提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第二百十話

鹿島が香取の下へ向かったのとおなじように、玲司と共に一緒にやってきた大淀。その手には中にパンパンに何かが詰まった紙袋。そう、玲司の秘書艦としてやってきたのは建前で、親友に会いに来たのだ。

 

廊下で立って待っていたのは黒髪にスタイルのいい佇まい…。

 

「高雄ちゃ…「大淀さん、お待ちしておりましたわ。私にご相談があると言うことでお伺いしております。さっそくですが、その打ち合わせと参りましょうか」

 

よそよそしかった。態度も言動も事務的で抑揚がない。ハッと大淀は気づいたが、同時にちょっと寂しかった。でも、ここは大本営。横須賀で最近はやっている「おいっすー☆」みたいなことをしては、誰が見ているかわからないのだ。特に艦娘嫌いが多いかもしれない中ではしゃぐのは、高雄にも迷惑がかかる。

 

現にすれ違う際に「ケッ、お高くとまりおって…艦娘の分際で」や「高雄や、今晩「憲兵に通報いたします」」など、嫌悪感を示したりセクハラも度を越した発言をする男が多い。その他にも舌打ちやじろじろと胸や尻、自分もスカートの横側から見える肌をなめまわすように見回してくる男などが多く、魔窟のようであった。

 

原初の艦娘「未来視」高雄。そのずば抜けた作戦の提案、遂行能力はどんな提督でも敵わない。艦娘からは羨望を。提督達人間からは嫉妬の目で見られている。おまけにこの無表情な事務的な態度。それとは別に抜群のスタイル。鹿島もそうであるが、艦娘は美人で有り、スタイルが良いために大淀もそうであるし、翔鶴もそうだったように性の対象に見られてしまうことが多いのだ。

 

以前に会話した高雄の姉の陸奥も同じような目で見られている。かつては尻を鷲掴みにしてきた男の大切なものを潰してしまった(不可抗力)こともあるくらい、ここの老人は女に飢えているらしい。もっとも、人間の女性からも艦娘からも毛嫌いされているため、さらには司令長官やセクハラが多いことから憲兵の目が光っているため、最近は悶々としていることが多いようだ。

 

………

 

それはさておき、高雄はそう言った声や視線はことごとく無視し、鍵を取り出し、どうぞ、と部屋に案内をする。夥しい書類の山。無機質なデスクトップのパソコン。おおよそ女性の部屋とは思えない部屋の書類の棚のおかげで隠れたドアを開ける。するとどうだ。かわいらしいピンクのカーテンやチェックのシーツなどなどかわいらしい部屋が現れる。

 

失礼いたします…とその中へ入り、高雄は誰も見ていないことを悟るとドアを閉めて急にガバッと大淀を抱きしめたのだ。

 

「ひゃっ!」

 

「大淀ちゃん!ごめんなさい!冷たくしてしまって…会いたかった…会いたかった!」

 

「高雄ちゃん、私も会いたかった…よ!」

 

お互いにギューッと抱きしめ合う。親友。特に高雄にとっては姉妹よりも心を開いたのではないかというくらいの唯一無二の親友だ。大本営に大淀が来ると父から聞かされた時は小躍りしたいくらいに舞い上がった。それを陸奥に見られ「あらあら」とニヤニヤした表情で見られたが。

 

「お久しぶりですね、大淀ちゃん」

 

「はい。お久しぶり、高雄ちゃん」

 

2人で見つめ合い、ふふふと笑いあう2人。さあどうぞ、と奥へ案内される。そしてやっぱりどこで調達しているのかわからないかわいいティーセットを取り出し、すぐさまお茶を淹れ始める。

 

「今日は大淀ちゃんが来ると聞いたから、お父様にお願いして銀座の有名なケーキ屋さんのケーキを取ってもらったの。お口に合えば良いのだけれど…」

 

そうして淹れた紅茶は素晴らしい香りがする。シロルの特級茶を手に入れたのだと言う。最近は大淀ちゃんが来ることを考えていろいろと物を仕入れているらしい。

 

