提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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今回はまた場所が変わって宿毛湾のお話をお伝えしたいなと思います。


第百九十五話

宿毛湾泊地。いろいろと問題が起き、提督は島流しにあい、無人となった泊地。しかし、四国、九州、ひいては本土を守るにおいては西へ東へ南へ。すぐに出撃できる防衛面においてはかなり重要な泊地であるため、空白期間をそう長くしておくわけにはいかない。いざとなれば横須賀との連携、佐世保鎮守府や岩川基地などと協力して動くことができる場所だ。だからと大本営はかなり強行策ではあったが、ある提督を刈谷提督のお墨付きで動かすことに決めて、本来なら1年後を目指していたところを約3~4ヶ月で異動することになった…その提督は。

 

「あー!疲れた!少しずつ荷物は動かしていたけど、幌筵からここまでどれだけ遠いと思ってんのよ!あの性悪提督、覚えてなさいよ!!!」

 

ようやく執務室の棚にあれこれファイルや書類、本などを片付けて一息ついた九重提督は某性悪提督に向けて怒りの言葉を放っていた。

 

「知るかよ」と言う声が返ってきそうであった。

 

「提督…これで執務室は完了です。私たちのお部屋のお洋服のお片付けがまだですけど…」

 

「ありがと…悪いわね、手伝ってもらって。天龍ちゃんだと書類は破るわファイルはめちゃくちゃに並べるわで話にならなくって…今頃リべのお部屋のお片付けをしてるんじゃないかしらね。

 

「そう…なんですか。ところで提督…」

 

「なぁに?浦波」

 

「どうして磯波姉さんと私はこの…メイド服?と言うものなのでしょうか」

 

「あら、簡単よ。その方があたしの目の保養になるんだもの。こういうお仕事はメイドさんにしてもらいたかったのよ。作った甲斐があったわね!」

 

だいぶ前に磯波姉さんと私の採寸をしていたのはそのためだったのか…いや、悪い気はしないのだけれど。磯波は苦笑していたが、悪い気はしていないらしい。

 

「終身名誉秘書艦」と名付けられた磯波と浦波。彼女たちは自分たちが酷い目にあってきた宿毛湾に帰ってきた。最初は緊張し、昔を思い出していたが、着いてみるとあちこち廊下の板がめくれたり、蜘蛛の巣が張っていた汚らしい泊地は一変していた。

 

あちこちにシャンデリア。どこから持ってきたのかわからない長い赤じゅうたん。執務室は幌筵とほぼ同じ構造。自分達の寮も汚い布団ではなく、和室、洋室どちらか選べ、布団でもベッドでもどちらでもいい様子った。磯波と浦波は和室で布団を並べて寝られるように希望した。

 

ちらっと見たが部屋はきれいになっており、布団はふかふか。毛布も何もかもが新品だった。かつての宿毛湾の様相はまるでない。あの提督はいないし、宿毛湾とは思えない様相だったので、本当にここは宿毛湾なんだろうか…?と宿毛湾の皆も思う有様だった。

 

かくして磯波たちは自分たちのトラウマの場所へ帰ってきてしまったわけだが…当の磯波はと言うとルンルン鼻唄を歌いながら『自分達がやりやすいように書類やファイルを棚に入れて行って頂戴』と言う現提督、九重提督の指示に従って片づけをしていた。メイド服に関しては…

 

「あ、あのぉ…私にこのお洋服は…」

 

「あら、ご不満?」

 

「い、いえ…そういうわけではないのですが…私…前の提督に芋っぽくて不細工と言われていたので…ひゃっ」

 

不細工と言った瞬間にきれいな白い指を磯波の頬に当てた。

 

「誰がどう言おうとあなたはもううちの子なの。うちの子に不細工な子なんていないわ。あなたもかわいらしい顔をしているのよ?真面目で妹思いで優しくてかわいらしい磯波よ。浦波は…その眉毛がいいわね。かわいい。もふもふしたいわね」

 

「え、ええ…」

 

「もう一度言うけど艦娘に不細工な子なんていないわ。そう言うことを言う男って言うのはね、自分の顔にコンプレックスを持って嫌がらせで言ってるだけよ。あの顔見た?トカゲみたいなぶっさいくな顔して。だから嫉妬なのよ嫉妬。かわいいから嫉妬で不細工って言っているのよ」

