提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第二百三話

夜になり、全員帰投した艦娘は100人いたはずが10人にも満たなくなっていた。

 

金剛、球磨、雪風、綾波、加賀、赤城、飛鷹、隼鷹。僅か8人しか艦娘が残っていない。しかし、相手のほうももう30から50いるかいないかの艦隊となっていた。激戦に次ぐ激戦で資材はもうほぼなく、高速修復材も残った8人に使ったためもうない。崖っぷちの状態であった。

 

特に問題なのはボーキサイトがもう底を尽いている。補充を最後にもう明日艦載機を撃ち落とされると補給ができず、空母たちはただの浮きにしかならない。加賀達の提案で副砲を積み、最悪それで駆逐艦くらいは倒せるでしょうと言われたくらいである。

 

「燃料も弾薬もほぼカンバン。鋼材はあっても修復は入渠のみでバケツはなし。いや、数個だけ残ってるのか。笑えねえな」

 

「できればそれは主力である金剛さんに使いたいものね」

 

「……誰にも使いたくねえけど…」

 

「明日の主力になるのは金剛さんです。金剛さんがやられてしまえば私たちではもう戦艦水鬼を倒すのは無理でしょう。ですから、そこは金剛さんに使用してください」

 

「あたしたちだってやるだけやるさ、な?飛鷹」

 

「ええ。目にものをみせてやるわ」

 

「…みんな、ありがとう」

 

「なーに言ってんだよ!今更水臭いってー!みんな逝っちまったんだ。あたしたちだって逝く覚悟で臨んでやるさ」

 

「ふふ、そうね。私たちだけサボってるようじゃみんなに怒られちゃうもんね」

 

隼鷹と飛鷹は笑っている。死を覚悟しながらも余裕の表情。もう恐れるものは何もない。ということか。

 

金剛や雪風たちも明日のためにドックでせっせと砲弾や魚雷の準備をしている。こちらももう準備は終わるだろう。

 

けたたましく鳴る電話。直通回線で電話をしてくる人など数えるほどしかいない。

 

「ショートランド泊地です」

 

『玲司か!?今状況はどうなっているのかね!?』

 

「どうって、みんな死にましたよ!残った艦娘は8名!明日、これだけで戦艦水鬼の艦隊に勝負を挑む準備をしているところです!」

 

やけくそになりながら言った。「は、はち…めい…」と言葉を失うのは古井司令長官、おやっさんだ。

 

『何という無謀なことをしたんだ。深海棲艦の大艦隊が本土へ向けて侵攻してくるだろうということは数週間前から予測はしていたんだ。だからこそ、ブインやラバウルも含めて本土への最終防衛ラインで日本の基地や泊地もすべての艦娘達を用いて叩くつもりだった。まだまだ新米である玲司は参加させるつもりでなかったのでこの話をしていなかったんだ…』

 

それが悪手だったね…と付け足した。悪手どころではない。言ってくれていればこんな犠牲を出さずに済んだかもしれないというのに。いや、たらればは言っても仕方がない。

 

『とにかく、今はブインに避難して我々に任せなさい。陸奥達がブインを出て明日にはそちらに着けるはずだ。逃げて…生き延びるんだ』

 

「嫌だ」

 

なっ…と玲司の返事に狼狽える声が聞こえた。玲司は続ける。

 

「ここまで艦娘の犠牲を出しておいて今更おめおめと逃げるなんて無理です。それこそ沈んでしまった艦娘に申し訳が立たない!ここまできたからにはここにいる残りの8人で最後まで戦う!」

 

『何を言っている!艦娘だけではない!玲司まで命を落とすことになるのだぞ!』

 

「艦娘と俺は一蓮托生だ!!!ここで逃げましたなんて言ったら、比叡は!榛名は!霧島は!伊勢は!?沈んでいった艦娘たちは犬死じゃねえか!!!!」

 

『ならば陸奥達が来るまで待ちなさい!』

 

「無理だね。朝一番にゃ戦艦水鬼が攻めてくる!そこに陸奥姉ちゃん達は間に合うのかよ!」

 

『…それ以上は時間がかかる。何せラバウルから向かっているのだぞ!』

 

「ならその話は吞めないね。俺たちは俺たちで戦う!」

 

