提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第二百二話

「霧島ああああああああ!!!!!!!!!あああああああ!!!!!!!!」

 

執務室に玲司の慟哭が響く。相棒であり、執務室の戦友であった。そしてよき世話役であった。その霧島の反応が消えた。妙高も…扶桑も…野分達も…皆…皆散った。

 

『よくも扶桑を!!!!よくも霧島をおおおおお!!!!』

 

『姉様!!!!すぐに後を追いかけますよ!!!!』

 

「馬鹿を言うな!!!数は大きく減らした!!お前らは一度戻れ!!!」

 

怒り狂った伊勢と山城が突撃を始めた。それに続く重巡戦隊。その勢いは霧島に匹敵するか、凌駕していた。恐ろしい勢いで敵を屠っていく。

 

『テートク!!!東の海峡の敵が退いていくネ!!!こっちも轟沈はないデスけど損傷が激しいデース!!!』

 

「退け!一度退いて立て直すぞ!!!」

 

『了解ネ!!!』

 

ダァン!!!!と机を叩く玲司。覚悟はしていた。しかし、それでも仲間は仲間。戦友であり家族。それを喪った怒りは大きい。今すぐこの大艦隊の親玉を引きずり出して叩き潰したいところであるが、そうもいかない。特攻してこいなどとバカげている。落ちつけ。冷静に…なれるはずはないが…。

 

「司令官!!霧島艦隊たちの生き残りを今ドックへ連れて行きました!バケツの使用許可を!!」

 

「そんなものいらないから使えるだけ使え!!!」

 

青葉の怒号にも似た報告と許可願いに同じく玲司も怒号で返すような形になった。青葉は開け放したドアもそのままにドックへ走っていく。

 

『こちら加賀空母機動部隊。伊勢さんの艦隊が退いた際に追いかけてくるであろう艦隊は私たちで止めます。日没までは奮闘してみます』

 

「…わかった…無茶するな」

 

『頭に来ています。その言葉の約束を守れるかはわかりません』

 

ブツリと無線を切り、応答する気はないらしい。相当頭に来ているらしい。金剛艦隊たちも最速で戻っている。今日はここまでか…。戦果は大きいが失ったものが大きすぎる。

 

「霧島…妙高…扶桑…みんな…」

 

うなだれる玲司。大いなる犠牲で大きな戦果を得た。金剛たちも犠牲はありそうだがこちらも見る限り戦果を得ている。伊勢達も退かせなくては。これ以上の犠牲を避けなければ精神がもたない。

 

「伊勢!山城!退け!!!仇を取りたいのはわかるが退け!!!」

 

『くっ!!わかったよ!!!敵は減らした!!!これ以上は…今日は我慢するよ!!』

 

『…了解』

 

納得はしていないようだが了承してくれた。ひとまず…多大な犠牲は防げる。いや、霧島たちの犠牲は大きすぎるが…。

 

ふう…とため息を吐いた。その時ズドン!!!と泊地が衝撃に見舞われた。

 

「何だ!?」

 

アラートが鳴り、襲撃されたことを知る。

 

「司令官!!空襲!!!!」

 

青葉がドックに行ったはずだが飛んできた。外を見ると爆撃をされた跡が見えた。泊地自体に損傷はない。まだ問題はない。

 

「クソ、空母が直接やってきやがったか…!」

 

『すみません、すり抜けられました。私たちも帰還し、防衛します』

 

「加賀、赤城、すまん。気を付けてくれ」

 

ブーゲンビル北方からの空母の攻撃だろう。おそらく、空母の防御が薄いとバレた。ショートランドと言い、現在の横須賀の時代と言い、玲司は空母不足に悩まされていた。こうした結果、ショートランド泊地はまず防衛能力はいかほどか?と言う理由からのまずはお試し、と言ったところだろうか。まずい、これは非常にまずい。加賀と赤城、それから隼鷹や飛鷹はいるが、これだけなのだ。

 

大空襲が始まればこの小さな泊地などたまったものではない。

 

「まずいぞ…空襲まで喰らったら…」

 

「司令官、ここももう危険です!ブインへお逃げください!」

 

「前も言ったろうが!俺が退いたらお前らだけ全滅する!それだけはできない!」

 

「司令官の代わりはいないんです!!司令官が死んだら…艦娘にとって一番大事なものを失うんです!!!」

 

「だからってお前らを見捨てるなんざ俺ができると思ってんのか!?」

 

「……ぐっ…!」

 

それこそ最低の行為だ。仲間を見捨てて自分だけ生き残るなど…俺にはできやしない。父から教わった言葉…もういないが父さえ裏切るような行為。そんなこと…できるわけがない!!!

