提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百八十八話

南方海域を玲司達が攻略してから数日後、大本営、司令長官室に一本の電話が舞い込んだ。古井司令長官は玲司達の戦闘詳報を読んだり、論功行賞の準備があったりと忙しい時に…と思ったが出ないわけにもいかない。

 

「はい、司令長官室です」

 

玲司達のもとから帰還した陸奥はいつも通り父の秘書として電話に出た。

 

「はい、高浜大臣、お世話になっております。少々お待ちください」

 

高浜防衛大臣の名を聞いて書類を放り出して電話を代わった。

 

「お世話になります、高浜大臣。ああ、その件に関しましては私も鼻が高いですよ。ええ。ええ…え?」

 

父が怪訝な顔をして大臣と電話をしていた。内容はわからないが、どうにも父の顔から見るに、ややこしい案件に見えた。論功行賞まで2日と言うこの時に…弟の晴れ姿を見ることができなくなるのはこちらとしてもいい気分ではない。

 

 

「本当…なのかね。うむ…心筋…その前に…ほお…」

 

部屋に入ってきた高雄も何やら慌ただしい父の姿に何やらただ事ではないことが起きていると理解。情報を仕入れようとソファーに腰かけ、父が電話を切るのを待っていた。

 

「わかりました。では、日時が決まりましたら私も参加するとしよう。ああ。また教えてくれたまえ。では」

 

受話器を置いた父は陸奥と高雄を見て聞きたくてしょうがないんだねえ…と肩をすくめ、苦笑して言った。

 

「大府君の祖父。私たちが自衛隊で活動していた時の最高司令官、幕僚長と言うんだがね。その大府元幕僚長が都内の病院で長く入院していたんだがね、亡くなられたそうだよ」

 

「大府提督…あまり聞きたくもない名前ね」

 

「今回の件で…随分と会議が長引いてしまった彼、ですわね」

 

「うむ。確かにもう御年90を超えておられる方だ。しかし、万全の入院体勢であったはずだが…突然の心筋梗塞と言うことらしい。少し、虎瀬にも報せておくとしよう」

 

そう言うなり電話をかける。舞鶴の虎瀬大将に。虎瀬は先の作戦で大将に昇格。佐世保の上郷提督が来春で退役するため、新たな大将が必要であると判断。大本営での仕事はしないと言う条件で大将を引き受けた。

それはさておき、共に亡き大府幕僚長にはあまりいい印象はないのだが、一応は元上長。報せておく必要はあるだろう。

 

「やあ虎瀬。ああ、君にも高浜君から?そうか。しかし、心筋梗塞とはね」

 

『その件で疑問が多すぎる。常に看護師や医師が張り付いていたはず。何かあればすぐに対処はできたはずではないのか?』

 

「それは私にもわからない。しかし、一つだけ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うことだね」

 

『邪推はしたくないが…』

 

「ああ。推測にすぎん。だが、彼は祖父である彼を慕っていたはず。ならば殺す道理はないはず」

 

『真実は闇の中。俺にもわからん。だがあれだろう?大府は…』

 

「まあその件は当日に、な。まさか堀内君までああ言うとはね。初耳であった」

 

『清州はもとより反対だった。奴は一生本土にあがることはない』

 

「うむ。清州も言っていたが、彼は危険人物だ。此度の失態でさらに本土への着任は難しくなった。その件は…清州から伝えるそうだがね」

 

『対して玲司と刈谷は大きな武勲を上げた。ならば…』

 

「ふふ、楽しみにしておいてくれ」

 

電話を切る。大府元幕僚長。厳しく、部下を物のようにしか扱わない男であった。それ故に信頼は薄く、彼が自衛隊を去ると知った時はホッとしたものだ。その後しばらく幕僚長は別の者が務めていたが、深海棲艦の出現で彼は果敢に深海棲艦に現代兵器で挑み、散った。

 

未知の生命体…いや謎の存在である深海棲艦に恐怖した自衛隊員たちはほとんどが戦意を喪失。アメリカでは核兵器でさえ用いようとしたが、そんなことを世界各地の海で行えば深海棲艦に滅ぼされるより前に人類が滅亡してしまう。各国の首脳陣は頭を悩ませた。

