提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百八十七話

『これより、全艦帰投致します。撃沈された艦娘は…ありません』

 

「こちら大淀。了解致しました。潜水艦伊58、伊168、伊13、伊14の4名が帰路の哨戒を行い、それに支援艦隊部隊が援護をする形で皆さんを誘導いたします。どうぞ、お気をつけて」

 

『承知いたしました。お気遣い感謝いたします』

 

轟沈した艦娘はなし。このときにマイクが拾うのではないかと言うくらい玲司が大きく息を吐いた。終わった。大府提督には申し訳ないがこちらは無事かと聞かれると怪しいくらいに大破した艦娘が多かったが全員が生還し、帰路についていると言う事だ。

 

相手は戦艦レ級。そして、さらに進化している「elite」となれば犠牲者が出るのではないかと大いに肝を冷やした。レ級に備えた準備をしておいてよかった。大和や武蔵を出す機会…いや、大和や武蔵がいたからこそである。そして熟練の空母、翔鶴、瑞鶴。索敵のプロ最上、最近最上を倣ってメキメキ成長している鈴谷。最上と鈴谷のおかげで発見は早かったし、翔鶴と瑞鶴がレ級の艦載機を押さえ、大和と武蔵、そして刈谷提督のところの長門改二が手を取り合って戦ってくれたこと。

 

支援に島風や神通達の危険な時間稼ぎ。もちろん、タダでは済まなかった。以前遭遇した時よりこちらも強くなったが、相手だって同じだった。いや、階段を何段も飛び越えたようないい加減な強さだった。

 

「ふう…」

 

大淀も安堵の息を吐く。作戦は霧島に任せていたが本当に気の抜けない戦いであった。南方棲戦姫との対決であればここまで気が抜けないなんてことはなかった

 

だろう。おかげで眠気が来ず、今も眠れぬまま玲司はみんなの帰りを待っていた。

 

「本当に、玲司君と刈谷提督の言う通りになりましたね」

 

高雄が声をかけた。

 

「高雄さんがいつも言ってるじゃないすか。常に最悪の状況を想定しろって。だから俺はそれを考えた。俺が考えていた最低最悪の想定は南方棲戦姫も生きていて、レ級も出てきた、だったんだけど」

 

「でもそれはないと9割方捨てていましたね。こういう上からの言い方も失礼とは思いますが、成長しましたね、玲司君」

 

「高雄さんにそう言ってもらえると嬉しい。けど、俺だけじゃない。優秀な大淀、鳥海の的確な指示、そして現地で戦ったみんながいてくれたからこそのものだ。俺はここで作戦を伝え、大淀に指示を任せ、座って待っているしかない」

 

「そうかしら?面で攻撃しろなんて的確な攻撃を支持していたのは玲司君であって、大淀達ではないわ。玲司君だって、今回指示したことは大きな有利となっていたに違いないわ」

 

「ええ。点での攻撃は確かにそのほとんどが決定打の一撃になることが多いですが、いかんせん命中率に欠けます。面でなら、致命的なダメージは与えにくいですが、的確にダメージを与えやすい。降り注ぐ支援砲撃を集中型ではなく、広範囲に散らばらせたのはレ級には予想外だったでしょう」

 

陸奥のフォロー。高雄の解析。大淀は玲司の素早い判断力にその時は舌を巻いたものだ。

 

「ショートランドで教えられたことだ。各々が一点一点攻撃をしたからこそ、こちらも壊滅した。点には点で。これでは他の見過ごした点があった場合、そこから攻め込まれる。たらればは陸奥姉ちゃんが嫌う話だけど、あの時、今回のように面で金剛姉妹に攻撃の指示を出していたら、結果は変わっていたのかもしれない」

 

「それは結果論よ。その反省を活かし、今回は面で攻撃を繰り出した。まあ、大和や武蔵なんかには点で攻撃させた点も大きいわ。彼女たちの一撃は文字通り全てが必殺と言っても過言じゃない。まあ…武蔵は私の教え方が悪かったのもあったわね…」