『玲司、待ちなさい!玲…』

 

司令長官の言葉も聞かず電話を切った。電話線も抜いた。これ以上やめろだの逃げろだのの話は聞いていられない。ここまで来て…逃げましたなどと。恥にもほどがある。

 

「テートク」

 

「金剛…」

 

「テートク。今の話、聞いてしまいマシタ。本当に、テートクだけは逃げて…ワタシたちだけ戦う。そんな戦い方もあるんデスよ」

 

「馬鹿を言え。俺がいなくなりゃお前たちは戦うまでもなく瞬殺されるんだ。お前たちを置いて…俺は逃げるわけにはいかない」

 

「しれえ…」

 

「司令官…」

 

「ぶふっ、それでこそ球磨たちの提督だクマ。おっしゃあ。やったるクマー!!!」

 

「そうさね。あたしも最後まであがいてみせらあ!!」

 

「はい。ここは譲れません」

 

「必ずや勝ってみせましょう!」

 

「……ああ」

 

「司令官。少しよろしいですか?」

 

「綾波?ああ、いいぞ」

 

「司令官。今度生まれ変わった時も司令官のお側がいいです。そしたら、またオムライスを作ってくださいね」

 

「綾波お前…」

 

それはもう死を覚悟している目であった。生まれ変わっても…。それが綾波の願いだった。自分は明日死ぬ。けど、後悔も恨みも怒りも何もない。本当に玲司を慕っている目であった。いつもの…優しい笑顔だった。

 

「……わかった」

 

「はい!司令官!」

 

「クマー。球磨ちゃんは提督のもとでなくてもいいけど愛される球磨ちゃんになりたいクマね」

 

「お前はかわいいんだからどこへ行ってもかわいがられるだろ」

 

「まったー。そうやって球磨ちゃんを喜ばせるんだからー!」

 

「いてえ!!!!加減しろバカ!!!!」

 

球磨はバシバシ背中をたたいて喜んでいる。いつもと変わらないことだ。

 

「しれえ!新しい雪風が困っていたりしたら助けてあげてください!それから…うんとかわいがってあげてください!!」

 

「てーかな、お前ら死にに行くと決まったわけじゃねえんだぞ」

 

「何を言ってるデスか。ワタシたちは死にに行くんデス。そうでないと戦艦水鬼や駆逐棲姫を倒せないデス」

 

金剛の言葉に一同がうんうんとうなずいていた。認めたくない現実。だからこそこうやっておちゃらけてみたが…多少の気休めにはなったが、現実は変わるはずもない。

 

「さあテートク。夜が明けるデスよ。行きましょう、みんな。ファックファックって言いながら死にに行くデース」

 

「金剛さん、言葉遣いが汚いわ」

 

「オーウカガー。カガは厳しいデスネー」

 

「ふふふ、寝ているときは足を大股開きしてパンツ丸出しで寝てたりするんですけいひゃひゃひゃ!!!」

 

「赤城さん…頭にきました」

 

「…ふふ、お前ら…よし、行ってこい!!!俺はここで指揮をするからよ。行こうぜ。ファックファックって言いながらのたうちまわって死のうぜ」

 

「提督?」

 

「あ、はい」

 

一同、ビシィ!と完璧な敬礼をして部屋を出て行った。万が一の際には提督を避難誘導できるよう、青葉を残して。そして始まる…ショートランド海戦最終日。決死の時が来たのだ。

 

「こちら青葉。すでにブーゲンビルの海峡を敵は越えています。予想通り、泊地の空爆が考えられます」

 

『青葉さん。了解いたしました。それにつきましてはこちらで妨害、空母を発見し、殲滅は金剛さんたちにお任せします』

 

『まっかせるデース!!!』

 

頼む、お前らだけでも生き残ってくれ。青葉たちの通信を聞きながら腕を組み、険しい顔でモニターを見つめ続けた。

 

………

 

「ちっくしょう!本気で泊地を攻撃したいみたいだね!!!」

 

「そうはさせないわ!!!」

 

