そんな彼女の意外な過去も明らかにしていきます。
鹿屋基地。刈谷提督が主であり、まもなくここは刈谷提督の城ではなくなるわけだが、まだ一応は刈谷提督の城である。
この基地は現在顕現している睦月型全てが存在しており、賑やかである。すっかり提督に懐いた睦月や皐月、文月。信頼を置いている水無月や三日月。魂を吹き込まれたと意気込むかつて「ジャンク」と呼ばれた睦月型最強の双肩、長月に菊月。まだ少し警戒が抜けていない卯月。球磨や多摩にいじられ、寝込み…苦労が多い如月。
そして、睦月型はおろか鹿屋基地の中では刈谷提督しか知らない隠し部屋でこたつに入り、ゲームを黙々とやっている睦月型の末妹、望月。
彼女は基地に着任早々、誰にも邪魔されずに遊べる部屋がほしいとあの刈谷提督に臆することなく意見し、刈谷提督もそれに応えたのである。どこを探しても見つからないため、卯月はよく「刈谷提督に秘密の部屋で拷問されてるぴょん…!」などと言っているが、実際にはケロッと眠そうな顔をして「あーよく寝た」とひょっこり現れては卯月に心配されている。実際には本当に何もない。
年の暮。今日も望月は秘密の部屋で誰にも邪魔をされることなくこたつにもぐりこんでゴロゴロとゲームをしていた。
コンコン。
秘密の部屋にノックが響く。ノックの主は彼しかいない。なぜならここを知るのは彼…司令官しかいないから。
…もうめんどくさい…彼女の性格が如実に出る。出たくない。今は1人でゴロゴロしたいのだ。だから望月は無視を決め込む。
「何だ、居留守か?いるんだろ、望月」
いませんよー。だってめんどくさいから。出たくない。たぶん睦月たちと遊びに出かけているはずだからここにはいませんよー。
「…いねえのか」
そうそう。そうやってそのまま立ち去ってちょうだい。
「……もっちー」
刹那、ぞわりと背筋が寒くなった。あの顔で自分を三日月や誰かが言うみたいにあだ名で呼ぶなんて気持ち悪すぎて無理だった。こうなるときっと…そこかしこで出会うたびに「おうもっちー」などと言われ、また好奇の目にさらされ、めんどくさいことになる。そう思った望月はどたどたと音を立てて慌ててドアを開け、刈谷提督を招き入れることにした。
「なんだ、いるんじゃねえか、もっちー」
「その言い方やめてくれないかなぁ。気持ち悪すぎてしょうがないんだけど」
「だったら居留守なんざ使うんじゃねえよ」
「あーい…ちぇっ…まあ司令官ならいいんだけどさ」
「ほらよ、いつもの飴だ」
「おっ、司令官ナーイス。ちょうどほしかったんだー。ん-、うまっ」
そう言うと棒つきの飴を口に入れてそのままこたつに入る。せっかくの来客だ、お茶くらいは淹れてあげてもいいだろう。
「ん、お茶」
「おう、悪いな」
「でー?何であたしんとこに来たのさ」
「ああ。変わった1年になったからどう思ったかと参謀に聞きたくてな」
「駆逐艦であるあたしが参謀なんてとこ、どこ行ったってないっしょ」
「ここが現実にそうだろうがよ。お前の知識や作戦は役に立ってんだよ」
「んあー、なまじ長生きしてるだけだけなんだけどさ。7年も生きて死に損ねてるだけだよ、あたしなんか」
「その知識がお前の姉や仲間守るために役立ってんだ、そう卑下すんな」
「あー…」
7年前。彼女は生まれた。まだ艦娘を建造する炉ができたころの話くらいの頃だ。彼女は生まれた。当時は大破で進撃すると轟沈する、と言う事態がまだ解明されていない頃であり、生まれた姉や仲間は湯水のごとく建造されては沈んでいった。そうして擦り切れた望月はどこの望月よりも戦闘に関しては敏感であり、それでいて戦いを拒む。
結果としてあちこちの泊地や基地を追い出された挙句、ここに流れ着いた、と言うか刈谷提督に拾われたのだ。