 

………

 

日が暮れ、金剛たちが戻り、伊勢達も戻ってきた。とにかく昨日と同じく修復でドックは目まぐるしく稼働する。

 

「司令官…バケツが…」

 

「………」

 

高速修復材がもはや雀の涙程度にまで減った。明日、空襲が可能とわかった。轟沈艦も多数確認した。ならば…明日親玉まで総攻撃を仕掛けてくるだろう。

 

「とにかく、空母部隊は泊地のギリギリの前線で少しでも空襲を防ぐしかない。相手の空母は伊勢や山城たちが怒りに燃えているため潰してくれるに違いないと信じている。ただ…なだれ込まれるだろうな…」

 

「……総力をあげて防衛にあたるしかありません」

 

「だが相手は相当プライドが高いらしいな。まさか、ここまで怒り狂って殲滅に来るとは思ってなかった。本当なら悠々と本土を攻めるつもりだったろうにな。ハハハ」

 

馬鹿なやつだ、と玲司は付け足した。ただ、ケンカを売ったのはこっちだ。それだけは少し後悔しているが。もう後悔しても仕方ない。霧島たちがいなくなり、金剛隊たちの中でも沈んだ艦娘がいる。しかし士気はと言うと伊勢や金剛が士気ををあげるために燃えている。

 

「司令官、ブーゲンビル東へ向かう艦娘の反応が…水雷戦隊!!川内さん達三水戦や他の水雷戦隊も!」

 

金剛たちのことを考えている場合じゃなかった。こちらも仲間をやられて怒り狂った艦娘がいたのだ。

 

「川内!?おい川内!!昨夜の手はもう通じないぞ!!!」

 

『そんなことは百も承知。それでも…それでもあたし達にできるのは夜戦しかないわけだからさ。一匹でもいい。霧島さん達を沈めたクソ深海棲艦をあたしらで少しでもぶっ潰す!!』

 

「無理だ!もうバレているに違いないんだぞ!!!」

 

「川内さん!鬼怒さん!戻ってください!

 

『ごめんねー青葉さん。鬼怒ももう…我慢の限界。昼間に沈められた名取姉さんたちのこと、我慢できないんだ』

 

『じゃあね提督!少しくらいは何とかして散ってやるさ!』

 

「馬鹿野郎…馬鹿野郎!!!玉砕覚悟で突撃してんじゃねえぞ!!おい、聞いてるのか!!!!クソ!!!無線を封鎖しやがった!!!!!」

 

その夜、3艦隊で出た川内達が帰ってくることはなかった。しかし…敵の数は数十は倒したようである…。

 

「ばか…やろう…」

 

「テートク…」

 

「提督…」

 

「テートク。泣いている暇はありまセン。明日は総力をかけて攻め込みマス。加賀さんたちは泊地近海で空襲の防衛に当たってもらいマス。明日が正念場なんデス!テートクが泣いている暇はないんデスよ!!!」

 

両肩を掴み上げられ、立たされる。

 

「………ああそうだよ!!!!お前に言われなくてもわかってるよ!!!!こうなったらお前らの事を戦闘詳報にクソかっこよく書いてやるよ!!!1000隻の深海棲艦を総力をあげて壊滅させた!俺の艦娘達は最強だってな!!!!」

 

「そうデス!!!そうじゃなきゃ、テートクが豚のように泣き喚きながらすごくかっこ悪く死ぬって詳報に書かれてしまうんデスよ!!!」

 

開き直りもここまでくると清々しい。しかし…その言い方は金剛にとってはとてもチカラになるものであった。全力で戦うには提督の士気も高くなければチカラが出ないのだ。

 

「……わかったよ。今度こそ俺も腹を決める。さーて、明日は死のうぜ。ファックファックって言いながらのたうち回って…それでも深海棲艦を全員ぶちのめして…それで終わりだ」

 

「司令…」

 

「提督…」

 

「いくぞお前ら!!!俺は逃げねえぞ!!!お前らも逃げんなよ!!!絶対に逝った艦娘達の仇を取って暁の水平線に勝利を刻んであいつらの慰霊碑に勲章飾ってやるんだからな!!!!」

