刈谷提督にくっついて離れない五月雨を見つめる提督達。特に九重提督はあの自分をくそみそに言ってくれて悪態ばかり吐き、人の心を持ってるのかさえ怪しかった人物だと思っていたし、七原提督は鬼教官のイメージしかなく、毎度無茶な要求をしては泣きそうになったりブラックすみれが出てきたり情緒が安定しなくなる提督だったのだが。
スンスンと鼻をすすりながら抱き着いて離れない五月雨を父親が子をあやすかのように頭を撫でて微笑んでいるその姿。これは誰だ。ぐるぐると混乱する提督達であった。
もっとも、玲司はそんな提督だと思ったよ、と思っていたが。
「五月雨さんは刈谷提督に早く会いたいなぁと毎日毎日何を着て行こうか悩んでいるくらい、待ちきれない様子でしたよ」
「で、結局決まらずいつもの制服ってわけだ。五月雨らしいな。五月雨はこれが一番かわいらしいんだけどな」
「う、ううううう!!」
五月雨が刈谷提督の胸に顔をうずめてぐりぐりとしている。これは五月雨が恥ずかしい時にする癖だ。
「なんだ、恥ずかしいのか。これも相変わらずだな」
「うううう!!」
「うーうー言うのも変わらないな」
付き合いが長いだけに五月雨のクセは知り尽くしていた。しっかり者のようで寂しがりや。恥ずかしがりや。そしていつもどこかで転んでは膝にばんそうこうを貼っている。ドックで治るのに。
「悪いな。一宮。お前に五月雨を任せちまって」
「いえ。ですが、もう五月雨さんはそちらに帰還させてあげては…」
「それはできねえ。大府が狙ってくる。五月雨は…俺にとって弱点なんだよ。見りゃわかるだろ?これ」
この過保護ぶりのことを言っているのだろう。
「俺は昔リンガにいた。その時の艦娘はもう解散しちまってどこへ行ったのかはわからねえが…五月雨だけはずっと俺に懐いてくれていた。他の艦娘はまあ普通ってとこだった。五月雨と…もういねえ飛龍か」
飛龍。玲司は聞いたことがある。大府提督に沈められてしまった艦娘。
「ここまで情を入れ込んだ艦娘は…五月雨と、あとは本気で結婚を考えていた飛龍だけだ。そこを大府に付け込まれた」
「それで、飛龍さんを…大府提督を…」
「ああ、憎んだ。憎んで憎んで提督を辞めることになって、犯罪者になってでもヤツを殺してやろうかと思った。五月雨がそれを止めた最後の牙城だ。俺が犯罪者になればこの子まで貶められる。犯罪者の艦娘ってな。もっとも、そこから俺はもひとつやさぐれちまったわけだけど」
「大府提督が刈谷提督をそこまでして執着する理由は…何?」
「俺が知りてえ。防衛大学で主席を取られたせいなのか、それとも別の何か」
「艦娘に好かれる提督が気に入らなかった。そうなんじゃないすかね」
「はあ?あいつは艦娘を物のように扱ってんだぞ?」
「ですが、金剛が沈むとき、あの人は大きな声で金剛と叫んでいました。そう考えると、彼は本当は艦娘に…愛されたい、慕われたい。そんな思いがあるんじゃないかと思います」
「……なら洗脳して機械みたいにする意味はあるのかしら?」
「そうすることでしか囲まれてもらえないって…寂しいです」
「ヤツは金剛に異様に執着していた節がある。今日も見たか?金剛をわざわざ建造して連れてきてた。正直、正気かと疑ったぜ」
「確かに…なんで金剛が…と大淀も顔を青くしていましたね」
「はい…あそこまでくると…」
「病気みてえだな。あいつは昔から感情もなく、ヤツの爺、元自衛隊幕僚長の言いなりでな。彼女はおろか友達一人まともにできた試しはいねえんだとよ」
「幕僚長…?」
「お前仮にも海軍だろうが。自衛隊の歴史くらい学んどけよ、七原」
「はうう…すみません…」
「幕僚長ってのは司令長官と一緒だ。引退して長らく大人しかったが、艦娘が現れてからはまた突然口出しを始めやがってな。んで、大府が入ってからはなおうるさかった。今は禁じられているが、艦娘を洗脳して言うことを聞かせろと機械の開発を進めさせたのも爺だ。
結局、それは艦娘の自由を束縛すると言う古井司令長官、虎瀬のおっさん、嘘かほんとか清州のおっさん、その他大勢の人間が反対して没になった」