「あの頃を生き抜いてきた艦娘は貴重だ。どこにも居場所がねえなら提供してやる。その代わり俺の役に立てよ?」
そう言われてここへ来た。彼への第一印象は「悲しそうな目をしている。艦娘を大事にしている目だ」…そう思ったのでここに居つくことにした。で、何がしてえ?と聞かれた時に「誰にも邪魔されずにゴロゴロできる場がほしい」と言われ、今の隠し部屋を提供された。だからこそ、望月は他の艦娘が怯える中、臆することもなく物申したりしていた。姉に「こ、殺されるからダメだよ!」と言われても「あの人はんなことしねえって」と返し、洗脳でもされているのではないか?と疑われたほどである。
「今のやり方のがいいんじゃない?みんなのモチベ高いし、大きな作戦も無事乗り越えられたわけだしさ。南方海域なんか乗り越えちゃって、球磨さんや多摩さんがどや顔で活躍したって毎度言っているのがめんどいけどさ。まあ、大半は司令官が考えてあたしがちょこちょこっと手加えたくらいだし、作戦は司令官だけでいいんでないの?」
「お前がいねえと漏れがあったらやべえだろうがよ」
「心配性だなぁ司令官は。大方間違ってないよ。ったく…能代さんは参謀になれねえし、龍田さんは戦闘狂だし…球磨さんや多摩さんは脳筋だし…誰か頭脳役代わってくんないかなあ…」
「無理だな。あいつらや長門が戦術指南だ。脳筋しか生まれねえよ。パッと言ってガッとやってズドンクマ。そんなんしかいねえよ」
「とほー…まあ、司令官には世話になってっからなぁ…人殺しのあたしって聞いても臆することなく、そうか、まあここにいろだもん」
「その話はもういいだろ」
「よかないっしょ。姉貴たちが聞いたらドン引きだよ」
「俺も墓まで持って行ってやる。お前もずっと黙ってろ。喋りたくなったらフォローしてやる」
「いやいい。あたしも最期までこの話は司令官以外には喋らないよ。司令官を殺した艦娘なんて話が漏れたら、あたしを匿っているに等しい司令官にまで迷惑が及ぶさ」
ズズ…とお茶を飲み、ふう、と息を整える望月。そう、彼女には誰にも語れない過去がある。
「俺はその望月は轟沈したって話で聞いたぜ?」
「何でそう言う話になったのやら。あたしはちゃんとその場所にいたよ。爆発で中破したけど、ドックに入って治って…バラッバラに飛び散った司令官を見てゲタゲタ笑ってやったよ。あたしは壊れたってことで、艦娘用の精神病棟にずっと狂ったふりして入院してたけどさ」
「轟沈したってのは精神病院の医者が流した流言飛語だったか」
「その方が都合が良かったんだろうね。だって、司令官を殺した望月が生きているなんて聞いたら真っ先に解体のために憲兵が押しかけるだろうからね」
「戦闘で仲間が大勢犠牲になって心が壊れた望月」
「それでよかったのさ。まあ、現にあたしは大勢の仲間。司令官と呼ぶのも腹が立つ奴に犠牲にされたわけだからさ」
当時は資材の概念なども薄く、沈めば新たに作ればいい。特に駆逐艦など本当に使い捨ての突撃兵器だった。聡明な古井司令長官や虎瀬大将などは練度をあげることで駆逐艦も成長し、雷撃や砲撃でも高い実力を発揮すると練度向上、轟沈ゼロを目指した。しかしそれでも彼らでさえ、轟沈はあった。その数は極わずかであるが、今も罪の意識が大きく残っている。
望月はとつとつと語りだした。
………
艦娘の建造が可能となってからと言うもの、先にも述べた通り…艦娘は使い捨てのようにされていた。生き残っても疲労など気にもせず、とにかく使いつぶされた。しかし、建造とは資材を消耗するもの…次第に資材が枯渇し始め、今度はドックでの回復さえおぼつかない日々。望月はその当時をよく知っていた。
「まあ駆逐艦なんてさっとドックに入れりゃさっと回復するからね。それで戦艦潰してこいなんて無茶な指示もあったもんだよ」