北東の方角から飛んでくる敵の艦載機。それを紫電改ニや試製烈風で何とか食い止める隼鷹や飛鷹。それと同時に飛んできた方角へ向けて艦載機を多数飛ばし、反撃に応じる加賀と赤城。ボーキサイトはないため、撃ち落されたら終わり。しかし、それでも泊地を守るためにはこれしかない。空母は空母勢で叩く。戦艦や随伴は金剛たちが叩く。これでいくしかない。

 

一方で最終防衛ラインで腕を組み、笑いながら待っていた金剛の前に戦艦水鬼とその後ろからにらみつける駆逐棲姫の姿があった。

 

「ワタシタチヲココマデコケニシテオイテ…生カシテハ帰サンゾ…貴様ラハモウ…ココデオシマイダ!!!!」

 

「もとよりそのつもりデス。デスが、ただで死ぬわけにはいきまセン。死ぬときは…お前らも一緒デース!!!!」

 

「綾波!雪風!!ぶっこむクマ!覚悟はできてるか!?」

 

「もちろん!」

 

「はい!!!」

 

散開し、砲撃を始める。気をそらすための苦し紛れの作戦か…そうでしかない。貴様ら4隻の艦娘に何ができよう。

 

遠くからは艦載機が飛んでくる。爆撃に雷撃。チッと戦艦水鬼は舌打ちした。しかし、すぐにニタリと笑う。なぜなら飛んできた艦載機の数が少ないから。空母も少なく、おそらくは艦載機を飛ばすための資材ももうないと見た。

 

「艦載機ヲ飛バセ…指令室…イヤ、泊地ヲ火ノ海ニシテシマエ…!!」

 

空母ヲ級やネ級が艦載機を一斉に指示通り飛ばした。

 

「今だああああああ!!!!」

 

球磨が叫んだ瞬間、駆逐艦などを相手にしていた綾波や雪風が攻撃をやめ、空母のほうへ向いて魚雷を発射した。

 

「何…!?」

 

「ふっふっふーん…おめえがどうせ空母の層が薄いと思って泊地にありったけ艦載機を飛ばして爆撃を考えるなんてこの頭の悪い球磨ちゃんでも考えそうなことクマ。だからそれを泊地へ飛ばした瞬間が…無防備なんだクマ!!!」

 

だが球磨や綾波たちもタダでは済まなかった。空母に全力を注いだがため、綾波や雪風にも損傷が出た。雪風達は小破だが球磨は中破。隙を見せた瞬間を駆逐棲姫達が見逃さなかった。魚雷や集中砲火を受けてしまった。

 

「フン。涙グマシイ努力ダナ。ダガ、貴様ラノ空母ガモハヤ艦載機ノ数モ僅カナノハワカッテイル。ソラ、ツ級ガ落トシテシマッタゾ?」

 

「クスクス。無駄ナ抵抗ネ。サッサト私ヤオ姉様ニ殺サレチャエバイイノヨ!」

 

「やかましいデース。泊地はもぬけの殻デス。残念デスが、泊地を狙ったところで誰もいないデース。残念デシタ」

 

「……」

 

腕を組み、ふん、と鼻で笑う金剛。ブラフではあったが多少なり戦艦水鬼には効果があったようで、一瞬眉がピクリと動いた。

 

「泊地ニ提督ガイナケレバ貴様ラナド瞬殺デキル。ダガ、ソウデナイノナラバマダ提督ハ泊地ニマダイルナ?ククク、見エ透イタ嘘モ私ニハ通ジヌゾ」

 

「嘘かどうかはやってみるがいいデス。妹たちと仲間を殺したお前たちを…絶対許す気はないから!!!」

 

ドォン!!!と35.6cm砲が吼える。徹甲弾は簡単に戦艦の装甲をも貫き、リ級やル級などを潰していく。

 

戦艦水鬼の苛立ちは頂点に達していた。たかだか4隻の艦娘を相手に。しかも手負いであるのに、自分の手下が次々とやられていく様に我慢がならなかった。

 

「貴様ラ!!!何をシテイル!!!!早ク沈メロ!!!!サモナクバ私ガ貴様ラヲ海ニ沈メルゾ!!!」

 

その言葉にビクリと怯える深海棲艦達。恐怖で支配されている彼女らにとっては世にも恐ろしい言葉であった。

 

「恐怖では部下はすぐには動けない。おめーらのやり方じゃうちの提督には勝てねえクマ。だって提督は…おめーらとは違うクマからなぁ!!!クマクマクマクマクマクマクマァ!!!!!!!」