 

「いや、きっとあとで聞けると思うけど、姉ちゃんが教えたことは無駄じゃないはずだ。武蔵の戦闘センスは…まあ一見適当だけどずば抜けている。自分を馬鹿だと言っているけど、戦う時の計算の早さは本物だと思うぞ」

 

「そうね。私の白兵戦もグングン吸収していったし、最後にはもらう手数が多くなったもの。まだあの子にもらったボディーブロー、痛いのよ」

 

「……ドックに行けよ」

 

「それどこじゃないわよ。ま、帰ってきたら武蔵とゆっくり語らいながら治すわ」

 

「あの武蔵のパンチ喰ろて平然としてるんなんか陸奥姉やんだけやろ…」

 

「ふふ、いいパンチだったわ。龍驤も喰らってみたら?」

 

「どてっ腹に風穴が空くわ!!!」

 

安堵からかようやく陸奥達にも笑顔やケンカをする余裕が生まれた。私は第一艦隊に最後はうまく指揮ができなかった。いざと言う時にやっぱり提督はすごい。100対1000。激戦であったショートランド海戦を提督1人で指揮しただけのことはある。ここに来てからも、その作戦の指示は艦娘達の安全を最優先に確保しながら的確に勝利へと導く指揮である。私は…まだ高雄ちゃんどころか提督にすら及ばない。

 

「大淀。龍田達退路確保班への指示、的確だった。助かったよ。おかげでこっちは瑞鶴や大和達に正確に指示ができた。大淀がいなかったら的確な指揮は無理だったろう。鳥海もイムヤ達の誘導、助かった。ありがとう。本当に助かった」

 

「え、あ、い、いえ!?わ、私は…」

 

「適材適所。指揮、指示するもんっちゅうんはいろいろあるんよ。激戦のことは慣れて行けばええ。どうせこの先も乱戦なんざゴマンと出てくる。それを高雄の下で学んでいけ。鳥海は誘導、サポートが長けとる。玲司や大淀とは違う目線での指揮が得意や。敵を避け、潜水艦を誘導する冷静さ。時に戦闘を命じる勇気。鳥海は8割方勝てるなら挑ませる。大淀なら8割でも避ける。それではあかんときもある。

大淀は広い視点を持って主力も見ようとした。が、玲司が指揮しているのを見てそっちを任せた。あっちもこっちもで慌ててたら現場は大混乱や。それでええ。大淀、わかっとるか?鳥海も大淀も、軍師としてはまだ1年も経ってないねん。それでそれだけできたら上出来や」

 

「そうですよ。大淀ちゃんの切り替えは見事でした。潮さんの応援要請にすぐさま状況を把握させ、龍田さん達に指示を出したことも素晴らしいです。とても、1年未満の軍師とは思えません」

 

「うう…」

 

「は、はあ…」

 

「褒めとるんや!にぱーっと笑わんかい!」

 

「そんな無茶な!」

 

「ふふふ…でも、ありがとうございます。今後とも…ご指導をよろしくお願いします。高雄姉さん」

 

「ええ。あなた達なら喜んで」] 

 

「2人ともありがとうな!助かった!」

 

「ひゃあ!」

 

「きゃっ」

 

玲司が笑いながら大淀と鳥海の頭をわしわしと撫でた。作戦を立案しても罵られ、暴力を振るわれていた大淀。立案し、実行し、うまくいって…今の提督が着任してからは頭を撫でてもらえる。それが嬉しかった。認めてもらえている。役に立てている。嬉しい。

 

鳥海もクールを装っているが、たまに摩耶が撫でられているのを見て嫉妬するくらい、本当はやきもち焼きだ。撫でてもらって「やめろ!変態!バカ!!!」なんて言った日にはしばらく口を利かないくらい嫉妬する。

 

けど最近では大淀が自ら頭を撫でにいってもらっていたりと積極的になった。鳥海も同じで、何もできず、ただ他人からの押し付けられた意思に同調してしまい、戦わずして仲間を多く失ってしまった過去がある。今は全力で戦闘にも出るし、指揮もする。今回は退路確保の潮たちのサポートに回っていた。それから、退路確保をより円滑にとイムヤやゴーヤ、そして初参加のヒトミとイヨを出撃させ、安全確保を任せていたのだ。

