絶望の中で戦う艦娘達と玲司。結末はご存じかとは思いますが、艦娘の死闘をご覧いただければと思います。
圧倒的物量、艦隊の数。その中でも決して最初から投げ出さずに戦いを始めたショートランドの全員。西から、東からの挟撃に備えて準備を始める。
本命はやはり東側からやってくる大艦隊だろう。分隊がおそらく島を回り込んでやってくるか?戦いはブーゲンビル西側はひとまず置いておいて、ソロモン諸島へ艦隊をおびき出し、狭いところにおいやって詰まらせてからの攻撃を繰り出すか?との考えも出たが、失敗すれば即ショートランド泊地自体が危険になる。
まずソロモン諸島北…広いところで叩けるだけ叩くのだ。
「ソロモン諸島は最終防衛ラインだろう。ここを超えられればおそらくはショートランド泊地自体が危険にさらされる。と言うか…負けに近いな。いや、ここまで攻められたとしても戦うつもりだけどな」
「艦隊は大破、中破が出ればすぐさま撤退するよう指示を出しました。撤退し、ドックにて修復材を用いてすぐさま出撃。これを繰り返し、数を減らせれば…と言う考えです」
そのために金剛姉妹、伊勢、日向、赤城など出せる主力艦娘はすべて出した。羽黒や足柄…強力な重巡から雷撃の北上、大井まで。
「西へ回り込んだ際はすぐさま金剛姉妹の誰かを呼び戻す手はずも整えております!」
「上出来だ青葉。ケンカ売っといてなんだけど…やっぱり怖いもんだな」
「いまさらですよ…司令官」
「そうだよな…だが…ここで食い止めればほかの泊地や鎮守府が万全の準備をする。そうすりゃこっちの勝ちだ」
「実際、ラバウルの艦隊が本隊がこちらに向いたとわかった途端、深海棲艦の分隊を全力で出撃し、壊滅させたようです」
「上々だな。ブインは…アテにならねえと言うか、全勢力をラバウルに入れてしまったわけだから、俺らで本当に何とかするしかねえんだ」
「はい…司令官…その…覚悟はできていますか?」
「………艦娘の替えはきく…か。あまりいい響きじゃねえ。けど…俺は最後まで金剛たちを信じる」
「負けは…考えないのですね」
「俺は提督だ。深海棲艦を艦娘を動かしてやっつけることだけを考える存在だ。ただ…惜しいのは俺が出てどうこうできねえこと。ここで指示しかできねえこと」
それだけはどうにもできない。生身で行ったところですぐさま砲撃で血の霧になるか魚雷で魚の餌になるだけだ。それだけは悔しい。深海棲艦の血を持っていても、結局僅かながら死ににくい身体になっただけなのだから。
『こちら榛名です。まもなく敵艦隊と接触します。首謀である深海棲艦は見当たりません。戦艦ル級や空母ヲ級などは確認できました。赤城艦隊と共に当たります』
「了解。中破、大破が出れば即座に撤退。主力艦隊がどこに潜んでいるかわからない。気をつけろ。最悪の場合、南下してソロモン諸島の狭い場所へおびき出して一気に叩け」
『了解しました。これより、戦闘始めます』
長い長い…ショートランド海戦が始まった。その皮切りは、ショートランド最強の一角、榛名と赤城だ。強力な砲撃と航空戦術を持つ。
『こちら霧島。同じく戦闘を開始します』
『同じく比叡!砲撃開始します!』
「よし、いいぞ。面だ。面で攻撃しろ。敵の足をとにかく止めるんだ」
砲をとにかく撃ちまくり、敵を屠りつつ面で攻撃を繰り出して足止めをする。撃ち尽くせば今度は金剛や伊勢、日向などが攻撃を繰り出し、榛名たちは撤退する。
面と言っても範囲は狭い。何せ相手は大艦隊だ。少しでも数を減らしていくしかない。こちらのダメージは総攻撃を喰らえばたまったものではないだろうが、機動力はある。
(頼む。うまくいってくれ)
玲司はただただ祈るしかないのだった。
………
「撃て!撃ちまくれー!!」
「艦隊が分離したわ!霧島、こちらは頼みました!比叡お姉様も!」
「やっぱり3艦隊じゃそうなるよね!」
