提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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七原提督。再び横須賀鎮守府に降り立つ!今回は蒼龍、金剛、山風と共にやってきました。

もちろん、目的は蒼龍の艤装の修理ですが、玲司を最期まで守り抜いた艦娘、金剛…その顔を見ると…?


第百九十九話

「うっぷ…」

 

「テートク、しっかりするデース…」

 

「お姉ちゃん…大丈夫…?」

 

「ちょーっと他の人には見せられない場面がいっぱいだったなぁ…」

 

顔を真っ青にして船から降りる七原提督。海に揺られること長時間、船酔いでゲロゲロになり、おおよそ他の人には見せられない場面を連発させ、金剛や蒼龍を大いに困らせたものだった。

 

「お待ちしておりました、七原提督。あの…顔色が優れないようですが…」

 

「あはは…、だ、大丈夫…うっぷ…ぎ、ぎぼぢわるい…お、お手洗い…」

 

「ノオオオ!!!ここで吐いたらダメデスヨー!!!」

 

「えっ!?」

 

かくして三条提督に見つかる前に何とか吐き気止めまでもらって落ち着くの待ち、やっと三条提督…玲司のもとへと向かうのだった。

 

「ようこそ、横須賀へ。何か…その…大丈夫ですか?」

 

「は、はい…ご迷惑をおかけしました…」

 

「それで…ああ、刈谷提督から話はお伺いしております。さっそく修理に見せに行きますね。ああっと…そっちの艦娘は…」

 

「山風ちゃんです。ちょっと精神的に不安定なので連れてきちゃいました…」

 

「構いません。うちも霞が不安定なのでみんなで面倒を見ていたりしますからね…それと…」

 

七原提督は見た。金剛を見た途端に悲しそうな顔をした三条提督を。何だろう。金剛に何か嫌な思い出でもあるのだろうか?

 

「テートクの護衛で来まシタ。金剛デース!!」

 

「提督?」

 

「ん?ああ、すみません。大丈夫。みんなで泊まれる施設も作ってありますから問題はありません。お風呂も艦娘と入れる大浴場がありますので使ってください。って、入ったことありましたよね提督は。ああ、夕立に気を付けてください。その…人の胸を…えっと…もむのが好きなので…」

 

「ああ…ははは…伊勢ちゃんによくやられていますので…と、言うかもうされました…」

 

「村雨をつけます。時雨もつけます。そうすれば制御はできるはずですので…」

 

「ありがとうございます…?」

 

「それじゃあ明石が今か今かと待っていますので行きましょうか」

 

金剛をちらりと見ながら工廠へと向かう三条提督。やはり金剛に何かあるのだろうか。

 

七原提督は知らないが、玲司にとっては金剛は特別な存在である。

 

バイバイ…ワタシの最愛の人。

 

消えゆく最後に小さく聞こえた彼女の声。光となって消えた。そして…最初から最後までショートランドで一緒に生活した艦娘だった。金剛を見るたび自責の念に駆られる。いや、金剛だけじゃない。皆を死なせてしまった自責の念が今も彼の胸にある。金剛、比叡、榛名、霧島…伊勢…雪風…全ての艦娘に申し訳ないと言う念がずっとある。ここで皆と生活し、笑いあう中でムクリと甦る念。

 

いや、今はそれは考えることはやめよう。まずは蒼龍の艤装を明石に直してもらわねば。

 

「待ってましたー!!!!さあ、今すぐ艤装を見せてください!ハリーハリーハリー!!!!」

 

「落ち着けって…!七原提督。彼女が今回蒼龍の艤装を直す明石です」

 

「よ、よろしくお願いします!あ、あの…蒼龍ちゃんの艤装は本当に…?」

 

「百聞は一見に如かーず。この『原初の艦娘』であり『契の女王』明石にお任せください!」

 

「ええええええええ!?!?!?!?」

 

「提督うるっさ!!!!」

 

「シャラーップ!!!」

 

「お姉ちゃん、うるさい…」

 

「げ、げげげげ原初の艦娘…さ、最強の十傑…の1人…」

 

「ああ、そういえば前回はお会いしてませんでしたね。今ここには明石、龍驤、川内、島風がいますよ」

 

「は、はえー…やっぱり横須賀ってすっごい…」

 

「原初の艦娘」…最強の十傑集。この世に初めて生まれた艦娘達。見た目は変わらないが…実際に見るのは初めてだった。

 

