提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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今回は苦悩する(しすぎてだいじょうぶなんでしょうか)という鹿島のお話になります。


第二百九話

「私ってここにいる意味…あるんですかね…」

 

「そらあるやろ。キミのおかげであの子らは成長したんやで?」

 

「でも!あの子達、私じゃあもう手の負えないレベルにまで成長しちゃってるじゃないですか!!!」

 

「まあまあ、そうカッカせんと飲みいな…ほれ」

 

「んぐっ…んぐっ…んぐっ…ぷはぁ!!うっうっ…香取姉…私はどうしたらいいのぉ?うわああああん!!!!もうおうちかえるううう!!!!」

 

「あかん、この子泣き上戸や。めんどくさい子や」

 

「めんどぐざいっでどういう意味でふかぁ!」

 

「おいいい!!!あっしもた!これ響のウォッカやん!!ってか大丈夫かおい!!」

 

「うわああああん!!世界が回るしなんらかとっれもいいきぶん…えへ、えへへへはははははは」

 

「し、しもたぁ!間宮ぁ!!!水、水ううううう!!!!」

 

ばたーんと机に倒れ込むのはこの鎮守府の水雷戦隊、艦隊の練度を大きく向上させたいと言う玲司の思惑とセクハラ問題に悩む古井司令長官の思惑が一致し、古井司令長官の粋な計らいにより横須賀鎮守府に着任した練習巡洋艦、鹿島である。

 

着任した当初は「基礎だけを徹底的にやってくれ」と言われて本当にここは日本の要、横須賀鎮守府なんだろうか…と思っていた鎮守府。原初の艦娘はまあ教えることなんてないと言うか範疇外だし、水雷戦隊と重巡を鍛えてくれと言われて早数ヶ月。

 

最初は大淀の件で失礼なことをしてしまって怒られたこともあった。確かに言われてみれば香取にも言われていたことだった。優れた艦娘を優遇し、そうでない艦娘はおざなりに。半人前と言われるゆえんがそこだった。

 

考えを改め直し、全力で艦娘の指導にあたった。その結果が…。

 

朝潮は「牙の女王」というものに目覚めた。ゼロマックスゼロの急加速急制動から繰り出される水の刃。そんなもの「鹿島教官!!!今のはいかがでしょうか!?」と言われてもわかるはずがない。見たことも聞いたこともない。

 

雪風にとにかく自分をペイント弾で思いきり撃ちまくってくれと言うので、では、と撃ってみた。「白き妖精の舞」と呼ばれる踊りのような回避方法で全弾かわされてしまった。鹿島先生だけじゃと言うので神通も駆り出して撃ってみたが神通が1発当てた。

 

「鹿島先生!雪風、うまくかわせていたでしょうか!?」

 

そう言われても、え、ええ、そうですね…としか返しようがない。大体そんな回避方法は初めて見た。

 

村雨に砲撃指南をしてみた。全弾ど真ん中に命中させるし、砲撃ゲームと称したわざと荒れた波の中、360°どこから出てくるかわからない的当てゲームは今までこれを全弾命中。しかも完璧に捉えた艦娘はいなかったのだが、それを全て正確にど真ん中を命中させ、クリアした。

 

さらにさらに戦艦の砲術指南をしようと思ったら村雨の距離測定の正確さ、風や空気抵抗による誤差の修正が正確すぎてこっちがどうやってるんですか?と聞くほどである。

 

「パッと見て体で風を感じて撃てーって感じです!」

 

そんなことを言われて誰がどう理解できるというのか。ああ、1人いた。夕立だ。村雨ほどの精度はないが…

 

「パッと見て…ぽいーーー!!……あっ、当たったぽいー!!鹿島先生、見て見てー!」

 

あ、ああ、そうですね…としか言えるはずもない。

 

夕立は指導のしようもない。原初の艦娘最速の島風を最近では追い詰めだしているし、パッとやってぽいっと見てドーン!っぽい!とか言う村雨と同じで…うん、理解できない姉妹の繋がりですね、とにっこり微笑んで褒めることしかできないのだ。彼女の野生的な動きは鹿島の理解の範疇を超えてしまっているので脳が考えるのをやめるレベルっぽい…いやいや…レベルである。