 

そんな滅亡に向かって歩み続ける人間たちの前に現れたのが艦娘である。艦娘は指揮をしてくれと頼んできたが、誰もその手を取ることはなかった。深海棲艦と同じく見た目は見目麗しい女性であっても、その正体はわからないからだ。

 

そこで声をあげたのが玲司の父、三条 雪丸であった。

 

「じゃあ俺が指揮します。おっし、頼んだぜ」

 

それに巻き込まれる形で海軍を形成し、陸奥達と三条、虎瀬、安城と共に戦いを始めた。僅か1年足らずで三条はいなくなり、なぜか自分は司令長官となり、ようやく少しずつ人が集まり始めた。とはいえ…あまり期待のできない人材ばかりであるが…。

 

未知の深海棲艦が現れた際にそのような者と戦う手はずなどない、と復帰を拒否した大府元幕僚長だが、艦娘が現れ、深海棲艦に戦える術が手に入ったとなると一転した。彼は事あるごとに口出しをし、あれをせよ、こうせよと命令をした。無論、古井や虎瀬は部外者の戯言と跳ね除けた。しかし、口出しだけにとどまらず、零式洗脳装置などを作るよう命じ、艦娘の自由を奪うことなどを指示した。

 

「艦娘は兵器」「艦娘は物」を定説にした犯人は彼で有り、それに協調する人間が今でいう「艦娘兵器派」である。高浜現防衛大臣や、豊田総理大臣などは古井や虎瀬の言うことに呼応し「艦娘は艦娘」と言う説を唱え、これが二大派閥となった。

結局、大府元幕僚長は孫を提督に放り込み、自分は病が悪化したため、一時は古井達「艦娘擁護派」の立場は危ういものであったが息を吹き返した。

 

しかし、「艦娘兵器派」の派閥は未だに大府元幕僚長を神のように崇め、すがっていると聞く。その彼が亡くなったとなると、もう「艦娘兵器派」は瓦解しそうである。いや、まだ清州がいる。彼にすがるか?彼は幕僚長ほどカリスマはない…。

 

それに追い打ちをかけるかのように、青葉が「艦娘擁護派」などとは一切関係ない若き提督の下へ取材へ赴き、生き生きとした表情をした艦娘、そして提督達の取材を行い、大本営の人々を「艦娘兵器派」から遠ざける試みを行っている。

 

「あのおじいさんは好きではなかったわ。私たちを物として扱い、いざとなれば爆弾を持って深海棲艦に突撃しろとか、やり口が古いのよ。かつての戦争の人間魚雷や何かじゃあるまいし。おまけに洗脳装置。ふざけているわよね。ああ、その人の孫、まだ使ってたわよね」

 

「うむ…贋作と思ってはいたが…調べてみないとわからんが、もしかすると本当に幕僚長が科学者と共に作りだした零式の本物…なのかもしれん。タウイタウイへ視察は…過激派がうるさくて行けんのだが…」

 

「それももう時間の問題でしょう。大府提督のおじいさまが亡くなられたのなら、私たちを兵器、物と蔑む派閥の勢力も弱まる…そして青葉さんの取材で人の見る目が…いえ…それよりも前に、もう変わりつつありますね。玲司君や…一宮提督達のおかげで」

 

「けど、噂程度でしかなった生活を…青葉が実際に取材をすることで決定打になった。百聞は一見に如かず。あの子達の笑顔の写真は本物だった。なぜこんな子達…日本や海を守る者を邪険に扱うのか。食堂などでの扱いは目に余る。そんな言葉が増えてきているも」

 

「良い傾向だね…10年以上経って…もう遅いがね…」

 

「それでも見る目が変わってくれるのならば、ありがたいと言いたいですわね…」

 

「島風のことも、変態の不審者みたいな誘い方をする提督とか、私へのセクハラとか。そういうのを変えるべきだ。そう動く人もいるみたい」

 

「天津風君の言葉を借りるならば、いい風が吹いている。か。それもこれも、玲司達若い子達が起こした風か」

 

「ふふ、新しいものを取り入れるために心の窓は開けてみるものね。風が入り、見方が変わる。そういうことね」

 

