ここで1年が過ぎましたので横須賀にもともといた艦娘。宿毛湾からやってきた艦娘たちに濃密な1年を振り返ってもらいましょうのお話です。
/大淀の場合
悪夢のような時間が過ぎ去り、三条提督が着任されてから1年が経ちました。何というか、濃すぎる1年だった気がしますね。
私は最初からいきなりお姫様抱っこをされるというとても衝撃的な出会いでした。足が折れていたせいですが…。
ボロボロだった鎮守府は今やどこへやら…。とてもピカピカ。庭は紫亜さんや妖精さんが育てているお花が咲き、お風呂は大改造と言うレベルではない形にされ、傷を癒すだけではなく、疲れもストレスも全部吹き飛んでしまうようなお風呂ができていました(水風呂に気づかず入ってしまって悲鳴をあげて武蔵さんに大笑いされたこともあります)。
思えばこの1年はいろいろと本当に…あの提督は違う意味で濃密な1年だったと思います。
初日から私は奇跡を目の当たりにしました。艦娘のもう誰もがダメだと思っていた時雨ちゃんや村雨ちゃんの治癒。涙が出るほどおいしかったオムライス。
どぶのようなドックが変わり…料理が変わり…摩耶さんや五十鈴さんとのいざこざなどもありましたがそれも(龍驤さんが無理やり)鎮め…そして…雪風ちゃん。
提督が着任してから体の傷。心の傷を癒してくださいました。本当に…絶望しかなかった艦娘を癒してくださいました。
そしてさらには沈んでしまった響ちゃんが帰って来て。それは提督ではなく、電が起こした奇跡だよと提督は笑っていましたが、提督がいなければ電ちゃんに奇跡は起きなかったでしょうし、響ちゃんを沈めるしかできなかったでしょう。電ちゃんは蒼龍さんも元に戻しました。蒼い眼、蒼い涙。「邪気払いの蒼い涙」と呼ばれるチカラ。
その他にも蒼い眼、「女王」…それから深海棲艦…艦娘を恐怖のどん底へ叩き落とす戦艦棲姫であるはずの紫亜さん、港湾棲姫の茉莉さん。そして、誰もが建造しても手に入らなかったと言う艦娘、大和さんと武蔵さん。
この鎮守府は私たちの常識を破ることが多すぎて、私もついていけません。いえ…提督でさえついていけておりませんが…。
それから、私にはこの鎮守府の皆さん、提督と同じくらい…いえ、それ以上に大切なお友達…「原初の艦娘」、「未来視」の高雄ちゃんとの出会い。
「私と一緒に作戦を練りましょうね」
その約束を胸に、私は日々軍師として知識を蓄えています。高雄ちゃんからもらった戦闘詳報のファイルを読んだり…模擬戦を自分1人でいろいろと繰り広げていたりしています。演習においても現場で知識を振り絞っています。
私は提督と共に…高雄ちゃんと一緒に作戦を練って…共に戦える日を待っています。先日「一足お先にクリスマスプレゼントです」と高級なオレンジペコの紅茶の葉を頂きました。私も慌ててかわいいパジャマを松子さんにお願いしてお送りしました(派手すぎる下着は申し訳ありませんが捨てさせていただきました…写真を見せただけでこの下着が似合うと濃い紫の透けた下着…私も赤面するほどのものでした)。
メールで丁寧に「かわいいパジャマをありがとう♪下着も私の好みでぴったりだったわ♪また今度大本営に来たときにお茶にしましょうね(*'▽'))とかわいい顔文字とパジャマ…それから下着姿の自撮りの写真を送ってくれました。下着姿は正直見てもよかったのかな…とりあえず、提督にも誰にも見られないように隠しファイルに入れてありますが…。
