提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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今回は結構衝撃的な表現が多いです。ご注意ください。
もし気分などが優れなくなった場合は読むのをやめ、戻るをクリックすることをお勧め致します。


第百八十五話

「敵、深海棲艦を確認しました。戦艦レ級です」

 

大府提督の金剛が無機質に全無線を開き、出撃している全艦隊、そして3人の提督にそう伝えた。

 

レ級は金剛たちを見つめながら手に持った南方棲戦姫の生首をポンポンと放り投げたりして遊んでいる。

 

『やっぱそう来たか。扶桑を含め第二艦隊、戦闘用意!対レ級戦の作戦で行くぞ』

 

『球磨、聞こえたな。退路を確保しろ。龍田はそのまま三条の第一艦隊と共に合流を急げ』

 

『了解だクマ。すでにこっちは三条提督の第二艦隊が空けた穴があったのと、大府提督の艦隊の空けた穴を結んで逃げる道は確保したクマ。戦闘して様子を見てやばそうならそのルートから全員を逃がす準備はオッケークマよ』

 

『上出来だ。そのままレ級と対峙、深追いせずに退路を死守しろ』

 

『金剛、撤退はありません。敵艦隊を殲滅してください』

 

「かしこまりました」

 

全無線が切れる前に「チッ」と言う刈谷提督の舌打ちを扶桑は聞いた。それは気になったが後回しだ。それよりも、先ほどから敵とは言え、深海棲艦の生首で遊んでいる目の前の敵が気に入らない。

 

「何とかして翔鶴さん達が来るまでの間の時間稼ぎを…しなければなりませんね」

 

「生きるためなら刈谷提督が確保してくださった退路を使って逃げましょう。提督からのご命令は、生きて帰って来いと言うご命令ですので」

 

「そうですね。では…それは逐一考えておきます」

 

「お願いいたします」

 

扶桑と霧島がそう打合せする。

 

「ナア!ヒマナンダヨ!アタシト遊ボウゼ!!」

 

「……」

 

扶桑の殺気が膨らんでいく。遊ぶ気などない。やるなら…撃沈するまでだ。しかし、その膨らんだ殺気が逆にレ級の口角を吊り上げさせる原因になった。

 

「オオ!遊ンデクレルノカ!!!コイツハスグ壊レチャッテツマンナカッタンダ!」

 

ベチャ、と掌の上で首が跳ねる。その手が血で青くなろうが構わない感じである。ベロリと尾の口が手の血をなめ、味わっているようにも見えた。

 

ドォン!!

 

轟音。それは金剛が放った35.6cm砲の音。しかし、レ級は気づいていたのかそれを避けた。

 

「ポーン!!」

 

レ級は南方棲戦姫の首を金剛へ向けて蹴り飛ばした。後ろに控えていた感情のない比叡がその首に砲を撃ち、哀れ南方棲戦姫の首は砕け散った。

 

「アーア、ぼーるガナクナッチャッタ。さっかーシヨウト思ッテタノニ」

 

「さっかー…?」

 

「さっかー!人間ノ乗ッテタ船ヲ壊シタトキニ落テタ本デ読ンダ!!ぼーるヲ蹴リ合アッテ遊ブげーむナノニ…ジャア…別ノアソビニシヨウカ!!!!」

 

『扶桑!遠慮はいらねえ!!!思いきり、ありったけの砲弾を叩き込め!!!』

 

「……遠慮はいらないようです。いきますよ、霧島さん!」

 

「応!!!!!」

 

「潜水艦の反応があります!」

 

「潮さんは神通さん、島風さんと共に周りの敵を倒してください。倒してから援護に回ってもらいます!!!」

 

「「「了解!」」」

 

『金剛、戦闘を行ってください』

 

「はい」

 

戦艦たちによる砲撃が始まるが、レ級は魚雷に艦載機に…そして強力な砲撃にと攻撃の暇を与えない。扶桑や霧島はもちろん、潜水艦や他の集まりだした駆逐艦を処理している神通達もそれを警戒せねばならなかった。

 

ドーン!!!!と金剛たちの艦隊方向に大きな水柱が上がった。

 

「金剛お姉様!!!」

 

「……損傷、状況を見るに中破と判断します」

 

「……」

 

金剛が中破したと言うのに後ろの比叡はフォローしようともしない。黙々とレ級に砲撃を放っていた。

 

「これが…これが大府提督のやり方かぁ!!!!」

 

霧島が吼える。その無機質なやりとりに苛立ちを覚えた。

 

『霧島!他の艦隊に構うな!!!レ級に集中しろ!!』

 

「~~~~~!!!了解!」

 

『いいか、翔鶴達が来るまでお前が脳なんだ!冷静さを欠くな!』

 

姉達を放置するのは心苦しい…しかし、大淀がいつも言っていたように横須賀鎮守府は誰か1人でも欠けたら全てが終わるのだ。あの場所を今の状態に保つために…今は他に構っている暇があるか!自分たちが生き残る術を考えろ!!!

