提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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ショートランド時代の玲司のお話。そして伝説となったショートランド海戦のお話を書いていこうと思います。
今や廃墟のショートランド泊地の栄華を極めた時代をどうぞ。


二百話

ショートランド泊地。若手の提督は大体がここに着任すると言うのが発足したころからの謎の流れであった。特に優秀な若手の新米提督はそこに回されることが多く、近くにはブイン基地もあり、熟練の提督とも連携がとりやすいと言う理由からここに回される。

 

ただし、ショートランド海戦後はショートランド基地はほぼ瓦礫の山と化した場所のため、復旧は考えていない様子であり、軽微な損傷で済んだブイン基地が近海の深海棲艦と戦うことになっている。ショートランド泊地復活の計画は少しずつだが進んでいるが、やはり未だに目処は立っていない。

 

ショートランド泊地。ここに最後に着任したのが現横須賀鎮守府の日本を守ったとされる名将、三条玲司である。若くしてレイテのような大規模な戦をたった1人と100人の艦娘だけで撃退した伝説の物語が、ここにはあった。

 

これはショートランドの英雄。三条玲司と100人の艦娘の物語である。

 

………

 

始まりは玲司がまだ軍学校で訓練生だったころの話。彼は座学などに関しては平均的であったが、艦娘の扱いに関しては抜群にうまかった。負け続きで落ちこぼれ。彼女たちが担当になると必ず負けると言うジンクスを持つ艦娘達がいた。

 

金剛、隼鷹、加古、鬼怒、漣、白雪。この6人は落ちこぼれ組と言われてほとんどの訓練生が忌避する存在であった。

 

ある日の艦娘演習に玲司がこの6人の担当になった。相手は父が元一等海佐だぞと触れ回ってうるさいボンボン訓練生だった。彼は演習艦の中でもえりすぐりの常勝の艦娘を使う。練度も高く、実力がある艦娘達を率いる。

 

「あははははは!!!!三条!そんなクソザコな艦隊で僕に勝とうだって!?馬鹿だな君は!!!この僕が勝って君は今回の試験、赤点を取るといいさ!」

 

今回の演習は実技試験でもあった。艦娘を率い、どれほど艦娘を統率し、勝利することができるか。勝利ならば優。戦術的勝利ならば良。戦術的敗北ならば可。敗北は赤点。いわば試験にならず、再度追試となりややこしい勉強や反省文を書かされる始末になる。

 

艦娘と深海棲艦の戦いは敗北はすなわち己の死と心得よ。そうまで言われているほど、この実技演習は厳しい。しかし、候補生たちはこの金剛たちのせいで厳しい追試に追いやられることが多く、演習が終わった後にボロクソに罵られ、そして自信を失い、すでに戦う意欲を最初から失っている。

 

金剛たちの顔は暗い。下を向き、申し訳なさそうにしていた。向こうではすでに勝った気でいる候補性が作戦も考える気もなく、適当にやっても勝てるだろと余裕しゃくしゃくであった。

 

「よし、作戦を考えるぞ」

 

玲司がそう言うと金剛たちは目を丸くした。何を言っている。自分達のことを知らないのか?

 

「お言葉デスが、ワタシたちのことを知らないんデスカ?ワタシたちは担当になると必ず負ける能無しデース…」

 

その言葉に他の艦娘もうんうんとうなずいている。

 

「最初から負けるなんてことを考えるのはよくないな。何、勝つさ。相手を見てみろよ。適当にやれとか言ってるんだぜ?しっかりこっちは作戦を考えて相手を負かしてみようぜ。ああ、いや、絶対勝てってわけじゃないんだ。負けてもいい。でも、手を抜いて負けましたって言うのは金剛たちにとってもよくないことだ。

だから、な?一度思いきりぶちかましてみようぜ。俺がちゃーんと勝てるようにしてみせるよ」

 

この候補生は目の輝きが違った。蔑む目でもなければ嫌がる目でもない。目が輝き、まっすぐに金剛たちを見つめ、負けるなんてことは頭にない。そんな目をしていた。

 