「さ、さて…蒼龍ちゃんの艤装を拝見しますよー。ふーむ…見た目は普通ですが…『解析開始』…内部に異常あり…大きな破損…修復…不可」

 

「ふ、不可…!?」

 

「七原提督、待ちましょう。明石は今蒼龍の艤装の解析を行っています。解析中は不可と言いますが、実際にはぽんぽん直してしまう。今は待つしかないです」

 

まぶたがけいれんしているかのようにピクピクしながら艤装に触れながら『解析』を行っている。明石の解析。中をバラさずとも全て解析し、不具合個所を確実に発見し、問題を解決する。それはさながらコンピューターに繋がれた車のエンジンのようである。七原提督は中を開けてみて「これは修復不可能ですよ!」と言われている。しかし、ここの明石はどうか…。

 

「ふいー。解析完了!艦載機収納のエレベーター…あー、っと矢を艦載機にする機構の個所が壊れていますね。なるほど、これじゃあ艦載機を搭載する数も減るわけです。これは直せないなぁ」

 

ああやっぱり、そういう結果か。来るだけ無駄だったのか…。いや、明石はムフーと鼻息を荒くして得意げに続けた。

 

「普通の明石なら…ね!この明石にまっかせてください!はい、艤装装着!まずは艤装の全解体、よいしょー!」

 

艤装を背負い、工具が飛び出てきた。ドライバーのようなものが蒼龍の艤装にコツンと当たったかと思うとガシャア…と艤装がバラバラになってしまった。「ああああ!?」と蒼龍が焦ったような声を出す。

 

「わ、私の艤装が…」

 

「あー、これですね。壊れているのは。これは交換かなー。よっし!『航空母艦蒼龍の艤装をトレース。部品ヨシ。構造解読。作成に必要な部品点数確認ヨシ。破損個所の構造解読完了。同時に艤装強化の提案。提案、可。眼前の航空母艦蒼龍。練度ヨシ。艤装強化に耐えうる練度と認定。これより作成に入る』」

 

明石の「契の女王」の能力『無限の生成《インフィニティワークス》』である。彼女の頭の中には現存する艦娘の全て(ただし国内の艦娘に限る)の艤装がインプットされている。海防艦から潜水艦。戦艦…あらゆる艦娘の艤装が頭に入っており、それを100%そのまま製作することが可能である。また、今はイギリスのウォースパイトやアークロイヤル。ジャービスなど、海外の艦娘の艤装も頭に叩き込まれている。

 

ここにさらに、内部構造を解析する透視解析を行うことが可能なため、故障、不具合個所を即座に発見し、修理が可能である。そして、「契の女王」だからこそ、艤装を丸ごと1から作ろう、などと言うことが可能なのだ。

 

「この艤装は残念ですがすでに『死んで』います。よくまあこれをここまで酷使したなぁと言う感じです。蒼龍さんが前いた所の提督はこんなのも直すことまで惜しむなんてなぁ。蒼龍さんって改二ともなればそこは二航戦。大活躍できるって言うのになぁ」

 

「うちの蒼龍もそうなろうと今必死で頑張ってるもんな」

 

「そうそう。うちの蒼龍さんも翔鶴さん曰くいい筋してるってお墨付きだよ。ああ、それから…翔鶴さん、あーうーん、ここでは言いにくいなぁ。また今度でいい?」

 

「何だよ気になるな、もったいぶんなよ」

 

「女の子がいっぱいいるからダメー。って言うか、あんまり男の人には言っちゃいけないことだからね。七原提督ならわかるかな?」

 

「え?月のもののこと?」

 

「わお鋭い」

 

「は?何だそりゃ?七原提督…それって「はーい、セクハラでーす」

 

「何ぃ!?」

 

「あ、あわわわ…そ、それはちょっと…」

 

「む??」

 

「ま、今度教えてあげるから。翔鶴さんを大事にするんだよ」

 

「そりゃあもちろん。翔鶴は大事な俺の未来のお嫁さんだからな」

 

「ワーオ!フィアンセデスネ!?テートク、かっこいいデスネ!」

 

「はは、いろいろと準備もしてるんだぜ?」

 

「オーウ。幸せにしてあげてくだサイネ」

 

「…ああ」

 

また金剛を見て悲しそうな顔をしている。金剛は笑って気付いていないが、七原提督は見逃さなかった。今はそれよりも蒼龍の艤装が気になっている。後で聞いてみよう…。

 

