提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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今回はクリスマス・鹿屋基地編となります。
刈谷提督がまた、絆を深めてしまう。そんなお話です。


第二百八話

/12月25日 朝 鹿屋基地 刈谷提督の私室

 

陽の光に目を覚まし…ボーっと忌々し気に太陽の光を睨む目つきの悪い男…刈谷提督である。

昨夜はいろいろとあって…時計を見ると3時間くらいしか寝ていないことにチッと舌打ちをした。

 

しかし、一度目が覚めると二度寝ができない刈谷提督は仕方なく体を起こし、紅茶でも飲むか…と体を動かそうとしたが右手ががっちりと誰かに握られていた。見てみると指と指が絡まり合い、いわゆる刈谷提督には縁のほとんどない、龍田がたまに構ってほしい時にしてくる恋人繋ぎ、と呼ばれるものになっていた。

 

しっかりと絡まっているため、ほどけそうもない。その繋いでいる主、金色の髪に豊満な谷間を布団からチラチラ見せて幸せそうな寝顔。絡まった彼女の左手に朝日に輝くプラチナの指輪。

 

そう、またである。この刈谷克巳と言う男。龍田、葛城に続いてまたしてもやってしまったのである。ジュウコンカッコガチである。つまり、ハーレムが出来上がってしまったのだった。そして、性なる…いやいや聖なる夜を2人きりで過ごしたのであった。

 

「本当なら葛城ちゃんと私も加わりたかったんだけどぉ…これじゃあお邪魔はできないものねぇ…年末年始は…考えておいてね、ドスケベ提督?」

 

「テメエ、後悔することになるぞ」

 

「やん、こわぁい♪それじゃ良い夜を楽しんでねぇ、愛宕ちゃん♪」

 

「ひゃ、ひゃい…」

 

………

 

そう、この今隣で布団をひっぺがすと一糸まとわず眠っている者の正体は…あの大府提督がいらないと言って引き取った重巡・愛宕であった。彼女は刈谷提督に一晩中愛してもらったわけである。

 

他の提督のように無理やりではない。むしろ愛宕から迫ってきたくらいだ。刈谷提督はそれに応じただけにすぎない。いや、刈谷提督自身もこうなると最初から予測していたがために、きっちりと愛宕に渡すための指輪。葛城や龍田達と同じく「死んでも永遠に」とラテン語で刻まれたプラチナの指輪を渡したわけである。

 

刈谷提督は愛宕が葛城や龍田と同じく、自分に恋愛感情を持っていたことに気づいていた。そして…龍田や葛城に相談してみたところ。

 

「あらあら、提督ったらほぉんと苦労が増えるわねぇ。私達、激しいわよぉ?」

 

「提督がいいなら私はいい。でも、それで私を愛してくれる時間を減らしたりしたら嫌だからね!」

 

…そうかい…としか言うこともできず、こうなったわけで…愛宕は龍田や葛城以上に愛に飢えていたようだったため…と言うわけである。

 

(面倒ごと…って言っちまうと愛宕に失礼だよな…ったく…俺もヤキが回ったか?)

 

「んー…んー♪」

 

愛宕が握りしめた手に頬ずりしている。こいつ…。

 

「狸寝入りしてんじゃねえぞ、テメエ」

 

「だってまだ眠いんですものー…もうちょっと寝ましょ?」

 

「俺は二度寝できねえんだよ」

 

「頭が寂しいです」

 

「枕があんだろうが」

 

「じー…」

 

「………」

 

「じーーー」

 

「……………」

 

「じーーーーー」

 

「うるせえな…ったく、テメエがここまでベタベタする奴とは…っていつもそうだったか」

 

「そうでーす♪んー♪提督の腕枕は…ふぁあ…」

 

「おい、寝るな、おい!」

 

「ぱんぱかぱーん…」

 

「くっそ…」

 

そのまままた愛宕はスヤスヤと眠ってしまった。結局、昼過ぎまで愛宕は眠り、その間…何もできないで愛宕を撫でてあげたり、こそっとキスをしてあげることくらいしかできないでいた。刈谷提督がそういうことをするたび、起きているんじゃないのか?と言うくらいにへーっと笑ったり「ぱんぱかぱーん…」と言ってみたりとする平和な時間であった。