 

球磨はこの場で散る覚悟であったが故、燃料も弾薬も気にせずに撃ちまくった。中破していようがその気迫は深海棲艦を圧倒する。そして敵を屠っていく。

 

「Shit!砲塔が…!」

 

「金剛ォ!!!雪風と綾波を連れて泊地へ戻れクマ!!殿は球磨が務めてやるクマ!!!おめーらは勝利の希望だクマ!もちろん加賀達も!!!行けェ!!戻って修復してこのクソッタレた戦艦水鬼を叩き潰せクマ!!!」

 

「球磨!!!」

 

「球磨さん!?」

 

「行けええええええええ!!!!!!妹らの仇を球磨はここで取るクマ!!!そこでいい気になって艦載機を墜としているそこの軽巡だけはぜってぇ潰す!!!!おめーらは早く行けえええええ!!!!」

 

唇をギュウウ…と噛み締め、血が滴り落ちるほど考えた金剛であったがここは退くことにした。

 

「綾波、雪風!退くデース!球磨の言うことを無駄にしてはいけまセン!!!」

 

「っ…!!!!了解です!!」

 

「了解…しました!!!」

 

去り行く背中を見ながら球磨は笑っていた。

 

(いいクマ。それで。提督に勝利をもたらすにはおめーらがいなけりゃダメクマ。疾れ…今ならまだ空襲を食らってもドックは生きるクマ…球磨は…ここでおめーらのために…散ってやらぁ)

 

「馬鹿ナコトヲシタナ…貴様1隻残ッタトコロデ…何ガデキル」

 

「へっ、そんなもん、決まってるクマ。テメエらを叩き潰すことくらいできるクマ!!!」

 

「殺セ」

 

球磨は戦艦水鬼がそう言った瞬間走り出した 。金剛から1発だけもらった九一式徹甲弾を脇に抱えて走り出した。目的はただ1つ。先日の戦闘で見てしまった妹、北上を沈めた右頬に傷がある軽巡ツ級。北上が最後の一撃で残した傷だった。そいつがいたことを球磨は見逃さなかった。

 

砲の雨を受けようと、魚雷が迫り来ようとも、それを必死でかわしながら傷のあるツ級めがけて走った。足に砲を受けて転びそうになろうとも。肩を抉られるほどのダメージを受けようとも徹甲弾を落とすことなく。そいつしか見ていない。

 

「ナンダ…何ヲシヨウトシテイル!?」

 

「喰らえやあああああああらあああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

ドン!!!!

 

ツ級の砲で胸に穴が空く。しかし、それでこの球磨が止まることはなかった。徹甲弾を手に持ち、思いきり振りかぶって…

 

グシャアア!!!!!

 

ツ級の顔面に徹甲弾を叩き込んだ。

 

「くたばりやがれやああああああああ!!!!!!!」

 

頭を貫き、突き刺さる徹甲弾。そして…ボゴォン!!!!と爆発した。球磨は爆風で吹き飛び、頭を貫かれたツ級は爆発により上半身を吹き飛ばされた。

 

「ゴフッ…がハァ!!!」

 

胸に風穴が空き、さらには徹甲弾の爆発により右手は吹き飛んだ。それでもヨロヨロと立ち上がった。その目は…リ級やタ級、ル級さえ威圧した。

 

「まだだクマ!!!かかってきやがれ!!!!!この球磨を倒さねえと金剛たちを追いかけることなんてさせねえクマ!!!!」

 

「オワリダ」

 

啖呵を切ったものの、とてもではないが1人では何もできない。左手で魚雷を持ち、タ級に向けて今度は魚雷でぶん殴った。これまた大爆発を起こす。球磨は吹き飛び、もう立ち上がれないでいた。体が…ふわふわしている。軽い…。

 

手を空へかざすと自分の手が薄く透け、金色の粉の様なものがサラサラと風に舞っている。ああ、球磨はこれで終わりクマか。そう悟った。

 

(ああ…仇は取ったクマ…戦艦も1隻ぶっ潰したクマ。ククク、大戦果クマ…あー、これで提督に頭を撫でてもらえたらなぁ…ちくしょー…帰りたかったなぁ…泊地…提督のところ…へ…)

