提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

211 / 291
玲司たちが赴いた大本営編最後です


第二百十一話

「まったく、龍驤はその酒癖の悪さを何とかしなさい。そして川内はまた島風を泣かしたり他の艦娘に迷惑を掛けないように!以上だ!」

 

「はーい…」

 

「堪忍や…」

 

島風を膝に乗せながら龍驤と川内に説教をし終えた古井司令長官がオホンと咳ばらいをする。シュンとする川内と龍驤。

 

まあ、鹿島に対するいたずらや島風のおかずを横取りしたり、ほかの艦娘への数々のいたずら。龍驤は刈谷提督から玲司宛に送られた高い焼酎を飲みほしてしまったりと目に余る行為が多かったため、時々父である司令長官に電話をしている島風や明石から話がいき、今回の説教に至ったわけである。

 

島風は司令長官室に入るなり父に抱き着き「ん?お父さんタバコ臭くなくなった?」と聞いた。「禁煙したんだよ」と言うと「島風あの匂い嫌いだったからうれしい!にひひ♪」と笑うと「では禁煙は続行だねぇ…」と苦笑いした。

 

島風は笑顔が増え、何だかイライラしているような雰囲気はすっかり消え、説教が終わるや否やマシンガンのように父に横須賀でのことをいろいろと話す。みんな優しい、私の事を嫌な目で見たりしないし、かけっこもちゃんとやってくれる。最近夕立が自分に追いつきそうで怖い。って言うか顔が怖いんだよなど、とにかく喋る喋る。

 

古井司令長官は島風を横須賀に行かせてよかったと安心した。うるさい年寄り連中(もっとも人のことは言えないが)が好き放題権力を使ってうんたらかんたらとやかましかった。元はと言えば貴様らのせいで島風が精神的に追い詰められていたんだろうと怒鳴りたかったが…それをグッとこらえ、「原初の艦娘」をどのように動かすか、使うかの権限を放棄したのは君らであり、私と虎瀬に一存させたのではないのかね?の言葉で黙らせた。

 

「うんうん。そうか。楽しくやっているのなら何よりだ。島風はいい子だからね。皆に迷惑を掛けるようなことはしていないね」

 

「ああ。島風はいい子ですよ。駆逐艦の皆と仲良くやっていますし、みんなの霰や雪風たちと同じく、商店街でもマスコットのような存在ですね」

 

「そうかそうか。それはよかった。龍驤達も島風を見習うように」

 

「ううう…何も言われへんわ…」

 

「明石に注意されてたのをヘラヘラかわしてたらこれとは…とほほ…」

 

「や、当たり前のことだから。陸奥姉ちゃんが今ここにいなくてよかったな。龍驤姉ちゃん、頭つぶれてたんじゃね?」

 

「う、うちのかわいらしい頭をあの鬼はトマトを握りつぶすかのようにやな…あがががががが!!!!!む、陸奥姉やん!?い、いつの間に…あ、あがああああ!!!割れる!!頭蓋骨がわーれーるー!!!!」

 

「ぎゃあああ!!!!!なんであたしまでえええええ?!!?!?!」

 

「お説教だけで反省しないのがあんた達でしょう?そこに隠れて話を聞いてたのよ。高雄を呼んでこなきゃいけないし、私忙しいんだからね?」

 

「ぴー!ぴー!!ほなはよ行ったらええやんかー!あ、頭が逝く!逝ってまううう!!」

 

「……」ピクピク

 

「陸奥…そこまでにしておきなさい。さて…島風は食堂に行ってきなさい。赤城がアイスを食べさせてくれるよ」

 

「アイス!食べる!!」

 

「川内も行ってきなさい。陸奥、高雄と大淀君を呼んできてくれたまえ。雑談をしてからでも構わないからね」

 

「ああ…そこの戦略ゲーム、高雄さんが得意にしてるやつか…大淀と対戦させるんですか?」

 