「洗脳…でも、大府提督は…?」
「爺が消失させたはずの装置の設計図を隠し持っていたんだ。それを奴が使っている。ただ、不完全な設計図だったらしいな。うちの愛宕みてえに洗脳解けちまうくらいのやつだからな。昔のは何があっても無理だったと聞いてる」
刈谷提督自身もその存在は知っていたし、使えとも言われたが拒否した。これが「艦娘擁護派」か「艦娘兵器派」かの振り分けができたとのことらしい。
「まあその爺はくたばった。これで大府のバックには何もなくなった」
「え?」
「昨日死んだらしいぜ。長いこと東京のえれえ最先端の病院に入院してたんだけどな。心臓発作だってよ」
「……それは…」
「見舞いの時には大府がいたらしい。俺は奴が殺したと思ってる」
「え!?そ、そんな!自分のおじいちゃんですよ!?」
「そんなもん関係ねえよ。目的の道具になるなら利用するし、いらなくなったら消す。殺す。これが大府だ。それをテメエらに忠告するためにここへ連れてきた。前に一宮と九重には言ったよな?そんな甘い指揮じゃこの腐った海軍では生きていけねえとな」
「は、はあ」
「ええ。言われたわね…」
「大府の目的はどんな手段を問わずとも、大本営のトップに立ちたがる。そのためにはまず、俺とテメエらが邪魔になる。消しに来るぞ」
「トップになって思うように海軍を動かしたいとか、ですか?」
「そこまでは知らねえが爺にもトップに立てと言われてたみてえだし、奴自身も理由は知らんがトップになりてえんだと。まあ、地球がひっくり返っても無理だがな」」
「それはなぜ?」
「司令長官、副司令長官、それから最古参の虎瀬のおっさん、堀内、上郷の爺、満場一致で大本営どころか鎮守府への異動も許可してねえ。鎮守府は日本の防衛の要だ。好き勝手洗脳して好き勝手やるような奴は危険すぎて任せられねえ。大本営の権力なんか与えてみろ。俺らなんかすぐに首飛ばされて終わりだ」
「…そんなのやです…提督はずっと提督じゃなきゃ嫌です」
「そうだな五月雨。俺はお前に言ったな。俺は生涯ずっと提督でいるって」
「そしてお前はずっと俺の艦娘って言いました」
「……あー…あー…大府との決着がついたら…な」
「ぶー」
「怒んなよ…」
「クスクス…刈谷提督って悪い人じゃないのね。アタシにまで忠告だなんて」
「テメエも今はまだゴミムシだがゆくゆくは舞鶴を任せるつもりでいる。呉は一宮。俺が大本営に行くことはねえから四大鎮守府には入れねえだろうが、七原、テメエもこれからの提督を引っ張っていくリーダーになれ。そうでなけりゃいけねえんだ。高浜の野郎もそれを期待してんだ。こんないつまでも『艦娘は兵器だなんだ』で揉めてる状況じゃ一生戦争なんざ終わんねえんだよ」
「た、高浜大臣を…野郎とは…」
「それはどうでもいい。何でもいいから俺はさっさと大府との決着をつけて五月雨をうちに戻してえんだよ」
「……早く…待ってます」
「わかったっての。だが、爺がくたばったなら…奴は動き出すかもしれん。まあ、奴は少将に落ちた。権力が俺が上だ。テメエらに何か指図しようもんなら俺がもみ消すけどな。一宮は明確に拒否ができる。九重、七原、さっさと少将になれ。俺を楽させろ」
「わ、わかりました!」
「あの人に指図されるのはごめんね。天龍ちゃん達沈められそうだもの」
「そういうこった。ったく、防衛大学でトップを取ったのが運の尽きだったぜ」
「あそこで主席は…すごいですね…」
「そこにいる一宮は訓練学校を主席で入学卒業してら。七原ァ、テメエもちったあ勉強しろよ」
「う、うう…す、すみません…」
「あまり興味がないと思っていたけど…どうして刈谷提督は軍へ?」
「うちも爺さんが自衛隊繋がりだ。まあ爺さんは空自だったが。俺は親がクソだったからエリートになれ、一流の企業で働くことこそが光ある人生だって言う馬鹿でな。途中から鬱陶しくなったからそれを無視して爺さんから話を聞いてあこがれだった自衛隊へ入った。ただ、俺は海のが好きだったからな。海自になった。同期に大府だ。1点差で俺が主席入学だった」
