提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第百九十四話

「司令!択捉型による近海潜水艦哨戒任務、終了いたしました!」

 

「お疲れさん」

 

ビシッと敬礼をし、しっかりと大きな声で作戦終了の報告を伝える択捉型海防艦1番艦、択捉とその妹たち。松輪、佐渡、福江、平戸。それに労いの言葉をかけるのは鹿屋基地の主、刈谷提督であった。

 

南方海域に気を遣いっぱなしでなかなか近海の哨戒ができておらず、潜水艦の反応が増えたため、練度向上、潜水艦の戦闘に慣らすための近海哨戒に行かせたのだ。作戦は潜水艦を多く屠って成功。練度向上と言ってもこうして近海やブルネイ方面への潜水艦対策の多くを海防艦に行ってもらっているため、練度は高い。

 

練度は高過ぎても問題はない。そう言う刈谷提督であるが、そうすることで帰還率100パーセントを維持するためのいわゆる過保護な練度向上である。択捉型や日振型海防艦がいるこの鹿屋基地で、そのことを知っているのは龍田と能代、あと球磨くらいだろうか。長門も知っているだろう。

 

「今日の仕事はお前らはもう終わりだ。これやるから食ってのんびりしてろ」

 

「わあ!司令、いいんですか!?伊良湖最中券!」

 

「お前らと…あー、お前らだけじゃ大東がうるせーから日振と大東の分も入れてある。ゆっくりしろ。あー、怪我してんだったら風呂入ってからだぞ、いいな?」

 

「はい!司令、感謝します!」

 

「うふふ…司令は…やさしいですね…うふふふ」

 

「いいからさっさと行ってこい」

 

「へっへー!やったやったー!もなか♪もなか♪しれー、サンキューな!」

 

「さ、佐渡ちゃん、司令にそんな態度ダメだよぉ…」

 

相変わらずガキンチョは騒がしいもんだ。そう思う刈谷提督であった。だが、南方海域の作戦を終え、そして論功行賞まで終えてやっと一息つくことができた。日常が帰ってきた。それならこのやかましさも悪くはない。

 

「うふふ、択捉ちゃん達嬉しそうだったわねぇ」

 

「戦果に見合う十分な報酬だろ。きっちり仕事して無事帰ってきてんだからよ」

 

「そうねぇ。でも日振ちゃんや大東ちゃんにまでは甘やかしすぎじゃないかしら~」

 

「どうせ佐渡と大東がケンカしてうるさくなんだよ。食わしときゃおとなしくなんだからいいだろ」

 

「ほんとおチビちゃん達には甘いわね~」

 

「うっせえ」

 

そうして龍田と他愛ない話をしているとドアをドンドンドン!!!とやかましくノックする音。ああ、噂をすればうるさいのが来た。龍田がどうぞ~と言うとバァン!と勢いよく開かれるドア。そして提督めがけて飛んでくる白い服の小さな子。

 

「提督ー!あんがとなー!あたいとひぶの分まで用意してくれるなんてさっすが提督だぜー!」

 

おいっすー!と言うような感じで手をあげてやってきたのは日振型海防艦の大東だ。なぜか膝の上に乗ってきた。

 

「重いな。何勝手に乗ってんだよ」

 

「あわわわ、大ちゃん!ダメだよ!提督はお仕事中なんだから!」

 

「えー?提督の膝の上はいいんだぜー!なんてーか、こう落ち着くってーか。なー、提督!」

 

「勝手に人の膝の上乗って居座ってんじゃねえよ」

 

「いだだだだ!!何すんのさー!」

 

帽子を取って大東の頭をグリグリと拳でする提督。痛いはずはないくらいのチカラ加減でしているがノリがいい。日振は本当にグリグリされているように見えるので「だから言ったのにぃ…」と大東を下ろそうとしている。こうはいっているが日振を試しに膝の上に乗せたら5分ほどで舟を漕ぎだし、夢の中へと行ってしまったことがある。

 

「さっさと行ってこい。なくなっちまうぞ」

 

「えー!?それ困る!置いてあったおやつがなくなってて困ってるのにー!」

 