「一応このあたりの使えそうなパーツは流用します。手入れはしっかりされていますから、そのまま使っても問題はないですね」

 

明石は雑談が好きだ。龍驤がげんなりするくらい一日中喋っていることもある。だが、その間も手と艤装の動きは止まらず、凄まじいスピードで艤装を組み立てていく。壊れていたパーツはそこに転がっている。しかし、同じようなパーツが吸い込まれるかのように取り付けられる。

 

ポカーンと見るしかない岩川基地の面々。すごい…と山風が感嘆の声をあげた。

 

「しれーかん、いるー?」

 

「あれ、霞ちゃん?」

 

「しれーかん、いたー!」

 

霞…確かに駆逐艦霞であるが…七原提督達の知る霞ではない。

 

「おお、霞、どうしたんだい?」

 

「んー?しれーかんのおかおがみたかったの!」

 

「ははは、そっかそっか」

 

「んふー♪」

 

「しれえ!見つけました!」

 

「司令官みぃつけたぁ~♪」

 

「いたいた!もう探したんだからー」

 

「雪風、文月、皐月もか。どうしたんだ?」

 

「えへへ、しれえに会いたくなったので大淀さんに聞いて来ました!はっ!し、失礼しました!」

 

雪風が七原提督の顔を見るとがるーんと大きく頭を下げてお辞儀した。

 

「ふふふ、みんな元気であまえんぼさんだね。わたしは七原すみれっていうの。よろしくね」

 

「よろしくおねがいしまぁす」

 

「うわぁ、七原提督のおっぱいすごーい!」

 

「え、ええ…」

 

「こら皐月、七原提督に失礼だぞ」

 

「あっ、ごめんなさーい」

 

「んっ、えへー♪やーらかい♪」

 

「あっ…お姉ちゃんのその場所は…」

 

「山風ちゃん、後でしてあげるから…」

 

霞が七原提督の胸に埋まる。山風のほぼ専用ともいえる場所を霞に取られてしまった。それに頬を膨らませて嫉妬している。

 

「あの…三条提督…この子は…」

 

「『駆逐艦 霞』だよ。いろいろとあって精神が壊れちまった子だ。うちで引き取ってみんなと楽しく生活している。戦うことはもちろんできない。うちは心にトラウマや傷を抱えている子が多いからね」

 

「わたしたちと…いっしょ…」

 

「山風達もそうかな?金剛のその目も刈谷提督から聞いているよ。村雨の時は何も考えずにやっちまったけど、よく考えると後でどんな作用が起きるかわからないんだ」

 

「確か血を垂らしたと…」

 

「俺は人じゃないからな。深海棲艦の血が混ざっている。七原提督は知っているでしょう。村雨の目や時雨の壊死した足を治したのは俺が血を垂らしたからです。奇跡的に回復しましたが、研究所では余計に溶けたり…あー、これは山風達には聞かせられないな…」

 

「???」

 

「いいんだよ。わたしにはわかりました。三条提督も…過去は…」

 

「まあいろいろありましたね。人を恨んだこともあります。けど、今は極力人と関わらなくていいから助かりますよ、ハハハ」

 

人間からろくな目にあっていない人は人と関わりたくない。七原提督も同じく人からいじめられたりしてきたため、今の生活は合っていると思う。時々恐ろしい人からの電話でガクガクしているが。

 

「兄さんの人間嫌いは相当ですからねー。まあ、今じゃ少し改善されましたけど。電話でうるっさい人から電話がよく来たりするそうですよ」

 

「それって…刈谷提督ですか…?」

 

「正解…」

 

「やっぱりそうですよね!突然電話をかけて来てはあーだこーだと!」

 

「そうそう…ほんと…難題を吹っ掛けてきたり…」

 

何だか刈谷提督のことで意気投合している。そもそも、七原提督と玲司以外はほぼ電話なんてそんなにかけたりはしない。アドバイスが3割。ちょっかいが7割の電話である。それだけこの2人を買っているのだ。

 

「まあまあ、刈谷提督は用がない、興味がない人には電話しない人ですから、2人は気に入られてるんですよ」

 

はあ…と大きなため息をつく2人。あんなのに好かれてもな…と思うが…まあ、嫌なことも腹が立つことも言われるが、後からそれが意味のあることだったと理解することができれば…まあ、いいんじゃないだろうか。

 

