提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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最初からしばらくの「」のない部分は大半が北上が喋っているものと思って頂ければ。安久野が登場します。轟沈描写などもあります。不快だと思われた場合はブラウザバックを。


第百九十三話

「私が…横須賀の…艦娘だった?」

 

そうだよ。あたしよりも先輩だったんだよ。今の提督…玲司の前の前の提督の頃からの付き合いだったんだー

 

葛野提督って言う「艦娘は兵器である」と言う言葉を第一に発するいけ好かないヤツだったけど、轟沈させたりとかそういうのはしない。それをやるとそれまでにかけた時間が無駄になるって言ってね。扱いは普通だった。まあ今みたいに遊んだりとかそういうのは一切ない。出撃の際以外は部屋から出たりするのはお手洗いだけみたいな。

 

けどある時この提督は飛んじゃったんだよね。

 

「飛んだ…?」

 

逃げたのか、次のクズ野郎にお金のチカラで殺されたか。よくわからないんだけど、消えちゃったんだよね。それで次にやってきたのが最低最悪の提督だった。艦娘は兵器と言っておきながら「女」の部分は最大限に利用するクズだった。

 

「女の…部分?」

 

エッチなこととかを無理やりすることだよ。戦艦からくちくのスタイルのいい子までなんでもあり。時には島風や文月、皐月みたいな小さな子までむちゃくちゃにする。

 

きったならしくて臭くて、それでいて不細工で。デブで。禿げてたし。そんな男に「女」としての尊厳をめちゃくちゃにされたんだよ。もちろん、蒼龍さんもね。

 

「私…も」

 

どうする続ける?ここから先、ショッキングな話ばっかりになるけど。

 

「続けて…ください」

 

……無理とわかったらすぐに言ってね。玲司にすぐ知らせるから。

 

「は…い」

 

雪風もね。

 

「はい!」

 

ここで元気がよくてもねー。雪風もトラウマいっぱいでしょうが。まあ…聞くだけ聞いてみるといいよ。

 

で、えーと、何だっけ。とにかく来てからすぐにガラの悪そうな男たちもいっぱいやってきてね。そいつらは今ならわかるけど、たぶん金で雇ったアイツの仲間だったんだろうね。

 

整備なんてろくにもできやしないし、艦娘を好きなだけ犯すだけのクズばっかりだった。静かな鎮守府が一気に騒がしくなった。汚い男の声と艦娘の悲鳴、泣き声。そんなんばっかりになったね。

 

そんな中建造されたのが雪風。雪風は「運」がいいから何もされなかった。代わりに戦闘に関してはあたしと同じくらい出撃して帰って来ては、あたしと一緒に死神呼ばわりされた。

 

「なんで…?」

 

「また…生きて帰ってきたのかって…言われました」

 

「なんで!?普通生きて帰ってきたら喜ぶのが普通じゃない!?」

 

あたしや雪風以外は全員沈んで帰って来るんだよ。自分達の姉や妹がいなくなって毎回あたしたちだけ帰ってくる。そりゃあ死神って呼ばれるっしょ。

 

「そんな…」

 

そういう鎮守府だったんだよ。玲司の言葉の「絶対に沈ませない。ここに帰って来れるように作戦を考えるのが俺の仕事だ」とは真逆だね。あたしや雪風は練度も高かったし、戦闘慣れもしてた。魚雷の攻撃や砲撃も夜戦では強烈だしね。葛野って提督がいた時の艦娘は今やあたしだけだよ。

 

「き、北上さんだけ…」

 

そだよ。雪風はクズが建造した一番の古参かな。あと今いる艦娘は蒼龍さんがいなくなってからクズが建造した古参か、玲司が建造した艦娘。玲司が建造した艦娘なんて数える程度。蒼龍さんを知っている艦娘はあたしと雪風だけ。あー、大淀も知ってるかな?