 

………

 

「…腹減った」

 

「じゃあ私が何か作りましょうか?愛宕特製ぱんぱかぱーんなサンドイッチなんてどう?」

 

「…任せる」

 

「コーヒーはブラックよね?」

 

「俺は紅茶シュガーレスだ」

 

「あ、そうだった!じゃあ作って来るからゆっくりしててくださいね!」

 

ルンルンと裸から服を着て準備をする愛宕。何と言うか…龍田や葛城とは違う煽情さを持っていて…ムクリと欲望がかきたてられるが…フン…と1つため息をついて煩悩を払う。

 

「じゃあ、行ってきますね~♪いってきますのちゅー♪」

 

「テメエ、いい加減にしろんむ…」

 

「ふふっ♪いってきまーす♪」

 

……すっかり愛宕のペースに巻き込まれてしまった刈谷提督である。

 

………

 

愛宕が刈谷提督を意識し始めたのはもう最初の頃からだった。ひどい提督から自分を引き取ってくれて、優しく(?)してくれたことで惹かれていった。

 

ただ、どこでどうやって引き取られたのか。そして前の提督の事がまったくもって思い出せないことが引っ掛かっていた。目を覚ました時、愛宕は鹿屋基地の医務室にいた。その隣で提督がいた。なぜか大怪我をして。

 

「階段から転げ落ちたんだよ」

 

そう言っていたけれど、明らかに階段から落ちたにしては重傷だし、包帯は腹部に巻かれていたし…しかもそんなドジを踏む提督ではないことは明らかだった。ただ、彼は階段から落ちたの一点張りだったのでそれ以上の言及はやめた。怖い提督なのかと思ったが…。

 

「あー。提督が怖い?んなわけねえクマ。まだ着任したてでわかんねえだろうけど、見てたらわかるクマ」

 

「司令官?とっても優しい人にゃしい!前までは怖かったけど…あ、これは内緒にしといてほしいにゃし。司令官、がんばったら伊良湖最中券くれたりとっても優しいよ!司令官に言うとひどい目にあうから内緒にゃし!」

 

結局うっかりと長月が口を滑らせて抱っこから思いきりグルグル振り回されてクラクラの刑にされてしまったが。

 

海防艦の小さな子達がいつも提督のところに見かけると集まる。うるせえな、と言いつつも頭を撫でていたりと悪い人でないことはわかった。

 

「階段から落ちたのよ~。提督ったらドジでしょ~?うふふ♪」

 

秘書艦であると言う龍田に聞いてみてもそうとしか答えてくれない。腑に落ちないものであったが…答えてくれそうもないので提督のことを追求するのは諦めた。

 

………

 

「あ?書類仕事の手伝いがしたい?」

 

「はい。私も何か提督のお手伝いができればと」

 

「……好きにしろ」

 

「は、はい!」

 

龍田にあれこれ教わり、能代にもいろいろと指南してもらい、これにより激務である刈谷提督の書類仕事は最強の布陣になった。時々席を外すと能代と出て行くこともある。

 

帰ってくると大体阿賀野絡みで没収したお菓子やら何やらをどっさり持って帰って来て「おい愛宕、これ海防艦と睦月たちに配って来い」と言うことが起きる。能代はこめかみに血管を浮かべて「まったく、また阿賀野姉ったら!」と言う騒ぎが1ヶ月に2回くらいは起きるだろうか。

 

実戦演習は厳しい。最初はすぐに体力が切れてふぅふぅと膝をついて息を思いきり切らすくらいだった。何より、球磨と多摩の指南が苛烈である。

 

「オラー!!!睦月、何だその動きは!?死にてえクマか!?実戦でんな動きしてみろ!轟沈間違いねえクマ!!」

 

「ニャニャ、愛宕はまだ練度が低いけど甘くはしないにゃ。戦場では息を切らした艦娘なんて殺してくださいって言ってるようなもんにゃ。まずはここを死ぬ気で走り切れにゃ」

 