そこまでしてくれるのはとても嬉しかった。だからこそ、大淀も松子に無理を言っていろいろと取りそろえたのだが、それはこの親友が淹れてくれたおいしいお茶と、用意してくれたケーキを堪能してからにしようと思った。

 

「…おいしい!甘さが控えめで紅茶の苦みが甘さと合ってる…」

 

「ふふ、よかった。ここのケーキにはこの紅茶が一番合うの。陸奥姉さんもお気に入りなの。大淀ちゃんに気に入ってもらえてよかったわ」

 

この時は作戦の話とかそういうことは話はしない。横須賀のみんなのことを大淀が語り、それを聞いた高雄がクスクス笑う。時にふふふ!と大きく声を出して笑える話などを大淀が語るのだ。

 

横須賀は笑い話が絶えない。お菓子の袋をチカラづくで開けようとして破裂させて一面にばらまき、皐月や文月から大ブーイングを食らった摩耶の話や私も高雄姉さんのようなスタイルの良い身体になればなぁ…と独り言を言ったら「ワレけんか売っとんのか!?」といきなり龍驤に怒られてわけがわからず正座で「貧乳はチャームポイントだ、ステータスだ」と1時間説教された鳥海の話。

 

その他にも笑い話はたくさんある。誤って水風呂に入ってしまって悲鳴をあげてしまった自身の話など。どれを聞いても高雄は笑う。

 

「本当に楽しそう。と、言うか龍驤姉さんは鳥海ちゃんになにを吹き込んでいるのやら…」

 

「提督が一度お説教をしてもらうために今日一緒に来ているわ。川内さんも一緒に」

 

「…川内ちゃんはいたずらかしらね…本当に困った姉妹でごめんなさい。島風ちゃんはワガママは言ってない?」

 

「ええ。お兄ちゃんお兄ちゃんと提督にいつも夕立ちゃんとつきまとって困らせているのはあるけれど、戦闘もちゃんとしているし、迷惑なことはしていないわ」

 

「そう。ふふ、お兄ちゃんっ子だからそこはしょうがないわね。でもよかったわ。島風ちゃん、ここにいた時は本当にさっきのようないやらしい男に詰め寄られてイライラして…ここでよく私に抱きついて泣いていたりしたし、お兄ちゃん…玲司さんに会いたいと言っていたから…」

 

「島風ちゃんも大変だったのね…」

 

「ええ。あの子は駆逐艦って言うだけで低く見られていたから…でも能力だけは高く買われていたし…その、ああいう小さい子を好む気持ちの悪い男も多かったから…」

 

そう聞いてブルルッと気持ち悪さに身震いがした。それは安久野の部下も同じだったか。駆逐艦にしか欲情しない男もいたな。ああ、本当、人間って…。

 

「あまりこういう暗い話はやめましょうか。ケーキ、お口に合ったかしら…」

 

「ええ。とてもおいしかった。高雄ちゃんの紅茶もとてもおいしいし」

 

「うふふ、よかったわ」

 

美人な顔がほにゃりとした笑顔に変わる。これだ。これが鼻血が出るくらいかわいいのだ。高雄の隠された魅力の1つ。姉妹でさえ知らない笑顔。鳥海もたまに似たようなほにゃりとした笑顔をたい焼きを食べていたリするときに見せるが、そこは姉妹の血は争えないなぁと思った。摩耶はにひひ、といつもいたずらっ子っぽい笑顔を浮かべるが、真剣な顔の時の横顔なんかは、やはり姉に似ていると思う時もある。

 

「ごちそうさまでした。それじゃあ、今度は私の番だね」

 

「…?そういえばその紙袋…さっきから気になっていたのだけれど…」

 

「ふふふ、いつも素敵なティーセットやお菓子をごちそうしてくれるお礼だよ。じゃーんっ」

 

そう言って先ほどのいやらしい男たちにも中身を見せないよう死守した紙袋の中身…それは濃紺やパステルピンク、グリーンなど色とりどりの下着だった。

 

………

 

商店街に買い物に赴いた際、今度いつか大本営で高雄ちゃんに会える時にまた渡そうと思って松子に頼み込んで買ったもの。いや、写真を見せると

 