その大東の言葉にピキリ…と能代の眉が動いた。刈谷提督も眉をひそませた。間違いなくアイツだ。そう確信した。能代も同じである。

 

じゃーなー!と急いで駆け出す大東とペコリとお辞儀して丁寧に退室し「廊下は走っちゃだめー!」と注意する日振。退室してから5分。椅子から立ち上がり、さてと…と言う提督と、はい、と言う能代。息はぴったりである。そしてそのまま艦娘寮へと向かった。

 

………

 

「阿賀野さぁん、文月だよー!おやつちょーだーい」

 

トントンとノックするのは文月だ。睦月型を姉妹が誰か欠けているのは寂しいだろう(とは口に出していないが)と建造した。皐月も顕現させ、今は睦月たちと演習中だろう。文月は今日は非番。ちょうど寮を歩いていたので捕まえて連れ出したわけだ。報酬は伊良湖最中券。これがあれば駆逐艦や海防艦は簡単に釣れる。

 

「はぁい、ちょっと待ってねー!」

 

部屋の主がドタドタと言う足音、そしてガチャリとドアが開き…

 

「はーい文月ちゃーん!おやつです…よー……」

 

「よお」

 

「阿賀野姉…」

 

「えっ…」

 

「ねえしれーかん、これでいいのー?」

 

「ああ。よくやった。これで食べてこい」

 

「わーい、やったぁ♪ありがとうね〜♪」

 

手をふりふり、嬉しそうに去っていく文月。提督がニヤリ…と笑みを浮かべ、能代がこめかみに青筋を浮かべると顔が青くなっていく部屋の主、阿賀野。

 

「俺や能代だと言うとまず時間稼ぎして片付けるだろうと思ってな。ちょうどいいところにいたもんだぜ、文月。ガサ入れだ。大東から菓子類が結構買いだめしてあったはずだがもうなくなったって聞いてな。まさか、テメエが持っていってねえかと思ってな」

 

「ちょうどよかったわ。最近忙しくて阿賀野姉のお部屋、見れてなかったから。入るわよ」

 

「あ、あの、あのぉ…」

 

「テメエに拒否権はねえし時間も稼がせねえ。さあ、見せてもらおうか、テメエの部屋」

 

「あ、はい」

 

阿賀野は観念したのか2人を招き入れた。その部屋は…なんというか言葉に例えるなら…汚部屋だった。

 

「おいなんだこれ、足の踏み場がねえぞ。俺らが南方海域で神経すり減らしてる間に随分とまだ干物になってたんだな」

 

「何…これ…汚い…汚い!ああ!これまたジュースこぼしたわね!こぼしたらすぐ洗濯に出してって言ったでしょう!?」

 

「はい」

 

「ああ?おい能代見ろよこれ。干物のくせに一丁前にファッション雑誌買って読んでやがる。おしゃれするようなタマかよ、ええ?」

 

「な、何この下着…派手すぎない…?」

 

「それは…そのぉ…」

 

「こんなん着けて誰誘惑すんだよ。彼氏でもできたか?ええ?」

 

「か、かわいかったので…」

 

「サイズ小さくねえか?テメエのでけえケツではけるのかよ?」

 

「は、はけたもん!なんか、ミチミチ言ってたけど…」

 

「それははけたとは言わないのよ!」

 

「龍田にゃあいいサイズだろうけど趣味が悪いな。俺の趣味じゃねえ」

 

「サイズの合わない下着…無駄遣い!」

 

「は、入ると思ったんだもん!」

 

「思ったで小さめのサイズ注文してんじゃないわよ!だいたい阿賀野姉のお尻のサイズは…「わー!わー!提督さんの前で言わないでぇ!」

 

「ククク…テメエのでけえケツなら3Lでいいだろ」

 

「ひ、ひどっ!?エ、Mだもん!」

 

「Lでしょ」

 

「能代〜〜!?」

 

「で、ブラも小せえのってか?」

 

「あ、これはサイズ合ってますね」

 

「ケッ、干物が色気付いてんじゃねえよ。ベージュのババブラとババパンでいいだろ」

 