「うむ。陸奥や龍驤と散々大ゲンカをした末に提督になった玲司のおかげなのかもしれんな…」

 

「人はもう三条 玲司と言うショートランドの英雄を覚えている者は少なくなったが、彼と…彼の父のおかげなのかもしれん。立派に玲司は頑張っているよ、雪丸」

 

写真立てに飾られたニカッと笑う男にそう笑顔で呟く総一郎であった。

 

……/都内 某病院

 

「失敗したそうじゃの…ゴホゴホ…恥晒しめ…」

 

「………」

 

個室にたくさんのチューブや点滴、酸素マスクなどを繋げられたやせ細った老人の罵倒を受ける大府提督。その表情は氷のように冷たく、無表情である。

 

「作戦は成功いたしましたが」

 

「違う。貴様の艦隊だけ全て轟沈したと聞いた。そんなことで…ゴホッ…頂点に立てるなどと思っておるのか」

 

「挽回はします」

 

「適当な言い回しで茶を濁したところでどうにもならん。挽回できんぞ…あやつらめ、儂の言うことを聞こうともせぬ。儂を誰じゃと思うておるのじゃ」

 

忌々し気に愚痴をこぼす老人。大府提督の祖父である。つい先日までは最も信頼できる人だと思っていたが、金剛を沈めてしまったのは、全てこの男の言いなりになってしまっていたから…と思うと、ただの汚物のようにしか感じなかった。

 

「貴様の目的は何じゃ?」

 

「全ての頂点に立つことです。その為には障害になるものは全て排除いたします」

 

「そうじゃ…それで良い。貴様は鎮守府や大本営でのキャリアなど温い。儂にたてつくあの馬鹿な高浜とか言う小僧を引きずり下ろし、貴様がその位置になるのじゃ。そうなるよう言い聞かせておる。儂の部下にな」

 

「私はそのようなものに興味はありませんが」」

 

「何じゃとこの馬鹿者が!!ハァッハァッ!貴様は儂の言う通りにしておれば良いのじゃ!儂にたてつけば、貴様もあのような僻地で一生つまらぬ提督で終わらせてやるゴホッ…ゴハッ!!カヒュッ!!」

 

「私の目的はもう決めております。そして…その目的のためならば私の邪魔になるものは排除します」

 

「ハァッハアッ…ヒューッなら、ならば、わ、儂の言うこと…を」

 

「いいえ、もう聞く必要はありません」

 

「な、なんじゃ…と」

 

大府提督は祖父の酸素マスクを取る。それは祖父にとっては危険なことなのだ。点滴やその他のチューブを外せばバレる。だからまずは酸素マスクを外したのだ。

 

「あ、あがっ…ハァッ!!!!きざ、…ぎざま…」

 

「貴方も…私の目的の邪魔にしかならなくなりました。ですので、消えて頂こうかと、思いまして」

 

「な、なに…」

 

酸素マスクは戻す。ナースコールを取ろうとしたがそれを取り上げる。

 

「貴方は私の邪魔をしました。貴方がいなければこうはならなかった」

 

「な、何じゃと貴様ァ!」

 

荒い呼吸のまま怒鳴る祖父。もはや彼の言葉に従う気もない。醜い老いた肉塊。消えてもらうとしよう。

 

「金剛を失ったのは貴方のせいだ。貴方は私の障害となった。さようなら、おじいさん」

 

ドン!と左胸を叩いた。

 

「ゴァッ!?あう…あ、あ、ああき、ぎざ、…ま…お、おのれ…わ、わじが…わじがここまで…育ててやっだど言うの…に…」

 

「ええ、おかげでここまでたどり着けました。それには感謝していますよ。ですが、ここまでです。これ以上は貴方は必要ない。もう貴方の時代は終わりました。さようなら」

 

「うぐ、ぐ…ぐぅ…」

 

心臓が弱っていると言っていた祖父。なので興奮させ、心臓に負担をかけさせたところで思いきり布団の上から衝撃を与えてやった。これなら打撲痕は残らない。

 

彼は…自分の祖父を障害と見なして…殺した。

 

憎しみで目を大きく見開き、睨むようにしてこちらを見て亡骸となった祖父を、ゴミでも見るかのように見てそっとナースコールを押した。

 