「うむ。北方、西方、南方海域において詳報を彼女が書いたものだと知って読んでいるのだが、素晴らしいものだからね。そして指揮もすばらしい。玲司も言っているだろう?うちの自慢の軍師だとね。高雄も目にかけているほどの素晴らしさだ。ならば一局見て見たくなるではないか」

 

「そういうことっすか…まあ、大淀なら断らないと思いますが」

 

「うむ。と、言うわけだ、陸奥。頼んだよ」

 

「はーい。ほら川内、島風、行くわよ」

 

「はーい!!」

 

「ううう…頭が潰れるかと…」

 

陸奥、川内、島風は退室した。残されたのは玲司となぜか残された龍驤。

 

「で、お父ちゃん。あたた…露骨にうちだけ残したんは玲司とうちに重要な話があるってことかいな?」

 

「うむ。龍驤は横須賀に最初にいて明石と同じく重要なポジションにいるからね」

 

「大淀には言わなくても?」

 

「うむ。今回は作戦を伝えるためではなく、ある重要なことを玲司にだけ教えておこうと思ってね。これは明石にも伝えなくてもいい。いや、伝えてはいけない機密事項だ。知っているのは現状、私、清州、虎瀬、刈谷君だけだ」

 

「刈谷提督も…」

 

「この際だから言っておこう。刈谷君は大本営にいないだけでかなり重要なポジションにいるんだよ。提督の不正を暴いたり、怪しい動きをチェックする役目を担っている。言うなれば…虎瀬が引退した後の第二の虎瀬になってもらいたいんだよ」

 

「せやけど、刈谷のおっさんは自分の裁量でボコボコにしたり粛清してるやん?虎瀬のおっちゃんとはちゃうやろ」

 

「今は暗躍してもらっているだけだがね。彼が虎瀬のポジションに着いた場合、よその提督は相当な覚悟をもって不正を働かねばならなくなるよ。現に薄々刈谷君の役目に気づいて不正をやめた提督もいるくらいだからね」

 

「そんな重要な役割を…」

 

「彼は頭がずば抜けていい。そして、あの性格だ。誰もが刈谷君に恐怖を抱いている。だから抑止力になる。本来ならば、安久野のことも素早く見抜いてさっさとクビにしろと言っていたのだが…恐ろしい程邪魔が入って何もできずにいた。各所に金をばらまき、大本営内にも彼を擁護する者が後を絶たなかった。まあ、刈谷君が最終的に全員に脅しをかけて収めたのだが…それでも1年は好きにさせてしまった」

 

「それで1年だったのか…」

 

「どうしようもないクソッタレやな」

 

「うむ。まあ、刈谷君はそう言う重要な位置にいるからね。今回の秘密事項に関しては彼にも報告してある」

 

「んで、うちまでここにおらして玲司に伝えたいことって何なん?」

 

「うむ…実はだね。リンガの提督…烏丸提督が戦死したそうでね」

 

「戦死?どういうことだ?泊地が攻め込まれたとか?」

 

「理由はわからん。だが、突如として現れた深海棲艦に自らも船を出して戦いに赴き、砲撃を受けて船ごと吹き飛ばされた。そう…リンガの艦娘が…ブルネイの大高提督に連絡が入ってね…私達も何が何だかわかっていないのだ」

 

「死人に口なし…何が起きたんや?」

 

「刈谷君曰く、大府提督が絡んでいるのではないかとのことだが…」

 

「また、大府提督ですか」

 

「うむ…だが、確証はない。しかし、烏丸提督と言えば大府提督にも贋作である洗脳装置を開発したものを共有した提督である。大府提督と繋がりがある以上、大府提督が何か手を下したのではないか。そしてリンガの艦娘をそのように動かしたのではないか、という話だ。あくまで刈谷君の推測…だがね」

 

「刈谷提督が言うなら…いや、でも確証がない」

 

「うむ。そうなんだ。詳細を聞こうと思っても答えてくれなくてね」

 

「いや、刈谷提督の判断は正しい。どこで盗聴されているかわかったもんじゃない」

 