「提督さん、ひどいですぅ!阿賀野だっておしゃれしたいもん!」

 

「だったらこの部屋なんとかしろ。でなけりゃ次からテメエの下着購入申請の際全部却下だ」

 

「ああ!あった!お菓子!提督、ありました!」

 

「よし、それは駆逐艦や海防艦に回せ。テメエ、しばらく菓子類禁止だ。それから球磨と多摩の特別訓練を1週間。テメエを徹底的に脱干物にしていい女にしてやるよ」

 

「あ、阿賀野はもともと最新鋭のいい女…」

 

「あ?」

 

「ナンデモナイデス。で、でも特別訓練は嫌あああ!」

 

「特別訓練と聞いて球磨ちゃん参上ぅ!」

 

「いやあああああああ!」

 

「ゲヘヘヘ、そのだらし姉根性叩き直してやるクマ。球磨みたいな優秀なお姉ちゃんになるクマー」

 

「の、能代!お姉ちゃん連れていかれちゃう!助けてぇ!」

 

「球磨さん、姉をどうぞよろしくお願いします」

 

「の、能代の薄情者おおおお!!!」

 

グェッヘッヘッヘッと恐ろしい笑い声をあげて阿賀野を引きずっていく球磨。球磨と多摩の特別訓練。と言う名のしごき。1週間後には自堕落しようとは思わなくなるだろう。1ヶ月後にはまた干物と化すだろうけどな、と提督。呆れながらも片付ける能代。提督も手伝う。

 

「よし、これでいいな。これは洗濯に出せ。ったく、世話の焼ける姉を持って大変だなお前も」

 

「はい…申し訳ありません…」

 

「ま、球磨が徹底的にやってくれる。ゴミはこれでいいな。次はどうやって俺らじゃねえと思わせてガサ入れすっかな」

 

「それは追々考えましょう…はあ…疲れた…」

 

「クリスマスにゃこの赤丸してる服でも買ってやるか」

 

「結局甘いんですから…」

 

「うるせえ。テメエもなんか考えとけ」

 

「ミスターKサンタからのクリスマスプレゼントですか?」

 

「おい」

 

「ふふ、知りません…きゃあ!?冷た!提督!!!」

 

「俺じゃねえぞ」

 

「もう!嘘つき!」

 

「くくく、そんな腹丸見えの服着てるからだ」

 

「これが制服なんです!こ・れ・が!」

 

「はいはいうるせーうるせー」

 

能代のわき腹にひたりと阿賀野が飲んだであろう炭酸飲料の瓶。いや、今日日瓶で飲むのもなかなか珍しいな…と思うものをつけたのだ。当然、秋も深まり長袖でないと寒い時期に瓶はよく冷える。よほど冷たかったのだろうがそんなものは彼は気にしない。イタズラしたら大いに反応するのがこの能代と葛城。おもしろくてついやってしまう。後がうるさいにも関わらず。

 

そんな能代を無視して再び執務に取り掛かる。佐世保への異動が来春に決まっており、それに関する書類が多くて忙しい。自分の異動に伴う家具などの調達の申請、艦娘の家具の調達の申請。決済拒否などありえない。必ず決済させる。大本営の経理を脅すくらい容易いものだ。あ、提督が悪い顔をしていると能代が思うくらいには悪い顔をしていただろう。どうやって経理を脅そうか。楽しみである。

 

あれもこれもと家具の申請をどうしようかと考えているとまたドアがノックされた。どうぞと言う前にもう入ってきてしまったが。

 

「しつれいしまっす!」

 

「あら、よつちゃん?どうしたの?」

 

「よつか、もう伊良湖のとこには行ったのか?」

 

「はい!てーとく!ありがとうございます!」

 

「何のことだ?」

 

「よつもえとろふちゃんといっしょにモナカ、おいしかったです!」

 

「そうかよ」

 

最近やってきた丁型海防艦。名前はない。第四号海防艦と言う。それをそのまま呼ぶのはどうかと思ったので四と言う数字から「よつ」と呼ぶことにした。近々、同じ丁型海防艦の第三十海防艦が着任すると言う。うちは託児所じゃねえぞと言いたいが、拒否して三条の下とかへ行くのならいいが、どこぞのわけのわからない奴の下へ行かせる気はない。何て名付けようか考え中である。