「提督も…親の言いなりになるところだったのね」
「なんだ?九重も同じか?」
「アタシは服飾のデザイナーになりたかったのよ。伝説のファッションデザイナーを見てこれになりたいと思ったけど…父が厳格な寿司職人だったわ。男が女みたいなデザイナーなぞなんて言われてたわ。けどどうしても夢を捨てきれない。母は父の言いなり。こっそり服飾の勉強をしていたの。その時よ、艦娘を見て全寮制の大学に入ったの」
「艦娘にオシャレしたかったとか?」
「それよすみれっち。こんなかわいい女の子たちを着飾ってみたかったのよ!成績はギリだったけど。軍に入って海とこの国を守るために軍学校に入ると言ったらすんなりオーケーだったわ。まあ、そこから親とは疎遠よ」
「そのナリと服飾じゃな…ククク、青葉の新聞見たぜ。そこの天龍、いい服着させてもらってんじゃねえか」
「オ、オレはあんな服着たくて着てるわけじゃねえよ!!」
「ノリノリで回っててか?」
「う、ううううう!!!!」
「フフフ、またいいの作ってあげるからね。あーあ…でも一目会いたかったわねぇ。本当なら、ね。黛 松子。日本ならずファッションの先端、フランスのパリのモデルでさえその人の服が着たいと大騒ぎだったらしいけど」
「ま、松子さん!?」
「大淀、この方知ってるの?ほら、この方よ。突然昔、姿を消して以来何をしてるのやら…」
「どうみても松子おばさんだな」
「はあ!?三条クン知ってるの!?このカリスマファッションデザイナー!!!!」
「ああ、うちの近所の商店街で店開いてるよ。うちの艦娘の下着や寝間着、私服、世話になってるぜってわあああ!!!ちけえ!!!!」
「何やってんだテメエら」
「教えなさいよ!知ってるなら!早く!!!!」
「今知ったってのに隠してたわけじゃねえっての!!」
「ふっ…おもしれえ奴らだな、テメエらは」
久しぶりに艦娘にではなく人に対して笑ったような気がするな、と刈谷提督は思った。ここの人間たちにそう気を緩めて笑った試しはあまりない。古井司令長官の軽口にも、虎瀬提督との話でも。
気が緩んでいるのか…いや、自分はこいつらを信用しているんだ、と思った。打算もない。裏表がない。確かに多少はあるかもしれないが、こいつらには自分や人を貶めようと腹黒くいつも何かを探っているような気配がない。現にこれである。
一宮が止めようとしているし、七原はおろおろしているだけだし、艦娘も呆れていたり笑っていたり。
「おい提督!三条提督は中将だろ!?懲罰もんだぜ!?」
「はあ…はあ…今度案内してもらうわ…宿毛湾に移るのが…ああ、春…あーもう!まだまだ先じゃないのよ!」
「半年くらい我慢しろよ!」
「提督…大丈夫ですか…?」
「ひでえめにあった…」
そうだ。これでいい。仲良しこよしでも締めるところは締める。友人、戦友。外にはそう言ったヤツもいた気がするが、今の軍内ではいないな。少し憧れるものがある。
「ククク…賑やかでいいこった。テメエらはそれを大事にしとけよ。後になって貴重な財産になるだろうよ。俺はもうそう言うもんはどっかやっちまったけどな」
「刈谷提督?」
「年寄りの冷や水だ。記憶の片隅にでも留めておけ」
「いや、まだ50にもなってないでしょうが」
「チッ、うるせえな三条。いちいちあげあし取ってると嫌われるぞ」
「刈谷提督に言われたくないんですが…」
「うるせえってんだよ」
その言葉のやりとりに龍田はクスクスと笑っていた。
「提督、楽しそうです」
「五月雨、あのな、そう言う事は黙っとくもんなんだよ」
「いだだだだだ!!!な、なんでグリグリするんですかぁ!」
「うるせー」
「ふふふ、刈谷提督も五月雨さんには敵わないようですね」
「うるせえっつーの」
図星である。刈谷提督は昔から五月雨には甘いのだ。そう、誰一人として座らせたことのない膝の上に座らせたり、軽口を叩くほどには。あとこっそりお菓子をあげたりもしていた。
「えへへ、提督のお膝に座れて大満足です!これでまた、頑張れます!」
「安いもんだな。ほら、これも持って行け」
「お菓子だー!提督!ありがとうございます!」