 

「………」

 

そりゃあ絶句もするよねー。で、3か月くらい経ったころかな。蒼龍さんの様子がおかしくなってきたのは。ぶつぶつと何かずーっと呟いてんの。それが「殺してやる」だったかな。ずっと。ずっと。呪いを吐き続けてた。蒼龍さんが10人くらいの男にされて以降だったかな?あと、周りで死にかけているくちくを見ている時とかね。

 

で、事件は起こった。執務室に弓を担いで蒼龍さんが飛び込み、殺してやるーってクズを殺そうとしたこと。結局護衛の男に掴まって、クズと男にまた散々犯されて…南方海域へ頭がイカれた艦娘だからとくちくに曳航されて連れていかれたんだ。あたしもそこに入れられてね。

 

「そして…」

 

蒼龍さんは帰ってこなかった。あたしは1人のくちくと命からがら逃げて帰ってきた。そのくちくはすぐにまた西方海域に行かされて死んじゃった。泣きながらあたしは蒼龍さんの部屋の片づけをして…このはちまきだけは何とか自分の部屋に隠し持ってたんだ。

 

………

 

記憶が津波のように押し寄せて思い出す。はちまきから記憶が流れ込んでくると言うか…そんな感じである。

 

第一印象は最悪だった。されたことはもっとひどかった。

 

「お前はいい身体をしているな。男を悦ばせる身体だ。しっかりお役に立てよ?クハハハハ!!」

 

 

「うう…」

 

「ふう…いい心地じゃったわ。ほれ。おこぼれだがお前らも使え。いいもんだぞ?」」

 

「へへっ、アザーッス」

 

「この胸たまんねえなぁ」

 

「も、もう…いやぁ…」

 

 

「練度の高い空母ならばどこへ行っても勝ちを取ってくるだろう?負けたら…またわかっているだろうな?」

 

 

「おめおめと負けてきただ!?この使えない艦娘!貴様はしばらく慰み者にでもなってろ!!!」

 

 

ボロボロに犯されて臭い身体を臭い風呂で清める。未来の翔鶴のような状態であった。それでも北上や長門がいくら心配しても…

 

「平気平気。今度はちゃんとやるからさ。大丈夫、明日はいいことがあるよ!」

 

そういって艦娘達を励まし続けた。そう言うことで蒼龍自身も期待をしたのだ。この絶望的な世界から救われる日が来ることを。

 

しかし、いくら祈っても、言い聞かせても、穢される毎日と激しい戦闘、ろくな修復もされない艦娘達。そのことに段々と蒼龍の心を黒い何かが蝕んでいった。

 

なんで毎日こんなことになる?私が汚されるのはもうどうでもいい。けど、この小さな子たちは一生懸命頑張っているじゃないか。命からがら勝って帰って来て、なんでドックにも入れてもらえず、次は盾として死んで来いなんて言える?

 

蒼龍は無断でドックへ駆逐艦を運び、汚い濁ったお湯とも言えないものではあったが彼女たちを運び、内緒で高速修復材を使ったりして傷を癒した。

 

「なぜ勝手にあんなモノ共に貴重な修復材なんぞ使った!?あんな奴らは使い捨てで十分だ!!!すぐに壊れてすぐに死ぬんだ!!帰って来ても痛いだのなんだの言って所で出撃させて死なせれば修復材なんぞ使わんで済む!それをこの…馬鹿が!!!!」

 

「うるさいなぁ…」

 

「何だと!?」

 

「うるさいなぁ!駆逐艦は使い捨て!?ふざけないで!!!あの子達だって一生懸命勝利のために頑張っているのに!!!それを使い捨て!?ふざけるな!!!!!」

 

「この提督に文句を言うか!?貴様が儂に意見をするのか!?何だ貴様は!!!貴様こそ役に立たん、勝利の1つも満足に持ち帰れん肉便器の分際で!!!!」

 

「それはあなたが無能だからでしょう!?頭の中ピンクで私たちを犯すことしか頭にない無能だからじゃない!!!!」

 

「何ぃ!?おい貴様ら!!!!!今日はこいつを好きにしろ!好きにしていい!何でもしてやれ!!!!儂にたてついたことを後悔するんだなこの肉便器が!!!!!」

 

その夜は憤怒と憎しみに身を焦がして穢された。おぞましい情念が蒼龍の中に流れ込んでくる。

 

どうしてこんな目にばかり合わなければならない。いいことがある?何て言葉だ。いいことなんてありもしない。

 

提督も混じってズタボロにされた。体は臭い体液にまみれ…体中が痛い。

 

「どうだ…この提督様を怒らせるとこういうことになるんだ」

 

その言葉にヘヘヘヘ…と下卑た男たちも笑う。

 

「もういいぞ。とっとと出て行け。出て行けと言っているんだ!!」

 

ああ、うるさい。この男をどうにかしないとここはいいことなんて来やしない。

 

「貴様のような役立たずは出ていけ!!!何が二航戦だ!!一航戦の鉄仮面と何も変わりやしない!!!!」

 