「いいか。まず漣がだな…」

 

駆逐艦、漣、白雪にもきっちりと仕事をこなしてもらうよう指示する。鬼怒も、加古も平等に。大体の候補生は駆逐艦など相手にしない。弱いしすぐ大破するから放っておいて適当にやってろ。これが命令であるが、玲司は細かく鬼怒にも指示を出している。

 

「隼鷹が空から翻弄して隙だらけの千代田のどてっ腹に金剛が思いきり砲を撃ち込め。それで終わりだ」

 

「テートク…」

 

「俺はまだ提督じゃないぞ」

 

「いつまで待たせるんだ三条!!負けた時の始末書の書き方でも聞いてるのか!?早くしろ!!」

 

「ちっ、うっせえな。よし、作戦開始だ。鬼怒、漣、白雪。お前たちが頼りだ。頼んだぜ!」

 

そうして作戦は鬼怒、白雪、漣が戦艦空母を魚雷や砲で翻弄し、気が散ったところを金剛や隼鷹、加古が攻撃を繰り出す戦法だった。漣たちには相手駆逐艦は徹底的に無視をしろと言い、加古には駆逐艦を徹底的に攻撃しろと言った。

 

「お前ら、何してる!?そんなザコな駆逐艦くらい何とかしろよ!!!」

 

「駆逐艦をザコって言ってる時点でダメだ。加古!隼鷹!相手の巡洋艦と駆逐艦を徹底的にいけ!金剛!面だ!面で伊勢と千代田の動きを止めろ!」

 

でたらめに金剛が砲を撃っているように見えるが、玲司の指示通りに戦艦伊勢。千代田航の動きを止め、攻撃を恐れさせる作戦だ。そこに漣や白雪が魚雷を撃ち込み、伊勢に直撃。中破する。

 

「いいぞ白雪!そのまま伊勢を狙え!漣、いけ!」

 

「ほいさっさー!!」

 

急に針路を変えて向き直り、駆逐艦への攻撃を始める。伊勢の火力は落ちた。速力も低速であり、余計に落ちた。漣を狙おうにも金剛がいる。隼鷹もいる。伊勢は艦隊から分断され、挟まれる形になり、どちらを狙っても強烈な砲撃か、白雪の魚雷を再度喰らうはめになる。

 

漣は今度は駆逐艦を狙う。

 

「にゃあ!?」

 

千代田からの艦爆をもらい中破する。

 

「漣ちゃん!!」

 

「金剛!!!」

 

「ファイアー!!!!」

 

漣を中破させた千代田に向かって金剛の砲が吼える。強烈な連撃に千代田は大破、轟沈判定。漣を囮にしたわけだが、中破で耐えられるくらいのダメージで済むようにしてあった。なぜなら金剛に気が行っていて満足に艦載機が操れていなかったから。

 

「加古、今だ!叩き潰せ!」

 

「おっしゃあああ!!!あでっ!!」

 

「よし!」

 

相手の重巡、足柄は潰した。クリティカルヒットを決めてくれたが伊勢がそれを見逃さず、中破。伊勢も中破していたので威力がそう出ず、中破止まりだった。ちっ、と伊勢の舌打ちが聞こえた。

 

「うわあああ!!!」

 

「よそ見は禁物デース!!!」

 

「伊勢、轟沈判定!」

 

「よし!!!」

 

「ほいさー!おつかれちゃーん!」

 

漣が大活躍している。駆逐艦朧を撃沈判定。するともう残りは軽巡那珂しか残っておらず、こちらは無傷の金剛、隼鷹、漣、白雪がいる。

 

「な、なにしてるんだ!この役立たず!!!」

 

「お前が何の作戦も考えずに適当にやらせたからだろうが!!!」

 

「ひっ!?」

 

「さあ、残りは那珂だけデース!」

 

「う、ううう、ど、どうすればいいのぉ!?」

 

「は、早く何とかしろ!!」

 