 

「も、もう…てーとく、髪がぼさぼさになるじゃないですか!」

 

「わ、私はその…嬉しいです」

 

「あらあら、ふふふ。本当、いい鎮守府ね。それに、皆で支え合ってここまで成長してきたのね」

 

「ああ。俺が言ってるだけだけど、『家族』だからな」

 

「……そう」

 

その「家族」と言う言葉に重みがあることが陸奥は嬉しかった。悲しい過去、そして目をそむきたくなるような過去を生き、陸奥がいつも言っていた「私たちは家族だからね」と言う言葉。それをこの鎮守府で受け継いだのね。そして、それを否定せず、皆が家族として生活している。

 

横須賀はこの繋がりがもっと玲司も、艦娘も強くする。自分達が成しえなかったレ級の撃退。今度は…あのイカれた戦艦を沈めることができると思う。

 

「うちと刈谷のおっさんとこは全員帰還。大府のとこは壊滅か…せやけど、最後、大府は撤退命令を出しとったはず。やのに、何で金剛らは戦おうとしたんやろうな」

 

「大府提督の所の艦娘は大府提督の命令には絶対のはず…おそらく、大府提督のおじいさまが闇で例の装置の設計図を横領し、そして大府提督に渡したもの…」

 

「ツテを使うて仲間と見つけたんとちゃうのん?」

 

「それは表向きよ。アレを渡し、作り上げさせたのは大府提督の祖父。海上自衛隊総司令だった方よ。大府提督をトップに仕立てるために」

 

「……あのクソジジイ、そこまで孫のためにやるか。せやけど、うちらが顕現したころにはすでに歳でやめてしもてたはずやろ?」

 

「確かにそう聞いているわ。ただ、あの人も上を目指す志向が高いと聞いていたから、部下であったお父様が長になったのが気に入らなかったのね。孫をトップに仕立て上げるために動いていたんでしょう」」

 

「……あほなやっちゃなぁ。せやけど、大府もそう考えるとじいさんのわがままに付き合わされたかわいそうな孫やな」

 

「大府提督自身は主体性がなく、祖父の命で海上自衛隊…いえ、ゆくゆくは自衛隊全てのトップを目指すために防衛大学に入ったって話ですわ」

 

「で、のっけから刈谷のおっさんに邪魔されたわけやな」

 

「マジで」

 

「あれ?玲司知らんの?刈谷のおっさん、防衛大学主席入学やで」

 

その瞬間、刈谷提督の見事な嫌味ったらしいどや顔が思い浮かんだ。玲司も成績自体は上位であったが。協調性のなさが問題視されていた問題児でもあった。ただ、艦娘の扱いが抜群にうまかったため、目を瞑られていたわけだ。

 

「まああの人…頭は抜群にいいっぽいからな…」

 

「ほんまやったら防衛省キャリアにでもなってたんちゃうかな。おっさん、それ蹴って提督になって第一線で戦っとるんや。あのおっさんは防衛省も司令長官も何もない。艦娘が好きなおっさんなんや」

 

「………」

 

漣や不知火、山城のことを考えると…と思ったが、最近では「自分ではどうにもならないから俺に託した」とも思うようになっていた。別に口は悪いが艦娘を沈めたりもしない。命令を無視して帰還を拒否しようとした艦娘には怒鳴りつけるなど、艦娘思いなんだな、と思うことは多々ある。

 

「あの…それで…金剛…さんたちは」

 

「洗脳されてたけど提督の期待に応えよう。そういうのが働いたんじゃないかな」

 

「洗脳されてるのに?」

 

「うっすら聞こえたんだ。勝利を…提督にってな」

 

「ほんまか」

 

「まあ、その言葉をよく言っていたのは榛名なんだけどな。ただ、姉妹だから、同じようなことを言うのをあるのかもしれねえな」

 