 

「フザケルナ貴様…何ヲ満足シタカノヨウニ…ドイツモコイツモ…満足ソウニ死ンデイキヨッテ!!!」

 

球磨はいたずらっ子のように戦艦水鬼を見つめ、ベーと舌を出して…光の粒子となって消えた。ボロボロの艤装は海へと沈んでいった。

 

戦艦水鬼はそれが我慢できなかった。今回斃してきた艦娘共は全員が全員、未練や恐怖、恨み言を吐くこともなく、満足したかのように…目的を果たしたかのように笑って消えていく。深海棲艦になり、かつての仲間と戦わせて愉悦に浸ると言うことが一切できないでいた。

おまけに部隊はほぼ壊滅。今回も空母勢が多くやられ、ツ級にタ級。大きな損害を被った。だがまだだ。ここの提督を討ち取れば勝ちだ。そうしてまた仲間を海から呼び起こし、悠々と日本へ侵攻をかければいい。

 

ククク。提督ヨ。楽ニ死ネルト思ウナ。

 

「進メ。泊地ハ近イゾ」

 

残り少ない艦隊ながらも駆逐棲姫もいる。まだまだこちらが優位なのだ。空母?残り僅かな艦載機の空母など、取るに足らない。逃げた戦艦と駆逐艦2隻など相手にならない。勝った。

 

戦艦水鬼は勝利を確信して進撃を開始した。

 

………

 

一方で泊地は空母が放った艦載機による爆撃が始まっていた。残り僅かな艦載機も撃ち落とされたと聞き、おそらくそれで敵艦載機がすり抜けてきたのだろう。

 

「司令官!外へ避難を!!!通信は青葉の艤装を介して司令の命令を送ります!!ここにいては危険です!!死んだらお終いなんですよ!」

 

「チィ…!!ここまでか!!!!」

 

青葉と共に執務室を出た途端に背後からの衝撃に吹き飛ばされた。全身を強く打ち、激痛が走る。

 

「ぐぅ…!」

 

「司令官!?ご無事ですか!?」

 

「あ、ああ…頑丈な体が取り柄なんでな…けど…青葉が早く出ようと言ってくれて助かったぜ…でなけりゃ今頃俺はミンチだったさ」

 

「よ、よかった…」

 

「あちこちでばくげきでほうかいやえんじょうしているよ。でもどっくはまだぶじだよ」

 

「そいつぁ上々…ドックが生きていりゃ金剛たちは治せる!」

 

「司令官…球磨さんが殿になって金剛さん達を撤退させたようです。球磨さんとは連絡が通じません…」

 

「……あいつ…北上たちの仇を取るために…残りやがったな…」

 

「ですが…」

 

「ああ…僅かでも数が減ったならそれでいい。加賀達はどうだ?」

 

「加賀さん!そちらはどうですか?!はい…はい…そう…ですか…」

 

青葉の声が急にトーンダウンする。それだけで玲司はもう艦載機が残りわずかで…おそらくそのままその残り少ない艦載機で戦い、なくなっても持った副砲で戦い、散るつもりだろう。金剛たちに全てを託して…。

 

「加賀…!赤城!隼鷹、飛鷹!……ありがとな」

 

「う…ううっ…ぐすっ…提督…どうかご武運を…と!」

 

「ああ…!」

 

「司令官、とにかく外へ!!」

 

中庭へ逃げる。建物の近くでは危険だ。そしてそのまま母港へと向かったのだった。

 

………

 

「これが最後の爆撃と雷撃になりますね」

 

「ええ」

 

「よぉし、最後だ!パーッと行こうぜ、パーッとなぁ!!」

 

「もう…隼鷹ったら…でも、そうね。最後くらい派手にいきますか!」

 

「空母隊、全機発艦!!!!目標前方!!撃ち落とされることは承知です!!!副砲の構えも忘れずに!!!!」

 

僅かながら艦載機を発艦させた。僅かでもいい。艦載機の爆撃と雷撃で敵が吹き飛べばそれだけでも金剛たちの助けとなる。今さきほど金剛たちはここを通過していった。

 