 

北上。こちらも魚雷指南をするため、では魚雷を放ってください。という。数秒経ってもは発射しないため、「あの…魚雷を…」と言うと。

 

「え?もう撃ったよ」

 

次の瞬間標的が大爆発。確実に魚雷の爆発であった。北上は音もなく魚雷を発射していたのであった。これが北上の強みであり、そして…原初の艦娘「雷の女王」木曾と一戦交えたことでさらなる魚雷発射の進化を遂げていたのである。

 

「んー、木曾っちのようにはまだいかないなぁ。『雷の檻』失敗失敗」

 

原初の艦娘の真似をする…?そんな北上聞いたことがない。大体は「あーむりむり」というのが答えとして帰ってくる。しかし、横須賀の北上は「雷の女王」に近づく努力をしているとのだと言う。

 

無気力で練習も「えーめんどくさーい」と言うが、提督曰く「誰も見ていないところで必死に練習してみんなを守るために頑張っているよ」とのことだ。努力している所を見られるのが嫌いらしい。

 

ただ、鹿島としては教えることがこれでは何もない。

 

神通の動きはよくわからないし、コンビを組んでいる夕立は1人のときよりもさらにもう陸上の野生動物のような動きをしているし…。

 

「あれ?これわたしがいなくても横須賀はやっていけるのでは?」となって龍驤に相談をしていたのだった。

 

悩み事相談とあって酒をちびちび飲みながら龍驤も話を聞いていたが、まあ確かに…ここは予想外の艦娘が多すぎると思う。

 

朝潮と響はいい加減鹿島を恐れて無謀な勝負はしなくなったし、他の駆逐艦も優秀である。防空演習は龍驤がやっているし…わたしの存在意義は?となっているわけだ。

 

そうこうしているうちに水と勘違いした鹿島がごっきゅごっきゅと龍驤の酒を飲み始め、そして壊れたのだった。

 

結局鹿島は大笑いした後にうっぷ…と顔を真っ青にして大リバースをトイレで龍驤に介抱されながらしてしまったのだった。

 

/翌日

 

「ん、んああ…うっ、頭いた…うっぷ!」

 

トイレに駆け込み大リバースアゲイン。フラフラになりながら食堂に行く。吐き気はおさまらない。

 

「よう、おはよう鹿島。昨日は荒れに荒れたんだって?」

 

「うう…は、はい…わたしとしたことが…」

 

「ハハハ、姉ちゃんから話は聞いているよ。んー、まあ…ここは他の鎮守府とは一味も二味も違うところだからなぁ。まあ、鹿島にとってはいい経験になるんじゃないかな。ここの艦娘の面倒を見てたら、次にどこかに行くことがあって、指導することになったら、超面倒みやすい環境になるだろうなぁ」

 

まあ、行ってほしくはないけどなー、うちの家族としていてほしいもんだ。と提督は言う。出された味噌汁。その中にはシジミ。

 

「二日酔いにはシジミ汁さ。それ飲んで、今日はゆっくりしてな。もう年末だ。緊急な出撃がない限りは大掃除…と思ったんだけど妖精さんがやっちまって艦娘もすることがないから自由だよ」

 

「そ、そうですか…」

 

本当にここの妖精さんは働き者と言うか…他の所では見たこともないレベルの働きぶりである。お風呂、サウナ…ピザやいろいろなものを焼くのに使う窯…台所…お庭…。お庭と言えば深海棲艦のなかでも脅威でしかない戦艦棲姫の紫亜さん…港湾棲姫の茉莉さん…本来なら自分から大本営に報告せねばならないはずである。鹿島はその場の提督が悪いことをしていないか、と言うことを司令長官に報告する監査役も兼ねている。

だが…ここまで無害、かつ艤装もない。そして駆逐艦の子達が泣いてまで守ろうとしたこの人達…そう、自分も隠ぺいの共犯者である。紫亜は色とりどりの花を咲かせること、駆逐艦の特に皐月や文月、霰などを喜ばそうといつもいろいろな遊びを一緒になってやっている。