「ああああああああ!!!!!またこんなすんんんんんんんんばらすぃいいいいいいいいレディにあたしの下着を着てもらえるなんざ本望だ!!!死んでもいい!!!!金をもらうわけにゃいかねえ!!!!艦娘だろ!?艦娘だろ!?なあ!?」

 

さらに摩耶や鳥海の姉だと伝えるとそのテンションは臨界点を突破。なぜかこの松子は摩耶と鳥海を見ると異様に興奮してド派手な下着やら最新流行を取り入れた服などを着てくれ!などとお気に入りの様子だった。高雄も同じくこうなってしまったわけで、写真だけでバストサイズなど体型やスリーサイズを全て把握。どっさりと下着しか用意できなくてすまねえ!とどう言うわけか下着だけを渡されたのだった。服はこれから作るのだ!作らせて頂きます!と敬礼をしてうひひひひひひ…とアトリエから変な笑い声が漏れてきていた。高雄の服作りに勤しむらしかった。

 

そうして持ってきた下着であるが、合うかどうかはわからない。しかし、これは…

 

「わっ、かわいい下着!私の好きな色だし…大淀ちゃん、ありがとう!」

 

前回は高雄に合うだろう持って行った下着だが、パステルグリーンやパステルブルー、ターコイズグリーンなどを持って行ったのだが、部屋がピンクやパステルピンクでいっぱいだったので今回は高雄ちゃんはピンクが好きなんだろうと思ってピンク系の下着を持ってきたのだ。

高雄は目を輝かせて下着を見ていた。

 

「私、ピンクやこういう明るい色って好きなの!うわぁ、かわいいなぁ…でもサイズが合うかしら…ちょっと着替えてみるね」

 

「えっ!?」

 

大淀が止める前にすぐさま高雄は以前と同じく、またその場で服を脱ぎ出した。

 

うわっ、またですか!?あの…いくら女の子同士とはいえ、すぐ人前で脱ぐのはどうかと…わあ…やっぱり肌白い…うわぁ…すごいスタイルいいなぁ…でもわぁ…お腹は引き締まってて…お尻もきれいってちょちょちょちょ!?うわー!うわー!私が見ているのに!またすっぽんぽんで!

 

「た、たかおちゃん!わ、わわ、私がいるんですよー!?」

 

「え?別に大淀ちゃんだし気にすることはないと思うけど?」

 

「え、えええ…」

 

人前ですっぽんぽんになるなんて島風ちゃんとか響ちゃんのような駆逐艦の子じゃないんだから〜…と思っても高雄は鼻歌を歌いながら下着をつけていく。高雄のバストは豊満であった。そっと自分の胸に手を当ててみるが…比べ物にならない。お尻だって…うう、これが格差社会でしょうか…摩耶さんや鳥海さんも…スタイルいいしなぁ…と自分と比べても仕方がないのだが。これが…これが高雄型か…そう思うしかない。

 

そうこうしているうちに白とパステルピンクの合わさったかわいらしい下着姿になった高雄。

 

「えへへ、どう、かな?」

 

「かわいいれふ」

 

かわいすぎて鼻血が出そうになるのをこらえると変な声になった。高雄は気にせずによかったぁ。と安堵していた。するとまた次はこっちを着てみるねとまた脱ぎだしては次々と着替えていく。そのたびに大淀は毎回うわー!うわー!と思いながら高雄の着替えを目の前で見るしかなかった。しかし、さすがは松子さんだな、と思う。どうして写真だけで高雄ちゃんのスタイルいつも把握するのか…長年の勘?おそろしい能力だ…。

 

「ふふふ。こんなにかわいい下着をたくさんありがとう♪大事に着るわ♪」

 

「よかった、気に入ってもらえて。今、高雄ちゃんに会う素敵な服を作ってくれている人がいるの。今度はそれを持ってくるね」

 

「うん!楽しみにしているわ!ところで…」

 

「ところで?」

 