 

そう言うとぬっと磯波の顔を覗き込む。九重提督は性格はこうで乙女だけれど…磯波が赤面するほどにはかっこいい…と思う。

 

確かに彼は美男子と思う。美意識が強く、男性でありながら女性のようにも見える中性的な顔をしている。大本営でも女性のファンは一定数いる。女性を美しく見せる化粧の勉強についてはかなりしているらしく、大本営の事務員さんに対して、そのお化粧は肌を傷めるわよ!と言ってオススメの化粧の方法や化粧品を決して高いものを勧めず、リーズナブルなものを見つけては勧めており、それによって男性からの告白される率が上がったりや、結婚をする職員が増えると言い、一度見てほしいわぁと言う事務員さんがいるらしい。

 

ちなみに、九重提督を目の敵にしているように経費のことを突いてくる経理の事務員さんも、彼の化粧のやり方を学んだおかげで素敵な男性とお付き合い中だと言う。

 

しかし、間近で覗き込まれると恥ずかしい。磯波はフッと目を逸らしてしまうが、それを追いかけるのが九重提督であり、磯波はそれにまたひゃっ…と声をあげてしまう。

 

「いい?もうあんた達はアタシの子なんだから、もういないぶっさいくな男の言うことなんて忘れちゃいなさい。磯波も浦波もかわいいんだから」

 

「あ、あうう…」

 

「で、まんまとノせてメイド服を着させる作戦だな?」

 

「どっかの誰かさんが着てくれないしー。アタシは磯波と浦波なら絶対似合うからってティンと来たのよ。天龍ちゃんの分は作んないわよ」

 

「な、なんだよぉ…磯波と浦波ばっかり…」

 

「いやー。この子達、いい服を着せてお化粧をバッチリ決めたら男は黙ってないわね!!」

 

「…うぐっ、ひぐっ、オレも見てくれよぉ…」

 

「あーあーあー。もう、大丈夫よぉ。天龍ちゃんが一番なんだから」

 

最後には提督と天龍のノロケが始まるのだ。それが磯波にはほんわかするものだ、と思う流れであった。

 

そうして今、これを着てお片付けしてちょうだい!と幌筵からずっとメイド服である。なぜか磯波、浦波それぞれに2着用意されており、幌筵の片付けの時も、宿毛湾での片付けの時もこれである。しかし、これが素材にはこだわっており、通気性が良く、暑いときはしっかりと服の中の熱気を逃がし、肌寒い朝晩にはしっかりと熱を逃がさないようになっており、作りこみのクオリティは高い。いつの間にこんなのを…と思ったら、着任の時からこの子達にはメイド服を着せたいと言う願望…いや、欲望があったらしく、ずっとこっそり作っていたのだとか。

 

プシュー…と頭から蒸気が出そうな状態のまま、片付けを進める。天龍はと言うと「提督の心得」と言う提督が着任する時に渡される冊子を破いてしまったり、ファイルを整理せずに突っ込んだため、磯波と浦波が声には出さないが不満そうだったので、提督が気を利かせてリベッチオのが片付けが難儀しているだろうとそちらの手伝いに行かせた。ちなみに、メイド服はリベッチオも着ている。

 

「ふぅ、うう…提督、あの…お片付け、お終いになります…」

 

「ありがとう!ここはあんた達の城でもあるわけだから、あんた達が使いやすいようにしてくれたのなら文句はないわ!」

 

「はい、提督にもわかりやすいよう配慮しました。こちらが経費関係、こちらが作戦関係、こちらが各種申請書入れになっております。こちらに決済済みや未決の書類を入れる箱があれば良いのですが…」

 

「それについては明日にでも街に出て収納ケースなんかを買いに行きましょうか。それはあんた達がいくついるか決めて頂戴。それからお部屋の小物入れなんかも…ああ!日本って素敵!辺境で買い出しも何もできないところでの窮屈な生活は終わり!!自由にあれやこれやと買い出しに行けるなんて最高よ!!車も買い替えるわ!いっぱい荷物が詰めて7人くらいは乗れる車を買うわよぉ!」

 

