横須賀鎮守府から車で少し離れたところにある商店街。ここには、老いも若きも問わず、女性に人気の洋服から下着まで衣料品を扱う店があった。
大手の衣料品店が溢れかえる中、その店だけは大型量販店に負けず繁盛していた。それまでは大手のショッピングモールや衣料品店で首を傾げながらこれがいいのか…あれがいいのか…とわからない毎日を送る横須賀の女性達に…一匹狼のファッションデザイナーが現れた。
例えばこの女。
「おー、そこゆくJK…いいパイスラッシュしてんねぇ…胸を強調したいならこの服がオススメだね」
「パ、パイスラッシュって…何?おばさん、キモいけどこの服はおっしゃれー!」
「そこのいいケツした妊婦さん、それじゃ腹の子が締め付けられて痛いって言ってるよ。安産型のいい尻してんねぇ…けど、お腹は大切にな。だからこれなんかどうだい?」
「おしりとお腹は関係ないじゃない!」
群れを嫌い。権威を嫌い、束縛を嫌い、専門のライセンスと叩き上げのスキルだけが彼女の武器だ。あとセクハラ発言。
ファッションデザイナー…
………
「あー…ダメ。ぜんっぜんダメ」
「またかい」
商店街の名物おばさんの3人のうちの2人。洋服屋の松子と肉屋の女将、竹美が松子の部屋でお茶会をしていた。八百屋の女将、梅もいる。
「まーたデザインの枯渇かい…」
「デザインが…デザインが降ってこないんだよぉ!!!くそぉ!!見なよこれ!全部没さね!!!!」
スケッチブックにはたくさんの春物だろうか。その衣服のデザインがびっしり書かれているがどれも「没!」と言う字が書かれており、案にならないらしい。春服はもうとりあえずと言った感じでオーダーをあれこれ出しているらしく、春物を置かないわけにはいかないので血涙を流しながら、と言うくらいだったと言う。
そして今は夏服を考えているらしい。子供服から大人の服まで。その姿形が横須賀鎮守府…玲司の艦娘、霰や翔鶴、扶桑など、さまざまな艦娘をモチーフにしているところが松子らしい。
「あらまあ、この霰ちゃん、かわいい夏服だねぇ」
「違う!!!!違うんだよ!!!!!!!こんなのはあの大天使アラレエルじゃないんだよ!!!!もっとこう…!!!かわいらしい何かがあるに違いないんだよ!!!!!うおおおおおおお玲司君のアホオオオオオオオオ!!!!!もっと艦娘を…艦娘をもっと頻繁にここに連れてこいってんだよおおおおお!!!!!!摩耶様プリ―――――ーズ!!!!」
松子の推しは摩耶。摩耶が来るたびに「いいデザインキターーーーーーーー!!!!!」とか叫びだしてその日から3日くらいは寝ずにデザインをとにかく書きまくるくらいやばい。霰や電などもいいが…。
「摩耶ちゃんのあのボディはパーーーーーフェクトなんだよ!!!!!あのブラなしでもパンと張りのある大きすぎず小さくないバスト!!!きゅっとくびれた腰回りなんか撫でまわしたいね!あと健康的なへそ!!!それからちょっと小ぶりかもしれないけどポンッと出たお尻!!!それでいながら柔らかくほどよくむちっとした太もも!!あーーーーーあの尻と太ももは撫でまわしたいね!!!」
「やめないかバカタレ!!!!!」
「あいてぇ!!!」
摩耶を語らせると変態用語のオンパレード。正直これ以上語らせると「ピー音」連発の卑猥な言葉が連発するため、梅が黙らせないと暴走が止まらなくなるのである。
それはさておき、彼女が服や下着のデザインをするときにモチーフにするのが横須賀の艦娘達である。さすがに赤ちゃんや幼児などは無理であるが、小学生から身長の高い大人のお姉さんまで。とにかく若者や主婦に人気が出る洋服を発明するときは艦娘がモチーフであり、時々でいいので生で艦娘を見ないとデザインが枯渇する、と言う難儀な状況になった。