「ちゃんと他の駆逐艦にもあげるんだぞ」
「はい!」
またわしわしと頭を撫でていた。玲司は思う。きっと、刈谷提督と五月雨の絆は切っても切り離せないほどに強く強く結束されているんだなと。そうして、刈谷提督と五月雨は互いに右手の親指を出し、合わせる。これはいつも昔やっていたことだ。刈谷提督は「お前を大事にしているぞ」と言う証。五月雨も「提督を信頼しています。大好きです」と言う親愛の証。無言のお互いの親愛の証なのだ。玲司は見ていてとてもいいものが見れたなと思った。
そう言う玲司も雪風や皐月達とは拳をお互い突き出してこつんとするのがいつものやりとりだ。やっていることは刈谷提督と変わらない。北上もなぜかのってくるが。
「さて、俺は堀内に呼ばれているから行くが、テメエらに1つだけ警告をしておくぞ」
「警告…ですか」
「ああ。大府からの接触があったら逐一俺に言え。あいつには近づくな」
その刈谷提督の目は真剣そのものであり、怒りや憎悪から言っているわけでも、蔑んだものでもない。純粋に、今ここに居る未来ある提督達を心配して言っているのだ。
「奴は奴をバックアップしていた糞爺が死に、後ろ盾もなくなった。それから今回の一件での降格、金剛の喪失。ヤツの親父は使い物にならねえ。アレに怯えて何をしようが止めることができねえ。爺が生きていたなら爺の言いなりのおもちゃだったがそれもなくなった。ってことは、もうアレを止める奴いなけりゃおもちゃにもならねえ。自分の意思で動いてくる。
俺が邪魔者になって標的にしてくるのは目に見えているが、次期舞鶴か呉の提督になるだろうと言われている一宮、その仲間である九重と七原、そして何より、横須賀に今、自分より年下で、かつキャリアも低い奴が着任しているとなると何してくるかわからねえ」
「暴走する…ってこと?」
「暴走で済めばいいがな。策にハメられて大事な艦娘を失うか、テメエらが最悪提督としていられなくなる可能性も出てくる」
「命を奪われる可能性もあると言うのも」
「正解だ一宮。だからこそ、ヤツに近づくな。作戦の打診があったり、協力要請があったら俺に言え。俺が上でヤツが下だ。いくらでも却下できる権限はある。やりすぎて司令長官に大目玉喰らうかもしれねえし、馬鹿共がこぞって大府潰しだと言って来ようが関係ねえ。それだけ危険なんだよ」
「わかりました。肝に銘じておきます」
「わ、わかりました!」
刈谷提督の真剣な表情に慌てて返事をする七原提督達。それだけ言ってじゃあな、と言って消えた。
「大府提督…ねえ…」
「その恐ろしさは三条君もご存じなのでしょう。私も幾度か会話をしたことがありましたが、不気味…感情もなければ何もない。壁にでも話しているような気分でした」
「まあ、何かあれば刈谷提督を頼ればいいんだろ。ああ言ってくれてたわけだし。さって、と俺は帰るかな。皐月達に早く帰ってきてって言われてるからな」
「毎回言われて毎回早く帰ってるわねぇ。少しくらいランチに付き合いなさいよ。アタシたちより帰るとこが近いんだからさ」
「あ、はい」
「そういえば、提督のチーフさんでしたっけ?あのお方が作られた八宝菜、おいしかったので私も食べて帰りたいです」
「りょーかい。しっかし、大淀に作ってあげたら即答で違う、だったもんな。何が違うのやら…」
「提督が作るオムライスと間宮さんが作るオムライス…いえ、同じ料理を作ったとして違うのと同じですよ。きっと、チーフさんにはチーフさんの想いが込められているからではないかと」
「なるほど。大淀もすっかり舌が肥えちまって言うようになったなぁ。でも確かにそうかもしれないな」
「わあ!もう!髪をぐしゃぐしゃにしないでください!」
「あーすまんすまん」
「相棒よ、私も腹が減っていたところだ。鎮守府までがまんできん」
「お前はお前でまあ燃費の悪いこと…」
「もとより燃費の悪さはわかっていただろう」
「腹持ちのことを言ってんの!」
「よく食ってよく寝てよく戦って。これが武蔵の生き様だ。ははははは!」
「のんきなもんだよ…ああ…財布が軽くなる…まあ、いいんだけどさ…」