 

「くぅ!艦載機が邪魔ですね…!」

 

「艦載機が多すぎますわ!あれ、本当に戦艦ですの!?」

 

「一応は…ですが、もはや戦艦でくくるのは無理がありますね」

 

「翔鶴さんたちが来られるまで、この熊野、何とかあれの邪魔をしてみせますわ!」

 

「頼みます!」

 

金剛のいきなりの中破で慌てたが一時である。こちらはこちらで全力でレ級を狙う。

 

『弾幕を張れ!点じゃねえ!面だ!面で攻撃しろ!』

 

「オオ!?ヤルナァ!!ソッチノガオモシロソウダ!!コッチハ…邪魔ダナ」

 

キヒヒヒヒ!!!と楽しそうに笑うレ級。体を大きく逸らし、扶桑と霧島の弾幕をかわす。至近弾ではまるで効いていない。

 

「まずい、あいつ、大府提督の艦隊を壊滅させる気です!!」

 

「……ですが、今は弾幕を張るしかありません」

 

「チィ…!!」

 

ドドン!!と背後から砲撃が届く。神通だ。「茨」のチカラを使おうにも瞬殺されるだろうと見た神通はとにかく扶桑や霧島たちを支援するしかない。水中からは「アアアアア!!!!!」と言う金切り声が聞こえた。潮が潜水艦を屠ったらしい。

 

そしてすごいスピードでレ級に向かって突っ込む島風。

 

「やーい!!鬼さんこちら、手の鳴る方へ!!あなたって遅いのね!!!!」

 

「島…風さん!!!!」

 

扶桑が叫んだ。レ級を引き寄せるため、砲を撃ちながらレ級を挑発する。危険な賭けと提督が言っていた、島風によるデコイだ。

 

「どこを見ているのですか?

 

島風が動いたので神通も動く。ギヒッと尾が動き、神通を狙う。しかし、神通は『茨の女王』のチカラ、股関節を柔らかくし、普通ではありえない直角の進路変更を行い、さらにレ級を砲撃する。

 

「キヒ!キヒヒヒヒ!!!楽シイナァ!!!!!」

 

気分は最高潮、と言わんばかりに大きな声で笑う。

 

「ケド、ヤッパリアレガ邪魔ダ」

 

「…!?金剛さん達、逃げてください!!!」

 

神通が叫ぶが戦闘態勢を維持。レ級に砲撃を繰り出している。

 

「ヒャッハァ!!!!」

 

速い!!!尾の主砲はすでに金剛を捉えている。比叡が庇おうと動き出したが遅い。大府提督の命令では旗艦に危機が発生した場合は命を賭して庇え、との指示を受けている。

 

ドッゴォ!!!!

 

レ級の強烈な連撃が金剛に突き刺さった。比叡が庇う前に。

 

「お姉様ぁああああ!!!!!」

 

『金剛…?金剛、状況を報告しなさい。金剛』

 

「………」

 

晴れた煙。そこには大破どころか…もう…腕がなく、片足も抉れた金剛。艤装はめちゃくちゃで。ドシャリ、と金剛は膝をついた。

 

『金剛…金剛!!!』

 

「金剛に代わり、比叡が伝えます。金剛、大破、随伴の能代、三隈も中破しています」

 

『……な、に…』

 

『大府、撤退させろ。球磨達が退路を確保している。金剛の損傷はやばいんじゃねえのか?撤退させろ』

 

『………』

 

『大事な大事な金剛を沈めさせてもいいのか?それともテメエ、これで勝てると思ってんじゃねえだろうな』

 

『撤退は…許可していません』

 

ここまで来て撤退させない!?

