2018/10/07 台本形式を廃止&編集しました
三条 玲司(さんじょう れいじ) 25歳。性別 男。身長182cm
横須賀鎮守府鎮守府の提督になる予定。元ショートランド泊地の提督。ショートランド海戦の後提督をやめ、大本営の厨房で鍋をふるうコックに。小さいころから料理を作るのが好きでよく妹にオムライスを振る舞っていたことから、オムライスが得意料理。大本営でも絶品のオムライスを作る
性格はずぼらなところも多く、大雑把ではあるが非常に面倒見がよく、細かな気遣いなどをすることから同僚、後輩からの支持は高い。妖精さんや動物にめちゃくちゃ懐かれる。両親、妹は12年前の「湘南深海棲艦大侵攻」により死亡。彼だけが一命をとりとめている
………
/横須賀鎮守府 正門
善は急げとばかりにお気に入りのバンに乗り、走らせること2時間ほど。横須賀鎮守府に到着した。時刻は1250。到着すると伝えた10分前にはきっちりと着けた。ありったけトランクに積んだ米をどうしようかと頭をかいていると、ひょこひょこと女の子がこちらに近づいてきた
「あなた様が今日からこちらに着任される提督様でしょうか?初めまして。軽巡洋艦大淀です。どうぞよろしくお願いいたします、提督様」
「お、出迎えありがとな。大淀…」
笑顔で振り向いた先にいた大淀と名乗る艦娘。その姿は大本営で見慣れた凛とした姿とは大きくかけ離れているように見えた。目は隈で真っ黒にくぼみ、目には生気が感じられない。よく眠れていないのか?全てに絶望しているような黒い眼差しだった
顔はやつれている。髪は栄養が足りないのかバサバサのぼさぼさ。手入れはされていない。服はところどころ破れている。洗濯もしていないのだろう。あちこちが汚れている
何より玲司が一番気にしたのは左足。おおよそ正常とは言えない。足の甲が曲がっていてはいけない方向に曲がり固定されている。一目で。そして悲しいことに初見からこの鎮守府の異常さを玲司は痛感することになった。
「大淀、お前その左足…」
「左足がいかがなさいましたか?これくらい、艦娘ですから何てことはありません。どうぞ、提督様。執務室へご案内いたします…あの…私に手を出すのは構いませんが、どうかほかの子たちは…」
「何言ってんだお前?」
「お願いします…。お、犯すなら私だけに…お願いします…お願いします!満足させますから…お願いします…お願い…します…」
……前任の提督に早くも殺意が湧いた。大淀は最初から、自分がまず大淀に手を出すと予測していた。そうすればほかの鎮守府の艦娘たちに手をかけるのは後になる。仲間を守るために必死になってすがりついて懇願してきた。なんでだ。なんでこの国を。自分たちを守ってくれてる艦娘にここまでひどい仕打ちができる!!!
「ちょーっといいか、大淀。俺はお前たちにそんなことをするためにここへ来たんじゃないぞ。俺はお前たちを助けにきたんだ。前の提督は解任。そして永久にお前たちの前に姿を見せることはない。だから、自分から自分を汚すようなマネはすんな。いいな」
「し、しかし…それは…」
「しかしもヘチマもねえの。とりあえず、お前の足を何とかしなきゃなぁ。おーい!出番だぞー」
玲司が乗ってきたバンから飛び出てくる10人ほどの小人。妖精さん。食堂では玲司と共に皿を出したり、食材を運んできたりといなくてはならないパートナー。すぐさま玲司の肩や頭に乗っかり声をかける
「わー。ここがわたしたちのあたらしいしょくばですかー」
「うでがなります。なにをすればいいですか」
「すいじ、せんたく、おそうじ、だいく。なんでもござれ。さあ、ねがいをいえ」
「妖精さん、ドックを見てきてくれないか。たぶん、使い物にならないことになってるはずだからさ」
「むむ、おおよどさんのあしがたいへんだー」
「これはひどい」
「あたまにきました」
「ってわけだから、足を何とかしてあげたい。報酬は、金平糖2個ずつでどうだ?がんばったらもう一声いっちゃうぞ?」
「にこもくれやがるですか!」
「さすがにきぶんがこうようします」
「ぴんくいろだ!ぴんくのをにこよこせー!」
わーと妖精さんは中へ飛んで行った。相も変わらない賑やかさ。玲司が厨房で料理を始めてからずっと共にやってきた大切な相棒。大仕事と聞いて嬉々として仕事を開始しに行ったわけだ。
「心配ないさ。2時間もすりゃドックはちゃんと使えるようになる。お前の足も治る。ドック入りが必要な子に伝えな。風呂に入ってさっぱりすりゃ、気持ちもちったあ晴れるさ。その前に飯でも食って、一息しますかね!ってことで大淀。食堂まで案内よろしく」