「私だけ…下着姿っていうのは…実は恥ずかしいんだ…とっても…だから…その…大淀ちゃんは今…どんな下着を付けているのかなぁ…って」

 

「ほわっと!?」

 

「大淀ちゃんの下着も…見てみたいな」

 

「あわ、あわわわわ」

 

突然のことだった。いやいや、そんな寂しげな子犬のような目で見られても…ああああ…ちょっと目がうるうるしてる…かわいすぎませんか…?うう。ううう…。

 

「わ、わかりました!この大淀!脱ぎます!」

 

目をぐるぐるさせながらバッと服を脱ぐ。薄紫のブラ。あああああ、下がスカートの隙間から見えにくいようにって紐の下着だったああああああ!!!ああああああ!!!あれ?高雄ちゃんもさっき紐パンだったよね?えっと…えっと…ああ…もうわからない。

 

「大淀ちゃん…きれいだなぁ…」

 

「しゅわっと!?」

 

「線が細くて…うわぁ…シュッとしててきれいなスタイルだなぁ…」

 

「ひゃっ!?」

 

「腰、細い…いいなぁ…私の腰もここまできれいだったらなぁ…」

 

「た、高雄ちゃんもじゅうぶん細くてきれいだと思いますよ!思いますよ!?ひゃううう!?」

 

「大淀ちゃん…」

 

「あ、あわわわわわ…!」

 

いけません!いけません!これ以上はR-18のタグをつけなきゃいけない展開になってしまいますよ!潤んだ瞳、ちょっと濡れた唇、あ、あわわ、唇が近づいてええええええ!?

 

「高雄ー?いるー?あっ」

 

「あ」

 

「あっ」

 

非常に危険な状態を打破したのはガチャリとドアを開けて入ってきた…陸奥であった

 

「き…」

 

「あら…あらあら…?ま・た・お楽しみ中だったかしら?お邪魔だったみたいね」

 

「きゃあああああああ!!!!」

 

「あら、我に返った?お楽しみをしようってわけじゃなかった?」

 

「む、陸奥お姉ちゃん!!!ノックはいつもしてって言ってるでしょう!?」

 

「あーごめんなさーい。姉妹なんだから気にしなくていいでしょー、もう。今から火遊びするんだったら鍵くらいかけなさいよ。だからこうなるのよ」

 

「ひ、火遊び!?え、エッチなのはいけないと思います!バカめ!と言って差し上げますわ!!??」

 

「女の子が2人で下着姿。高雄は大淀の腰と胸に手を添えて今にもキスしようって感じだったけど?」

 

「ふ、不潔よ!その発想が不潔!!」

 

「いや、だからー…」

 

いや、わたしもそう思います…とは口が裂けても言えなかった。本当にキスされるのではないかと今でも心臓が早鐘を打っている。

 

「まあ、口を開けば大淀ちゃん大淀ちゃんって大淀の話しかしないから、まさかと思ったけど…私は…そういう恋愛もあるのねとしか」

 

「もう!もう!黙っててよお姉ちゃん!!!」

 

新たな発見。慌てた時の高雄ちゃんはこんなにも子供っぽくなるのか。いつもなら何を言っているの陸奥姉さんと言って冷静にサラッとかわしていたのだが、今は何だか島風ちゃんのようである。

 

「ふふふ、あ、そうそう。ここに来たのは大淀と高雄を呼びに来たのよ」

 

「わかった!すぐ行くから!」

 

「あ、あのぉ…」

 

「あら、なぁに?大淀はやっぱり物足りなかった?最後までやっちゃいたいならお父さんに時間をもらうよう言うけど?」

 

「お姉ちゃん!!!」

 

「あ、た、高雄ちゃん落ち着いて…あの、私…陸奥さんにも下着を持ってきたんです。以前、陸奥さんもほしいなと仰っておられたので…」

 

「まあほんと!?でも、サイズとか大丈夫なのかしら。わっ、こんなにたくさん!しかもおしゃれだわ!」

 

「ふんだ、サイズが合わなくてパンツのおしりの部分が裂けちゃえばいいんだ」

 

「はあ…怒りんぼモードになった高雄もかわいいでしょ?ふふふ♪さーて、試着試着っと」

 

これまた松子に写真だけ見せただけなのだが、なぜかこのサイズが合う。素晴らしい。こんな美人。きっとおしゃれに気遣うレディに違いない。ちょっと際どいのもあるけどこれらが最高だ。そう言って渡されたものだった。

 

実際、陸奥はいいじゃない!私のセンスを知っている人が用意してくれたみたいね!と上機嫌だった。そしてスポポポーンと服を脱ぎ、下着をつけていく。高雄ちゃんもそうだが…この姉妹は羞恥心と言うものがないのだろうか?