何も語りはしなかった。ただ、お互い頷き合った。金剛は最後に親指を立てていった。武運を。そう言うことだろう。語っている暇もない。おそらく修復してすぐさま迎撃に出るのだろう。

 

「提督。貴方といた時間…悪くなかったわ」

 

「はい。ご飯はおいしかったですし、楽しかったですね」

 

「おうよ!いい酒を何とか調達してくれたりな…あはは!!まあ飛鷹にすーぐ怒られちまったけどな」

 

「あんたが飲みすぎるからよ!」

 

「へいへい。ま、もう酒が飲めなくなるのはちーっと寂しいもんだねぇ」

 

「…私的にはそっちのほうがありがたいわね」

 

「天国でしこたま飲めっかなー!」

 

「取り上げるからね!と言うか…艦娘に天国なんてあるのかしらね…」

 

「金剛が言ってたぜ。ヴァルハラって言う天国みてえなとこがあるんだってさ」

 

「へぇ…ま、あんたはお酒の飲みすぎで行けるかどうか」

 

「えー!?そりゃないよぉ!?」

 

「ふふ、冗談よ」

 

「まもなく敵と触接します。各自、爆撃雷撃準備!!!」

 

発艦した艦載機が敵に接近。目標は泊地を攻撃し続ける空母たち。空母ヲ級やヌ級に急接近。しかし、その艦載機達は防空巡洋艦とも言えるだろう軽巡ツ級に撃ち落とされていく。

 

「チィ!」

 

隼鷹は怒った。チクショウ。こんなバタバタ落とされるなんて練度不足さね!と。しかし、そこで諦めないのが隼鷹の艦載機達だった。

 

「うおおおおおお!!!!しょーとらんどはくちにえいこうあれええええええ!!!!!」

 

何と隼鷹の撃ち落とされた艦爆隊の2機が爆弾を投下せず、そのまま一直線に軽巡ツ級へと突っ込んでいく。操縦不能に近い艦載機を無理やり、操縦桿や計器をぶん殴りながらなんとか操作をして…。

 

「ばかやろう!!とまってんじゃねえや!!!!うごけこのやろうがぁ!!!!」

 

ドゴォ!と計器を殴ると止まったエンジンが動き出し、操作が可能になる。加賀や赤城たちのツ級に撃たれた艦載機も同じようにしてヲ級などに突っ込んでいく。どうせ撃ち落とされるのなら…死なば…もろとも!!!

 

ドォン!!と大爆発を起こすツ級や空母たち。さらには生き残った艦載機達の爆撃や雷撃も始まる。最初で最後の攻撃隊。もうこれ以上はなす術もない。ボーキサイトもないのだから。

 

「うおおおおお!!!そういんひのたまとかせええええ!!!!」

 

そのまま艦爆隊は急降下。駆逐艦や軽巡、空母に突撃をし、次々と爆発を起こし、深海棲艦を沈めていく。在りし日の…特攻。それを…この時代に行う必要があるだろうか…妖精さん。勝利の為なら。あの提督を守るためならこの命など惜しくない。勝利の栄光を提督に。そのために、妖精さんも決死だった。

 

「さーて、あたしと飛鷹の艦載機は打ち止めさ。んじゃまあ、いってくらぁ。駆逐艦くらいは潰したいねぇ」

 

「戦艦くらい潰すわよ。それくらいの意地を見せてやるわ」

 

「……ご武運を」

 

「あいよー。加賀、赤城、気にせずバンバン艦載機飛ばしなよ」

 

「いいえ。私達もあと僅かです。その後は、後を追わせていただきます」

 

「赤城さん。そうかい。終わったら酒でも飲んでパァッとやるかい?」

 

「それは全部終わってからよ!ほらいくわよ」

 

「へーいへい。んじゃ、いってくるぜ」

 

まるで近海の駆逐艦でも倒しに行くかのような気軽さ、気楽さ。そんなノリで隼鷹は敵へ向かい、飛鷹はペコリとお辞儀をして敵陣へと突入していった。加賀達はそのまま弓に矢をつがえ、放つ。しばらくして聞こえる砲撃音。爆発音。それは…艦載機が爆撃や雷撃に成功した音なのだろうか。それとも…彼女たちが爆発してしまった音なのだろうか。わからない。

 

「さて、と」

 

「ええ」

 