「ほい、できましたよー。あとは組み立てるだけですね」

 

「はや!?」

 

「いやぁ、これくらい姉達の艤装に比べれば軽い軽い。あとは朝潮ちゃんや神通さんのに比べればね」

 

「朝潮ちゃんや…?」

 

「あー、うちの鎮守府独自の私オリジナルの艤装を持つ艦娘がいるんですよ。複雑に作りすぎちゃって…てへっ」

 

かわいく言っているがその艤装はこの明石にしか作れないオリジナル。「女王」の艤装。他の明石では作れない。そもそも構造が複雑すぎるのだ。知識もないし、技術もない。「契の女王」だけが作れる艤装。まあそれはさておき。

 

「明日までにはちゃんと組み立てられますよ。バラすのは一瞬なんだけどなぁ。この今はいないですけど綾波さんや榛名さんの艤装もバラして作り直すの楽しかったなー」

 

「ほへー…」

 

「むにゃむにゃ…」

 

「あーあー…霞、起きなさい」

 

「あはは、いいんですよ。山風ちゃんもすぐ寝ちゃいますから…」

 

「霞が怯えない…こんな簡単に寝るとは…」

 

「え?そうなんですか?」

 

霞は過去の記憶は飛んでいるが知らない人には極度に怯えることもある。最近は無警戒だが。アーサーが来たときは怯えて隠れっぱなしだった。七原提督はその朗らかさから、子供や駆逐艦によく懐かれる。手を焼いたのは山風くらいだろう。巻雲も人に怯えるが七原提督にはすぐに懐いた。長波はすぐに尻に敷こうとする。それだけ彼女の優しさがにじみ出ているのだ。

 

玲司も手を焼いたのは雪風くらいだろうが。深海棲艦になるか否かの必死の奔走だった。響は多少警戒していたが今はもう普通に膝に乗ってくるくらいには懐いた。玲司や七原提督の優しさは…純粋な心を持つ艦娘にはなびきやすいのだ。邪な心を持つ人間には嫌悪感を持つが、提督には逆らえない刷り込みがある。難しいところである。

 

「兄さんのなつかれやすさはすごいですからねー。ショートランドでもそうだったんじゃないかな?」

 

「え、ショートランド?今は廃墟のままほったらかしにされていると聞きましたが…」

 

「あれ?ご存じないですか?玲司君はショートランド泊地最後の提督。ショートランド海戦で見事勝利を勝ち取った提督ですよ」

 

「ええ!?」

 

「明石、やめろ」

 

「ワーオ、ショートランド海戦と言えば聞いたことありマスネ。100人の艦娘で1000隻の深海棲艦をやっつけたって聞きマシタ」

 

「へー、司令官ってそんなすごい司令官だったんだ!」

 

「司令官すごぉい」

 

ショートランド海戦。それは数年前の伝説の海戦。日本の危機を1人の提督と100人の艦娘で救ったと言う。稀代の名将、英雄。玲司は今でこそそう呼ばれることもないがそんな提督なのだ。

 

だが彼はいつもそう言われると拒否をする。

 

「いいや、違うな…俺は…99人の艦娘を死なせた無能だ。英雄でも何でもない。無能だ」

 

そういう。彼女たちと勝利を刻むこともできず、青葉だけが生き残り、そしておめおめと自分が生きている。

 

「金剛…金剛の顔を見ると悪いけど思い出す…皆の最期を…俺が…俺が全員…青葉以外…沈めたんだ…」

 

「どうしてワタシなんデスカ?」

 

「俺の初期艦は金剛だったんだよ。今でも思い出す。金剛が消えていくところも…最後の言葉も…」

 

金剛、比叡、霧島…榛名。伊勢、綾波、雪風…ああ、思い出せばキリがない。皆が遺していった最期の言葉。きっと俺を恨んでいるだろう。皆…。

 

「三条テートクはみんながテートクを恨んでいると思っていマスカ?」

 

「ああ。俺が皆を死なせたんだ。迫りくる深海棲艦に修復もろくにさせてやれず…皆…行ってくると」

 

「なら、テートクが死なせたと言うのは間違いだと思いマス」

 

「え…」

 

「テートク。テートクが覚えている艦娘達の最期の言葉は…恨み言でしたカ?」

 

忘れるはずがない。彼女たちの最期の言葉。

 

「司令。貴方といた時間はとても楽しかったです。どうか、この戦いに勝利を。我ら霧島艦隊。そのために死ぬと言うのなら本望!お別れです、司令。さようなら」

 