 

茉莉は最近厨房に立つことができなくなってきている提督の貴重な代わりだ。作る料理の味は提督とも間宮とも違うがおいしい。毒を盛ってやろうなどと考えることもなく、間宮にいろいろと教えてもらい、料理の腕がメキメキと成長している。

 

害はなく…戦うことはできない…いわば難民のような存在…こうなると敵味方もない。むしろこちらに味方してくれているのだから司令長官に報告しなくても…いいか。

 

「はふぅ…」

 

シジミ汁が体に染み渡るような感覚…離れたところでは龍驤がぐったりとしながらシジミ汁を飲んでいた。

 

「玲司~…おかわり~…肝臓に染み渡るでぇ…」

 

「鹿島を寝かしつけた後、またカパカパ酒飲んでただろ。てーか、あの酒刈谷提督からもらったたっかいやつだったのに…」

 

「ええやん…どうせ玲司飲まへんやん…」

 

「だからって龍驤姉ちゃんのだけのもんじゃねえの!ったく、はい!」

 

「あっつ!オラ玲司!今わざと汁はねさせたな!!」

 

「知らねえ!」

 

「なーあー、そない怒らんといてぇやぁ…」

 

「知らん!」

 

「うっ…ひくっ…玲司ぃ…」

 

「嘘泣きは通じねえぞ」

 

「ちぃ…」

 

「その手で何年兄さんが騙されてると思ってるのねぇ?ねえ鹿島?」

 

「え、あ、はい。そうですね」

 

ゆっくりとシジミ汁を飲んでいるといつの間にか隣でシジミ汁を飲んでいる川内がいた。

 

「きゃああああああ!!!!」

 

「んあああああ!!!頭がぁ!鹿島の金切り声が頭にいいいい!!!!」

 

「いいぞ鹿島、もっとやれー」

 

そう、この川内にはいつも驚かされるのだ。毎度毎度、いつの間にか隣にいる。原初の艦娘「宵闇」川内。漣が不知火とのことで悩んでいた時も、海に落ちるかと思うくらい驚かされた。気配もなく側にいるのは勘弁してほしい。鹿島はドッキリやホラーが大の苦手だ。

 

「も、もう!川内さん!いつもいつもいきなり隣にいるのはやめてください!」

 

「あはははは!だって鹿島の反応、いつもおもしろいからさぁ」

 

「う、ううう…」

 

「ううううう…頭…頭が割れるぅ…」

 

「せんだーい。あんまり鹿島いじめるなよー、いつものことだけどさ…ってことでおやっさんから川内と龍驤姉ちゃん、お呼び出しがかかってるぜ」

 

「はい?」

 

「は?」

 

「川内は悪さをしていないか?って聞かれていろいろいたずらしてるって言ったら、一度連れて来なさいだってよ。龍驤姉ちゃんも絡み酒で翔鶴や大淀や間宮が迷惑してるって言ったら以下同文。明日おやっさんが年末だから顔でも出しに来なさいってことで会いに行くがてら、龍驤姉ちゃんと川内を連れていくってことにしたから」

 

「な、なん…やて…」

 

「なん…だと…」

 

「おやっさん、ずいぶんと怒ってたからな。たっぷり絞られてくれ。あ、鹿島。鹿島も香取に会いたいんじゃないか?一緒にどうだ?」

 

「えっ、いいんですか?」

 

「ああ。大淀も高雄に会いたいって言うし。行くのは龍驤姉ちゃん、川内。大淀だ。鹿島もどうだ?」

 

「い、行きます!」

 

「よっし、決まり。まあ、日帰りだけどな。一泊してもいいかな、と思ったけど雪風や皐月たちがふくれちまってなぁ…」

 

無理もない。しれえしれえといつも寄り添っていく雪風。抱き着きに行く皐月や文月。1日いないとなると不機嫌になるか寂しがるだろう。しかし、姉の香取に会えるのはありがたい。いろいろと言いたいこと聞きたいことが山ほどある。

 

これから自分はどうすればいいだろうか?横須賀で本当にやっていけるのか?一度姉に聞いてみたいものである。もはや完全に鹿島は自信喪失しているのだ。この常識はずれな鎮守府の艦娘の指南をやっていく自信がすっかり失われた。