 

「うおおおおおおおおお!!!!!!それでこそワタシの提督デース!!!!」

 

霧島たちの死。川内達の死。怒り狂ってはいるものの頭は冷静だ。何としてでも親玉をここへ引きずり出して金剛たちで始末してやる。寝ずに作戦を寝る。眠気などない。こうして…3日目の朝が来た。

 

………

 

青葉を残し全員出撃。万が一空襲で指令室が何かあった際に提督を守るためだ。

 

窓を開ければ砲撃音が聞こえる。爆発音も聞こえる。

 

『くそ!提督!ごめん!海峡を越えられた!!けど、ここから踏ん張るから!』

 

『テートク!こっちも抜けられたデース!!本当に向こうも総力で来たデース!』

 

「踏ん張れ!!!『原初の艦娘』が今ラバウルに着いたそうだ!!補給をしてこっちへ向かうらしい!彼女らが来たなら勝てる!!」

 

『もたせてみるデース!!!』

 

『援軍!それはありがたいね!こっちも山城ともたせてみるよ!』

 

出せる艦隊は全て出した。防衛に攻撃。泊地にいるのは今は玲司と青葉しかいない。

 

『提督。艦載機の数が増えつつあります。いざと言う時は指令室から逃げてください』

 

「冗談。指令室が吹っ飛ぼうが俺はここにいるぞ」

 

『呆れた人…』

 

頑として動く気はない。しかし、泊地の敷地内にいればいいのだ。指揮はできなくなるが艦娘のチカラが弱まることはない。

 

「俺は逃げねえぞ…かっこよく戦ってかっこよく生き残ってやるんだ。泣き喚いてケツまくって逃げるなんざ俺の性に合いやしねえ」

 

………

 

「お姉様、囲まれます!!」

 

「シット!東からも回り込んできたね!」

 

「…金剛お姉様…私たちがこの包囲に穴を空けます。司令が心配です。金剛お姉様はそのまま泊地へ戻ってください!」

 

「…比叡」

 

「提督を守れるのは金剛お姉様だけです。それから、雪風ちゃんや綾波さん…」

 

「比叡たちは…」

 

「ここで戦います。大丈夫!必ず追いつきますよ!」

 

数が多すぎて追いつくなど無理だ。目はもう死を覚悟している。それでも…活路を見出し、金剛の艦隊を外へ出し、泊地へと向かわせる気だ。

 

「皆さん、聞きましたね!!!何としてでも金剛お姉様をこの包囲から脱出させますよ!!!!」

 

「金剛お姉様の邪魔は!榛名が許しません!!!!」

 

敵の戦列に突っ込んでいく榛名や比叡、他の艦隊たち。前へ。とにかく前へ。集中砲火を食らおうと、何が起きようと戦艦や重巡の配備が薄いところを的確に狙い、穴を空けていく。穴をふさごうとする深海棲艦もやられていく。針のような小さな穴。

 

「今デーーーース!!!!」

 

比叡や榛名の後ろに隠れていた金剛が号令を出し、雪風や綾波が砲や魚雷を発射し、さらに穴を空けて一気に突撃する。

 

「シマッタ…!!!!追エ!追エ!!!」

 

「そうは行きませんよぉ!!!撃てっ!!!!!」

 

比叡、榛名や他の艦隊たちの猛攻が始まる。金剛艦隊はその隙に無傷ですり抜けて出て行った。そうして小さくなっていく金剛たちの背中を見た榛名はふっ…と笑った。

 

「さあ、皆さん…いきましょうか!!」

 

「おお!!!」

 

榛名の檄、それに呼応する比叡の言葉に割れんばかりに他の艦娘達も雄たけびをあげた。

 

「こちら榛名です。金剛お姉様の艦隊を泊地に戻すようにしました。榛名と比叡お姉様率いる大艦隊でここにいる多数の深海棲艦を…討ち倒します!!!」

 

『…どれだけの数がいるかわかってんのか』

 

「はい。十分承知の上です。ですが、ここで殲滅しなければ金剛お姉様や伊勢さん、山城さんや加賀さん達にご迷惑が掛かります。ですから…ここで全て殲滅します!」

 

「こちら比叡。私たちにお任せください!」

 

『……わかった。蹴散らせ!!!』

 

「提督…榛名は…提督と出会えて幸せでした。勝利を…提督に!!!!!」

 