追い出され…とぼとぼと汚れた体で廊下を歩く。寮の前やドックの前では傷ついた駆逐艦。腕がない。足がない。目が潰れている。痛いよぉ…痛い…苦しい…ドックに入れさせて…うめき声があちこちの部屋から聞こえる。

 

 

どうして?どうしてこんなにもここは最悪な場所なんだ?どうして大淀さん達が涙を流し、一生懸命頑張っている駆逐艦たちが苦しんでいるんだろう?悪いのはあいつだ。あいつ。あいつを殺せば。あいつらを殺せばこの鎮守府は変わる。そうだ。殺せばいいんだ。

 

 

何でそんな簡単なことに気が付かなかったんだろう。毎日毎日「いいことがあるよ」と言い続けてもろくなことなんてなかった。耐えていれば幸せは訪れるだろうと信じていた。そんなものは待っていても来やしない。そっか。殺せばいいんだ!

 

艦戦の機銃でハチの巣にしてやる。爆撃機でバラバラにしてやる。ああ、そうだ。それを思いついた瞬間踊りだしたくなるくらいだった。そうだ、殺そう。

 

 

殺そう殺そう殺そう殺そう殺そう殺そう殺そう殺そう殺そう殺そう殺そう殺そう殺そう殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せころせころせころせころせころせころせころせコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ。

 

ミンナコロシテシマエ!!!

 

蒼龍の胸の中におぞましい情念が浮いた。殺そう。絶対。今すぐにでも…。そう思ったのだった。

 

 

その時から蒼龍は提督及び付き人への殺意だけで生きるようになった。結果として世界は色褪せていき、灰色…いや…青の世界へとなった。どうすれば殺せるか。一刻を争うのだ。早く殺さないと。

 

「ヒヒ…殺し…殺す…コロス…コロスルルリリヒヒヒヒ」

 

「蒼龍」

 

背後から声を掛けられる。ここのリーダー、長門だ。

 

「大丈夫か?その…なんだ、とてつもなく酷い目にあったと聞いているが…」

 

「あ、はい。大丈夫でスよ。これくらイ。全然平気。私なら気にシないで。

 

「本当に大丈夫か…?顔色が…いや、悪いに決まっているな。野暮なことを聞いた。蒼龍…気に病むなよ」

 

「ハイ」

 

「すまない…私が不甲斐ないばかりに提督に文句も言えず…そして…駆逐艦達が沈んでいく…情けない。私は艦隊の総旗艦などと…もう言えぬな」

 

「長門サんは悪くないんデすよ。悪イのはアイツ。デスから」

 

「むう…蒼龍、怒りに身をやつし、早まった真似だけはするんじゃないぞ」

 

「えエ、わかッテいます」

 

「すまんな、こんな気の利かないことばかりの励ましで。すまんが出撃だ。これで」

 

「ハイ」

 

何を悠長なことを。今すぐにでも殺しておかないとこの鎮守府に未来はない。あいつの血で執務室を赤に染めてやる。私のこの手で終わらせてやる。

 

「ふひ…ヒヒヒ…コロス。殺さなきャ」

 

ところどころ声がおかしくなる蒼龍。その心はもはや、深海棲艦に支配される目前で有った。その日の夜も穢された。臭い口の男が舌を口に突っ込んできたので思いきり嚙み切って殺してやった。さるぐつわをされて余計に犯され、ボコボコにされた。営倉に舌を噛み切られて死なれないよう、タオルを口にくわえさせられたまま放り込まれた。臭い身体。臭い口。ただ、血の味と香りがとてもかぐわしい。極上のフルーツのように甘くて素晴らしい香りだった。

 

「フフ…フフフフフ…フーッフッフッフッフッ!!!!フーフフフフフフフ!!!!!!」

 

人を殺すことに快感を覚えた。害虫を1匹殺したのだ。その快感が蒼龍の脳髄を焼いた。それだけで絶頂した。そして満足に笑えない状況ではあるが、狂気に満ちた目で大笑いをし、それが地下に響き渡った。

 

ああ、あいつを殺したら私は絶頂で死ぬんじゃないか。そう思うほどであった。青や黄色の光が耳元でささやく。もっと殺せばもっと気持ちよくなれるよ。と。もちろんだ。言うまでもない。ここにいる人間全てを殺しつくしてやる。蒼龍はその様を妄想し、また絶頂した。

 

………

 

ドゴォ!!!!