「武蔵さん、てーとくのお金なんて気にしなくて大丈夫ですよ。遠慮なく、がっつりいきましょう」
「もとよりそのつもりだ。ようし、提督の飯のがうまいだろうが、大淀のお墨付きならここもうまいのだろう。しっかり頂くとしよう」
「大淀…テメエ」
「きゃあこわい。刈谷提督が乗り移ったんでしょうか」
「………」
「あ、効いてる。刈谷提督に似てきたとは思ってたけど、ほんとにそれが嫌なのね」
九重提督にも言われてさらに壁に手をついて落ち込む玲司。そう、本当に大淀に刈谷提督に似始めたと言われてショックを受けているのである。今となっては別にいいのだが、でも何か嫌なのだ。矛盾しているのだが。
結局、本当に財布の中のお金、結構持ってきていたはずなのだが武蔵のせいで消し飛んでしまったのは言うまでもない。
/
「よお」
手を挙げてフラリと別室にやってきた刈谷提督と龍田。すると窓の外を見つめていた男が振り返る。呉鎮守府の「頭は冷静だが心は燃える男」と刈谷提督が言う堀内提督であった。
「呼びたててしまい申し訳ありません。まずは大将への昇格、おめでとうございます」
「ああ、そりゃどうも。ようやくお前に並べたな」
「私は貴方が上り詰めてくるのを今か今かと待ちわびていましたよ」
「そうかい。そりゃ嬉しいね。まあ元々大将だの中将だの垣根はねえけどな」
「ええ、貴方と私の仲ですからね」
一見すると水と油のような性格で合わないであろうと思われる2人であるが、これがなかなかどうして気が合う同士なのだ。堀内提督の下で合同作戦などをやったときはパズルのピースがカチッとはまるかのように作戦が決まるし、話も合う。なので堀内提督の方から「階級のことはさておいて、お互い気を張らずに話をしませんか」と言うことからこの付き合いは始まった。
刈谷提督の海軍内での数少ない…と言うか唯一の友人ではないだろうか。その次に気兼ねなく話せるのが玲司だろう。
「俺を大将にしてくれてありがとうよ」
「いいえ、私だけのチカラだけではありません。古井司令長官、清州副司令長官…上郷提督、三好提督、虎瀬提督。大将たちの満場一致で昇格決定でした。特に上郷提督の熱烈な推しでね」
「あのジジイ…またからしレンコンでも送ってやるか」
「矢矧さんに怒られますよ」
「礼だ。ようやく俺は大府を超えた」
「反対に大府君は落ちましたからね。これに関しては清州副司令長官からの提案でした。皆さん驚いておりましたが、これも満場一致でした」
「へっ、ざまあねえな」
「私がこれについては語りましたからね。彼は私と清州副司令長官を『艦娘兵器派』と思い込んでいます。ですが…」
「正反対だ。お前は艦娘を沈める真似は絶対しない。それでいて鎮守府内の自由さは群を抜いている。艦娘が笑いあう鎮守府。それがお前の理念。戦闘になれば誰よりも冷静に全てを片付ける。『氷の提督』?お前をわかってねえ馬鹿が多すぎる」
「三条提督は私の本質を見抜いているようですが」
「あいつはそりゃそうだろうな。あいつの鎮守府は一宮が言うには艦娘の楽園だとよ」
「…一度見に行きたくなりましたね」
「おもしれえと思うぜ。妖精さんと手ぇ組んでやりたい放題らしいからな」
「ふっ…それでいいのです。ショートランドにいた時からそうでした。ショートランドにいた時から、私は彼をどこかの鎮守府に置きたかった。彼ならば艦娘の不遇な扱いを全て変えてくれると。彼が秘書艦としてついてきた…いえ、絶対にくっついてきた金剛。そして今も代わる代わる連れてくる艦娘達。目の輝きが違う」
堀内提督は玲司の艦娘の目の輝きは他の提督達、そして自分の艦娘達にもないくらいであった。ショートランドの時もそうであったが横須賀に着任してからは、来る艦娘達の輝きが違いすぎる。眩しいくらい輝いていた。そして生き生きとしていた。
「これから財布が空になるまで大淀と武蔵に飯を奢らされるんだと。キヒヒ、おもしれこった」
「ふふ…それはかわいそうに」
「だろ?俺もそうだが、お前も三条を守ってくれよ」
「ええ。私はそれと同様に一宮提督も、ですが」