「こ、この広い演習場をですか!?」

 

「にゃ。ほれ早く行けにゃ。体力オバケにしてやるにゃ。止まったらそのでっけえおっぱいをもみしだいてやるにゃ」

 

「い、いやああ!!」

 

「ほれ、止まったにゃ。んー…やわらかいにゃ…」

 

「おほー…柔らけーと思ったらプリっと引き締まったケツしてるクマ。これは球磨ちゃんも参加せざるを得ないクマ」

 

「ほう。にゃにゃ、これはおっぱいとは違う触り心地。球磨姉もおっぱい揉んでみるにゃ。たまんねえにゃ」

 

「ふむふむ。んおお、これは…大きいながらも張ったおっぱい…先もツンと誇示していて…阿賀野や能代にはない、いいものだクマ。グェッヘッヘッヘ…さあ、球磨達にこうされたくないなら走り抜けクマ」

 

「ひいいいいいい!!!!」

 

セクハラ軽巡球磨、多摩のせいでおそろしく体力はついたのではないだろうか。

 

一方で長門の砲撃指南は丁寧でセクハラもなく、しっかりと練度向上につながった。戦闘に出ても「うむ。これならば南西諸島に出ても問題はないだろう。これから先、厳しい戦闘が待ち受けていることも多い。だが、我々はそれに立ち向かわねばならない。愛宕。お前の重巡としての攻撃力は改二の者にも負けてはおらん。自信を持って戦うのだ」

 

そう言われて嬉しくなったものだ。

 

「愛宕姉ちゃん、ぱんぱかぱーん!」

 

「あら佐渡ちゃん、ぱんぱかぱーん!」

 

「へへー♪」

 

愛宕は持ち前の明るさから駆逐艦から海防艦、ほかの艦娘からも慕われる。無理矢理ぱんぱかぱーんされるのは勘弁なようだが。

 

だが、自分がどこからやってきて、どうして記憶がないのかと尋ねても誰も教えてくれない。いや、答えてくれない。そもそもが愛宕のことは知っているようでほとんどは知らないのである。感情の壊されたときの愛宕のことは伏せろと提督に言われている。それをしっかりと守っているのだ。皆はただ、ひどい提督のところから連れてこられた。それしか言えない。

 

それに大体のことを把握しているのは龍田と葛城と能代くらいである。龍田たちに聞いてもさらりと聞き流されてしまう。

 

「お前は前のところのことは知らなくていい。殺してえくらいクソみたいな奴だったからな」

 

提督に聞いても怒りに満ちた顔でそう言うだけでそれ以上は怖くて聞けないのだった。もやもやする心。ただ、提督を見ていると胸がドキドキすることがある。それが何かはまだわからないが、妙に提督を熱っぽい目で見たりすることもあるし、提督が食堂にいると目で追いかけてしまう。目が合うとサッと目を逸らしてしまうし、そのあとはまた胸がドキドキするしよくわからない。

 

胸のドキドキがわからないので龍田に聞いてみた。すると

 

「あら~、愛宕ちゃんも大変ね~♪」

 

と妙に嬉しそうにそう言うだけで答えを教えてくれなかった。そのうち教えてあげるわ~と言われてしばらく経つが何も教えてもらえそうもない。困った。能代もわからないと言うし…長門は機関部の故障ではないのか?明石か夕張に見てもらった方がと言われて2人を頼ってもわからない。異常はないと返ってきた。

 

うーん…どうしたらいいんだろう…愛宕の悩みは尽きなかった。

 

………

 

ある日、書類を持ってきたときのことだ。

 

「提督?書類をお持ちしましたよ。今日も多いですね」

 

「ああ、そうかよ。そこに置いといてく…」

 

刈谷提督が指を指したところ…ムニッととても柔らかい感触が指先に当たった。

 

「ひゃん!」

 

よく見ると書類を置こうとした愛宕の胸に指が当たってしまったのだ。龍田は「あらあらまあまあ」と言う声が聞こえ、能代は「提督!」と怒ったような声を出していた。

 

「……すまん」

 

「い、いえ…私は気にしてませんから~…提督なら…別に」

 