 

「おいしかったです!」

 

「そうか。よし、よつ、ちょっとこっちこい」

 

「はーい」

 

よつを呼んで提督の横に来させると椅子を回転させてそのまま抱き上げた。

 

「ふぁー」

 

こんな小さな体で必死に戦う。こんな幼稚園児みてえな姿にしなくてもいいんじゃねえかと思ったが、艦娘の生まれる条件って言うのはわからない。仕方がないか。小さな小さな海防艦だったと聞く。だからこんなちんちくりんに生まれたってわけか。しかし、この体で戦うには酷だ。択捉達もそうであるし、駆逐艦だって。特に睦月型はそうだ。本当によく頑張っていると思う。

 

提督はそのままよつの頭を撫でる。すると5分も経たないうちにこっくりこっくりと舟を漕ぎ始め、よつがトロンとした目になっていた。

 

「眠いか?いいぞ、そのまま寝ても」

 

「あい…」

 

それが合図となったのかよつはすやすやと寝息を立て始めたじゃないか。能代には信じられない光景だった。数ヶ月前までは誰も近寄らず、恐怖を与え続けた悪魔のような提督が小さな海防艦を抱いて仕事をしているじゃないか。ここに呼ばれたら死刑宣告。解体か遠方の海域へ沈んで来いと言われるに違いないまで言われたあの提督が…海防艦を抱っこしているなんて…。

 

「おい、今なんか失礼なことを考えてた顔してたぞ」

 

「し、知りませんよ。冤罪です。しかし…提督はなぜよつちゃんを?」

 

「寒いんだよ。チビはあったけえからな」

 

また嘘ばっかり。落ちないように左手でしっかりと抱き、ポンポンと背中を優しく叩いている。安心できる抱き方、叩き方であった。よつもしっかりと提督の制服を掴んで離さない。何だろう、まるでたまに買い出しに付き合うときに見る人間のお父さんと娘のような…。

 

「おい能代、茶」

 

「はい?」

 

「茶。よつが起きちまうから動けねえ。茶」

 

「はいはい…」

 

普段は酒を飲むくせに仕事中は弁える。さすがに当たり前か。わざわざ京都から取り寄せた少しお高いお茶を飲む。勝手に飲んでいいぞと言われているので飲むがこれがまた苦みの中に甘さがあり、おいしい。ちなみに、龍田に比べりゃ淹れ方が雑だな、と言われて目下修行中である。

 

「どうぞ」

 

「おう」

 

むにゃむにゃと寝言を言うよつを抱えたまま、お茶を飲む。本当に子煩悩なお父さんみたい…。

 

「能代。チビ共はつらいとかきついとか言ってねえか?しんどそうにしてねえか?」

 

「いえ、みんなやる気いっぱいで出ていって元気に帰ってきますよ。駆逐艦の子もそうですし、私達も同じです。いろいろと気を遣っていただいて、択捉ちゃん達もいつもおやつを楽しみに頑張っていますよ」

 

「そうかよ。しんどいならしんどいって無理せずに言えって言っとけ。何でか遠慮しやがるからな」

 

それは提督がそう言ったらどういうかを恐れてのことでしょうに。今はもう、そんな心配はないんでしょうけど…と能代は思う。確かに出撃で戦闘、遠征。疲れることは疲れる。特に海防艦や駆逐艦は疲れやすい。シフトを一生懸命考えて疲れたまま出撃させないように気を遣っているのは提督である。

 

以前は球磨さんや葛城さんが出撃、遠征に行く一覧表をくれて、これを球磨さん達が考えてくれているんだろうなと思っていたが最初からすべて提督が考案したものだった。連続で出撃するにしても疲れが残らないようなもので、緻密である。

 

「しっかり俺の為に働けよ?」

 

そう昔は怖い顔で語っていたが…実際は激甘シフトである。おやつにお風呂、お休み、ご飯、暖かい布団、寝間着から下着から…いろいろと実は自由にやれていた鹿屋基地。私とドックで水掛け合いをしてからはすっかり恐怖感はなくなった。龍田さんに一度見せてもらったが、数年前の刈谷提督は五月雨ちゃんといい笑顔で写っていた。優しい顔だった。