 

「こちら霧島!金剛おねえ…いえ、提督の金剛はもう片腕を失い、足も大きな損傷を負い、艤装も使い物になりません!他の艦娘も中破でこれ以上は耐えきれません!」

 

『艦娘が私に指示をするなどおこがましいにもほどがあります。あれは私の艦隊です。撤退は…撤退は…』

 

『そうかよ。なら好きにしろ。金剛は…沈むぞ』

 

『…!!!」

 

「ヒヒヒヒヒ!!!!壊レロ!壊レロ!!!!」

 

「くそおおおおお!!!!!」

 

霧島がレ級を狙う。もはやレ級は霧島たちを気にしていない。金剛たちを見ている。

 

『大府ゥ!!!テメエまた艦娘を沈める気か!!!!!』

 

『提督、確保できたクマ!!!!撤退させたい奴がいるなら早く連れてくるクマ!!!』

 

『刈谷第二艦隊よぉ。ごめんなさいねぇ、まだ時間がかかりそうなの~』

 

『申し訳ありません。敵がこちらに集結しています!』

 

「翔鶴さん、無理はなさらず。時間稼ぎはこちらで致します」

 

翔鶴達の到着を待ちわびている扶桑であったがまだ時間がかかりそうであった。

 

「……を…」

 

「金剛…お姉…様?」

 

「勝利…を…提督に…」

 

抉れた足で。もうない右腕で。ボロボロの艤装で…まだ立ち上がる金剛。砲はまだ多少生きている。だが…もはや…戦える状態では…ない。

 

「島風、いきます!!!」

 

「島風ちゃん!!」

 

「目の前で誰かが沈むのは…もう島風も見たくないからね!」

 

島風は「原初の艦娘」として長く戦ってきた。多くの勝利を味わっているが、同時に多くの艦娘の轟沈を見てきた。その度に辛い気持ちになった。だから…お兄ちゃんも言うように。誰ももう沈むところなんて見たくないのだ。

 

「だああああ!!!」

 

距離があるが全速力で駆ける。夕立と追いかけっこしているときとは全然スピードが違う。

 

「提督…様に…勝利を…それが…私たち、艦娘の存在…意義…」

 

「キキ…次デオーシマイ!!!!」

 

『大府!!!!!!!』

 

………

 

大府提督は思う。なぜだ。なぜ彼は自分の飛龍を私に沈められ…私を憎んでいるんじゃないのか。なのに…なぜ私の艦隊を気にするのか。笑えばいいだろうに。ほら、轟沈するぞと。戦わせろと。なぜ言わない。なぜ私を気にし、撤退させろと言うのか…。

 

「哀れだな、テメエ」

 

…彼の目にはすでに私は眼中にないと言うことか。愛宕の一件で。いや、もういつからだろうか?彼は私を憎んで等いないのだろう。その目は自分たちの艦娘にいっている。

 

私はどうだ?大学の入学試験で主席を取られてから私は彼に執着してきた。そして…私は同じ提督になり、彼を陥れ…彼の艦娘を沈めた。一時は私に会うたびに激しい憎悪を向けてきたが…。今は何を言っても…何をしても眼中にない。

 

「……私は…頂点に立つために…」

 

「テートクー!!!!イヤデース!!!テートクが連れて行ってくれないなら解体してもらうように司令長官に言ってきマース!!!」

 

「わーーー!!!ダメに決まってんだろ!!!!わーかった!!!!!司令長官にそう言ってみるから!!!!」

 

「イエーーーース!!!やったデーーーース!!!テートクー!目を離しちゃ、ノーなんだからネー!」

 

……あの時の鮮烈に印象に残っている。あの眩しい笑顔の金剛が。私も…あのような鮮烈な好意を向けてくれるような金剛は…いない。

 

「今日から提督様のお世話を致します、金剛です」

 

洗脳を施し、忠実な艦娘に仕立てあげた。違う。私が望んでいるのはこんなのではないと言うのに。あのように好意を向けてくれる金剛がほしいのに…。

 

「艦娘を置いたからと浮ついた真似をするんじゃないぞ。お前には今の海軍の頂点に立たねばならぬ。これを使い、艦娘を想うがままに操ればええ」

 

………

 

金剛…私は…あの金剛を手に入れるために…こうして金剛を秘書官に置いて…。

 

「……撤退しなさい」

 

『勝利を…提督に…』

 

「撤退してください」

 

『勝利を…提督に』

 

「撤退しなさい、金剛!!!!」

 

『勝利を…提督に…提督は…大将に…』

 

「金剛!!!!」

 

………

 

「ちっくしょう!世話が焼けるクマ!!」

 

『やめろ、行くな』

 

「何でクマ!?金剛が沈んじまうクマ!!」

 