「恋も戦闘も負けません!司令!榛名と同じです!勝利を提督に!!!」

 

『…ああ。吉報、待って…待ってる…待ってるからな!!!』

 

ブツリと交信は切れた。良い提督にお仕えできて本当に幸せでした。榛名も比叡もそう思う。一度目を閉じ…そして…。

 

「全員、総攻撃!!!何としてもここの敵を殲滅します!!!」

 

「「「うおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」

 

圧倒的な数を前に榛名が大艦隊を率い、砲を放つ。それを皮切りに空気を。空さえ切り裂くかのような轟音が周囲に響き渡った。

 

………

 

「………比叡、お姉様?」

 

「どうしたの、榛名」

 

「……皆…逝ってしまいましたね」

 

「残っているのは…私と榛名だけ…か」

 

そう言っている比叡もすでに体が光の粒子になっている。何時間戦っただろうか。数分だったかもしれない。それさえわからない。バタバタと消えていく仲間たち。涙を流す暇さえない。無心で砲を撃ち続けた。艤装は火を噴き、爆発寸前。比叡はもう…消えるだろう。

 

「ごめんね、榛名…先に…」

 

「はい、比叡お姉様。すぐに榛名も追いかけますので」

 

ひゅう…と風が吹くと比叡は満足そうな笑みを浮かべたまま…光の粉が風に舞って消えた。艤装は海に沈んでいく。残るは戦艦ル級flagshipのみ。100以上いた深海棲艦は数十の艦娘に葬り去られ、中破したル級が残るのみとなった。

 

榛名はル級へ歩き出す。もう弾もない。艤装はもうめちゃくちゃで。何もできない。

 

ドン!!!!

 

中破しているが砲は健在で弾もいくらでもあるル級。今の一撃で腕が飛んだ。

 

ドン!!!

 

太ももの半分が抉られた。ガクンとよろけるが歩みを止めなかった。

 

「来ルナ…来ルナ…クルナクルナクルナクルナクルナクルナアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

「勝手は…榛名が…許しま…せん!!」

 

ガシィ…!とル級にしがみつく榛名。その最後の1隻であるル級は何で締めあげられているのかわからない凄まじいチカラで締めあげられ、動けない。砲を撃つこともままならない。火事場の馬鹿力。片腕でありながらガッシリとル級を抱きしめ、離すことはない。

 

「……この艤装はまもなく大爆発を起こすでしょう。この爆発に…あなたも耐えきれません」

 

「ヒッ!ヤ、ヤメロ!!!」

 

「それは…できません…これで…提督の勝利なんですから…!!!!」

 

「離セエエエエ!!!!ヤメロオオオオオオ!!!!!」

 

(提督…榛名は提督をお慕いしておりました。だから…ずっと見守っていますから…どうか、お幸せに…!!)

 

「勝利を…提督にいいいいいいい!!!!!!!!!」

 

そう言った瞬間、大爆発を起こした。爆炎ときのこ雲があがり、その衝撃で海水も宙高く柱を作る。もちろん、間近で捕まっていたル級もこの大爆発には耐えられない。榛名もル級も跡形もなく吹き飛んでしまった。

 

ソロモン諸島近海に於いて、戦艦比叡、榛名。そして…数多の…ショートランドのほとんどの艦娘が消えてしまった。

 

胸を抉るかのような痛みが玲司を襲った。そして…

 

「ゆっくり…休めよ…みんな」

 

帽子を深くかぶってそう言った。

 

………

 

「姉様の仇だあああああああ!!!!うあ!!」

 

「こいつ…こいつが…敵の親玉か!!」

 

ブーゲンビル島の東で戦う伊勢と山城はついに敵の親玉であろう人型の深海棲艦を見た。ガッチリと他の艦隊に守られていたが、その存在感はすさまじいものである。

 

「貴様ラガ…私達ノ邪魔ヲシタ艦娘共カ。愚カナ。私達ニ楯突カナケレバ今モ安穏ニ生キテオレタダロウニナ」

 

「深海棲艦がいたなら倒すのはあたし達の役目ってね。提督も間違ってないし、あたし達が今やってることも間違いじゃないさ」

 

「……退ク気ハナイノダナ?」

 

「あのさ、親玉目の前にしてさようならーってできる?」

 

「貴様ラハ主力艦デハナイナ。ナラバ興味ハナイガ…私ノ部下ヲ潰シテ回ッタコトハ許サン。艦娘ハ滅ボシテ然リダ」

 