すでに提督はこれから始まる宿毛湾での生活に目を輝かせている。あの不自由な生活のない生まれ故郷…磯波も浦波もそれは楽しみであった。一番は天龍ちゃんとあんた達と買い出しよ!と言う言葉に胸が高鳴った。

 

「はぁー…つっかれたー…リベのやつ、こき使いやがってー…」

 

「天龍ちゃん、お疲れ様。明日、近くへ買い出しに行くわよ」

 

「おー?何だ、磯波達とか?」

 

「そうよ。事務仕事のための小物をね。まあ、あとはこの子達のお部屋の小物入れとかにも使えるでしょうよ」

 

「リベにも買ってやってくれ…何か小物が多すぎてもうぐっちゃぐちゃだぜ…」

 

なんであんな短期間でいろいろ物が…と思ったが、提督が作ったアクセなどが原因だろう。限られた中でいろいろ作ったのだが、それでもたくさん作りすぎたようだ。

 

「うーん…かといってリベを連れていけるほどの車がないのよねぇ。そこは車屋さんに行って一緒に契約をしに行きたいんだけど」

 

「はぁ?そこまでするか?」

 

「買い出しに行けるのよ?大人数大荷物でわいわい帰るってのもおもしろいじゃない?」

 

「まあ…そうだけどよ…」

 

「ただ、気になるのは…前のおバカが商店街に嫌なことを働いていないか、それなのよね」

 

「あ…」

 

三条提督から聞いていることがある。三条提督の前提督はそれはそれは悪行の限りを尽くした提督であり、もちろん近隣の住民にも大迷惑を掛けたことがあったと言うこと。艦娘をけしかけ、新鮮な食べ物を強奪していくような真似を繰り返していたと言い、最初は提督と艦娘にとてつもなく嫌悪感を持たれていたと。

 

人様に迷惑までかけて、情けない男たち、と呆れたものである。さて…宿毛湾はどうだろうか。幸い車で10分もかかる程度のところに駅があり、商店街があると言う。ついでに100円ショップなんてものもあれば、小物入れやA4サイズの書類入れなどのコストが掛からなくていい。

 

「とりあえず今日はお終いにして、天龍ちゃん、磯波、浦波で行くわよ」

 

「へーい」

 

「わ、わかりました」

 

「はい!」

 

「あ、メイド服で行ってもいいのよ?」

 

「そ、それは…」

 

「制服で…行きます…」

 

「ちぇっ、残念」

 

パチンと指を鳴らして頬をちょっと膨らませて残念がるのであった。

 

………

 

翌日、予定通り朝から車を走らせて駅前の商店街に着いた。リベッチオには内緒で。なぜかローマには行ってくると伝えると「あっそ」と冷たかった。ついて来たかったのだろうか?

 

まず買い物よりも先に車屋へ行き、車の契約を済ませる。快適な装備は艦娘のため。大きなミニバンを買う。経費で買った日には経理の事務員さん、豊川さんが激怒して電話をかけてくるだろう。なのでもちろん、これは提督のポケットマネーからである。

 

「い、いやぁ、ありがとうございます…納車をお心待ちにしていただければ…」

 

「ありがとうございます。とんとん拍子で決まってよかったわぁ。値引きはここまでしてくださって大丈夫でしたの?」

 

「いいえ。提督様がお車を買われるとあらば…」

 

「………ちょっとアナタ。もう一回1から商談しましょ。変な気を遣わなくていいですから」

 

「い、いや、ですがしかし…」

 

「提督だからと贔屓しなくて結構です。お金ならきっちり払いますから普通のお値段で計算して頂戴。アタシはただのお客様。提督様ではないのですから」

 

「よ、よろしいので…?」

 

「もちろんです。おかしいと思ったわ、こんなに値引きできるような車でないのだから」

 

「し、失礼いたしました…」

 

「前の提督にあーだこーだと難癖付けられました?」

 

「………」

 

「ああ、あの提督ならもう提督自体辞めていますし、アタシも大嫌いですので気にしなくて結構ですよ。2度とここには戻って来れませんし」

 

「そ、そうでございましたか…あの…艦娘をけしかけてやろうか?とか…いろいろと…」

 

「はぁ…やっぱり」

 