『テメエらが沈むだろうが。金剛は…大府の艦隊だ。もう沈みかけ…もう…助からねえ』

 

「……球磨さん」

 

「…っくそおおおお!!!!」

 

『三条第二艦隊、時間稼ぎも難しい。撤退の準備をしろ』

 

「…了解しました」

 

『第一艦隊と刈谷第二艦隊はもう少しかかります!』

 

『わかった。ひとまず一時撤退させる。合流を決めるぞ』

 

『大府提督の艦隊を見捨てるんですか!?』

 

『大府の野郎が撤退を命じたが退く気はねえらしい…なら好きにさせる』

 

『……』

 

『扶桑、全員を連れて一時撤退の指示を取れ。三条、いいな?』

 

『…了解』

 

ドオオオオン!!!!

 

「ああっ!!」

 

レ級が笑いながら大府提督の艦隊を沈めていく。

 

「ヒハハハハハ!!!!ホーラ!!!沈ンジャウ!沈ンジャウ!アハハハハハ!!!!」

 

扶桑が唇を噛み、血を流す。何もできないことを悔やみながら。

 

そして…ゴフッ…と言う血を吐く音。そして…腹に食らいついたレ級の尻尾。

 

「オ前ラハツマンナイヤ。ダカラシズンジャエ」

 

ドォン!!!!!

 

『金剛おおおおおおお!!!!!』

 

あの感情を全く露にしなかった大府提督が無線越しに金剛の名を叫んだ。金剛は発砲の爆発と強烈な弾により、体がはじけ飛んだ。そして、肉片を尾が喰らい、レ級は大笑いをしていた。

 

「アハハハハハハハハ!!!!!!!バーンッテ!!!!バーンッテ弾ケチャッタ!!!!!!アハハハハハハハハ!!!!ヒハハハハハハハ!!!!」

 

その様子を見ていた潮は嘔吐し、扶桑も霧島も動けないでいた。

 

「サアテ、次ハ…」

 

ドン!!とレ級の背中に何か衝撃を感じた。振り向くと島風が砲を構え、立っていた。

 

「し、島風ちゃ…うっぷ」

 

「あたしに背中を取られるなんて、遅いのね」

 

「キヒッ、新シイオモチャ。マタパーンッテ爆発サセテヤル」

 

「いいえ、これ以上は好きにはさせません」

 

今度はレ級の顔面に直撃。修羅のごとき表情で睨みつける神通の姿もあった。島風の顔が怒っている。

 

「島風、別にほかのところの艦娘にはあんまり興味ないんだけど…でも、目の前でやっぱり艦娘が死んじゃうところを見るのは…やっぱり…ムカつく!!!」

 

「あなたのやり方は悪鬼羅刹そのもの。あなたのような深海棲艦をこのまま生かしておくわけには参りません」

 

『おめえら、逃げる準備はできたクマ!!!隙を見て逃げるクマ!!!!!』

 

「いいえ、球磨さん。この眼前に居る敵は…逃げようものならすぐさま追いかけてきて今沈んでしまった大府射提督の艦隊の二の舞になるでしょう。刈谷提督の艦隊の皆さんも巻き込まれてしまいます。ここで翔鶴さん達の到着まで、時間を稼ぎます」

 

『……おいいい!!!そんなこと言って瞬殺されたらどうするクマ!?チィ!!球磨達も行くクマ!おめーらだけよりかは時間を稼げるクマ!!』

 

「…退路の確保を引き続き『馬鹿言ってねえで待ってろ!!!仲間死なせて提督の下に帰れるかってんだクマ!!』

 

「オオ?オモチャ増エルノカ!?キヒ!キヒヒヒヒ!!!!」

 

「おもちゃになんかならないよーだ!!悔しかったら島風を捕まえてみなよ!ベーッだ!!」

 

そう言うなり島風はレ級の前から姿を消した。いや、目でも追いかけられないくらいの速さなのだ。まずは70%程度。いつ翔鶴達が来るかわからない。全力でいきなり走れば体力がもたない。だから、まずはこれについてこれるか!