飛んできた医師、看護師に事情を説明した。彼は私と話をしていた際に興奮し、酸素マスクが外れてしまったので酸素マスクを取り付けてあげたが、今度は胸を押さえて苦しみだし、皆さんを呼ぼうとしたがその前に亡くなってしまったと言った。

 

医師は床に頭をこすりつけ、何度も申し訳ございません!と叫んでいた。

 

「気にしないでください。もう90を超えた御仁です。心臓も弱っていたと聞きました。私こそ、興奮をさせてしまい、このようなことに」

 

無表情で医師を許した。その時、看護師は大府提督のあまりの無表情さ…いや、氷のように冷たい目をしていた彼に恐怖したと言う。

 

大府提督は悲しむ様子もなく、淡々と長らく疎遠であった父に祖父が亡くなったとだけ告げ、霊安室の前に佇んでいた金剛に「行きますよ」とだけ言い、金剛は「はい」と無表情についていくだけであった。葬儀などに関しては出るが、その前に論功行賞がある。それに参加せねば。私の目的のために、今回も作戦は成功した。自分は多大な犠牲を出したが作戦は成功したのだ。そう信じて疑わなかった。

 

……

 

「それではこれより論功行賞を行います」

 

淡々と司会進行である呉鎮守府の堀内提督が大本営の円卓より立ち上がり、司会の壇上へと上がって言った。

 

「今回は3人です。それぞれ名を呼ばれた者は古井司令長官の前に出てください」

 

パチパチと数名の提督が手をたたくが、自分は関係ないと思っている提督はこのためにわざわざ本土へ呼びだしたのかと思うと不機嫌そうな顔をしていた。論功行賞を先に行い、今後の深海棲艦の動き、海軍の動きを話し合うためでもあるのだが、最初に論功行賞を行われては関係ないからと退席できないのが面倒で仕方がないのだ。

 

古井司令長官はそれを避けるためにわざと論功行賞を最初に行っているわけである。言うことを聞かない連中ばかりだからね、と苦笑いしながら語っていたことを玲司は思い出した。

 

「あれが…大和型の武蔵か…?」

 

「ちっ、見せつけやがって…」

 

「また三条提督にだけ…」

 

ぼそぼそと声が聞こえるのに不快感を覚える武蔵。これも玲司の作戦だ。大和と同じく武蔵をここに連れてくることで抑止力になる。もっとも、武蔵の気性を考えると強奪や攫うことなんてできるわけもないが。そして陸奥に教えられた格闘術、護身術諸々。連れ去ろうものなら半殺しどころか命が危ない。そういう抑止力である。

 

玲司は武蔵に何を言われても黙っているように…と言っておいたが、不機嫌そうな顔だけは隠しはしなかった。

 

「クク、大和に続いて武蔵にも嫉妬か。見苦しく嫉妬するんだったら三条みたく、大和や武蔵が着任するに相応しい提督になれるよう努力でもしてみたらどうだ」

 

「ちゃんと日々精進しておるわ!!!」

 

「そうだ!いちいち偉そうに!」

 

「そういうあんたらが勲章もらった記憶が数年前だけど大丈夫か?キヒヒ」

 

「何だと!!」

 

「静粛に。それではまず…一宮提督」

 

その名に玲司はおお、と素直に驚きの声をあげた。あいつ、着実に頑張ってんだなぁと嬉しくなった。

 

はい。名を呼ばれた一宮提督は立ち上がり、ピンと背を伸ばして司令長官の下へと向かう。

 

「一宮提督。今回の中部海域における三好提督のサポート、そして陸上深海棲艦の攻撃作戦の発想、見事であった。おかげで中部海域の一部を我々が奪取することに成功し、補給ポイントを確保することもできた。基地航空隊の設営も迅速であり、これもまた評価するに値すると三好提督からの報告を受けている。

よって、一宮提督。貴官に勲章を授与。そして、貴官を大佐から少将へと昇格。今後、将官になる。将官に恥じぬ活躍を期待しているよ」

 

「ありがとうございます。三好提督のおかげです。ですが、ありがたく」

 

「ワハハハハ!!!若いが良き炎であった!!!しっかり励め!!!後に貴様は四大鎮守府を任すに相応しい提督じゃあ!!火を絶やすでないぞぉ!!!」

 