「大淀ちゃんのパジャマ姿も見てみたいな(´・ω・`)」とも書いてありましたので私もいつも着ているパジャマ姿…それから高雄ちゃんも下着姿を送ってくれたのでちょっとお気に入りの下着姿の写真を送っておきました。これも隠しファイルに入れてあります。こんなものを見られた日には自沈ものです。
「かわいすぎて…は、鼻血が…」と返信が来ました。そして「一緒に今度パジャマパーティーがしたいね(^^♪」とまたかわいいお願いでした。高雄ちゃんと一緒にお話し…もっとしたいな。
こうして高雄ちゃんと知り合えたのも、親友と言える仲になれたのも…提督のおかげですね。
南方海域が終わってホッとし…また騒がしい毎日…。ふふふ、楽しい毎日ですね。この1年、戦いで大変なことも多かったですが…それよりも楽しいことでいっぱいで…私は幸せです。
今はクリスマスパーティーと遅れましたが提督の着任1周年のお祝いの準備中です。提督が…いえ、みんなが主役です。ですから、また今日も楽しい1日になりそうですね。
「大淀さぁん、これはここでいいの~?」
「文月ちゃん、そのお星さまはてっぺんに…はい、抱っこしてー…」
「わぁい♪」
「ふふふ。さ、次の飾りをしましょうね」
「は~い!」
………
/北上の場合
あたしはまだ夢の世界にいるんじゃないかって言うくらい幸せな毎日が続いている。あの腐った鎮守府。腐った人間たち。目を閉じればまだ思い出せる、沈んでいった子達の悲痛な叫びと顔。壁に貼ってたアレと、大井っちの名前ははがしちゃったけど…それでもあの子達のことは忘れない。あの子達のおかげであたしは生きている。生かされている。生きなきゃいけない。
玲司のおかげで鎮守府は生まれ変わった。初めての時もどうせこいつも腐ったあのクソガエルと変わらない奴なんだろう。そう思っていたけど、あの赤いご飯に黄色のふわっとした食べ物。いまやあたしたちを虜にして離さないオムライス。あの表情が死んでいた雪風を笑顔にするもんだから信じることにした。
あたしの隠した気持ちにすぐ気づくし、あたしもすぐに玲司に全部吐いちゃったね。涙と鼻水でぐっちゃぐちゃの顔で。あのあと神通に殺されそうになったって言うからお笑いだよ。
摩耶や五十鈴達との軋轢も消えたし、雪風は今は満面の笑顔であたしと一緒に寝たり玲司と寝たりしている。たまに玲司とお風呂に入ってるって言うんだけどうらやましいなー。あたしも乱入しようかなー。って、何言ってんのあたし…。あほくさ。
翔鶴さんのように玲司をラブラブな目で見てはいない。あたしが玲司に関しては感謝と尊敬かな。雪風のこと、響のこと。腐った鎮守府がやりすぎなんじゃない?ってくらい生まれ変わったし。
尊敬に関してはやっぱり、あたしたちを「兵器」として見てるんじゃなくて「女の子」として見てくれること。それから「絶対に誰も沈めさせない」と言っているところかな。
やばかったら帰って来い。そんなことアイツの時は一言も言われなかった。ああ、アイツは魚雷でぶっ飛んでくたばったんだっけ。あたしの魚雷でぶっ飛ばしたかったなって言ったら「無理すんな」ってやっぱり気持ちを汲み取られた。「心理学者の息子だからな」って案外嘘じゃないのかもしれない。