「その言葉、そっくりそのまま返してやるわ。姉さまの仇を今ここで討ってやる!!!!」

 

「殺セ。私達ハ進ム」

 

「おおっと、そうはいかないよ。ここで…まとめて終わらせてあげるからさ!!!!!」

 

「愚カナ……」

 

こちらも30はいるであろう艦娘と…多くの深海棲艦がいる。しかし、数はだいぶ少ない。昨日の猛攻。川内達三水戦の夜戦…川内達は闇夜に消えてしまったが…それでも多くの数を屠り、ラバウル、ブインの連合艦隊にも多くを屠られ、ここで数を削られては本土への侵攻も難しい。東側の連中はうまくやるだろう。そう信じて疑わない戦艦水鬼。その予想は全て外れ、壊滅したことには気づいていない。

 

ブーゲンビル島東でも激しい砲撃船が繰り広げられた。

 

『伊勢!大丈夫デスか!?今からそっちへ援護に向かうデス!』

 

「そりゃあ助かるねぇ!てか比叡たちは大丈夫なの?」

 

『それは…』

 

「…そっか、あんたをこっちへやるために…ね。わかった。今から山城と大暴れしてやるから!」

 

『すぐ行くデス!持ちこたえて!』

 

「頑張ってみるよ!!さあおいで深海棲艦共!お伊勢さんをなめるんじゃないよ!!!」

 

「山城隊、行くわよ!!!鬼の山城隊のチカラ、見せてあげなさい!!!!」

 

………

 

多くの深海棲艦は屠った。しかし、戦艦水鬼の砲撃まで出てきては最悪だった。伊勢が大破、ほかの艦娘も中破や大破だらけだった。何とか伊勢は随伴艦に曳航してもらい、ブーゲンビル島の南まで逃げおおせた。山城は…伊勢を逃がすために殿を務め、ついには連絡を送っても反応がなくなった。大爆発したような音まで聞こえた気がする。

 

ああ…山城…あんたはよくあたしに張り合って来たけど…ケンカもよくしたけど…あんたのこと、嫌いじゃなかったんだよなぁ。

 

「い、伊勢さん…私たちももう燃料が…」

 

「あっはは…しょうがない…まだ一応砲は撃てるけど…浮き砲台にしかもうならないねぇ…」

 

「金剛さんが来てくれるんですよね?なら…私たちが囮になって…金剛さん達に思いきり…」

 

「名案だねぇ、五月雨!そうしかないかぁ。あー。もう見えてきた。金剛たち、間に合うかなあ」

 

「えへへ、提督の勝利のためですから!」

 

「そうですよ、伊勢さん!勝利のために!」

 

「オーケー。んじゃあまあその作戦で行こうか。提督、金剛、聞こえる?あたしたちはもうボロボロさね。浮き砲台にしかならないからあたし達が囮になって金剛にぶっ叩いてもらうね」

 

『は?何言ってんだお前まで。曳航してもらって帰ってくる方法があるだろう!?』

 

「あー、ごめん。五月雨たちも全員燃料切れ。そうこうしてる間に戦艦水鬼が来るよ」

 

『…金剛!』

 

「もうすぐブーゲンビル島ネ!伊勢…!!』

 

「私が囮になるわ。提督。それで勝てれば戦艦水鬼の勢いを思いっきり削いでやれるのよ!金剛の艦隊が勝てばそれでいいのよ。あたしたちはどうせ、もうまともに動くこともできないからさ…金剛。さあ、やっちゃおう!」

 

覚悟を皆決めて頷いている。

 

『伊勢…あなたの覚悟。しかと見せてもらったネ…。金剛隊行きマス!』

 

「伊勢隊、行くわよ!提督。貴方ともっといたかったけど、ここまでね。しっかり勝ってよね!」

 

『ちくしょう!ちくしょう!!!!ふざけんじゃねえ!帰ってくるって言葉はねえのかよ!!!おい、伊勢!何とか言えよこの野郎!!!!伊勢!おい!!ちくしょう…ちくしょおおおおおおおお!!!!』

 

もういっぱいいっぱいなんだね、提督…ごめんね…と謝りながら無線を切った。帰っては来れないだろうから期待を持たせちゃいけない。山城の仇も取りたいし。あの子は扶桑といつもケンカと言うか張り合ってきたライバルだけど、大切な仲間。もうボロボロだけど…最期まで…徹底的にやってやる!!