 

 

「香取姉えええええええ、うわああああん!!!!」

 

翌日、大本営にやってきて「久しぶりね、鹿島」と香取が笑いかけるやいなや泣きながら香取に飛び込む鹿島。

 

「ど、どうしたと言うの?」

 

「あのね…あのね…横須賀の皆さんがね…」

 

いつもの清楚で落ち着いた雰囲気はどこへやら。子供のように姉である香取に横須賀の艦娘達の指導をしているつもりが指導になっていないと言う愚痴をこぼした。

 

大淀と戦略を立てる頭脳を鍛える戦略ゲームをやった。そう言う指導も鹿島たちの仕事の1つなのだが、大淀は1手や2手どころか10手先でさえ読んでいるのではないか?というような戦略ぶりで気が付くと大敗している。

 

「ああ、これは私が想定した最悪の展開ですね。ですから…ここをこうして…この駒を動かして…この敵を倒して…はい、次は鹿島さんのターンですね」

 

次のターンで「では、こちらでどうでしょうか?」と駒を動かすと「計算通りです!」とその駒をやられた。そこからはもうズルズルと全て計算通りに事が進んだらしく、勝ちを確信していたはずが大敗を喫していた、最初から最後まで大淀の掌の上で踊らされていた。こっちが最高の展開を予想していたら実は大敗する流れだった。

 

名取との実戦演習をやってみた。やってみた感じ平凡な戦いだった。しかし、北上や神通などと組むと存在が消える。名取さんはどこへ!?と探していたら背後から撃たれた。彼女はサポート役に回ることで輝くことがわかったのでサポートを徹底的に任せてみたらこれ以上ないくらいのサポートぶりだったこと。

 

得意分野の対潜指導を行おうとしたら五十鈴に全部先に見破られてしまったこと。

 

自由すぎて手に負えない響とすぐにその挑発に乗ってしまい、ケンカに発展する朝潮。巻き込まれる大潮や荒潮の話。ただ、走り込みのおかげかフィジカルや走行レベルの向上には貢献していること。けど面倒ごとを増やすのはやめてほしいと思う。

 

それからねそれからね…ととにかく出るわ出るわ横須賀の艦娘の事。私どうしたらいいのぉ?教えて香取姉!と言われたので、クスリと笑って鹿島の頭を撫でる香取。

 

「成長したわね、鹿島」

 

「ふぇえ…?」

 

「な、なんて顔をしているの…」

 

涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。よっぽどいろいろと提督にも誰にも相談できずに溜まっていたようだ。

 

「わたじ…成長じだ…?」

 

「ええ。今までのあなたなら、ここまでしっかりとあれこれと話を聞いたことはなかったもの。特定の誰かを褒めてばかりでこの方はこう。あの方はこう。しっかりとした指導方針を語ったことはなかったもの」

 

横須賀に着任する前までの鹿島は依怙贔屓が激しく、自分の目に留まった艦娘ばかりを指導し、その艦娘達は輝くが目にかけたなかった艦娘達の成長はそこそこまでしか伸びなかった。だが今は違う。しっかりと今聞いた話では全ての艦娘をしっかりと指導しているようである。

 

ただ、「牙の女王」朝潮、「茨の女王」神通。大和武蔵。いろいろと情報とわからないことが多すぎて鹿島でなくとも自分もパンクしそうであるな、とは思う。その他「旋律の女王」秋津洲が着任していたり、そのチカラを引き継いだ者がいることも予想外である。これが今大本営で話に持ち切り。恐怖の戦艦レ級を退けたという横須賀鎮守府の艦娘達か。

 

「よくわからない。どうすればわからないと言いながらも一生懸命指導に当たっているあなたは…もう半人前ではなく一人前と言ってもいいわね。けれど、それを他の所でも続けられなければ意味がないのよ」

 

「よその…ところ…?」

 

「何を言っているの?あなたは一時的に横須賀に着任しているだけでずっといるわけではないのよ?」

 

「あ…」

 