扇形に砲撃を繰り出し、とにかく足止めを図るが相手もバカではない。集団でいては叩かれると分かったのなら艦隊から離脱すれば良い。それだけのことである。
かといってここで焦って金剛たちが動いてしまっては榛名たちが補給へ戻る際の時間稼ぎができなくなり、より接近されてしまう。非常に艦隊の動きに神経を使う。だが文句も泣き言も言っていられない。
『榛名!ソロモン諸島へ退きながら攻撃をしろ!艦隊に分離されると面倒だ!狭い島の間に誘い込んで一気に叩け!』
早くも広い海で戦うのは無理と判断した玲司。いや、これすら作戦なのだ。無謀にもノコノコとやってきた艦娘達を余裕をもってばらけて叩けばいい。そう考えているであろう深海棲艦。その圧倒的数から余裕をもって敵を叩けると。だからこそ、狭い島と島の間に大艦隊をおびき出せば詰まる。そこを一気に各隙間に艦隊を配備して討ち取る作戦だ。
だが同時に島と島の間を抜けられてしまえば挟撃されるリスクがある。それはもちろん承知の上。敵艦隊は西に動くこともなく、南のソロモン諸島へ榛名たちを追いかけるように南下している。
「くっ…激しい!」
「榛名さん、無理をしては!まだこれからです!」
「わかっています。ですが…金剛お姉様や伊勢さんに繋ぐにはここで多少でも無理をしないといけません」
夜になるまでにソロモン諸島入口へ誘導できれば。夜も侵攻するだろうか?それすらわからない。不眠不休で戦う覚悟はもちろんある。だが…補給や回復がその際には難しくなる。はたして…敵の動きは…慢心をしてくれていればいいが。
………
「フン。島ニ逃ゲテ我々ヲ詰マラセルツモリカ…考エガ甘イ。私タチノ数ヲココヘ誘イ込ンダトコロデ、艦娘ノ数ハ少ナイト見タ。攻メロ!!陽ガ落チルマデトニカク攻メ続ケロ!!!」
所詮1つの泊地からの艦娘の攻撃なら数は知れている。そう踏んだ戦艦水鬼は相手の誘いに乗った。各島の合間からなだれ込み、そこに隠れているであろう艦娘を一網打尽にする。そうすれば邪魔をした泊地の愚かな提督、艦娘を根絶やしにできる。ああ、そう言えば近くにもう1つ基地があったな。それも破壊してしまおう。
絶望に暮れる人間と艦娘の顔を見て嗤ってやろう。命乞いをし、泣き叫ぶであろう人間に我が砲を撃ち込み、跡形も残らずに消し飛ばしてやろう。そう考えるだけで笑みがこぼれる。
蛮勇と無謀は違う。今回の人間共は明らかに無謀である。勝ち目のない戦いを吹っ掛けるとは愚かなことだ。絶望のどん底に沈めてやろう。艦娘は沈めて恨みをかき集めさせ、同胞にしてやろう。泊地は跡形もなく消し去ってやろう。
「ククククク…アーッハッハッハッハ!!!!!絶望ニ暮レルガイイ人間共、艦娘共!!!!私ニチョッカイヲカケタコトヲ後悔サセテヤル!!!!!進メェ!!」
深海棲艦は何も言わずに南下する。多少の同胞が沈もうと後で補給はいくらでもできる。少ない数の艦娘で我々深海棲艦の大艦隊は止められない。笑いが止まらない。
哀れな少数の艦娘のなけなしの攻撃でそう揺るぎはしない。人間共にまずはあの泊地を破壊して衝撃を与えてやればいい。さあどうする艦娘共?我々を止めて見せるがいい。
絶対の揺らがない戦艦水鬼の自信。遠くから聞こえる砲撃の小さきことよ…とやはり笑いが抑えきれないでいた。
………
「チョイスル島とブーゲンビル島の間は強固な防衛陣を張り、こちらからは深海棲艦を入れないよう、加賀さんや扶桑、山城艦隊を用いて鉄壁を張りました。ここからの侵入を許してしまうと、ショートランドは裸も同然です」
「ああ。理想としてはサンタイサベルとマライタから入ってくれるよう誘導するが…おそらくチョイスル、サンタイサベルの合間からも入り込む。そうなると艦隊が挟撃されてしまうかもしれないが。こちらはショートランドへ抜ける可能性も考えられる」