松子はかつては東京では雑誌などにも出たし、ファッションデザイナーとしては名誉ある賞を総なめにするくらいのデザイナーであった。しかし、今年はこのファッションが売れる。このデザインが売れるなど、自分が考えているものとは違うデザインを考えさせられたり、作らされたり…最終的には自分が没にして捨てたはずのデザインを同じ会社のデザイナーが取り入れたことによって自分のデザインが賞を取る。自分の服を着たモデルが服に着せられている。デザイナーを物のようにしか見ていないモデルがいることなどに嫌気がさし、会社をやめ、さすらいのデザイナー兼、会社に勤めていた時に貯めた貯金をあちこちで店を開いては、ここでは私のデザインは通じないや、客と喧嘩をしたりして店を閉めてを繰り返し、放浪した。
そうして放浪しているうちに貯金が底を尽きそうだったこと。ひっそりしているこの商店街の雰囲気が気に入り、ここに店を構えたのが数年前。ショッピングモールや大手衣料品店ができたことにより、さらに松子の貯金を食いつぶす羽目になり、さらには腐った提督により余計に人の通りが廃れ、もはや廃業しようかと考えていた矢先、現れたのが玲司と横須賀の艦娘達だった。
糞みたいな提督が連れてきたときと違って皆目の輝きが違った。キラキラと全身が輝いていた。質素な制服を着ているこの子達がおしゃれをしたらどれだけさらに輝くだろうか。そう思った瞬間雷に打たれたかのようにデザインが降り立ってきたのだ。
「うひひひひひ!!!!出るぞ…!!!出るぞ!!!!!スケブが足りねえくらいデザインが湧き出てくるぞぉ!!!!」
これを見ていた梅と竹美は危ない薬でも気がふれてやっちまったか…と思うほどであったが、そこから出した服は子供から女子高生、若い主婦に年配の女性まで人気を博し、一躍松子の店は息を吹き返した。自分から湧いて出たデザインだけではなく、お客からこんなのがほしい、ここをこうしてほしいなどの意見を積極的に取り入れ、ほぼそのお客さんだけのオーダーメイドのような服までをリーズナブルな値段で売り出したことが口コミで広がり、デザインよし、値段よしの店として繁盛するようになってきて約半年。
「あああああ!!!!吹雪ちゃんを出せエエエエエエ!!!!!瑞鶴ちゃんを連れてこおおおおおい!!!!」
「ダメだこりゃ」
「あーあー、まーたいつものすらんぷってやつさね。ほっときゃまた…ってダメだ、このままだとまた女子高生や主婦のお客さんにセクハラを始めだすよ…」
「とは言っても玲ちゃんに来てくれーと言うわけにもいかないからねぇ…」
「この間はジャービスちゃんやジェーナスちゃんをなめまわすように見たり、ウォースパイトちゃんだっけ?の胸を揉もうとしたり、アークロイヤルちゃんのお尻をもんだり…」
………
「NOOOOOOOOOO!!!!!!!W、What are you doing!?」
「こ、こりゃあプリンといい尻だ…あんた、アークロイヤルちゃんだっけ?こ、これだ。控えめなお尻にこのキュロット…おお!!おお!!あああああ、あんたのロイヤルなおっぱいも「このバカ、やめないか!!!!」
「ごふっ!!!ろ、ろいやるれでぃ…で、デッサン…おで…でっさん、かく」
「梅おばさん、大根で殴ったらやばいって…」
「こんくらいしないと艦娘ちゃんに迷惑がいくんだよ!」
「Ark…Are you all light?」
「あ、ああ…し、しかし…突然のことで驚いた…Admiral…この女性は一体…」
「話せば長くなる…有り体に言えばファッションデザイナー兼洋服屋…またの名は変態不審者だ…」
「なんなのだそれは…」
「Hmm…でもこの服…とてもおしゃれだわ…」
「わたしこれ着てみたいよー!ダーリン!着てもいい?」
「ダ、ダーリン!?あ、あんたこんな小さい子に何て…」
「わああああ!!!違う違う!大根をフルスイングしようとしないでくれ!!!!」
………
今艦娘が来たら大暴れして警察どころか鎮守府などに所属している憲兵と言う者達に掴まって処分されそうである…もうよだれを垂らして艦娘…艦娘…とぶつぶつ言っているし目が血走っている。
「ちわー、松子さんいますかー?」
久しく聞く男の子の声。それは間違いなく噂をすれば玲司であった。刹那、松子は風になった。
「き、消えた!?」
きゃあああああああああ!!!!!