九重提督は頭を抱えた。となると商店街へ行くのも何だか気が重い。まあそれは行ってみてどんな反応をされるかを確かめるしかない。とりあえずはまず、ホッと安心しているこの車屋の営業さんと打ち解けてみるよう努力した。営業さんは気さくな人で、8人乗りでありながらお手頃な価格の車を紹介してもらう。しかし、提督は見栄張りなので一番いいグレードでと言うと金額が跳ねあがった。

 

磯波はこれでは提督の懐が…と言うがいいのよ、アタシこれでも貯金はがっつりあるのよ。幌筵なんてやることも出かけることもできない場所だからね。と返した。いざとなれば提督を含め8人だけだがドライブに連れていくこともできる。その時に快適な方がいいだろう、と考えた。やっぱり日本ってさいっこー!!と契約時には大きな声で言い、天龍に恥ずかしい真似すんな!と怒られていた。

 

「ありがとうございました!納車を心待ちにしておいてください!」

 

「こちらこそありがとうございました。有意義なお話ができたわ。今後ともよろしくお願いいたします」

 

車の契約で3時間ほど食ってしまった。あまり帰りが遅くなるとリベッチオや酒匂の頬が餅のように膨れそうだ、と思った。

 

「さて、お食事にしましょうか」

 

「は、はい…」

 

そうは言うが、やはり艦娘の姿を見るや好奇の視線が集まる。なぜここを艦娘が歩いているのか?と。食事中も店員がジロジロと見て落ち着かない。九重提督も視線をヒシヒシと感じているのでさっさと食べて足早に店を出るくらいである。

 

「提督と艦娘はー!暴力装置だー!!!出て行けー!!」

 

「「「出て行けー!!!!」」」

 

商店街を歩いているとそのように叫んでいる団体がいた。日本なら仕方ないか。艦娘を快く思わない市民団体だ。少なからずこの手の団体はいる。あちこちに。その割にはこんな海で深海棲艦が来るかもしれない場所で必死に叫ぶのだ。ご苦労なことだ。

 

「なあ、提督…あれって何だ?」

 

「あたし達をよく思わない連中よ。無視なさい」

 

「……提督…私たちは…暴力装置…兵器…なんですよね…」

 

「…うう」

 

「アンタ達は艦娘よ。心があり、かわいい服を着たり遊んだりする権利があるのよ。この国を、海を守る正義の味方なのよ。決して暴力装置なんかじゃないわ」

 

………

 

「てやんでぇ、てめえ!!!!家を継ぐ気もなけりゃ海軍に入るだぁ!?海を守るなんざ言っといて戦争してえだけか!?ああ!?」

 

「何とでも言えばいい。あた…僕は自分で決めた道を進む。父ちゃんが好き勝手言おうが僕は進路を自分で決める!!」

 

「出て行け!てめえみてえな親不孝モンはいらねえ!俺の息子じゃねえ!!!出て行け!!!!」

 

「鏡二郎…考え直しておくれよ!戦争に加担するなんざ正気じゃないよ!!」

 

「その戦争をしなきゃ日本は滅びるんだけどね。言いたいなら勝手に言っておきなさいな。アタシはアンタたちみたいな守られておいてそう言うことを平気で言う人が大嫌いよ!!」

 

………

 

情けないことに自分の両親もああいった活動を行っている。もう何年も連絡もしていないし、好きにやればいい。寿司屋を継げ。それがお前の進路だ。勝手に決めてくれるな。アタシはこのキラキラ輝く艦娘ちゃんたちをもっと強く、もっと美しくしたいのよ。暴力装置?ふざけんじゃないわよ。

 

「こりゃあたまげた。この艦娘は兵器だとギャーギャーうるさい商店街に艦娘と提督とは…」

 

「げっ、やばくねえか、提督…?」

 

「こんにちは。この度宿毛湾の提督になりました九重と申します。今後は結構な頻度でお邪魔すると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」

 

「お、おお…それはご丁寧に…私はここの組合長だ。ここは見ての通り、毎日のようにああいった団体が来るし、前の提督みたいに悪い人ではなさそうだが…」

 

「前の提督がご迷惑をお掛けしましたでしょうか?」

 

「ああ…」

 