そう言うと玲司は横須賀鎮守府にあった謎のサーバーの話をした。高雄からも聞いていたし、明石からの報告書(もちろん中身は見られても問題ないダミー入り)で見たが、恐ろしく高度であり、横須賀の情報が駄々洩れになることは間違いない状況であったと言う。妖精さんがめちゃくちゃにしてくれたおかげと、それを機に宝探しに勤しんだ妖精さんが盗聴器やら隠しカメラなどを全て発見。廃棄した。数えただけでゾッとするくらい出てきたものだ。

 

「おそらく、安久野がすぐさま出て行くことになるとわかり、後任の提督の監視などをしてボロが出たところで内部告発、そして横須賀に自分が居座ろう。そんな魂胆でもあったんじゃないですかね」

 

「知らんけど」

 

「むぅ…では…やはり刈谷君とは対面で話をしたほうがよさそうだね」

 

「玲司は散々言われとるで、刈谷のおっさんに。大府に関わるな。接触を試みられたら自分に報告せえって。そんでもってあいつに何言われても心を乱すなってな。お父ちゃんも気ぃつけや。どこからか…大府司令官の目が…見とるかもしれへんでな…」

 

そう龍驤に言われてあの感情のない爬虫類の様な目がどこからか見ている…そう想像しただけで身震いがした。

 

「う。うん…この話はやめよう…壁に耳あり…何だか嫌な予感がしてならない」

 

「その方がいいっすね」

 

「せやなぁ…この件は刈谷のおっさんとよう話したほうがええわ…」

 

「俺は引き続き、階級は下とはいえ何をしてくるかわからないから警戒を厳だ」

 

「せやな。横須賀潰されたら日本は終わりくらいに思とけ」

 

「プレッシャーかけんなよ姉ちゃん…」

 

「当たり前やろが。大和に武蔵、『女王』に英国艦娘。日本の要になりつつあるんやからな!」

 

「へーい…肝に銘じておきやす…」

 

「自分とこの艦娘、大府の人形にされてもええんか?あんな奴の人形になるんはまっぴらごめんやで。そのためにゃ大黒柱がバシッとしてなあかんのや!わかったな!」

 

「いってえ!!背中叩くの加減しろよ姉ちゃん!」

 

「んっんん!ところで玲司。横須賀に着任して1年になるが、どうだったね?」

 

古井司令長官は考えるほど寒気しか覚えない大府提督の事を考えることを放棄し、玲司に横須賀に慌てて着任させたことを聞いてみた。

 

「まあ…うん…なあ姉ちゃん」

 

「せやなぁ…いろいろありすぎてなぁ…うちが行った初日にいきなり翔鶴に殺されかけてたり…そんな翔鶴と今度はマジもんの結婚する言うし…大概な鎮守府やと思うわ…」

 

「翔鶴はしょうがねえだろ。まあ…本当にひでえところだったよな。足がひん曲がった大淀がお出迎え。傷が腐敗した時雨に村雨。心が壊れた雪風…摩耶や最上と姉ちゃん、一悶着あったし…最初からいきなり、俺やってけんのかなぁって」

 

「普通の司令官なら即日記憶を消されてでも司令官やめとるな、あれは。最初の方はうち、玲司の話でしか聞いてないけど」

 

とにかくこの1年は「走り続けるしかなかった」…そう言うしかない1年だったと玲司は語った。翔鶴の件、雪風の件…それから霞たちの話。深海棲艦から蘇った響。そしておやっさんが現実逃避するしかなかった大和と武蔵。

 

ブランクがあるとは言え冷や汗をかいた海域の出撃。イレギュラーばかりが起きていたな、と語った。深海響。偽りの海域の海図が書かれたキス島での阿武隈達が九重提督の大破して消えそうな命の暁を守った話。安久野によって沈められた加賀が現れた西方海域。そして…全てがペテンのレ級が現れた南方海域。

 

「ううむ…玲司の艦隊あるところ難ありという感じだね…」

 