赤城と加賀も副砲や機銃を構えて動き出す。すなわち、もう艦載機はないと言うこと。しかし、最後の艦載機の目を使って見えた。敵艦隊は大打撃を被っていること。これならば、金剛さん達につなげられる。さあ、行こう。私達も隼鷹さん達と同じように。

 

「ナンダ貴様ラハ…ナンナノダ貴様ラハ…!」

 

戦艦水鬼にもある程度ダメージを与えられているようだった。駆逐棲姫も。そして、随伴艦たちは中破や大破が目立つ。

 

「作戦は成功のようですね」

 

「ええ。これならば、金剛さん達に後を託せます」

 

「はい。機銃、副砲、用意!!!」

 

「オノレ…オノレ…貴様ラモ…海ニ沈ムガイイ」

 

「いいえ。最後まで何もせずにいるのも我慢なりません。最後まで抵抗させていただきます」

 

「同じく…かなり頭に来ました」

 

「ソウカ。ナラバ海ノ底ニ消エルガイイ」

 

………

 

艦娘がいなくなった海。空母のくせに艦載機を失い、機銃などで無謀に戦ってきた空母。小賢しいことに装甲がなまじ高いだけに沈めるのに苦労した。機銃などで駆逐艦達を失った。やられた。そして腹が立つことに…沈むことはなく、今まで戦ってきた艦娘達同様、海に体を沈めることなく、光の粒子となって消えて行ったこと。戦艦水鬼はここまで沈めてきた奴らを仲間に加え、提督に仕向け、絶望を味合わせてやろうと思ったのだが…全て深海棲艦になることを拒否した者達。それがなおのこと戦艦水鬼を苛立たせた。

 

「全員、泊地へ向ケテ砲ヲ放テ。泊地ヲ更地ニシテヤレ」

 

目の前に見えてきた泊地。戦艦水鬼の号令を合図にショートランド泊地に砲撃を繰り出し、泊地が崩壊していく様を見てニタリと笑う。提督ヨ。ソコニイルノナラ貴様モ跡形モナク吹キ飛バシテヤロウ。

 

そう考えると笑いが止まらない。私にケンカを売ったことを後悔させてやる。

 

ドッゴォ!!!!

 

戦艦ル級が吹き飛んだ。そしてそのまま海へ沈んだ。大きな水柱が上がった。巡洋艦がバラバラに吹き飛んだ。

 

「……回復…サレタカ。マアイイ。相手ハ…4隻カ。クク、コチラモモウ数隻シカオラヌ。ダガ…勝ツノハ私タチダ」

 

「寝言は寝てから言うデース」

 

「むぅ…!」

 

「綾波、いつでもいけます!」

 

海にて立ちはだかるのは戦艦金剛。駆逐艦の綾波と雪風。巡洋艦青葉は陸地に。その隣にいるのは…提督か。

 

「お前が総大将か!」

 

提督が声を出した。

 

「馬鹿な奴だなお前は!俺らなんか放っておいて、北上して本土を目指してりゃよかったもんをな!!!!ハハハハハ!!!!」

 

「心配セズトモ目指スゾ。貴様ラヲ斃シ、仲間ヲ集メ、再度本土ヘ向カエバ良イコトダ」

 

「残念だったな。その前に『原初の艦娘』っつーお前なんか秒殺されるだろうすげえ強い艦娘がもうすぐこっちに着くからな!!俺らが負けてもそいつらがお前を潰す!お前の負けだ!!」

 

「負ケ…ダト?フフ…フフフフフフ…アハハハハハハ!!!!!ナメルナヨ人間風情ガ!!!!!勝ツノハ私達ダ!!!!何ダカ知ランガイイ気ニナルナヨ…!艦娘ガイナケレバ何モデキン人間!!!」

 

「そうさ。俺らはそういう存在さ。できるならテメエをぶん殴って海の底へ俺が叩き返したいぜ…お前らが沈めた俺の仲間…家族の分までヨォ!!!!」

 

「ヤレルモノナラヤッテミルガイイ。貴様ナド、指先一ツデ血ダルマニシテヤロウ」

 

「そいつをやっちまうと金剛に怒られちまうもんでな。あーっとあと青葉にもな」

 