大変な戦いがいっぱいあった。それでも全部、誰か増えて帰ってくるか、誰も減らないで帰ってくるか。あたしはそれがたまらなく嬉しい。雪風と2人で帰る。1人で帰る。そんなのはもうたくさん。
みんなでわいわい玲司のおにぎりの具の当て合いっこをしながら帰るんだ。あるいは疲れて眠そうなくちくをおんぶして帰るとか。文月なんか人の肩に涎垂らして寝るんだもの。うざい。
あたしは夢を見ているみたいだって言ってるけど、やっぱりこれは夢であってほしくない。目が覚めたらあの汚いボロ部屋で布1枚で寝ているのなんて嫌だ。毎日あったかい布団で大あくびしながら…間宮さんや茉莉さんや玲司がおはようってご飯を作ってくれて「おはよう」って言ってくれる毎日が大好き。
くちくにやいのやいの懐かれるのもうざいけど好き。まー騒がしいのは嫌いじゃないよ。
「北上さん!輪っかと言うのはこう作ればよろしいのでしょうか!?」
「朝潮さぁ、あんた不器用だね。ガッタガタじゃん。こうしてこうしてこう作ればほら」
「さすがは北上さんです!この朝潮、北上さんを見習い、精進致します!」
「かった。朝潮硬すぎ。もうちょっとこう大潮みたいにできないの?」
「どーん!とできましたー!!」
「何でこんなでっかい輪っかにするのよ!?これじゃほかのと繋げないじゃない!!」
「うふふふふ!これ、楽しいわぁ♪」
「荒潮!?ちょっとあんたペース!ペース早すぎだってば!!」
「北上さん!紙でさんたさん?の帽子を作ったんです!雪風とかぶりましょう!」
「あーもーうるさーい。くちくうざーい!」
うるさいけど、こんな毎日、夢で終わらないでよ、ほんと。楽しいんだからさ。
………
/時雨の場合
僕は死を村雨と待つだけの存在だった。あの暗くて臭い部屋で。僕や村雨は夕立のダシに使われてしまった。僕たちを助けたければ戦え。生きて帰ってくるたびに生かしてやると言われていたらしい。結局臭い、汚いと言う理由であの臭くて汚いドックの水で適当に憲兵や工廠員に拭かせるだけだった。だから僕の足、村雨の目は腐っていった。
結局、僕の足は腐食…いわゆる錆が足の奥深くにまで入り込み、人間で言うと腐って切り落とさないといけない状態で、これではドックで切り落としても、戦闘でもげてしまった場合と違って再生しないと言う。村雨の目も同じで腐ってしまって見えなくなってしまっていたと言う。グチュグチュと痛い、臭い…部屋はその匂いで充満していた。
「きったねえなぁ…なんでこんな臭え汚ねえやつ生かしてんだよ…」
「あの金髪の駆逐艦のためだろ?おえっ、くっせえ…早いこと終わらせようぜ」
こうして…1年近く僕たちは生かされた。あの提督がいなくなった1ヶ月間は夕立が懸命に拭いてくれた。臭いからよけいに僕たちは臭くなっちゃったね…あはは…。
そして運命の日がやってきた。新しい提督がやってきた。なんと…その提督は僕たちに血を垂らすとみるみる僕の腐った足が!村雨の目が治っていくじゃないか!!ドックにも入れてもらって…鼻が麻痺してしまったけれど臭い匂いもなくなった。
服も…お風呂に入っている間にきれいになったお部屋で僕たちの新しい生活が始まった。それからは僕たちの生活は一変したんだ!
新しい部屋。夕立と一緒に生活できる…さらには扶桑や山城…最上!それから朝雲や山雲まで加わって…西村艦隊がここに再会したんだ!