「とにかく、強固な防衛陣を張ってこの隙間への侵入を防ぎ、時間を稼ぐことが大事ですね。ラバウル、ブインのビスマルク海の艦隊も支援へ回り、西側からの侵入は防いでくれるとの通信がありました」
「それは助かる。ま、生きていたらボロクソに怒られるな」
「生きていたらじゃなくて司令官は生きてもらわないと困ります」
「……そうだな」
「艦娘の犠牲は…目を瞑ってください」
「……そうはなってほしくないけどな」
「…可能性は低いですよ」
「それでも…信じる」
玲司はこの深海棲艦の大艦隊を跳ねのけると信じている。徹底防衛。厳しい戦いになる…。そんなものは百も承知。だが艦娘を俺は信じる。俺が信じなくて誰が彼女たちを信じ、守るのか。
戦艦部隊、重巡部隊。ありとあらゆる艦隊を配備し、島と島の間の守りを固めた。これが吉と出るか凶と出るかもわからない。損害を受ければ撤退。撃ち尽くしても補給と修理。修復と補給が終わればすぐさま出撃。
「まるでブラック鎮守府じゃねえか」
ふん、と自嘲した。ブラック鎮守府があることを玲司は知っている。戦果のために満足な休息も与えずに出撃を繰り返させる鎮守府や泊地の事。それと愚かだ馬鹿だと罵ってはいたが、それを今自分は行わせようとしている。結局俺も…そういう人間なんだ、と自分が嫌になった。
「泊地と青葉達の居場所を守るためです。戦果の為ではないです。ブラックなんかじゃありません。これが終われば…ゆっくりできますよ」
「…ありがとう、青葉」
「えへへ、青葉も出撃準備、できていますよ」
「よし、青葉。お前も頼むぞ」
「了解でっす!!」
敬礼をし、艤装をかついで青葉も出撃していった。
………
1日目、日没。大なり小なり被害は出たが轟沈はなし。そうして無事ショートランドの艦娘達と玲司は戦闘を終えた。
「……ナンダ…ナンナノダコレハ…!!!」
深海棲艦側…戦艦水鬼は怒りを露にした表情で歯をギリギリと鳴らしていた。こちらは1000にもなるであろう大艦隊。対して相手はそう大した数ではない。そう高を括っていた。しかし蓋を開けてみればショートランド泊地への最大の近道、ブーゲンビル島とチョイスル島の合間を通ることは失敗し、ブーゲンビル島西から回り込んでの攻撃計画はラバウルとブインの連合艦隊によって阻止された。さらに一部を北上させてみたがこれもラバウルの艦隊によって阻止され失敗。
つまるところ、大失敗であった。原因は高を括り、ショートランドの艦娘を甘く見すぎたことに原因があるが…プライドの高い戦艦水鬼はそれを許さない。こんな失態が此度連れてきた戦艦水鬼に心酔する駆逐棲姫以外の姫や鬼に知られればいい笑い者である。
陽が昇ればすぐさま進撃。目に物を見せてやる。そう意気込んでいた戦艦水鬼であったが…遠くで何やら爆発音が聞こえた。
「何事ダ!!??」
「敵、艦娘ノ攻撃ト思ワレマス!!!」
「夜戦カ…ナメテクレル…応戦シロ!!ソシテ暗キ闇ニ沈メテヤレ!!」
その伝達は末端にまで行き渡り夜戦を仕掛けてきた艦娘を徹底的に殺すよう指示が出たのである。
………
「夜戦!夜戦!待ちに待った夜戦だあああああ!!!や・せ・ん!!!だあああああああああああ!!!!」
「川内ちゃん!居場所がバレちゃうって!!」
「無駄です…那珂ちゃん…久しぶりの大きな夜戦作戦で舞い上がっています…」
夜戦夜戦と叫ぶ川内。止めようとするのは妹の那珂。そして呆れかえる神通。苦笑する吹雪、夕立、睦月。ショートランド第三水雷戦隊である。夜戦バカとまで言われる川内率いる夜戦のスペシャリストである。今宵は月明かりもない新月。だが、川内には見えているのだ。敵の姿が。だからこそ正確に、音もない魚雷を敵にめがけて…と川内は言っているが、結局は敵の大艦隊であるがゆえに下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる戦法である。