「え、あ、は、はい…承知いたしました。それではこちらへ…」
「あ、お前はあっち、こっちって言ってくれりゃいいから。失礼するなー。よいしょっと」
言い終わるやいなや、玲司は大淀を抱え上げる。いわゆるお姫様だっこの状態だ。突然の行為に大淀は大パニックに陥る
「え、ええ!?お、おろしてください!歩けます!私、歩けますから!」
「いいのいいの。足いてえんだろ?こうすりゃお前は楽だろー」
「ふぇええん!……うう、こっちです…」
半泣きになりながら、大淀はこっちと指をさす。気にも留めず歩き出す玲司。驚きと恥ずかしさでいっぱいになりながらも、少し歩いたところで感じたもの。それは、今まで感じたことのない温かさ。自分を気遣ってくれる優しさ。彼女は人間の冷たさ、悪しき感情しか受けてこなかった。大淀はその優しさにもっとすがりたくなったのか、キュッと玲司の服を掴んだ。ひと時でいい。この優しさから、温かさから離れたくなかったから
/食堂
食堂のドアが開かれた際、そこに残っていた間宮は目を疑った。なぜか大淀が提督に抱かれて戻ってきたから。大淀が行って戻ってくるまでの時間は10数分。いかがわしい行為に及ぶには無理な時間だ。大淀の顔は耳まで真っ赤であり、だがどこか嬉しそうであった。提督は単に足を気遣ってここまで抱いてきたんだろう。間宮はそう思うことにした。そして、一目で彼が自分たちに危害を加えないであろうことを読み取った
「お、間宮がいるのか。それならラッキーだな。大淀、おろすぞ。ちゃんと座れよ。ひっくり返んなよ」
「わ、わかってます!ううう、こんなことって…計算外です…」
大淀をおろすと辺りを見回す。きれいに整頓はされている。おそらく、ここを管理している間宮が整頓しているんだろう。ぱっと見、火も水も使えそうだった。これは玲司にとってラッキーであった。料理は人を笑顔にする。艦娘もまた然り
「うーっし、聞いたとこだとレーションばっかり食ってんだって?そんなんじゃ気も滅入っちまうよな。せっかくだから、俺が今からご飯を作ってやるよ。な、お前も腹減ってるよな?夕立?」
…驚いた。あの一瞬見渡しただけで彼女に気づいていた。そう、ぼーっと…座っていた子…。金色の髪にリボン。碧の生気のない目で虚空を見つめる駆逐艦夕立。彼は、一目で彼女が夕立であることを見抜いた。新人の何も知らない提督ではない?間宮も大淀もすこし驚いていた
「ご…はん?あ…ご飯をたべて、しゅつげきですか…?ゆうだちがでれば…しぐれも…むらさめにも…ひどいこと、しないですか?」
「…?出撃はないぞ。俺の方針では一か月は出撃はしない。お休みだ。好きなことをしていいんだぞ?」
出撃はない。その言葉を聞いた夕立は大きく目を見開き、ガタン!と椅子を吹き飛ばすような勢いで立ち上がり、玲司につかみかかる
「だ、ダメ!出撃しなきゃ!夕立が出撃しなきゃ時雨と村雨を出撃させるんでしょう!?時雨も村雨ももう大破してこれ以上出たらし、しんじゃうよお!お願いします、提督様!夕立が行くから!夕立が行くからやめて!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…あ、あ、あああああああああああ!!!!!」
「夕立ちゃん、落ち着いて!」
「ああああああああ!死んじゃう!時雨も村雨もおおお!!やだあああああ!もうやだああああ!」
食堂に響き渡る夕立の絶叫。過去に何があったかなど、聞かなくともわかった。わかってしまった。怒りで脳の血管がブチギレそうだ。喉が渇いてくっついてうっとうしい。ここまで、ここまで夕立の心を追い詰めたのか。おそらく、時雨と村雨以外の白露型や、夕立と仲の良かった駆逐艦は海の底だろう。時雨を沈ませたくないのなら。村雨を死なせたくないのなら
戦果を稼いで来い。たとえ、随伴のお前の仲間(おともだち)が沈もうとも
結果、出撃=時雨と村雨の命が守られる。ということだろう。下衆だ。夕立を弄び、時雨と村雨。姉妹の命とほかの駆逐艦の命を天秤にかけさせ、心をすり減らしていった。そして夕立は壊れてしまっている。こんな状態で出撃など、させるわけにはいかない。しかし…玲司の言葉は届きそうもない…
そのとき誰かが夕立の前に立ちはだかり、夕立に強烈な平手打ちを見舞った、ぱしーん!と大きな音が食堂にこだまする