金剛型のことは玲司はとても思い入れがある。いつも賑やかで、戦闘になれば華やかで強かった。

 

バイバイ…ワタシの最愛の人

 

その言葉は今も玲司の耳から離れない。いつまでも心にとどめておく。よその艦隊とはいえ、金剛がまた沈んでしまったことは胸が痛い。

 

「金剛はな…提督の為なら限界を超えてでも戦おうとするすげえやつなんだよ。期待以上の戦果を持って帰ってくる子だった。比叡も…榛名も…霧島も。霧島は見ればわかると思うけど」

 

「確かに…」

 

「中でも金剛はとびきり提督のために、と言う思いが強い子だ。洗脳されていたとしても…心のどこかでは…大府提督を信じていたのかもな」

 

訓練生だったころからの付き合いだった金剛。常に提督のために…と努力を怠らない子だった。立場的には…榛名のほうが上でいつもにっこり微笑んだかと思うと黒いオーラが浮かび、金剛が泣きそうになっていたが。ダーク榛名。今思い出しても寒気がするくらい怖かった。総旗艦は金剛に任せていたが、真に鎮守府の艦娘のリーダーは榛名だった…かもしれない。

 

「洗脳されていても奥底までは洗脳できていなかった。だから提督に勝利をもたらし、華を添えたかったのかもな。金剛は…そんな子だから」

 

陸奥や龍驤達は金剛との付き合いを知っているため、玲司の言葉に何も言えないでいた。ただ、翔鶴とのような関係ではなかったが。戦友。そんな言葉がふさわしい。金剛はそうでもなかったような気がするが…。

 

「それでも…それでも死んでしもうたらおしまいやないか…」

 

「今回の作戦、大府提督の立場はかなり怪しいものになるわ。おそらく一週間後に論功行賞があるはずだけど」

 

「最悪、中将から降格もあり得ます。サブ島で本来なら終わりのはずでしたからね。ですが、逃してしまい、さらにはレ級により艦隊を壊滅させてしまった。この失態は埋めようがありませんわ」

 

「そりゃ当日にならなきゃわからんな。それよりも、今は早く帰って来てほしいよ」

 

「そうですね。神通さんや島風さん…皆さん、重傷のようですから」

 

「万全に迎えられるように、玲司君は寝た方がいいわね。興奮冷めやらぬようだけど、まだあとしばらくは時間がかかるようだし。あなた、もう1日以上起きているわよね?」

 

「いや、それが眠くなくてだな」

 

「玲司君?」

 

「あ、はい」

 

陸奥のにっこりした笑顔。これはやばい笑顔だ。龍驤がヒッと声をあげるくらいだからマジだ。確かに、緊張が解けて疲れがどっと出てきた。ここはひとまず寝るか。

 

「大淀、すまん。寝るから帰りが近くなったら起こしてくれ」

 

「はい。かしこまりました。おやすみなさいませ」

 

緊張の糸が切れたこと、そして陸奥の氷点下の笑みを見て寝室へと向かう玲司。なぜかベッドで寝ていた大潮を抱いて寝ることになった。陸奥姉ちゃんにバレたらやばそう…そうは思ったが抗えぬ睡魔に負け、スイッチが切れるように眠りへ落ちた。

 

……

 

「洗脳されても提督への期待に応える…か。玲司君らしいと言うか」

 

「まああいつらしいわなぁ。せやけど、金剛らの最期の言葉は…確かになぁ」

 

「勝利を提督に。お父様へ勝利を。そうして論功行賞で勲章を授与された時のお父様の晴れやかな顔を見た時は、誇らしげになりますものね」

 

「そうね…大府提督は最後まで心を壊したわけでは…なかったとか?」

 

「大府提督は決して語ることはないでしょう。元幕僚長の言いなり…と言うわけでもない…?」

 

「彼には彼の考えがあるんやろ。せやけど、誰にも語らんやろうな。まあ…今回の論功行賞では…何もないやろ」

 

「それはその日のお楽しみ。私たちは参加できないけどね」

 