「ほんとにそうっすよ。みんなのおかげで何とか乗り切れたけど…」

 

「それとあれな。刈谷のおっさん」

 

「あー…まあ…今でこそ嫌いじゃないけどさ…最初…不知火たちを送り込んできた時はマジでぶっ殺してやろうかと思ったくらいだったぜ」

 

「返り討ちが関の山やな」

 

「言うなよ…今は一応感謝してんだから。それから一宮に九重提督…七原提督にもな」

 

「うむ。そこはしっかり成長したね。ショートランドの時のように1人で何かをしようと考えず、仲間と共に乗り越えていく。それこそが提督として大きく成長していく糧となる。私も虎瀬や宗春…安城提督がいてこそここまでやってこれた。妖精が見えないながらも何とかね。人は1人では生きていけない。艦隊運用も同じだ。刈谷君もそこにようやく気付いてくれたようで何よりだ」

 

「刈谷提督もそうだったんですね…」

 

「彼の今までのやり方を見てくればわかるだろう?まあ…彼は大府君のせいで人間不信に陥っていたんだがね。以前のような人を利用したりするようなやり方もなくなった。彼も玲司と同じく人間嫌いだからね…」

 

「まーたそっくりな点が出てきたなぁ?」

 

司令長官の言葉にニヤニヤと笑いながら玲司を肘でつつく龍驤。

 

 

うなだれる玲司。大淀や龍驤達に刈谷提督に似てきたと言われてショックを隠し切れないのだ。

 

「はははは!性格はまるで水と油だがね、艦娘を愛し、艦娘と共に歩んでいるところは間違いなく似た者同士だよ。彼は玲司にとって一宮君たちと同じく大切な戦友であり、大切な上官になる。しっかり連携していきなさい。今後、玲司は刈谷提督の下で共に戦うことになる。一宮君、七原君、九重君と共にね」

 

マジかよ…とさらにガックリする玲司。まあ、彼に助けられたこともあるし「西方海域の借りは返したぜ」と南方海域のサブ島のことで言われたこともあるし…まあ、やっていこう…と遠い目をした。

 

「しかし、玲司を殺そうとした翔鶴君とまさか結婚…それもカッコカリのような能力向上ではなく…ふむ」

 

「まあ、あん時は安久野のアホのせいで錯乱してたのもあったやろし…ちょっちやりすぎてしもたけども…せやけどあいつ、最後は死のうともしとってんで?まあ、うちが説得してやなぁ…その辺、玲司、うちに感謝してあの魔王っちゅう焼酎をやな…」

 

「今さっき酒で注意されたとこだろ?しばらくは禁酒だ」

 

「な、なんやて…」

 

「それにあれ、俺一口も飲めてないんだからな!せっかく翔鶴と晩酌で楽しもうと思ったやつ、1本まるまる空けてくれてからに!!!!」

 

「れ、玲司酒に弱いから置いといたらあかんかなーって…」

 

「そんなすぐに!未開封で!飲めなくなるわけねえだろ!?貴重な翔鶴と一緒に飲もうなって言ってた森〇蔵!!!」

 

「そ、そんなん…」

 

「うーむ、玲司…今後そちらにお酒を送るのはやめておこうか…?」

 

「か、堪忍やお父ちゃん!れ、玲司も堪忍してえや!!」

 

「翔鶴、間宮、明石!どれだけの子に深夜までグダグダグダグダ絡み酒して勘弁してくれって苦情をどれだけ聞いてると思ってるんだよ!」

 

「も、もうせえへん!せえへんからぁ!」

 

「ダメだ!!!おやっさん、しばらく酒禁止で!刈谷提督の酒も隠しておこう」

 

「う、ううう…」

 

涙目になりながら懇願する龍驤であったが、このあとこれに騙されてわかったと言うとケロリと機嫌が直って嘘泣きだったことが判明。そして「今ええって言うたやん」とどや顔を決めて言ってくることに騙されてもう数年。もう騙されない。

 

しくしくと顔を隠して嘘泣きしているが…

 