「何か言ったか?」

 

「う、ううん!何でもないです!そ、それじゃ失礼しました~」

 

バビュン!と言う擬音が聞こえそうな勢いで愛宕は去っていった。

 

「モテる男は大変ね~」

 

「はあ?」

 

「愛宕ちゃん、提督の事、きっと好きよ」

 

「ええ?!」

 

「なんで能代、テメエが驚いてんだよ」

 

「もう、提督は鈍感ね~。提督にあつ~い視線を送ってたりしてるでしょう?」

 

「ああ?あー、まあ…」

 

「刷り込みっていうわけじゃないけど、あの子…最初から提督に好意があるのよ~」

 

「目が覚めるまでの記憶は飛んでるんじゃねえのか?」

 

「記憶は飛んでしまっているけれど…どこかで覚えているんじゃないかしらねぇ。あの時の提督、私が妬けちゃうくらい献身的だったもの~」

 

「その分夜はちゃんとしただろ」

 

「て、提督!?」

 

「うふふふふ♪そうね、あの時は情熱的で…「わー!わー!」」

 

「何だ能代、うるせえな」

 

「昼間からそんな話をしないでください!」

 

「あら、能代ちゃんも加わってみる?提督の夜戦は素敵よぉ♪」

 

「ぶっ!!」

 

なぜか書類の束を龍田にではなく提督の顔にぶん投げる能代。書類は提督に直撃。

 

「テメエ…」

 

「提督のスケベ大魔王!!」

 

「おいテメエ。テメエ、待てっつうの」

 

「あらあら、怒っちゃったわねぇ」

 

「能代追っ払うためにあんなこと言ったろ、テメエ」

 

「能代ちゃん、えっちなお話に弱いから♪この方が愛宕ちゃんの事、お話しやすいでしょう?」

 

「………」

 

「女の子はねぇ、好きでもない男の人に不可抗力でも触られて…あんなこと言わないわよ。提督だろうとね。私だったら好きでもない男だったら不可抗力でもその手を切り落としてるわ~。提督なら別にって言っていたの、聞こえていないでしょう?」

 

「んなこと言ってたのか?」

 

「そうよ~。愛宕ちゃんも葛城ちゃんと一緒ね。依存しないと生きていけないのかも…ね♪」

 

「………」

 

「気持ちに応えてあげてね♪私は私もちゃ~んと愛してくれたら妻が3人になってもいいのよ~」

 

「人間相手じゃぜってー無理な話だな…」

 

「提督も気になるんでしょう?愛宕ちゃん。ほらほら、準備してあげなさい♪」

 

「クソが。楽しそうにニヤニヤしやがって」

 

とても嬉しそうな龍田とチッと舌打ちして書類を睨む刈谷提督であった。

 

………

 

どうしよう、どうしよう。なんで…胸のドキドキが止まらない。ちょっと。ちょっと当たっちゃっただけなのに…恥ずかしいのと、提督が触ってくれたと言う嬉しさとで頭が混乱していた。

本来なら胸を触られると言う行為は嫌悪感がくるものだと思っていたが…それよりも何が何だかわからない感情が愛宕を支配していた。その感情がわからないのでどうにもならないでいた。

 

「あれ?愛宕さんこんなとこで何やってんの?」

 

「か、葛城…ちゃん?」

 

「ちゃ、ちゃん…」

 

「葛城さん…」

 

「あ、ああっとごめんなさい、別にちゃんでも大丈夫だから!!」

 

「か、葛城ちゃぁ~ん」

 

「わ、わああ!?な。なになに!?何かあったの!?提督に何かされた!?」

 

急に抱き着いてきて助けを求める子犬のような目で見つめられる葛城…キュンッと胸がときめいた。あのいつも笑顔で賑やかな愛宕さんがこんな顔をするなんて…ギャップ萌え?いやいや、そんなことを言っている場合ではない。とりあえずどうしてこうなっているのか、葛城は話を聞くことにした。

 

………

 

「え、ええっと、それって愛宕さん、提督の事好きなんじゃないかなぁ?」

 