 

「鬼ゴッコハ大好キダ!!!スグニ捕マエテサッキノヤツト同ジコトヲシテヤル!!!!」

 

「そういくと思いますか?」

 

まとわりつくように神通がレ級の行く手を阻む。邪魔だと言わんばかりに尾を神通の顔めがけてけしかけるが「茨の道」を使い、急旋回する。それにより、髪を少しかじられたが回避。そのまま顔面に15.5cm砲を連打する。

 

『支援、目標よし!!!!撃てーーーー!!!!』

『Fire!Fire!Fire!』

 

降り注ぐ弾雨。村雨率いる支援艦隊だ。素早く神通はそれを無線で聞いていたので離脱。扶桑や霧島も砲撃を連撃で行くであろう先を予測して攻撃を繰り出す。玲司が言っていた点ではなく、面での攻撃を繰り出していた。水柱が幾重も立つが気配でレ級を探る扶桑。

 

「……何なの…この深海棲艦は…」

 

ニタァ…と笑ってほぼ無傷で立っているレ級。あの弾雨をかわしたと言うのか!?

 

「くっ!!」

 

さらに攻撃を繰り出すが体を思いきり逸らし、口を開けて狂気の笑みを浮かべながらこちらへ迫ってくるレ級に扶桑は恐怖を感じるしかなかった。だが、それを押し殺し砲を撃つ。ならば…冷静な「絶対の一撃」を…扶桑の意識を全集中さえた必中の一撃をお見舞いした。ギッと言う変な声と共に、レ級は吹き飛んだ。宙に浮き着水した瞬間霧島が今度は一撃をお見舞いさせる。

 

「はぁっ!はぁっ!!」

 

体力はそう減るわけではないが極限までに精神を消耗する。そのせいか霧島は汗をかき、全速力で走ったかのように息を切らしていた。判断を誤るな。敵から目を離すな。仲間を見渡せ。神経を研ぎ澄ませ、それを全力で行う。その精神的な負担は霧島に猛烈な疲労感を与える。たった一隻だ。たった一隻の化け物を相手にここまで精神をすり減らさねばならないとは…。戦艦レ級。データ以上の危険さである。

 

「くぅ…翔鶴さんたちはまだ…ですの!?」

 

「もう少し…もう少し辛抱してください!」

 

「ヴォオオオオオオオオ!!!!!」

 

「撃てええええ!!!」

 

謎の雄たけびと共に重い砲の音が聞こえる。霧島が一瞬目を横にやると姉である比叡と叫びながら砲を撃ちまくる刈谷提督の球磨の姿があった。

 

「球磨見参!!!比叡と筑摩を連れてきたクマ!!!筑摩!熊野の手助けをしてやれクマ!!比叡!扶桑たちから離れて攻撃しろ!!!神通!!!おめーは球磨と陽動だ!!!」

 

「さ、3人で来られたのですか!?」

 

「全員で来たら誰が退路を確保するクマ!潮!おめーは残してきたヤツと合流して潜水艦を潰してほしいクマ!!さっきからちまちま鬱陶しくて困ってるクマ!対潜の駆逐艦がこっちも1人しかいねえから困ってるクマ!!行け!!!」

 

「うぐっ、は、はい!!!」

 

「逃ガ…サ、ナイ」

 

「おっと、球磨ちゃん達が遊んでやっから、1人くらいほっとけよ。ほれ。さっさとかかってこいクマ」

 

「キヒ、キヒヒヒ!!!壊レロ壊レロ!!!全部…壊レロ!!!ヒャハハハハハ!!!!」

 

「雷撃いいいいいいい!!!回避いいいいいいい!!!!」

 

球磨が叫ぶ。周囲に魚雷をまき散らす。しかし、魚雷に気を取られた瞬間筑摩や熊野の前に移動した。

 

「?!」

 

「マズハ…オーマーエー!!ガッ」

 

「ざーんねーんでーしたー。おっそーい!!!」

 

島風が尻尾の砲に砲撃を打ち込み、尻尾が爆発する。弾を込めていたせいか爆発した。しかし、この程度で尾の砲はまだ壊れたわけではない。

 

「支援艦隊!第2射用意!!!!」

 

『了解しました!!!調整します!!!!』

 

「ギッ、オ前速インダナ!!追イカケテ…餌ニシテヤル!」

 

「捕まえれるならね、べーっだ」

 

「油断していると…」

 

「ボディががら空きクマ」

 

ドッと神通と球磨が砲撃を隙だらけの腹に打ち込んだ。吹っ飛んだ刹那、扶桑、霧島、比叡の連続射撃。そして…

 

『修正よし!ってーーーー!!!!』

 

吹っ飛んだ先に支援砲撃の雨が降る。霧島が暗号を送っていたのだ。こうしてここへ吹き飛ばすから飛んで来たら一斉射しろと。

 

「っしゃあ!!!」

 