横須賀と同じだ。嫌がらせ、集り…脅しをしたせいで印象が悪いらしい。しかし、おどおどとしている磯波や浦波。若干人間に怯え気味である天龍を見ていると。そして、何も悪巧みなど考えていなさそうな提督を見て、組合長はある程度…警戒心を解いた。

 

「むー…まあ、私から呼びかけてはおくがね…」

 

「ええ。よろしくお願いいたします。それと、ちょっとあのうるさいのを退散させてきますね」

 

「お、おい待ちなさい。何をされるかわからないぞ!」

 

「天龍ちゃん、磯波と浦波とそこにいなさい」

 

組合長や天龍の制止も聞かずに団体のもとへ向かう九重提督。

 

「出て行けー!なんだね君は」

 

「アタシはここ、宿毛湾に新しく着任した提督よ。アタシや艦娘達が何かしたかしら?」

 

「提督!?暴力装置の親玉か!出て行け!この地にはそんな戦争に加担する連中は不要だ!」

 

「あら、ならあんたは地元の団体?」

 

「そんなことはどうでもいい!それよりも「話をそらさないでもらえる?あんたたちは見た感じ地元の人じゃないわね。大方関東かどっかからここまで来たんでしょ。遠いところご苦労様」

 

「な、なん…」

 

「あんた達みたいなのと何度もバトってんのよ、アタシ。1つ聞きたいんだけど、あんた達、お魚は食べる?」

 

「はあ?」

 

「食べる?食べてない?」

 

「そりゃあ、食べるに決まっておろう」

 

「その魚を漁師さんが安全かつ新鮮に届けてくれるのは誰のおかげかしら?」

 

「…………」

 

「艦娘を罵っておきながら海に近いところにノコノコやってきて?魚を食べて?いざ危険が迫れば内陸に帰ってそこでワーワー叫んでるわけよね?発言の自由が保障されているものね?けどさあ、ムシがよすぎない?って言うか戦争ふっかけてきたのは人間でも提督でも艦娘でもなくて深海棲艦よ?何で深海棲艦に抗議はしないの?」

 

提督のマシンガンのような質問攻めが続く。

 

「深海棲艦と話し合えばわかるって言ってるけど、あんた達行ったことあんの?遠洋まで出向いて。ここで言ったってなーんにも変わりはしないわよ?行ってきなさいな。まあ、海外のあんた達みたいな人たちが実際に行ったらしいんだけど、見つけ次第魚雷で粉々にボーンって吹っ飛ばされたみたいだけど。艦娘を罵る前にまず原因を責めなさいよ。艦娘は痛いのも我慢して、それでもあんた達みたいなのも守ってるわけよ。わかった?アタシをどうこう言うのは構わないけど、艦娘を一方的に罵るのだけはガマンならないわ」

 

提督は艦娘が好きだ。美しく、かわいらしく、それでいて強くて誇り高い。両親もこぞって艦娘を罵った。その握っているネタを誰が獲って来てくるのか。それを安全に漁ができるのは艦娘のおかげで。それなのに口汚く罵る父と、従う母に嫌気がさした。

自分はそうはなりたくない。むしろ艦娘に敬意を表した。そして、そんな艦娘と共に戦いたくなった。悪い頭で必死に勉強をし、成績ギリギリで軍学校に入り、目指していたデザイナーもやめ、提督になった。まあ、デザイナーや衣服を作る夢は捨てきれなかったので艦娘に作ることでその未練を晴らしている。

 

情けない。守られておきながらそのものを罵る。だから自分はこういう団体を見るとすぐにちょっかいをかけにいった。安全なところで艦娘を罵るしかしない無能な団体。心底呆れるものである。

 

「前は本当にバカみたいな提督だったけど、アタシが着任したからには艦娘をぞんざいには扱わないし、街で変なこともさせない。守るべき人と海はきっちり守る。それでいいでしょ?どうせ、ここの提督がやらかしたニュース見てこれ見よがしに飛んできたんでしょ?関東辺りから」

 

「ち、違う!我々はここの住民だぞ!?」

 

「はて、あなた方みたいな人たちは何十年と住んでますが見ていませんな。それと、駅前のホテルに泊まっているのを見かけましたが?」

 