「姉ちゃん、うちに来た初日に大淀たち騙してクスンクスン言いながらこっち見て笑ってたの、忘れてねえからな」

 

「…ち、ちぃ…」

 

「反省の色がまるでないね…鳳翔君を呼ぼうか?」

 

「ひ、ひぃ!!!」

 

安城提督の元秘書艦。現在小料理屋「鳳翔」の店主、鳳翔。龍驤にとっては恐怖の対象でしかない。いや、まあ、全ては酒癖の悪い龍驤が悪いのであるが。

 

「私の説教がまるで効いていないね。まあ、何らかの対策を練るとしよう」

 

「ひんっ!」

 

「さて…龍驤はさておき、ブランクがありながら大変な海域にばかり行かせて申し訳なかったね」

 

「いや、そのおかげで俺も艦娘のみんなも成長できた気がする。危機はいっぱいあったし、南方海域では大府提督のせいであやうく雪風を沈められそうになりましたがね」

 

「刈谷君の飛龍君の時と同じか…まったく、同じことしかできないのかね」

 

刈谷提督も大府に同じように強引な作戦指揮で飛龍を失い、そこから刈谷提督はあんな性格になったのだと言う。チーン…と白目を剥いている龍驤をしり目に玲司は彼の過去を聞いた。やはり大府提督は…危険だなと…。

 

「しかし、雪風君が無事でよかった。大淀君が言うには、横須賀は玲司がいないと存続ができないと言っていたからね」

 

「俺も同じです。あいつらの1人が欠けたら俺は終わりだ」

 

横須賀鎮守府は刈谷提督からも聞いているが危険な綱渡りの鎮守府である。安久野の呪縛から艦娘を解放した玲司に依存する艦娘が大多数。玲司は玲司で陸奥達の時と同じく、艦娘に依存しなくては精神が崩壊する。艦娘も然り。

 

「……せやけどそれで横須賀鎮守府はお父ちゃんがやってた頃の様な最強の鎮守府になりつつある。他の泊地が文句も言われへんようになりつつあるな。中将であり、あのレ級を追い返した。危険な任務をたった1年でなんぼこなした?」

 

「うむ。准将のまま止まっていた時が動き出し、あれよあれよと中将に昇りつめた。そんなわけでね。玲司に貴重な防空駆逐艦を任せようと思う」

 

「防空駆逐艦。秋月型ですか?なんでいきなり…」

 

「なに、私から中将になった遅い報酬と言うか。まあ、こういういい方はよろしくないがね。君には」

 

「うーん、まあ…で、秋月ですか?照月?」

 

「ふふ、まあそれは今から紹介しよう。ああ、陸奥かい?うん、今から彼女たちを連れて来てくれ」

 

防空駆逐艦。それは防空に特化した駆逐艦。横須賀で言えば防空巡洋艦摩耶が特化している。吹雪や皐月たちも防空に長けているが、防空駆逐艦には及ばない点がある。しかし、玲司は横須賀で摩耶と共に多くの戦いで空を守り抜いた吹雪を冷遇する気はなく、それはそれ、これはこれで吹雪に彼女らの指導を任せようと思った。

 

確かに防空に特化しているとはいえ、実戦経験、防空の経験は初心者だ。知識やノウハウなどは吹雪の方が圧倒的に龍驤にしごかれているし、防空駆逐艦に負ける要素がない。龍驤の防空演習は苛烈だ。しかし吹雪は泣き言など1つも言わないし、真面目に取り組んでいる。防空勝負なら、いずれはわからないだろうが、今はまずは吹雪に任せよう。そう考えていた。

 

コンコン

 

今後の秋月型のことを考えていると陸奥が入室した。そうして陸奥に連れられて入ってきたのは2人…ん?と玲司は見慣れない駆逐艦に目を大きく開いた。

 

「秋月型防空駆逐艦「涼月」です。皆さんを……皆さんをいつまでもお護りできるよう、私……頑張ります。よろしくお願い致します!」

 

「秋月型防空駆逐艦、八番艦、冬月、参る。提督、共に護ろう。大切な…ものを」

 

ブーッと玲司はお茶を噴き出した。ちょっと待て。ちょっと待ってくれおやっさん。涼月と冬月。特に冬月なんか最近北九州の沖合で見つかった新しい艦娘じゃねえか!?