霧島がガッツポーズを決め、吼えた。うまくいった。確実に無防備な熊野たちのほうへ行くと思っていた。そこで島風にまずレ級の気を散らしてもらい、島風に目がいった瞬間球磨と神通がさらに動きを止め、自分たちの一撃で目的の場所へ吹き飛ばす。そして、回避不能ともいえる2艦隊の支援砲撃による強烈な一撃。決まった。これならばいくらあの化け物でもひとたまりもないだろう。

 

煙が晴れるとまだレ級は立っていた。霧島はその姿に戦慄した。見た目には中破だ。だが、何かがおかしい。何かが。得体の知れない寒気が全身を包んだ。氷なんて生ぬるいものじゃない。血液が液体窒素にでもなったかのような冷たさが霧島を包む。扶桑は水でもかぶったかのように汗をかいていた。

 

「クソ、あれだけぶち込んで立ってるクマか!?」

 

「……恐ろしく殺気が膨らんでいきます!」

 

「クク…クククク…」

 

誰もが凍り付いた。禍々しい気配がより強くなる。

 

「ヒヒ…ヒハッヒャハハハハハ!!!!!」

 

中破でボロつきながらもレ級は大笑いを始めた。そして、扶桑たちを見渡して…牙を見せて笑っていた。その目が…禍々しく朱に…血のように真っ赤に染まったレ級が…。

 

「コレダ!!!待ッテイタノハコレダ!!!!!楽シイ!!!楽シイ!!!!!」

 

『敵のエネルギー増大!!!扶桑さん、どうなっているのですか!?状況を!!!状況を報告してください!!』

 

『球磨!!!やべえぞ!!!!』

 

「やべえってそんなもん球磨たちが一番わかってるクマ!!!あいつ…まだ全然チカラを出してやがらなかった!!!赤いオーラが出た!!!」

 

『elite…か?野郎、テメエらを前にそれを抑えて戦ってやがった…ってか?』

 

「やべえクマ。すまん提督。何とかするけど、帰れなかったらすまん」

 

『馬鹿言ってねえで下がれ!!!!』

 

「できると思うクマか?背中見せた瞬間、金剛を一撃で粉砕した弾が今度は球磨をバラバラにする」

 

ゴゴゴゴゴゴ…とレ級の周りの空気が歪む。禍々しく。赤いオーラが包み込み、目も血のように色が赤くなった。これこそが、欧州の艦隊を壊滅させた「戦艦レ級『elite』」である。20はあったであろう艦隊を壊滅させ、100を超える艦娘をたった一隻で撃沈、大破させた深海棲艦の本性である。

 

「主砲、撃てぇ!!!」

 

ドォン!!!!と扶桑が皆の硬直を破るかのように凛と透き通ったチカラ強い声で砲をレ級に放った。しかしそれは軽く体を捻っただけでよけられてしまった。

 

「当タラナイナァ!ソラ!!」

 

ドンドン!と重い砲撃音。刹那、扶桑が吹き飛んだ。ガッ!?と言う声と共に。

 

「扶桑さん!!!よくも!!!……いない!?」

 

「遅イ」

 

尻尾が霧島の腹に食らいつく…!前にレ級が飛んだ。島風が体当たりをしたのだ。

 

「へえ、少しは速くなったみたいね。けど、まだまだ全然おっそーい!ばーかばーか」

 

「ソウダッタ。オ前ト鬼ゴッコスルンダッタ。ツイテイッテヤルカラハヤク逃ゲロヨ」

 

「その前に私を捕まえられるのかな?」

 

フッと島風が消えた。「ハヤブサ」島風。そのスピードはまだ本気ではないが速く、霧島や球磨、神通でさえ目で追うので必死だ。

 

「ナンダ、ソンナモンカ。ジャア」

 

レ級も消えた。

 

「うそ!?」

 

「キヒヒ!!!捕マエ…タ!!!」

 

「そうはいきません」

 

神通が絡みつくかのように砲を繰り出しながらレ級を取り囲む。神通の必殺「茨の道」…敵を茨の森に迷い込ませ、その茨で切り刻むかのように、ジワジワと攻撃を当ててダメージを与え、最後には必殺の一撃を繰り出す。

 

「これで…!」

 

「ザンネンデシター」

 

「!?」

 

最後の砲を撃った瞬間、レ級は消えた。死の危機を覚えた神通はとっさに飛んだ。しかし…

 

「うあああああああああ!!!!!!?????」

 