「好き?提督の事は好きよ?私を引き取ってくれたわけだし…」

 

「あー、好きって言ってもいろいろあって…こう何て言うのかなぁ…そう、お嫁さんになりたい!とかその、キスしたい!とか…提督にだったらこう…ラブラブしたいとか…」

 

「ラ、ラブラブ…」

 

そう言って如月が読んでいたラブラブマンガを思い出した。手を繋いでデートして、帰りにキスをして…そのことを提督としていると言うのを想像するとボンッと顔が真っ赤になった。

 

「あ、あわわわ…ぱ、ぱんぱかぱかぱかぱかぱかぱーん!!」

 

「お、落ち着いて愛宕さん!!!」

 

「て、提督とデート…キ、キス…え、うそ…」

 

「それは飛躍しすぎじゃないかなぁ…」

 

「で、でもぉ…」

 

「提督の指が当たっちゃって嫌な気にはならないし、ドキドキが止まらないって…やっぱり提督の事、好きなんじゃないかな?」

 

「わ、わからないけどぉ…」

 

「何て言うか、私が龍田さんに言われた時みたいな感情だよそれ。私もふと提督を目で追いかけてたりとか、すれ違う時にすごいドキドキしたりとか…で、告白してみたら?って龍田さんに言われて…」

 

「それで、その指輪…」

 

「ああ、うん。カッコカリじゃなくて本物の結婚だって…龍田さんと私と…ってわけで」

 

「そう、なんですね…」

 

指輪をマジマジと見る。提督との強い絆…。それを想像すると胸の鼓動が高まり、顔が熱くなる。

 

「あー、うん…やっぱり提督の事好きなんだね。何か思い当たることとかはないのかな?愛宕さんも前の提督にひどいことされてここにきたわけだけど…それがきっかけとか?」

 

それがわからないのだ。もう気が付けば好きになっていた。最初から?それすらももうわからない。昔を思い出そうにも思い出せない。私は…。そのとき、ザッ…と何かが脳裏に浮かんだ。

 

「愛宕ォ!負けんじゃねえぞ!!!お前の居場所はここだ!!!俺はお前が気に入ったんだ!!!!こんなところで深海棲艦なんかになってんじゃねえぞ!!!!」

 

「ウ…ウアアアア!!!!!」

 

何だこの記憶は…私の居場所は…ここ?提督が私を気に入った…?私は何を見ているの…?

 

ザザッと場面が変わる。提督を爪で突き刺す私…?なんてこと…私は提督を殺そうと…?どうなっているの?

 

「愛宕、死ぬな。俺たちと一緒に来い。俺が…俺がお前を幸せにしてやる!!!!」

 

………

 

「あぐっ!?あ、頭が…?!」

 

「愛宕さん!?だ、誰かー!?」

 

愛宕は猛烈な頭痛に見舞われ、そのまま意識を失った。

 

………

 

目を覚ますと白い天井だった。頭は靄がかかったかのように気分が優れず、頭も痛い。痛くて動けない…。

 

けど…私は思い出した。そうだ、提督を殺そうとしたんだ。深海棲艦になりかけて…いや、もう深海棲艦になっていたのだ。それを提督が命を張って…。

 

「目ぇ覚めたか?茶でも飲むか?」

 

考え込んでいると横から声が聞こえた。そこにいたのは…。

 

「提督…」

 

「昔を思い出そうとしてパンクしたって言うか…呼び覚ましちゃいけねえ記憶を蘇らせて機能を停止した、ってとこだろうな」

 

「提督…私は…」

 

「葛城みたいに思い出さなくてよかったのにな。そのほうが幸せなこともあったろうにな」

 

「私は…提督を殺そうと…」

 

「お前のせいじゃねえ。あれは前の提督がお前に仕込んだことだ」

 

「けど!私…深海棲艦になって…」

 

「お前のせいじゃねえ」

 

提督は自分のせいではないと一言で片づけた。愛宕は何一つ悪くないと。だが自分は提督を殺そうとしたのに…。

 

「無理に思い出さなくていい。お前は深海棲艦に確かになった。ただ、どうにかして愛宕のままで留めただけだ」

 