組合長からの援護射撃である。例のニュースの後からこう言った団体が毎日のように代わる代わるやってきては大きなマイクを使ってみたり、何十人と集まってのぼりを掲げて商店街を練り歩くなど迷惑行為が多発していて組合長を含め、辟易していたところだった。

 

「~~~ええい黙らんか!!!俺はここの市会議員と懇意にしているんだぞ!!このことを言えばこんな艦娘を擁護する商店街なんぞな!!!」

 

「あら、それはこわーいわねぇ。それって脅迫?アタシをそんな程度の低い脅しで追い払えると思ったら大きな間違いよ。そんなもんが怖くてね!提督なんてやってらんないのよ!アタシには何十人といる艦娘の命と!この国と海の平和を背負っているのよ!!!それを説き伏せられるもんなら!説き伏せてみんかい!!!!」

 

カッと大きく目を見開き、大きな声で背負っているものの違いを見せつける。絶対沈めない。ぞんざいにしない。そんな艦娘の命。国、海。提督にはたくさん背負わねばならないものがあると思っている。宿毛湾に着任したからには彼らの命の保証、漁師たちの安全の確保などもしっかりと行わねばならない。そんな宿毛湾、四国の人々の命を預かるのだ。無責任に言うだけの団体と一緒にするな。そう思って睨みつける。

 

「わっはっは!!ええ啖呵じゃ!わしゃそういうのに弱いき。提督さん、おんしゃええ提督なんじゃのう」

 

九重提督が啖呵を切ったと同じく、恰幅の良いスーツ姿の男性が笑いながらやってきた。組合長は「あっ…」と声を出すし、新たな敵だろうか。

 

「おう、時におんしゃら、市会議員と仲がええっちゅうとったが、誰とじゃろうか?ちくっと名前を教えとーせ。わしが話を通したるぜよ」

 

「え。ええと…」

 

「わしも市会議員と仲がええんじゃ。ほれ、言うてみい」

 

面倒くさい。ここに来てまた仲間が増えた。方言から見て仲間だろうか。

 

「さ、坂本と言う議員です…」

 

「おお!!!奇遇じゃのう!!!!わしがその坂本ちゅう市会議員じゃ!!!!」

 

「え!?」

 

「で、おんしゃら誰かいの?顔も見たことがないぜよ。どこの誰じゃ?わしゃ顔が広いがおんしゃらの顔はまっこと覚えがないぜよ。誰かいの?」

 

「う、ううう!!!」

 

まさか言った名前の議員だったとは夢にも思うまい。しばし唸ったあと、勝ち目はないとわかったのか逃げて行った。

 

「わっはっはっは!!なんじゃあ!呼ばれたから来たちゅうに。のお、組合長さんや!」

 

「え、ええ。まさか先生。本当にいらっしゃるとは…」

 

「なんぞううるさいのが毎日来とって困っとるって言うとったき、気になって見に来たぜよ。いやぁ、わしの名前を出すとは痛快じゃ!!!」

 

わっはっはっは!と大きく笑う市会議員。なるほど、この組合長さんが呼んだと言うことか。

 

「いやぁ、提督さん。不快な思いをさせてしもうてすまんがじゃ。前の男はいけ好かんやつやったが新しい提督さんは熱い提督さんじゃ!わしゃ感動した!ようこそ宿毛へじゃ!!!」

 

バンバンと背中を叩かれる。痛い…しかし、気に入られたようだった。

 

「提督!おい、大丈夫かよ!ったく、提督はああいうの見ると見境なしに噛みついていくんだからよぉ…」

 

「提督、お怪我はありませんか?」

 

「おーおー艦娘じゃ!生で見るのは初めてじゃ!これからはここでよろしく頼んますわ!!」

 

「は、はい…」

 

「先生、ありがとうございました。助けられましたわ」

 

「なんっちゃあ!んなこと気にせんでよか!何かありましたら遠慮なく、厄介ごとでないなら言ってつかぁさい!!ガッハッハッハ!!!」

 