 

今はその時の顔に戻りつつある。そして佐渡ちゃんやよつちゃんをこうして抱っこして寝かしていたり…。

 

恐怖で支配をする鹿屋基地を変えたのは気が付いていないが能代である。あの能代とドックで水の掛け合いをした時から、刈谷提督は恐怖で支配することに意味をなくし、めんどくさくなったのだ。まだ割と冷たいことを言うこともあるが、秋雲曰く「ツンデレ!」と言うことで収まってしまった。言葉の裏側を探る艦娘、主に能代や榛名、長門などが提督の冷たい言葉の裏をよくわかっていない駆逐艦や海防艦に説明するなどして懐かれていった。

 

俺の目論見と変わっちまったじゃねえか、と言うが、こちらのほうが艦娘ものびのびとできるし戦闘の士気は高かった。

 

なお、秋雲のメモには

 

俺の指揮だけ聞いておけ→そうすれば絶対に勝てるし沈まない。

 

役に立たねえ、とっとと帰って来い→大破進撃は認めない。帰還せよ。

 

俺のためにしっかり貢献しろよ?→頑張った子は伊良湖最中券をあげよう。

 

などなど、提督の言葉をこう訳せばいい、みたいなことが記されている。しかし、これもうっかり龍田に見られた。「あ、死んだ」と思ったが「大正解よ~♪」と笑って間宮羊羹をもらったのだった。

 

提督の意識が変わったことにより、龍田も他の艦娘に自ら提督の意向をツン言葉をデレ言葉に解釈して説明すると言うことで皆が近寄りやすくなったと言う。飯でも食ってこい、と言うと先に自分だけ食堂で皆で食べ、伊良湖に食事を用意してもらって持っていく。水無月や皐月、択捉などがお手伝いしますと言って嬉しそうに運んでいく。

 

「いらねえっつっただろうが」

 

「あ、あの、し、司令!お酒だけ、お酒だけ飲んで何も食べないのは…体に…悪いです」

 

震えながら松輪にそう言われて渋々食べることもある。日振に「今日のご飯もおいしいですよ!」と満面の笑みで言われると、バツが悪そうに後で食べるとも言えず、目の前でニコニコしている日振に見守られながら食べるなど、球磨や多摩が大笑いして笑い転げる場面も増えた。

 

絶対子供に弱いんだろうな、この人…と龍田と能代はその光景を楽しんでいる。

 

「提督。これに決済の判を…提督?聞いて…」

 

書類に判を押してもらおうと書類をやったが反応がない。顔をあげてよく見ると、すやすやと眠るよつと共にペンを持ったまま眠っていた。その姿は本当に親子のようで…見ているだけで幸せな気持ちになった。

 

ちょうど海防艦たちと一緒におやつを食べていた龍田が戻ってきた。提督とよつの姿を見て私室から毛布をかぶせてあげていた。季節は秋も深まり、日中でも執務室は若干ひんやりしている。眠れば冷えるだろう。特に人間である提督には風邪でもひかれては困る。また択捉や弥生やらがあたふたするわけだ。そうさせてはいけない。

 

「昨日も遅くまで寝ずにお仕事してたのは知ってるから~…寝かせてあげましょう」

 

「は、はい」

 

「んっふふふ。提督の寝顔はかわいいでしょう?子供みたいな寝顔してるの♪」

 

「ふふふ」

 

これもまた鹿屋基地にいられてよかったと最近思う光景である。書類は龍田と能代で処理。決済の判は翌日でも構わない書類だったので決済待ちの箱に入れておいた。その後、たっぷり夕方まで眠った提督は…

 

「起こしやがれ、役立たず」

 

「よつちゃんを起こしてよかったんですか?」

 

「………お前、嫌な奴になったな」

 

「提督に言われたくないんですけど…」

 

そんなちょっとしたケンカが始まり「けんかはめーです!」とよつに叱られ、龍田がお腹を抱えて笑っていた。

 