さらっと言って自分はお茶を飲んでいるが、深海棲艦になったなら元に戻す手はないのではないか?なのになぜか私は愛宕としてここにいる。

 

「どうして…深海棲艦になったはずなのに…?」

 

「さあ、そりゃあ俺も知ったこっちゃねえ。けどお前は愛宕のままでいる。それならそれでいいんじゃねえか?」

 

ズキリと頭が痛む。けれどその提督の言葉で考えるのをやめた。刈谷提督の暗示の様なものだ。過去を考えるな。思い出すとややこしくなるかもしれない。また深海棲艦になるかもしれない。そんな危険をはらんでいるため、思い出させないいわゆる「提督の強制命令」」である。

 

「あの…提督…その…」

 

「なんだ?」

 

聞きたかった。

 

「お前を幸せにしてやる…って…言っていましたね」

 

「覚えてんのかよ」

 

チッと舌打ちしてガリガリ頭をかいた。あの時必死に愛宕を救うために言った言葉。それを愛宕は思い出していたようだ。

 

「あ、あと…私が気に入ったって…」

 

「あー…」

 

刈谷提督はそっぽを向く。その言葉を思い出すたびに胸がギュウ…と締め付けられる。だから愛宕は…提督を抱きしめた。

 

「何してんだおい」

 

「…………」

 

提督の温もりが胸のドキドキをさらに強くする。嗅ぎなれた僅かに香る香水の香り。頭がくらくらする。

 

「提督は…私を幸せにしてくれますか…?」

 

「ああ。それが俺がここで提督として存在する役目だ」

 

「それはここのみんなをって…ことですよね…?」

 

「そうだな」

 

「そうじゃなくて…私を幸せに…してください…」

 

「……は?」

 

「私を龍田さんや葛城さんのように…幸せにしてくれませんか…」

 

「…なんでだ?俺みてえな奴じゃ無理だろ」

 

「じゃあどうして龍田さんや葛城さんは幸せそうにしているんですか!?」

 

「……」

 

「私も…私も提督が好き!私の事を気に入った、幸せにしてやるって言うなら!……私も提督と幸せになりたい…あなたと…一緒に…いたい…」

 

「はぁ…龍田の言う通りかよ…あの野郎、ここまで読んでたってことはねえだろうな…」

 

「えっと…」

 

「あー…あー…俺は龍田も嫁だし葛城も嫁だ。それでもいいのか?本来嫁ってのは1人だけどよ。俺は…好意を向けられた奴に対しては1人だけ愛するってのは…できねえんだ。3人平等ってのも難しいかもしれねえ。それでも「それでもいいです。私を助けてくれて…私の事を気に入ったって言ってくれて…だから私は…提督の事が好きになっちゃったんだって…」

 

「それは本物かよ?」

 

「なら…私の気持ちを受け取ってくれますか?」

 

「あ?」

 

提督を無理やり自分の方に向け、唇を重ね合う。が、勢いが良すぎてガツン!と歯が当たってしまった。

 

「……ってぇ…!」

 

「いったぁ…」

 

提督の唇に歯が当たってしまい、切れてしまったのか血が出ていた。

 

「て、提督!ご、ごめんなさぁい…」

 

「お前な…いきなりすぎるし勢いがありすぎんだよ」

 

ベシッとデコピンをかました。いたぁ!と言っておでこを押さえる愛宕。提督はハンカチで口の血を拭いている。赤い血。

 

「オラ、お前も血出てんぞ。ったく、しょうがねえな」

 

自分が口を拭いた場所とは違う所で血を拭う。愛宕の血は赤かった。私は深海棲艦ではない…夢?