顔面への直撃は免れたが、僅かに遅かった。左足を持っていかれた。

 

「神通!!!」

 

「神通さん!?あっ!?」

 

「馬鹿!!艦載機から目ぇ離すな!!」

 

「きゃあああああ!!!」

 

神通の悲鳴に気を取られた熊野が隙を伺っていたレ級の艦攻の魚雷を受けて吹き飛んだ。腕が変な方向へひしゃげたりしているが、命は無事のようである。

 

「……戦艦レ級『elite』になり…神通さんが足を吹き飛ばされ、熊野さんが大破しました…!」

 

『…なっ』

 

大淀の狼狽の声が聞こえる。まずい。このままでは…艦隊はまずい。

 

「ああああああ!!!!!」

 

足を失い、片足で立ちながらも神通は砲を撃ち続けた。一撃一撃の衝撃の痛みと止まらない血で意識を失いそうになりながらも、神通は「生きて帰る」と言う提督の命令を遂行するため、何としてでもこの化け物を沈めるか撃退しなければならない。倒れている暇なんか、気を失っている暇なんかない。0.1秒だってそんな暇はない。

 

「ソノ足、モウイッポン!!」

 

「させねえよバーカ」

 

思いきり球磨がレ級に飛び蹴りを食らわせ、その隙に島風が扶桑達の下へ神通を連れて行った。

 

「霧島さん、しばしお願いします。神通さんの止血を…大丈夫…ドックに戻れば…!!」

 

「まだ…まだやらなくては…!」

 

「もう十分です。あとは…あとは私たちが…!!」

 

「ギッ!?オ前モ…邪魔!!!!!鬼ゴッコノ邪魔!!」

 

「ぐあっ!?」

 

「霧島さん!」

 

「ソイツノ足、モラウ!!!!」

 

「させないわ!!!!」

 

扶桑が神通を抱きしめ、砲撃をもろに受ける。肩の骨や肉が持っていかれた。腕が皮1枚でつながっているような。骨や筋が見えてしまっている。艤装はもう使い物にならない。

 

「扶桑さん!!!!」

 

「だ、大丈夫よ…あなたを沈めたりなんて…」

 

「く、くそぉ!!!」

 

霧島も大打撃を受け、もはや戦闘は不能に見えた。「elite」になってからあっと言う間の出来事だった。三条艦隊はほぼ壊滅と言っていい。

 

「し、島風…さん」

 

「サア、続キダ!!」

 

このレ級は本当にこれを遊びとしか捉えていない。戦いではないのだ。彼女にとって艦娘は壊れるまで遊べるおもちゃ。飽きたら壊す。そうとしか見ていないのだ。

 

島風はスピードを90%に持っていく。しかし、スピードを上げるだけで攻撃ができない。島風の攻撃などレ級の装甲の前には豆鉄砲でしかない。それでも「原初の艦娘」と言う名を背負い、大好きな大好きな兄の仲間、お友達を守ることをしなければならない。

 

「ソコダナ!?」

 

「わわわ!!!?」

 

動きが読まれている。しかし、それでも島風は走ることをやめてはいけない。止まってはいけない。止まれば仲間に何をされるかわからない。自分も殺されるかもしれない。止まるな、止まるな。

 

肺が。心臓が。もうやめろと痛みを訴えても。

 

「はぁ…はぁっカヒュッ…これでも…ついてこれる!?」

 

消えた。ぐにゃりと島風が歪んだかと思うと消えた。縮地。そうしてレ級の肩をたたく。

 

「はぁっはっ、肩に…タッチ、した、したよ。あ、あなた…ぜはっ…負け!」

 

「シラナイ。オ前スゴイ!!!楽シイ!!!!モット走レ!!!撃ッテ…捕マエテヤル!!!」

 

ドォン!!!!

 

 

尾の砲が火を噴く。先ほどよりも火力が強力になっている気がした。息ができない。心臓が破裂しそうだ。だけど。

 

 

疾れ。

 

 

脳はそう命令する。100%。限界を超えてもなお島風はレ級の目にさえ留まらないスピードで走る。「ハヤブサ」島風、正真正銘の誰も追いつけないスピード。しかし…

 

「ソコダ!!!!」

 

ドン!!!