1年前…三条提督が来てくれた。このおかげで僕たちは大変なこともあったけれど…幸せな毎日を送っている。改二にもなることができて、僕は魚雷の精度が。村雨は…すごいね。山城や戦艦の砲撃支援の補佐に回ってる。でも山城とコンビを組んでいるのは…ちょっと嫉妬しちゃうかも。あと、村雨はオッドアイ?右目が夕立と一緒の様な紅い眼になっているんだ。それもちょっと…ずるい。
でも僕には不思議な眼になるときがある。電や瑞鶴さんたちもなるんだけど…特定の艦娘しかならない…蒼い眼。あ、でも村雨は紅と蒼い眼になることがある。やっぱり…ずるい…。
それから、かけがえのない深海棲艦のお友達、紫亜との出会い。出会ったら死ぬしかないとまで言われていた戦艦棲姫。その戦艦棲姫が鎮守府にいて…僕たちと一緒に生活しているんだ。皐月と文月のおかげだね。
「ありがとう、時雨。私は毎日…幸せの紫亜と言う名前を胸に幸せに生きているわ。皐月と文月には感謝だけれど…それ以上に…私に紫亜と言う名を与えてくれた時雨にはとても感謝しているわ。そうね…港湾…ああ、茉莉と同じくらい大切な…お友達」
そう言われたときは嬉しくて紫亜に抱き着いて泣いちゃったな。ずっと一生懸命考えて考えた名前だったし…もうこれしかないって言うくらいのきれいな名前だったから。
紫亜、僕も紫亜は大切な友達だよ。そのせいで村雨や夕立が最近紫亜のところにばかり行ってずるいって嫉妬されることが増えちゃった。そんなことはないと思うんだけどな…。
「時雨は大切なお姉ちゃんだからなのかもね。妹は大切にしてあげなきゃダメよ。私だって、いつでもこの鎮守府にいるんだから」
「わかったよ…」
「ほら、そんな寂しそうな顔をしないで。時雨は笑顔でいてね」
紫亜の笑顔はきれいだ。僕はそんな紫亜の笑顔が大好きだ。これからも…紫亜や茉莉さん、みんなと一緒に…生活していきたいな。
「西村艦隊集結を記念してかんぱーい!」
「くぉらお前ら!!!パーティーの準備前に飲んでんのちゃうで!!!」
「えー?せっかく朝雲と山雲が着任したのにぃ…」
「最上ィ…キミ、年明けの訓練のレベルはヘルでええんやなぁ?」
「さ、さあ朝雲山雲!さっそくだけどほら!この飾りつけを飲みながらやっていこうね!」
「最上、ヘル決定やな!」
「そんなぁ!?」
「あんたが悪いわよ…」
「私達まで巻き込まれなくてよかったわ」
「ふふふ…時雨?」
「ううん。何でもない。でも、僕は今この何気ない幸せや笑いが一番幸せかな」
「…そうね。時雨も満潮も…最上も…山城も…みんな苦労したものね…私なんて…」
「ううん。過去は過去だよ。僕は今とこれからが幸せならそれで嬉しいよ」
「わーん!時雨、助けてよぉ!」
「僕に言われてもね…」
「時雨?この飾りはここでいいのかしら?」
「紫亜!うん、そこでいいと思うな!」
「そう。じゃあ曲がっていないか見ていてね」
「うん!」
「本当に時雨は紫亜さんが好きねぇ…」
「あ、う、うう…」
「ふふふ、冗談よ。さあ、私達も最上に巻き込まれないうちにやってしまいましょうか」
「うん!」
明日のパーティーに向けて飾りつけを派手にやろうってみんなが言い出している。だから僕たちも楽しく飾りつけをして、明日も盛り上がれるといいな。提督や…みんなと!
………
/摩耶の場合
あたしは…いや、最上や五十鈴も含めてバカだったなと思った。あの野郎のせいでみんな姉妹を失って…長門さんの言うことも聞かずにバカをやって…閉じこもって…そんなことで改善されるはずもない。雪風や北上を危険に晒し、沈んでいく生まれてきた艦娘の事に目を閉じ、耳をふさいでいただけだった。
で、今の提督が来ても閉じこもったままで。人間の言うことなんざ一切聞く耳を持とうとしないでいようとしたけど、北上に口げんかで負けるわ、龍驤さんに瞬殺されるわ…散々だったな。結局龍驤先生が言ってた「井戸の中の蛙、大海を知らずや」と言う言葉通り、あたし達はいろんなことを知らなさすぎた。
あれから1年。あたし達はいろんなことを知った。人間ってあんなクソみたいな奴ばっかりじゃないってこと。あたし達だって鍛えればうんと強くなれること。さすがに龍驤さんの鬼しごきの対空演習はシャレになってねえけどよ…。
提督が来て1年かぁ。いろいろあったよなぁ。龍驤さんにボロクソにされて解体かと思ったら提督が「腹減ってねえか?」とか…そこからいろんな戦闘に参加したな。忘れもしねえ雪風救出の…提督のもとでの初陣だった。あの日、あの時…初めて全員が揃って…あたし、瑞鶴、北上、神通、時雨、夕立。そして…雪風。雪風は眠ってたけど、あの日見た日が海から昇ってくるところ…あんなにもきれいな朝焼けは一生忘れねえと思う。それから、初めて言われた「お疲れさん」って言葉と…頭なでなで…。
あーもう、頭なでなでなんて何で覚えてんだよ!!あたしは…別に…そんな…いや、ダメだ。帰ってきたらあれとおにぎりがねえとダメだな。頭なでなで、最近チビもそうだけど鳥海や大和さん、武蔵さんまでハマってんだよな。あれ見てっとなんか恥ずかしくて撫でてほしくなくなる…なわけなくてあたしも撫でてほしくなんだよな。クソ、あのヘンタイ提督から何か変なもんでも出てんじゃねえのか?