 

「お、おやっさん、涼月も貴重な艦娘だが…冬月と言えば…」

 

「うむ。最近北九州沖で見つかった艦娘だ。いやぁ…涼月が冬月とでなければ…と異動を拒まれてしまってね…しかし、大本営で預かっていたのだがね?ここに置いておいても…駆逐艦は風当たりがきつくてね」

 

ここ、大本営の元自衛官で構成されている自称えらいさんたちは艦娘への風当たりがきつい。まあ、艦娘からも職員からも冷遇されている身であることに気が付いていないわけであるが、艦娘ならばこんなところでのんびりしていないでお国のために戦え。何のための艦娘か、などと特に駆逐艦への扱いが酷い。巡洋艦…特に重巡以上になると性的な視点でみる馬鹿が多く、刈谷提督からは「いつになったらあの木偶共を追い出すんだ」などと言われているほどだし、事務員からも「あの、〇〇さん気持ち悪いのでどこか別の部署に動かしてもらえませんか…?」などと言われる程度には嫌われている。

 

仕事はできない。艦隊運用もできない。いる意味があるのか?コック時代は飯に文句をつけられたこともあり、チーフと大揉めして出禁になった奴もいるくらいだ。

 

さて、それは置いておいて、涼月と冬月。彼女たちは坊ノ岬を共に戦い、最後には北九州を守る鉄とコンクリートの防波堤として眠りについている2隻。そしてその艦が艦娘として顕現したわけだ。玲司はてっきり、ここ最近南西諸島でよく邂逅すると言う1番艦「秋月」を配備するのかと思ったが全然予想が違った。

 

涼月、そしてまだおそらくこの世で1隻しかいないであろう艦娘、冬月。冬月は三好提督と上郷提督が最後の華として激闘の末、北九州を襲い掛かった深海棲艦を撃破した末に邂逅した艦娘だと言う。

 

しかし、彼らは「儂らはもはや提督から近々身を引く者達。儂らが持っておっても仕方がない。熱き炎を持つ若き者共に託す」と言って着任を拒否。涼月は僅かながら別の泊地などにいたりするが、この涼月は三好提督のところにいた涼月だ。冬月が大本営に行くことになった際に、自分もお冬さんと共にありたいと無理を言って着いてきたのだった。三好提督はもうほぼ引退の準備を終えており、艦娘についてはそれぞれの希望を聞いて回っているほどだ。

 

ならばと共にここへ来させたわけである。結局古井司令長官の裁量で彼女たちをどうするか、と考えたわけだが…やはりここは玲司に任せるしかない。虎瀬提督とも1時間にわたって相談をした結果、やっぱり玲司か刈谷しかいないだろうとのことだった。

 

刈谷提督は「あー、秋月に照月、初月いるからいらねえ。ああ?うるせえな、テメエらだけで十分だ。これ以上は無駄だ無駄。三条に回してくれ」

 

結局こうであった。ならば、と今日玲司が来ることを知った古井司令長官は玲司に任せる、それしかない。と言うことで即決定だった。

 

「オホン。横須賀鎮守府で提督をやっている。名は三条 玲司だ。行ったらいろいろと混乱することが多いだろうけど、驚かずにのんびりやってくれりゃいいかな」

 

「横須賀鎮守府…お噂はかねがね…素晴らしい提督がおられると何度も陸奥さんからお伺いしております」

 

「そうなのか。私は涼と違い、『艦娘の最終処分場』というよからぬ噂を聞いたが…」

 

「あー…それはよく言われるかなー。ま、一度来てみて、無理だと思ったら別の場所への異動も許可するからさ」

 