松子が風になったと気づいたと同時に聞こえる悲鳴。梅が慌てて店へ出ると、大きな胸の女の子の胸を鷲掴みにし、大層ご機嫌そうな顔で手をわしわしとしている松子がいた。
「この馬鹿…!!!またお客さんに失礼なことを!!!!」
そう言って頭をひっぱたこうとしたのだが。
「きゃああああああ!!!!きゃあああああああ!!!!!!死ねえええええええええ!!!!!!!!」
何やら重そうなカバンで頭を殴打され続ける松子。
「な、七原提督!!や、やばい!それ以上殴ったら死にますって!!!」
「テートク!!ストップ!!ストーーーップ!!!!!!」
「死ねえ!!!こんな変態は死んで土でバクテリアの養分になるか海に沈めてお魚のえさにしてやるんだあああああああアハハハハハハハハハ!!!!!」
「金剛ォ!!全力で止めろおおおおお!!!!」
「イ、イエーース!!ていっ!!」
金剛がカバンで殴打する七原提督の首根っこを猫のようにつかむと…。
「………んにゃー」
「これでおとなしくなるデース。暴れたらこれでおとなしくなるデス」
その対応に松子以外全員ずっこけた。
………
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさいいいい!!!!」
ただひたすらに直立から90°のお辞儀をする謝罪を繰り返す七原提督。松子は念のため脳に異常がないかを近所の診療所に緊急で診てもらって何もないことを確認してから店に戻ってきたのだった。
竹美が「脳に異常はないけど頭はおかしいね」と一言追加で言っていたが。
「ああ、いいんだよ。こちらこそごめんね。このバカがいきなり胸をもむなんざ馬鹿な事して…」
「と、突然のことで…す、すみません…」
「もんでくださいと主張する胸だったんだ…揉まないと失礼だろうがね…」
「あ?」
「何でもないです。しかし、殴られたおかげなのかいろいろと浮かんできたねぇ。ふーむ。そういえばあんたみたいにどんな服着ても胸がパツパツになるって言う横浜かどっかのアイドルが訪ねてきたね」
「横浜からわざわざかい?ああ、そういえばあんたの店、雑誌に載ったって言ってたものね」
「雑誌に載ったんすか?すげえな」
「あたしゃ取材の許可なんざ出してないよ。出版社にはクレームを入れてやったさ。あたしはね、今の流行やらそんなくだらんもん追いかけてデザインしてんじゃないし、こじんまりとやっていきたいんだ。ふざけやがって。あー、そこのお嬢ちゃん、そのブラとショーツは詫びだ、持っていきな」
「え、ええと…こんなにたくさん…」
「お客さんのニーズに応えるのがあたしのモットーだ。大きな胸の子が来るかもしれない。来た時にありませんなんて答えるのはプロの仕事じゃないね。いついかなる時でもありますと答えるのがプロだ。試着してきな。たぶん合うだろうさ」
「は、はい…」
松子の目は一目で胸のトップからアンダーまでのカップを把握する。さらに手はゴッドハンド、ゴッドフィンガー。全てを把握する。ジーンズの上から尻を撫でまわし「あんたこのパンツサイズが合ってない。きつくてたまらないんじゃないかい」などというくらいである。ちなみに揉むのは延々と揉み続けるので梅か竹美がいないと本当にひたすら揉まれるが、時々松子を見てはおしりを触ってほしそうに見つめる女性もいるくらいだとか。
「で、そっちの子らは艦娘だね?ふひひ、いいねぇ」
「ワ、ワタシはテートク以外は触らせないデスヨ!!!」
「あんたに殴られたらさっきの子の比じゃないね。脳漿ぶちまけてここでおっ死んじまう。だから…」
「だからと言ってうちの榛名や綾波にセクハラはやめてくださいね」
「ちっ…じゃあその綾波って子のほっぺだけはもちもちさせてくれないかい…梅に竹…あんたらずるい」
「邪な目で見てるからそうなるんだよ。吹雪ちゃんによく似てる子だねぇ」
「ふにゃー?ふぶひひゃんれふか」