神通にはそう突っ込まれているが、川内は夜戦ができることこそが最大の喜びであり、大暴れするにはもってこいの闇夜である。
「よーし、作戦通り、砲撃開始!!!」
今度は三水戦全員での砲撃。砲撃はマズルフラッシュがあり、その一瞬の明かりで場所がバレてしまう。しかし威力は強力で、駆逐艦でも頑丈な重巡や戦艦を屠ることも夜戦では可能である。ブーゲンビル島とチョイスル島の合間へと逃げ込むようにしながら撃つ。
「イタゾ!!追エ!!!」
重巡リ級や軽巡ホ級等が追いかける。絶対に逃がしてなるものか。逃がせば戦艦水鬼様に逆に殺される。それに怯えているのだ。彼女は艦隊を恐怖で動かす。失敗したものは戦艦だろうと殺す。だからこそ追いかけて必ず仕留めなければならないのだ。
しかし、深海棲艦と言えどこの闇夜の中では多くの水雷戦隊が動いたところでマズルフラッシュがなければわからない。一発、一発と撃ってはおびき出されていることに気が付いていない。そして、合間におびき出された深海棲艦は眩い光に包まれた。駆逐艦達の探照灯である。
「グウウ!?」
闇から一転、まばゆい光に目が眩み、目を瞑ったり目を手で覆ったりする。すると川内が指示を出す。
「かかった!!!撃てえええええええ!!!!!!」
実はこの島の合間には4つからなる水雷戦隊を配備していた。そして危険を承知で三水戦が敵をおびき出す作戦に出た。島に反響し、耳をつんざくような強烈な砲撃や魚雷の炸裂音が響き渡り、あっという間に敵水雷戦隊や重巡戦隊は壊滅した。
「撃ち方やめ!探照灯切れ!!」
川内のさらなる通信。それを合図にォォォォォン…と言う砲撃のこだまを最後に静寂が辺りを再び包む。これで終わりではない。これで水雷戦隊からの通信が途絶えたとなると、大物がやってくるに違いない。
するとどうだ。予想通りに今度は黄色や赤い目をした大きな影が見えだした。
「はい、みんな。よーく聞いてね。サルでもわかる川内さんの戦艦部隊の潰し方講座、夜戦編です。よく聞かないと死ぬからねー」
そんな気の抜けた通信が入りだした。
「戦艦や重巡は超怖いですが、全然怖くありませーん。何を言ってるかわかんないと思うけど、砲撃とか魚雷とか超怖い」
川内の通信を聞きながら今かと他の水雷戦隊の駆逐艦が探照灯のスイッチをしっかりと持ち、ミスをしないようにと震える手で待つ。
「でも、こんな狭い島の間に調子こいて追って来て、駆逐艦とかの随伴とかもなしで追いかけてきてもう怖くない。調子に乗ってズンズン近寄ってきていますがー…まあ島の合間に沿って走らされた追尾ですね。よし、今!!!!」
ヒュルルルル…と音がしたかと思うと上空でゆらゆらと揺れて落ちる光…照明弾である。そして、一気に探照灯を幾重にも照らす。これにはたまらず戦艦ル級やタ級、重巡リ級なども目を隠す。
「グアアアア!!!目ガ!!!」
「とまあ、こんな闇の中でこれだけの照明を浴びせりゃ動きも止まるよね。ハンパな数で追いかけてきたら自殺です。はい、撃てえええ!!!!」
まるで機銃掃射のように駆逐艦の連装砲が吼え、魚雷が炸裂する。そして川内達もこれでもかと弾を撃ちまくる。目が眩み、闇雲に砲を撃つもほぼ当たらない。確かに当たり、負傷する艦娘もいたが中破止まりであった。
「はい、夜戦講義終了!!」
そう言い終わるころには深海棲艦の群れは照明弾でどこを照らしてもいなくなった。海の藻屑となった。
「す、すごい…」
誰か駆逐艦がそう漏らしたが、実際に川内の夜戦を幾度も目の当たりにし、ついてきた吹雪にはこれはいつものことだと思った。適材適所。今回はこの島の合間に誘い込み、自分達が良く知っている地の利を利用したまで。卑怯でも何でもない。これが川内達のやり方だ。
「よし、撤収するよ!!敵艦隊はこれ以上は来ないだろうし追いかける危険な目に遭うこともない!今回はあたし達の勝ちだ!」