「馬鹿じゃねえのか。夜戦ならまだしも、昼戦で戦艦に駆逐艦のみで挑ませるなんざ死なせに行くもんだ」
「そういうのもわかんない連中だったからね。今の大本営で偉そうにしてるおっさんたちがそうだよ。艦娘を沈めた罪の意識さえない。そんな中でもあたしの所にいた司令官…いや、あいつはとにかくひどかった。とにかく建造されて間もない艦娘でさえ、そのままの装備で南西諸島や北方海域に行かせるような奴だった。遠征、演習なんか時間の無駄。とにかく突レ突レ突レしか繰り返さない馬鹿だった」
提督の独裁体制。今のように秘書艦なんていやしない。刈谷提督はこの時まだ訓練生と言うことで基礎を学んでいる頃であり、実態はつかめていなかった。虎瀬提督に聞いてみたが、ひどいものだった、と望月と同じようなことを言っていた。
「どんどん生まれてはどんどん沈んでいく艦娘。だからあたしは考えたんだ。轟沈して壊れた砲塔を使えば、ひょっとしたら…これを細工すればあたしが手を下さずとも爆死してくれるんじゃないかなってね」
艦娘の艤装と言うものは鎮守府内ではロックのようなものがかかり、鎮守府に向けて撃ったり、提督やその他の人間に撃つことはできない。望月は包丁か何かで提督を殺そうとも考えたが、艤装のない駆逐艦、しかも睦月型のこんなちんちくりんが提督に歯向かったところですぐさま取り押さえられて解体されるだろう。
望月は何とか目的地に到達するまでに、逃げる術を考え、勝利はできないが自分だけでも逃げおおせる作戦を練る。誰かが生き残ればラッキー。しかし、そのほとんどは自分だけが生き残る術でしかなかった。それしか考えられなかったのだ。
「それがあたしを今でも苦しめているよ。もっとあの時、あたしに余裕があれば。仲間も一緒に帰れたんじゃないかって。あたしは多くの艦娘を盾に…犠牲に生き残ってきたんだ」
「…そうか。俺も一緒だ。艦娘が現れる前、護衛艦に乗って深海棲艦に立ち向かっていた時…護衛艦や戦闘機の攻撃が効かねえとわかっていたのに突撃を繰り返させた無能な上層部を恨みながら…沈みゆく艦、助けてくれと言う仲間を見捨てて逃げたことがある。上官を俺だって殺してやろうと思った。よく生きて帰ってきたと言われて激怒したもんだ」
砲弾もミサイルも通用しねえ相手に特攻みたいなことさせておめおめ仲間を死なせておいて何が良かっただ。ふざけるなテメエ!テメエらは悪魔だ!悪魔に魂を売り渡して俺ら下っ端を地獄へ導く悪魔だ!!二度と生きて帰って来て良かったなんざぬかすんじゃねえ!!!
営倉送りとなり、さらには腫物扱いされ…刈谷提督は海上自衛隊の中で鼻つまみ者になった。その後、艦娘が現れ、妖精さんが現れ…。
「このちっこい生き物はなんだ?」
この一言から刈谷提督の提督人生は始まった。馬鹿で使えないと言う自衛官の上層部を蹴落とし、彼は提督に就いた。望月が一人奮戦していた頃、まだ彼は提督としての基礎を叩き込まれていた頃であり、提督としてはまだ着任していなかったのである。
「司令官も苦労してんだね」
「お前ほどじゃねえ」
「いやぁ、司令官も苦労してると思うよ。飛龍さん、沈められたりとか」
「…あー、まあ…」
「それなのにまあ頑張ること。あたしゃもう隠居で「いいわけねえだろ。テメエがいねえと作戦は完璧にいかねえんだよ」
「ぶー…飴で懐柔されるあたしもあたしだけど…もっとこう…横須賀の大淀さんみたいな頭脳役がぽーんと現れたりしないわけ?まじめんどくせえんだけどー」
「ここの、頭脳は、テメエだ」
「いひゃひゃひゃひゃ…!」
頬をつねって怒ったそぶりを見せる。まあ怒っているわけではないが。
「んで?結局その提督を殺したのはお前か?」
「いてて…んあー?そうだよ。沈んだ…みっかの艤装を持って行ってね」