 

「ごめんなさい…陸奥姉さん、玲司さんの前でも全裸になるような人だから…」

 

いやいや、私の前で全裸になる高雄ちゃんもなかなか…またグッとその言葉を飲みこんだ。島風ちゃんもすっぽんぽんでおにいちゃーん!髪の毛乾かしてー!と執務室に飛んでくるくらいだし…龍驤さんも割と無防備だし…この姉妹、本当に…裸族?と呼ばれるものだろうか。あの妹(島風)にしてこの姉(陸奥・高雄)ありと言うことか。そう考えるとまだ恥じらいがある龍驤さんは…まだマシなのだろうか?

 

「ぴったりだわ。それもこんなおしゃれなやつ!もう下着を調達するにしてもあれこれ理由をつけてうるさいおっさんたちがいてさぁ。派手なのは国民に失礼だとかうるさくって。艦娘だからってガチガチに決めつけないでほしいわね」

 

横須賀ではこれなんかどうかなぁ?という最上さんや北上さんの下着の質問を「おー。お前らしくて似合ってるぞ」と平気で言っちゃうし、デザインについても割と派手目でも文句は言わない。好きなのを着てつけりゃいいぞーと拘束はない。

 

大本営はプライドだけは高い元自衛官。規律を重んじると言うが自分に甘く他人に厳しい性格の人間だらけなので…やっぱり陸奥さん達は苦労しているのだなぁ…と思う。

 

「ん!こうしていると時間がかかるし、とりあえず今回はこれくらいにしておきましょうか。さ、お父さんや玲司君がお待ちかねよ」

 

「私達をですか?」

 

「そうよ。大淀と高雄に戦略ゲームをさせたらどうなるか、ってお父さんが言い出してね。『未来視』vs『横須賀きっての天才軍師』の勝負が見て見たいだって」

 

天才軍師などと名乗るのはおこがましいのであるが…ああ、鳥海さんや霧島さんにもっと自信を持てと言われたっけ…ふむ、高雄ちゃんにどこまで近づけたか…やってみる価値はあるかも!なんだか秋津洲さんみたいですね。

 

「大淀ちゃんと勝負…ですか。ちょっとやってみたいかもしれません。大淀ちゃん、いいかしら?」

 

「ええ。私もいずれは高雄ちゃんと肩を並べて作戦を練りたい。そのためにどこまで近づけたかを試したみたいです」

 

「決まりね。じゃあ、ついてきてちょうだい」

 

………

 

司令長官室には古井司令長官が娘と言う「原初の艦娘」が勢ぞろいであった。

 

「大淀がやる気になるとはなー。い、いえ、わ、私は高雄ちゃんとそんな…って言うかと思ったんやけどなー」

 

「いや、まあだいぶ大淀は自信がついてきてたからなぁ。やりたいって言うんじゃないかと俺は思ってたよ」

 

「ま、見せてもらおか。うちの大淀は強いでー!」

 

いきなり龍驤さんと提督の期待が振り切ってるような気がしますが…。

 

「おうっ…これ高雄お姉ちゃんとやってもだーれも勝てないゲームじゃない?大淀大丈夫なの?」

 

「わかりませんが…司令長官もご覧になられたいと仰るのであれば…」

 

「ははは。玲司がうちの大淀は高雄にも負けんと何度も言うものでねぇ…ちょっと興味を持ってね」

 

提督…とじろりとした目で見つめました。提督はわりぃ…と苦笑いしながら手でごめん、とジェスチャーをしてきました。陸奥さんに息もばっちり合ってるのねぇと笑われてしまいました。