「む、無理でーす!!」

 

「はあ!?ぼ、僕のパパは一等海佐なんだぞ!?そんな僕を負かせたらどうなるかわかってるんだろうな、三条!」

 

「知らねえよ。父ちゃんにチクったところで痛くもかゆくもねえ。金剛、決めろ!」

 

「全砲門!ファイアー!!!!」

 

結果は玲司の大勝利であった。一等海佐の父だ何だ知ったこっちゃない。これは自分と艦娘の戦いであり、父なんて関係ないのだ。パパに言いつけてやるうううう!と泣きながら去って行った。

 

「か、勝っちゃった…」

 

「か、勝った…?」

 

「お疲れ!すごくいい感じだったぜ。作戦、ばっちりだったな!」

 

「か、勝ったー!!!!初めて勝ったーーーー!!!!」

 

漣が飛び上がっていた。白雪は胸をなでおろし、加古や鬼怒、隼鷹は抱き合って喜んでいた。

 

「あ、ありがとうデース…ワタシたち、初めて勝てマシタ」

 

「おー。そうかそうか。みんながなんでみんなを落ちこぼれとか使えないって言うのかわからないけど、結局あいつらは練度の高いやつを選んで勝ってきただけであって作戦の立案なんかしてなかったのさ。作戦をきっちり立てて勝つ。これが提督になるには必要なんだろうさ」

 

「………た」

 

「は?」

 

「ワ、ワタシあなたに惚れマシタ!ワタシは次も!次の次の演習もアナタと戦いマース!!!」

 

「はい?惚れたってなんだよ!ってーか当たるかどうかわかんねえっつーの!いてええええ!!背骨が折れるうううう!!!」

 

「もうワタシはテートクに一生ついていくデース!!!」

 

「グゴゴゴゴ」

 

「金剛さん!ご主人様が潰れますって!!!」

 

これが玲司と後の「英霊」金剛との出会いだった。

 

この後も事あるごとに金剛は演習で玲司につき、全敗の役立たずの戦艦から常勝無敗の戦艦になった。他の訓練生も金剛を噂を聞いて指名したが逆にノーをつきつけられた。

 

訓練生は三条と金剛のコンビと当たると負ける…と言う噂がついてまわり、教官からの評価も高くなった。三条と金剛、漣などが組むこの編成は、玲司が卒業するまで無敗の艦隊と呼ばれ、50勝をあげ、これを抜いた訓練生は今もいないと言う。ここでも玲司は伝説を打ち立てていたのだ。

 

そうして卒業し、提督の素質がある「妖精さんが見える」と言うものもクリアし、晴れて提督になることが決まった。

 

「ショートランド…か。うっわ、めっちゃ遠いなぁ…まあ、しょうがねえか…さて、明日は初期艦を決めていよいよ提督生活の始まりかぁ」

 

「テーーーーーーートクーーーーーーーーー!!!!」

 

「うるさ!!!ってか金剛!?どうしたんだ!」

 

「ハァ…ハァ…テートク、ショートランド泊地のテートクになるってホントデスか!?」

 

「ああ。明日初期艦を決めて明後日卒業式。んで、1週間後にはショートランドに行って着任、だな」

 

「初期艦?そんなのワタシに決まってマスよネ!?」

 

「は?いや、初期艦は大本営が決めた駆逐か「ノオオオオオオオ!!!!!テートクの相棒…じゃなかった、初期艦はこの金剛以外ありえないデース!!」

 

「何でそうなる!?」

 

「だ、だって…お、俺たち気が合うな…って言ってくれたじゃないデスか…」

 

なんでそこでもじもじしている。顔を赤くしてどうなってんだ。

 

「だ・か・ら!!ワタシがショートランドについて行って初期艦になるデース!!」

 

断固として金剛は初期艦になるつもりでいるし、ショートランドについていくつもりだ。

 

「いや、お前はここの訓練艦だし…むり「テートクー!!!!イヤデース!!!テートクが連れて行ってくれないなら解体してもらうように司令長官に言ってきマース!!!」

 