………
「また望月だけ帰ってきたのか。おめおめと貴様だけ生き残って帰って来て。しかも負けて帰ってきて恥ずかしくないのか貴様は」
「こんなろくすっぽ満足な装備も与えられず、練度があるにも関わらず練度も向上させずに得られる戦果なんかあるかっつーの!見ろ!これがあたしの姉の艤装だ!!形見として持って帰って来てやったよ!ほら、司令官にあげるよ。使えなさそうな駆逐艦だなって言ったそれの砲塔だよ」
「そんなものを持って帰って来て何になると言う?壊れていて使い物にもならんスクラップではないか!そんなものを持ち帰ってくる暇があるなら一隻でも多く深海棲艦を倒して来ないか!」
「無理に決まってんだろー?めんどくせえ。あたしたち練度1やそこらの駆逐艦が空母や戦艦ぶっ倒せると本気で思ってんの?それこそマヌケだろー」
「何だと貴様!!この提督様に向かって何だその口の利き方は!!」
「はん、無能がいくらヒステリー起こしたってあたしゃ怖くないね。あたしの妹を悉く殺した天誅を…あたしが下してやるよ!!」
「何だと!?このっ!」
提督が勢いよく立ち上がった瞬間、望月は壊れた艤装を放り投げた。机にぶつかるか否かの瞬間、閃光が迸った。そして…執務室で大爆発を起こし、執務室は吹き飛んだ。
吹き飛ばされて…そして閃光と轟音によりうまく立ち上がれないでいたし、良く見えない視界でも…怒りで自分を殴り飛ばそうと立ち上がった司令官は…体のパーツがあちこちに飛び散り、顔は怒りの顔のままの首がころがっていた…。
「ひ、ひひっひひひひ!!!あははははははは!!あーははははははは!!!!イヒッイヒヒ!ウヒヒヒハハハハ!!!!」
望月は狂ったように笑った。やってやった。執務室に戻る前に工廠に行き、この壊れかけた艤装に少し細工を施し、ほんのちょっとした衝撃で爆発するようにしておいたのだ。艤装の修理などはなぜか自分でやっていた。明石や夕張などいなかったから。なぜか頭に浮かぶ砲塔の知識などを使って整備などをしていたため、この壊れかけた艤装に弾を込め、爆発するように改造しておいたのだ。それはうまくいった。
飛び込んできた誰だかもう覚えていない艦娘に大笑いしている自分をドックへ連れて行ってもらい、修復をしてもらい…やってきた憲兵やら関係者やらに精神に異常を来している。おそらく目の前で提督が爆死したことにショックを受けて精神がおかしくなったと言うことで、艦娘用の精神に異常を来した病院へと収容されたのである。
………
「んで、あたしは精神病院に収容されたって言うのは伏せられて、轟沈したってことになったってわけさ」
「まああの老害共の頭は古いからな。精神病院なんかに行った艦娘を引き取るなんざ嫌がるだろうな。だからか。あそこに入れられた艦娘がなかなか外へ出られないのは」
「だろうねー。あたしの他にもいっぱいいたよ。やっぱり、轟沈した仲間を見て戦えなくなって発狂したりとか…塞ぎこんで戦えない艦娘とかいっぱいね。寝てたらごめんなさいを何度も叫ぶ艦娘がいたりとか、拘束されてる艦娘…まーいろいろだよ」
「そんなもんなんだな。あそこから引き取った艦娘はいねえけどよ」
「引き取ってもあたしみたいに戦力になる子はいないだろうね。あそこはあそこの世界があるから触んないほうがいいよ。あたしは何でか戦線復帰させられて…司令官に引き取られたけどね。ちょっとまだ狂ったふりしてたのを見透かされて…ね」
「俺の目をごまかそうなんざ100年早えよ」
「まーいいんだけどさ。あたしも司令官は悪い人じゃないって見抜いたからね」
「そりゃどうも」
………
何がかはわからないが、もう大丈夫だろうと言うカウンセラーの言葉で大本営に異動させられた。あそこはあそこで空気が澱みすぎて嫌になった、と言うのもある。フリじゃなくて本当に気が狂いそうだったのもあった。