あー、話が逸れちまったけど…響が深海棲艦になって出てきたり…それを電が艦娘に戻しちまって今や黄金コンビだもんな…それから…加賀さん。加賀さんを殺しやがったあのレ級ってやつぁぜってー許さねえ。今度こそは…みんなであいつをぶっ倒して加賀さんの仇を取ってやるんだ。
深海棲艦が仲間になったのも驚いたよなぁ…仲間?家族?よくわかんねえや。まったく、うちの提督は何でもありだよな。初の大和さんや武蔵さんもそうだし、紫亜さんに茉莉さん。瑞鶴や電の蒼い眼…あたしもあんな蒼い眼でバンバン敵倒したりしたらかっこいいだろうなぁ。悪をなぎ倒す正義の光、蒼い眼さ!ってな。
最上に言ったら大笑いしやがって…あいつ逃げ足だけはすばしっこいからな…殴れなかったぜ。
提督にゃあまあ面と向かって言えないけどさ…また1年、その次の1年もまたよろしく頼むぜ。あんたしかあたしは人間は信用してねえからな。あと、なでなで、たまにはあたしにもしろよな。
「あー?最上が龍驤さんにヘル特訓だぁ?あっはっはっは!!!いいんじゃねえか?年明け早々しごかれりゃいいんだよ!」
「もう、ほんと最上には当たりがきついんだから」
「いいんだよ。あたしとあいつはそんな仲なんだからな!」
「私にはそこまでしないのに…ばか摩耶」
「あ?鳥海なんか言ったか?」
「何でもない!」
「んだよ、変な奴だなぁ…はははは!」
「ちょ、ちょっと!!髪の毛がぼさぼさになるじゃない!」
「んー!鳥海も大事大事だぞー!かわいい妹だかんなー!」
「や、やめて…やめなさいったら!!」
「いてえ!!!おい!脇腹つねるこたぁねえだろ!?」
「知らない!」
「んだよー。怒んなよー」
「ケ、ケンカはダメですよぉ…」
「だよなー吹雪!」
「吹雪さんを使って私を懐柔しようとしないで!」
「あちゃー、残念。って別に吹雪をそんなふうに使おうとは思ってねえんだけどなぁ、な、吹雪?」
「え、あ、はい。摩耶さん、パーティー楽しみですね!」
「おう!あたしらは提督が来てから全員生きてるし、吹雪たちも新しく来てくれて賑やかになったしな!明日はパァッと楽しもうな!」
「はい!摩耶さん!」
吹雪も大変なことになったことがあったもんな。それでもこうしてにぱーっと笑えるようになったのは…提督のおかげなんだろうな。恥ずかしいから言わねえけど…言う言葉は決まってんだ。
………
/吹雪の場合
建造されてからこのかたいいことなんてない日が長いこと続いて…最終的には妹である初雪ちゃんや叢雲ちゃんが目の前で死ぬところを目の当たりにして…私ももうダメだ…と思った時に私は助けられました。
別に妹も死んじゃったし…自分も…と思っていたのに、その考えとはまったくの正反対で、私は川内さんの「生きたいなら手を取りな」と言う言葉に…その手に乗っていた希望を掴むために手を取りました。