「ちっ、玲司にその時だけ秘書艦にしてえやって頼もうかな」

 

「私がいるのですから…」

 

「はいはい、そんな出羽亀みたいなことしないの。どうせ青葉が新聞を発行するんだから、それを見ておきなさいな」

 

「せやけど、もし。もしやで。降格とかしたら…刈谷のおっさん殺しに行ったりせえへんやろな?」

 

「刈谷提督はそのあたりは用心深いはずよ。気を付けるはずだけど…」

 

「せやったらええんやけど…犬猿の仲っちゅうレベルちゃうからな。お互いにいつタマ取ったろうか狙うとる2人やから…」

 

「大本営を目指すのならそんな犯罪沙汰を起こしたらそれどころじゃないわよ。安心なさいな」

 

「玲司が狙われるかもしれんのやで!?」

 

「そんなことは私たちがさせません」

 

「はい。大淀ちゃんの言う通りです。横須賀の警備は厳重ですよ。玲司君の妖精さんがいる限り」

 

「そ、そか…ほな安心やわ。まあ、うちかて絶対やらせへんけどな」

 

「その意気で頼むわよ、龍驤。私たちも帰りを見届けたら大本営に帰るから。川内、龍驤、しっかり頼むわよ」

 

「まかせときー」

 

「ちょっとー、なんであたしがいるのバレたのさー」

 

「お姉ちゃんに不可能はないのよ」

 

そう言って、深夜の艦娘座談会は終わった。

 

………

 

昼頃、ようやく大和を先頭に母港へ帰ってきた艦隊。そのボロボロの姿から、いかに戦闘が激しかったがうかがえる。漣は扶桑や神通、島風の様子を見て吐いた。

 

「うげええええ!!」

 

「漣さん。医務室へ行きますか」

 

不知火が心配していたが手で制止する。

 

「し、心配ない…ごめん、久々に見たから…」

 

「あ…」

 

漣もタウイタウイで正常な精神の時にバラバラに砕け散った艦娘などを見てきた。しかし、やはり慣れないものは慣れない。そして、自分で仲間を沈めた感触も蘇り、吐いたのであった。

 

「まずは神通達をドックへ。摩耶、古鷹、川内、頼む」

 

「りょうかーい」

 

「は、はい!」

 

「おい神通!もう治るからな!しっかりしろ!」

 

扶桑も腕から骨が見えてしまっているがそちらとは反対の手で敬礼をする。

 

「提督、第一艦隊、第二艦隊、全員轟沈なしで帰還いたしました」

 

「扶桑。お疲れ様。よく、よく頑張ったな」

 

「……はい!」

 

「支援艦隊の皆もありがとう。おかげでレ級を撃退できた。迅速な手当の話の聞いた。ありがとう。感謝する」

 

「…別に。姉さまが大怪我をしていたので」

 

「と、言いつつ神通さんや島風ちゃんの手当ても丁寧にしてあだっ!!」

 

「知らないわよ」

 

「砲塔で頭を打たないでくださいよぉ…」

 

「うるさい」

 

「もう、山城?ダメよそう言うことをしては…」

 

「は、はい…姉様」

 

「扶桑、報告は後回しで構わない。まずは全員傷を癒してからで構わないよ」

 

「感謝いたします。ですが、どのみちまずは神通さん達重傷者の治癒が先です。私は…」

 

「Non,フソウもよ。先に治療よ」

 

「あ、あう…はい」

 

「ははは、ウォースパイト、頼んだよ」

 

「ウォースパイト、ダイジョーブ?」

 

「ええ、Jarvis…No problem」

 

「ワタシも行くわ!さ、Let's GO!」

 

扶桑も片腕がちぎれる寸前。それに艤装だって大破している。なのでそのまま連れていかれた。武蔵も同じくである。特に前でレ級とまともにやりあったのだから。腹が減ったと文句を言っていたが、大和に止められ渋々ドックへと連れていかれた。

 

「私が報告いたします。第一艦隊のことだけですが」

 