 

「司令官!司令官!大変にゃしい!」

 

「なんだうるせえな。緊急の連絡か?」

 

ある日、工廠の帰りに小腹が空いたので食堂へ向かっている所に睦月と鉢合わせ、こう言って騒いでいた。

 

「あのね、伊良湖さんが最中に使う小豆を切らしちゃったんだって!」

 

ちび共と長門の士気高揚にないと困るものだ。長門は下戸で甘いものが大好きだ。チョコレートなどを希望し、駆逐艦や海防艦達と一緒に食べているのを知っているし、伊良湖最中が大好きなのも知っている。小豆は配給で希望しておいたが届くのには時間がまだかかる。

 

「……睦月、テメエもちょっと付き合え」

 

「どこへにゃし?」

 

「買い物だ」

 

「おおお!?睦月もいいの!?」

 

「こうなったら足りねえものを徹底的に買う。阿賀野のアホのせいで菓子も切れてんだ。他の食材も買っておきてえ。荷物持ちだ、手伝え」

 

「あれ?お菓子はミスターKって人が送ってくれるんじゃないにゃし?」

 

「…………」

 

「んふー、司令官は甘いにゃし♪」

 

「………」

 

「にゃー!!!何も言わずに髪をくしゃくしゃにしないでー!!」

 

………

 

「提督、も、申し訳ありません…まさかこんなに早く切れてしまうとは…」

 

まあ無理もない。俺がぽんぽんと券を配りまくっているせいだ、とは口が裂けても言わなかった。

 

「とりあえずないと士気にも関わる、車出すから街まで買いに行くぞ」

 

「は、はい」

 

「睦月もお供するにゃしい!」

 

「えー!?睦月ずるい!ボクもいくー!」

 

「うーちゃんも行きたいぴょん!!」

 

「私は…別に…」

 

「水無月も行きたいなぁ」

 

「あらー、睦月ちゃんいいなぁ~」

 

「文月もいく~」

 

「長月は手伝い、ちゃんとできるぞ」

 

「私もだ…」

 

「あー、いってらっしゃーい」

 

「うるせえな。こんなに連れて行けるか。おい、そこの引きこもり眼鏡の望月、テメエは来い。あとは三日月、テメエは望月を引っ張って来い」

 

「は、はい!」

 

提督の命令に「えー!?何でだよー!?」と文句を言う望月としっかりと腕を掴んで離さない三日月。でも三日月は嬉しそうだった。あとの睦月型からはブーブーとブーイングが聞こえてきた。うるせえな。今度連れて行ってやるから我慢しろ。と言うとおとなしくなった。余計な約束を取り付けてしまったことを後悔した提督であった。

 

………

 

「ふんふーん♪」

 

「わあ…」

 

「あーもう歩き疲れた。休みたい」

 

「5分も歩いてねえだろうが、いつもだらけてんだから手伝え」

 

車で10分も走れば商店街がある。横須賀の商店街と同じく、大手量販店やスーパーに負けずに頑張って地域振興に貢献している商店街だった。皆外に出るのは初めての事なので新鮮できょろきょろと辺りを見回している。あの真面目な三日月もキラキラと目を輝かせて風景を楽しんでいた。

 

「まあまあ刈谷提督ではありませんか。ようこそ。今日は何をお探しですか?」

 

「組合長さん、お世話になっております。実はいい小豆を探してきましてね」

 

「ほうほう!ではこちらへどうぞ」

 

「感謝します。ほら、挨拶しろ」

 

こんにちは。いつも提督がお世話になっておりますなどなどさまざまであった。

 

「この子達が…」

 

「はい、艦娘です」

 

「そうでしたか。いやいや、皆さんのおかげで我々はこうして生きていられます。いつも本当にありがとうございます」

 

「い、いえ…そのようなことは…」

 

「むふー、もっと睦月たちをほめるがいいぞー!」

 

「調子に乗んな」

 

「あいだ!ふみゅー…司令官ひどいにゃし…」

 

「提督?いつもここに来られているのですか?」

 

「ああ、たまに買い出しの時はここだ」

 