 

さて。盤面は2つのお城。つまり自陣と敵陣。ルールは簡単。歩兵や騎馬兵などを用いて敵の城を落とせば勝ち。シンプルながらも山や川などがあり、橋を作ったりすることも可能。ターン性で代わる代わるそれぞれが行動を決定。それぞれ移動も1ターン。攻撃や橋を作る作業もターン性であり、本当に頭を使うゲームである。

 

ちなみに、このゲームで高雄に勝てた者は姉妹では誰もいない。利根が「なんとなく」でいいところまで追い詰めたケースもあったが、結局最後は高雄に全て盤石をひっくり返され、大敗を喫して大泣きしたこともある。つまり、高雄の独壇場ゲームである。

 

「大淀ちゃん、申し訳ないけれど全力でやらせてもらうわね」

 

「はい。手加減は無用で。私も負けませんから!」

 

「まあ、大淀さんは勝てる見込みがあるのかしら?」

 

赤城さんがそう言いますが正直見込みなんてありません。相手は「未来視」…最強の軍師なのですから。

 

先攻後攻…どちらにするかと聞かれ、私はあえて後攻を選びました。ふむ…という高雄ちゃんとおおっ、という龍驤さん。

 

(なるほど、まず高雄の動きを見てどない動こうか考えるっちゅうことかい。慎重派な大淀の考えそうなこっちゃ。高雄も一緒や。せやから先攻にされてえらい悩んどるで)

 

高雄ちゃんが動きが鈍いです。まずは…歩兵を川の手前へ持ってきました。おそらく、既存の橋を使わず、別の橋を作って既存の橋と2面で攻める気でしょう。その場合考えられるのは…。私は山の上へ騎馬兵を動かしました。

 

「むっ!?」

 

………

 

古井司令長官は誰もがやったことのない大淀の動きに思わず声が出た。まずは誰もが橋を作るであろう高雄の歩兵の前に歩兵軍を起き、橋を作った瞬間に歩兵軍を叩くのがセオリーではないのか?そう思う。しかし、大淀は低い山の山頂に騎馬兵を動かし、ターンエンド。高雄はそのまま橋を作るかと思ったがしばし考え込んだ。まさか…あの高雄が考えている?

 

普段の高雄ならば「そうきましたか。ではこうですね」とスイスイと駒を進め、自分でさえ待った…と長考するくらいであるが。

 

「では…これで」

 

「橋は…作らんのかいな?」

 

「騎馬兵は戦闘で勝利した場合、もう1ターン動ける権利があります。移動範囲も広く、その山頂からですと橋の建築後の動きも、既存の橋を動いてからのマスにも如何様にも動けます。下手に橋を作れば攻め込まれて歩兵軍は壊滅、その後、他の軍も攻められます。むむむ…大淀ちゃんは手ごわいですね…」

 

そう言うと既存の橋の方に騎馬兵を置く。そうすると「やっぱりそうきましたか…」とボソッと大淀は言う。

 

(た、高雄の動きを読んだやて!?)

 

誰も読めない高雄の戦略をそう来たかと呼んだ大淀に龍驤は驚きを隠せないでいた。龍驤も同じくこのゲームをやったときは「ほ、ほなこれならどないや!」と言うと「予想通りです」と返されてゲームをひっくり返したことがある。

 

「……やるしかありませんね」

 

橋を作る高雄。これにてターンエンド。これでは絶好のチャンスを大淀に与えただけに過ぎない。

 

「むむむ…」

 

今度は大淀が考え込みだした。一体どうしたと言うのだ。橋を作ったのだからその歩兵を蹴散らせばよいのではないか?誰もがそう思った。

 

「その騎馬兵は最終防衛ラインだ。そのラインを越えさせないための威嚇の騎馬兵であって、もう動かせないよ」

 

「おう?お兄ちゃん大淀の手がわかるの?」

 

「1年大淀と作戦練ってんだぞ。まあ、最近追いつけてない時もあるけどな。大淀の次の作戦は…」

 