そうだった。確かに今はブランクのある提督とブラック鎮守府であったために練度が低いであろう艦娘達の指南をするために派遣されたのであった。あとはセクハラが大本営ではひどすぎることも問題であったがために一時的に派遣されただけなのだ。

 

「いつかは…私…」

 

「そうよ。ここに戻ってくる…ことは一時的にはあるでしょうけど、岩川基地に練習巡洋艦を行かせてほしいと刈谷提督から要望が来ているの。私は別の所へ行くこともあるからいけないのだけれど…横須賀の指導が終わったら岩川基地へ行くことになるわ、鹿島」

 

もうそこまで予定が決まっているのか。そうだ。私は大本営の練習巡洋艦であり、横須賀の鹿島ではない。そこをすっかり忘れていた。あそこは本当に居心地が良いのだ。本当に横須賀の艦娘になったかのようにいた。だが、私は…古井司令長官と三条提督の要望によって派遣されたに過ぎない。

 

「………」

 

「…本当に、すっかり横須賀になじんでいるのね。けれど、私達はそう言う感情は捨てた方がいいのよ。別れが…辛いですからね…」

 

………

 

「おい鹿島!今日の晩飯何だろうな!楽しみだよな!」

 

「ふふ、もう、女の子が飯なんて言い方ダメですよ」

 

………

 

「か、かかかか、鹿島さん…手、手を離さないでくださいね……は、榛名はだい、だい、だだだ大丈夫です…!」

 

「大丈夫じゃないんじゃ…」

 

………

 

「いえーい!鹿島せんせーの今日のぱんちゅはピンクぱんちゅー!!」

 

「漣さん!!!もう!!!あ、不知火さん…」

 

「ぬおおおおお…ギ、ギブギブギブ…ぬい…ギブゥ…コブラツイスト…キまってる…」

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!漣ちゃんがごめんなさいー!」

 

「う、潮さん…だ、大丈夫です…不知火さん…もうそこまでで…」

 

「不知火に落ち度でも?」

 

「いえ…そういうわけでは…」

 

………

 

そうだ、忘れていた。私は大本営に所属しているのであり、横須賀鎮守府に着任しているわけではない。いずれくる別れの時…永遠の別れではないが、横須賀のおいしい食事、騒がしいけれど楽しい毎日。きれいで大きなお風呂…みんなの…笑顔。別れなければならない時が来る。

 

練習航海で近海や遠洋に出た時も、提督さんがいつも「おかえり」と言ってくれる楽しみ。帰ってきたという安心感。うるさい龍驤さんの絡み酒。いつも驚かせてくる川内…それが…なくなってしまう…?そう考えると鹿島は涙が溢れてきた。

 

「…ぐすっ…ううっ!ひぐっ!」

 

「…横須賀鎮守府に愛着を持ち…自分の居場所を見つけた、というわけね…けれど鹿島。残酷だけれどいつも言っていたはずよ。他の場所の艦娘、鎮守府に愛着を持ってはいけないと。鹿島は優しい子だから無理だとも思っているけれど…別れがつらくなってしまうもの…」

 

「う、うぅ…やだぁ…」

 

「仕方のないことね…いずれは来る別れのために、今から準備しておくべきよ。年明けにはもしかしたら「やだ!鹿島帰らないもん!!!」」

 

「あなた、練習巡洋艦としての役目を放棄するつもり?」

 

「違うの!まだ…まだ横須賀の指導は終わってないもん!!まだ…!まだやることがいっぱいあるんだもん!」

 

「聞いている限りそろそろ鹿島の役目は終わりだと思うのだけれど…」

 

「まだ終わってないもん!!!響さんはまだまだ何しでかすかわからないですし武蔵さんは砲撃訓練をほったらかして拳でレ級を倒すとか言ってるのをどうにかしなきゃいけないし!神通さんはまた無茶し始めてるし!それを止めて直すのがまだ終わっていないもん!」

 

今まで行ったところは最悪の所が多かった。今晩どうかね、ケツを振って誘っているんだろう。いい尻と胸をしている。これは君を抱くまでは返さんからなぁ。

 