 

「ぎゃっ!?」

 

太ももを弾が掠めた。しかし、それは島風にとって致命的であった。何せ…大腿骨が見えるほど抉れてしまっているのだから。

 

「うわあああああああ!!!!!!!」

 

「ヒャーハハハハハハハハハ!!!!捕マエタ!!!!」

 

レ級は大喜びと言った感じで大笑いしていた。そして…

 

「や、やめ、やめてえええええ!!!」

 

「ホラ、ホラ、マダ立テルヨナ!?立テヨ!!立ッテ走レ!!!!アハハハハハハ!」

 

「ギャアアアアアアアア!!!!!!!」

 

抉られたところに尾が噛みつく。肉は裂かれ、夥しい血が海へと流れる。

 

「し、島風…さ」

「く、ぐぅ!!!!」

 

「そこまでです!!」

 

筑摩が艦載機を放置し、砲撃する。しかし、すぐさま飛びのかれる。

 

「うあっ!!」

 

「テメエエエエエエエエエ!!!!!!」

 

筑摩が止めようとするも失敗。逆に艦載機に狙われてしまった。激昂した球磨が魚雷に砲に、とにかく何でも撃つ。しかし、攻撃は当たらない。魚雷を全て撃ち尽くしてもそれは掠りもしなかった。

 

「ウルサイ、オ前ハウルサイ」

 

「ゴッ!?」

 

尻尾をり振り回し、いつの間にか横にいたレ級に薙ぎ払われる。メキメキィ…と骨が砕ける音がした。折れた骨が内臓に刺さり、ゴフッと血を吐く。

 

「ぐっ、くそぉ…!!」

 

「オッ!?立ッタ立ッタ!!!ヨシ、ウツゾ!!!避ケテ…ハシレヨ!!!」

 

もはや島風は限界だった。体力は尽き、足はもう抉られて動かない。ごめんね、お兄ちゃん。必ず帰るねって約束、守れないよ。

 

「し、島風さん!!!」

 

誰も…動けない。レ級の砲は正確に島風のど真ん中を狙っていた。喰らえば…金剛のように…バラバラに…!!!

 

「イクゾーーーーーー!!!!」

 

「やめてえええええええ!!!!!」

 

扶桑の叫びも届かず、ドゴォ!!!と言う轟音と黒煙を吐き出し、砲は発射された。

 

 

ごめんね、お兄ちゃん、お姉ちゃん。

 

 

目を閉じた時、ゴォン!と言う鈍い音がした。目を開けると大きな砲が目に入った。上を見上げれば風にたなびく銀髪。褐色の肌。

 

「よく頑張ったな。偉いぞ、島風」

 

ああ、この声は…。この声は…。

 

「むさし…さん」

 

「ああ、武蔵だ。この武蔵が島風の頑張りを誉めてやろう」

 

今の音は武蔵がレ級の砲弾を拳で弾き飛ばした音だった。右拳から僅かに煙を噴いている。ニヤリと笑う口。眼鏡越しの目は、優しく島風を見つめていた。

 

「大和、島風を扶桑たちの場所へ。こいつは…私がやる」

 

「ダメよ。連れて行って私も…いいえ、翔鶴さんも瑞鶴さんもやるわ」

 

「ああ、そうか」

 

「キキキ、マタオモチャガフエタ!!!!」

 

「うるさい奴だな貴様は。貴様の声はひどく耳に障る」

 

武蔵は首をゴキッと鳴らすと恐ろしく…レ級にさえ負けない殺気でレ級を島風を見ていた目とは違う正反対の冷たい、冷酷な目でレ級を見ていた。

 

「むさし…さ」

 

「休んでいろ。私たちが終わらせてやる。大和型のチカラ、見せてやるぞ」

 

「私も参戦するぞ。私も無傷に等しい。助太刀する」

 

「…ふっ、それはいい。助かるな…さて…」

 

刈谷提督の艦隊の長門も加わり、最強の大和型、日ノ本ノ誇リとも言われた長門。そして、艦載機の制圧を始めた翔鶴瑞鶴、最上達も加わり、強力な布陣で…化け物と対峙する。しかし、武蔵は臆することもなくレ級に言い放った。

 

「私は今機嫌が悪いんだ。貴様…生きて帰れると思うなよ」

 

ゴォン…と46cm砲を構えた。




戦艦レ級を相手についに戦闘が開始。圧倒的戦力を前に壊滅寸前の艦隊の窮地に間に合った武蔵達玲司の第一艦隊。機嫌が悪いと言い放ち、余裕のような表情であるが、果たして…?

次回は大和、武蔵、そして長門の切り札を使い、レ級を撃沈させられるのか?次回をお待ちいただけますと嬉しいです。

それでは、また。
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