「もう!提督は黙っていてください!」

 

「あ、はい…」

 

提督ならば次の手がわかっていると信じていた。でもその手の内を明かされてしまうと高雄に有利に進んでしまうため、きつい言葉で閉口させた。しかし、さすがは高雄ちゃん…と思わざるをえない。大淀が優勢であると龍驤も思っているが間違いであり、一歩間違えれば一気に攻め込まれて終わりの劣勢なのだ。紙一重の攻防を繰り広げる大淀。

 

一方の高雄も紙一重である。「常に最悪の方向で考えよ」と大淀に教えたのは自分であるが、こうも自分も最悪の状態から動けないでいると言うのは初めてである。さあ、どうするの…大淀ちゃん…と大淀をにらみつけるように見る。あごに手をあて、考え込む大淀。

 

「……次は、こうですね」

 

「な、なんやてー!?」

 

「むう?一体どうなっているのかね?」

 

何と大淀は玲司が最終防衛ラインと言った山頂の騎馬兵を自分の城の前に持ってきたのだ。自ら絶好のチャンスを潰した!?誰もがそう思った。玲司以外は。

 

「おそらく次のパターンとしては歩兵を騎馬兵に持ってくるでしょう。歩兵は斃れますが、次の歩兵に攻め込まれれば騎馬兵は終わりです。この騎馬兵は要なのです。そう簡単につぶされては困ります。しかし、こちらは守りでガチガチにしました。攻めるにも…相応の犠牲は払ってもらいますよ、高雄ちゃん」

 

「むー…」

 

頬を膨らませ、思い通りにいかないことに少し苛立ちを見せる高雄。そう、高雄は今までほぼすべてのことが自分の思い通りに動いたため、予測不能な場面に遭遇した場合、その冷静さが若干崩れる。高雄の悪いところがこれである。

 

一方で大淀は以前の提督の時の何もできないときの辛さを考えれば、今の思い通りにいくことのほうが怖いと感じているため、もはや多少の事では動じない胆力を手に入れた。「心は炎のように熱く。頭は氷のように冷静に」…これを作戦時は一貫して崩さない。表情一つ。眉一つ動かさない大淀に高雄は次に大淀がどのような手を出してくるのかがまるで読めない。

 

姉妹も父も…必ず自分の手で渋い顔。これはまずいと言う顔をし、こちらは余裕の表情でいられるのだが…今回は逆である。しかし、大淀も必死である。次の手を繰り出されると今度は大淀が唸り、汗を一筋垂らした。暑い…。頭を全力で使っているためか…運動しているかのように暑い。

 

それは周りも同じで「ねえ、なんか暑くない?」と島風が言って暖房の温度を下げるくらいであった。

 

………

 

結局2時間近く一進一退の膠着状態であったが、時間切れ。玲司達が横須賀に帰らないといけない時間になってしまった。勝負はつかず、今回は引き分け。なんと、高雄とこのゲームで引き分けになる初めての事態となってしまった。

 

「ぷう!こんなに息の詰まるのを見るのはレ級が来たとき以来だぜ!」

 

「まさか、あの高雄に引き分けで終わるとはねぇ…」

 

「いいえ、このままいけばじりじり私が負けていたでしょう。おそらく、20手くらい先で」

 

「は、はいいい!?」

 

「ですが、良い経験になりました。まだまだ精進が足りません。高雄ちゃんに並ぶにはまだまだですね」

 

「いいえ。私も良い経験と…反省点が見つかったわ。ありがとう大淀ちゃん。今度は…最後まで」

 

「ええ。ゆっくりと」

 

「待ち待ち待ち。あんなんゆっくりされたらこっちの胃に穴が空くわ」

 

「お姉ちゃん!こんなおもしろいの見なきゃ損だよ!」

 

「ふふふ、そうですね。ああ、でも私…見ていて緊張からかお腹が空きました…」

 

「晩ご飯には早いなぁ。我慢なさい」

 

「お、父さん…そ、そんな…」

 

「赤城は相変わらずやな」

 