 

ヒュオン…ドゴォ!!!

 

頬を切る風切り音と何か爆発音がした。振り返ると同時にさきほど笑っていた五月雨がいなかった。

 

「…もう追いかけてきたってわけね」

 

頭に血が上るのを抑え、戦艦水鬼の一団をにらみつけた。よくここまで数を減らしたもんだ。最初は1000はいただろうに。もう数十にまで減った。なんだ、あたしたちってば結構やれるじゃない。本隊を引きずり出してやった。それはそれで面白いことだ。伊勢はそういう面白いことをするのが大好きだ。隠れている艦隊を引きずり出してやるのが。

 

「いくよ!!最後の残りカスだけど最後まで踏ん張ってやるさ!!!」

 

「バカメ…ダガ…ヨクモココマデヤッテクレタナ…!貴様ラハ皆殺シニシテクレル!!!」

 

「おーこわ。ははっ、残念だったね。とっとと日本本土へ行けばいいのに、こっちにのこのこやってきて、あたしたちやラバウルの人らにもボコボコにされてさ!あはははは!!!!バーカバーカ!!」

 

さらに戦艦水鬼を煽る。

 

「さて…あたしたちは動けないけど…最後までやってやるさ!いくぞおおおお!!!!」

 

満足に動けない、弾もほとんどない状態だったが戦艦水鬼に挑む伊勢達。もちろん…浮き砲台でしかないのですぐさま集中砲火を浴びる。だが、伊勢は何としてでも沈むわけにはいかなかった。倒しやすい駆逐艦や軽巡を倒し、自分は戦艦や重巡の砲撃を浴び続ける。

 

「何ナノダ…貴様ハ……!」

 

戦艦水鬼が狼狽えるほどである。これだけの猛攻を受ければあっと言う間に沈むだろう。しかし、伊勢はそれでも耐え続けた。撃てる砲で敵を倒し、体はボロボロになろうが彼女はそこに立ち続けた。

 

「伊勢…さん、おやすみ…なさい…」

 

「ああ、おやすみ」

 

消えゆく駆逐艦におやすみ…と優しく微笑んだ。

 

………

 

「ゴファ…!!!ゴフッゴフッ…」

 

戦艦水鬼の苛立った一撃が伊勢に突き刺さる。派手に吹き飛び…もう起き上がれないでいた。撃つ砲もすでにない。ククク…と戦艦水鬼が首を掴み、持ち上げる。

 

「イツマデモ生キテイテモ辛イダケダ。アキラメロ。オ前達ハモウ終ワリダ」

 

「………クックククク…あははははは!!!!」

 

「何ガオカシイ」

 

「生きていても辛いだけ。諦めろ。もう終わり。ははは、深海の恨みつらみにあっと言う間に負けて憎しみに身をやつして化け物になった奴が言いそうな言葉だね…」

 

「…何?」

 

「あたしは最期まであきらめないし、終わりじゃない。だから、こんなこともしてやれるんだよ」

 

ぺちっと戦艦水鬼の頬を張った。張ったと言っても頬に触れる程度のチカラしかもう出ない。伊勢の最期の悪あがき。

 

「コノ私ヲソコマデコケニスルカ。イイダロウ。ナラバ貴様ハココデ…モウ終ワリダ」

 

「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと殺しなよ。もたもたしてると…こわーいうちの最強の艦隊が来ちゃうよ?」

 

「ナン…ダト?」

 

「全砲門、Fire!!!!!!!」

 

轟音。それと同時に雨のように砲弾が降り注ぎ、魚雷が艦隊を襲った。大爆発。重巡や戦艦でさえ爆発し、大打撃を負い、さらには魚雷も炸裂し、水雷戦隊までもが撃沈させられる。

 

「ナンダ!?」

 

「ほーら、もたもたしてたから来ちゃったよ」」

 

「オノレェ…全テ沈メテシマエ!!!」

 

「どこ見てるクマ?おっせえクマ!!!」

 

「雪風は沈みません!!!」

 

「綾波、砲撃に移り、敵水雷戦隊を狙います!!」

 

ショートランド泊地最強の、演習ではほぼ負けなし。戦闘においては強すぎる実力を持つ金剛艦隊。練習艦の時からその強さの真価を玲司により開花させた金剛率いる艦隊だった。

 