「ふむ…しかし君の引き取り手がいなくてね…困っているんだよ」
「そうですか」
無機質な表情で古井司令長官にそう返したっけか。どうせ前と一緒だ。クソみたいな司令官しかいねえんだろう。あーあ、めんどくせえからどっかのクソみたいな司令官に着いて轟沈でもしちまおうかな。そう考えていて時は流れに流れて…。
「よお、おもしれえ艦娘がいるって聞いてきてみたら…へえ、おもしろそうな奴がいるじゃねえか」
それが今の刈谷司令官だった。嫌味ったらしい顔をしているように見えるけど、目だけはどこか悲しそうな顔をしていた。
「あーい、望月でーす。で、あたしを引き取りたいなんて酔狂な司令官もいたもんだね。精神病の艦娘だよ?」
「嘘つけよ。テメエの目はそうは言ってねえよ。ま、精神病だろうがなんだろうが、今うちには艦娘が必要なんだ。テメエも俺のために働いてもらうぜ?」
違うな。この人は自分の戦果やなんかのために艦娘をぞんざいに扱う司令官ではない。そう一目で見抜いたのだ。だからこそ…
「わかった。じゃああたしは司令官についていくよ。司令官、名前は…ま、いいや。どうせすぐ沈むことになるだろうしね」
「バカかテメエ。駆逐艦をボコボコ沈める三流以下の連中と一緒にすんな。テメエはきっちり高練度になってもらって役に立ってもらうんだよ」
その言葉にやっぱりこの人は今までの司令官と違うな、と思った。だからやっぱりついていこうと思った。
「俺は刈谷だ。ま、せいぜい役に立ってくれよ?」
そうして鹿屋基地に連れてこられた。
睦月型もいくらかいた。まだあの頃は睦月と如月、弥生に卯月。何でか異様に司令官に怯えていたけれど。大体の艦娘は怯えていたっけか。すぐ解体されるとか轟沈させられるとか…あの人はそう言うことはまずしないと思うと言っても聞きやしない。特に卯月。何度言っても聞かないので「あーめんどくせえ」と言ってもう何も言わないようにした。
彼が立てた作戦は高度だった。とはいえ、1人でやっているのだろうか?穴も少しあった。だからズバズバと自分はその穴を指摘した。
「あのさー、バシーのここなんだけど厄介そうなのがいそうじゃね?もうちょい練度の高い軽巡が旗艦にほしいかな。あー、ちょっと待って。球磨さんや多摩さんは脳筋だから外してね。阿賀野さんは…練度低いし…龍田さんでいいや、じゃないと壊滅すると思う」
「へえ。この俺に意見たあね。いいぜ、テメエのその話乗ってやるよ。過剰でもいい。戦力不足でこっちが壊滅されたらたまったもんじゃねえからな」
「沈んでほしいんじゃないの?そのほうがおもしろいだろうし」
「もう1回1から艦娘育て直せてってか?めんどくせえよ、そんなこたあ。練度と戦闘の知識の引き出しの多いヤツを出した方が優位に回るんだ。1から全部やり直すなんざ話にならねえ」
「そ。じゃあ龍田さん貸して。あー、めんどくせえけど現場での指示はあたしがする」
「あら~。それはおもしろそうねぇ」
「ふん、ま、いいぜ。やってみろ」
「間違ってたら指揮よろしくー」
そうして望月の指示に従った龍田や睦月たちだったが望月の想定通り、龍田がいた方が優位に進んだ。
「睦月ー、戦艦狙って。龍田さんから気ぃ逸らして。はーやーくー」
「く、駆逐艦をやっつけたほうがいいにゃし…」
「そしたら龍田さんが沈んであたしら全員解体だねー。それでいいなら好きにしな。あたしは重巡引き付けるのに忙しいんだ。早くして。早くやれってめんどくせえなあ!!如月もボーっとしねえで手伝えよ!!!ビビってんじゃねえよ!司令官に解体されるほうが怖えだろ?!」
(ふ~ん。この子、頭の回転がすごく早いわね。うちにはいない頭脳役にぴったりじゃないかしら~?)