 

「私…深海棲艦になっちゃって…提督を殺そうと…」

 

「物騒な夢だな。そりゃ夢だ。忘れちまえ」

 

「違う…違うんです…提督を…殺そうとして…私が助けられて…」

 

「お前…」

 

愛宕はどうやらあの時の記憶を思い出しているようだ。

 

「そうだよ。お前は深海棲艦になりかけた。けど助かった。そんな命だ。そんな大事な命、俺に預けて…んむ」

 

今度はゆっくりと唇を重ねてきた。愛宕の初めてのキスは血の味がした。

 

「お前な」

 

「私、覚えています。提督がいろんなことを教えてくれたこと。私の事を兵器じゃないって怒っていたことも。優しくしてくれたことも…だから…私の命は…提督と一緒にありたい…です」

 

「……後悔はしねえな?」

 

「するはずがないです。私…提督の事…本で読みました。こういう時は…愛しています…って言えば…いいのかな…」

 

「……そうかよ。だったら…ほらよ」

 

そう言ってポイっと小箱を愛宕に投げる刈谷提督。何だろうと開けてみる。それは…美しく輝くリングだった。

 

「これ…は?」

 

「裏にお前の名前と『死んでも永遠に』って彫ってある。言っとくけど、俺は重てえぞ。死んでも離さねえからな」

 

今すぐ、さっき作れるわけではない。これは…。

 

「クリスマスプレゼントだ。お前だけのな。まあ、龍田と葛城にもあげちまっておわっ!!」

 

感極まって刈谷提督をその胸に埋めたのだ。

 

「むぐー!!!!」

 

「提督…!提督!!!私も…私も提督とずっと一緒にいるから…死んでも…ずっと!」

 

「むぐ、むー!!!むーーーー!!!!」

 

最初から自分をこうするつもりでいたんだ。そうでなければこんなリングは作れない。龍田にリングの事を聞いたらめちゃくちゃ注文が多すぎて作るのに3か月かかったそうよ~と言っていた。つまりは…こうなることを見越して作っていた。まあ、今回は龍田や葛城の前例があるので1ヶ月程度で作ってしまったようだが。

 

それでも愛宕は嬉しかった。龍田や葛城のように…能代たちとは違う接し方をしている。龍田にどうしたら私も龍田さんのように愛してもらえるのか?と聞いたら「愛してるって言えばいいのよ」と返ってきた。愛だの何だのがわからなかった愛宕は龍田にいろいろ教えてもらったようだ。

 

「提督は情熱的にとっっっっても愛してくれるわよ~♪」

 

その愛してくれると言うのがよくわからなかった。

 

「提督…その…今日は…クリスマスイブで…パーティをするそうですけど…そのあと…私を…愛してくれますか…?提督…?」

 

提督を見ると気を失っていた。愛宕の胸に圧迫され…窒息していたのだ。

 

「だ、だれかー!!?て、提督がー!」

 

提督は医務室へ運ばれたがすぐ意識を取り戻した。テメエ、ちったぁ加減しやがれと怒られてしまったが…。

 

「左手、出せ。あと指輪貸せ」

 

「は、はい…」

 

左手をそろり…と出すと指輪を薬指にはめてもらった。龍田も葛城も出撃以外では必ずつけている左手の薬指の指輪。刈谷提督は1つだがつけている。龍田いわく「これはねぇ、愛する人同士…難しいけど夫婦って言う意味なのよ♪」と言っていた。

 

「これで私も…提督の…」

 

「妻だな。まあ、末永く頼むわ」

 

彼はそっけなくそう言ったが、さらりと愛宕の美しい金色の髪を指で梳いて、頭をなで、強引にまた顔を引き寄せて唇を重ねるのであった。

 

「ぷはっ…て、提督…」

 

「また窒息させんじゃねえぞ」

 

「…は、はい…」

 

「愛宕」

 

「はい?」

 

「……俺は執念深いからな。絶対離さないからな」

 

「……離さないでくださいね♪ぱんぱかぱーん♪」

 

「うるせえ」

 

「そ、そんなぁ」

 

ククク…と笑う刈谷提督。これだ。これが刈谷提督なのだ。いたずらっ子で悪だくみが大好きで。でも…優しくて…大事にしてくれる…大好きな提督。

 

「今日は部屋に帰さねえからな」

 

「きゃー、お持ち帰りってやつ?素敵だわ~♪」

 

腕をがっちり組み、うぜえ、離せと言っても離さない愛宕。大東に「あー!提督と愛宕さんがらぶらぶしてるぞー!!」と言うと「ラブラブしてまーす♪」と返し、呆れられたとか。

 

………

 

そして現在に至る。フン…とため息をついて愛宕の頭を撫でる。まあ、龍田や葛城とは違う愛され方で得悪くねえな…と思った。

 

ドンドンドンドンドン!!!