勝負の行方はわからなかったが、大淀も高雄もお互いに得られるものが多かったらしい。玲司は大淀が成長したのならよかったと満足げであった。

 

………

 

「ばいばーい!おとーさん!またくるからねー!」

 

「川内、龍驤…あんまり玲司君に迷惑をかけないのよ?かけたら…ふふ…」

 

「ね、姉さんやめてよ…こ、殺される…」

 

「も、もうせえへんから堪忍してえな…」

 

「し、島風…近くにいるのだからだな…声を抑えてくれると嬉しいかな…耳が…オホン…いいかい、玲司。大淀君には話してもいいが、横須賀の他の子達には内緒にしておいてくれ。まあ…わからないとも思うがね」

 

「ええ。そうしますし…鳥海たちにも悪いけどこれは秘密ですね」

 

「そうしてくれたまえ。では、玲司の帰りを待つ子達に悪いのでここまでにしようか。玲司、龍驤、川内、島風、良いお年を」

 

「ほいほい。しっかし、また難儀な話やなぁ」

 

「またね。ま、あたしも詳しくはわかってないからなーんも言えないかな」

 

「おうっ!お姉ちゃんもまたねー!」

 

「大淀ちゃん…またね…その…今日のあのことは…絶対秘密ね…」

 

「え、なになに!?高雄姉さんの秘密をゲットしたの!?」

 

「大淀!世紀の大発見や!うちにも教えて「龍驤姉さん?龍驤姉さんの3段目のタンスの奥には…」

 

「あああああああ!!!!それはやめてくれえええええ!!!」

 

「龍驤姉さん!?」

 

「川内ちゃんは玲司君が小さいころ一緒にねるって言って…だきついて…」

 

「わああああああ!!!」

 

「せーんーだーいー?高雄、ちょっとその話詳しく」

 

「やめて!やめて!!!」

 

「あははははは!!!!みんな高雄さんには勝てねえなぁ!んじゃ、おやっさん、また来年の会議でなー!」

 

「ああ。また厄介ごとを押し付けることのないよう気を付けるよ」

 

「そうしてくれると嬉しいな。んじゃ、また!」

 

軽く手を振って車を発進させる玲司。また早く帰らないと夕立や雪風がぶーぶーうるさいし。最近響まで膨れたりするから厄介だ。まあ、そこがかわいらしいのだが。

 

「提督、その…私だけにお話と言うのは…」

 

「ここで言ってもいいんだけどな。まあ、ゆっくり明日にでも話をしよう。今日は疲れたろうからな」

 

一体何があったのだろうか?しかも、鳥海や霧島にも話ができない大きな秘密の話…。嫌な予感がするが…それは今考えても仕方がない。

 

高雄と話ができたこと。そしてあのゲームを通して見えた課題。もっと。もっと頑張らなければ高雄に追いつけない。まだまだ背中は遠かった。

 

「提督」

 

「ん?」

 

「私、もっと軍師としてがんばります。高雄ちゃんに…もっと追いつかなきゃいけません!」

 

「そうかー。いろいろと課題は山積みだな。まあ、今後もややこしい作戦はくるだろ。そこでもっと知識や戦略を磨いていこうな」

 

「はい!!!」

 

横須賀の軍師、大淀の高雄への挑戦はまだまだ始まったばかりであり、終わりはないのであった。




大変遅くなりました。

仕事が忙しかったり、ショートランド編を書いて燃え尽き症候群だったりで筆が遅々として進まず、2ヶ月も間が空いてしまいました。申し訳ございません。

大淀と高雄のお話はいかがだったでしょうか。ちょっと過激なシーンもちらほら…(笑)

大淀は着実に高尾に近づいていますが、まだまだ、と高みを目指して頑張ります。そっちの関係になるかどうかは…謎です(笑)

さて次回は龍驤たち、叱られる。のお話ですね。それから今回の最後で大淀にだけ話そうとしていることの真相を書いていこうと思います。少し真面目な話になりそうですね。

なるべく早く投稿しますが、以前のようなペースではいかなくなってきました。気長にお待ちいただけますと嬉しいです。

それでは、また。
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