「あ、あの、潮、第二艦隊の事、報告します!」

 

「わかった。疲れているだろうにすまない」

 

………

 

「予想通り、行ったら南方棲戦姫は…」

 

「はい…首だけになっていました…」

 

潮は僅かだが震えていた。残虐なレ級を思い出し、恐怖しているようだ。玲司は潮の前でしゃがみ、潮の目線で優しく頭を撫でた。安心したのか震えは収まった。

 

「南方棲戦姫とレ級の同時相手じゃなくてよかった。そこは怪我の功名と言ってもいい」

 

「球磨さんたちもレ級と戦っていました。退路の確保を協力を求められたので、潜水艦をやっつけに行きました。ソ級だらけで…谷風ちゃんたちと…」

 

「そうか。潮はそこでリーダーとして頑張ったんだな」

 

「い、いえ!実質龍田さんが…」

 

「それまでは潮が必死で指示を出していた。ならいっぱい頑張ったんだ。よく、頑張ったな」

 

「ぐすっ…うぐっ、ヴぁい!」

 

「鼻かもうな…チーンって」

 

「チーン!」

 

「第一艦隊は翔鶴さん、瑞鶴さんが艦載機を押さえ、私、大和と武蔵、それから長門さんとでレ級と対峙しました。最上さん達は翔鶴さんたちの応援です」

 

「まあだからボクたちは元気なわけだけど、あれが戦艦って頭おかしいよねー」

 

「も、もがみん!」

 

「ははは、いいよ。最上はいつものことだ。そうか。そんなにヤバかったか」

 

「ヤバいってもんじゃないよ!翔鶴さんと瑞鶴がいてボクらも加勢して必死だったんだから!」

 

「わかった。よく頑張ってくれたな。ありがとう」

 

「じゃあルーチェの宇治金時でおねがいしまーす」

 

「くぉら最上!そんな要求通るわけないじゃーん!「ああ、いいぞ」

 

「いいの!?やっす!!!」

 

「わーいやったー!」

 

「わたくし、アップルパイで構いませんわ!」

 

「くまりんこはイチゴのショートケーキを…ああ、でもくまりんこはそう活躍しておりませんわ…」

 

「何を言う、頑張ってくれたんだからもちろん。イチゴたっぷりのケーキな」

 

「くまりんこ♪」

 

「う、ううう…じゃあ鈴谷はレアチーズケーキ…」

 

「え?いらないんじゃないのか?」

 

「いるし!!!なんで鈴谷だけ!?ひどくない!?」

 

「冗談冗談。ははははは」

 

「くぅ…提督…夜中の見回りは気を付けた方がいいよ…」

 

「大丈夫、神通って言う最強のボディガードに川内って言うセキュリティで万全だから」

 

「ちいいい!!!」

 

「鈴谷―、元気出しなよー。ボクの一口あげるからさ」

 

「最上の一口っていつもひとかけらじゃん!!!いらないし!!!レアチーズケーキ食べるし!!!」

 

「あ、あのお…報告続けてもいいですか…?」

 

「ごめんごめん。いいよー」

 

そのあとは玲司も逐一聞いていた大府提督の艦隊の轟沈、島風や神通達の決死の時間稼ぎ。熊野や鈴谷が言うには刈谷提督の球磨がいなければ本当にやばかったと言う。

 

「そうか。また刈谷提督には借りができちまったな」

 

「気にはされていないと思いますが…」

 

「大本営行ったときに何言われるかな…」

 

「気にしすぎですよ。刈谷提督はそのようなことをする方ではないですもの。誠実で良いお方ですよ」

 

「高雄…あんた絶対詐欺に遭いそうやわ…変なツボとか買わんようにしいや…」

 

「な、何ですかその言い方は!!」

 

「おーい、まーたケンカかよー」

 

玲司が苦笑する。これでいい。みんな生きて帰って来て、わいわい騒げる。こんな幸せで恵まれていることはない。

 

「よし、ルーチェは論功行賞が終わってからになるけど連れていくよ。今日はみんなゆっくり休んでくれ。ゆっくり寝ていいからなー」

 