霧島。恨み言どころか顔は見えないが笑って死地へ向かって行った。敵を屠り、最後の最後まで奮戦し、全滅した。

 

「伊勢隊、行くわよ!提督。貴方ともっといたかったけど、ここまでね。しっかり勝ってよね!」

 

伊勢。俺ともっといたかったと言ってくれた。浮き砲台になる囮になり、金剛隊を敵から欺くために奮戦した。最期まで…俺の勝ちを期待して沈んだ。

 

「提督…榛名は…提督と出会えて幸せでした。勝利を…提督に!!!!!」

「恋も戦闘も負けません!司令!榛名と同じです!勝利を提督に!!!」

 

比叡、榛名。恨み言なんて一言もない純粋な一言。やめてくれ、行かないでくれと言っても頑固者で聞かなかった。伊勢が囮になり、金剛が猛攻撃を仕掛けた中、金剛が危険になると身を挺して突撃をし、金剛はそのまま泊地の危機を知り、大返しを行ってこれまた戦艦水鬼の艦隊に大打撃を与えて比叡はそのまま沈んだ。その際、空母水鬼と刺し違えたとの報告が上がる大武勲をあげたと聞く。その戦いはまさに獅子奮迅。榛名は最期には青葉をも逃がし、金剛たちに合流させた。獅子奮迅の戦いについては青葉が語った。それを詳報にまとめた。

 

「司令官。今度生まれ変わった時も司令官のお側がいいです。そしたら、またオムライスを作ってくださいね」

 

ソロモンの狼。いや。ショートランドの狼とも言えるだろう綾波。去り際ににこりと笑って背を向けて金剛たちのもとへ参戦。駆逐棲姫を泊地前で討ち取っている。そして…そのまま満足そうな顔で沈んでいった。

 

「しれえ…雪風は…しれえといられて…かはっ…幸運でした…しれえ…頭なでなで…ああ、あったかいなぁ…」

 

雪風。金剛と共に戦艦水鬼と戦い、金剛を徹底的にサポートしたが邪魔と判断されて真っ先に落とされた。青葉が何とか陸に上げて横たわる雪風の頭を撫でた。その感触は今でも思い出せる。

 

「提督はすごい人ヨ。きっと守れるよ。だって、私たちの提督なんだから」

 

金剛。光となって眩く消えた最後の1人。演習艦からショートランドのリーダーに。とんだ大出世だったな。お前がいたから…俺はこうして生きている。お前たちを失ったことは痛すぎた。俺は無能だ。だから提督を続けるべきではない、そうして提督をやめ、コックとなって働いていた。

 

けど、やっぱり無理だ。俺には提督しかないらしい。金剛。みんな。俺を…俺を恨んでもいいのに…。

 

「三条提督。三条提督が書いたとは知りませんでしたけど、ショートランド海戦のことは詳報で読みました。凄まじくて私だったらパニックになってみんなをあっと言う間に沈めていたと思います。でも…艦娘は…それが使命なんです。やるしかないんです。でも…だからこそ眩く輝くんです。思い返してみてください。誰かが提督の事を悪く言って沈んでいった艦娘はいらっしゃいましたか?」

 

全てを思い出す。しかし最期にどうしてこんな戦にした。沈みたくない。そんなことを言う艦娘なんて一人もいなかった。

 

「座って待っててくだサイ。吉報を持って帰ってきマスからネー!!」

 

恨めばいいのに…どうして…。

 

『だってみんなテートクが好きだったからデースヨー』

 

そんな声が聞こえてきた気がした。涙が溢れてきた。もっと一緒にいたかった。もっと笑いあっていたかった。ごめん。ごめんな、みんな。

 

「そこで謝るのはノーね。そんな時はこういうデス。サンキュー!」

 

『司令官が生きていてくれてよかった。みんな、そう思っています』

 

青葉がそう言っていた。俺は青葉に違うと怒鳴ってしまった。きっと恨んでいるはずだと。

 

「あの…みんなしれえのこと、怒ってないと思います」

 

「雪風?」

 

「あたし、深海棲艦になっちゃうかもって時に…暗い暗いところで暗い海に引っ張り込まれそうになった時に…金剛さんに出会ったんです。あと…もう一人髪の長い…金剛さんのような…」

 

「それはきっと妹の榛名デスネー!」

 

「あ、えっと…その…榛名さんと金剛さんに会ったんです。あたし、しれえのことをよろしくお願いしますって榛名さんにも…金剛さんにも言われたんです。金剛さんを見て、思い出したんです。他にも…白いあったかい光がみんな言うんです。こっちに来たらだめ…とか…しれえを守ってあげてくださいとか…そうして…しれえと北上さんが出てきて…」

 

「あいつら…」

 

玲司は肩を震わせ、涙を流した。俺を…俺を守ってくれているのか…俺の幸せを願ってくれているのか…!俺は…いつも慰霊碑にごめんなって謝っているのは…迷惑なのか…?

