから…!」

 

『三条第二艦隊、そのまま進み、私の艦隊と合流してください』

 

「承知いたしました」

 

扶桑は短くそう返したが、ホッとした。むやみやたらに突っ込んでいたわけではなく、待っていたのか。それならばやりやすいかもしれない。

目的地寸前で感情のない顔をした艦隊…大府提督の艦隊と合流。潮は初めて見たから「ひっ!?」と無機質さに怯え、声を上げた。

 

「何ですの…?まるでお人形さんみたいですわね」

 

熊野も異様さにそう漏らした。

 

「こちら三条第二艦隊、合流いたしました。これより、目的地へ進撃いたします」

 

『わかりました、進撃』

 

そうとだけ大府提督が言うと動きだした。本当に人形のようである。潮は怖がっているが、今は恐怖心を抑え、皆を守ることを考えた。不意の潜水艦…それによって邪魔をされることのないように。

 

「なっ…」

 

「オ?新シイオモチャガ来タ!」

 

目的地にたどり着いた時、潮は戦慄し、扶桑でさえ狼狽える状況がそこにあった。

 

「キヒヒヒ!コイツナラモウ壊シチャッタヨ。スグ壊レチャッタ。ネエ…」

 

そこには

 

「オ前ラハ…スグ壊レナイヨネ?」

 

禍々しい笑みを浮かべ、赤い狂気が垣間見える瞳でこちらを見つめる。

 

「サア、遊ボウゼ!!」

 

戦艦レ級がそこに居た。




ついにサーモン海域北方へ赴くことになった3人の提督の艦隊。そして、奥地で待ち受けていたものは…レ級。
狂気の戦艦相手にまずは大府提督と扶桑達玲司の第二艦隊が激突。
生還率の低い賭けになってしまった戦い。勝利の女神はどちらに微笑むのか…次回をお待ちください。

それでは、また。
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