「提督は?」

 

「ああ、俺はもうみんなが無事ってわかって帰投指示を出した後、大淀や高雄さんに寝ろって言われたからな。今寝たら夜寝れねえや」

 

「ちぇー。何だったら鈴谷が一緒に寝てあげようか?って思ったのに」

 

「おう。じゃあ今晩頼むわ」

 

「え!?あ、ちょ、ちょいまち、じょ、冗談だし、そ、しょんな、男の人、しかも提督と一緒とか…恥ずかしくて死んじゃう…」

 

「ははははは!お前の色仕掛けなんか効かねえっての!さ、早いこと休んで寝た寝た!!」

 

「むっかー!!!鈴谷のこと子ども扱いして!!!おじさんといい提督いい鈴谷を子どもだと思ってんの!?鈴谷だって脱いだらすごいんだからね!!」

 

「じゃあ提督の前で下着姿になってみてよ」

 

「はえあ!?む、むりむりむり!!!」

 

「はいざんねーん。ほらー、破けたスカートからお尻見えてるよ」

 

「いやあああああああ!!!!!!」

 

「あー、嘘だったんだけど。あはははは!じゃあ提督、お風呂入っておにぎり食べて寝るねー。今日はー…ツナマヨと見たよ!」

 

「くまりんこは昆布がいいですわ」

 

「わたくしもツナマヨですわね!」

 

「はいはい、そう言うと思ってツナマヨ多めに作っといたから、食べといで」

 

「わーい!やったー!行こう、三隈、熊野!」

 

「もがみん!その前にお風呂ですわ!」

 

「くくく、賑やかやなぁ。激戦をしたとは思えんわ」

 

「鎮守府じゃそれでいいのさ。レ級が追いかけてきたわけでもなし。あれくらい賑やかでいてくれた方が俺も嬉しい」

 

「せやな。しかし、ほんまよう頑張ったなぁ。みんな、ちゃーんとうちらの鬼特訓…効果てきめんやったんやろうけど、神通がな」

 

「『女王』は1日にしてならず。明石の艤装を付けたからといっていきなり完璧にとはいかない。しかも、玉璽を装備してすぐだったからな」

 

「これから『原初の艦娘』に匹敵…いえ、超えていく艦娘になりますよ」

 

「そうだな。そうであってほしい」

 

「あたしを超えてもらわないと困るんだけどなー。まあ、神通はまだ封印させているある能力があるからね」

 

「まだ何か神通は隠し玉を持ってるのか?」

 

「兄さん知ってるくせにー」

 

「ああ、あれか。そうか。そうだな」

 

「ね。だからあたしなんて軽く超えていく存在になるよ」

 

「いや、川内ももっと上を目指して神通と張り合ってもらわないとな」

 

そう。「新女王」と「原初の艦娘」…それぞれがさらなる高みに上っていけば強大な深海棲艦がこの先現れようと敵ではない。そして、一宮提督や九重提督など、心強い仲間もいれば怖いものなど何もない。「原初の艦娘」はいずれは一宮提督達のもとへばらけていくことも視野に入れているとか。教練と戦闘。その2つをこなすために。

 

「今回は私もヒヤッとしたわ。けどまあ、武蔵がレ級を殴ったって話は痛快ね」

 

「陸奥姉ちゃんの戦い方が伝染しちまった…」

 

「あら、それはそれでいいものよ。私の格闘術でレ級を揺さぶって大打撃を与えられたでしょ?」

 

「まあ、そうだけど…」

 

「……いい艦隊ね。本当に。皆が団結して…提督…玲司君も一丸になって。そんなやり方は昔のお父さんや安城さん、虎瀬のおじさまくらいだからね」

 

「そっか。涼介…一宮提督なんかもそんな感じだよ」

 

「そ。それなら文句なしで移籍だってするわ。まあ、まだ先の話だけど」

 

「ま、その時はお手柔らかにしてあげてくれよ」」

 

「はーい」

 