「バカナ!?ナゼダ!私ノ切リ札達ガ!!!!」

 

「オ姉様!ココハ危険デス!一度退キマショウ!!!!」

 

「おおおおおおあああああああ!!!!!!どけえええええええ!!!!!!!」

 

金剛、それから那智の猛攻撃は敵を圧倒した。おそろしいスピードで敵が沈んでいく。さらに球磨、雪風、綾波が続く。もう1人いたはずの重巡愛宕は榛名達と共に残ると言い、そして散った。その最期のこともあり、憤怒の炎に身を焦がした金剛たちの強さは止まるところを知らなかった。

 

「クッ…退ケ!!」

 

「ハイ、オ姉様!!!」

 

伊勢を放り出し、すぐさまブーゲンビル島をなぞって北上していく戦艦水鬼たち。その数は大きく減り、もはや大規模艦隊とは呼べないほどの規模であった。

 

「伊勢!大丈夫ネ!?」

 

「……さっすがは金剛…こっちに来てくれて…かん…ゴフッ…感謝…するよ」

 

「伊勢…もう…」

 

「あたしゃもうダメだね…ほら…もうこんな…だしさ」

 

「そ、そんな…伊勢さん…」

 

「…そんな顔するんじゃ…ないよ…綾波…あんたは…最強の駆逐艦の双角なんだ、から…さ…最後まで…ショートランドの狼…って名前のように…気高く…そして…強く…あるんだよ。雪風…金剛と…提督と…みんなを…ブホッ…たのん…だ…よ」

 

「…はい」

 

「クマ…伊勢さん、心配すんなクマ。ちっと遅くなるかもしれないけど、必ずそっちへ行くクマ」

 

「あ、はは…できれば…きてほしく…ない…なあ…」

 

「そう…デスネ。デスけど…」

 

「ま、まあ…気長に…待って…るよ…ねえ金剛…」

 

「何デスカ?」

 

「あたし…ちょっとつかれたよ…もう…やすんで…いい、かなぁ…」

 

伊勢の存在が光の粒子になり薄くなっていく。他の皆は泣いていたが…金剛だけは笑っていた。そして。

 

「ええ。おやすみデス」

 

「…うん、おやすみ」

 

(ああ、提督…やっぱ帰れなかったよ…ごめんね。でも…あはは、ほんっと…楽しかったなぁ。提督…次にもしあたしが着任したら…またしてあげるから…ね)

 

伊勢はやり遂げた。そして…何か幸せそうに目を閉じて笑顔でそのまま光の粒子となって消えた。

 

「……ワタシたちも負傷しましタ。撤退して修理をし、明日に備えましょう」

 

平然を装っているが、その拳からは血がしたたり落ちるほど、手を強く握りしめ、伊勢の最期を見送った。まだ、終わっていない。明日で確実に全てを終わらせる。そして…ワタシたちが勝つ。そのための補給。そのために提督に作戦を仰がねばならない。

 

「こちら金剛デス。伊勢の最期を見送りマシタ」

 

『…そうか。ありがとう…』

 

「敵の首謀者は戦艦水鬼と駆逐棲姫のようデスネ。明日、アレらを完全に叩き潰したいデス。テートク、作戦を練るのと修復のために帰投シマス」

 

『わかった。加賀や赤城たちも撤退を開始した。気を付けて帰って来い』

 

「了解デス。テートク」

 

『どうした?』

 

「ワタシはあいつらを許せないデス。絶対に」

 

『同感だ。戦うぞ。最後まで』

 

この時の金剛と玲司の言葉は怒気を含み…怒りに燃え、殺気のような気配を感じ、綾波が身震いするほどであった。まもなく日が暮れる。3日目の激戦は…ほとんどの艦隊を失ったが…敵の艦隊もほとんどを撃沈させるどちらかと言えば圧倒的勝利で終わった。玲司も金剛もそうは思っていないが。

 

明日で全てを終わらせる。その決意は玲司も金剛も…いや、那智も綾波たちも同じであった。明日は4日目。決着の時。その結末は…その時はまだ…玲司は知る由もないのだ。それが皆との別れになる覚悟はできていた。ショートランドがなくなることだって覚悟していた。

 

どんな結末だとしても…勝つのは俺たちだ。それを信じて玲司は金剛の帰りを待った。水平線に沈みゆく夕陽を睨みながら。




次回、ショートランド編最終話。
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