「わーーー!!!ダメに決まってんだろ!!!!わーかった!!!!!司令長官にそう言ってみるから!!!!」

 

「イエーーーース!!!やったデーーーース!!!テートクー!目を離しちゃ、ノーなんだからネー!」

 

解体なんて言われたらもうどうしようもない。バンザイをしたあと、玲司に思い切り抱きついて約束デスからネー!と走って去っていった。はあああ…と大きなため息をつくしかなかった。

 

こうして熱烈な金剛の説得(?)により、玲司はおやっさんこと古井司令長官に話をし、初期艦としては異例の金剛、となった。

 

日本本土から遠い遠い島、ショートランド諸島にあるショートランド泊地に金剛と共に着任した。何もない辺境の地であったがブイン基地の熟練提督の知恵やチカラを借り、少しずつ艦娘を増やしていき、戦果も少しずつ増やしていった。

 

金剛をはじめ、比叡、榛名、霧島、伊勢…空母の加賀や赤城…など頼れる仲間が増えていった。新米だからと大規模な作戦も丁作戦と言う比較的優し目な任務をこなし、少佐から中佐へ上がるのも早かった。

 

わいわいと霧島とケンカしたり、金剛がバーニングラブしてきたり、比叡が雪風を抱っこし、たかいたかいしたら落として大騒ぎになったり、榛名がそんな姉妹をブラック榛名になって窘めたり、ご飯を作って一緒に食べたりと楽しい毎日を過ごしていた。

 

そんな楽しい日々も、ある日壊れた。それが…数年前の出来事なのに伝説と呼ばれている第一次レイテ海戦と同じく槍玉にあがる「ショートランド海戦」である。

 

ショートランド北東の何もない海に突如現れた深海棲艦の大艦隊。規模は1000以上とも言われる深海棲艦が海を北上。日本本土を目指して侵攻を開始する…予定だったのだが南からやってきた玲司率いるショートランド泊地の艦娘が急襲。不意打ちによる甚大な被害を被った総旗艦、戦艦水鬼が激怒。北上を前にドンドンと南からやってくる艦隊がいてはたまらないと大艦隊を率いてショートランド泊地を襲う目論見を企てた。

 

そうして始まったショートランド泊地のメンバーと戦艦水鬼率いる大艦隊との激戦が開始されたのであった。

 

結果だけを語れば以前から何度も語っていた通り、巡洋艦「青葉」を残し、艦娘は壊滅。ショートランド泊地も戦艦や空母の攻撃を受け廃墟と化した。だが、勝ったのは人間と艦娘であった。戦艦水鬼率いる深海棲艦は壊滅した。

 

………

 

「司令官!!ショートランド北東の海に深海棲艦の大規模な艦隊の発生を確認しました!!」

 

「……とんでもないでかい艦隊だな」

 

「数は…わかりませんが…おそらく数百から1000はいるかと…太平洋を北上しています!」

 

「…!まさか日本本土を目指しているのか!?」

 

「ですが、間にはパラオやトラック泊地があります。すでに近いラバウル泊地の艦隊が交戦を開始!ですが、これは別動隊のようでして…本体は本土を目指しています!」

 

「ラバウルやトラックもおそらく別働で動くだろう。だがこれだけ数が多いとその間に本隊が日本の公海に入っちまう!」

 

「司令官、ど、どうしましょう…」

 

「おそらく本土への通信が行っているだろう。これだけの大艦隊だ。『原初の艦娘』も動くが時間がかかりすぎる…」

 

「俺らが出るぞ。南からこの本体を攻撃して足止めをしよう。背後から思いっきりぶん殴ってやるんだ。ブインの提督にも手伝ってもらって足止めをして、本土からの応援を待つ。これでどうだ?」

 

日本本土への侵攻を前に、指をくわえて待っているわけにはいかない。そうと決まればと霧島を呼んで作戦を練り始めた。

 