正直なところ、私は宿毛湾に帰されてもおそらくまた轟沈するような任務に就かされ、死んでいたでしょう。そんな私を見かねてここの艦娘だ、と言ってくれた司令官には本当に感謝しています。摩耶さんや北上さん、雪風ちゃん…時雨ちゃん達もひどいめにあっていたと聞いて…司令官を疑いもしましたけどそれはまったく別の人であることがわかって…司令官にごめんなさいと謝ったこともあります。
「まあ、そう思われてもしょうがないよなぁ」
そう笑って頭をなでながら許してくれました。最初は司令官や雪風ちゃんたちの優しさが怖かったこともあります。この優しさが嘘だったら…最後にはやっぱり沈んで来いって言ってくるんじゃないかって。雪風ちゃんは無理に笑わされてるんじゃないかって疑った時もありました。でもそれは気のせいでした。
いつもニコニコ笑っている雪風ちゃん。お姉ちゃんの様な摩耶さん。厳しいけど私を強くしてくれて…みんなを摩耶さんと空を守ることができるようになって…雪風ちゃんをはじめ、駆逐艦のみんなとわいわい騒いで楽しく遊んだりできるのはとても充実しています。
私は一度、自分の弱さに負けそうになったこともあります。弱い自分を受け入れられず…自分の心の中で弱い自分と戦うなんてこともしました。その時助けてくれたのは…司令官の元艦娘だっていう金剛さんや榛名さんでした。後から榛名さんや金剛さんの話を聞いた時は涙が止まりませんでした。司令官を見守って…そして私も守ってくれたんですね。本当に感謝しています……金剛さんは…ちょっとと言うかだいぶいい加減な人でしたけど…こんなことを言って…ごめんなさい。
私は弱い自分も受け入れました。そう…私は1人じゃ何もできない弱い存在。けど、私には摩耶さんや仲間がいます。私の妹である磯波ちゃんや浦波ちゃんも生きているとわかりました。それが安心しました。深雪ちゃんも白雪ちゃんも大丈夫だったのかな?そこはまだわからないけど…きっと元気でやっていると信じています。
「うちらは1人じゃ何もできへん。せやけど、うちらがおるし、摩耶や時雨や雪風…玲司もおる。みんなで支え合えば横須賀は無敵や。その結果として深海棲艦になってもうた恐ろしいほど強い加賀にも…あのレ級でさえ退けた。弱い自分を受け入れた吹雪はせやなぁ…めっちゃ強いなぁ」
私は強くないですよ、龍驤先生。みんながいるから戦えるんです。
「うちらかて、玲司かて、雪風達かて…みんなそうや。みんながおるから戦えるんや。うちらかてそうやで。せやけど、その中で自分の弱さを受け入れたんは玲司と吹雪くらいちゃうかなぁ。心配しな、吹雪はちゃんとしいて!」
そう言われて私はもっと頑張れた気がします。見ていて、私の中の私…ちゃんと…もっと強くなってみせるからね…!
吹雪、もっと頑張ります!
(あんまり…無茶…しないで…ね)
あ…怒られちゃった。うん、無茶しない程度に頑張るね!見ていてね!