「わーい!那珂ちゃんご機嫌!!」
「はしゃいでいないで負傷した艦娘の手当てをお願いしますよ」
あまり騒ぐことをすると残党に気づかれるかもしれないのですぐさま撤収した。此度の夜戦は川内達の作戦勝ちだった。
この夜戦の影響でチョイスル島とサンタイサベル島の間からソロモン諸島へ抜けようとする深海棲艦も待ち伏せを恐れて潜入を躊躇い、束の間の安全を確保できた。
………
一方でショートランド泊地は激戦続きで修復により、ドックはフル稼働。高速修復材もガンガン消耗していく。日没により戻ってきた艦娘の被害は予想以上に大きく、常にドックによる修復を余儀なくされていた。
「司令官、予想以上にバケツの使用量が多いです…このままでは長くはもちません」
青葉の報告はわかっていた。もともと着任して1年足らず。補給が追いついていないのだ。コツコツと集めたバケツも数は数百程度と数は知れている。加えて日中からの撤退、修復も繰り返しているため、バケツの消耗量が予想以上に増えている。
だからこそ「厄介者は夜に潰しておくに限るよ」と突撃を三水戦で繰り出し、僅かでも足止めをするために川内達が動いたのだ。青葉からの報告で全ての深海棲艦の動きが止まった、と言う。川内を無理にでも危険だから止めようと思ったが、こればかりは助けられた。
「……明日がヤマか」
「おそらく明日、激戦を繰り広げればバケツは尽きると思います…資材も…余裕がありません」
バケツが少ないなら比例して資材も少ない。長期戦はジリ貧でこちらがチカラ尽きるだろう。明日、もしくは明後日で一気にケリをつけなければならない。だが…数自体はまあまあ減らせたがそれでもあちらが圧倒的である。どうする…?
「司令、修復については私たちでやっておきますので司令は休んでください。明日も…激しいですよ」
「……そうは言うが「敵は今足止めを食っています。人間は眠らねば脳の機能がガタ落ちです。明日が正念場なんですから司令も万全で臨めるようさっさと寝てください!」
放り出される玲司。こうなった霧島は部屋に戻ろうとするとブチギレる。明日が正念場…その言葉に息が詰まる。何とか…無事に勝利で終えれないだろうか…。そう考えるとベッドに行っても…眠れ…。
「雪風…」
「すやぁ」
雪風は何も気にしていないようによだれを垂らして眠っていた。人のベッドで。呑気なものだ。明日もしかしたら死ぬかもしれないと言うのに…。
…でも、これくらい気楽なのがいいのか?いや、そうはいかない。俺はこの海…本土…そしてみんなを守らなければならない。
この考えこそが、現在の玲司にない考えである。海と本土、自分の艦娘を守る。二兎を追う者は一兎をも得ずと言うか…彼はこの時は全てを守ることができると信じていた。結局それに失敗し、絶望に暮れ、立ち直った際にはもう艦娘を守ることしか頭になくなったのだ。彼は本気で全てを守れると信じていた。だからこそ…今こうして追い詰められていたのだ。
「……雪風…」
玲司が眠れる分のスペースを空けて寝ていたのでそこで何とか考え事をして1時間ほど眠れなかったが…無理やり眠った。
………
2日目。この日は激戦が予想された。もちろん、こちらが圧倒的に不利。数はまだまだあちらに利があるのだ。
「島の間を抜けるのを何とか阻止しなければ俺たちは負ける…」
「いえ、どうあがいても抜けられるでしょう」
霧島が絶望的な言葉を吐き出す。当たり前のことだが、数でこちらは圧し負けるのだ。
「ですが、こちらも全力で防衛に当たれば…そして島の間の狭さを利用すればこちらも何とかなるかもしれません。まず…おそらく主力はこのブーゲンビル島とチョイスル島の合間を抜けてショートランドへまっすぐ向かってくるでしょう。ここに決死隊を結成し、全力で防衛を図ります」
「ちょっと待て、決死隊だと?」
玲司が聞き捨てならない言葉を聞いた。決死隊…だと?