「いいか。時間を稼ぐだけだ。だから、攻撃を加えてある程度したら島の合間を縫うようにして逃げる。逃げた先で迎撃できるなら迎撃してまた撤退する。そうすれば被害は少なくできるはずだ。敵は本土を目指すわけだから、別動隊を送ってこっちを攻めに来る。それだけでも減らせれば僅かでも負担は減らせるはずだ」

 

「了解しました。では、まず私、霧島は斥候として艦隊を組み、攻撃を仕掛けます。島の合間まで追いかけてきた際のことを考慮し、伊勢さんに艦隊を組んでもらってこれを撃破しましょう。ラバウルのおかげか、艦隊が少しずつばらけてきているようです。我々は本陣を思いきりぶん殴ってきますよ」

 

よし、金剛4姉妹、高速戦艦と赤城、加賀を使って背後から一気に数をできるだけ減らす!命令は撃ったら逃げろだ!!波状攻撃で行く。まずは空母艦隊でアウトレンジから攻撃。おそらくこれでパニックに陥るだろうからそこを金剛たちが撃っては撤退撃っては撤退、これでいくぞ」

 

「イエース!!ワタシたちの活躍、見ていてくだサイネー!!」

 

「腕が鳴りますね、金剛お姉様!!」

 

「無理は禁物だぞ!」

 

これが、怒涛の大戦になるなどとはこの時誰も予想だにしていなかった、ショートランド海戦の始まりであった。

 

………

 

作戦自体は順調だった。トラック泊地を避けるであろうと考えた玲司達はミクロネシア諸島へ向かう深海棲艦の大艦隊の奇襲に成功。

 

「鎧袖一触よ。我、奇襲に成功せり」

 

「加賀さん、一度退いてください!今度は私たち赤城艦隊が行きます!」

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

背後からの艦載機による爆撃や雷撃により、深海棲艦の後方艦隊は大混乱に陥った。前方、戦艦水鬼や姫級の指揮により一度混乱は収まり、静謐を取り戻したものの警戒は高まった。一体どこからやってきた艦娘達なのか。これらは完全に視界に捉えられることなく、電探に艦載機が反応した時にはもう遅かった。

 

後方艦隊にも戦艦や重巡など、重要な艦隊も多かったようでこれらが大打撃。後方からの襲撃を警戒していたが、今度は真西からの戦艦部隊よる波状攻撃に見舞われた。

 

空母部隊はブーゲンビル島とチョイスル島の合間の東から。戦艦部隊はブーゲンビルを西から迂回し、真横から攻撃を食らわせる作戦だった。背後にばかり警戒が行っていた深海棲艦だったが、これにも完全に無防備であり、大艦隊であると言う余裕からかほぼ警戒を怠っていたと見えた。

 

しかし、空母との欠点は交戦をするために艦隊に近寄らねばならないと言うことだった。金剛、比叡、榛名は戦艦や重艦隊と交戦。霧島は比較的巡洋艦などの軽い艦隊をある程度壊滅。踵を返すように他の艦隊が参戦してくる前に撤退に成功。さらに真西ではなく、南西から伊勢艦隊が突撃。航空巡洋艦を交えた水上爆撃機も用いてのこれまた大損害を艦隊は被り、北上の足止めに成功。奇襲はまさに成功セリ。と言うところである。

 

「………オノレ。背後カラチョロチョロトハエガウルサイ。ナラバ…我々ニ楯突イタコトヲ後悔サセテヤロウ…本土ヲ火ノ海ニ変エルノハソレカラデモ良イ…全艦隊、南ニ針路ヲ変エロ。目障リナ艦娘ハ全テ滅ボセ!!!」

 

深海棲艦、戦艦水鬼はプライドが異常なほど高く、完璧な作戦を以て敵を屠ることで快楽を得る深海棲艦である。完璧なプランで本土へ攻め入ろうと考えたわけだが、大艦隊だからと隙だらけ過ぎたことが問題だった。結果としてショートランド泊地からの南、西からの襲撃にまんまとしてやられ、貴重な艦隊を幾分か削られることになった。