練習巡洋艦と言えどこの程度か。練度の向上の足しにもならん。それで練習巡洋艦などと笑わせる。

 

大本営では優遇されているのかもしれんがうちではそうはいかん。お前に食わせる飯はないぞ。

 

……

 

「ありがとうございました。貴女のおかげでずいぶんと練度が向上しましたが…偏りが生じてしまいました。そこは私で矯正致しましょう」

 

大湊でそう言われた時はカチンときた。この警備府もダメな提督か…。今思い返せば自分が最低なことをしていたというのに。それを気づかせてくれたのは…横須賀鎮守府であり、それでも仲良く接してくれた。

 

「かしまー。このあと間宮さんのアイスたべなーい?にひひ、玲司んところから拝借してきたの♪」

 

「い、いいんでしょうか…?」

 

「いいのいいのー。鹿島だって毎日真剣にあたしらのこと考えてくれてるわけだし。親睦を深めようってねー」

 

「はい!ぜひ!」

 

「ほー。そりゃいいことだなぁ北上ぃ」

 

「あー、ごめん鹿島。ここはあたしに任せて先にいきなー」

 

「えっ、提督さん!?えっ!?」

 

「誰が10枚も持って行っていいって言った!?」

 

「いいじゃん、持ってけ持ってけって枚数は言ってなかったっしょー」

 

「お前は一休さんのとんちやってんじゃねえよ!」

 

「うっさいなー。間宮さんのアイスくらいでケチケチしなさんなよー。離島でもないんだから商店街へ玲司が走れば材料買って来れるっしょ」

 

「それじゃ規律にならねえの!!!今回は鹿島とお前の分は渡すからあとは返しなさい!」

 

「やだ。今度もう名取と神通と食べる約束してるしー。くちくとももう食べるって言っちゃったしー」

 

「き、北上さん、周到すぎます…」

 

「く、くそぉ!!」

 

「ふふん♪このハイパー北上さんに玲司が勝てるとでも?」

 

「じゃあ今度俺が作る予定だった特製イチゴたっぷりのイチゴサンデーは北上はなしな」

 

「ええ!?そんな話聞いてないって~!わ、わかったってー、返すから~、ね、ね?」

 

「考えておく」

 

「そんなぁ~。鹿島も何とか言ってよ~。あたしのおやつがー!」

 

「て、提督さん…北上さんは鹿島たちのことを思ってその…悪いこととは思いますがこうしてアイスを食べて親睦を深めようと…」

 

「……その割にいつもなんか食ってない?」

 

「そ、そんなことはありませんよぉ!」

 

「そーだそーだー」

 

「この間は鹿島とクリームソーダ一緒に飲んでたよな?」

 

「「ギクッ」」

 

「その前は間宮の作ったワッフルにストロベリージャム乗せて食ってたよな?」

 

「「ギクギクッ」」

 

「もう親睦は十分深まってないか?」

 

「し、親睦に十分はないんだよ!」

 

「そ、そうですそうです!!!」

 

「……んー…わかったよ。そのアイス券はちゃんと言ったとおりに使うんだぞ」

 

「はーい」

 

そう言って立ち去った提督が見えなくなった後、さらに10枚のアイス券を見せてきて大笑いしたものだ。

 

………

 

「今日は夕立が髪を洗ってあげるっぽい!」

 

「ええ?ど、どうしたんですか?」

 

「はいはーい!じゃあ村雨が鹿島さんのお背中をお流ししまーす!

 

「村雨さんまで…」

 

「しんぼくを深めるためっぽい!」

 

「ねえ夕立、親睦を深めるって意味…わかってて言ってるよね?」

 

「わかんないっぽい!」

 

「ええ…と、とにかく村雨達と一緒ならおとなしく村雨達に洗われるのだー!」

 

「ぽいー!」

 

………

 

「悪いなぁ…クセの強い艦娘だらけの所で…」

 

「い、いえ…が、頑張ります!」

 

「そ、そうか…無理なら無理って言ってくれな」

 

「いえ!ここに着任したからには最後まで!しっかりと鍛錬を行ってまいります!」

 