「当たり前デス。ワタシたちだって頭にきてるんデス。だから…こいつらはワタシ達が海の底へ叩き返してやるデース!!!!」

 

「金剛!雪風、綾波…!!!目標、前方!敵、深海棲艦…!殲滅しろ!!!」

 

「「「おおおお!!!!」

 

敵の数はまだ少しだけ金剛たちより多い。加賀達が大きく減らしてくれたことに感謝した。金剛たちの砲が吼える。

 

「司令官、もう少し下がってください!巻き添えを食らったら大変です!!」

 

「……俺たちの家をめちゃくちゃにしやがって…許さねえからな!!!」

 

「それは青葉も同じです。ですが…バケツはないですし、ドックも破壊されました…これが最後のチャンスです!!!」

 

「だからこそここで見て指示を出すんだよ!青葉の無線を使ってな!!!!」

 

「ううう…後で金剛さんに怒られるのにぃ…」

 

「金剛!!!戦艦水鬼に注意を引きつつ取り巻きをやれ!!雪風!金剛のサポート!!綾波、お前は駆逐棲姫をやれ!!!」

 

「司令官、そんな指示を出す前に早く逃げろと金剛さんが…」

 

「うるせえええええ!!!!俺が一番頭に来てんだ!!!こいつらを絶対にぶっ潰す!それを見ないで…金剛たちを放っておいて、何が提督だ!!!!」

 

「司令官!あぶな!!」

 

「うおっ!!」

 

青葉が思いきり引っ張った。横を通り過ぎる大きな風切り音。そして背後で爆発。泊地が戦艦の強烈な砲撃でまた吹き飛んだ。ガラガラと音を立て、崩れていくショートランド泊地。

 

「テメエ…やりやがったな!!!」

 

「司令官!!!」

 

玲司は青葉の制止も聞かずに怒鳴り続けていた。

 

………

 

「愚カナ提督ダナ。機銃デハチノ巣…イヤ…赤イ霧ニシテヤレ…」

 

「させるかあああああ!!!!」

 

金剛は最後の空母ヲ級へ走り出した。艦載機を海の底から呼びだそうとしたが、雪風の砲撃で邪魔され…近寄った金剛がヲ級の頭の上に乗っている生き物の口を開け、徹甲弾を咥えさせ…思いきり噛み砕かせた。途端に爆発するヲ級の頭部。金剛も多少傷を負ったが些細なものだ。ボキボキ…と指を鳴らして戦艦水鬼を睨みつける。

 

「ファイナルラウンドデース!!!ここでお前たちは沈む。だから覚悟するデース!!!」

 

「フン…オモシロイ。貴様ラガ勝ツダト?笑ワセルナ」

 

「オ姉様!!!!コノ!!!!」

 

「ぐぅ!!」

 

戦艦水鬼を狙うつもりだった綾波だったが失敗した。駆逐棲姫の砲撃で中破した。

 

「まだ…まだ終わらない!!!!」

 

「オ姉様ニハ手出シサセナイ!!!!オ前モ…沈ンジャエ!!!!}

 

魚雷を撃ちこむ駆逐棲姫。負けじと綾波も魚雷を撃ち込んだ。

 

お互いに弾ける魚雷。

 

「グググ…」

 

「ううう…」

 

お互いにもう大破していた。それでもまた…生きている魚雷発射管をお互いに向けあう。

 

「オ姉様ノ邪魔ヲスルナアアアアアア!!!!!」

 

「やらせはしません!!!!!」

 

お互いに最後の魚雷を放つ。そして…玲司が見えるところで…

 

(司令官。今度生まれ変わった時も司令官のお側がいいです。そしたら、またオムライスを作ってくださいね)

 

「綾波いいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」

 

綾波は駆逐棲姫の魚雷をまともに受け…宙を舞いながら…光の粒子となって、消えた。

 

ギリ…と金剛が強く歯を噛み締めて残った敵…戦艦水鬼を睨みつけるのだった。




今話で終わりにしたかったのですが終わりませんでした…もうちょっとだけ続くんじゃ…。

次回こそ終わりになります。残るは金剛と雪風のみ、そして敵は戦艦水鬼のみ。結末はご存じかとは思いますがもう少しだけお付き合いください。

それでは、また。
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