「ぶったまげるっちゅうかあそこから別の場所行きたなくなるわ…あんなとこおったら…天国やで」

 

「酒は禁止になったけどな」

 

「ちぃ…せ、せやけどこたつにみかん。露天風呂に大浴場、うまい飯…これ以上の鎮守府はないやろうなぁ…」

 

「ふむ…現に横須賀で生活している艦娘か?ぬるい場所ではないだろうな?」

 

「まあそれは実際に自分の目で確かめてみぃや。ぬるい場所かもしれんけど、実力だけは本物やで。なんやったら、うちが防空の相手したろか?久しぶりに見せたるでぇ?四神の型『朱雀』が火ぃ噴くで?」

 

「やめろよ…摩耶、それトラウマになっちまってるんだからさ…」

 

「いや、ぬるい言うんやったら…」

 

「摩耶たちだって手も足も出なかっただろ!?新人いびりする奴は嫌われるんだぜ!」

 

「だ、誰がいびってるんや!うちは早いことこの子らをやなぁ!」

 

「徐々に!絶対使うなよ!?」

 

「う、うう…しゃーないなぁ…」

 

「いや、私達は防空駆逐艦なのだ。軽空母なのだろう?ならば問題はない。全て撃ち落としてやろう」

 

「あっ…」

 

「ほっほーん?お前言うたな?たかが軽空母みたいにって感じで。よっしゃ、帰ったらさっそくやったるわ。覚えとけよ」

 

「お、お冬さん…そのような失礼なこと…も、申し訳ありません!私からもよく言い聞かせておきますので…」

 

「いいや、勘弁ならん。見せたろうやないか。『原初の艦娘』も知らんひよっこが、泣いても知らんからな!」

 

「龍驤、そこまでにしておきなさい…玲司、もしものときは必ず止めるんだよ…」

 

「たぶん無理だ…と思う」

 

「そ、そうか…いや、井の中の蛙、大海を知るのも…ありかもしれんが…何せ陸奥の『白虎の型』、木曾の『青龍の型』…そして龍驤の『朱雀の型』は苛烈だからね…赤城の守りの型『玄武の型』はいいとしても…」

 

「どれもインチキ級に強いやつだな」

 

「それを使っても勝てなかったレ級…か」

 

「練度も不足していたからねぇ…今のように改二があったわけでもなく」

 

「次はぶちかましたるわい。うちの『朱雀』はあの時の様な雛鳥ちゃうで!」

 

「むぅ…よくはわからんが楽しみにしておこう。防空駆逐艦としての責務、果たして見せよう」

 

「もう!お冬さん!」

 

「…わかっている。失礼のないようにだろう?」

 

「十分失礼なこと言うとるけどな!!」

 

「と、とりあえずさきほどの別室で待機してもらえるかな…このままだとそこの演習場でドンパチを始めそうで心配なのだが…」

 

「はーい。龍驤。『朱雀』はほどほどにね?……私も『白虎』をスケベ爺に一発…」

 

「胴体から首がなくなるから却下だ!!!」

 

それを聞いた涼月がブルリと身を震わせた。陸奥の「白虎の型」はまさに猛虎の鋭き爪で相手を切り裂き、そして鋭き双牙で敵をかみ砕くかのような一撃を加えるものだ。喰らった相手は首を切り飛ばされ、強烈な振り下ろしでさらに両手で敵を両断する恐るべき技。余談であるが。

 

この後別室でみっちり冬月は涼月に怒られたらしい。が、半信半疑だった冬月は横須賀に行った際に「朱雀の型」を見せてほしいと言い、もちろん防げるわけもなく、一撃大破判定退場となって泣きを見るのであった。

 

………

 

その後、高雄と大淀のシミュレーションゲームを一戦交え、引き分けで終えたことに玲司は確かな大淀の成長を感じ、頭を撫でてあげた。龍驤や陸奥が自分も撫でろと騒いだが、島風だけ撫でて終了。

 

そして今回はお開きとなった。

 