「そうか。助かるよ。鹿島のおかげでみんな見違えるように勝つための戦い方ができるようになってきた。西方海域でだいぶその成果が見えた。ありがとう」

 

「そ、そんな…鹿島は当たり前のことをしているだけで…」

 

「それを継続してあのクセだらけの艦娘を変えてくれたことが嬉しいんだよ。ありがとう、鹿島。これからもよろしく頼むよ」

 

「はい!鹿島にお任せください!!」

 

………

 

居心地がよかった。かつてない居心地のよさだった。毎日が楽しかった。そりゃ、南方海域の戦闘の際や西方海域でかつて横須賀に所属していた加賀と戦うと言った時はじっと…大淀達のサポートを固唾をのんでやってきたものだ。

 

でもみんな無事に帰ってきたときは鹿島も提督に加わっておにぎりを作ったり、出撃した艦娘達がすぐ眠れるように寝床を整えたりした。ありがとうな!ありがとう、なのです!などなど笑顔で言われることが嬉しかった。

提督にも「サンキュ」と言われることも嬉しかった。ここの皆をどうしよう?愚痴を龍驤にも姉にもぶちまけてしまったが、それでもその熱意が冷めることはなかった。

 

だからこそ別れたくない。ここまで熱心に指導した艦娘達はいない。情が移るのは当たり前のことだ。だから…横須賀の艦娘でいたい。

 

「うぐっうううううう!!!!」

 

「鹿島…あなた…」

 

こんなこと…今までなかったのに。みんなの笑顔が脳裏に焼き付いて消えない。

 

「鹿島先生!ありがとうございました!!」

 

雪風の満面の笑顔。

 

「鹿島ー、ありがとねー」

 

北上がパンパンと肩を叩いて笑ってくれるのが好きだ。

 

「鹿島さん。感謝いたしますわ」

 

三隈の丁寧なお辞儀…素敵。見習いたいと思う。

 

「ふふん、きょ、今日はこれくらいにしておいて…あが…さしあげますわ」

 

熊野。足をプルプルさせて強がっている様は面白かった。

 

ああ…私もあそこの艦娘だったらよかったのに…そう思うと嗚咽が止まらない。あそこが好きだ。裏表もない。悪口もない。ケンカはあるけどギスギスしないケンカばかりで楽しいあそこが…。

 

ふう、と香取はため息をついた。

 

「鹿島。いつかは別れがあると言ったけれど…あなたの横須賀での任期はいつまで、とは決まっていないのよ。ほかのところからも鹿島の指名があるけれど、下心が見えすぎていると言うことで古井司令長官が許可を出していないの。それに、まだまだ増えるであろう横須賀の艦娘を徹底的に叩き上げてほしい、との依頼を頂いているの。だから…あなたの帰る場所は、まだあそこでいいのよ。岩川には私が行きますから」

 

「う、うわあああああああん!!!!香取姉ええええええ!!!!」

 

「まったくもう。あなたって言う子は…」

 

安心した。まだ私は横須賀の鹿島でいられる。別れは覚悟がいるだろう。けれど、まだ…まだ私はあそこの艦娘でいられるのなら…。それに越したことはない。安堵に鹿島は香取に抱き着き大泣きするのであった。

 

………

 

「じゃあ、鹿島はまだまだうちの艦娘でいいってことで?」

 

「うむ。榛名君や綾波君など、新しい艦娘に…まだまだ伸びしろのある艦娘がいるのだろう?ならば、鹿島君に任せておけば問題ない。助平な下心丸出しの輩のもとへ行かせて、1週間で帰ってきました、など話にもならん。鹿島君からの報告書は、ちゃんと読ませてもらっているよ」

 

執務室で久々にのんびりと会話をしている玲司とおやっさんこと古井司令長官。それはこちらも鹿島の話だった。鹿島をもっと居させておいてほしい。そっちに居させてほしい。すんなりとお互いの意見が合致し、話は終わった。

 

「いやぁ、今までの報告書とは違っていきいきとしている報告書だからね」

 