「おい、霧島。冗談じゃないぞ。死ににいくつもりか!?」
「そんなつもりはありませんが、その覚悟でないとここを突破されてしまえば負けは確実なんです。さらにチョイスル島とサンタイサベルの合間、そしてそこから東へ迂回しての戦いはないと判断しました。この2つの海峡こそが主力決戦であり、全力で出撃すべき場所であると考えます」
「霧島艦隊、すでに準備はできております。早くしなければ突破されてしまいます!」
「いいねぇ、じゃああたしもそちら側へまわりましょうかね」
「かしこまりました。この妙高隊もそちらのサポートへ回ります」
伊勢隊、妙高隊も霧島に続くとのことだった。
「では、ワタシたちはこちら側の死守を比叡、榛名、赤城たちと守備しマスネー」
「はい!気合い!入れて!いきます!」
「榛名にお任せください!」
それに続き、他の水雷戦隊や重巡戦隊も次々と集まり、出撃の準備を整えていく。全ての艦隊がショートランド泊地への接近の死守をするため、海へ出る。霧島の決死隊が気になったが…。
「いいか!必ずやばくなったら撤退して修復を受けるようにな!」
とはいえ、バケツはもはやほぼないに等しい。あとどれだけ艦娘を修復できるか…わからない。それでも…ドックは生きている。ならばまだ修復はできる!
「おお!必ずや司令に勝利をお届けできるよう、頑張りますよ!!」
おおおおおおお!!!と艦娘達の雄たけびが響き渡った。
「全軍出撃!!!深海棲艦から私たちの家を守るデース!!!」
「勝利を…提督に!!」
金剛と榛名の言葉に出撃を開始した。残る艦娘は青葉だけ。提督のサポート役のために。それ以外は全て出撃した。
「……頼むぞ…みんな…!」
天に祈りながら彼女たちの無事を祈るのであった。
………
「コノ私タチヲコケニシヨッテ…全員デ総攻撃ヲカケル…ショートランドノ艦娘達ヲ根絶ヤシニシ、ソコノ提督ノ首ヲ土産ニ本土へ手土産ニシテヤル…仕掛ケルゾ…!!!!」
夜戦による奇襲により、足止めを食らった戦艦水鬼。さらには徹底的な防衛により島を越えることができなかった怒りが頂点に達し、ついには適当に艦隊をぶつけて潰していけばいいと思っていた戦艦水鬼が総攻撃を仕掛けることを決定。これにより、ショートランド泊地全員で対応に当たらなければならない。
最悪なのはブーゲンビル島とチョイスル島の合間を戦艦水鬼が精鋭部隊を結成し、ここの穴を空けると言う作戦。ちなみにチョイスル島とサンタイザベル島の合間も総力を投入。これにより、戦艦部隊は全員出撃。合間を抜けられた際の時間稼ぎに加賀や赤城率いる空母機動部隊が防衛にあたる。
………
2日目 昼
こうしてブーゲンビル島とチョイスル島の合間を霧島艦隊及び妙高部隊が突撃。さらには古鷹の重巡部隊、扶桑の戦艦部隊などが突撃。敵の親玉がいると知りながら…そして司令の生きてい帰って来いと言う約束は果たせないな…と覚悟はできた面持ちで全員が突撃を開始。
「敵艦発見!!!……敵はすさまじい数、及び強大ですが…戦闘準備!!!!いくぞおおおおおお!!!!!」
「「「おおおおお!!!!」」」
誰もが霧島の言葉に怯えることも、帰ろうと言う者もおらず、砲を手に…背の砲を構え、敵部隊を迎え討つ霧島たち。
「滅ボセ…全テ…海ニシズメエエエエエエ!!!!!!」