 

これに腹を立てた戦艦水鬼は単純なことに邪魔する者には容赦をしない。完璧な勝利を望むからこその邪魔者の排除。つまり、奇襲を企てた艦娘、しいては提督を滅ぼすことを考えたのだ。この海域から南と言えば…と考え、そしてそこそこの規模の大きな場所と言えばショートランド泊地以外にはない。なぜかそれだけは頭に叩き込まれていた。

 

「進メ!進メエエエ!!!憎キ艦娘ト人間ヲ滅ボスノダ!!!!」

 

戦艦水鬼は大きく旋回、南下を開始した。そして、戦艦水鬼はこれらを無視し、北上をすればよかったのだが南下をしたがために、敗北する。そんな結末を予想などしているはずもなかった。

 

………

 

「だ、大艦隊が針路を変え、南下してきます!!!!」

 

その言葉に指令室で控えていた艦娘達が椅子から飛び上がった。

 

「………いけねえ、ハチの巣をつつきすぎたかな」

 

「そんなことを言っている場合ではありません!!!正確にこちらへ向かってきています!!」

 

「ショートランドの艦隊だとバレた…?敵は泊地、基地の場所を把握している…?」

 

「こちらショートランド司令、金剛たち、聞こえるか?」

 

『イエス。テートク、どうしたネ?』

 

「俺たちが奇襲したってことがバレた。もうすでにこちらへ南下を始めてショートランドへ向かっている」

 

『ホワット!?それは大問題ネ!』

 

「とにかく一度急いで帰還をし、整備と修理、補給を大急ぎでする。大至急帰還せよ」

 

『榛名、了解いたしました』

 

『比叡、了解です!』

 

『霧島、了解。司令、とんでもないものにケンカを売ってしまいましたね』

 

「もとよりそのつもりで仕掛けたもんだ。本土への侵攻防衛準備の時間を稼ぐにはちょうどいい。ただ、こっちがやべえけどな」

 

『覚悟の上、で話をしてでしたからね。こうなったらとことんケンカを売った分、やりますよ!』

 

「血気盛んなことでいいこった。なるべく早く帰還してくれ。以上だ」

 

『了解。急ぎます』

 

売ったケンカの代償は大きい。しかし、本土への大艦隊の侵攻を何としても止めさせるべきだ。「原初の艦娘」がいる大本営。強力な艦隊を同じく有する舞鶴鎮守府、呉鎮守府。佐世保鎮守府。おやっさんの時と比べると戦果がだいぶ落ちているので少し不安であるが横須賀鎮守府。四大鎮守府や日本の泊地、基地に防衛の準備をさせるには十分な時間稼ぎができると信じている。

 

ただ、こちらもあれだけの大艦隊。全滅の恐れが高い。なぜなら数百から千にはなるであろう大艦隊を相手に100人の艦娘で戦わねばならないこと。

 

「司令官…泊地まで攻め込まれる危険がありますよ…」

 

「そんなもん百も承知だ…俺は昔からケンカ弱えからよ…どうやって勝とうか結構頭を使うんだ。霧島が帰ってきたらそれを考える。西からも来るだろうし東からもがっつり来るだろうさ…ブインが動いてくれりゃいいんだけどな…難しいな」

 

「ブイン基地はビスマルク海からラバウル基地へ向けてほぼ出撃させたと先ほど連絡が…」

 

「……まさに俺たちだけか」

 

「はい…おそらくですが、司令官に声がかからなかったのは新人だから、まだこういう大きな作戦には参加させられないと言う理由が高いと思います」

 

「んなこと言ったって本土が焼け野原になるかもしれねえのに放っておけるかよ。独断行為の処罰はちゃんと出頭するって。それよりも…今はここを…みんなの家を守ることを考えなきゃいけねえんだ」

 

「……わかりました」

 

青葉の心配そうな顔に、苦笑いで応えるしかない玲司。事態はそれくらい深刻なのだ。

 