 

「何事だ!?」

 

「アハーハハハハハハ!!!!!お前ヲ殺しニ来タノサア!!!!!」

 

「何ぃ!?」

 

「何の音だ!?蒼龍!?やめろ、蒼龍!!!!}

 

「目標、眼前!艦載機達、コイツラヲ全テ肉ノ塊ニシロォ!!!!!」

 

「やめるんだ蒼龍!!!!!」

 

シュパァン!!!!!と矢を放ったが矢は安久野の頬を掠め、虚しくも壁に突き刺さり、艦載機になることはなかった。

 

「この艦娘風情が儂に矢を撃ちおったな!!!!???長門ォ!!!!この反逆者を南方海域に送りだせぃ!!!!!使えない駆逐艦と共に放り出せ!!!!!」

 

「待ってくれ提督!!!南方海域など我々には未知の海域だ!!全滅するぞ!!!」

 

「これだけ元気があるなら戦果をもぎ取ってきよるわ!!!!!行かせろ!!!!貴様らも殺されるかもしれんぞ?」

 

「……くっ!!!」

 

「アーハハハハハハ!!!!矢ガダメナラコノ手デ引キ裂イテヤルヨ!!!」

 

そうしている間に他の憲兵達に取り押さえられた。しかし、すごいチカラである。一度は振りほどき、憲兵の一人の首をもぎ取ってしまった。

 

「邪魔ヲスルナァ!!!!」

 

「蒼龍、お前、まさか…」

 

「何だその青い目は!?ひぃ!深海棲艦だ!深海棲艦になりかけている!!!!取り押さえろ!!!!」

 

集まってきた人間数人に全力で取り押さえられ、何もできなくなった蒼龍。縄できつく締めあげられ、駆逐艦達には戦闘海域につくまで絶対に縄をほどくなと命令し、そうして蒼龍は南方海域へと送られた。そして、そこで自分を締め上げて曳航した駆逐艦を自らの手で殺し、深海棲艦の甘言に乗り、深海棲艦へと成り果て、そこでチカラを蓄えて再度横須賀へ戻るつもりだった。

 

チカラが漲ってきたころと同時に現横須賀の艦隊に敗れ、蒼龍として再び蘇ったのだった。

 

………

 

「……蒼龍さん?」

 

ガタガタを震えている蒼龍。そうだ。全て思い出した。私は…仲間を殺して…深海棲艦になって…。

 

「蒼龍さん、大丈夫ですか?」

 

「ダメ!!!!!」

 

心配そうに手を伸ばした雪風の手を払いのけた。そして立ち上がり、距離を取る。

 

「どうしたのさ、蒼龍さん…?」

 

「ダメ…ダメなの…私はここにいちゃいけないの…私は…仲間殺しまでして…提督を…殺そうとここに…戻ろうとした…深海棲艦…!!」

 

「は、は…?」

 

蒼龍はガタガタ震えながら最期を語った。縄をほどいた瞬間、駆逐艦達が心配そうにのぞき込んでいるところを心臓を穿った。首をへし折った。悲鳴をあげて逃げる駆逐艦を爆撃した。跡形も残らなかった。そうして人間が憎いのなら共に戦おう、そしてすべてを殺そう。その深海棲艦の甘言に魅入られ…本当の深海棲艦になったこと。心臓を穿った感触。首をへし折った感触。思い出せる。この手は味方を殺した血に塗れている。

 

「蒼龍…さん。それは違うよ。それは以前の蒼龍さんだよ。今の蒼龍さんはその記憶が流れ込んでしまっただけで…」

 

苦しい言い訳だと北上は思う。けど、もう深海棲艦から戻った別の蒼龍だ。そう言い聞かせるしかない。

 

「違う…違う…私は…横須賀の…仲間殺しの…艦娘…!!」

 

「じゃ、じゃあさ、その駆逐艦も深海棲艦になりかけてたとか…「そんなわけない!!!大丈夫、蒼龍さんって聞いてきた艦娘の心臓をこの手で抉った!!!!!」

 

「………蒼龍…さん」

 

「首を折った!!!!みんな…みんな私が殺した!!!!!」

 

「だからそれは違うって。それは…蒼龍さんの深海棲艦の因子が見せているだけであって別人だって」

 

「……違う…違う…うわああああああ!!!!」

 

「蒼龍さん!!!!」

 