「鹿島のおかげで練度が大きく上がった。みんなの努力もあるけど、鹿島の指南がなかったら西方海域も南方海域も越えられなかったよ。だからもっと鹿島の指南が必要なんだ。榛名に綾波もそうだけど、古鷹や朝雲に山雲…潜水艦…いっぱい新しく着任した艦娘ばかりだからな」

 

「うん、うん。偉そうには言えんが、存分に活躍させてあげてくれ」

 

「あいよ。ありがとう、おやっさん」

 

「香取に半人前ってずっと言われていたあの子が化けたかぁ。横須賀に行くと化ける艦娘ばかりね。鹿島もそうね」

 

「そうかな?鹿島は自分の意識が変わっただけだよ」

 

「ま、そこはそっちの艦娘達の影響が大きいのかしらね?まだまだ横須賀の艦娘には楽しみにしているんだから、しっかりしてよねって鹿島に伝えておいて。あと、武蔵とはまた拳で語りましょうねって」

 

「陸奥姉ちゃん…姉ちゃんのせいで武蔵が殴る蹴る…武術の本ばっかり読んでるんだぞ…八極拳を覚えたいとか言い出してこっちも苦労してんだかんな」

 

「わっはっはっは!玲司のところは大変な艦娘ばかりだね!とてもおもしろいよ!」

 

「笑い事じゃねえっつーの!!」

 

こうして鹿島は帰還時期未定のほぼ横須賀着任に似た話が鹿島の知らないところで進んでいたのだった。

 

………

 

帰りの車中で鹿島がずーっと顔を隠していた。大泣きして目を真っ赤にし、腫らしているからだ。とても見せられる顔ではなかった。

 

「なー鹿島ー。どうしたんだよー」

 

「あの…何かあったのですか?」

 

「なんでもないれふ…ひぐっ…」

 

「泣いてるのを何でもないとは言えねえぞー」

 

「大淀はニマニマとご機嫌だし…鹿島はこんなだし…大丈夫かよ…あー鹿島ー」

 

「なんでふか」

 

「これからもうちの子らの面倒、しっかり頼むよ。お前も、うちの大事な家族だし、仲間だからな」

 

「ひぐっ…う、うえええええええん!!!!」

 

「はあ!?お、おい!なんで泣くんだよ!!」

 

「てーとく!また女の子を泣かして!バカ!朴念仁!クソ提督!!」

 

「大淀!お前な!!それよか鹿島を何とかしてくれーーー!!!」

 

車内は大騒ぎ。鹿島は嬉しかったのだ。自分を横須賀の家族と見てくれて。だから感極まって泣いてしまったのだが、それが大淀と提督のケンカに発展することになってしまったのだった。

 

………

 

「おう鹿島、おかえり!鹿島、姉ちゃんに会えてどうだったよ?」

 

「摩耶さん、ただいま帰りました。はい、久しぶりに姉とお話ができてよかったと思います」

 

「そっか!じゃあ、来年もビシビシ指導してくれよな!」

 

「摩耶ー、そう言うこというと鹿島のレッスンの質が半端じゃなくなるから勘弁して―」

 

「ゲッ、やっべ」

 

「うふふ、ビシビシいきますからね!」

 

「あたししーらない」

 

「北上ィ!裏切る気かよおい!?」

 

「摩耶はビシビシって言っただけだしね。あたしは関係ないもん」

 

「う、裏切者ぉ!!」

 

そう言っていると横須賀の皆がわいわいと集まってきた。皆「先生おかえりなさい」や「鹿島さん、おかえりなさい」というような言葉が飛んでくる。

 

鹿島は「ああ…ここが私の家なんですね…」と思うと嬉しくてたまらなかった。

 

「はい!鹿島、ただいま帰りました!!」

 

そう満面の笑顔で皆にそう返すのだった。




鹿島の帰る家は横須賀鎮守府。そんなお話でした。
しっかりと面倒を苦労が多いながらも見ている鹿島をみんなしっかりと評価しています。

優しくも厳しい鹿島のボヤき、そして思いはいかがだったでしょうか。

次回は大淀と親友「未来視」高雄がお部屋でいろいろと久しぶりなので語らうお話です。その次は龍驤と川内のお話と続きます。

次回もお待ちいただけましたら嬉しいです。

それでは、また。
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