………

 

何と馬鹿なことをしたのだ。声がかからなかったのだからおとなしくしておればよかったのだ!とブインの提督に怒られてしまった。ラバウルへ行かせた艦娘を戻すわけにもいかず、こちらとしてもこちらで対処しますとしか言えなかった。いや、まあ怒られるのは当然だと思っていた。最初にブインの提督と相談しておけばよかったのだがそれよりも先に動いてしまったわけで。

 

しかし、もう引き返せない。金剛や赤城たちが帰還し、大きな作戦会議室で艦娘全員を集め、事態を説明。総力戦になることは明らかであり、大きな犠牲が出る可能性が確実であるとまで説明した。つまり、轟沈する可能性が高い、としっかりと青葉の口からそう出たわけであり、駆逐艦や巡洋艦は体を強張らせた。

 

「ですが、これを阻止できれば本土侵攻を食い止めることができ、親玉を倒せば…まあ司令は処罰を受けるでしょうが大きな戦果にはなります」

 

「おい霧島ぁ…そりゃないぜ…」

 

「当然でしょう。独断での深海棲艦への攻撃、作戦実行。ま、終わった暁にはしっかり怒られてください」

 

「大丈夫デース、ワタシがしっかり説明するデース!!」

 

「お姉様の説明では半分も理解できないと思います。榛名が参ります」

 

「デバガメですね、榛名は。いやしいオンナデース!!」

 

「お姉様?」

 

「ア、ハイ」

 

「万が一、泊地まで侵攻が止まりそうにない場合は司令はブインへ逃げる手はずも整えます」

 

「馬鹿言ってんじゃねえぞ。俺はここが廃墟になろうが深海棲艦が来ようが最後までお前らと戦うぞ。第一、俺がここを離れたらお前らのチカラが半分どころか練度があってないようなもんになるだろうが」

 

提督と艦娘は一蓮托生であり、艦娘は自分が所属している鎮守府などに提督がいない場合はその実力を十全に発揮できず、むしろ着任したての練度1の艦娘に等しいレベルまでチカラが落ちる。そして、指揮系統は混乱し、おそらくだが玲司がブインへ避難した場合、ここの艦娘達は大艦隊に瞬殺されるだろう。

 

もちろん、そんなことは玲司が認めるわけがない。仲間を置いて自分だけおめおめと逃げる。そんな真似は卑怯者のすることだ。

 

「いいか玲司。男ってのはな。どんなに怖かろうが、痛かろうが、逃げちゃならねえ時ってのがあるんだ。大切な何かを守りたいときはな、戦う時なのさ。怖くても痛くても前を向いて進め。それが男だ」

 

父さん。今がその時だよな。

 

「俺は逃げねえぞ。最後まで…戦うぞ」

 

「提督、いけません!何かあった時…榛名たちは…」

 

「お前たちが命張って戦うんだったら俺だって命張って戦う時なんだよ!俺だけおめおめ逃げてお前らが全滅しましたなんて話、聞いてたまるか!!!!」

 

「司令官…」

 

霧島が逃げてくださいと言った際に艦娘の皆が強く頷いていたのを睨みつけるようにしてこう語った。俺は絶対に逃げない。最後まで…俺たちは一緒だ。そう目で語った。

 

「……テートク。お言葉デスが…」

 

金剛がポンと提督の肩に手を置いた。そしてまっすぐなめで玲司を見て語り始めた。いや、その前にパシンと平手打ちをした。

 

「お姉様!?」

 

比叡が驚く。バーニングラブを貫き、提督の背骨を折らんばかりに抱きしめたりすることしかしなかった姉の金剛が提督に平手打ちなどと。

 

「テートクはバカデスカ?テートクは死んでしまったら終わりなんデス。デスが、ワタシたち艦娘は替えが効きマス。今目の前でワタシたちに全力で愛情を注いでくれている提督は替えが効かないんデス。ダカラ…テートクは死んだらダメなんデース」

 