………
12月24日
「あーあー…マイクチェック、ワン、ツー」
「なあ、花見の時もそうだったけど…それ必要ある?ってか食堂だからマイクいらねえって」
「…無粋な人ですね」
「怒んなよ…」
『しれーかん着にん1年おめでとうございます!すぱしーば』と書かれた看板と『メリークリスマス!なのです!』とフリーダムな2人が加わったであろう看板。
今日はクリスマスイブであり、そして少し遅くなってしまったが玲司が着任して1年が経ったことを祝してパーティーを開いたのだった。厨房は玲司、間宮、茉莉、それから妖精さんに大和に武蔵も加わっててんやわんや。
さらに鎮守府の艦娘総動員でこの準備を1週間かけて吹雪や雪風、大淀が企画したものだった。たくさんの料理、それからお酒(飲みすぎると某姉は即ある人に電話するシステム付き)だったりジュースがずらり。春のお花見を思い出すほどの賑わいだった。
玲司が話そうとすると無言の圧力でマイクを渡そうとしてくるものだから仕方なくマイクを受け取った。
「あーあー。本日は…あー…雪だな。晴天じゃねえな」
誰かはずっこけたりクスクス笑ったり、玲司の挨拶の最初は大体緊張感がない。外はホワイトクリスマス。去年も寒かったが今年も寒い。去年はこんなド派手なパーティはできず、簡素なものであったが料理の山々。みんな早く食べたくてうずうずしているが、それ以上に提督…玲司が何を言うのかを期待しているのだ。
「料理が冷めちまうから簡単に言うけど…みんな、1年間お疲れ様。いろんなことがあった。正直俺は…提督に戻る気はあんまりなかった。けど、ここの惨状を聞いて俺は居ても立っても居られなかった。だから俺はここにきた。時雨と村雨を助け…いろいろと鎮守府を改造し、仲間もいっぱい増えた。大和に武蔵、それから…皐月たちが連れて来てくれた紫亜にその友達茉莉…
誰であれ、ここにいるからにはみんな横須賀の一員であり、仲間であり、家族だ。あーっとみんなもう知ってるだろうけど、翔鶴と俺は結婚した。カッコカリじゃなくて本当の家族になる結婚だ。一層絆を深めていくけど、だからと言ってみんなを蔑ろにするわけじゃないからな」
先日お揃いの指輪をはめて食堂で「俺と翔鶴、結婚するから」と言った時は食事を噴き出したり飲み物を噴き出したり大声をあげたりと忙しいものだった。練度は十分じゃないと言うツッコミには「ああ、カッコカリじゃなくてカッコガチだな、あはは」と呑気に笑うものだからまた噴き出したりする者がいた。
「翔鶴は必ず幸せにします!瑞鶴!私に翔鶴をください!」と瑞鶴に頭も改めて下げに来た。
「ちょちょちょちょ!!!なんで瑞鶴が親御さんみたいになってんのよ!」
「いや、妹だし?シスコンだし?」
「爆撃するわよ、提督さん。瑞鶴はシスコンじゃないわよ!」
「じゃあ『最近翔鶴姉が部屋に帰ってこなくて寂しいのよね』ってのは?」
「黒鶴隊!発艦!!!目標、提督さん!!!」
「わああああ!?」
「……冗談で…おほん。瑞鶴が偉そうに言えるわけじゃないけど…提督さんならきっとって言うか絶対翔鶴姉を幸せにしてくれると信じているから。翔鶴姉を泣かせたら本気で爆撃してやるんだから」
そう言って瑞鶴に結婚を無事(?)認めてもらった。
「俺が着任してからの艦娘の轟沈は…ゼロだ。むしろ生き返った艦娘がいたりするもんな、はははは!」
響はその言葉にクスリと笑う。そう、そして「誰も沈ませない」と言う約束は見事果たされた。仲間は増える一方で、別のところからやってきた艦娘も含めれば本当にたくさん増えたものだ。
激しい激闘にピンチもいくつもあった。けど、それらを乗り越え、また玲司と共に新たな1年…いや、まだ新年になっていないのだが、玲司が来た1年の節目としては上々の1年だっただろう、と玲司は思う。艦娘からしてみれば奇跡の連発の1年だったが。