「夕立ちゃん、いけません!しれえが困っています!出撃もありませんし、夕立ちゃんのお姉さんがしぬこともありません!しれえのお話をちゃんと聞きましょう!」
小さな白い、ちょっと下着が透けてしまっている服を着た。栗毛のショートカットの少女が夕立の頬を張り、落ち着くように窘めた。
「雪風…ちゃん」
雪風。陽炎型駆逐。幸運の女神ともてはやされる駆逐艦だ。今まで見てきた子供っぽい性格とは違い、しゃきっとしたまとめ役のような存在。いや、そうせざるを得なかったのだろう。この様子では…
「しれえ!失礼しました!陽炎型駆逐艦八番艦、雪風です!どうぞよろしくお願いします!」
「お、おう。今日からここの提督になる、三条玲司だ。階級は大尉。ありがとう。助かったよ」
そういって雪風の頭をなでた。ひゃっと小さな悲鳴をあげたが、すぐに頭に手を伸ばしてえへへ、と少し笑った
「司令の手は温かいです!雪風は少し…うれしいです」
「そうかい。雪風。お前も飯食うか?」
「はいっ、いただきます!」
びしい!と敬礼が返ってきた。クスリと笑ってもう一度クシャっと頭を撫でた。椅子に腰かけ、しゃくりあげる夕立の頭もクシャリとちょっと乱暴に撫でたあと、一度食堂から消えた
戻ってきたときにはバカデカい麻の袋や、卵やら何やらをどっさりと持ってきた
「間宮ー。米こんだけ炊いてくれー。俺も準備があるから頼むわー」
「え、ええ?」
強引に米を炊くことを押し付けられ、困惑しながらも手際よく米を洗い、窯に火を入れて米を炊く。長いこと米を炊くことも許されなかったために不安を覚えたがそこは給糧艦。しっかり手際よく炊いていく。食堂から消えて久しい米の炊ける香りが、食堂に充満していく。雪風も。茫然自失の夕立も。大淀も。そのおいしそうなにおいに心を揺り動かされていった。
一方玲司は持ってきていた包丁を使い、大量の玉ねぎをみじん切りに。鶏肉も小さく一口サイズに切り分けていた。どでかいフライパンを火にかけ、油をたらしていく。玉ねぎに鶏肉を炒め、そのあとにケチャップを投入。ご飯のじわりと食欲をそそるのではなく、ガツンと暴力的なまでに胃に直接響かんばかりの匂いが辺りに漂う。その匂いに、戸惑うは艦娘たち。こんな匂いはかいだことがない
特に夕立や雪風は安久野が建造した駆逐艦だけに、干からびた米と味気のない味噌汁。まずいレーションしか口にしてこなかった。この匂いの衝撃はいかんばかりか
皿に盛られた赤い何か。ケチャップライスが並べられていく。これだけでも夕立も、雪風もお腹がぐうと鳴る。たが、ここからが玲司の真骨頂。今度は黄色に輝く何か。卵だ。雪風はもう玲司がやっていく魔法のような料理に目を輝かせ、危なくない距離を保って玲司の一挙一動をひたすらにみる。フライパンに広がる黄色のじゅうたん。器用に巻かれていくソレ。そして…
「いくぞー、雪風。ほいっ!」
「わあ、しれえすごいです!」
ぽーんと宙を舞う卵は、それが当然と言わんばかりにケチャップライスの上に乗っかる。そしてそれは布団のように、ケチャップライスを覆う。夕立もいつの間にかそれにくぎ付けだった。大淀も、間宮もその芸に目を輝かせるばかり
「さーって、俺特製オムライスの完成だ。さ、食べようぜ」
「え…?こ、このようなもの…」
「んー?お前らのために作ったんだよ。食べてくれなきゃ困るよ」
「よろしいのですか?このような…」
「元気になるにはまずはおいしいものを食べること。嫌なことも全部ふっとんじまうよ」
目の前にあるきらきらと輝くオムライス。それは、もうお前たちの我慢など無駄だと言わんばかりにおいしそうなにおいを放つ。
皆、おそるおそると口にした。口の中で広がる卵の甘味。ケチャップの酸味。ふわっと炊けたご飯。胸の中のどす黒い何かがスーッと消えていくような…。そんなおいしさだった。おいしい、と思うことでさえ初めてかもしれない
知らない間に涙がぽろぽろと止まらない。温かい。優しい味だった。手も止まらない
「おいしい…これが…おいしいってことなんだ…」
「おいしいです…グシュッ…とっても…雪風は幸せです…」
「…こんなおいしいものを食べれるだなんて…」
「よかったわ…こんな素敵なもの…」
皆、口の周りを真っ赤にして夢中で食べた。初めて食べたオムライスは…少し涙の味がしたと言う
料理でみんなを笑顔に。そんな感じで艦娘の心をほぐせるんじゃないかなってことで、抜群の料理スキルを持った提督と言うのを思いつきました。第三話までは連続でUPしていきます