 

「そういうときはね、ありがとうっていうんだよ」

 

「霞ちゃん?」

 

「ん?」

 

「どうしたの、突然」

 

「しれーかんがいるからかすみはまいにちしあわせ。だから、しれーかんをまもってくれたむかしのかんむすに、あいがとうって!」

 

「霞…」

 

なぜマイナスにしか気づけなかった。俺は…みんなに守られてきたんだ。だから今がある。こうしてまた…艦娘たちと笑い合って生きていける。それをあの子達に後ろめたさを感じながら生きてきてしまった。

 

俺は…なんて馬鹿なんだ…。青葉が言っていたじゃないか。皆さんの分まで一緒に生きていきましょうって。だから…俺は…あの子達に感謝して…じゃなきゃ…。

 

「浮かばれないデスよ、テートク」

 

「金剛ちゃん?」

 

「ホワット?今の言葉は…」

 

「……そうだ…そんなんじゃ金剛たちも心配で浮かばれないよな…」

 

「そうだよ、兄さん。陸奥姉さんだって龍驤姉さんだって言ってたでしょ。感謝して生きていきなさいって」

 

「……馬鹿だな、俺は。死んでからも迷惑かけてばっかりだ。あの子達は…全員光の粒子になって消えたと聞く。深海棲艦になった子は…いないんだな。よかった…」

 

横須賀の深海棲艦になってしまった艦娘を葬るのは心苦しい。しかし、もしショートランドの艦娘達が深海棲艦となって立ちはだかったら…と考えると俺はここの皆に…戦えと…いや、言わねばならない。ここのみんなと生きると決めたから。

 

雪風から金剛から。そう聞けたのならもう迷わない。俺は…今の子達と共に歩み、そして金剛たちとの約束を果たさないといけない。

 

 

また別の私たちを愛してあげてくださいネ。

 

 

その約束を…果たさなければならないんだ!!見ててくれ…俺は必ずここのみんなを幸せにするから!

 

「兄さん、吹っ切れた?」

 

「…そうだな。慰霊碑に行って、ちゃんと謝って来るか。んで、約束は守るからって言わないと」

 

「さ、三条提督!!」

 

「んお!?七原提督…どうしました?」

 

「三条提督はもう、ひ、一人じゃないんです!わたしも微力ですが、何かあればすぐ駆け付けます!一宮提督だって、九重提督だって…ええっと…刈谷提督もいます!みんなで戦えば…みんなで知恵を出し合えば!きっとどんな大軍団が来たって勝てます!!」

 

あの時は1人で全てを対処せねばならなかった。そして1人で全て解決させてやると思っていた。それがバカだった。今度は…そうだな。仲間がいる。だから…次にもし何かあったら…全員で勝鬨をあげて…勝利をみんなで祝おう!

 

「七原提督。ありがとう。何かあったらお互いに支え合いましょう」

 

「はい!!」

 

家族、仲間。そんなみんながいれば怖くない。よし、と意気込んでも今は特に何もないが。

 

「失礼します。提督、ここにいらっしゃると聞きまして…」

 

「ん?大淀か。どうした?」

 

「申し訳ございません。私の管理不行き届きで…妖精さんが暴走して建造を行ってしまいました…」

 

「まーた建造させろ病か…え?もう建造しちゃった?」

 

「はい…ですが大型建造ではありませんでした…ですが、提督の許可なく駆逐艦と戦艦が…」

 

「んー、まあいいんじゃねえか?艦娘不足は補いたいしな。で、駆逐艦と戦艦って…誰だ?」

 

「はい、こちらに…さあ、こちらに提督がいらっしゃいますので」

 

大淀の後ろから現れた艦娘に玲司は目を見開いた。

 

「ごきげんよう、特型駆逐艦『綾波』と申します」

 