「今日は堅苦しい話はなしにして、楽しくやろう。ああ、朝雲と山雲が…あー、もう西村艦隊組に拉致されてるけど…挨拶して仲良くしてやってくれな」
「司令!!最上を何とかしてよぉ!」
「わたしは~、朝雲姉といっしょなら~、どこでもいいわよ~♪」
「山雲!変なこと言ってないで助けてよ!最上が放してくれないんだってば!」
「仲がいいわね~♪」
「山雲ぉ!?」
「最上~、ほどほどにするんだぞー」
はーいと言う言葉だが信用がない。悪いようにはしないだろうし、先の大戦の悲劇の西村艦隊…一堂に会したのなら嬉しいだろう。時雨も嬉しそうだし。
「さ、話が長くなっちまったな。んじゃあみんなコップを持ってー。あー明石ー。そこの飲んだくれ、鳳翔さんか陸奥姉ちゃんに電話してくれな」
「な、なんでやああああ!?」
「すでにまた出来上がってんじゃねえか!!!!」
「せ、殺生やぁ…堪忍して…オラ明石ぃ!早速誰に電話してんねん!!!」
「ん?ああ、お母さんに」
「んなあああああああ!?」
「かんぱーーーーい!!」
「かんぱーーーーーい(なのです!)(っぽい!)」
龍驤はさっそく怒られている。他の皆は待ってましたと料理に飛びつく。
「ちょっと提督さん!なんで七面鳥があるのよ!?」
「クリスマスの醍醐味だろー?お前のためにチキンも用意してあるからそっち食えー」
「そういう問題じゃないわよ!!!七面鳥を「ねえねえ、ずいかくさん、これおいしいよ!ずいかくさんもたべよ?」
「いらないわよ!!」
「うっ、ふぇえ…」
「か、霞ちゃん!?あ、ああああ、ご、ごめんね!?た、食べる!食べるから、ね!?」
「キヒヒヒヒ、霞には勝てねえなぁ」
「まよぉ…」
「摩耶だっつの!」
「まよおねえちゃんも、はい!」
「ぷぷー!!味わって食べてね、まよおねーちゃーん」
「ちっくしょう…ん、うめえ!!!」
「えへへー、おいちい♪」
………
「ちょっと!朝雲はお酒飲めないったら!!」
「あははは~♪ひっく、朝雲姉が~ういっく、2人~。朝雲姉が~いっぱ~い!!」
「山雲ぉ!?それシャンパン!!!シャンメリーってのはこっち!あー顔真っ赤!!!」
「うるさいわねぇ…」
「山城?このたーきー?おいしいわよ。はい、あーん」
「はあああああああん!!!!姉様おいしいですうううう!!!!」
「あんたもうるさいわよ、山城」
「あははははは!みんな飲めや食えや歌えやー♪」
「最上は楽しそうだね…」
「あはははは!ボクこんなにも楽しいの久しぶり!!」
西村艦隊…駆逐艦組や巡洋艦に大和や武蔵なども混ざり楽しそうである。
「うっうっ…翔鶴さん…おめでとうございます…」
「しょ、祥鳳さん…そんな泣かなくても…」
「あははははは!!結婚結婚!」
「蒼龍さん、飲むペースやばくない?」
………
「わらひのけいひゃんれはれすねぇ。大淀しゃんが3にんにふえるれふよー」
「霧島さん…のみすぎれふよ」
「そう言う鳥海さんもですよ!」
「大淀さん…一升瓶を1人で開けておいてそれはないかと…」
皆それぞれ楽しんでいるのを見ながら…
「しれえ!こっちこっちー!」
「司令官!ボクたちと食べようよー!」
「食べるのです!」
「ハラショー」
「おっけー。んじゃ、お邪魔するかな。ジュース持ってーかんぱーい」
「「かんぱーい!」」
玲司が来て1年。楽しい祝宴は駆逐艦や紫亜たちに囲まれて、幸せそうに過ごすのであった。
1年を振り返る艦娘達のお話でした。
2021年はこの投降を以って最後となります。
今年も1年、お読みいただきまして誠にありがとうございました。
来年も書き続けて参ります。どうぞよろしくお願い致します。
雲鷹もお迎えできましたし、良い年を迎えられそうです。
皆さま、良いお年をお迎えください。
それでは、また。