そうして解散となった。神通、島風、扶桑たちも無事回復。そのままその日は眠りについた。

 

………

 

「ご主人様?」

 

「よう、漣か。潮に不知火も。潮は寝なくていいのか?」

 

「は、はい…寝る前に…えっと…」

 

「大府提督の金剛たちに…か?」

 

「はい…」

 

「眠れないと仰るのでついて参りました。不知火や漣さんは…陽炎姉さんや曙さん達への弔いも込めて、ですが」

 

「そうか。お花は供えちゃったし、線香分けるか」

 

大きな百合の花や黄色や白、紫の菊の花などがみずみずしく咲いている。玲司が今回は花屋さんに多めにお花をもらったらしい。それを両脇にきれいに飾る。ここは玲司のセンスが問われるが、バランスよく色鮮やかにお供えさえれている。

 

「火傷すんなよー」

 

「大丈夫ですってーあっち!」

 

「言わんこっちゃありませんね」

 

「う、うっさい!」

 

「漣ちゃん…慰霊碑の前だから静かに…」

 

「う…」

 

「よし、じゃあここにお線香を立てて…合掌黙祷…」

 

例え別の提督艦娘でも、同じ戦場で戦った金剛たち。その最期は壮絶であった。願わくば、深海棲艦になどならず…安らかにその魂は…そうだな、俺の金剛が言っていたように…ヴァルハラに行ってほしい。そう静かに願う。

 

潮も全員助けたい、守りたい。その思いが電と同じくらい強い子だ。だからこそ、目の前で散っていった金剛たちを助けられなかったこと。ごめんなさい、ゆっくり眠ってください。そう祈るしかなかった。それでも潮は果敢に退路確保の際に戦った。まさに獅子奮迅の戦いだったと言う。なぜかそれを聞いて漣が

ドヤッていたようだが。

 

潮は電と同じく芯が強い。潮には玲司が自身も言われたことを教えた。

 

「すべてを救うなんてことは英雄でもできないことだ。だから潮は全てを助ける、守るではなく、自分の助けられそうな艦娘や人を助けることを考えるんだ。そうでないと、全てを守ろうとすると、潮は全てに絶望するかもしれない。なぜ助けられないのか、と自分を恨むかもしれない。それはいけないことだよ。いいか潮。自分の守れるものだけを守れ。俺は全てを望んで失敗した奴だからな」

 

ショートランドの話をした。潮は号泣した。全てを助け、全員と笑顔でまたやっていこうと願った結果、自分は見誤った。自分の命、青葉だけが残った作戦。もう少しうまく…やっていれば。だからこそ、あれもこれも助けよう。それは無理であると悟った。だから俺は今は横須賀の皆を…はは、またみんなをって言ってるな、と笑っていた。

 

潮は玲司の想い、言葉を胸に今、一生懸命守れるものを守れるように厳しい鍛錬に励む。そして、金剛さん達のような悲劇を生まないために。一生懸命頑張りますので休んでください。そう願うのであった。

 

「潮。一緒に頑張っていこう。みんなを守れるよう。俺たちは1人じゃない。みんながいるから。みんなでどうやってみんなを守っていくか考えることができる。仲間、家族。困ったらみんなを頼るんだよ」

 

「…はい!」

 

その笑顔は垢ぬけた…でも決意の篭った瞳であった。

 

南方海域作戦。横須賀鎮守府。轟沈艦は…ゼロ。こうして、激戦であった戦いは無事終結した。課題はいろいろある。しかし、それはまたみんなと一緒に埋めていけばいい。そう玲司は思うのであった。




無事帰還、のお話でした。

できれば、全員助けます!と言う潮の言葉の必死感はゲームで聞いていてもがんばれ!と思いますが現実はそうはいきません。守れるものだけを守れる強さを。全てを救う、と言う理想を抱いて死ぬわけにはいきませんので。

次回は論功行賞をお伝えしようかと思います。玲司や刈谷提督、そして大府提督はどのようになるのでしょうか…。次回をお待ちください。

それでは、また。
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