母港へ走る。私みたいな危険な艦娘はここにいてはいけない。いずれまた、黒い何かがここにいるみんなが大事にしている提督も、仲間も。殺してしまうだろうから。海へ出よう、そしてそのまま死のう。もうそれしか蒼龍の頭にはなかった。

 

………

 

「…?!ない…ない!!?」

 

自分の艤装がない。これでは海へ出れない。

 

「どこへ行くのかしら?」

 

「!?」

 

「提督からはどこへも出撃命令は出ていないわよ」

 

そこに居たのは紫亜。戦艦棲姫だった。

 

「それと、今確か貴女の艤装は明石が隠したわ。こうなることを予期してね。あの子は頭がいいわね。逃げようにもここからは逃げられないわ」

 

「どう…して…」

 

「あなたの胸の奥底にある黒い塊…そう、南方海域と言えば特にアイアンボトムサウンドなどがあって怨念が集まりやすい。それでついてきてしまったのね。貴女の胸に潜んで」

 

「………?」

 

「深海棲艦の因子よ。貴女自身も強い憎しみを抱いて深海棲艦になったのよね?悪いけど、ちょっと騒がしいからと中庭で盗み聞きさせてもらったわ。貴女に過去を見せたのは貴女を深海棲艦に引きずり込むため。貴女はその時の蒼龍とは全く別物の魂。だから、貴女が殺したわけではないわ」

 

「嘘よ!!!絶対嘘!!!!私が殺したんだ!!!深海棲艦になって…戻ってきた…横須賀の蒼龍なのよ!!!仲間殺しの!!!!!」

 

「それならそうなのかもね…」

 

「なら…!!!」

 

「玲司君がそれを容認するとでも思う?」

 

「蒼龍!!!!!」

 

「ほら来た」

 

そういうとクスリと足止めは成功ねと紫亜は笑った。やってきたのは玲司…提督と明石。そして…電。

 

電は蒼龍を見た途端に眼が蒼くなった。それを見た途端に蒼龍はその眼から目を逸らした。

 

「電、やっぱりか…」

 

「なのです?」

 

「私の仮説通り、やっぱり電さんの眼は深海棲艦の因子。それも強い因子を持った艦娘に反応するみたいだったね」

 

「はわわ、また蒼くなっているのですか?」

 

「ええ。ものすごく強く光ってる」

 

「蒼龍、お前の過去は北上から少し前に詳しく聞いた。翔鶴のような…目にあっていたんだな。仲間を今殺したと言ったな?それはもうお前は深海棲艦になってしまっていて、敵だと思ったからだ」

 

これまた無理な理由付けだ。だがこうでも言わないと蒼龍の罪の意識は消えない。

 

「蒼龍さん、どこかへ行ったら嫌なのです。せっかく…せっかく一緒に生活できるのです。だから、いなくなるのは嫌なのです」

 

一層電の眼の輝きが増す。それは…泣いているかのようだった。ジワリ…と目じりに涙が溜まる。その涙でさえ、蒼く輝く宝石のようだった。

 

(離れてはだめよ。電さんのところへ行きなさい)

 

誰かの声が聞こえる。近寄るな、と言う声が胸の奥から聞こえる。しかし、それとは逆に、彼女に近づけと言う。

 

(行きなさい。そして生きなさい、二航戦。あなたは…またここで生きるべきよ)

 

「だ…れ…?」

 

(私のことはいいの。けれど、放っておけないから。まったく、五航戦と言いここの空母は本当に世話が焼けますね)

 

「加賀…さん?」

 

おぼろげに…姿が見えていた。青い袴。少しムッとしているその女性は…一航戦の加賀。かつての仲間だった。

 

「蒼龍さん、あなたが見ている記憶は以前の蒼龍さんの記憶です。あなたはまったく別の魂。そう仮定しています。それはあなたを深海棲艦へ堕とすための深海棲艦の因子の罠です」

 

「け、けど…加賀さんが二航戦って…」

 

「加賀…?あの瑞鶴がめちゃくちゃ言ってる加賀か…?」

 

「そう…だよ」

 

「加賀は?加賀は何て言っているんだ?」

 

「い、生き、生きなさいって…」

 

「そうだ…生きるんだ。無念のうちに死んだ蒼龍の為にも。お前がお前であるためにも。お前は生きた方がいい」

 

「そ、そん…そんな…」

 

「その割には…足が電ちゃんに向いているわね」

 

「え?だ、誰かが…押して…」

 