「榛名ちゃんは霧島ちゃんの姉妹か何かかい?霧島ちゃんも美人だけどあんたもかわいい子だねぇ」
「い、いえ…榛名は…」
梅と竹が前。その後ろに綾波と榛名がいてがっちりガードしている。綾波は吹雪と似ているが大人びているため、何をされるかわからないから竹美がガード。榛名は言わずもがな、何かをしそうなので梅がガード。
「まあ吹雪と綾波は似て非なるものです。特型って意味じゃ一緒でしょうけど」
「ふーん、よくわかんないけどまあ姉妹に近いってことだね」
「いいぞぉ…この子とその子を見ていると夏物のデザインが降ってくる…雪風ちゃんを見ていると…」
一緒についてきた雪風を見る。改ニと言うものになり、少し大人びた雪風を見た松子が目にもとまらぬ速さでスケッチブックに何かを書いていく。
「名付けて『夏のお嬢様』だ!!!これはいい!!これをまた作ってもらって写真を送ってくれないかい!?」
出来上がったデザインを見ると玲司もおお、と思わず声を出すほどのものだった。かわいさの中に垣間見える大人っぽく見えるデザイン。これにはさすがに玲司についてきた裁縫担当の妖精さんも感嘆の声を漏らす。
「ついでにショーツはこれだ。これで大人をアピールするんだよ」
「え、えっと…雪風、これを履くんですか……ちょっと恥ずかしいです…」
「乙女の恥じらいキタアアアアアアアアアアア!!!!ああああああああああ!!!!!!イメージが降ってきたぞ!きたぞおおおおおおおおお!!!!!ああ!好きな服全部持っていきなお嬢さんら!!お代はあたしのデザインが舞い降りてきたお礼だ!!!!えへへへへふははははは!!!!!」
壊れた。いや、いつも壊れているか。とため息を吐く竹美と梅。
「だ、そうだから持っていきなよ…まあ…玲ちゃん達が根こそぎ持っていくとも考えられないけども…一応あたしたちが見ていくからさ…」
「そ、そうすか…じゃ、じゃあ七原提督…って、これ…」
『おっぱいの大きな姉ちゃん用!!!』と書かれたメモ用紙が貼られた服や下着が置かれていた。全て試着してみたがまるで七原提督のためにあつらえたかのようなものばかりで、七原提督の好みであり、サイズはもちろんだが、重い胸から解放されたかのように軽くなった。何でも痛くないワイヤーで胸をしっかりささえ、胸の大きな女性のお悩みを解決するために昔考えたものだとか。
「す、すごい…デザインも凝っててかわいいです…わたし、やっぱり大きいと地味なのしかなくてガッカリしてたのに…」
『ブラやパンツがほしいならここへ電話しな!!!!』ともメモが書かれていた。電話番号が書かれていた。おそらく電話で頼めば送ってくれるのだろう。メールアドレスまで書かれている。おそらく、画像を送ってオーケーかどうかの確認をするためだろう。こういう細やかな気配りがうまいのも松子の特徴であった。
玲司宛にも手紙が置いてあった。パッと見るからにサンタ服だろうか?サイズは小さめ。
『霰ちゃんへ捧ぐ』とだけ書いてあった。
「霰が着てくれるかはさておき…松子おばさんのことだからなぁ…仕方ない、頼んでみよう」
「おやま、霰ちゃんのサンタ姿だってよ、梅」
「あらまあ、それは楽しみだねぇ…」
「梅さんや竹おばさんがそういうなら着てくれるかな。霰、おばさんたちの事大好きってよく言ってるし」
「「あらいやだ」」
見事にはもって顔がほんわかしていた。本当に霰はよく好かれるなぁ、と思う玲司。とりあえず、アトリエに篭ったら出てこないから、とそれぞれのお気に入りの服や下着を選び、さらには梅たちのお店で食材をたんまりと買って玲司達は帰っていった。再三、松子にはカバンで殴りまくってすみませんでしたとペコペコと頭を下げては謝っていた七原提督だったが、梅達は気にしなくていいよと笑っていた。
………
静かなアトリエにさらさらと何かを書く音が聞こえる。その静寂は喫茶「ルーチェ」のマスターの声によって打ち消された。