「はっ。三好提督のご期待にお応えできるよう精進致します」

 

胸につけられた勲章。それを見た一宮提督の秘書艦、日向は誇らしげであった。少しずつ増えていく勲章は提督の努力の成果である。勲章は貴女たちに贈りたいものですが、といつも言っているが、自分達からしてみれば、提督が勲章をもらうことこそ、私たちも勝利した甲斐があるものだ、と誇らしくなる。優し気な目で一宮提督がこちらを見ていた。それに日向は小さく頷いて返した。

 

……

 

論功行賞にて勲章を授かるのは3人と言った。南方海域を攻略した3人かと思っていたが、まさかの一宮提督の名を呼ばれたことで、刈谷提督はやや戸惑っていた。

 

(……一宮。なるほど、それはわかる。じゃあ南方海域に出た俺らの中で誰が外れる…?…やはり…)

 

刈谷提督は論功行賞で勲章をもらえる者は南方海域に参加した自分を含めた3名だと思っていたが、いきなり出鼻を挫かれた。一宮がもらえるとなるともらえる提督はあと2人。可能性は…いや、まだわからない。もし、奴がもらえるとなると…おっさんを締め上げてやろうかと思うが。

 

「では次に参ります。刈谷提督、前へ」

 

「はい」

 

考え事をしていると名前を呼ばれた。これであと1人。まさかあいつが選ばれないなんてことは考えられない。奴の糞老害が口出ししたならあり得るが。さて…真実をまずはこの目で確かめさせてもらう。

 

「刈谷提督。貴官は南方海域に参加、サブ島において挟撃を行おうとしたが失敗。しかし、サーモン海域とその北方における活躍は見事であった。特に北方では退路を確保しつつ、あのレ級を相手にし、なおかつ退路の潜水艦をも二艦隊を用いて決死の確保。見事であった。

レ級を前に決死の行動を評価する。貴官に勲章を授け、さらには…大将に昇格とする!!!今後、大将としての責務をしっかりと果たし、今後一層の活動を期待する!!」

 

おお、と大きな声が周りからあがった。大将に昇格する提督は久しぶりの事だ。堀内提督が大将に上がって数年。それまでは中将止まりであった。長らく動きがなく、大将の座は数少ないものであったがこれでようやく大きな動きとなった。それと同時に、他の提督は今まで追いついては離されていた刈谷提督が先に大将に出たと言うのも大きな騒ぎとなる。しかし、勲章を授かる提督はあと1名。他の提督は間違いなく、大府提督がと信じて疑わなかった。まさかの同時昇格。これは異例だった。

 

「貴官は来春に佐世保鎮守府を任せることになる。しっかりと頼んだよ」

 

「承知いたしました。鎮守府を任されるからには恥ずべき指揮はせず、艦娘と共に暁の水平線に勝利を刻んで参ります」

 

パチパチパチと大きな拍手があがった。鎮守府への異動。これは前から聞かされていた上郷提督の退役。空座となる佐世保鎮守府を誰がやるのか、その話でもちきりだったこともある。大府提督か、それとも誰か…まさかの刈谷提督とは驚きであった、と他の提督は思っているようだ。

 

そうして、どの提督も最後の1名はやはり…と大府提督に視線を集める。

 

「さて、最後です…」

 

堀内提督がそう言うと、皆が大府提督の名を呼ぶと信じて疑わなかった。

 

「三条提督、前へ」

 

どよ…と多くの提督のどよめく声が聞こえた。玲司自身も「え。俺?」と言った感じの顔で驚いており、動けずにいた。その中で刈谷提督は…「やはりな…」と言ったような顔で微笑を浮かべていた。

 

「三条提督?どうされましたか?早く司令長官の前へ」

 

「は、はい!!」

 

椅子に足を引っかけ椅子を蹴飛ばしそうになり、自分は転びそうになりながら前へ出た。ふふっと武蔵は笑い、大淀は手で顔を覆い、呆れていた。

 