「七原に九重は任せとけ。きっちりしごいていっぱしの提督にしてやる」
「貴方の鍛えは厳しすぎますからほどほどに…」
「ああ。あいつらはこれからの海軍を支える若手だ。潰さねえ程度にしっかり面倒見てやるよ」
「そうですね。いずれ私は呉を離れ、清州副司令長官の位置に就くことになります。その際は頼みましたよ、刈谷君」
「ああ」
拳を重ねて将来の約束を交わす2人。共に若手を育て、守る者達。馬鹿な提督のせいで潰された若手たちを守るため、片や『艦娘兵器派』のフリ。片や超嫌われ者の提督。そうして若手に近づき、他の『艦娘兵器派』や権力を傘にやりたい放題、パワハラも度が過ぎたことを行う提督達によりやめて行った者達。馬鹿どもから守るために彼らはあえて避けられる提督でいる。2人で考え、古井司令長官達に話をして難色を示されながらも今までやってきた。
「時に、大府提督の件ですが」
「ああ」
「大府提督を降格へ追いやったのはほぼ私の独断の提案です。必死で彼を落とすよう説得しました」
「そこまで無理してしなくてもよかったんじゃねえか?」
「いいえ、彼は大将に上がればその権限を用いて鎮守府の乗っ取りに出てきたでしょう。ただでさえ、鎮守府への異動願を数えきれないくらいに出してきたのですから。元幕僚長の名を借りてね」
「虎の威を借りてか。存分にあの糞爺を使ったか。最後には権利を絞り切って殺したか」
「全て却下したのも私です。彼は…大本営どころか鎮守府へさえ着任させるのは憚られる人間です。彼には本土へ上陸する資格はない」
祖父の威を借りてあれこれと策を練っていたようだが全て清州副司令長官とこの堀内提督で阻止した。どれだけ彼の祖父が癇癪を起そうと。どれほど威圧されようと。彼らは全て跳ねのけた。まだ時期ではないと。
「はっきりテメエの糞孫は資格がねえよって言ってやりてえところだな」
「清州副司令長官が言ったようですね。激怒して貴様を今の場所からいられなくしてやると言われたようですが、何も動きはありません」
「カカカ、寝たきりのボケ老人に何ができんだよ」
「高浜君に圧力をかけたようですが、彼は防衛大臣。もう身分が違いすぎます。他の政治家にも言って回ったようですが、もはや彼にはチカラはなかった」
「老害極まれりだな」
「彼は艦娘を駒にしかしない。祖父が与えた洗脳装置を用い、轟沈さえ厭わない勝利を得る。戦果は確かに目を見張るものがありますが、犠牲の下での戦果など。資材は無限ではない。艦娘は使い捨ての兵器ではない。それを理解できぬなら一生彼には本土への進出はあり得ない。私が許しません。そして、強力な味方が今日加わりました」
「俺か」
「その通り。これで貴方が強力な彼への抑止力になる。今までは貴方が下で彼が上。もしくは同等。でしたが今日それがひっくり返りました。若手への無茶な共同作戦への参加はあなたが却下できる」
「俺にヘイトを集めさせるつもりか?まあ、それは俺が得意な分野だな」
「彼は自身が刈谷君よりも何もが上と思っていたようですが…残念ですが彼は刈谷君に勝てる部分が何一つない。そして、面倒な七光りは消えた」
「そう言われるとな…」
「あらぁ、提督は大府提督より魅力的で素敵よ~?」
「いきなり口出して歯が浮くようなこと言うんじゃねえ」
「ふふ…龍田さんの言う通りですよ。貴方にはカリスマ性がある。嫌われ役をやめれば実力は申し分ありませんし、以前…飛龍さんを彼に沈められた時より前の貴方は割と目標にされる方も多かったのですよ」
「…そうかよ」
「提督照れてる~。かわいい♪」
「うるせえ」
「大府君は部下を恐怖で支配します。おそらく大将になっていればあらゆる権限を用いて恐怖で全てを支配するでしょう。大本営の上層部に上がればなおさら。そして三条提督の大和さんや武蔵さんでさえ、奪い取っていったでしょう。それを阻止するためには私ではなく、貴方がいなければならない。もしくは彼が三条提督より下にいなければならない」
「どっちも揃ったわけだな。俺が上になり。三条も上になった。これであいつが大和や武蔵を奪い取る手はなくなった」