「おや、スランプは脱出したのですかね。また食事を抜いてのデッサンですか。体を壊しますよとあれほど…」
「おお、こりゃありがたいね。ご飯を作るのもめんどくさいくらいイメージが湧きまくっててね」
「相変わらずですねぇ…梅さんからアトリエに発狂して篭りだしたと聞きましてね。もう日付が変わっておりますよ」
「今寝たら全部飛んでいっちまう。夜食…おお、牛丼だ。宗ちゃんの牛丼は胃にズドンと来るねぇ…かーっ、沁みる!」
腹をすかせた学生のように牛丼をかきこむ。味噌汁も飲む。松子はマスターの夜食で持ってきてくれる丼ものと味噌汁が大好きだ。女性だからとおしゃれな食事を作ったら牛丼持ってこいと注文するくらいだった(しかし、出されたものはきっちり食べた)。
女も捨てたかのように服や下着を作ることに生きるストイックさ。マスターも同じようなストイックさは持っている。お客様の喜ぶ食事やお酒に妥協はできない。それと同じで女性が光り輝く服を。男を悩殺できる下着を。下着はいささか過激すぎることもあるが。
「おや?雑誌ですか。珍しい。ふむ?『流行に囚われない眩い衣服を横須賀から!』ですか。お松さんの服が日の目を浴びたのですね」
セクハラはひどいが見る目は確かな服や下着を選んでくれると言う口コミが広がり、横浜や最近では銀座を差し置いてきたセレブ(ちなみに大ゲンカの末、出禁にするほど態度が悪かったとか)や自分を変えたいと千葉からやってきた女の子もいた。服だけじゃ輝けない。ここに行ってよりキレイになってあたしに見せに来な、と商店街にこれまたなぜか住み着いている超イケメンのビューティーサロン「Spit Fire」と言う名の所を案内し、生まれ変わった女の子もいる。モテて仕方ないそうだが、誠実そうな彼氏を連れてお礼を言いに来たこともある。
「勝手に雑誌に載せやがって。まあ…だからと言って接客を変えることもなけりゃ気に入らない奴はつまみ出すけどね」
「そこは変わりませんねぇ…」
「流行りに乗ることは大事だ。けどね、そう言う奴らは流行りに乗ることだけを考えて自分を美しく見せようとしない。流行に乗せらせているだけだ。そういう目的であたしの服は着てほしくない。本当にかわいい、きれいと言ってもらえなきゃね。あたしの店に来るのは流行りなんてあんまり見てないかな。あたしに見てもらって自分に合った最高の着飾りにしてほしい。そういうからあたしも全力になる。最高に輝く。それがたまらなく嬉しいのさ」
今のお客さんに最高のもてなしを。そのために努力は惜しまない。マスターと松子はそこが似ていた。妥協を決して許さぬ性格。そして、お客さんの笑顔こそが何よりの宝。マスターもそう思っていた。
「だからと言ってセクハラの噂まで出回るほどのことをするのはいかがなものかと思いますがね…」
「実物を触らなきゃわかんねえのさ。そのためなら…小学生だってなめまわすように「それ以上いけない」」
とんでもない発言を口にしようとしたので止めた。実際、玲司が連れてきたジャービスやジェーナスと言うイギリスから来たと言う艦娘にセクハラ三昧だったそうだが…。さすがに梅さんに思いきり〆られたそうだが。
「ごちそうさん。はー生き返った!さって、描くぞー!」
「無理はなさらぬよう」
「わかってるって」
牛丼を食べ、お茶も飲み干し、再びスケッチブックにイラストを描きだす松子。こうなるともうマスターの声も聞こえない。苦笑してマスターは松子の店を後にした。
2日くらい経った頃だろうか。しばし休憩…と冷蔵庫いっぱいに買いだめしてあるエナジードリンクを飲もうと冷蔵庫へ歩き出したとき、お客がやってきた。臨時休業って書いてあんだろうがいと思いながらも店先へと出る。
「あー、ごめんよ。今日はお休みなんだ。また今度…」
「先生、やっと見つけましたよ。こんなところにいらっしゃったのですね」
「………あんたかい。何のようだい」