「三条提督。貴官はサブ島でアイアンボトムサウンドにおいて多数の深海棲艦を夜と言う危険な状況の中戦い、打開をし、大府提督と刈谷提督の艦隊を安全に主力の下へと通過できるようにした。そして、辛いであろうにも関わらず主力まで艦隊を運んだ。また、支援艦隊の支援能力も見事であった。

そして、何よりも。サーモン海域北方における『戦艦レ級』と戦い、それを撃退した!」

 

おおおおおと提督達から声があがった。それについては刈谷提督の艦娘もしっかりと見ているため、嘘偽りではないことは確かである。実際に刈谷提督の戦闘詳報には三条艦隊のおかげで見事レ級を退け、退路の確保ができたと記してある。

 

「貴官の今回の功績は非常に素晴らしいものである。よって今回、貴官に勲章を授ける。そして…中将に任命するものとする!!」

 

古井司令長官は半ば興奮し、我が子の功績を褒めるかのように大きな声でそう言った。拍手が鳴り響く。刈谷提督がまず拍手をし、それに続いて一宮提督や九重提督達が拍手をした。

 

「ありがとうございます。横須賀鎮守府を任されている身であります。より一層、中将と言う名に恥じぬ活動をして参ります」

 

「うむ。しっかりと頑張りなさい」

 

勲章を司令長官…父につけてもらい、誇らしげにした。その姿に父はやや目を潤ませていたがすぐに気づかれないようにした。

 

……

 

三条提督の名が呼ばれた時、大府提督は鈍器か何かで頭を殴られたような感覚を覚えた。なぜ…?なぜ自分には何もない?

 

堀内提督を見た。目が合った。彼はただ横に首を振るだけだった。清州副司令長官を見た。彼もまた、何かをあきらめたかのように首を横に振った。

 

私は…私は…頂点へ…。

 

「頂点へ登り詰めろ」

 

祖父の言葉を一身に信じ…ここまでやってきて…また…また彼か。また彼が…。

 

……

 

「なあ刈谷…お前、相当大府に恨まれてるらしいぜ…って、うわ!大府!?」

 

「恨まれようが知ったこっちゃねえよ。こっちだってなりたくもねえ主席取っちまってあんなスピーチさせられていい迷惑だったぜ。トップ取ってくれりゃよかったんだよ」

 

軽々しくそのようなことを言ってくれたあの男。自分が先に上へ行ったときは見下した。そうして…ようやく…ようやく…ここからだと思っていたのに…彼が先に…大将…?しかも…次期佐世保鎮守府に…だって?いや、まだだ、まだ呉が、舞鶴がある。

 

「ああ、最後にですが…残念なお知らせがあります。最初にしようか最後にしようか迷ったのですが…これは私から言っておきましょう。大府提督。あなたは少将へ降格。そのままタウイタウイ泊地にて艦隊運用をお願いします。今回はサブ島での失態。そしてサーモン海域北方における艦隊全滅。我々は艦娘を使い捨てのように使う提督はこのように厳しく罰する方針を固めました。皆もよく肝に銘じておいてください。特に、大府提督の艦隊は感情がないなどの目に余る艦娘が多いのもあります」

 

今度は金属か何かを押し当てられているかのようにチリチリと首から上が熱い。心臓が早鐘を打つ。馬鹿な。ありえない。私は南方海域の総司令だったはず。なぜ降格までさせられねばならない。

 

『哀れだな…テメエは』

 

刈谷提督の言葉がグルグルと脳内を駆け巡る。刈谷提督は自分など相手にしていないかのように一宮提督に話しかけていた。笑えばいいじゃないか。降格した私を。散々、貴方が降格した時も。飛龍を私が沈めた時も、嘲り、見下していた私を。もう、私は眼中にないということですか。

 

清州副司令官。私に期待していると言ったのでは。なぜ…なぜ首を振って私をそのような憐みの目で見るのです。

 

「おい、一宮。テメエもポスト呉鎮守府の人間だ。少将を祝って祝杯と行こうぜ。30点って言ってぼろくそ言ったこともあったが、やるようになったじゃねえか」

 

「い、いえ…私は下戸ですので…それに、皆さんが私がどうなったか…待っていますので。ああ、それと…刈谷提督に会いたいとどうしてもと聞かなかったので…」

 

「てーーーーーーーーーーーとくーーーーーーーーーー!!!!!」

 