「戦艦は夜戦だ!夜戦で潰せばいい!あたしらの魚雷は夜戦でこそ真価を発揮するんだからさ!」
「夜戦に持ち込むまでに重巡もある程度弱らせておきたいわね~」
「龍田さんは重巡を任せるよ。あたしも協力する。瑞鳳さんは駆逐を蹴散らして。今の戦力じゃ戦艦を昼で潰すのは難しい。あたし、睦月、如月、龍田さんがいれば何とかなるよ」
「は~い」
「ず、瑞鳳、参ります!!」
こうして望月は頭脳としての才能を…あの時こう指示していればみんな沈まなくて済んだのにな、と思い後悔し、泣きそうになった。勝った時は誰にも見られないよう少しだけ泣いた。
帰って来てからは龍田が提督に進言。そして
「お前、うちのブレインになれ」
「やだよめんどくさい」
「戦ってみてわかったろ、うちは龍田と俺で作戦を練っているが穴が多い。他の奴らは俺に怯えているか脳筋で使えねえ。龍田から聞いた話だとテメエが頭脳になるのが最適解だ」
「えー…龍田さんなんでそんな報告するのさー」
「みんなが生き残るためよ~♪」
「ちぇー…いいよ、わかった。じゃあ条件がある」
「聞くか聞かねえかはテメエしだいだ」
「あたしが1人でゴロゴロできる隠し部屋みたいなのがほしい。睦月や如月や弥生はいいとしても…卯月がうるさすぎてゴロゴロ気楽にできない。だから誰にも知られない部屋がほしい。あと、定期的に飴が食べたい」
「いいぜ。その代わり、俺と同じように作戦を練るんだ。ここの連中の命預かる責任が生まれるわけだ。なめた作戦取ったらわかってんだろうな?」
「司令官こそここの連中死なせたくないんしょ?だったら交換条件だよ。司令官が条件を飲んでくれるならあたしも条件を飲むし、責任はとる。もう…誰かが沈むのは見たくない。ただし、沈めたら司令官、あんたも殺すからね。前の司令官の時のように」
「へぇ…数年前、どこぞのバカ提督が轟沈した艦娘の艤装を持ち帰ってきたら爆発して執務室で死んだってのは…」
「事故じゃない。あたしが細工を施して爆発させて殺したんだ。あたしは人殺し艦娘。人間に取っちゃ敵かもしんないね。どうする?追い出す?解体する?」
「ハッ、笑わせんな。馬鹿は死んで当然だ。艦娘をボコボコ沈める無能なんざ死んで当然だ。よくやったと褒めてやるよ」
ククク…と悪そうな顔をしているが、内心、艦娘を沈める提督は刈谷提督は大嫌いだ。だからこそ、本当に喜んでいるのだ。
「その際その場にいて、提督が死んだことでおかしくなって精神病院に入院した望月…か。なるほど、このことは墓に入るまで黙っておいてやる。その代わり、きっちり働けよ?」
「ああ。司令官があの時の馬鹿司令官のようにならなきゃね」
「言うじゃねえか。いいぜ。そんな馬鹿に俺がなったと思ったら容赦なく俺を殺せ」
「あたしをもう人殺しにさせないよう努力できないの?」
「するつもりはねえが人間ってのは勝手な生き物でな。突然お前が殺ったような提督に化けることもある」
「司令官は…そんなことになる目じゃないね」
「そうかい。んじゃ追加の飴をやるよ」
「わーい。って…ちぇ…すくな」
「文句言うな。まずは作戦をこなしてからだ」
「あーい…わかりましたよー」
こうして人を殺したと語った望月との奇妙な二人三脚の作戦会議の日々が始まったのであった。
………
「こうやって司令官と一緒にやって来てもう何年だー?もうわかんないや」
「俺ももう覚えてねえな。で?この1年はどうだったよ?」
「ま、司令官が能代さんと水遊びしてからすっかり変わってくれて、あたしも生活しやすくなったかなー。でもさー、持ってくる作戦がえげつなさすぎてあたしゃ疲れたよ…」
「そうだったか?」
「西方海域に南方海域!南方海域なんて飴どころかおいしいご飯をたらふく食べさせてくれてもよかったんじゃないかなーってくらいめちゃくちゃ悩んだっつーの!」
「カニやうめえ肉、たらふく食っただろうが」
「もっと!もーっと!!あたしあれ考えるのに頭から煙噴くかと思ったんだからね!!」
「来年は第三次レイテ…決着をつけるための捷号決戦を発動するだってよ。シブヤン海からスリガオ、エンガノ沖…レイテを完全に掌握する作戦を俺主導で発令するらしいぜ?」
「……あたしの平穏な日々は…?」