「高速戦艦『榛名』、着任しました。あなたが提督なのね?よろしくお願いします」

 

噂をすれば何とやら…今先ほど思い出していた綾波…そして…榛名。まったくもう…妖精さんはほんと、そういうとこやってくれるよな。何て思っていると目頭が熱くなった。そりゃ泣いちまうだろ。

 

「司令官?あの…どうされましたか?」

 

「提督、どこかお体の具合が…」

 

「い、いや、違うんだ。何でもない。ようこそ、綾波、榛名。まずは…えーっと」

 

「ボク達が案内するよ!」

 

「文月たちにおまかせだよぉ~」

 

「雪風もお供します!」

 

「大淀、扶桑を呼んでくれ。そして榛名に戦艦寮…あー、いや、ダメだ。扶桑は方向音痴だから…えーっと…えーっと…」

 

「霧島さんでいいですか?榛名さんの妹さんですし」

 

「そ、それそれ…それで頼む

 

「ふふふ、了解いたしました。では、参りましょう」

 

「あとでまたちゃんと話をしよう。綾波、晩ご飯はオムライスでいいか?」

 

「え?おむ…らいす?」

 

「あー、あー…何でもない。晩ご飯は楽しみにしていてくれな」

 

「…?はい!」

 

いかん、昔の綾波と混同してしまっている。まったく、まいったもんだな。

 

「まさか、話をしていた綾波さんと榛名さん。特に、兄さんには榛名さんはくるものがあるんじゃないのかなー?」

 

「うるっせー。昔は昔。今は今。昔の榛名と重ねたりしないさ」

 

「はいはい」

 

七原提督はやっぱりここの空気、雰囲気はいいなぁと思う。優しい感じ。そしてアットホーム。誰もが心の傷を癒して笑っている。わたしの基地も負けてないけど、と少しだけ負けん気を出した。

 

「さて、私は集中して艤装を組みたいので全員退出してくださーい。気が散ってしょうがない!」

 

「あー、始まった…七原提督。お風呂にみんなで入って来てはいかがですか?俺は晩飯を作る準備がありますので」

 

「あ、はい!お邪魔させてもらいます!」

 

「あ、夕立は入れないようにしますので」

 

「わかりました。あはは…ありがたい…ですね」

 

「テートクのおっぱいをもんでいいのはワタシたちだけデース!!!」

 

「それもダメだからね?」

 

そうして風呂に言ったものの、七原提督は忘れていた。

 

「なんやこれ…何?うちに対する…何?なあ、これ何?」

 

「それ以上テートクに近づくなデース!!!」

 

「お姉ちゃんに近寄らないで…」

 

「よ、よくわからないですけどストップです!」

 

「ぐあああああああ!!!!!!!大きなお山がああああ!!!!!!!!!!」

 

龍驤の存在を忘れていたのだった。実はこの龍驤こそが七原提督を幼少の頃に救った艦娘なのだが…それよりも胸をガン見してきて因縁をつけてくる怖い子、と言うイメージしかもうなかった。

 

 

夕飯は新しい仲間が増えたときのルールにのっとり、オムライスである。霧島は相変わらずがっついている。七原提督達はおいしいおいしいと笑顔で食べていた。

 

「どうした、綾波?おいしくないか?」

 

「いえ…違うんです。なんで…でしょう…何だか…嬉しくて…涙が…」

 

「綾波ちゃん?」

 

「……ゆっくり食べな」

 

「ぐすっ…はい!」

 

「榛名も…なんだか懐かしい…と思う気持ちがあります」

 

「はふっはふっ!お姉さまっもそうはむっですか!私も…んぐっなんですよ!」

 

「霧島!行儀が悪い!!」

 

まるでショートランドから綾波と榛名が帰ってきたような。そんな気分になった。でもおかえりとはもう言わない。だって、ショートランドの2人とは違うのだから。でも…やっぱり…おかえり。そう言いたくなった玲司であった。




蒼龍の艤装の話がほとんど玲司のショートランド時代の話になってしまいました。直しながらの語らい。

そして胸に溜めてきた過去。過去との決別。前を向いて歩こうと言いながらも、一番後ろを向いて進めなかったのは実は玲司だった、と言うお話です。

次回からは蒼龍の艤装の修理中に語られる、200回を記念しての「ショートランド海戦」のお話を書いていきたいと思います。

次回もお楽しみにしていただければ幸いです。

それでは、また。
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