「提督にはごひいきにしていただいておりますよ」

 

「そうなんですね…」

 

「あー、おー!?これ、ミスターKって人がいつも送ってくれるお菓子じゃん!」

 

クスッとそこで伊良湖が噴き出したが提督にジト目で見られたので顔を逸らした。そこは駄菓子屋。そこのおじいさんがわっはっは!と笑いながら望月に言う。

 

「おーおー。そうじゃのう。ミスターKって言う人がいつもこれを箱で鹿屋基地に送ってくれと言うんじゃよ。ありがたいことじゃ。買っていくかい?」

 

「あー、あー…これ、ください」

 

「あいよ、毎度あり!提督さん、ミスターKによろしくな!わぁっはっはっは!」

 

「爺さん、今度覚えとけよ」

 

「何の事じゃ?わははははは!!!」

 

恥ずかしそうにお金を渡す提督と笑いが止まらないおじいさん。ああ、なるほど。ここの方々とはこういう信頼関係を築いていたのか。そして本当にミスターKの正体がわかってしまった伊良湖は笑いがこらえきれなかった。三日月と睦月、望月に好きなお菓子を買ってあげ、お爺さんには「バラすんじゃねえぞ」と小さな声で忠告する提督。

 

「わかっとるわかっとる!わはは」

 

わかってねえなこの野郎…と思いながら、口元をヒクヒクさせている提督。その様子は商店街の組合長さんも大笑い。

 

「お、克巳ちゃん、いらっしゃい。今日も小豆かい?」

 

「ぐ…」

 

「提督…今日も?」

 

「何の事だろうな」

 

「とぼけんなよ。いつものだろ。ほら、大納言、そろそろ来るんじゃねえかって用意しておいたぜ。持っていきな」

 

「…ありがとうございます」

 

「ほー、この子ら艦娘かい?かわいい子達だなぁ。お嬢ちゃんらのこと、いつも克巳ちゃん褒めてんぜ。一生懸命頑張るいい子達だってな」

 

「ほんとですか?嬉しいです!ありがとうございます、司令官!」

 

「お、おう」

 

ぺっかーと後光が差すくらいの満面の笑顔でお礼を言う三日月にもはや雑貨屋さんにも三日月にも何も言えない。その姿を見た望月が笑っていたが頭をはたいておいた。

 

「ってー、何するのさ」

 

「うっせえ」

 

「ははっ、仲がいいな。大豆も持っていくかい?」

 

「わっ、いい大豆ですね。煮つけにでもしようかしら?」

 

「お、いいねぇ。いいよ、これはサービス。持っていきな。いやぁ、テレビで見るのとは全然違うねぇ。おっかねえって印象があったんだけど、こんなかわいい子達じゃなぁ」

 

「艦娘は優しく、強い。それでいて海を守り、この国を守るのが役目です。一部では暴力装置のように言う輩がいますが、そうじゃない。この国は今、艦娘あっての安全な生活ができるのです。ようやく、陸まで近づけさせることもなく未然に対策ができるようになりました。ひとえにこの子達が各地で頑張っている。いや、頑張ってくれている結果です。ですから、どうか艦娘達を見守ってあげてほしい。俺はそう思います」

 

「うんうん。これは応援せざるをえませんな。またおいでください。また、この商店街の良いところをお見せしましょう」

 

刈谷提督の言葉に胸を打たれたのか、組合長は笑顔でそう言ってくれた。艦娘への理解がまだまだ浅い。それを憂いている刈谷提督は、一般人への艦娘への恐怖感を薄れさせるような広報をしてくれと大本営にはよく訴えかけている。それが実を結んだのか、今度若手の提督の泊地や基地に取材…青葉だが行くことになり、ありのままの艦娘の素顔を取材するのだと言う。

 

大湊、岩川…それから生まれ変わった宿毛湾。この3つを取材する。それぞれ一宮、七原、九重…安心できる提督達ばかりなので期待している。そうして艦娘への理解が深まってくれれば。そう思っている。

 

今回は忙しいので用件だけ済ませて帰ることになった。小豆がいっぱい入った大きな箱は提督が。小さい物は伊良湖が。袋で持てる物は三日月たちが持ち、車に戻ってもう少しだけ商店街を見て回ることになった。