「あー、あれこけるな」

 

刈谷提督は大府提督の視線などには気づきもせず、一目散に駆けてくる水色の髪の長い駆逐艦が大声で叫びながら走って来るのを小走りで走って迎えに行った。

 

「ぶべっ!!!」

 

豪快なヘッドスライディング。案の定転んだ。

 

「いつも言ってるだろう。お前はそそっかしいんだから走るなって。あんだけ走ったら転ぶに決まってんだろ」

 

「うぐっ、うえええええ!!!でえどぐ!!!でいどぐ!!!!あいた…あいだがっだでず!!!!!」

 

「…久しぶりだな、五月雨。写真はずっと見てきたけど…まったく、ドジは変わってねえな」

 

「ぐすっ、ぐすっ…鼻…いだい…」

 

「すりむいてるもんな…ふふ…」

 

「涼介の艦娘じゃないのか?」

 

「いえ、彼女は刈谷提督が私に託した子です。理由は…ここでは明かせませんが」

 

「そうなのか。はは、久しぶりの再会ってか」

 

「ええ。ずっと…ずっと会いたがっていましたから」

 

「そうなのか」

 

五月雨を抱きしめている刈谷提督の顔はとても優しげだった。あれが刈谷提督の本当の姿か。何だ、やっぱり悪人じゃねえじゃん。そう玲司は思った。

艦娘があんなに再会を泣くほど。そしてあんな全速力で走って来て叫ぶほど懐くなんてことはあまりない。横須賀では日常茶飯事だが。

 

「おにーーーーーちゃーーーーーーん!!!!」

「しれえええええええ!!!!」

「しれーーーーーかーーーーーん!!!!」

 

雪風は改二になってちょっと大人びたのに変わらない。みんな全力で突進してくるものだから腰が痛い。のだがやっぱり、そうして甘えてくれるのは嬉しい。

 

この五月雨も、刈谷提督にとても心を開いているようだ。

 

「元気で何よりだよ」

「はい…」

 

「手紙、毎月ありがとうな」

「はい…」

 

「久しぶりだな。五月雨」

「はい!!!!うわああああああん!!!!」

 

 

「おいおい。泣き虫も変わってねえなぁ」

「びゃああああああ!!!!」

 

「うるっせえなぁ…ったく」

 

優しく頭を抱きしめながら撫でる刈谷提督。

 

「はっはっは!いい光景だね。これこそ、提督と艦娘のあるべき姿だね!」

 

「おやっさん…」

 

「ほう、これがあるべき姿なのか。相棒よ、ほうら、この武蔵が甘やかしてやろう。私の胸に飛び込んでくるがいい!」

 

「いぃ!?」

 

「む、武蔵さん、いけません!!!」

 

「なぜだ。五月雨とあの提督は良くて私はいかんのか?ああ、そうか。まずは先輩である大淀からするべきだな。ほれ」

 

ドンと突き飛ばされた大淀はきゃっ!?と声をあげながら玲司に抱き着く形になってしまい、ひゃああううう!?と変な声を出していた。

 

「あ、あうう…」

「大淀…?」

 

「ひゃ、ひゃい!」

「ははははは!これでいいんだろう!では私は後ろから失礼するとするか!」

 

「むぎゅっ」

「ひゃあああああ!!!!」

 

「何やってんだテメエら。おもしろいことしてんな」

 

「ふむ。どうだ提督、ここは私たちもひとつ」

「いえ…今ここでは…」

 

「まあ、そうなるな」

 

「あらあら、賑やかで楽しいことしてるわねぇ」

 

「う、うわー、うわー、三条提督、大胆ばこつしとっと」

 

「過剰なスキンシップは見えないところでお願いできませんか」

 

堀内提督に注意を受け、しょうがねえ、と刈谷提督は五月雨を抱え上げた。

 

「テメエら、ちょっと俺に付き合え。九重、七原、テメエらもだ」

 

以前とはまるで違う優しげな表情に呆気にとられつつ、九重提督達も後に続いた。

 

「ふふふ、いいものを見させてもらった。さて、私も仕事に戻るとするかな」

 

「無理をしすぎないようにな」

 

「うむ。もちろんだとも」

 