「なら俺だってお前らの替えなんていねえよ!!!!俺が今までここまでこれたのはお前たちのおかげだ!!!そんなお前らの替えなんているわけがねえだろ!!!!」

 

「しれえ。雪風たちは艦娘なんです。建造すればまた雪風は生まれます。そのときはその雪風を愛してください」

 

「綾波も…いえ、綾波たちは沈む気はありません。ですけど…もしものときは…」

 

「………俺は逃げないぞ。断固としてだ!!!最後まで…俺はお前らの提督だ。十全に戦えないお前たちをほったらかして逃げるなんざ男じゃねえ!!提督じゃねえ!!!!」

 

「……はあ、ほんっとうちの司令は強情ですね…」

 

「まあ…それでこそ榛名たちの提督…なんですけどね…ふふふ」

 

「要は負けなければいい!それだけのことですよね!!!」

 

「比叡…榛名…霧島…そう…デスね。ワタシたちが勝てばいいんデスネー!!!!なら、勝って提督とまたやっていくデース!!!」

 

その金剛の言葉の瞬間、わあああ!!!!と他の艦娘も大きな声をあげて士気が高まった。

 

「……テートクはバカデス。デスけど…それでこそワタシがついていきたいと言った…バーニングラーブ!!!!なテートクデース!!!」

 

「ぐあああああ!!!!背骨がああああああ!!!!」

 

「金剛お姉様…?ちょっとお話よろしいですか?」

 

「あ、ドーモ…ハルナ=サン」

 

「し、死ぬかと思った…」

 

「そんなふざけてないで、さっさと作戦、始めますよ!伊勢さん、榛名お姉様、妙高さん、綾波さん。作戦を練りましょう。司令!!さっさと立って!もう、しょうがない人ですね!!!」

 

「うぐぐ…背骨にひびが入ったかも…」

 

「そんなものは気合いで治ります!」

 

「治らねえよ!!!」

 

絶望感が渦巻く中、彼らは1つも諦めていない。考え得る敵の侵攻ルートをいち早く霧島や妙高が計算。

榛名や綾波がどのように隊を練るかを対策。俺らはケンカ弱えからよ、といくつもの作戦を思いついた。

 

………

 

「みんな、覚悟はできたか!!俺たちはとんでもねえ戦いに今から打って出る!命令は1つだ!死ぬな!!やばくなったら撤退しろ!以上だ!」

 

「しれえ!それだと命令は2つですよね!」

 

「雪風?あー。あー…うん、2つだ!!!!」

 

クスクスクスと他の艦娘が笑っている。全員の頭には白いはちまき。心を1つにすると言う意味を込めて。この絶望を乗り切り、必ず勝利すると言う意味も。

 

「ま、司令らしいですね。ご命令しかと承りましたよ」

 

「ワタシたちの活躍、見ていてくださいネー!!」

 

「加賀さん、ここは任せましたよ」

 

「ええ。任されました」

 

「青葉さん、提督をお願いします」

 

「榛名さん、お任せください!」

 

それぞれが思いを託し、母港に整列する。

 

「これより、ショートランド防衛、ならびに本土侵攻妨害作戦を発動する!!!!命令は絶対だぞ!!!生きて帰って来い!全員、出撃!!!!」

 

おおおおおおお!!!!と一斉に100人の雄たけびがこだまする。

 

絶望しかない作戦に…全員が目を輝かせて出撃する。この後に心が砕けてしまうことばかりが起きることなど…玲司は微塵も信じていなかった。そもそもが無謀だとわかっていても。必ず勝つと信じて疑わないまっすぐな男、三条玲司。

 

英雄と英霊たちの戦いが、今…始まった。




ショートランド海戦、開始。
100vs1000の無謀な戦いが始まる…。

結果はご存知の通りですが、どのように英霊たちが散っていったのか。次回はその模様をお送りいたします。

英霊たちは英霊にふさわしい最期…を書ければと思います。

次回もお待ちいただけましたら嬉しいです。

それでは、また。
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