「三条提督を殺して洗脳装置にでもかけなければ、ね」
「そのために日本にあげるわけにはいかないってか」
「いれば容易に横須賀へ足を運べますからね。タウイタウイならそうはいきません。彼はあそこから動かす気はありません。上層部が何と言おうと、司令長官達がノーと言えば動けません。大本営のご老人方がいくら喚こうとね」
「お前の一言であそこの老害共も黙り込むだろうが」
「…期待していますよ」
「おい、それを俺に丸投げすんじゃねえ」
「私は彼らと同じ元帥にいずれ昇格するでしょう。その際に全て黙らせます」
「そこに俺が加わればってか?」
「無敵のコンビですね」
「…めんどくせえ…けど、やらなきゃ一宮達が楽に運営できねえ。お前、ほんと人の外堀埋めるのが大好きだな」
「貴方に限ってですが」
「あーあーあー、わかりましたよ。やらせて頂きます、堀内未来の元帥殿」
「言質は取りましたからね。龍田さん、貴女も聞きましたね?」
「は~い」
「おいテメエ、元帥に上がった時にゃたけえ肉でも奢ってもらうからな」
「おや、お肉でいいのですか?飽きるほど…いえ、痛風になるくらい魚介を堪能していただきますよ。そちらのほうが好きでしょう」
「お前ほんと嫌な奴だな」
「貴方に言われたくありません」
クッ…と震えて笑いをこらえる刈谷提督とプッと笑う堀内提督。
「ああ、刈谷提督に指揮を執ってもらうと思います。まだ案ですが、近いうちに大規模作戦が発令されるでしょう」
「ほう?で、何で俺なんだよ」
「三条提督達若手を率いてもらうには貴方が相応しい。それだけのことです」
「大府は?」
「参加させません。させるわけがない」
「なら安心したぜ。で、どこだ?欧州でも仕掛けるか?」
「いいえ。貴方も2度参加したでしょう。2度とも押し込めるだけで精いっぱいでしたが、今度は違う。提督も、艦娘も…強さは今までの比ではない」
「まさか…レイテか」
「そうです。『第三次レイテ総攻撃作戦』を展開予定です。今回はシブヤン海。スリガオ海峡までで手一杯だった海域を伸ばします」
「エンガノ…エンガノ岬沖まで出す気か」
「はい。総力戦です。エンガノ岬沖…スリガオ海峡にて未知の深海棲艦が確認されました。今はまだ静観しているようですが、また多くの深海棲艦…戦艦棲姫や空母水鬼など強力な姫、鬼級の深海棲艦も集まっています。練度が高く、指揮力も高く、そして…強さも比ではない若手と刈谷君の艦娘達でこれを殲滅し、レイテを今度こそ制圧したい。それが狙いです」
「わかった。詳細が決まったら教えろよ」
「参加していただけるのですね」
「お前の頼みなら仕方ねえ、受けてやる」
「ありがとうございます。ですがまだ未定です。あなたがおそらく佐世保に移ってからの話になるでしょう」
「ならまだだいぶ先だな。いいだろう。こちらも練度を上げて腕を磨いて待ってるぜ」
「ええ、よろしくお願いいたします」
「ああ、勝った暁には刺身奢れよ」
「好きですね、お刺身」
「おう。あとあれだ。牡蠣送ってくれ、また金払うから」
「ミスターK宛で?」
「そういうこった」
「まだそれでいくのですね…龍田さん、これ、何とかなりませんか?」
「私に言われても~」
「間違っても俺の名で送んなよ、おい聞いてんのかてテメエ」
「試しに送ってみませんか?」
「やめろ、絶対やめろ」
こんな他愛もない会話ができる奴がいる。それだけでもまだ俺は提督を続けようと思う気持ちが増す。そこに、あいつ…三条もいるからなおさら。
いつまでも刈谷君の名で送ろうと考える堀内提督を怒りながら内心は楽しくて仕方がない刈谷提督であった。
論功行賞のお話でした。
それと同時にまさかまさかの刈谷提督と堀内提督の仲。おもしろい組み合わせではないかなと。大府提督のような性格と刈谷提督…まあ堀内提督は冷酷ではない玲司に近い性格です。クールですが。だからこそ話が合う友人です。
さて、次回は横須賀に戻り、疲れを癒す艦娘達や待機組だった艦娘達のほんわかした1日をお送りしようかと思います。
それでは、また。