(蒼龍。お前が別の魂の蒼龍だとしても。横須賀の仲間だ。横須賀の仲間をむざむざ深海棲艦にはさせん。その気持ちは、今の提督と同じだ)

 

「う、あああ…」

 

「蒼龍さん…いなくなっちゃいやなのです…これから…これからいっぱい…電たちと…」

 

もうダメだった。その蒼い眼が…蒼い眼から目が離せない。

 

ヤメロ。ヤメロ。ソレハオ前ヲ苦シメルモノダ。

 

嫌だ。

 

「蒼龍。お前はどうしたい?深海棲艦になりたいか?それとも…ここで一緒に笑って生活がしたいか?俺は…お前と。みんなと、笑って生活がしたい。苦しいことも辛いこともある。でもそれは…俺やみんなが受け止めてくれるし分かち合える。一緒にやっていこう、蒼龍」

 

私を受け入れてくれる。

 

行クナ。ヤメロ。

 

「電…さん」

 

「蒼龍さん!電も蒼龍さんと一緒に頑張っていきたいのです!みんな、みんな助けたいのです!苦しんでいる蒼龍さんを放っておけないのです!!!」

 

ぽろぽろとこぼれる蒼き宝玉のような涙。一緒に…いたい。私も…一緒に…いたい!!!

 

ぎゅう…と電を抱きしめ小さな胸に顔を埋めた。ぽろぽろと大粒の涙が蒼龍の頭に落ちる。すると…

 

ヤメ…ギエエエエエエアアアアアアアアアア!!!!!!

 

蒼い光が眩く輝き、蒼龍が光りだす。胸の奥から何か気持ち悪い悲鳴が聞こえた。

 

「くっ…」

 

「うわっ!」

 

母港を包む蒼い光。玲司は薄目を開けていたが見えた。黒い霧が何か嫌な声をあげながら蒼龍の体から出て行き、消えていくのを。電の深海棲艦に堕ちた響を響へ戻した浄化のチカラ。玲司はそれに賭けたのだ。

 

……

 

「もし私の仮説が正しければ、電さんの眼が蒼龍さんに近づくと蒼くなるのは蒼龍さんの中にある深海棲艦の因子のせいじゃないかなと。それも、かなり強力で何かの弾みで深海棲艦になってしまうくらいの強いやつがが蒼龍さんにくっついている。紫亜さんは蒼龍さんの中にいると言っていたからね」

 

「賭けるしかない…か」

 

「この鎮守府は私たちの科学や常識が通用しない世界だからねー。電さんの浄化のチカラに賭けてみるしかないかな」

 

前代未聞のことが起きてばかりの鎮守府…横須賀鎮守府。ここは本当にレポートにまとめられない事象が起きすぎて明石が頭を抱えるほどだ。工作艦であり科学者でもある明石。しかし、起きた事象はたとえ非科学的であったとしてもそれは目の前で起きたりしているのだから認めざるを得ない。そして非科学的なことに頼ることが多いこの鎮守府。

 

見れるなら…見てみたい。科学者の血が騒ぐ。電が本当に蒼龍を響のように救えるのか。救うのならどのように救うのか?

 

そうして明石は今、その非科学的現象を目の当たりにした。蒼い宝石のような涙が蒼龍に数滴落ちたと同時に蒼龍が蒼く輝きだし、黒い何かが蒼龍から出てきたと思った時には消えた。

 

こんなことがあるものか。ほとんどの科学者は信じないだろう。いや、こんなのを見た日にはまた兄をズタズタにしたように電をズタズタにするだろう。これは宝だ。絶対に他の科学者、提督には渡してはならない宝だ。兄も、ここの艦娘も。みな誰にも渡してはならない。非科学の宝。奇跡の艦娘達。奇跡の提督。こんな素晴らしい鎮守府…提督、艦娘がいるところに来れてよかった。これだからここはおもしろい。

 

光が消え、収まると電の眼はもう茶色いいつもの眼であった。かわいらしいくりっとした電の眼。

 

「そ、蒼龍?」

 

「蒼龍さん…?」

 

玲司と電が心配そうにのぞき込む。蒼龍は目を開け…自分の心の中で嫌な気持ちを増幅させたものがないことに気が付く。

 

「私…は…」

 

(しっかりやりなさい、二航戦)

 

(皆を頼んだぞ、蒼龍)

 

誰かの声が聞こえたがそれが誰かはわからなかった。

 

「あの…ここは…どこ…でしょう?鎮守府…ですか?」

 

「え?」

 