「ああ、磯風たちが言っていたぞ。次は一宮のところの艦娘をしごきたいとな」

 

「あー…彼らも鍛えてもらったほうが良いかね」

 

「今後、もしも舞鶴や呉を任せるのならばしておくに越したことはない」

 

「と、虎瀬。とりあえず堀内君とこの話は司令長官室でするとしようか」

 

「そうだな」

 

そして、会議室に残ったのは清州副司令長官と大府提督だけになった。

 

「これが…」

 

後片付けを自分からすると言って古井司令長官達を外へ出し、書類などを片付けていると大府提督がポツリと声をあげた。

 

「これが…私への結果…ですか」

 

「その通りだ。これ以外の結果は…もはやありえん。君がしたことはそれだけのことだった。それだけのことだ」

 

「舞鶴や呉への着任は…」

 

「残念だがお前にはそのポストはない。以前ならありえたかもしれんが…残念だがこれは決定事項だ。しばらくば堀内と虎瀬がまだ見るが、ゆくゆくは…お前以外の誰かが継ぐだろう。大本営での勤務も…諦めろ。お前は祖父の七光りでここまで来た。だが、七光りなきお前にはもう甘やかすことはない」

 

「………」

 

「祖父が独自で持ち出した零式洗脳装置。禁じたはずなのにそれをまだ使用し、今回の失態。お前の祖父殿は昔から古井も…虎瀬も誰もが煙たがっていた。だが彼の権力を活かすバカがいた。しかしここまでだ。死者を冒涜するようだが、これが事実だ」

 

「…そう、ですか」

 

そう言うと金剛を連れ、幽霊のように覚束ない足取りで彼は去って行った。

 

「これでいい…私は…艦娘を蔑ろにするような輩とは…だが…古井とは袂を分かった。虎瀬とも…私は私のやり方で艦娘を守る。ただそれだけだ。刈谷が…うまくやってくれる」

 

周りに味方はいない。孤軍奮闘。彼は彼なりのやり方で…いろいろな権力と戦ってきたのだ。大府提督との祖父とも。無茶苦茶な物言いで大府…孫を上へ上げろと。

 

「いつまで中将でとどめておくつもりだ?儂の言うことが聞けんのか?」

 

「実績がなければ上へ押し上げることなどできません。ましてや彼は中将。簡単な作戦で大将にはもうできません」

 

「ならば貴様が何とかしろ。難しい任務などあるだろう」

 

あ奴に任せられる難しい作戦などあるものか。無能でしかない、七光りだけでのし上がってきたあの馬鹿者は。ならば…私はこの老いたご意見番の言いなりにはならぬ。孫がいかに無能かを危険だが知らしめてやろう。そして終わらせてやろう。七光りはもう通じんと。

 

「では、とっておきの作戦がございます」

 

「ではそれの総司令をやらせろ。そして必ず…奴を大将にし、四大鎮守府にでも就かせろ。わかっておるな?」

 

それは必ずさせろと言う命令に他ならない。

 

「かしこまりました」

 

その裏で拒否すると心の中で呟きながら。彼が描いた通りに物事は進んだ。だから清州は玲司と刈谷提督だけを昇格させた。彼は降格する働きをするだろう。そう思っていた。思った通りだった。そして、それを告げ、貴方の時代は終わった。それも告げようと思ったのだが…その前日に亡くなるとは。

 

それも好都合だった。死者に対し、このような考えは良くないとわかりつつも。これで彼への七光りは消えた。堀内提督もそれには辟易していた。ようやく…旧時代のしがらみが切れた。

 

「大府…この先…お前は何もない。そう…本当に何もない。お前自身が変わらねばな」

 

清州は七光りが消えた彼が…変わってくれることを信じ、まだ幽鬼のように廊下を歩く大府提督の背中を消えるまで見送るのであった。

 

 




論功行賞編、そして大府提督の転落が始まりました。
そんなお話です。

彼は越えてはいけないラインを越えてしまった気がします。そして…その凶行は止まるのでしょうか。
次回は刈谷提督と4人の若手達との話です。今後の方針の打ち合わせやら五月雨が大泣きする話だったりとかを書ければと思います。

それでは、また。
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