「先生、どうか…戻って来ては「嫌だね」」
男の言葉を冷たく遮って断った。
「どうせ雑誌見て、会社の上から引っ張ってでも連れてこいって頼みこまれたんだろ。会社、危ないんだってね。知ったこっちゃないよ。あたしゃ最後はその馬鹿な上に切られてやめたようなもんさ。今更会社傾きかけてるからイケイケのデザインで売りに出してるあたしに戻ってこさせて会社の再建がしたいんだろ」
「………さすがです…先生」
先生と呼ぶこの男は松子がファッション社に在籍していた時になぜかいつもついてきたり、身の回りの世話をしたりと変わった男だった。ずぼらでデザインに集中すると何もしない松子の世話を焼いた。しかし、残念ながらやめると松子が言った際に泣きながら「わが社の宝」とまで呼んだ松子を止めることができなかったのだ。
そこから多くのデザイナーのお世話をしてみたり、そのデザインを持って営業に出向いても出る話は松子の話ばかりで「パッとしないね」などと難色を示されることが多くなった。今や松子がいた際に栄華を極めたデザイン会社は傾き、倒産寸前だという。
その時にたまたまファッション雑誌で見かけた奇抜ではないが斬新なデザイン、それでいて人気のある横須賀にひっそりと佇む店。それこそがあの伝説のデザイナーとも今や言われている松子の店であり、ここをこのまま会社の店として売りに出そうなどと浅はかな考えをもって、彼女のことを神扱いしているこの営業マンに来させたわけである。
「あんたもいつまでそんな泥船に乗っかってんのさ。あんたの営業力はすごいんだ。他から引き抜きも来てるんだろ?」
「ど、どうしてそれを…」
「あたしゃまだそういう業界にまがりなりに生きてんだ。あんたの名前、ちらほら聞くんだよ。彼をぜひうちにほしいってね」
「そ、そんな…」
「ある一つの会社には言っておいた。この男が来たら採用すべきだ。この男の営業能力はハンパじゃないよ。あんたんとこの会社に利益になるからさって。だから、いつまでも泥船にしがみついてないで…あたしの帰りを待ったって無駄なんだからあんたの人生、あんたが選んで生きな。あたしにしがみついても振り落とすだけさ」
「先生…ありがとうございます。私は今の自分に疑問を持っておりました。これでいいのか。このままでいいのか…やはり先生は私の恩師でもあります」
「よしてくんな。あたしはあんたを弟子にした覚えはない。ただ単なる小間使いさ。それを忘れるな」
「いえ…私は…先生に…うぐっ…お会いできて…よかっ…」
「自分のことが決まったなら帰りな。あたしは構っている暇はないんだ。達者でやんな」
ぶっきらぼうに言うがこれが松子なりの優しさであった。彼のことはたびたび思い出したことがある。思いきりこき使った奴だ。自分のわがままや無理難題を必死にこなした男だ。そんな奴はこの男しかいない。その優しさが彼には伝わったのか背中を見せたまま手を振る松子に大きくお辞儀をして去っていった。
後に彼は今の会社をやめ、別のファッション社で営業をバリバリこなすスーパー営業マンになったとか。曰く「黛先生以上のむちゃくちゃを言う人がいないから楽である」だそうだ。
しばらくのち、雑誌で満面の笑みでインタビューに答える彼を見て微笑んだそうだ。
………
昔の弟子が来た翌日、玲司がまたやってきた。そして…。
「ああ、雪風が松子さんに見せたいって聞かなくてさ…」
「ウオオオオオオワアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
「えへへ、松子おばさん、雪風…どうでしょうか…?」
「かわいい以外何も言えねえ…いや…これぞまさに少女と女性の間…短い旬な…うおおおおおお!!!」
「また始まったよ…でもほんと、きれいになったねぇ」
「えへへ…梅おばさん嬉しいです!!」