敵の猛攻が開始された。しかし戦艦水鬼はまだ進撃を開始していない。戦艦や空母などが津波のように押し寄せる。これが…本土に攻め込むつもりだったのか!?霧島は驚愕した。
「こちらにわざわざ赴いてご苦労なことですね!!こちらも負けるものか!!!!撃て!撃てえええええ!!!!!!」
敵味方入り乱れた砲撃音が反響も相まって凄まじい音になって響き渡る。しかし、攻勢は深海棲艦側が有利。もちろん数の暴力では到底かなうはずもないのだが、それでも霧島たちは鬼気迫る勢いで敵に向けて砲を撃ち続けた。
「……妙高さん…申し訳…ありません…先に…逝きます…」
「扶桑さん、どうか…司令官を…お守り…」
「……ええ、おやすみなさい…」
圧倒的戦力を前に駆逐艦や軽巡はやられていく。しかし、その艦娘達は沈んでいくのではなく、光の粒子が空へと還っていく。そのように見えた。これは…未練も後悔も…恨みも何もなく。目標を果たしきった艦娘達の末路。深海棲艦になることがない…沈み方だ。
「……霧島さん…どうかご武運を…」
「…ええ。私もすぐに向かいます。待っていてください」
霧島艦隊の駆逐艦のエース。野分が逝った。光の粒子をギュウ…と握りしめ、私に掴まれ…と言わんばかりに強く。
「覚悟はできたつもりでいましたが…やはり仲間が死ぬ…それは…耐え難いものですね…」
涙が溢れそうになるのをこらえ、敵を睨みつける。敵艦隊も大打撃を受けている。場所が狭いことで一網打尽にできないこと。思った以上に艦娘達が堪えたこと。予想外の被害が出てしまった。しかし、代わりはまだまだいる。入り口では伊勢艦隊も待ち受けている。心配はいらない。私たちはただ…隊を作り直して…突き進むのみだ。前へ。前へ前へ前へ前へ前へ前へ前へ!!!
「前へ…」
「前へ…」
「前へ」
霧島がそう言うと他の艦娘達もそう言いだした。腕がもげていたり、艤装がボロボロだったり。体中血塗れでも…。
「前へ!!」
そう言って霧島も前へ進みだした。そして砲を撃ちまくる。
「前へ前へ前へ前へ前へ前へ前へ!!!おおおおおおおああああああああ!!!!!!!!!」
その鬼気迫る迫力に深海棲艦は圧倒された。
………
静かだ…敵は一度退いた。彼女たちの気迫に圧され…そして、被害が甚大であったため。しかし、ここで霧島は退かない。扶桑たちも退くつもりはない。
霧島は腕が抉られ…ほぼ皮一枚と僅かばかりの肉でつながっている左腕をだらりと垂らして立っていた。扶桑も…妙高も…もうボロボロであった。
でも、退かない。提督の勝利のために。
「こちら…霧島…艦隊。犠牲は多く出ましたが…敵は一度…撤退しました…繰り返します…撤退しました!」
「霧島!損害を報告しろ!!」
「ええ…野分さん…長良さん、古鷹さんに…」
散った艦娘達の名前を挙げていく。その数は20人近く。残った艦娘も…残り10人程度であろうか。その名前の羅列に無線越しに司令が息を呑んでいるのがわかった。
「これより…さらに奥へ進み…敵を…僅かでも減らします。大破して生き残った艦娘は…まだ無事である青葉さんに連れ帰ってもらい…修復して別の艦隊に組み込んでください。今青葉さんが撤退を開始していますので」
「扶桑、これより進撃します」
「妙高、進撃いたします」
「お前ら!それ以上の進撃は許可できない!戻れ!すぐに応援を送る!」