 

「提督!いつまで寝てるんですか!?もうお昼を過ぎているんです!!!!決済の判子を押してもらわないと困るんですよ!!!」

 

割と自分的には楽しい一時だったのだが、能代の怒鳴り声で気分を全てぶち壊された。ちなみに、鍵はこちら側からしか開けられないようにしてあるのでぶち破りでもしない限り開けられることはない。

 

チッと舌打ちをしてササッと着替え、部屋を出る。愛宕の手はいつの間にかほどけていたので。

 

「うるせえなこのボケ」

 

「いつまでも寝ているからでしょう、この寝坊助!!」

 

「うふふふ、昨夜はお楽しみだったかしら~♪」

 

「うるせえ」

 

「あれ?提督、普段詰襟のボタンをきっちり閉める人じゃないのに…珍しいですね」

 

「何でもねえよ。気まぐれだ」

 

「……あやしい」

 

「何でもねえっつってんだろ」

 

「絶対あやしいです!!何してたんですか!?ま、まさか…艦娘を呼んで…ひどいことを…「するわけねえだろうがタコ」

 

「タ、タコ!?誰がタコですか!?」

 

「タコはタコだ。タコ」

 

「キーーー!!!言わせておけばああああ!!!」

 

「ふぁあああ…おはようございまーす…」

 

「龍田ぁ、能代追い出せ」

 

「愛宕さん!?て、提督のワイシャツに…パ、パパパパパンツ…で…」

 

「あら……?……いやん♪」

 

「いやんじゃないですよ!!!何してたんですかあ!?ひ、ひどいことされた…風には見えないですね…」

 

「うふふふふ♪愛宕ちゃん、どうだった~?」

 

「はい!とーっても…胸がぱんぱかぱかぱかぱかぱかぱーん!よぉ!」

 

「ふ、不潔よ!!!不純異性交遊ですよ!!提督!大本営に通報しますからね!?」

 

「お互い合意の上なら問題ねえはずだが?お前も仲間にくわわあっちぃ!!!テメエ!!!茶かけるたぁいい度胸だなテメエ!!!!!」

 

「うるさいヘンタイ!!!!!今日と言う今日はお説教ですよ!!!」

 

「上等だテメエ!!!!上官に熱湯で淹れた茶ぶっかける奴にゃ容赦しねえ!!」

 

「何をぉ!?」

 

「んだコラテメエ!!!!」

 

「はいはい提督、能代ちゃん、そこまでよ~。今日も賑やかでいいわねぇ♪」

 

「ふふふ♪今日も一日ぱんぱかぱーん!」

 

「ねえ!?今の怒鳴り声何!?あ、ああ…」

 

「葛城ちゃん、いつものことだから放っておいてお茶しな~い?」

 

「あ、そっか。愛宕さんのお祝いに伊良湖さんの最中でも食べます?」

 

「食べる食べる~♪今まで寝てたからお腹すいちゃった~」

 

「その前にお着替えね~」

 

ぎゃーぎゃーと騒ぐ刈谷提督と能代を放っておいて、左手の薬指に輝くプラチナの指輪をはめた3人が和気あいあいと執務室で最中を楽しみにするのであった。




新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、新年一発目は鹿屋基地でぱんぱかぱーんなめでたいことを書きました。
玲司は一途に翔鶴のみを愛しますが刈谷提督はハーレムを無意識に作っていますね。ここも対称的でいいのではないのでしょうかなーと思っています。

ただ、いい加減なハーレムではなく、きっちり愛します。そこは誠実だったりします。あとは割といい加減だったりしますけども(笑)

次回はまた横須賀に視点を戻します。今度は今までとは指導方針が違いすぎる横須賀の艦娘に苦悩する鹿島にスポットライトを当てようと思います。

次回もお待ちいただけますと嬉しいです。

それでは、また。
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