 

「司令官!ねえねえ!あれは何?」

 

「おい、勝手にちょろちょろすんな、危ねえぞ」

 

「ねー、もう帰ろうよー」

 

「うるせえな、その割にはきょろきょろ気にしてんじゃねえか」

 

「………」

 

「三日月、それほしいのか?」

 

「ふぇっ!?いえ、何でも…」

 

「おおっ、ミスターKがくれるジュースにゃし!」

 

「クスクス」

 

「おい、伊良湖テメエ」

 

「のどかわいたー」

 

「あーうるせえな、好きなの取って持ってこい」

 

「やったー!」

 

「司令官、ありがとうございます!」

 

「ありがとー」

 

「感謝が足りねえ望月はなしだ」

 

「これでも最大限の感謝だよー」

 

「ちっ…」

 

伊良湖はその光景を見て嬉しかった。あれだけ提督にみんな怯えていた生活が嘘のようであった。文句を言いながらもジュースを買ってあげてお金を払っている提督。自分達には見せない紳士的な態度。新鮮だ。駆逐艦にはお父さんのよう。阿賀野にはお兄さんのような振る舞いを見せる提督。こちらの方がいい。

 

「テメエ、艦娘に飯作れ。ほしい素材は調達する」

 

「食事…ですか?」

 

「食わねえよりは食った方がいいだろ。俺の役に立ってもらうにはそれがいいんだ」

 

最後の晩餐…よく呼ばれていた。これを食べたら沈められる。解体される。けどそんなことは一切なかった。いつもおいしいおいしいと言ってくれる艦娘達。提督にも食べてほしいな…そんな思いが募るばかり。怖い人じゃない。きっと優しい人なんだろう。そう思って駆逐艦の子達に言い聞かせてみたが駄目だった。

 

今はどうだ。こうして皆が懐いている。

 

「何してんだ伊良湖。テメエも早く選べ」

 

「わ、私もよろしいのですか?」

 

「お、これなんかいいんじゃねえか?カレードリンク」

 

「絶対嫌ですぅ!」

 

ククッといたずらっ子…そう、卯月のようにいたずらを思いついた時のような顔をして笑い提督が伊良湖は好きだった。こうして毎日過ごせれば。以前から願っていた生活が今はある。だから今日も…明日も毎日頑張る艦娘のため。そして私に仕事を与えてくれる提督のため、またがんばろう。そう思うのだった。

 

………

 

「提督よ。作戦が終了したぞ。今回も被害は少なかった」

 

「お疲れさん。これ持っていけ。んでちび達に食わせてやれ」

 

「私も…いいのか」

 

「長門が今回の立役者なんだろ?だったら食って来い」

 

「感謝する」

 

「ねーねーしれいかーん、文月たちをいつ睦月ちゃんやみっかーがいったところに連れてってくれるのぉ?」

 

「うるせえな、近いうち連れてってやるから我慢しろっての」

 

「文月もくれーぷ?とかジュースほしいよ~」

 

「…睦月のやつ…内緒だっつったのによ…」

 

「伊良湖さんが教えてくれたよぉ~」

 

「あいつあとでシメる」

 

「わぁ~、ダメだよぉ!」

 

鹿屋基地。刈谷克巳提督。彼のおかげで今日も鹿屋基地は騒がしくも平和な毎日を送っている。静かなのもよかったが、やっぱ騒がしいほうがいいかな。そう思う刈谷提督だった。




刈谷提督、お父さんになる(?)の会でした。横須賀のように賑やかでドタバタが似合う基地になってきました。そしてここでは海防艦も大活躍しています。ご褒美はご覧の通り。

さて、ミスターKの正体がバレそうになっています。これは由々しき事態ですね!これからもこのように駆逐艦や海防艦を騙し通せるのだろうか!?望月にはバレましたlこの子は頭が切れますので(笑)

次回はちょっと未定です。考えていますがあれもこれも書きたいものが多すぎるので迷っています。次回をお待ちいただけますと嬉しいです。

それでは、また。
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