「夏くらいまでは平穏に暮らせんだろ」
「ずっとー!あたしはずっとここでうだーっと生活したいのー!」
「じゃあよそのとこでも「死んでも嫌」」
「それじゃあここで飴でもなめながらしばしの平穏を楽しむんだな…ククク!!」
「鬼!悪魔!クソ司令官!」
「あー言ってろ言ってろ。テメエがいねえと作戦練れねえんだからよろしく頼んだぜ」
「くうう…わかったよー…」
「んじゃあな。何か餅つきするけど餅をつくやつがいねえからって伊良湖に呼ばれてんな。じゃあな」
「司令官、ほんと丸くなったね…」
「これが俺だ」
「そー。仲良きことは美しきことなり…まー、それでいーんじゃなーい」
「そういうことだ。年明け最初の集まりはテメエも来いよ。んじゃねえとここバラすからな」
「あたしの聖域を奪おうとするなんて…昔っからやっぱり司令官は鬼だよ…」
「ククク…お互いに弱み握ってんだ。テメエにゃあまだまだ負けねえよ」
「あーい…行きますよー…」
そうして司令官は退室していった。望月の部屋に静寂が戻る。
「まあ…司令官とこうしてわーぎゃーするのは…嫌いじゃないけどね…ふふ」
これでも望月は自分に居場所を与えてくれ、過去を知ったうえで接してくれる。そして、刈谷提督もややこしい過去を持っている。お互いに…いろいろと語り合った。まあ龍田や葛城の様な恋愛感情はないけど、司令官の事は信用しているし好きだ。今の司令官の方がもっと好きだ、とは口が裂けても言わない。恥ずかしいから。
「ま、来年もちゃんと付き合ってあげるよ…めんどくさいけどさ」
そう言ってふふ…と笑った。
『おーいもっちー!あれ?いないなぁ…また行方不明だよ…』
この声は水無月か。またノックもせずに入ってきたな。実は望月の隠し部屋は押入れの壁の板を外したところにある。窓もちゃんとあるのだが、誰も気にしないでいるため、気づかれていないのだ。
『き、きっと司令官に秘密の地下拷問部屋で…ぞおお!!!』
『うーちゃんはなんでそう言う反応ばっかりなのさ…司令官はそんなことしないってば』
『冗談だぴょん。どこかに隠し部屋でも作ってるぴょん?』
あーやべえ。このままだとこの自分の聖域が壊されそうである。だからいつものように…
「あー、もう…うるせえなぁ…せっかく気持ちよく寝てたのにさー…」
「もっちーまた押し入れで寝てたの…?」
「暗くてよく寝れるんだよ」
「寒くないぴょん…?うわ、完全防備だぴょん」
「んあー…で、何か用?」
「司令官がおもちをつくから手伝えって。で、もっちーにも手伝ってもらおうかなって。もっちーならどうせ押し入れで寝てんだろって」
あの司令官。最初からあたしを巻き込むつもりで…あんのやろー!!!!クックックッ…とあのいやらしい笑顔で笑う顔が簡単に想像できた。
「やだ。あたしは寝る。具合が悪いから「って言うだろうから引っ張って来いだって」」
「あんの司令官ー!!」
「もっちー!餅つきだって!望月だけに餅つきー!!!」
「あたしぃ、お餅つきとか初めてだよぉ!もっちーも一緒にやろうよぉ」
「うげ、皐月に文月…あー!もうわーったよー!!!」
「やったぁ!いこいこ!終わったらあんころもち?を焼いてくれるって。おいしそうだねぇ♪」
くぅう、食べ物が気になるが故にそれに釣られてついていく自分が情けない…。とほほ…と言いながら…でも合流した睦月たち、睦月型が揃う頃には望月も笑顔で食堂へ向かうのであった。。
睦月型駆逐艦『望月』。あたしはここでの生活を…んー、まー気に入ってるよ。ありがと、司令官。こんなあたしを幸せにしてくれてさ。ありがと。
そのお相手はもっちーでした。影の参謀、実は作戦は刈谷提督と望月の共同作業でした。
そしていつぞや語られた司令官を爆殺した犯人でもありました。いろいろと話が入り混じっているので話が変わってしまったりしていますが、間違いなく彼女が爆殺しました。
そんな罪を背負いながらも、彼女は幸せになっていいと提督に言われ、こうして幸せに暮らしています。もっちーに幸あれ
次回はまだちょっと決まっていませんが、一宮提督のことを書こうかなと考えています。
次回もお待ちいただけますと嬉しいです。
それでは、また。