恰幅の良いこの宿毛市の市会議員であると言う男性に助けられた。そのあとは我が街をどうぞ見て行ってください、それからこの街のことをどうぞよろしくお願いしますと丁寧に頭を下げられた。前の提督のこともあり、良く思われていないだろうと思ったが杞憂に終わった。前の提督は前の提督。ありゃクソじゃき。とサラッと毒を吐いたが。おんしゃ悪い人じゃなさそうじゃきに!とのこと。何せ艦娘が嫌がっていないからだとか。見るところはきっちり見ている人だった。

 

商店街を案内してもらい、気楽に買い物が外へ出てできる喜びを(主に九重提督が)味わい、収納ボックスやホットケーキミックスを大量に買って帰ることとなった。組合長さんもまたおいでくださいと歓迎気味。

 

どうも毎日前の提督の一件以来、人が代わる代わるやってきてはうるさいスピーチでうんざりしていた。艦娘に罪はない。悪いのは提督であると信じて疑わなかった組合長と議員の坂本氏。九重提督が自ら抗議に行き、さらには退散させられることができてスッキリした、とのことでいろいろとおまけももらってしまった。

 

お礼はいらない。海を守ってくれるだけで充分じゃき!と坂本議員は笑っていた。組合長さんも同じだった。海と共に生きる者同士。お互い肩ひじ張らずにやっていきましょうや、とのことであった。

 

………

 

帰ってくると自分を置いて勝手に出て行ってしまったことを大変怒っているリベッチオが玄関でフグのように頬を膨らませていた。

 

「違うのよリベ!!アンタもちゃんと連れてってあげるから!今日はお仕事のために必要なものを買いに行ったのと、ホットケーキミックスが安かったから!」

 

「ホットケーキ!!!リベ、それ10枚で許してあげるよ!提督!」

 

「今日は無理!お片付けがまだでしょう!?」

 

「ぷー!!!!!」

 

「すぐに膨れないの!さあ、磯波と浦波!ちゃちゃっとやっちゃってこのフグッチオをどうにかするわよ!」

 

「フグじゃないもん!リベだもん!!!」

 

「あーーーー!!!」

 

「フグッチオ!!あははははは!!!いてえ!!オラ!叩くなリベ!!!」

 

「フグじゃない!!」

 

あははと笑う浦波。クスクスと笑う磯波。本来なら、帰って来てしまった…と憂うところであったが、雰囲気はまるで違うし、優しくていろんな服を用意してくれる提督。宿毛湾に帰ってきたとしても、新しい場所のように1からやり直せる。そうして楽しい思い出を作っていくんだ。そう思う。

 

それは酒匂や高雄など、元宿毛湾のあの提督の艦娘達も同じであった。結局あまりにうるさいリベッチオのせいで作業は中断。ホットケーキを大量に作らされるハメになり、酒匂や高雄まで一緒になって食べていた。

秘蔵のメープルシロップもこれで気にせず買いに行けるので「もうどうにでもな~れ」」の勢いでこれでもかとかけた。リベッチオも酒匂も頬に食べかすやシロップをつけながら食べ、高雄に笑われていた。

 

新しい泊地。宿毛湾泊地。嫌な思い出はもう1カケラもない場所で、もう1度やり直すである。

 

「ちょっとあんた達!いつまで食べてんの!?まだ片付け終わってないんだから早く作業に戻りなさい!!!」

 

「げっ、うるせえのが来た!」

 

「あら叢雲、あんたも食べる?はちみつたっぷりかけてあげるわよー」

 

「…………ま、まあ出してもらえるのなら、食べるけど」

 

「ちょっろ」

 

「うるさいわね!!あむっ…ひれえふぁん、ふぁにほれおいひいじゃらい!!」

 

「うわっきたね!!食いながらしゃべんな!」

 

「あははは!!そのはちみつもとっておきのだったけど、もう日本に来たんだから気にせず買えるわぁ。日本最高よ~!」

 

「グラッツェグラッツェ♪」

 

 叱りに来た叢雲までひたすら食べまくり、提督達も揃って晩ご飯が食べられず、伊良湖に怒られるのだった。




「お前とっとと異動しろ」の言葉で異動が早まり、ドタバタの宿毛湾着任でした。
次回は磯波視点で心境を語ってもらいましょう。トラウマの地へ帰ってきたけど様変わりした宿毛湾…その劇的ビフォーアフターをおたのしみいただければと思います。

それでは、また。
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