玲司と電の声が重なる。

 

「ええと…あ、そうだ!私は航空母艦、蒼龍です。空母機動部隊を編制するなら、私もぜひ入れてね」

 

「なるほど、そうしたのね…」

 

「う、うええ?!し、深海棲艦!?て、敵じゃないですか!?」

 

「あ、ああ蒼龍、違うんだ、ちょっと話を聞いてくれ」

 

………数日後

 

「ややこしいことになるから記憶が全て飛んだ…随分と都合が良いことね」

 

「私に言われてもね…ただ、あの子は以前の横須賀にいた記憶も一切消し飛ばした方が都合がよかったのよ。特に、仲間殺しと言う記憶が残ってしまっているならこの先の障害になる。まあ、ちょっと手を加えさせてもらったわ」

 

「またそうして手を加えたのね…」

 

「これくらいなら文句は言われないもの。まあ、そろそろ本当にやめておかないとまずいことになりそうだけれど」

 

「零さん…ありがとうございました」

 

「あら、私は別に大したことはしていないわ。このことは内緒ね。響ちゃんの時は記憶は残っていて蒼龍さんの時は記憶が飛んだ。これにはこういうリスクもある。そういう風に認識させておけばいいのよ」

 

「は、はあ…」

 

「非現実で起こりえた奇跡なんだもの。ランダム性があってもおもしろいでしょう?」

 

「そりゃあ…まあ」

 

「あとは彼ら次第よ。私はもう眠るわ。後は…紫亜もお世話してあげてちょうだいな」

 

「ええ。もちろん。私もここの一員ですからね」

 

「体のことはお任せください!」

 

「頼もしいわね。ふふ、じゃあまた、お話しましょうね」

 

そういうと零は眠りにつき、すうすうと寝息を立てている。起きればかわいらしい霞がまた紫亜に抱っこと甘えてくるだろう。明石は…くちゃいと言われないようシャワーを浴びねばと考えていた。霞のくちゃい攻撃は精神に甚大なダメージをもたらす。紫亜や妙高は喰らっている。その精神ダメージははかりしれない。

 

「クスクス。まあ、そうすぐには目は覚まさないわ。ゆっくり後で浴びれば問題ないわよ」

 

「はい…」

 

「それにしても、記憶を飛ばしてしまえば鎮守府から逃げようなんて考えない。零の考えは一理ある。だからと言って本当に記憶をゼロにしてしまうなんて、名前の通りね。読み方は違うけど」

 

「私もびっくりしました…都合は確かに…いいですね」

 

「余計なことは気にしなくていい。ここでの生活を思いきり楽しめばいいのよ。ここはそういう場所なんだから」

 

「そうですね。うーん!新しい空母が増えて艦載機の調整も忙しくなってきたなぁ!」

 

「わたしたちにおまかせあれ。しゃかりきにはたらきますよ」

 

「熟練搭乗員さん、頼みましたよ!」

 

「おほしさまのためならえんやこら。せんとうもせいびもおまかせです!」

 

頼もしい妖精さんに囲まれ、明石は安心してメンテを進められる。妖精さんが次から次へと増えるこの鎮守府。あと一部の妖精さんは九州のほうへ流れて行っているとか。いいところがあるんだろうな、と明石は思う。それが兄が大の苦手としている彼の下へと言うことは明石は知る由もない。

 

「さて。私も花壇の整備をしようかしらね」

 

「ええ。これで一安心ですからね」

 

「そうね。ふふ、龍驤が勢いを取り戻して賑やかなことよ。たまには演習場に顔を出してみたら?」

 

「それもそうですね。鈴谷さんと蒼龍さんの艦載機の調整も兼ねたいですし」

 

「頑張ってね」

 

「はい!」

 

………

 

「おはようございますー…」

 

「お。おはーははははははは!!!!」

 

「んにゅ~?何で笑うんですか~?」

 

「提督!!!!蒼龍さん、こちらへ…それと…ほら…」

 

「ん-…わー!何この髪の毛!?ぼっさぼさじゃない!!!」

 

………

 

「こらーーー!!!まーたええ加減な艦載機の飛ばし方しとるやんけ!!!!なんべん言うたらわかんねん!!!」

 

「ひーーー!!!前の怒らない龍驤さんに戻ってよー!」

 

「やっかましい!!!鈴谷ー!!もう1回じゃー!!!」

 

「わーん!そう言ってもう2時間ぶっ通しなんですけどー!!!」

 