大人びてもやることはあまり変わらず甘えん坊である。ぎゅうと誰かに抱き着く癖は変わらない。もっとも、梅か竹美にしか商店街の人にはやらないが。
雪風の衣装のデザインを見た妖精さんが一瞬で「めにあああああああっく!!!!」と言いながら作った代物である。もちろん一点ものである。雪風の為だけにこしらえたものだ。
「夏になったらちゃんとまたこれを着て来ます!今は…くちゅん!寒いです!」
「体を冷やしたらダメだから暖かいのを着なさいよ」
「はい!試着室をお借りします!」
「あーと…それから…」
「……んちゃ…ちょっと…恥ずかしいけど…」
「んほおおおおおおおおお!!!!!!?????」
「あらまあ、これまたかわいいサンタさんだねぇ。そうだね、もうすぐクリスマスだもんねぇ。松子、こんなの用意してたのかい」
「だ、大天使アラレエル…もう、思い残すことは…ない…グフッ…グフフフフフ」
「笑ってんじゃねえか」
もう1人、松子が衣装を渡したサンタ服を着た霰がやってきた。霰も雪風と同じく、かわいいからお礼を言いたいと言うことで直接サンタ服を着てやってきたのだ。ここに来るまでの間にもかわいいの嵐だった。そして松子はと言うと雪風とのダブルパンチで鼻血を噴き出して倒れ…その鼻血で「パンツ」と謎の血文字を書いて倒れてグフグフ笑っている。
「まったく、かわいい子…ほんとに艦娘ちゃんを見るとよけいにおかしくなっちまうんだからねぇ…」
「かわいいのはうなずけるけどさ…」
「なんでぇなんでぇかわいい服をおめえらだけで独占かよ!おいら達にも見せろってんだ!」
「野郎は帰んな!!!ここは女の聖域だ!花園だ!」
源が足を踏み入れた瞬間に鬼の形相で追い出そうとする松子。彼氏なら許すが1人なら許さん。特に源はデリカシーがないと目の敵である。
「ま、まあまあ…」
「おおっ、そこにいるのは吹雪ちゃんかい!?どうだい、あたしがあげたあのショーツ!イケてんだろ!?」
「うえええ!?あ、あんなスースーするのもう履けないですよぉ!?」
「あ、あんたやっぱり履いてたの!?」
「み、満潮ちゃん、ち、ちがっ、違うの!も、もらったからには履かなきゃって!!」
「う、うわぁ…うわぁ…」
「満潮ちゃん、距離を取らないでぇ!」
「よし、じゃあ次はこれだ!!!これを吹雪ちゃんに捧ぐぅ!」
「はあ!?」
「このバカ!何をこんな子に履かせようとしてんじゃないよ!!」
「し、下着としての意味を成してねえって…言うか…やべえだろ」
「持ってけ、吹雪ちゃん!」
「お、お断りします!あ、この赤い下着かわいいな…ってわあああああ!!!!!おしり透ける!?」
「ふ、不潔よ!!!吹雪は不潔よ!!!」
「満潮ちゃあああああん!?」
「うひひひひひ!!いいよいいよ!それなら持ってけ!!吹雪ちゃんのかわいいお尻のサイズに合わせて作ってあるさ…ぐえっ!!?」
「うふふふふ、あははははは!!!お礼を言いに来たんだけどやっぱりお魚の餌にしちゃおうかなああああ!!!!!!」
「て、テートクストオオオオオオップ!!!」
「ああ、また頭が潰れちまう!」
「ねえ痛いかな!痛いかな!!!吹雪ちゃんの心の痛みはこんなもんじゃないと思うな!!だから…死ねエエエエエエ!!!!!!」
「七原提督やめろおおお!!!!!」
群れを嫌い。権威を嫌い、束縛を嫌い、専門のライセンスと叩き上げのスキルだけが彼女の武器だ。あとセクハラ発言。
ファッションデザイナー…
彼女は今…頭蓋を割られそうになっているが…自業自得である。
松子のお話でした。
破天荒なへんたいふしんしゃ、松子のお話はいかがだったでしょうか。ちなみに松子さんの頭蓋骨は最後まで無事でした。狂気の笑みで殴打する七原提督は…セクハラには容赦がありません(なさすぎ)。
秋イベお疲れ様でした。私は甲勲章は逃しましたが昭南とScampがお迎えできましたのでよかったです。
次回は翔鶴姉に異変が…?そんなお話です。
次回もお楽しみに。
それでは、また。