応援とは言えど、すでに無線でチョイスル島とサンタイサベルの合間の艦隊も…かなり厳しい状態であった。金剛たちは合間から引き、ブーゲンビル島の方へと戻りつつあると言う。
「応援と言ってももうボロボロではありませんか。私たちが時間を稼ぎます。その間にみんなを回復させて、万全にしてから進撃してください」
「何言ってんだ!そんなことしてる間にお前らが沈んでしまう!戻ってこい!頼む…俺の言うことを聞いてくれ…戻ってこい霧島ぁ!!頼む…頼むから…」
参謀兼頭脳であり、書類処理の相棒霧島…ここで沈ませるわけにはいかない!大声をあげ…最後には悲痛な泣きそうな声で霧島を呼び、懇願する玲司。
ああ…そんなことを言われたら本当に戻りたくなるじゃないですか。でも…ここで戻れば…ショートランドはピンチに陥る…だから…霧島は笑ってこう返した。
「司令。貴方といた時間はとても楽しかったです。どうか、この戦いに勝利を。我ら霧島艦隊。そのために死ぬと言うのなら本望!お別れです、司令。さようなら」
司令との言い争いばかりの毎日は楽しかった。毎日毎日…書類と喧嘩し…司令と喧嘩し…いや、それでも姉妹がいて…明るい駆逐艦と楽しい毎日を過ごして…。思い残すことは…何一つ…ない!それは扶桑や妙高達も同じである。
「やめろ…行くな!行くなああああ!!」
司令の悲壮な叫び。しかし、霧島たちはそれを無視して無線を切り…
「全員、突撃だああああああ!!!!!!」
「おおおおお!!!!」
ボロボロのまま、さらに戦艦たちを追いかけて突撃を繰り出す霧島たち。その姿に戦艦は驚き…重巡たちが冷静に立ち向かった。しかし、そうしている間にも仲間が屠られていく。その霧島率いる艦隊の様相は修羅のようであった。しかし…。
「ぐあ…!!!ぐう…霧島さん…お先に…失礼いたします!」
「妙高さん!!!」
霧島を狙う魚雷を前に立ちはだかり、庇う妙高。大爆発を起こし…そのまま妙高は吹き飛んでしまった。
「よくも…よくもおおおお!!!」
「バカメ…オトナシク海ニ沈メ!!!」
戦艦の集中砲火を浴び、穴だらけになる扶桑…しかし…
「………提督…霧島…さん…みんな…ご武運を…」
光の粒子となって扶桑は消えた。
「うおおおおおおおおお!!!!!!」
霧島1人となっても敵を屠る霧島。腕はすでにない。砲もひしゃげ…それでも…前へ進み…そして…
「死ネ!!!」
ドォン!!!!
霧島の左胸に大穴が空いた…。
「……ガハッ…ガアアアアアアア!!!!!」
生きている砲で胸を貫かれつつも自分を撃った戦艦を屠った。
「ガハッ…ガハッ…はははは…これで…私の役目は…終わり…かぁ…司令……私は…あなたのこと…嫌いでは…ゴホッ…なかった…ですよ…いえ、むしろ…す…」
霧島に無念や後悔はなかった。崩れ落ちながら…晴れやかな…清々しいと言うような顔で…光となって霧島は消えた。
「霧島ああああああ!!!!仇は取るからね!!!!!!伊勢艦隊、戦闘準備!!!!」
涙を流しながら…伊勢が檄を飛ばす。霧島の死を…無駄にしないために。
戦艦霧島…ブーゲンビル東に於いて多くの深海棲艦を屠り…散った。
ショートランド泊地の崩壊が…始まった。
霧島…散る…。
そしてこれから先も…仲間が散ってゆく暗い話がもうしばらく続きます。
伝説のショートランド海戦は悲劇の海戦ですので…
次回もお待ちいただけますと嬉しいです。
それでは、また。