「ああ、いいですね。今の調子で射っていきましょう」

 

「はい!嬉しいなぁ。的の真ん中に当たると気持ちいいですね!」

 

「でしょでしょ!よーし、瑞鶴も負けてられないわ!」

 

「私もがんばります!!!」

 

「ふむ、JapanのAirclaftはキンベンだ。私も負けていられんな」

 

結局、蒼龍の横須賀にいた記憶と言うものは全て消え去って、本当に1から建造したときのように最初から学びなおしている。記憶が飛んだ理由は、明石曰く「奇跡に近いチカラなんだから全部うまくいくとは限らない」だそうだ。今回は記憶が飛んでくれて助かった、と玲司は語るが。

 

北上も「記憶がなくなったんならそれでいいと思う。記憶が残っていたらずっと苦しむハメになるだろうかね。あーよかった」だそうだ。

 

玲司も1からやり直しと言うことで翔鶴に蒼龍を任せ、鍛錬に励んでいる。龍驤の厳しいのはまず置いておいて、弓を持つところから始めている。

 

「提督、練度が1に戻ってしまいましたが…」

 

「それでもいいさ。変に苦しむよりはマシだろうさ」

 

「……そう、ですね」

 

「電、今日は電が頑張ったごほうびのチキン南蛮にするからな」

 

「なのです!けど、本当に電は頑張ったのです?」

 

「頑張ったから今の蒼龍があるわけさ。無理を言ってすまなかった」

 

「でも、蒼龍さんがまた横須賀に戻って来てくれただけで嬉しいのです!」

 

「ハラショー。さすがは電だね」

 

「えへへ♪」

 

「まあ、終わりよければすべてよし。この事はもう終わりだよ」

 

「わかりました。では、蒼龍さんに関わる書類。頼みましたよ」

 

「うげ!おーい、何か多くねえか!?」

 

「知りません」

 

「司令官さん、がんばってくださいなのです!」

 

「ハラショー」

 

「く、くそー…チキン南蛮作れねえぞ…」

 

「はわわわ!!!大淀さん!鬼なのです!悪魔なのです!!」

 

「ダー。ひどい人もいるもんだ」

 

「ええええ!?わ、わかりました!提督、半分貸してください!!」

 

電達駆逐艦には弱い大淀。さすがにそうまで言われると…撤回するしかない。

 

………

 

「いただきまーす!うーん、おいしい!」

 

「だよねー!」

 

蒼龍はこの横須賀鎮守府での生活を気に入っていた。技術も全て飛んでしまったが、それでいい。また、練度なんてまた磨き上げればいいのだから。

 

「おかわりー!」

 

「はええな!?」

 

「あ、赤城さんみたい…」

 

「く、くうう…こういう風に食うたらあんなたわわ…たわわに…うちもおかわりぃ!」

 

龍驤の努力は虚しく、蒼龍のようなたわわにはなることはないのである。

 

「ちっくしょー!!!」

 

「おかわりー!!」

 

「はええって!!!!」

 

「うっぷ…おか、おかわ…」

 

「姉ちゃん、無理すんな…真似したって大きくなりゃしねえって…」

 

「何やとこのアホンダラ!!!!お前ちょっとしばきまわしたるから正座せえ!!」

 

「やなこった…ぐえええ!!!首!キまる!キまるって!!!」

 

「騒がしいなぁ!飯くらいゆっくり食えってんだ」

 

「く、くうう…!ゆっくり食べたら摩耶みたいに…たわわに…」

 

「無理だって…キュッ」

 

「おどれは死にさらせやあああああ!!!!」

 

「うぐぐぐ…」

 

「お姉ちゃんストップストップ!玲司君が死んじゃうよぉ!」

 

「あはははははは!!!また姉弟ゲンカしてるー!」

 

「ふふ、ふふふ、あはははは!!!」

 

二航戦蒼龍。彼女はここでの生活、うまくやっていけるかも!と頬にご飯粒をつけ、満面の笑みでそう思うのだった。




蒼龍のお話はこれにておしまいです。最後は伝家の宝刀、ご都合…と言うことで(苦笑
電のチカラは2度目ですね。もうこれ以上、電の能力が出てこない平和な鎮守府にしたいところです。戦闘で反応することは…あるのでしょうか?もうないようにしたいです。

さて、次回は変わっていく刈谷提督、お父さんになる?の巻です。

次回もお待ち頂けると嬉しいです。

それでは、また。
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