「玲司。来年も大きな作戦にお前を駆り出すことになる。中将であり、お前は横須賀の提督だからだ。どんな戦いがあるかはわからん。しかし、まずはレイテがあるだろう。まあ、もうしばらく先にはなるだろうがね」

 

「レイテっすか…シブヤン海の武蔵、スリガオ海峡の時雨たち西村艦隊。エンガノ岬の瑞鶴…因縁がある子達ばかりだな。わかった。それまでにもっともっと、練度をあげておくよ」

 

「うむ。そうしてくれ。そして涼月と冬月も頼んだよ」

 

「ああ、きっちり育て上げて自慢の防空駆逐艦にして見せるさ。な、姉ちゃん」

 

「ふん。きっちり『朱雀の型』でいじめぬいたるわい」

 

「うっわ…性格わる…」

 

「私もその意見には賛同できません…」

 

「なんやねん!うちはバカにされてんで!?ちょっとは慰めてくれてもええやないか!」

 

「上司は嫌われるものよ龍驤、ね、鹿島?」

 

「う、うう…」

 

「鹿島は先生って言われて慕われてるよー?」

 

「う、うちかて好かれてるわ!!!」

 

「自分で言っても説得力ないわね」

 

「ムキー!!もうええわ!!!玲司!!!はよ帰るで!!!!」

 

「はいはい…じゃあ鹿島、島風、大淀、行くか。涼月達も待たせているしな。じゃあおやっさん、みんな。良いお年を」

 

「ああ。玲司たちも」

 

「玲司くーん、今度翔鶴も連れていらっしゃいねー」

 

「何か嫌な予感がしねえが…」

 

「大丈夫よ…フフフ」

 

「うわやべえ、しばらく来ねえわ」

 

あーん、いけず!と陸奥に言われても適当に回避し、司令長官室を後にした。

 

廊下を歩いていると電話だ。鎮守府からである。鳥海だろうか?緊急事態か!?

 

『もしもし!?提督ですか!?今おせちを作っているのですが人手が足りなくて困っているんです!!!本を読んでもよくわからないし!早く帰って…ああ!大潮ちゃん!それまだ熱いですから!ほら言わんこっちゃない!『大潮!!お行儀が悪いですよ!漣さん!つまみ食いは禁止と言われているはずです!響さん!!!』提督!!!早く帰って来て下さーい!!!!』

 

「お、おう…」

 

あああー!という悲鳴と共に電話が切れた。

 

「緊急事態ですか?」

 

「あー…まあ、厨房が…だけど」

 

「ふふっ、それならまだよかったです。提督がいないと大変そうですから急いで帰りましょうか」

 

「そうだな。帰るか」

 

「お兄ちゃんのおせち!久しぶり♪」

 

「まー間宮や茉莉もいるけどなー」

 

「おせち…ですか。どんなものなのでしょう」

 

「鹿島、帰ってからのお楽しみだ。来年の正月は豪勢になるぜー。あ、姉ちゃんは酒禁止な」

 

「ちっくしょーーーー!!」

 

緊張感のない提督と艦娘達であったが、これはこれで楽しそう、とクスリと笑う涼月と大丈夫なのだろうか…と不安に思う冬月であった。

 

新しい艦娘が増えた『家』…横須賀鎮守府。来年も暗いことなどぶっ飛ぶかのような騒がしい毎日が…また始まるのだ。今までのみんなと。そして、今年新たに増えに増えた仲間たちと共に。




新艦娘登場!本来ならば涼月だけにしようかと思ったのですが、冬月があまりにも美しく、これは素晴らしい、と急遽登場させました。
まだまだゲームの方でも育成中で少しずつキャラを掴んでいくつもりです。

さて、これでほぼほぼ玲司達の長い1年が終わりを迎えました。
次回はもう一人の主人公と化している刈谷提督のところの睦月型のある艦娘と1年を振り返る。そんなお話を書いていこうかと思います。ダラダラメガネっ娘、いいですよね。

次回も気長にお待ちください。

それでは、また。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。